【時代の流れがみえず,逆らってきたが,そのしっぺ返しを受けた資本主義企業経営としての日本の電気会社:東芝】

 【そして,その東芝に社外取締役として参加していた経営学者】

 【高価で危険で不安な原発は要らない】【デタラメ経営の東芝も要らない】【ましてやこの会社のための御用学者も要らなかった】


 ① 前 言

 今〔2017〕年の2月・3月で,たとえば新聞紙上で大きな活字で報道されてきた記事といえば,政治と社会面の関係では断トツに,森友学園の小学校新設申請「国有地払い下げ問題」であった。そして経済と産業の関係で突出した話題が,東芝の不正会計問題であった。もっとも「あった」とはいっても,いまもなお進行中でもある東芝の経営問題である。
『日本経済新聞』2017年3月30日夕刊1面東芝
出所)『日本経済新聞』2017年3月30日夕刊1面。

 思いだせば,「ジャパン as ナンバーワン」だとか「日本株式会社」だとかいったふうに,日本の政治・経済・企業が形容され称賛されていたかのような時代は,すでに四半世紀以上も経った,遠い昔の思い出にとして語られるだけの話題となった。

 そして,ごく最近における日本の大会社に関する話題といえば,東芝がとうとう破綻・沈没の瀬戸際に瀕しており,これまで同社が誇ってきた長い歴史そのものに終止符が打たれかねないほどに深刻な事態を迎えている。本ブログはすでに東芝の経営問題については,つぎの記述などが論及していた。
  ☆-1 2015年10月05日,主題「経営学者伊丹敬之の真価,企業問題に関する『理論と実際』にかいまみえる『落差』

   副題「経営学者が理論で語る『事業の実践』のきびしさ」

  ☆-2 2015年10月15日,主題「経営学者伊丹敬之に問われる『学者の倫理』問題」

   副題「経営の理論と実際に関して,まともに・きびしく,問われていな
      い経営学者の立場」

  ☆-3 2016年04月11日,主題「経営学者が〈理論と実践の谷間〉に落ちた瞬間-東芝における伊丹敬之の場合-」

   副題「違和感を抱かせる『経営学者の理論発言』と『経営の実際への
      関与』との関連性」
     「伊丹敬之流『経営学の理論と実践』の真価が問われた瞬間があっ
      た」  

  ☆-4 2016年12月31日,主題「原発はトランプ・ゲームのババであるが,この事業をアメリカから買収した東芝の対米盲従経営路線の破綻,社外取締役のお飾り性」
   
   副題「いまどき原発事業で儲けようなどともくろんだ時代錯誤」
     「東芝原発事業部門の迷走的失策」
     「無策・無為(カヤの外)だった社外取締役や監査役たち」
     「経営学の大家(?)も理論どおりにはいかない『経営の世界の実
      際』」

  ☆-5 2017年02月13日,主題「原発産業というババを引いた東芝の経営失敗,アメリカ企業が手を引いた原発事業に進出した日本企業の失策など」
 
   副題「アメリカの原発は以前より採算問題を重視していたが,その本質
      をみそこなっていた東芝」
     「節穴だった東芝の社外重役たちの立場,著名経営学者の名声も形
      なしにさせた核発電技術を応用した事業経営の恐ろしさ」
     「原発問題に関する経営学者のうかつな発言」
 本日〔2017年3月30日〕の新聞朝刊は,東芝の経営いきづまりを大きくとりあげている。『日本経済新聞』から2つの記事をとりあげ,その説明としたい。

 ②「東芝,今期最終赤字1兆円 債務超過6200億円 米WH,破産法を申請 (『日本経済新聞』2017年3月30日朝刊1面)

 経営再建中の東芝は〔3月〕29日,米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)が米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を米国の連邦破産裁判所に申請したと発表した。債務保証の履行などで2017年3月期に国内製造業で過去最大となる1兆100億円程度の連結最終赤字に陥る見通しだ。経営危機の起点となった海外『日本経済新聞』2017年3月30日朝刊東芝画像原子力事業から撤退するが,財務が著しく悪化し再建の道筋は一段と険しくなった。(関連記事総合2,企業総合面に)

