「中国の脅威」という言葉がよく聞かれるようになってきています。

 GDPは2010年に日本を抜いて世界第二位、中国の軍事費は現在でも日本の4倍強、2020年には10倍にも達するという予想があります。南沙諸島や尖閣諸島を脅かし、従来の世界銀行やアジア開発銀行に対してアジアインフラ投資銀行(AIBB)を立ち上げて中国を核とした東アジア17の経済的を目論む中国は、政治的にも経済的にも巨大な存在になりつつあり、将来的には世界は米中2国によるG2時代を迎えるという未来予測が現実感を持って受け入れられつつあるように思います。

 中国の脅威というものは軍事だけではなく、政治的経済的にも間違いなく存在しています。

 同時に、中国の国内にはにわかには信じられないほどの問題が山積しています。自然環境は為す術もなく破壊され 、貧しい国民の人権はないがしろにされています。空気は汚染されてこの30年間で肺癌が4.65倍に増加、10〜20台の非喫煙の若者でも肺癌にかかっているそうです。水も汚染され河川の7割以上は飲料水として使えないレベルに到っていると発表されています。

 そんななかで頼りになるのは金だけだと信じられており、貧しい者は人間として価値がないと見なされます。これでは、多様な価値観や社会的な道徳はないがしろにされがちです。

 食の安全も全く保障されていません。期限切れの肉を使って加工食品を作るなど日常茶飯事で、メラミン入り粉ミルクや下水溝オイルという先進国では考えられないような食品が流通してしまいます。何より利益を第一に考える経営者は食品の安全など配慮しません。

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 また、情報の統制も徹底しています。これは、中国共産党の支配が必要であることを国民に信じさせる必要で行われています。共産党の存立をかけた大問題なのです。このため一般の中国国民の意識は洗脳に近く、世界の常識からは大きく離れた現実認識を共有することになります。

 ひとつ例をあげるなら...一般の中国人は「日本は戦前の戦略国家に逆戻りしており、アジア支配を企んで今にも中国に攻めてくるかも知れない」 !!と考えているそうです。これは学校教育の中で繰り返し叩き込まれる何十年にもおよぶ「反日教育」の成果と言えます。
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 尖閣諸島はもともと中国の領土であったものを、日本が侵略して強奪していると考えています。ちょうど、日本人が竹島を実効支配しようとしている韓国に対する考え方と同じです。

  世界一の人口を抱え、巨大な経済力を持つ中国がどのような国になろうとするのか。これは日本のみならず21世紀の全世界の未来に対して莫大なインパクトがあります。

 そのためには、まず、現在の中国がどのような国なのかを知る必要がある、そう考えて勉強を始め、このシリーズをアップすることにしました。

 まずは、現在の安保関連法案に関して賛成論の根拠となっている中国の軍事的脅威について説明していきたいと思います。

1.中国の軍事的行動

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 このように中国(中華人民共和国)は建国以来一貫して、世界情勢を見ながら周辺諸国、諸地域への拡大政策をとり続けています。
 それは攻められる方にとっては、紛れもない「侵略」ですが、中国には「中華意識」という伝統的な一種の信念があります。本来の中国は巨大で強い国家であるべきと考えています。だからウイグルやチベットへも「侵略」ではなく、未開で貧しくおかしな因習(宗教を含む)地域の人々を、解放して文明的な生活を送れるようにしてあげたと考えています。やっかいなことに、これはごく一般の国民にも伝統的に共有されている思いで、ウイグルやチベットの独立なんてとんでもないと感じるといいます。

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「南シナ海における中国の活動」  防衛省

 第二次世界大戦直後には中国はベトナムと西沙諸島を半分ずつを領有する状態でした。しかし、ベトナム戦争終結直後に疲弊していたベトナムのスキをついて西沙諸島の全域を占領、1980年代以降は南沙諸島に支配権を拡大するようになり、特に2014年以降は占有した南沙諸島の島や岩礁を埋め立てて軍事基地まで建設しています。

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 尖閣諸島についても1968年にこの海域に地下資源があることが判明して2年後から領有権を主張するようになりました。これ以前には基本的に日本の主権を認めていました。

 1953年の政府系メディアである「人民日報」の記事には
「琉球群島は我が国台湾の東北から日本の九州西南の間の海上に散在し、尖閣諸島、先島諸島、大東諸島、沖縄諸島、トカラ列島、大隅諸島など七組の島々からなる」
とはっきり記載されています。

