. 「注意すべきピッチング指導」シリーズ記事、今回のテーマは「テークバック」です。

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1. テークバックは肘から上げる」「外旋でひねり上げる」のか

 投手であればキャッチボール・ピッチング問わず、手に持ったボールを一度下ろしてから上げる、いわゆる「テークバック」を行ってからボールを投げます。
 投手のほぼ必須動作でありながら、この指導法はこれまで、現在に至るまで混迷を極めており、時代を超えて大量の有望投手がこの指導・修正でつまづき野球生命を散らしてきたものでもあります。

 その動作分析・指導法の最たる例として挙げられるのが、テークバックは「肘から上げる」「外旋でひねり上げる」というもの。しかしこれが混迷の最たる原因になっています。

 まず最初に結論から、テークバックの仕組みは以下のものであり、
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図1-1: テークバック動作の仕組み

 前腕(手首)を回内キープし、肩関節(上腕)の外転+肘関節の屈曲、この3つの要素で「回内キープの曲げ上げ」動作が出来上がり、現代野球で最も効率が良く故障リスクが少ないとされるテークバック動作になります。

 このテークバックを本サイトでは「曲げ上げ」「持ち上げ」等と呼んでおり、一般には以下の呼び方を当てはめるのがイメージ的に分かりやすいようです。
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図1-2: テークバック動作は「敬礼」

 手の甲を横に向けた腕を、「敬礼」で上げ下げするだけ。ただこれだけの簡単な動きがテークバックの原理です。
 実際に、マウンド上でのピッチングでは後述する「肘から上げて外旋でひねり上げる”ように見える”テークバック」を行っている豪速球投手も、普段のキャッチボールではこの「曲げ上げ」「敬礼」そのもので腕を使っています。
写真1-3-1,1-3-2: 165km/h投手におけるキャッチボールでのテークバック動作

 一方でこれらの投手は、マウンド上で力を入れて投げていくと、前方への体重移動と反対に腕が後ろに残されるのを防ぐため、動作の根幹はそのままに腕を体に寄せるような使い方に変化します。

 ここで問題なのは、その力を入れた投球時、つまり静的・軽い投げでは再現できない状態の写真だけを切り出して、それがテークバック動作の本質であるかのような指導が生み出され蔓延してしまったこと。
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写真図1-4: 日本に蔓延するテークバック指導
「肘から上げる」と「外旋」

 テークバック指導を混乱させている二大要素、「肘から上げる」と「外旋(でひねり上げる)」です。

 確かにこの大谷投手ら、軽い投げでは持ち上げ式・敬礼式でテークバックしている投手は、マウンドでの強投球では腕が後ろに残されるのを防ぐため、肩甲骨を寄せる・胴体に近い上腕を前腕よりも早めに始動することで、このように切り出されたコマの状態を通過します。

 しかしこれは、体重移動下における瞬間的な状態に過ぎない。にも拘わらず、そこから「肘から上げる」「外旋でひねり上げる」の指導を選手に処方するとどうなるか。
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図1-5:  「肘から上げる」「外旋」主体の指導を静止状態で処方するとどうなるか

 選手が行えば行うほど、体が痛み動きも目指すものから外れ、ピッチングどころかキャッチボールすらままならない、つまり「イップス」に陥るリスクさえ生じる。

 この「外旋」等の用語を多用する指導において釈明に使われるのは、「これらは自然に起きるため意識するものではない」という反論です。
 しかしそれならば、選手にそのような混乱させる用語で伝える必要はなく(目指す動作を選手がイメージ・練習しやすい表現で伝えるのが指導の原則)、またそもそも「外旋」はマウンド投球でもテークバックの動きの根幹である「肩関節の外転+肘関節の屈曲」に付随した補助的な動作に過ぎず、指導として特筆すべき存在でもありません。

 更に危険な指導になると、「(肩関節の動作である)内旋」と「(前腕の動作である)回内」の用語・動作の違いを理解せず、誤って「内旋」を選手に処方し、選手に肩を内ひねりさせるような動きを強いるケースもあります。(参考:野球指導に必要となる身体の各部位の動作と名称