 「海外原子力事業の損失リスクの遮断やWHの再生に不可欠だ」。同日の記者会見で綱川智社長は破産法申請の理由を説明した。米WHと欧州でWHの事業を統括する英国の持株会社の2社で破産法を申請した。負債総額は計98億ドル(約1兆900億円)になる。

 2017年3月期業績への影響は「再生手続の過程で判明するため未確定」(綱川社長)としたが,損益の悪化額は6200億円と見積もった。最終赤字は従来予想の3900億円から1兆円超に拡大する。リーマン・ショック後に日立製作所が計上した7873億円の赤字を上回り,製造業として過去最大となる。株主から預かったお金である自己資本は吹き飛び,〔2016〕年度末の3月末時点で6200億円の債務超過になる見通しだ。

 破産法の申請でWHは東芝の連結決算から除外される。来期〔2017年度〕以降は「海外原発事業の損失を遮断できる」(綱川社長)見通しだが,東芝は原発建設が滞った場合にWHの債務を保証する契約を結んでいる。WHへの貸付金も回収できない可能性が高く,短期的な赤字額が膨らんだ。

 東芝とWHは裁判所とも協議しつつWHの支援先を探していく。WHは有望な支援先として韓国電力公社グループに協力を要請した。菅 義偉官房長官は29日の記者会見で「日米政府間でも引きつづき情報交換をしっかりしていきたい」と語った。

 懸案だったWHの破産法申請によって,つぎの焦点は半導体メモリー事業の分社と売却に移る。29日はメモリー新会社への出資提案の1次締め切りで,30日には臨時株主総会を開きメモリー事業の分社化を決議する。新会社の株式を売却して原発による損失の穴埋めをめざすが,赤字拡大で債務超過の解消には高値での売却が必須になった。

 期末時点で債務超過になり東芝株の上場市場は〔2017年〕8月1日に東京証券取引所の第1部から第2部へ変わる。2018年3月末に債務超過を解消できないと東証の規定で株式は上場廃止になる。東芝は再建にメドが立った段階で財務改善と成長資金の確保へ公募増資を検討する可能性が高い。メモリー事業の売却による上場維持は喫緊の課題になる。

 東芝は2度延期した2016年4~12月期の決算を4月11日に発表する予定だ。WHの破産法申請は「2017年1~3月期に反映させる」(平田政善最高財務責任者=CFO)ため影響は限定的になる見通しだ。平田CFOは2017年3月期の本決算の発表について「遅れはないと思っている」と話した。

 東芝は成長の牽引役と位置づけてきたメモリーと海外の原子力事業を失う。綱川社長は「エレベーターや照明など社会インフラを新生東芝の主軸に据える」と強調し,2018年3月期の業績については「黒字にもっていく」との目標を示した。(引用終わり)

 --さて,東芝が原発事業部門として傘下に組みこんだWHであったが,原発の製造・販売という商売は,2011年「3・11」東日本大震災をきっかけとする東電福島第1原発事故の発生によって,すっかり斜陽産業であるかのような様相を呈してきている。あるいは,作って売れるにしても「納期の関係」がべた遅れを来たす場合が多く,違約金などの負担がこの原発事業にとって,大きなマイナス要因になっている。

