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巻髪のアシェリー挿絵01

 どこかの戦場で見かけたような将校がこの戦車部隊を指揮するらしい。あの戦車の群れを見てどう思ったか聞いてみたいものだった。

 元々、基幹になる部隊では、戦車と操縦手、それに魔法少女兵はすでに決まっている。後は、戦車を持ってこずに来た者達の割り振りをしなけらばならない。

「モントス少尉、エルマ魔二等兵、21番戦車に」

「ランド少尉、ホシュタル魔一等兵、22番戦車に」

 集められた操縦手と魔法少女兵が勝手に組合されてゆく。将校は機械的に宣言してゆく。抗弁を許す気配は一切ない。そんなことをすれば収集がつかなくなるのはわかりきっている。

 ヴォルガノの名前はまだ呼ばれない。その間、組み合わせを黙って聞いていた。何を考えているのか、それが知りたかった。

 何組目かの宣言で、ようやく理解する。戦力になる戦車には階級が高い魔砲少女兵が乗り込んでいる。操縦手は、あまり考えてはいないらしい。なので、クリィーミ型戦車には、階級が低い、使えない魔砲少女兵が振り当てられている。

 ようは、部隊の戦力を上げるかわりに、一部は切り捨てる。わかりやすい組み合わせだった。

 もうモモ型戦車は空いていない。

「ヴォルガノ少尉、アシェリー魔三等兵、37番戦車に」

 よりによって三等兵…。ヴォルガノは自分と同乗する魔法少女兵を探す。

三等兵とゆうことは新兵なはず。しかし、それらしき少女はいない。

「あの、ヴォルガノ少尉でしょうか?」

 逆に向こうから尋ねてくる。

「アシェリー魔三等兵かね?」

 ヴォルガノは合点がいかない。目の前にいる魔砲少女兵はどう見ても古参の風格がある。なんなんだろう。

 短く切った金髪に、細い体躯。身長は同年代の少女より頭一つ高い。整備兵用の防寒着に少年警備隊のズボン、ブーツも大人のものを履いている。それらが全て使いこまれている。

 違和感を覚えるが、それを顔に出すわけにはいかない。

 外に出て、自分達の戦車に向う。

「これですね」

 やはり目の前にするとため息が出そうになる。

 モモ型戦車の半分の高さしかないクリィーミ戦車に37と描かれている。

「アシェリー魔三等兵」

「はい」

「がんばろう」

 この旧式戦車に、魔法三等兵。軍における自分の評価が知りたい。

巻髪のアシェリー少年警備兵02

 

 冬が本格的に攻め込んできていた。寒さにやられる兵士が日久に増えていっている。

 ヴォルガノは寒さに震えながらも、久々に前線から離れれたことを楽しんでいた。とりあえず死ぬ確率は減るし、死体を見なくていい。

 雪に覆われた大地に一本の線ができている。兵士の足や車輪、戦車に踏み固まれてできた道は、泥と雪が混ざり合ってできていた。地平線まで続くこの道を真直ぐ進めば、前線にたどりつくことができる。

 休暇ではないのが辛いところだった。

 軍の再編成のために急遽集められた兵士や物資がそこらじゅうに散らばっていた。最初は計画立てやっていたのだろうが、今では何がどこにあるのか誰もわからないらしい。ヴォルガノはそんな混沌の中を彷徨っていた。新しい任務の為に。

 戦車の跡がそこれに見てとれる。二足歩行で移動する戦車はその足跡で種類がわかる。もちろんヴォルガノも判別はできる。

 戦車の集まりにたどりつく。

「まじかよ」

 現在は主力戦車として『モモ型戦車』、もしくは『クリィーミ型』が前線に貼りついている。本国では新型戦車が完成したといわれているが、まだ見たことはない。

 目の前には『ベル型戦車』がいた。

 連邦軍は戦車を使っての戦略・戦術で今まで勝ち抜いてきていた。しかし、初戦に投入された戦車は、今から考えると攻撃力、機動性がかなり劣っており、現状では戦力としては考えられいなかった。

「ベル型なんて、見るのは二年ぶりだぞ」

 東国侵攻戦争依頼かもしれない。当時は主力戦車として活躍はしていたが、今では警備任務に使われるか、同盟国に譲渡されているので、滅多に見ることなどない。前線ならなおさらだった。

 戦車の数は四十台を越えていたが、モモ型、クリィーミ型は半数、残りは旧式の戦車か、接収した敵国の戦車だった。ここまで、多様な戦車を見る機会などまずない。 

 とりあえず一番階級が高そうな男に声をかける。

「ヴォルガノ・コビンスキーであります。第66戦車部隊はここでしょうか」

 男は面白くなさそうな顔を向ける。おもしろくはないだろうな、もしこの戦車部隊を指揮するとなれば。

 やはり隊長だった。

 こうやって戦車や部隊を渡り歩くのは苦労が耐えない。上司の癖を掴んだり、同僚の輪に入ったり、魔砲少女兵に馴れなければならない。

 戦車兵がテントに入ると、何人かの操縦手が焚き火を囲んでいた。それとは別に魔砲少女兵達も焚き火を囲んでいる。荷物を置いて、ヴォルガノも輪に入ろうとする。その時、一人の少女が目にとまる。どこの輪にも入らない

