2005年03月06日

『肥後ズイキ』は庶民の間で使われていたのか?

張形(はりがた)は男根を型取った女性用の性具です。将軍家の大奥、大名家の奥向(おくむき)といった男子禁制の場所で使われだしたことになっています。

肥後ズイキと言っても、実はいろいろなものがあるのですが、一般的には、張り形を指す場合が圧倒的に多いようです。この張り形は、商家の女部屋などにも波及したようです。素材は牛や鹿の角を加工して、男根に似せてリアルに作ったものもありますが、見つかった時のことを考えて、肥後ズイキをこけしに似せて作ったものなども使われたようです。

江戸の小咄に次のようなものがあります。これはもちろん、大奥の女性を扱ったものではありません。武家の妻でもなければ、公家の奥方でもありません。むろん、商家の女部屋の女性でもありません。全く庶民の女性です。

このような小咄が江戸時代に庶民の間に広まったのですから、たぶん似たようなことが現実にあったということは十分に考えられます。そのように考えれば、張り形は、大奥だけではなく、庶民の間でも使われていたようです。次の小咄は江戸時代の一庶民の女性を取り上げたものです。とりあえず、どのような内容なのか読んでみてください。

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質屋の戸を、そっと開けて、入口に立った婦人がいた。
貧しそうな身形(みなり)である。
「なにか特別の御用でも」 番頭が訊ねた。一見して訳ありげに思えたからだった。
「夫が亡くなりましてから、もう一年半。女の操を固く守り通して売り食いの日々を送ってまいりました。でも、どうしても最後の宝物を手離さなくてはならなくなったのです」 婦人は消え入るような声で語る。

やはり、事情があったのだ。
番頭は喰い入るような眼を、あらためて婦人の全身に駆け巡らせた。年齢の頃は三十五、六歳というところか。暮らしやつれがもたらす、楚々とした佇いが男心に同情を超えた好意を与えるのだった。多分、夫は粋な町火消しでもやっていたのかもしれない。番頭は勝手に想像した。日常の仕事は鳶職(とびしょく)と考えてみた。そういえば、町場の女とは違って、柔らかい物腰をしていても強い芯が通っているようだ。すると、夫は火事場の事故で殉職でもしたのだろうか。いや、これまた勝手すぎる推測である。だが、一日中、机の前に座りづめの番頭には、そんな妄想が楽しい遊びになっているし、これがまた、ずばり当たることも多かった。

「では、その最後の宝物とやらを拝見いたしましょうか」 番頭は我に返って仕事に取りかかった。いや、婦人の持参した物に興味をもち、これが一体、なんであろうか、といった関心が大いに後押しをして仕事を急かせたといったほうが正しい。

 婦人は番頭の言葉を耳にすると、「あのう……、それがぁ……」と、恥ずかしそうに胸に手を当て、身体をよじらせた。乳房の谷間に、肝心ななにかを隠しているらしい。

「お見せいただかないと、商売にはなりませんなあ」番頭は、わざと声を荒げてみせた。

「は、はい」婦人は、また身悶えた。

番頭には、こんないじめが、たまらなく愉快でならない。
そのうち、婦人は覚悟を決め、大切な品物を番頭の前に差しだした。それは佐賀錦の布地で仕立てた小物入れに納められていた。

「せめて一分(いちぶ)ほどにならないものでしょうか」婦人は初めて自分の要求を口にだした。

四分判で一両(小判)だから、一分判では四分の一両になる。一両を二十万円とする通説にしたがえば、五万円ということだ。決して安くはない。 番頭は手際よく質物を取りだしたが、中味を確かめるや、
「おっ、なんと張形では……」 と、驚きの声を上げて暫く絶句した。

動物の角で作られた代物である。相当に使い込んだ証拠に飴色に輝いていた。眼の前の貞節そうな婦人が夜毎に、あられもない姿で張形を股間に差し込んで、しきりによがり声を発しつづけていたとは、にわかに信じ難い。だが、疑うこともできない。そう思うだけで番頭の一物が、ずきずきと脈を打った。

「夫は火消しの纏(まとい)持ちで、家の焼け落ちる直前まで屋根の上に立って景気をつけ、逃げる暇もなく炎の中に消えてしまったのです」婦人が事情を説明した。

やっぱり町火消しだったのだ。番頭の勘は、またもや大当たりである。
「失礼ながら、ご主人の一物は、このように傘を広げており、逞しい物だったのですか」
「はい。親しい火消し仲間に、そっくりな物を拵えてもらいました。お陰で寂しいときは、この張形で心を、どれほど慰めておりましたことか」

ここまでいわれると、番頭は婦人のいう金額は、ひどく安いのかもしれないといった錯覚に陥ってしまう。迷わずに金庫を開け、いわれるままの一分判を手渡そうと決意した。

婦人は、それを押し戴くと、懐の奥深くに片づけ、襟元をきちんと正した。
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。。と、こういう話なんです。
なんだか咄のネタに似合わずに格調高い小咄になっていますが、
あなたはどのように感じたことでしょうか?


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