 東芝のもくろみでは原発事業部門を,アメリカ企業から買収して,きっと大儲けができるはずであった。ところが,21世紀のはじめに定昇された「原子力ルネッサンス」は虚妄のエネルギー観でしかなく,エネルギー問題に関する時代の基本的な潮流を見誤っていた。
    世界原子力協会が今〔2017〕年発表したリポートによると,欧米では原発建設コストが過去20年間で2~3倍に増加。1998年には1キロワット当たり2065ドルだった米国の原発建設コストが2015年には同5828ドルまで拡大。欧州では2280ドルから7202ドルまで増えた。
 註記)Stephen Stapczynski・占部絵美「番狂わせの『原子力ルネサンス』計画に遅れ相次ぎかさむ建設費用」『Bloomberg』2017年2月3日 14:32 JST
 再生可能エネルギーの開発・利用に大いに期待し,こちらに投資を振り向けるのではなく,なんと旧式の発電装置である(半世紀以上もその基本構造・機能に確たる進歩=技術革新はない)原発にこだわった経営姿勢は,「3・11」以前に世の中にまかり通っていた「原発安全神話」にも通底する時代錯誤に陥っていた。

 いまさら,東芝は後戻りはできない。現状のごとき苦境からはたして,脱出できるのか?
 
 ③「東芝再建,崖っぷち 半導体の高値売却が必須 WH破産法申請,1兆円超赤字」(『日本経済新聞』2017年3月30日朝刊3面「総合2」)
『日本経済新聞』2017年3月30日朝刊東芝画像2
 経営再建中の東芝が崖っぷちに追いこまれた。米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)の法的整理に伴い2017年3月期に1兆円超の連結最終赤字に陥る。国内製造業で過去最大の損失で,当初想定を上回る衝撃だ。海外原発の損失拡大リスクを完全遮断する狙いだが,稼ぎ頭の半導体メモリー事業の高値売却を迫られるなど代償も大きい。東芝の綱川智社長は「新生東芝」への意気ごみを語るが,視界はなお晴れない。(1面参照)
 補注)この綱川社長による会見の様子が,昨日(3月29日)夜にテレビのニュースでも放送されていた。綱川社長は苦衷に満ちた表情で,それも終始して目線を下方に落としたまま語っていた。日本の電機製造業を代表する東芝がこういた窮状に至っている。会社の寿命は何十年(具体的には30年だった)といわれたこともあったけれども,半世紀・1世紀以上も持続してきた大企業であっても,潰れるときは潰れることは,すでにほかの日本の企業がその実例をみせてきた。

 「海外原発事業から撤退することになり,東芝にとって一番大きなリスクがなくなる」。東京都内の東芝本社で開いた記者会見。綱川社長はWHが米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した意義を強調した。

 WHの破産法申請が大きな意味をもつのは,WHが東芝の連結対象から外れるためだ。東芝は現在87%のWH株をもつが「今後は裁判所管理となるため,WHへの支配権がなくなる」(平田政善最高財務責任者)。2017年3月通期決算からWHは非連結となる。

『日本経済新聞』2017年3月30日朝刊東芝画像3 東芝がWHを買収したのは「原子力ルネサンス」のさなかの2006年。WHはグループの海外原発事業をほぼ一手に担い,10年余りで合計112基を供給する世界最大の原発メーカー連合にのし上がる原動力となった。

 しかし,東京電力福島第1原発事故で風向きは一気に変わった。「問題のある判断だった」。記者会見で綱川社長も指摘したように強気の戦略は裏目となり,WHが手がける米原発事業は止めどない損失拡大の元凶となってしまう。WH切り離しによりこの泥沼からは脱する道筋が開ける。

 「半導体メモリー事業の入札状況をみているが,今後の債務超過解消が十分にみこめる提案がそろった」。WHが連結決算から外れるため,将来の原発工事のコスト負担がなくなる。外貨建て資産の評価損も減少し,合計で約3500億円の損益が改善する。一方で法的整理により原発建設が滞った場合のWHの債務保証約6500億円,WHへの貸付金を回収できない場合の引き当てで約1700億円の損失が発生する。

 株主から預かったお金である自己資本は3月末に1500億円のマイナスと想定していたが,さらに悪化し6200億円のマイナスとなる。損失穴埋めの切り札はメモリー事業の売却だ。債務超過額が6200億円に増えたため高値での売却が必須になった。税金を考慮すれば1兆円規模の売却益が必要だ。メモリー事業の純資産は5000億~6000億円程度とみられ,1兆円の売却益を得るには1兆5000億円程度で売却しなければならない。

