今回は集団的自衛権という概念の誕生から、それが活用されてきた歴史を振り返って見ていきます。

 くそ真面目な書き方になってしまい面白くないとは思いますが宜しければおつきあい下さい。深刻かつ重大な問題なので冷静に論理的に論じていくのがふさわしいと思います。勢いや乗りで、不安感や危機感、仮想敵国への敵愾心などを煽りながら面白おかしく書いてはいけないと思っています。今回は



 の内容に沿ってできるだけわかりやすく説明を試みたものです。

 伊勢崎氏は生涯を通じて全世界の紛争に関わり悲惨な状態を少しでも改善する努力を続けた来られた方です。アフガニスタン紛争では非常に困難とされた軍閥の武装解除を成功させた立役者となりました。

是非、ご一読を。

1.集団的安全保障

 「集団的自衛権」という言葉は第二次世界大戦後に結成された国連の安全保障体制の中で生まれました。だから、さほど古いものではないのです。

 戦争の勝利国である、アメリカ、ソヴィエト、中国、イギリス、フランスの5カ国 が国連の安全保障理事会の常任理事国であり、基本的にこの5カ国で世界の平和を取り仕切ろうというシステムでした。
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 国連憲章ではすべての加盟国に対して「平時は武力を用いる行動をしてはならない」とさだめてあります。生じたすべての侵略行為を国連が管理しようという体制です。侵略行為ついて安保理事会で決議が出れば「集団的安全保障」として国連を母体とした多国籍軍が組織されてこれを鎮圧します。

 右図のように侵略を行った国に対して5大国を中心にした有志連合が反撃します。

 加盟国には軍隊を派遣する義務はないので、有志連合という形で多国籍軍が編成されます。


2.集団的安全保障の事例 − 湾岸戦争
 集団的安全保障の典型例は1991年の湾岸戦争です。

 隣国のクウェートを独立国と認めないサダムフセインのイラクが1990年末にクウェートに侵攻しました。

 国連安保理事会はこれをイラクによるクウェートの侵略として決議を行いました(細かい図はクリックで拡大します 以下同様)。
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 これは国連が始まって以来、初めての集団的安全保障の事例でした。

 翌1991年1月17日にアメリカを代表とする多国籍軍はイラクに対して空爆とミサイル攻撃を開始、それから約一ヶ月後地上軍を投入しました。2月末にはクウェート市は解放され3月3日には戦争が終結しました。

 非常に輝かしい国連による侵略への懲罰の事例であるように見えます。しかし、この戦争でも驚くほど多くの民間人が亡くなっていることを忘れてはいけません。
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 イラクの罪もない一般市民が空爆で3500人、地上戦闘に巻き込まれて10万人前後亡くなったと推定されています。

3.集団的安全保障 − もとは「ご近所」の助け合いのイメージ

  湾岸戦争のような決議が出るまでには通常はある程度の時間がかかります。しかも、しかし、五カ国にはそれぞれ思惑があるため、これらの国々には安保理事会の決議に対する拒否権が与えられています。だから、1カ国でも拒否権を使うと国連決議を採択することができません。

 戦争は国連決議を待つ間にもどんどん進ん4でいきます。当然、侵略された国は反撃する権利があります。これが「個別的自衛権」です。このとき、同盟関係にあるなど親しい関係にある周辺の国々が、侵略を放っておいたら自分たちの国にもやがて攻撃が及ぶと考えられる時に侵略された国と共同して反撃を行う権利のことを「集団的自衛権」と呼びます。

 集団的自衛権は国連加盟国の全てに認められた権利です。侵略国に対して周辺の国々が共同して反撃するという想定だったのです。

4.歪めて用いられる「集団的自衛権」

 しかし、戦後史を紐解いてみれば「集団的自衛権」がいかに歪んだ用い方をされているかが見えてきます。

1)アフガニスタン紛争(1978-1989)