 1992年からは中国全人民代表大会で「領海法」を制定して、尖閣諸島が中国の領海であることを宣言しました。

 これに対して2012年に日本が尖閣諸島を国有化すると、中国本土では過激な反日デモの嵐が吹き荒れ、尖閣諸島への中国船などによる侵入が激増しています。

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海上保安庁

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「そうだったのか中国」 池上彰 集英社文庫 2010



 軍事力の近代化を進めながら、隙あらば尖閣諸島を領有しようと機会をうかがっているように思われます。

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 中国の領土的野心はこれらの領域だけには留まりません。

 中国は躍進を続ける経済力と急速に拡大する軍事力を背景に「太平洋をハワイを境界に2分して、それより西は中国が支配する」という提案をしてアメリカに引かれたこともあります。

2008年、米国議会における公聴会において当時の米太平洋軍司令官であったキーティング(Timothy J. Keating)大将が、中国の意図を示す重要な証言を した。それは、20075月に同司令官が中国を訪問した際に会談した中国軍の 幹部から、「ハワイを起点として米中で太平洋を分割し、西太平洋とインド洋は 中国が管理してはどうか。」と提案されたというものである。キーティング大将 は、この戦略構想の提案について、「中国は自国の影響が及ぶ範囲の拡大を欲している。」と警戒感を示した。また、200610月には、中国の潜水艦が空母キティー・ホークを追尾し、魚雷の射程内の海域で浮上するという事件を起こし、 200711月には高波と悪天候のために掃海艦艇が香港のビクトリア・ハーバー に入港を申請したが中国側はこれを拒否し、さらには事前調整のあったキティ ー・ホーク空母打撃群(Carieer Strike Groupe:CSG)の入港をも直前に拒否 したことにも触れ、「これまでの米中軍事交流は、米国の期待を裏切るものであり、信頼醸成に値するものではない」と証言したのである103。中国側のこのような発言と行動は、中国がインド洋から太平洋に至る海域における地域の覇権を望んでいることを明確に示しており、中国の意図の裏付けであると言える。

103 Congressional Hearings-March 12, 2008, HASC Hearing-Fiscal Year 2009 for U.S. Pacific Command and U.S. Forces Korea, Washington D.C. March 12, 2008.

 

統合エア・シー・バトル構想の背景と目的―― 今、なぜ統合エア・シー・バトル構想なのか

木内 啓人、海幹校戦略研究 2011 12 (1-2)

 
 このように中国の軍事的脅威は間違いなく存在します。しっかりと情勢を判断して考えなければなりません。

 「アメリカとの軍事的協力関係を強くしないと日本は守れない」というのが集団自衛件容認賛成派の最大の論拠となっています。ひとつ例を示しましょう。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は現代ビジネスオンラインの
「日本は中国に勝てないという現実を直視せよ。幼稚な議論を繰り返す野党が結局この国をダメにする」
という記事で
「日本は単独で中国に対抗できない。だからこそ日本は集団的自衛権の限定的行使を容認して、米国との絆を確固たるものにする。それによって、抑止力を高め、日本の平和と安全を守るのである。」
と論じています。
 

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本当にそうなのでしょうか?よくよく考えてみないといけません。

 
①勝てないとはどのような戦闘を想定しているのでしょうか?
②アメリカと協力すれば勝てるのでしょうか?
③本当にアメリカ軍が助けてくれるのでしょうか?
④中国以外の脅威についてはどうなのでしょうか?

以下、これらのポイントについてできるだけわかりやすく検証していきます。 

2.集団的自衛権の容認で本当に日本はより安全になるのか
 起こる可能性のある戦闘にはいくつかのパターンが想定できます。

①尖閣諸島周辺の局地的領土紛争
 現在、最も可能性が高いのは、尖閣諸島周辺の局地的領土紛争だと思います。この場合についてもいろいろ意見はありますが、基本的には現在の日本の自衛隊戦力で十分に対応が可能だと思います。

 この状況では空軍および海軍による戦闘になります。中国は日本の軍備を量的には遙かに越えていますが、質的には劣っていると考えられます。

 これを詳しく論じると大変ですが、簡単に述べると20、現時点では中国の空海軍と比べて自衛隊の装備やシステムが近代的です。兵士の熟練度は遙かに高いと考えられています。

 

