『天国は待ってくれる』(’43、アメリカ 112分)
監督:エルンスト・ルビッチ、脚本:サムソン・ラファエルソン
ルビッチ、マッケリーとアメリカ喜劇・3本目。


洗練された洒脱な会話のキャッチボールが売りのルビッチ・タッチである。

田舎の大富豪夫婦が険悪な仲で、テーブルを挟んですぐそこにいるパートナーと口も利かない。新聞の日曜版を読みたいの読ませないので押し問答するくだりは傑作だ。声は聴こえてるだろうにわざとらしく執事を介して話するおかしさ。「人生はロングショットで見ると喜劇」というチャップリンの名言をまたぞろ思い出す。


さてこの映画。主人公はその仲の悪い夫婦ではない。こちらのお2人さん。仲良さげでしょう?

天国は待ってくれる [DVD]
ジーン・ティアニー
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2006-11-24


確かに仲は良い。ただ波風が立たなかったかといえば嘘になる。亭主のドン・アメチーはとんだ女好き。結婚前も結婚してからも、彼の周りには女の噂が絶えなかった。


この男が死んだ後、閻魔大王様の執務室(本当に執務室。書斎。)で自らの愚かな人生をポツポツと回想する形式の物語。


両親にも祖父母にも甘やかされて育ったおぼっちゃん。母親と祖母が赤ん坊の自分を取り合いした、ああ私は産まれたときから女性に悩まされる宿命だったのだ、とはなかなかに皮肉なエスプリ。これもまたルビッチ・タッチ。

奥さん(ジーン・ティアニー)との馴れ初めだって略奪婚ですよ。優等生でバカがつくぐらいマジメないとこから婚約者を奪って我が物にした。カンザスの田舎からニューヨークへ出てきたばかりの女の子。しかしお互いに一目惚れだったんだからしょうがない。

キミは彼(いとこ)を愛しているのかい?さあ、とにかく私は彼のフィアンセなのよ。キミが本当に愛してるのは誰?ええ、あなたよ。若いお2人さんの軽快なやり取りもやっぱりルビッチ・タッチ。


運命を感じて結婚したものの、ご亭主は女遊びをやめる気配がない。結婚生活10年目にして、業を煮やした奥さんは実家へ帰ってしまう。例の大富豪夫婦が彼女の両親。駆け落ちして飛び出したときに勘当された身分だ。

「あのときの過ちを詫びれば家に入れてやる」という両親に、「いいえ。私は間違った結婚はしていない。この10年私は幸せだった」と毅然と胸を張るジーン・ティアニー。


そしてそんな彼女を連れ戻さなければ、「お前は後悔するぞ。彼女を連れ戻さなければ、わしが先にあの世へ行って天国の入り口でお前を通せんぼしてやる。」と告げるドン・アメチーのおじいちゃん(チャールズ・コバーン)の粋な計らい。

この人のおかげで夫婦生活最大の危機を乗り越えた2人は、銀婚式から間もなく妻が他界するまで、円満夫婦で通した。


とはいっても女癖の悪さだけは最後まで治らず、女房が死んでからも治らず、死因も若い看護婦の触診に不整脈を起こしてというものだった。どうしようもない男だ。

この男は妻の寛大さに救われた。中年になってあなたのお腹がポッコリ出てきたときに思ったの。あなたは私の所へ戻ってきたんだって。これは結婚25年目、銀婚式を前にした妻が夫に贈った言葉。自分の女性関係には節操のない夫が、やはり結婚25年目にして妻に嫉妬する。なかなかキュートなとこあんじゃん。


どうしようもない男だが、妻に愛され、息子に愛され、家族に愛された点では、この男は間違いなく果報者だった。本来なら問答無用で地獄行きが相当な男に、閻魔様が情けをかけたくなる気持ち、わからなくもない。天国行きのチャンスを与え、最後通牒を保留した閻魔様。あんたもいいかげんお人好しやね。


〔於 Planet+1 前から2列目左壁沿い  03.02 18:00~19:52〕