明けましておめでとうございます。今年は1月2日の夜中に、鎌倉の鶴岡八幡宮へ初詣してきました。大晦日と元旦を外せば、夜11時くらいはガラ空きで快適です。

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さて、かなり放置気味のこのブログ、雑文置き場にも使おうと思います。この頃は長い文章を書いてませんし。

んで、何の脈絡もなく、趣味でノモンハン事件辻政信についていろいろ調べてたのです。以下は興味のある人だけどーぞー。

辻政信というのは陸軍士官学校を出て参謀本部、関東軍と、参謀としてのエリートコースを歩み、石原莞爾を熱狂的に崇拝していたことでも知られています。とかく策謀が大好きな御仁で、ノモンハン事件、マレー作戦、ガダルカナル島、ビルマ戦線などに、毀誉褒貶さまざまですがとにかく名を残し、口も達者でマスコミ受けも良く「作戦の神様」とか呼ばれちゃったりしてました。

「作戦の神様」でも結局は敗戦を迎え、最終階級は大佐。戦後はGHQの戦犯の追及から逃げるために国内外を転々とし、1950年に戦犯指定の恐れがなくなると、逃走中のことを『潜行三千里』という本にして一躍ベストセラー作家! 人気に乗ってそのまま国会議員にも当選! たくましさとイケイケなノリは凄まじいものがあります。そして1961年にラオスで失踪し、そのまま伝説の人になったのでした……。

善悪の評価は分かれますが不思議なカリスマがあったことだけは確か。まあ、彼の「正義感」を物語るようなエピソードはたいがい、本人の自叙伝が出典だったりしますし、メディア対策が巧みだった辻参謀ですから、人前での言動は一通り計算のうち、演出でしょう。

戦前の日本の軍人というのは、褒められてる人でも悪名高い人でも、ともあれ当人なりの「正義」というものを考えていたことは拝察できるのです。師匠(?)の石原莞爾しかり、東條英機しかり、もっと凶悪なあの人この人、みんなそう。しかし辻政信の場合はどうも、最初っから善悪なるものが頭から欠落していたのではないかと、諸々の言動からそんな気がするのです。たぶん、自分の能力を使って誇示したり世の中かき回したいという、実に児童的な衝動だけで動いていたような。

そーゆーのを「倫理観の欠如したサイコパス」と罵ることもできますし、「人倫を超越した純粋軍師」などと称えることも可能です。でもまあ後世の我々が考えるべきことは、こんな人が戦前も戦後も存在を許容されていた日本という国の組織や国民性についてであって、半世紀前にジャングルで仙人になった(かもしれない)オッサンの人格を今さらどうこう言っても仕方ないところです。

『日本奇人列伝』みたいな本をこれから編纂するようなことがあれば、そろそろ候補に挙げてよさそうな1人ですねー。実際、こちらも右とか左とか歴史観とか関係なく、奇人の行跡という興味だけであれこれ引っくり返してただけなのです。

ただ、死後に本人の事跡とは別の次元で、辻政信に関する逸話が歪曲・捏造されるのは、彼に対するスタンスを問わず避けたいところなのです。

そこで、間違って解釈されそうな新しめの辻政信伝説の1つがこちら:

反面、戦後、GHQから「第三次世界大戦さえ起こしかねない男」と危険視された。

日本語版Wikipediaより)

これだと、なんだか謀略能力とかそういう意味で、ある意味スゲー人、と思われかねませんし、実際にネット検索してみると、そう誤解している若い人も少なからずいるようです。ナチスドイツの伝説的なスコルツェニーSS中佐(戦後は南米に逃走して大往生)の「ヨーロッパで最も危険な男」みたいでカッコイイですが。

これの出典を調べてみるとアメリカ国立公文書館で2005~06年に公開されたCIA極秘文書とのことでしたが、日本語版Wikipediaは英語のニュース記事の孫引きしかしておらず、英語の元記事も該当部分しか引用していません(たぶんこの辺の記事)。

でもこんなのCIAのウェブサイトで検索すれば当然公開されていましたので、正月のヒマツブシに訳してみました。訳者による補足は拮抗括弧〔 〕、軍事用語などは門外漢なので雑です。

辻政信と服部卓四郎の再軍備活動に関するレポート
1954年1月28日

レポートB

題目: 旧軍国主義者たちの支配という日本再軍備危機

1. 2人の元・日本陸軍参謀本部大佐、服部卓四郎と辻政信には、GHQ当局が再軍備の調査を進める中で直接接触している。彼らは不可分のペアで、辻がより従順な服部を支配している。

2. 服部と辻が第二次世界大戦の原因となった幾つもの戦闘を計画し主張したというのは、旧参謀本部幕僚たちの間では周知の事実である。彼らは倦むことない努力で参謀部を説得して、ついには戦闘開始をもたらした原動力だった。

3. 服部と辻の両名は極めて無責任で、彼らの行動の責任を取ることはないだろう。彼らはノモンハン事件に関するあらゆる責任を巧妙に回避し、上官や他の参謀たちに責任を負わせた。辻は、機会さえあれば、第三次世界大戦を何の疑問もなく開始するであろう種類の人間である(Tsuji is the type of man who, given the chance, would start World War III without any misgivings.)。

4. 旧参謀本部幕僚たちの間には服部と辻を好ましく思わない感情が十分にあり、もしも後者〔服部と辻〕が日本再軍備の声を上げたとしても、こうした参謀本部幕僚たちは彼らへの協力を拒否するだろう。彼ら〔旧幕僚たち〕が再び誤った道へ導かれるだろうと知っているからである。これらの実情は、株式取引関係者の間で慎重に広まっており、彼ら〔株式関係者〕は服部と辻の再軍備活動が一般社会に知られる際の市場への影響を予測している。

http://www.foia.cia.gov/sites/default/files/document_conversions/1705143/TSUJI,%20MASANOBU%20%20%20VOL.%201_0016.pdf

順番に読めば分かるとおり、「無責任な戦争好き」程度の文脈です。

文脈を取り払って短い文章だけだと、引用した人間がいかようにも誤解するし、また悪用もできるので気をつけましょうという、まーそんだけの話です。ヒマな人いらっしゃったら、日本語版Wikipediaの該当箇所に上のCIA文書PDFのリンクを貼ってください(やりかたよくわかんないのです)。

なお同じ1954年の別のCIAファイルには、辻政信を反共スパイにしようとしたものの

"In either politics or intelligence work, he is hopelessly lost both by reason of personality and lack of experience,"

拙直訳:「政治においても情報工作においても、人格と経験の欠如という理由から、彼は絶望的にナシ(lost)であり、」

http://usatoday30.usatoday.com/news/world/2007-02-24-japan-postwar_x.htm

こっちはまだ元のファイル探せてませんので、おヒマな人はCIAのライブラリーで探してみてください→http://www.foia.cia.gov

最後にオマケで、ネットで見つけたちょっとレアな画像をば。 MasanobuTsuji
http://www.rigorousintuition.ca/board2/viewtopic.php?f=8&t=10945

辻政信が失踪する直前、1961年4月にラオスで撮影された写真だとか。仏教僧に変装しているあたり、冒険気分が満々に感じられますが、「怪しすぎるからとりあえず殺された」説に信憑性を与えてくれます。ベトナム戦争初期のドサクサの中、こんなイカガワシイ日本人がニヤニヤ近づいてきたなら、とりあえず撃っちゃいますわーそりゃ。