「私は飛車が好きなので飛車を取ります」

 田畑良太指導棋士六段はそっと金を打つ。私の飛車が静かに息を引き取る。残された手番はこの一回きり。田畑六段に手が渡れば、飛車を取った手がそのまま王手となり、手順に私の玉まで詰む。なにか、なにかないかと必死に考えを巡らす。懸命に詰ましにかかるも一目足りない。投了。 田畑六段とは初めての指導対局であったが、上手側が随所に工夫を施しており、争点をうまく作られ、自陣は瓦解するまでに至った。感想戦も丁寧に行って頂き、有利になる順も教えて頂いたが、そこを選びとれなかった自分の力不足を嘆くより他無い。

 セミの声が上野原会館に響く。カーテンと窓越しの夏が盛りを過ぎるのはもう少し後の事になるだろうか。8月の小金井将棋研究会は総勢7名で行われた。幹事の平野さんを抜かしても6人でトーナメント表が出来る。組み分けの不可思議なあみだくじからさっそく、Mさんと対局を行う。今回の小金井研究会は時計ハンデ戦を採用しており、棋力に関係なく総平手、考慮時間にてハンデをつけている。おそらく駒落ちの方が力関係はより均等になるかもしれないが、上手側が毎回苦戦するよりは平手で指すタイミングがあった方がいいと思うので、私はこのハンデには賛成だ。下手側としても学ぶことはとても多い。



一局目。Mさん(時計ハンデ有。三段差)
 普段ならば駒落ちで指している相手であり、早速時計ハンデ戦の醍醐味を味わう。ちょっと先後を逆に捉えており、後手番にも関わらず、角換わりで積極的に攻めてしまった。うまく手を繋げたかのように思えたが、さすがの捌きと玉の薄さから来る反動が厳しく、私の負け。Mさんは将棋もそうだが、見た目も非常に若い。後の懇親会で実年齢をお聞きして驚いた。

二局目。Kさん(時計ハンデ有。二段差)
 初手合いのKさんとは相横歩取りという少しマニアックな形になる。勿論ある程度の定跡が整備されている戦型ではあるのだが、知るよしも無く、おそるおそるハンドルを切るが、ぬかるみに足を取られ、そのまま動けなくなり、私の負けとなる。Kさんは研究の範囲内だったようで、応手をいくつか教えてくれた。大学生と若く、是非時間が合えばまた来て欲しい。

三局目。Sくん(時計ハンデ有。一段差)
 小学校低学年のSくん。親御さんも同伴で来られていた。HPを見て、研究会の存在を知ったそうだ。このブログにしても宣伝効果はたかが知れてはいるが、小金井研究会への参加を検討している方の後押しとなってくれれば幸いであるとは思っている。初手合いとなった本局は、戦型はSくんのゴキゲン中飛車対私の超速3七銀からの二枚銀での抑え込みの図となる。駒得となり、優勢となるも、寄せを誤り形勢は混沌状態に。最後はSくんの方にも寄せでの誤りが出てしまったらしく、辛勝となる。しかしながら、あの思い切りの良さに、優勢時にしっかり寄せ切る構造が思い描ければ、相当負け無しになるのではないかと思う。手つきも綺麗で非常に落ち着いていた。局後にお互いの持っている扇子の話になる。私も気になっている扇子を所持していて、テンションが上がる。次回の対戦を楽しみにしている。

四局目。田畑先生(指導対局。飛車落ち)
 上述の通り、攻めの反動を受け止めきれず、押し潰されてしまう結果に。もう少し丁寧に受けていれば、反撃の糸口も掴めていたかもしれない。攻めと受けのそのタイミングの切り替えと駒自身の働きとポジショニング。狙いを持つことも大事だが、狙いを看破することも大事だと思う。

五局目。Fさん(時計ハンデ有。一段差)
 都内から来てくれたFさんとも初手合い。今回は初参加の方が多く、非常に良いことだと思う。相掛かりの出だしからFさんの技が決まり、優勢に。決め手の局面があったが、秒読であり、それを逃す。私からすると秒に救われた格好で、勝ちに。棋譜を思えば、敗色濃厚な一局だったと思う。腐らずに指し続ければこういうことも起こるかもしれないという結果だが、そもそもの序盤の組み立て方に問題があった局だった。Fさんは遠くから来てくれたにも関わらず、懇親会にも参加して頂いた。ありがたいことである。



 五局指したところで、時間一杯に。優勝者を決まるまでには至らず、Mさん、アマ強豪のNさん、今回初参加のKさん(この方も有名なアマ強豪だそうだ)の3者同時優勝となった。小平将棋大会方式で、試合数に応じて点数を振っておけばもう少し差がついたかもしれないが、管理も大変なので、そこまでやるかどうかは今後の課題といったところか。

 ちょうど私がFさんとの対局が終わった辺りに、伊藤能六段が駆けつけてくれた。(最初、隣室の方が将棋を見に来たのかと驚いたが、伊藤先生と言われているのを聞いてやっと理解した)伊藤六段にお会いするのも初めてで、田畑先生と伊藤先生が揃うと将棋ペンクラブログの記事が思い浮かぶ。早速、懇親会にも参加して頂き、将棋談義に花を咲かせる。今回は参加人数も多く、賑やかな時はあっという間に過ぎていった。私自身は酒が入ると(入らなくてもだが)多弁なところがあり、参加者の方々には失礼な言動があったかもしれないが、酒の席という事で大目に見て頂きたい。それにしても小金井研究会の面々は本当に将棋が好きなんだといつもながらに思う。

 8月と9月は小金井将棋研究会は二度行われる。再来週の8月は残念ながら参加出来そうにないので、9月は参加出来るよう調整をかけたい。幹事の平野さん、参加者の方々、田畑先生、伊藤先生、ありがとうございました。お疲れ様でした。またよろしくお願い致します。