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イゴールの約束ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌの兄弟監督の三作目でカンヌ国際映画祭の国際芸術映画評論連盟賞を受賞して世界的な注目を集めるきっかけとなった1996年の作品です。父の移民相手の違法な商売に盲従する下層階級の少年がやがて自立していく姿を描いた物語です。

出演はその他に、オリヴィエ・グルメ、アシタ・ウエドラオゴ、フレデリック・ボドソン、ラスマネ・ウエドラオゴ、ソフィア・ラブット
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ

+++ちょいあらすじ
自動車修理工場で見習工として働くイゴール。彼が父ロジェの命令で上司に文句を言われながらもすぐに仕事を抜け出してしまうのは、父の行う不法移民の斡旋の仕事を手伝うためだった。ある日、ブルキナファソ出身で古株のアミドゥが妻アシタと赤ん坊を連れて不法移民の宿泊施設へとやって来た。イゴールはアシタに何となく興味を抱き部屋を覗き見る。ところが後日、不慮の事故でアミドゥが亡くなり大事に至るのを恐れた父はその事実をアシタには隠して遺体を処分してしまう・・・
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この作品がダルデンヌ兄弟監督の出発点なのかもしれませんね。最初の2作を観てませんので断言は出来ませんけど、社会問題を背景にした独特の作風やテーマ性はこの頃から今に至るまで全くブレがないのがよくわかります。社会問題に鋭く斬り込みつつも主人公を包み込んでいくような優しい目線に心揺さぶられる物語でした。

物語の舞台はダルデンヌ兄弟監督の母国であるベルギーです。主人公の15歳の少年イゴールは自動車修理工場で見習いとして働いていましたが、父ロジェの命令で度々仕事を抜けたり休みます。イゴールにとっては父の命令が何よりも大切なようで父の命令があればせっかく得た修理工の仕事もあっさり捨ててしまいますし、友だちと遊ぶことも渋々ながら素直に諦めてしまうほど従順なのです。

しかしその父の仕事というのは不法移民の斡旋で不法移民相手の宿泊施設も経営してお金を稼いでいたのです。また必要があれば時に警察に不法移民たちを適当数差し出したり人身売買なども行っていたようです。父にとってイゴールは大切な助手でありイゴールも何の戸惑いもなく献身的に勤めていました。

ところがある日のこと。ブルキナファソ出身ので古株の違法移民アミドゥが移民局の抜き打ち査察から逃げようとして作業中の足場から落下してしまいます。イゴールは助けようとしますがロジェは警察沙汰になるのを恐れて病院へ連れて行くこともなくアミドゥは息を引き取ります。そしてその深夜ロジェはイゴールに手伝わせアミドゥの遺体をコンクリートに埋めてしまうのでした。

アミドゥの死に際に彼から妻アシタと生まれたばかりの子供の世話を頼まれてしまったイゴールはその言葉通りに何かとアシタを気にかけ世話をしようと試みますが、アシタはなかなか心を開いてくれずひたすらアミドゥの帰りを信じ待つのです。全ての真相を知りながらその事実をアミドゥに伝えられず隠すイゴールは自分の中に芽生えた良心の呵責に葛藤し悩みます。とにかくアミドゥのために尽力しようとするイゴール。そんなイゴールにアミドゥも次第に心を開き二人は気持ちを通い合わせていきます。そしてはやがてイゴールの自我の目覚めを呼び起こしていくことになり、イゴールはこれまで盲目的に従っていた父についに叛旗を翻すのです。

この作品で主人公イゴールを演じた(当時)新人俳優ジェレミー・レニエは後々のダルデンヌ兄弟作品にも出演していて『少年と自転車』で主人公シリルの父親を演じていました。でもさすがに若過ぎて同じ人物とは認識出来ませんでしたけど(笑)。

その『少年と自転車』の主人公シリルもそうなんですけど、生まれた時から悪に染まっているような子供なんてこの世にはいないんですよね。やはりどういう環境で誰に育てられるかということがとても大きいわけで犯罪行為に手を染めつつもイゴール自身はとても純粋無垢な少年だったのです。だからこそアミドゥの遺言を父には決して話さずアミドゥとの約束を頑なに守ろうとしたのでしょう。

これは今のダルデンヌ兄弟作品にも言えることですが、映画としては小さいながらも実に味わい深いんですよね。しかもその味わいというのが苦み、痛み、悲しみといった人生の辛さを噛み締めさせた上で最後に未来への一筋の希望を見いだしてくれるような心地よさを与えてくれるものなのです。イゴールの場合は父と決別するか父が警察に捕まって改心でもしないとまだまだ前途多難なのかもしれませんが、もしかしたらこの物語の行く先ではアミドゥと一緒に生活しているのかもしれませんね。


社会度★★★★