 「海外原発以外の事業は順調に回復している。社会インフラを軸に再建を推し進める」。東芝が新たな経営の核に据えるのが,昇降機や空調,水処理,鉄道システムといった社会インフラ事業だ。創業140年を超す「名門」の立場を生かし,国内官公庁向けを中心にインフラ事業は安定した収益を生んでいる。

 東芝はこうした事業に集中することで,2020年3月期に連結売上高で4兆2千億円,連結営業利益2100億円という新生東芝の青写真を描く。だが,インフラ事業は「特定の顧客との取引が多く成長性に課題がある」(証券アナリスト)との指摘もある。東芝の信用は失墜しており,新規受注の獲得も難しくなる恐れはある。

 ③ 小笠原啓『東芝粉飾の原点-内部告発が暴いた闇-』日経BP社,2016年7月における伊丹敬之批判

 伊丹敬之画像8経営学を専攻してきた本ブログ筆者の観点からすれば,すなわち,いままできびしく吟味し,検討をくわえてもきた「伊丹敬之における学問の理論と実際」が,あらためて問題の焦点になっている。
 出所)右側画像は,http://diamond.jp/articles/-/69032

 それをより実践論的にみれば「この経営学者先生の東芝とのかかわり」の問題次元においてこそ,よく透けてみえてきたといえる  “社会科学者としてのその立場・思想”  は,けっして軽くはあつかうことのできない〈学的な倫理〉の論点までを示唆している。

 結局,こうもいわれていた。これは,ネット上に吐かれていたひとつの指摘であるが,本ブログ筆者が以前に記述した文章に対する読者から返された反応のひとつであった。
   「東芝経営破綻問題でこの学者先生の責任はどう問われるのだろう。伊丹氏は日経とズブズブだからメディアからもなかなか批判の声が上がりづらい」。
 註記)http://b.hatena.ne.jp/entry/317401948/comment/georgew
 もっとも,その後においては伊丹敬之先生は,東芝から出ていった様子である。だが,かといって東芝経営のなかに社外取締役として参加してきた記録:4年間の足跡は,それ相応に着目され評価され,当然のこととして批判も受けて当然である。広義でいえば,経営学者の理論的責任が経済・社会的な倫理責任としても問われているからである。
小笠原啓表紙
 東芝内にはそれなりに特殊な事情があったとはいえ,結局のところ「社外取締役としての伊丹敬之」の経営感覚(理論的な次元から実践的な知覚にまで及ぶもの)は,完全に機能不全であった。 そのことは結果でもあった。

 いずれにせよ,資本制企業においては利潤(利益)をもってその結果を判断されるが,経営学の先生が企業の実践にかかわったときに出ていた「その結果」は,どのように判断:評価されればよいのか?

 さて,小笠原啓『東芝粉飾の原点-内部告発が暴いた闇-』2016年7月(左側画像)を一読したところ,予想どおりであった。伊丹敬之に対するきびしい指摘・批判が出ていた。関連する箇所を紹介する。

 a) 「東芝は2003年に委員会等設置会社に移行し,経営を監督する目的で複数の社外取締役を招いてきた。市場では『ガバナンス先進企業』と呼ばれ,一定の評価を受けていた」。

 「だが東芝では,内部告発があるまで不正会計問題が明るみに出なかった。社外取締役による監督が不十分だったなによりの証拠だろう。伊丹は2012年6月に東芝の社外取締役なったが,その職責を果たしてきたとはいえない。内部統制の専門家である青山学院大学教授の八田進二は『東芝の社外取締役は “お飾り” だった』と切り捨てる」。

 「部下に無理難題を強いる場となった『社長月例』などの主要会議は社外取締役の目から隠されていた。企業の再考意思決定機関である取締役会には,社長月例などでの『チャレンジ』の実態や数字の操作は報告されなかったという」(小笠原,前掲書,100-101頁)。

 b) 「いくら仕組を整えても,不正会計を防げないのは東芝みずからが実証している。東芝には複数のしゃがいが存在し,経営陣の不正に目を光らせてきたはずだ。内部統制システムや会計監査のプロセスも,外形的には整っていた」。