 アフガニスタンでは1978年にアフガニスタン人民民主党による共産主義政権が成立しました。その直後からこれに対して国内各地で武装勢力による抵抗運動が始まり、やがてほぼ全土がこれらの抵抗勢力の支配下となります。
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 人民民主党政権はソヴィエト連邦に軍事介入を要請しました。そして1979年12月にソヴィエトの軍事介入が始まりました。

 国内紛争への介入ですからこれは明らかに国連憲章に抵触しています。しかし、ソヴィエトは「共通の共産主義思想を持つ隣人たるアフガニスタンがソ連に助けを求めたため、ソ連は集団的自衛権を行使する」という名目で介入を強行したのです。

 この軍事介入については「主権国家への正当な理由のない侵略行為」だという見方が主流で、国連総会でも1982年にソ連軍はアフガニスタンから撤退すべきであるという決議を行っています。

 ソ連側は14000人を越える兵士が戦死し、アフガニスタン側ではその数倍の戦死者を出した後、ソ連軍が1989年に完全撤収して紛争は終結します。

 ソ連の意図した共産主義政権の存続はならず、多くの犠牲を出し、国内の混乱状態を拍車を掛けたのみという結果でした。

2) 9.11...アメリカのアフガニスタンおよびイラクへの侵攻
 2001年9月11日に同時多発テロが起こり3025人の犠牲者が出ました。ブッシュ大統領はすぐさま非常事態宣言を出して国境を閉鎖、厳戒態勢を敷きます。捜査の結果、サウジアラビア人のオサマ・ビン・ラディンをリーダーとするテロ組織アルカイダの仕業だと断定しました。アルカイダはこれを否定も肯定もしていません。
 数度にわたる国連安保理決議によりアルカイダが潜伏しているとされるアフガニスタンの政府に引き渡しを要求しますが、そのたびに「証拠があれば引き渡すが、今の段階ではアルカイダの行ったことと断定できない」として拒否されました。翌10月7日よりアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ等による多国籍軍による空爆が開始されます。圧倒的な戦力差がありタリバン政権は2ヶ月で崩壊しました。
6 アメリカは同時多発テロを戦争ととらえ(「対テロ戦争」)、首謀者と断定したアルカイダを庇護するアフガニスタンを敵国と見なして「個別的自衛権」を根拠として報復攻撃を行ったのです。イギリスやフランスの参戦は「集団的自衛権」が根拠です。

 この戦争の正当性については議論があり、多くの罪もないアフガニスタン国民を巻き込んで戦争を行う正義は果たしてあったのか非常に疑問です。泥沼化した占領政策は現在終結に向かっていますが、結局、復活するタリバン政権と和解する形で出口を模索しています。夥しい命が失われ、国土は荒廃し、政治的には紛争前の状態に復帰するだけ。世界最大級の麻薬生産国に様変わりし、国内が無法地帯となり家族親族を殺された市民にイスラム原理主義が広まって「過激化」を生じました。一見まったく普通の市民が多国籍軍やアフガニスタン政府に対する自爆テロをしかけてくるようになりました。

 いったい、この戦争の意味は何だったのでしょうか。
 
 イラク戦争に至っては。アメリカはイラクから実際に攻撃されいません。ただ「大量破壊兵器」が隠されているはずと決めつけ、それが実際に用いられる前に「予防的に」先制攻撃を行っています。先制攻撃には「予防的先制攻撃」と「自衛的先制攻撃」がありますが、予防的先制攻撃は国際法上で違法とされています。

 自衛的先制攻撃は認められる場合があります。これは例えば爆弾を満載した自爆テロのトラックが向かってきている場合のように、明らかに目前に危険が迫っており、放置すれば多大な損害を受けることが明白な場合です。