これを支持するいくつかの情報ソースがあります。

日中海戦 米誌の日本勝利の根拠に海自隊員の能力の高さあり(2012 NEWSポストセブン)
日中が開戦すれば、米国の全面介入で中国軍は負ける-ロシアメディア 

 「日本の自衛隊に関して言えば、特に海上防衛や防空に関しては世界でも有数の能力があるわけですから、その意味で、拒否力としての抑止力は現時点で日本は持っている、と言えるでしょう。尖閣諸島の領海に中国の船がどんどん入っているにしても、彼らの目標が、上陸して海上保安庁の船を追い出す、ということであれば、その後には我が国の自衛隊が控えているぞ、という拒否的抑止力をはたらかせることもできるのです。」
(「亡国の集団自衛権」 柳澤協二 集英社新書) 


これに対して、空軍力の優位は失われているという意見もあります。

中国の飛躍的な軍事力増大を論じなければ何の意味もない。
岡崎久彦 iRONNA 

ただ、これは中国の第4世代戦闘機の能力を高く評価しすぎているように思いました。

僕自身はもちろん軍事の専門家ではありませんのでこのあたりで止めておきます。

少なくとも現時点では尖閣諸島付近の限定的戦闘では日本は十分な対応能力を持っていると思います(将来的にはわかりません)。

 この場合、アメリカは日本に何をしてくれるのでしょう。最新の「日米外ガイドライン」には

自衛隊は、島嶼に対するものを含む陸上攻撃を阻止し、排除するための作戦を主体的に実施する。必要が生じた場合、自衛隊は島嶼を奪回するための作戦を実施する。このため、自衛隊は、着上陸侵攻を阻止し排除するための作戦、水陸両用作戦及び迅速な部隊展開を含むが、これに限られない必要な行動をとる。

  自衛隊はまた、関係機関と協力しつつ、潜入を伴うものを含め、日本における特殊作戦部隊による攻撃等の不正規型の攻撃を主体的に撃破する。

  米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する

と書かれています。要するに「自分で守る」ことになっています。基本的にアメリカはこの場合には自らの「集団自衛権」を行使しないことになっているのです。せいぜい、いわゆる「後方支援」です。

本音は「無人の岩のために俺たちを巻き込まないでくれ(米軍機関紙スターズ・アンド・ストライプス)」というところでしょう。

より詳しい説明は次のリンクに書かれております。

【米軍は尖閣を守ってくれないよ?】全日本人が知っておくべき「新日米ガイドライン」に「尖閣有事のとき米軍は撃たない」と書かれてる衝撃!」おもしろいインターネット


 以上のように
 集団自衛権を容認したからと言って尖閣諸島がより安全になるということはありません。

②日中の全面的な戦争
 こうなってしまうと、お互いの軍隊や国土全体が攻撃の対象になります。中国が日本の国内を攻撃対象にすれば、まずミサイルが飛んできます。狙われるのはまず米軍や自衛隊の基地だと想定されています。国際的な批判を恐れなければ原発などの各施設が攻撃されるかも知れません。どちらにしても甚大な被害を受けることになります。

 このパターンでは中国は日本国内に複数の強力な基地を持つアメリカを敵に回すことになります。アメリカは自らの世界戦略の必要性から日本に米軍基地をおいているのです。けして、親切に日本を守って挙げるためにいるのではありません。日本本土への攻撃はアメリカの世界戦略への挑戦ですから、日中戦争は中国v.s.日米の戦争になります。

 この場合のアメリカの戦略は「エア・シーバトル」です。要するに長距離ミサイルを含む空軍と海軍を中心とする戦争です。

 「これは潜水艦や対艦弾道ミサイルによってアメリカの空母が西太平洋で自由に行動できないようにする中国のA2/AD(接近拒否・領域拒否)能力に、アメリカが対抗する手段としての概念です。中国には正面からアメリカの空母と戦って勝つだけの能力がまだありません。空母にとって最大の脅威は潜水艦ですが、日本の周辺を通る潜水艦はすべてキャッチされていますから、潜水艦による空母の直接攻撃も難しいはずです。
 そこで、たとえば西日本にある米軍基地や通信網をサイバー攻撃も含む先制攻撃によって無力化し、南シナ海、東シナ海、台湾周辺といった中国の周辺においてアメリカ軍に干渉されずに中国軍が自由に動き回れる空間を作り出す。米中の軍事対決で中国がとる戦略はおそらくこのようなものになるでしょう。
 アメリカ側は、そうした戦略に対抗するために、特に中国のミサイルの射程の外に兵力を分散配置し、あるタイミングを捉えて反撃していくシナリオを考えています。そこで中国の移動式発射台を狙うことは難しいため、ミサイル管制システムといったものを無力化すると同時に中国の衛星や通信網も攻撃していく、ということが考えられるでしょう。」
(亡国の集団自衛権」 柳澤協二 集英社新書)
 