少女はテントの片隅で静かに座っていた。

 彼女もどこからか集められたのだろう、新しい輪に入るのが苦手らしいが、どんどん魔砲少女兵が集まってくれば、気の合う仲間もいるだろう。

 他の少女達の笑い声がテントに響く。

 ヴォルガノは仲間達に挨拶をする。

巻髪のアショエリーベル型戦車


 
寒い国からの魔法少女挿絵10

 敵の戦車はまだ戦意を顕わにしていた。機関部が燃えているのだろう、黒い煙をあげている。

「拡散弾用意」

 トリガーに指をかける。

 それは敵戦車も同時だった。胸の砲身が発光する。だが発射されたのは実弾だった。それでは戦車の装甲は撃ち抜けない。

 操縦席を振動が揺れる。これで照準から敵戦車が消えてしまう。これが目的だったのかもしれない。ヴォルガノはハンドルを握り締め、砲塔をまわす。

 斧を振り上げた敵戦車が覗き穴から見える。

 だが、それはまるで普通の戦車のような緩慢な動きだった。いや、今までの動作が異常過ぎたのだけれど。

 ヴォルガノはハンドルをまわし、砲身上に敵戦車を捕らえる。トリガーを引く。

 金属を穿つ音が響き渡る。やはり装甲を貫くことは無理だったが、敵戦車の動きを止める事には成功する。

 一瞬だけ、斧を振り下ろそうとするが、その前に膝をつく。そして前のめりに倒れる。

 雪が舞い上がる。そして、敵戦車の背に舞い降りる。

 勝った実感はしなかった。


 敵の侵攻はすでに止んでいた。戦車一台に歩兵が百名程度だったらしい。明るい部隊長がヴォルガノに抱きつきながらそう説明してくれた。

 ミュウレはずっと敵の戦車を調べていた。

「この戦車…、自爆したみたいですね」

 胸の穴を覗き込みながらミュウレが教えてくれる。

「他の部分は燃えてないのに機関部のあたりだけガソリンの臭いがします。鹵獲された時の処置なんでしょうが」

 魔力で動く戦車が、これから戦場に出現すると思うと、背筋が凍りつく。

 ミュウレは砲塔のハッチを開け中を確認する。一気にガソリンの嫌な臭いが広がってくる。それでも彼女は中に入ってゆく。

 黒い塊が目の前に、それが人だったものだとすぐには理解できなかった。

異臭を我慢しながら、ミュウレは焼け焦げた兵士に触れる。死体に慣れている。

「少尉!おかしいです」

 ヴォルガノがハッチに頭を突っ込む。強烈な異臭で吐きそうになる。その中で、ミュウレは何かを探していた。

「どうした?」

「魔法少女兵がいないんです」

 死体は一つしかない。完全に焼けて炭になったとも思えない。もしかするとまったく違うところに魔法少女席があるのかもしれない。

「この操縦席の後ろ見てください。へんな空間があるんです」

 ヴォルガも中にはいる。砲塔内はどこも狭い。

「ここ、ハッチが開いてるんです。その下は何もない…なんでしょう」

 敵戦車だといって、造りがそこまで違うはずはないだろう。そう、だからここには

「魔法少女席があったんだ」

「でも…どこに」

 二人はやっと気づく。戦闘中に、敵戦車から飛び出したものに。

「脱出したんですか…魔法少女だけ」

 敵戦車はあれから動きが鈍くなった。予備の動力で動いていたのなら説明がつく。だが、あの時には自爆装置は発動していた。もし、まだ魔力で動いていたなら、向こうが勝っていただろう。

「逃がした…んじゃないでしょうか」

 ミュウレが操縦席の死体を見ながら呟く。


 雪が静かに積もってゆく。兵士達は仲間の死体を片づけている。早くしないと雪で死体が隠されてしまう。

 ミュウレはずっと敵戦車を見ていた。雪に隠されてゆく戦車を。

「ミュウレ、中に入れ。体を壊すぞ」

 ヴォルガノの声にも耳を傾けない。

「少尉…、あの戦車の操縦手はなんで逃げなかったんでしょう」

 答えるかわりにミュウレの隣に立つ。

「脱出装置は操縦手しか起動できないようになっていました。でも、あの時、魔法少女兵がいたら絶対勝てたのに」

 そして二人とも自爆に巻き込まれいた。軍は、兵士の命より魔力で動く動力機関の秘密を優先する。それはどこでも同じだろう。

「だったら…」

 あの敵戦車の操縦手は最後まで戦った。

「魔法少女兵を…一緒に…」

 ヴォルガノはあんな死に方は勘弁してほしい。生きて本国に帰るのが彼の望みだった。もう十分、国には尽くしている。

 雪を掻きわける足音が近づいてくる。それは味方の戦車のものだった。

 彼らもこの操縦手の気持ちが理解できるだろう。ヴォルガノのように。

 雪が全てを埋め尽くしてしまう。 

寒い国からの魔法少女魔動力戦車



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