9f316473.jpgつきのふね」で感動した私は読み終えるとすぐに大きな期待を胸に抱きつつ「DIVE!!」を買いに行きました。角川の上下2巻からなる文庫本のほうを買ったんだけど、外出先でも読めるからと鞄の中に入れっぱなしにしていたらかえって読み終えるまでに時間がかかってしまったので、下巻は自宅で普通に読んでました。

マイナーな競技といえる「飛込み」を題材して描かれる、瑞々しい青春群像劇はプールに差し込んでくる夏の陽射しのように鮮烈に眩しかったです。「一瞬の風になれ」「バッテリー」と並んで三大青春スポーツ小説と評されるこの「DIVE!!」ですが、私の中では2トップですね。「バッテリー」は申し訳ないけどこの2作品と比べると残念ながらちょっと落ちます。それは一言でいってスポーツへの愛情、思い入れの違いです。スポーツ好きの方が読めばその差は歴然ですが、それは「バッテリー」がダメというより「一瞬の風になれ」とこの「DIVE!!」が傑出してるんだと思います。

+++ちょいあらすじ
高さ10メートルの飛込み台から時速60キロでダイブして、わずか1.4秒の空中演技の正確さと美しさを競う飛込み競技。その一瞬に魅了された少年たちの通う弱小ダイビングクラブ存続の条件は、なんとオリンピック出場だった!女コーチのやり方に戸惑い反発しながらも、今、平凡な少年のすべてをかけた、青春の熱い戦いが始まる—。大人たちのおしつけを越えて、自分らしくあるために、飛べ。(「BOOK」データベースより)
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本を読み終えてから何気なく調べていて知ったんだけど、もともとの講談社から出版されたときは全4巻で構成されていたんですね。

「DIVE!! 1 - 前宙返り3回半抱え型」は中学3年生の坂井知季が主人公。新しくやってきた麻木夏陽子コーチによって彼の才能が見出され開花していく姿が描かれていきます。

「DIVE!! 2 - スワンダイブ」では高校生の沖津飛沫という野性味あるダイバーが主人公。天才ダイバーである祖父の魂を受け継ぎ13歳の頃から海に飛び込みその素質を磨きあげていった青年の物語。

「DIVE!! 3 - SSスペシャル'99」は元飛込み選手の両親を持つ超サラブレッドな英才教育型が生んだ高校生ダイバー・富士谷要一が主人公。エリートな自身の境遇に葛藤しながらも知季と飛沫、二人の天才ダイバーの出現に刺激を受け成長していく姿を描きます。

「DIVE!! 4 - コンクリート・ドラゴン」はシドニーオリンピック代表枠を懸けて戦う知季、飛沫、要一の3人の姿を描く最終章。巨大な コンクリート・ドラゴンを舞台にした熾烈な戦いが繰り広げられ、これまでの物語の全てがここに集約されていきます。

冒頭に登場する荒波に飛び込む青年は沖津飛沫であり、その彼を見つめるのは麻木夏陽子コーチなんだけど、それが具体的に描かれるのはもう少し後のことで、この段階では名前も何も伏せられて抽象的な表現に留まっています。で、ガラリと変わって始まるのが中学3年生の坂井知季くんの物語。この段階では基が4部作だという事も知らないので、知季が主人公だと認識するわけなんですが、そーなると冒頭の青年はいったい誰なんだろうと、とても気になりながら読み続けるんですよね。この出だしの持っていきかたに、早くも呑まれちゃってるんですよねぇ、巧いッ。

知季、飛沫、要一。境遇も性格も特製も全く異なる3人の天才ダイバーは、それぞれの事情を抱えそれぞれの思いを抱きながらオリンピック日本代表の座を目指して目覚ましく成長していきます。この3人が火花なバチバチなライバル関係になっていくのかと思いきやそうではなく、それぞれが自分のダイブと真剣に向き合い葛藤し挫折も味わっていくなかでお互いの成長が刺激となり励みとなり、友情を育みながら同じ目標に向かって切磋琢磨していく姿がとても爽やかに描かれていきます。

高さ10メートルのプラットフォームから飛び込む僅か1.8秒ほどに肉体の持つ力強さと美しさを放ち競い合う。飛込みという競技はオリンピックでさえも映像を目にする機会はそう多くない競技に焦点を当て、ダイナミックに瑞々しく描いたその描写力は素晴らしいです。たんに私が知らなかっただけなんだけど、こんなにも奥深い競技だったとは思いもせず、この作品によって初めて飛込みの魅力を教えてもらったように思いました。

そして何より素晴らしいのは森絵都さんの魅力では人物造形の素晴らしさでしょう。3人の天才ダイバーは天性の才能を持つ一方で、人並み外れた努力の人たちでもあり、誰もがそうであるように両親や友人との問題に悩んだり、自身の境遇に葛藤しつつ、夢や未来に向かって邁進し成長していくその姿にはグイグイと引き込まれてしまいます。また彼らに関わっていく周囲の人物、いわゆる脇役たちのキャラも魅力的でそれぞれがキーパーソンともいえる役割をしっかり果たしてくれているのもいいんですよね。ラストの代表選考戦に向かって登場人物それぞれが持つバックボーンやエピソードが大きな1つの塊となってうねりを見せていく様子はなかなか見応えがありました。いったいこの決着はどうやってつけるのだろうとハラハラドキドキしながら読みましたけど、オトシドコロも実に見事で、爽快な余韻に浸りながら読み終えることが出来ました。

やっぱり少年少女が成長していく姿とその物語というのはスポーツであれ音楽であれ何であれ瑞々しくて躍動感があっていいですよね。「バッテリー」の場合は主人公は天才少年でその魅力に周囲が引きつけられ変化していくという話だったけど、さすがに中学生としてはちょっと現実離れし過ぎた印象があったんだと思います。この「DIVE!!」の角川の文庫版では上下巻のあとがきを佐藤多佳子さんとあさのあつこさんがそれぞれ寄稿しているんだけど、二人の視点、印象の違いなんかも読んでみて興味深いものがありました。

ところで私がこの本を読んでいる最中に映画化の情報を耳にしたのですが、知季役はなんと「バッテリー」で主演した林遣都くん。私がイメージする知季とはちょっと違うんだけどなぁ、格好良すぎるんじゃない?飛沫役は溝端淳平くんとのことだけどあのワイルドな海の男である飛沫をジュノンボーイが演じるってどうなんだろ?要一役は「鉄人28号」で正太郎くんを演じた子役出身でNHK大河ドラマにも出演しているキャリア十分の池松壮亮くん。要一は大人びたお坊ちゃん的なイメージなので、池松くんじゃちょっと可愛い感じになるような気もするんだけど、彼なら上手く演じてくれそうな気もします。唯一、いかにもハマリ役と思えたのは麻木夏陽子役の瀬戸朝香さんですね。

角川映画ということでちょっと不安もあるんだけど、監督が「ニライカナイからの手紙」「虹の女神 Rainbow Song」の熊澤尚人監督ということで楽しみにしたいと思います。公式サイトの写真を見た感じでは爽やかでいい雰囲気そうだけど、お願いですからただのイケメン映画にだけはしないでね。

感動度★★★★★(ほし5)