 イラク戦争が「自衛的先制攻撃」であるとするのにはかなり無理があります。5大国のうちの3国(ロシア、中国、フランス)が開戦に反対しており、ドイツもアメリカに強く反対しました。当然、国連安保理事会の決議は出ません。アメリカはこれを個別的自衛権による自衛的先制攻撃だと強弁して2003年3月に空爆を開始しました。「国際法違反ギリギリ」の戦争だったのです。イギリス、オーストリア、ポーランド等の国々は「集団的自衛権」を根拠に参戦しました。

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 日本の小泉首相は「アメリカの武力行使を理解し、支持いたします」と述べました。

 戦後の調査によってイラクには大量破壊兵器は存在せず、ブッシュ政権による捏造であったことが明らかになりました。NATOの国々ではアフガニスタン紛争やイラク戦争の正当性について現在でも厳しく検証が続けてられています。日本ではどうでしょうか。

 この2つの戦争によっておびただしい一般市民が犠牲になっています
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 アメリカが行ってきた戦争はこのようなものです。大国のエゴそのものではないでしょうか。逆に自国に利益がない戦争はしません。集団自衛権という形で自衛隊を差し出せば護ってもらえると考えるのは甘いと思います。尖閣諸島を護ってもらい、南沙諸島にも圧力をかけてもらおうなどというのは妄想にすぎません。それぞれの問題についてはそれぞれ具体的な状況分析に基づいて対応策を練るべきでしょう。

3)「集団的自衛権」が本来の意味で使われたことなど無かった
 
 その他の集団的自衛権行使の事例はウィキペディアー集団的自衛権の中にまとめられています。ベトナムの内戦へのアメリカの介入も集団的自衛権を根拠にしています。すべてが、アメリカとソヴィエトの他国の紛争への介入です。

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 もともと、ご近所の国の助け合い的なイメージで始まった集団的自衛権ですが、実際は大国(アメリカとソヴィエト)が他国の内戦に干渉するときの口実や、大国が他国を攻撃するときに同盟国が大国側にたって参戦するときの根拠として用いられてきたことが明らかです

 こうなると国連という組織も5大国による支配に都合良く作られた組織だという見方もあながち誤りではないような気がしてきます。

 中国が南沙諸島に進出するといって危機感が高まっていますが、ロシアは東欧諸国やウクライナ、アフガニスタンなどに、アメリカはアフガニスタン、イラク、中南米諸国などに干渉を繰り返してきました。やっていることはさほど異なりません。

 今回、安部政権が求めている「集団自衛権」だけが別のものと考えないほうがよいでしょう。アメリカの起こす戦争で、日本がアメリカ側に立って参戦することを合法化することを目的にしています。そのような戦争に正義があったかどうかは歴史が語っています。

5.集団自衛権を認めると... ドイツの例

 安保関連法案の是非や集団自衛権についての検証は科学的に実験によってすることはできません。しかし、歴史から学ぶことはできます。
 

 ごく最近のドイツの事例。集団自衛権に基づいて国際治安支援部隊(ISAF)としてアフガニスタンの「後方支援」に参加した結果、何が起こったでしょう?

1)タリバンの攻撃目標となり55名の戦死者
2)ドイツの将校の命令で行われたタリバンへの攻撃で民間人にも死者が出た(クンドゥスの事例では30人)
3)帰還した兵士の高い精神的障害(PTSD)発生率。 上限4500人の派遣→200−300人/年の発症。
4)ドイツ国民がイスラム勢力(ISISを含む)のテロの標的となった。


 その後のイラク戦争ではドイツは断固として開戦に反対し参戦もしていません。

 安保関連法案が最終的に可決されれば、これとほぼ同じことが日本にも起こると考えるのが普通だと思います。ほぼ日本弁護士連合会の広告通りのことが起こると思います。

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参考)
1.ウィキペディア 湾岸戦争
2.ウィキペディア アフガニスタン紛争
3.ウィキペディア イラク戦争
4,憲法解釈を変えて「後方支援」する事になったドイツがアフガンで見た惨劇
5,日本弁護士連合会 「安保法案は立憲主義に反し憲法違反です」

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