ヌレエフ版『ロメオとジュリエット』には、特別の思いがあります。

初めて見たのは、ミラノ・スカラ座バレエ団の1981年のニューヨーク公演で、ヌレエフとフラッチの主演でした。さらにキャピュレット夫人が、フォンテーンという超豪華キャスティング。とりわけヌレエフの神業にただただ感動したこの時の思い出については、93年にヌレエフが亡くなった直後の追悼文(音楽之友社刊『バレエの本』)に書かせていただいたので、ここでは繰り返しません。

その次は、パリ・オペラ座バレエの86年の日本公演で、主演は、ロルモーとギエムでした。

90年代以降、パリに移り住んでからは、DVD化されている“決定版”のルグリ&ルディエールはじめ、名演の数々に接しましたが、詳細については、ここでは省略させていただきます。

今年は、折しも私のヌレエフ体験から30年目。4月にオペラ座ガルニエで『ロメオとジュリエット』が6年ぶりに再演されるというので、運良く前売り券が入手できたシリーズ後半に見に行ってみました。

主役は次の3組でした。

マチュー・ガニオ&レティシア・ピュジョル

クリストフ・デュケンヌ&ミリアム=ウルド・ブラーム

ジョシュア・オファルト&ドロテ・ジルベール

ほとんど一新されたキャストによるもので、コール・ド・バレエのメンバーも若返り、当然、従来の印象とは異なる舞台でしたが、新世代のエトワールやソリストたちの熱演に新たな感動を覚えました。

ガニオとオファルトは、共にロメオ・デビュー。前回代役として控えていたオファルトの役作り全般に一日の長が感じられたような気がしましたが、ガニオのロマンティックな魅力が全開したような演技はこれまた格別のものでした。

例えば、初めてジュリエットと出会った直後に見せた、夢見るように佇む立ち姿。この場面は、ティボルトが迫っているにもかかわらず、ロメオは自己の世界に浸っていて周りが見えないという、しかもかなり長い時間佇んでいるだけという難しい場面なのですが、ガニオのロメオは、瞳をきらきらと輝かせ、立っているだけでオーラを放っていたのです。

続くバルコニーの始まりの部分では、ジュリエットを見つめながら、アラベスクで進んで行くタイミングが絶妙で、会場のバスティーユの全観客の視線が、ロメオ唯一人に注がれているような、ただならぬ空気さえ感じてしまいました。

一方、オファルトの全幕を見る機会はあまりありませんでしたが、素晴らしいノーブルに成長していたことに驚きとうれしさを感じました。まるでルグリを彷彿とさせる爪先に至るまでの全身の滑らかなラインは、まさにオペラ座のノーブルたちの伝統を継承するもの。新しいスターとしてこれからめきめきと頭角を現してくれることでしょう。

ベテラン、デュケンヌのロメオは、本当にこの作品の隅々まで知り尽くしているかのように役にはまっていたような気がします。40歳とは思えない若々しい舞台姿で、ドラマを牽引していました。相手役のジュリエットのウルド=ブラームにとっても、頼もしいパートナーであったことでしょう。彼女のジュリエットは非常に純真で、天使のようなピュアな雰囲気で光り輝いていました。

2005年の昇進試験だったでしょうか。ウルド=ブラームとジルベールは、共に1幕の舞踏会でのソロを踊って、プルミエール・ダンスーズに同時に昇進したのでした。この時、全く対照的な二人の解釈が非常に印象的で、いつか二人のジュリエットを見比べてみたいと思っていたのですが、その願いが思ったより早くかないました。

ジルベールは、既にエトワールとして、『オネーギン』のタチヤーナはじめドラマティックな役柄に次々に挑戦しているだけに、役作りが実に自然で、かつ悲劇的な側面も強調したインパクトの強いジュリエット像を創り上げていました。劇的な表情には、若干かつてのルディエールを思わせるものがありましたが、彼女は、ルディエールとは全く異なる独自の個性を持った堂々たるエトワールに成長しつつあることが実感され、まさにシリーズ掉尾を飾るにふさわしい舞台を披露してくれたと思います。

ピュジョルのジュリエットについて触れるのが最後になってしまいました。無邪気で、子どもっぽい最初の場面から、ロメオに出会ってから恋に燃える大人の女性への変貌を振幅の大きい演技で表現し、ドラマティックな昂揚も十分。ただ、もう少し演技を押さえ気味にしてもよかったと思われる部分もありました。

ほかのソリストでは、今回、エマニュエル・ティボーのマキューシオを見逃したのは返す返す残念でした。この役は、彼くらいの強烈なキャラクターとカリスマ性がないと、ベンヴォーリオやほかのお友達との区別がつかなくなってしまうことがあるので、新人には、なかなか難しい役所といえるかもしれません。

ロメオ役を降りてマキューシオ役に回ったエトワールのマチアス・エイマンは、さすがに達者な踊りを披露してくれました。それからベンヴォーリオとティボルトの二役を演じ分けたヤン・サイズの気品と風格ある舞台姿が一段と光っていました。

キャピュレット夫人に、デルフィーヌ・ムッサンが扮し、気品ある佇まいで舞台に花を添えていたのが心を和ませました。

最後に、ヴェロ・パーンの指揮で、あの有名な前奏曲が開始された途端、オペラ座管弦楽団の清澄な響きに耳を奪われてしまいました。本当にこのオーケストラの響きは、独特の輝きで、観る者(聴く者)を舞台に引き込んでしまう。音楽の上でも、まさに終始マジックの世界が展開されたのでした。