2. テークバックは「意識しない「〇〇すれば勝手に直る」のか

 次に頻繁に言われるのが、「テークバックを直すのは意識しないでいいし意識してはならない」「腕の力を抜いて投げれば直る」という個別指導を否定する意見、或いは「テークバックは体重移動が良くなれば直る」という他の個所の指導の結果改善されるという意見です。

 これが”誤り”であることは、以下の例を挙げればすぐに分かります。
テークバック開始ポイント

 テークバック指導が必要な選手の半数が当てはまる「腕の引き過ぎ」、これはテークバック開始直前(腕を曲げ始める寸前)の状態でのボール位置が背中ラインより大きく後ろに出ている動作のことを指します。
 この位置まで直前に引いてしまうと、そこから曲げ上げを行おうとしても肩の可動域が足りず、肩の柔軟性を高めるトレーニングにも限界があり、結果トップで腕が上がらず体重移動を腕の振りに十分伝えられない、或いはいわゆる「アーム式」となり(現代プロ野球で先発投手としての成功者がいないレベルに)肩への負担が大きい動作に至ります。

 そしてこれらは当然、意識せずに投げてこの位置まで引いており、直そうと意識しないならこの位置が変わるはずもなく、体重移動を変えたところで腕引きが適切な位置で止まるようになるわけでもありません。

 更にはこれらの選手は「適切な位置からの適切な上げ方」をそもそも「知らない」「指導されていない」が故の現在の動作であり、知らない選手が脱力すれば自然に変わる程度の易しいものではない。
 特に下手な脱力の処方は、選手がボールに力を与えているタイミングを崩し、最も避けるべき「イップス」に陥らせる危険が高いことも軽視されています。


 ピッチングにおけるテークバックは、それが現時点で適切でない場合は個別の指導が必要となるものです。
 一方で1.で示した通り、その本質は「回内キープの曲げ上げ」「敬礼」という非常に単純なもので、また敬礼には一般健常者としての普通の肩の柔軟性があれば問題なく、その習得は決して難しいものではありません。

 なお腕の引き過ぎの修正には、テークバックの前の「ダウン動作」でのボール腕・グラブ腕の下ろし方からの練習が必要となります。

【参考:投手のピッチング動作】
 3-1-2. フェイズ2:「ダウン」


3. テークバックは直すのが難しい弄るとイップスになる」のか

. 本来シンプルで単純な動作であるテークバックが無用に難しく解釈され、指導法も混迷を極めている現状において、その矯正は「難しい」、下手に行えば「イップスになる」というリスクが常識のように考えられ、その矯正に踏み切れないまま苦しい動作で投げ続けざるを得ない投手も多数に存在します。

 しかし繰り返しながら、その本質さえ押さえていれば、望ましい動作をその場で体感してもらうことは本来容易いものです。
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写真図3-1: 高校生投手「アーム式」の矯正例
(上:指導前/下:指導後)

 回内が効かず、指先が二塁を向くような典型的なアーム式で投げていた選手に対し、基本的な曲げ上げテークバックを処方。
 当初肩が痛くマウンド投球がままならなかったものの、指導その場の1時間程度で動作の感じは掴め、その後数か月の自主練習でテークバックを完全に習得、最後の試合の登板にも成功。

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写真3-2: 大学生投手「引き過ぎ」の矯正例
(上:指導前/下:指導後)

 こちらは大学生投手で、腕を引き過ぎてテークバックで腕が上がらず、指先で投げる感覚も殆ど感じられなかったのを、テークバック開始位置を適正にすることで矯正。
 こちらは初回のメール指導だけで感覚をつかんでもらい、その後の1回の指導の1時間でほぼ全力ピッチングの動作も習得しました。

 これまで多数の選手のテークバック指導を行い、いずれも直接指導1時間以内で「こんなに投げやすいのか」と体感してもらっています。
 マウンド上での全力ピッチング、最終的な試合登板で9イニング目に入っても崩れない、ここまでには一定の練習=慣れが必要となりますが、ベースの動作を踏まえていれば難しいものではありません。


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