 「それでも7年間にわたって不正会計が続いたのは,経営トップみずからがルールを逸脱し,部下もそれにしたがったからだ。不正会計にかかわった人物を排除してい信賞必罰を徹底しないかぎり,結局同じことの繰り返しになりかねない」(同書,112頁)。

 c) 2015年「6月の定時株主総会に次いで2回目としなる株主総会は,始まる前から波乱含みだった。8月末が期限だった決算発表が1週間延期され,不正会計による利益水増し額は7年間の合計で2248億円に拡大していた」。

 「9月15日」「東京証券取引所が東芝を『特設注意市場銘柄』に指定した。仮に上場廃止になれば,株主の資産が紙くずになりかねない。東芝の株主が不正会計をどう評価して投票行動に反映するのか,注目が集まっていた」。

 「脚光を浴びたのは,海外投資家に大きな影響力をもつ議決権行使の助言大手,米ISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)だった。ISSは不正会計の期間に取締役を務めていたことなどを理由に,室町〔正志〕と伊丹敬之,牛尾文昭の3人の取締役に反対票を投じるように推奨していたからだ」。「ISSの判断に注目が集まった背景には,『日本版スチュワード・コード』の存在がある。安倍晋三政権の後押しで作られた,機関投資家向けの行動規範だ」(206-207頁)。

 d)  2015年「9月30日午前10時,臨時株主総会が始まった」。「開始から3時間50分後,臨時株主総会は修了した。ISSの助言は一定の効果があった。室町,潮pの再任に賛成した株主の比率はそれぞれ76.1%,74.7%。伊丹については67.2%と異例の低さだった。6月末の定時株主総会では3人とも90%以上の賛成票を獲得していただけに,大きく落ちこんだ」(208頁,209頁)。

 e) 「役員歴代98人の責任を調査」。東芝の「役員に対して訴訟を起こすかどうかは,〔「設置」された「役員責任調査委員会」の〕報告を受けたのちに東芝の監査委員会が判断する。だが,旧体制でも取締役を務めていた伊丹が9月30日以降,監査委員を務めることになっていた。伊丹自信は,不正に関与していないか調査を受ける立場でもある」(210頁)。

 f) 「東芝は『新生』したのか」。「新生東芝--。2015年末以降,東芝経営陣は繰り返しこの言葉を使うようになった。不正会計と一線を画し,新たに生まれ変わって再建するという意気ごみだ」。「歴代3社長など異様な『チャレンジ』を命じた上層部は,たしかに一掃された。2016年6月22日の株主総会で室町と牛尾文昭,伊丹敬之の3人が退任し,不正会計がおこなわれた時期から努めている取締役はいなくなった」(313頁)。

 小笠原『東芝粉飾の原点-内部告発が暴いた闇-』は,以上の記述に続いてもう少しだが,あれこれ東芝の「過去からの経営問題」を批判していた。東芝の経営に,それも不正会計が実際には潜行しておこなわれていた時期に,経営学者伊丹敬之は2012年6月から社外取締役にくわわり,2016年6月に不名誉な帰結をたずさえて,その地位を退任した。
伊丹敬之コーポレート表紙
 伊丹敬之は以前より,正規社員(コアである従業員)とこれ以外の,つまり「非正規社員」を分けて企業の人事・労務管理(人的資源管理)がおこなわれる必要性をとなえていた(伊丹敬之『日本型コーポレートガバナンス-従業員主権企業の論理と改革-』日本経済新聞社,2000年,102頁。左側画像)。

伊丹敬之コーポレート102頁 だが,この文献の「書名の副題」に出ているごとき〈従業員主権〉といった「提唱」は,この経営学者自身による「理論の実践」関与によってもたらされた顛末に即して判断すれば,『人本主義経営』だと誇られていたその主唱が,いまでは完全に現実離れの空理空論であったことを,あらためてよく教えている。

