2005年08月30日

ことばの達人

「101個目のレモン」  俵 万智/文春文庫

おもしろかったと思える本には絶対の条件があります。
それは文章が上手なこと。
もちろん、ストーリーがおもしろくなければいい小説とは言えないし、題材がつまらなければいいエッセイにもならないんだけれど、やっぱり私の中では文章の上手さがその本の満足度にすごく影響する気がします。

じゃあ上手な文章とはどういう文章かというと、まずはもちろん読みやすいこと。さーっと目を走らせていても途中でつっかからず、滑らかに、もっといえばリズムにのるように読み進んでいけるもの。
次に、表現力が豊かなこと。著者の伝えたいことが、読んでいるだけなのに五感でじわっと伝わってくるような、的確でいて感覚的な表現力のあるもの。
さいごに、全体としてのまとまりがあること。起承転結があればそれにこしたことはないけれど、そうでなくてもきちんと言いたいことが完結していて、できれば読み終わったあとにちょっと余韻が残るような終わり方だとなおいいなぁ。

なんて勝手なことばかり書きましたが、俵万智という人は、そんなわがままもすべて満たしてくれるほどに文章が上手でした。
さすが歌人!さすが言葉のプロ!
そういえば昔『サラダ記念日』は買ったけど、歌ではない文章を読むのは初めてです。
たとえば自分の好きな本や作家を、「いい」と思った絵画や舞台や俳優を、どこが好きなのか、どう「いい」のかを説明するのってすごく難しい。
だけどそれを、俵万智さんはいとも簡単(そう)にやってみせてくれます。
たぶん、こんなにすみずみまで言葉で説明できたら、本人もさぞかし気持ちがいいんじゃないかとうらやましくなるほどです。
いつも短歌で、どんなに小さな心の動きをも、言葉で表現する訓練をしているからでしょうか。

そんな中でも、一番おもしろいのはやっぱり短歌についての文章でした。
特に興味をひかれたのは、昔の言葉で詠まれた短歌を現代の言葉に訳して、31文字で表現しなおした『みだれ髪―――チョコレート語訳』について書かれたもの。
こんなこと、本当にこの人にしかできない!
すごいことを思いつく人だと思ったし、その訳があまりに見事なので、これは絶対に読んでみなくちゃと思わされました。

その他どのページをひらいても、さらっと上手な文章に当たることのできる、とても満足度の高い本です。
本の最後にある「文庫版のためのあとがき」を読むと、俵万智さんがしっかりと歩んできた道のりと、これからさらに進んでいく道のりとが一本につながって、「さて、今度は何をやってくれるんだろう」と期待のこもった余韻にひたることもできます。
これからもがんばってほしいと、素直に応援する気持ちになりました。

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