 第一段階 中国による日本本土の軍事拠点攻撃(ミサイルが中心)
  アメリカ軍は東太平洋の拠点に一時撤退。日本本土および周辺海域の防御は自衛隊が行う。

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 第2段階 中国の迎撃能力を奪った段階で米軍の反撃開始。中国本土の拠点が攻撃される。 

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 日本と中国は深刻な被害。アメリカ本土はほぼ無傷。

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参考文献)
「エアシーバトルの背景」
「総合エアシーバトル構想の背景と目的」

 このような戦争では日本には日本本土や日本の周辺海域を守ることしかできません。「米軍の艦船を防御する」などという余裕はありません。それでも、甚大な被害を受けることでしょう。

 日本の国土はアメリカの世界戦略の要地として活用されるだけです。米軍の戦略と、日本に多くの米軍基地があることが、中国に対する「抑止力」のソースです。日本が集団自衛権を容認しようがしまいが状況はほとんど変わりません。

 どちらのパターンでも集団自衛権の容認などほとんど関係がないことがわかると思います。

③南シナ海をめぐる紛争
 米軍とベトナム、フィリピンなどの東南アジア諸国の連合と中国との戦いになるでしょう。かなり大規模な戦闘になります。ここに自衛隊が関わるためには集団自衛権が必要です。
 現在の日本は専守防衛のための最小限の戦力しか保有していませんから、ここに参加するには日本の防衛を犠牲にして無理矢理派遣するか、大規模な軍備増強が必要になるでしょう。
 
 この場合もやはり米中戦争になりますから、第一段階は日本本土の軍事拠点に対するミサイル攻撃になると思います。日本は集団自衛権を行使して本土の防衛を弱体化させている場合ではありません。

 従って、この想定においても集団的自衛権のメリットはありません

④中国以外の国に対するアメリカの戦争に参加する

 アメリカは2015年の「国家安全保障戦略」で明確にイスラム国の弱体化と打倒を目標にしました。

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 現在のアメリカはアフガニスタンとイラクへの道理のない戦争で消耗して厭戦気分がひろがり、当分は米軍が海外の戦争を行うことは考えにくいと思います。

 しかし、国家戦略としてこのように明確にイスラム国を滅ぼすことを宣言しました。これが発表された数ヶ月後に日本で集団自衛権を容認する決議がなされました。同時に自衛隊が戦い地域が「日本周辺」から
拡大し、世界中どこにでも米軍と協力できるようになり、従来は非戦闘地域の「後方支援」にとどまっていたものが、実質的には戦闘地域における戦闘もできるようになりました(もちろん政府ははっきりとは言っていませんが)。

 これは、イスラム国にとってみれば、いつか必ず米軍の本格的な攻撃があり、その時には日本の自衛隊も集団自衛権を用いて攻撃に参加してくるというのが、普通の解釈でしょう。

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 実際に次のような動きがみられます。

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    平成27年9月11日 産経ニュースオンライン

 
 すでに日本を明確に敵として名指ししているのです。

 原発や新幹線、ラッシュ時の鉄道などにテロが仕掛けられたら果たして日本はこれを防ぎきれるでしょうか。防ぐためのシステムもリソースもほとんどないというのが実情だと思います。

 まして、海外、特に中東で働いている日本人はどれほどの危険にさらされるのでしょうか?何も起こらないとよいのですが...

 集団自衛権は日本の防衛力を高めないばかりか、すでに新しいリスクを呼び込んでいます。

(まとめ)

1.中国に対して

・尖閣諸島領域の領土紛争では基本的に日本が自衛し米軍は後方支援にとどまる。

・日中戦争はアメリカの世界戦略への脅威であり、必然的に米中戦争になる。この場合、米軍は当然主体的に参加するが、それは日本本土が無事を保証するものではない。むしろ、戦略的に日本に莫大な損害が出ることを想定している。

・いずれにしても、日本の集団的自衛権の容認とは無関係。

2.イスラムに対して

・日本はイスラム国を滅ぼすと宣言したアメリカに集団的自衛権を容認して協力することを約束した。そのため、イスラム国から攻撃すべき「敵」として名指しにされた。
 

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