 この批判点は,現実に結果として登場していた「日本企業における現実の様相」との比較・吟味にもとづいて,述べている。

 ④ 2015年10月に登場していた東芝関連の新聞コラム記事

 最後に2015年10月中,新聞紙の企業・経済関連のコラムに寄稿された2つの文書を紹介しておく。伊丹敬之にとってみれば「耳に痛い議論」が披露されている。第3者の立場にいるわれわれとしても,けっして軽く聞き流しておけるような話題ではないはずである。

◆ 東芝事件の教訓 ◆
=『日本経済新聞』2015年10月24日朝刊〈大機小機〉=

   東芝の不適切会計事件は,東芝以外の企業にも貴重な教訓を残している。なによりも明白な教訓は,社外取締役による経営監視は難しいということである。ちょっと考えるだけでもこの難しさは理解できる。

 まず,社外取締役は企業内部についての知識をもっていない。内部のさまざまな動きに関して詳しい情報をうることも難しい。経営執行部から提供される情報に依存せざるをえず,執行部がしられたくないことは容易に隠すことができる。監視側に知識も情報も不足しておれば,効果的な監視が期待できないのは当然である。

 さらに,社外取締役に経営監視のための追加情報を積極的に収集しようとする意欲をもたせることも難しい。その結果,粉飾が簡単に見逃されてしまう。これらの限界を考えれば,金融庁などの規制当局が推奨する社外取締役や監査委員会よりも,伝統的な監査役会のほうがよほど有効である。

 社内監査役は内部についての深い知識と情報をもっている。社外の監査役も,監査役会で社内監査役から深い情報をうることができる。調査権もある。東芝事件を受けて,社外取締役に監査役会の傍聴を求める企業も出てきた。

 考えてみれば,日本の監査役は効果的な制度だった。経営監視に専念できる。4年とはいえ身分保障があるため,経営執行部に苦言を呈することもできる。取締役会での議決権はないが,株主への監査報告の内容しだいで株主総会を不成立にさせることもできる。議決権をもつが,情報をもたない社外取締役に監査させるよりは効果的だ。

 こう考えれば,監査役会を廃止し,監査委員会を設置させるという当局の制度設計は正しかったのかという疑問がわいてくる。社外取締役の増員を求めたコーポレートガバナンスコード(企業統治指針)も再考の余地がある。増員しない企業には説明責任が求められるが,増員を求める側にはもっと重い説明責任があることを忘れてはならない。

 東芝では不祥事への対応として,社外取締役を過半数に増やすという。この対応は正しかったのだろうか。監視機能はますます弱くなる。社外取締役を増やすのなら,強力な監視補助組織を設置するか,監査役会を復活させた方がよいかもしれない。真摯な再検討が必要だ。

★ 社外取締役の報酬 ★
=『朝日新聞』2015年10月15日朝刊〈経済気象台〉=


 上場会社に適用される「コーポレートガバナンス・コード」のなかで,もっとも話題となっているのが,独立社外取締役を複数選任すべきだとする原則である。会社の持続的な成長と価値向上を図るため,経営監視機能を高める必要があるからだ。しかし,社外取締役が複数選任されていたにもかかわらず,経営者主導の不正行為などに対してまったく機能していなかったという事例は,東芝だけでなく複数ある。

 2001年に経営破綻した米エンロン社の場合は,高名な社外取締役を多数選任し,公開会社のなかで最高額の役員報酬を支払っていた。そのために,社外取締役みずからも認めていることだが,判断が鈍ったとされている。会社が高額報酬と引きかえに社外取締役の名声と信用をうまく利用していたことになる。
 補注)ここでいわれている「社外取締役の名声と信用」とは伊丹敬之の場合,経営学者としてのそれ(前一橋大学教授)から発現されていた。ところが,伊丹は東芝の社外取締役にくわわったばかりに,自分の学問・理論じたいを根幹より損傷させてしまった。

