ブログネタ
日本映画2 に参加中!
悪人日本での公開直前に開催されたカナダはモントリオール映画祭で主演の深津絵里さんが見事に最優秀女優賞を獲得した作品です(ふかっちゃん、おめでとォ!)。かなり期待していた作品でしたのでこのニュースを知ってさらに期待度が増してしまいました。「作品自体も良かったから彼女もさらに輝いた」というコメントも耳にしました公開されるがとても待ち遠しかったです。

出演はその他に、満島ひかり、塩見三省、池内万作、光石研、余貴美子、井川比佐志、松尾スズキ、山田キヌヲ、韓英恵、中村絢香、宮崎美子、永山絢斗、樹木希林、柄本明

+++ちょいあらすじ
長崎で解体工として働く清水祐一は博多で保険会社に勤める石橋佳乃と待ち合わせをしていたが佳乃は祐一の目前で偶然出会った意中の増尾と車でどこかに行ってしまい憤った祐一は車を走らせ後を追った。しかしドライブ中の増尾は佳乃の言動に次第に苛立ち始め人気の無い山中で佳乃を車から蹴りだしてしまう。その様子を見ていた祐一は佳乃を助けようと近づくのだが佳乃から罵られてしまい・・・
+++

とても観応えのある作品でした。主演の妻夫木聡くんと深津絵里さんの熱演はもちろんのこと、この作品に懸ける映画スタッフの気概がストレートに伝わってくる重厚で骨太な人間ドラマです。

物語の舞台となるのは九州の福岡、長崎、佐賀。博多に住むOLの石橋佳乃がボンボンの大学生・増尾圭吾とのドライブ中にトラブルになり、人気のない山中で車から蹴り落とされたその後、他殺体で発見されます。すぐに増尾ケイゴが容疑者として浮上しますがすぐに疑いは晴れ、次に出会い系サイトで佳乃とやり取りをしていた長崎で解体工として働く清水祐一に捜査の手が及びます。

自分の人生経験に重ねて共感したり感情移入出来るような内容では決してないのですが、この映画の持つ圧倒的なリアリティによってスクリーンの中の登場人物たちが実在しこんな出来事が実際にあったかのような真実味を帯びて感じられてくるんですよね。祐一も光代も佳乃も圭吾も祐一の母や祖母やオジサン、佳乃の両親も私の知る身近にはいないだけで、きっとこの社会のどこかにいると思えるそんな人物たち。そして劇中で起こる悲劇も実は日常のドラマの一部なのかもしれないと思えるほど強い説得力を内包する作品です。

原作者の吉田修一さんご自身も脚本を担当しさらに李相日監督がおそらく映画的な脚本に味付けしたんじゃないかと思うのですが、この作品の濃密さ、特に登場人物たちの心理描写のあの繊細さはずば抜けていたんじゃないでしょうか。たぶん出演者の多くは自身とは全く違う役柄を演じていたんじゃないかと思うんだけど、みなさん見事なまでにその役になりきり演じていましたよね。主演の妻夫木聡くんと深津絵里さんの役者としての魂がたしかにこの映画、この物語に宿っているのを観ている私にもたしかに感じ取れました。

この作品、先ず一番に凄いと思ったのがそのキャスティングなんですよね。誰もが与えられたそれぞれの役を見事に演じていて助演級の存在感を放ってました。そしてその筆頭が柄本明さんと樹木希林さんですよね。まさに燻し銀の輝きと言える怪演でした。悪役の大学生・増尾を演じた岡田将生くんに事件の被害者の佳乃を演じた満島ひかりさん。刑事役の塩見三省さんやバスの運転手役のモロ師岡さんら端役に至までこの物語を完成させるための重要なピースだったと思います。つまりそれは脚本においても意味のある登場人物たちばかりだったということですよね。無駄が無く隙をみせないこの作品の濃密さは人間そのものを鋭く描こうとしているからなのかもしれません。

光代は出会い系サイトを介して清水祐一と出会い直接会ったその日に祐一の強引さもあって男女の関係を持ってしまいます。光代の行動が理解出来ない、と言ってしまえばそれまでですけど、孤独から抜け出したい誰かと繋がっていたいというのは、人として素直な欲求じゃないでしょうか。出会い系サイトと聞けばたしかに如何わしい不道徳な印象を受けますが、人と人が出会うという意味では友人の紹介も合コンもナンパもあくまできっかけにすぎずその本質はあまり変わらないのかもしれません。つまりはフィーリングやタイミングなのです。

自分が殺人犯だと告白した祐一に対して光代が嫌悪感を抱いたり拒絶しなかったのは少なくとも光代の目の前にいる人間が「悪人」ではないと感じたからなのでしょう。光代と同じように孤独感に苛まれ愛に渇望する祐一に光代は自分と同じ匂いを感じ共感したのかもしれません。そして祐一と光代の二人にとってお互いは空虚な自分の心を満たしてくれる掛け替えのない存在で彼らの人生において守るべき大切なものとして、二人は共に逃避行を繰り広げていったのでしょう。

殺人の被害者でありながらも安易に同情の出来ない佳乃。彼女自身は善なのか悪なのかどちらなんでしょう。殺人事件のきっかけは佳乃自身にも一因があるし、法的に罪に問われなかった増尾には悪意しか感じられません。殺人犯の祐一は当然罪を問われるべきだしそれを助けて逃避行する光代にも責任はあるだろうけど、果たして二人は本当に悪なのでしょうか?この世の中には法的に罪に問われることのない悪、もしくは悪意が蔓延っているのも事実なんですよね。

たぶん佳乃の父親が増尾に対して思う「大切なものを持たない社会」というのがこの作品が掲げる大きなメッセージだと思うのだけど、祐一と光代はその大切なものを見つけてしまったからこそ、逃避行に走ってしまったのでしょう。祐一が嘆いたように二人がもう少し早く出会っていれば二人の運命は大きく変わっていたかもしれないと残念でなりません。

そう簡単に答えを導き出せるテーマではないけど、それだけにこの作品が問い掛けてくるものはとても深くて重いんですよね。本編139分とやや長尺でしたけど全くその長さを感じさせない映画力あふれる作品でした。


人間度★★★★☆