 というよりは,その提唱や主張は,現実の企業における課題・目標から「もともとかけ離れたところ」で,それも1人相撲としてのみ華々しく演じられてきただけであった。この指摘は,彼の主唱が産業界側でいかに歓迎されていたか,いかにもてはやされていたかという事実の経過とは,まったく別個になされてよい。


 ただ,独立社外取締役の重要性を主張する米国でも,無報酬に近いかたちで職責を果たしている者も多くいるという。貢献に社会的なリスペクト(尊敬)や栄誉を与える環境が定着しているからだ。企業価値を毀損し,市場の信頼を失墜させるような不正を見逃すことがあれば,自身の名誉に傷がつく。そのため,経営監視の役割を最大限に果たそうとするのである。

 わが国の場合,社外取締役の報酬は有価証券報告書に開示のとおり,庶民感覚からすると,一般に高額である。経営者の暴走に対しては,職を辞する覚悟で臨むこともあり,報酬の誘惑を断ち切る気概と責任感こそが社外取締役の原点である。
 補注1)なお,東芝では,2015年度における「取締役及び執行役の報酬等の額」は,社外取締役の場合,9名分の総額が8千8百万円であった。
 原注)こういう関連する解説がある。--「報酬等の額には,2015年9月30日開催の臨時株主総会の終結の時をもって退任した取締役及び同日開催の取締役会の終結の時をもって辞任した執行役の2015年4月から退任時までの報酬等の額,並びに当該株主総会までに辞任した取締役及び執行役の2015年4月から辞任時までの報酬等の額及び当該取締役会で就任した執行役のうち2016年3月末までに辞任した執行役の就任時から辞任時までの報酬等の額を含みます」。
 註記)https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/governance/compensation.htm


 補注2)東芝のホームページの「役員・社外取締役紹介」(2016年10月現在)は,つぎのように,伊丹敬之関連の解説をしていた。問題は「結果がすべてを物語っている」わけであるが,ともかく東芝側はこのように,伊丹を弁護するかのような理屈を繰り出していた。いまさら,なにをかいわんやの文句であった。
   「社外取締役である伊丹敬之氏は,本件事実が発覚するまで,当該事実を認識しておりませんでしたが,同氏は日ごろから当社取締役会等において,コンプライアンスの強化徹底の観点から発言をおこなっておりました」。「本件事実の発覚後,同氏は2015年7月22日に監査委員会委員長(2015年9月以降は監査委員会委員)に就任するとともに,同月29日に設置された経営刷新委員会の委員長に就任し,本件の再発防止策として,取締役会の機能と構成,監督機関の強化を中心に当社のコーポレート・ガバナンス改革の基本方針に関する提言をおこなうなど,適切にその職務を遂行しました」。
 註記)https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/governance/outside_executives.htm

東芝室町正志社長伊丹敬之画像 なぜか伊丹敬之は,東芝における社外取締役の立場において「適切にその職務を遂行しました」といわれている。ところが,実際においての業務の遂行は,最近における東芝という会社が世間を騒がせているような「企業の失策(大失敗)」を防ぐ役目を,まったく果たしえていなかった。

 ここでは,いい忘れないよう付言しておくが,原発事業へ進出・展開していった基本戦略が,東芝にとってみれば最大の失策であって,そうした事態が発生・進行していった東芝の経営事情を,全然みぬけていなかった伊丹敬之の
社外取締役としての立場において,なんらか一定の責任があることは申すまでもあるまい。 
 出所)右側画像は2015年8月18日,手前の渋い表情が伊丹敬之,http://www.jiji.com/jc/foresight?p=foresight_15604

 〔コラム本文に戻る→〕 実際に財団法人や社団法人などの評議員や理事,監事の場合,社会的にも地位が高く高名な人たちが無報酬で重責を担い,広く尊敬の念をえている例がある。これに倣いたいものである。