【さりげなく「原発コスト」は「燃料が安い」と,気軽に「騙れる」日本経済新聞社の報道姿勢】

 【『日本経済新聞』はいまどき,本気で「原発コストは安い」と信じているのか?】



 ①「石油火力2基,長期停止 福島で東電,再生エネ増加などで」(『日本経済新聞』2018年6月3日朝刊15面「企業3」)

 東京電力ホールディングスが福島県にある広野火力発電所の3号機・4号機を7月から長期停止としたことが分かった。合計出力は原発2基分の200万キロワットで燃料は重油や原油を使う。
   東電広野火力発電所画像
   出所)東電広野火力発電所,
      https://ameblo.jp/rush08/entry-11880433916.html
 1989年と1993年に稼働した旧型のため老朽化しているうえ,再生可能エネルギーの需要増加で競争力が落ちている。国内の電力需要の先行きが不透明なことも背景にある。
 補注)ここで注意したいのは,東電広野火力発電所は「1989年と1993年に稼働した旧型のため老朽化しているうえ,再生可能エネルギーの需要増加で競争力が落ちている」と説明されている点である。つぎの図解を参照したい。原発の稼働状況に関する最新の情報が記入されている。(画面 クリックで 拡大・可 ↓  )
日本の原発現状2018年
  出所)http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pdf/001_02_001.pdf

 ここでは「1990年を基準年」にしておき「原発の老朽化の問題」を判断するとしたら ,いいかえれば「2018年-1990年=28年」〔≒30年〕であるその基準を適用するとなれば,すでに廃炉にされた原発はさておき,30年以上を経過した原発がいったい何基あるかを考えてみればよいのである。

 原発とて初めのころは「25~30年程度の耐用年数」を予定していた。ところが,いまでは40年を基本にした期間に,さらに足すこと20年で,合計60年にも延長されている。考えてみればすぐに分かることだが,ほかの機械・装置と比較検討をしてみると,たとえば旅客機(戦闘機になったらもっと短期になるがこちら軍事的な性能が絡む問題なのでひとまず除外するが)が営業用の運行に耐えうる年数は,どのくらいか。

 航空機の寿命は,きちんと整備すると半永久的に使用することができるとされている。だが,機体が古くなって(老朽化して)くると,徐々に整備コストがかさんでくる。このため新型機を購入し,入れかえたほうが経済的に有利になるという時期があって,各航空会社はそのタイミングで航空機を売却したりする。このことは経済寿命といい,一般的に旅客機で20年,貨物機で30年とされている。

 高度1万メートルの上空を飛行中に墜落事故を起こしたら乗客全員が死ぬ旅客機の事故と,深刻・重大事故を起こしたら「1979年3月のスリーマイル島原発事故」⇒「1986年4月のチェルノブイリ原発事故」⇒「2011年3月の東電福島第1原発事故」などと比較するのは,ある意味では「比較のしにくい比較」であり,関連する議論もしにくいのである。

 双方(航空機と原発)がそれぞれ事故を起こしたときの現象は,科学技術的に「異次元に属する中身」がある。そう断わっておかねばならぬほど,とくに後者「原発」にかぎっては「技術面に関して質的にみのがしがたい困難・災厄」が,放射性物質の問題として発生している。

 それでも,原発についてはまず40年寿命説(耐用年数の設定)があり,さらに20年を延長させて稼働させてもいいといった「操業期間の設定方法」になっている。アメリカではすでに,40年を超えて稼働されている原発も,10基以上存在する。だが,このアメリカではそもそも「40年ルールに根拠はない」と明言されていた。

 原子力発電所の運転期間を原則40年間に制限している,いわゆる “40年ルール” じたいからして,いまだに不確定的な・予測不能的な大きな問題をかかえている。再び大事故を起こしたらあらためて,その問題を本気で考え,真剣にとり組むとでもいうのか?

 原発の耐用年数については,日本のルールも米国のルールを参考にしたものとされている。だが, “40年” という数値には科学的根拠はなく,当の米国側がそういう見解を示していた。
 註記)以上の3段落のみ,石川 和「科学的根拠なき『原発40年ルール』を変えるには,なにが必要か」『現代イズメディア』2015年9月11日,http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45174 参照。

 耐用年数(原発の操業年数)が延ばされれが延ばされるほど,この技術面に関する保守・管理の業務は,いかほど万全を追求していたとしても(実はそうではなかったのが原発技術の管理状態であったが)事故が発生する確率は増えていく。この事実は〈信頼性工学〉の観点に照らしてもいうまでもないし,工学論的にも判りきった道理みたいな認識である。

 ところが,原発の場合はとくに日本では「3・11」まで,「原発・安全神話」という虚構の上に立てられた仮想概念によって,40年を超えて操業しても大丈夫だという〈虚説に近い見解〉が,原子力村的な権柄尽くの概念形成:決定事項となっていて,大手を振ってまかり通っていた。

 しかし,よりによって,本日『日本経済新聞』に掲載された原発関係の記事は,なんら確実な根拠がみいだせないどころか,現時点ではその虚偽性が明々白々である「原発コスト安価論」を,性懲りなくもちだしていた。こうしたたぐいの記事・報道でもってする,読者に対するこうした「洗脳」のしかたは,いまではかなり幼稚な方法だと裁断されてよい。


 〔ここで日経の記事に戻る ↓  〕
 東電が火力発電設備の長期停止を決めるのは2016年の大井火力発電所(東京・品川)など以来で約2年ぶり。これで東電の石油火力は出力ベースで4割が減ることになる。稼働中は広野火力発電所の2号機(出力60万キロワット)と茨城県の鹿島火力発電所の5,6号機(同200万キロワット)だけだ。

 一般的に発電所はまず燃料代が安い原子力や石炭火力を最優先に稼働させて安定した電力供給源とする。そのうえで太陽光や風力による発電を使うが,再生可能エネルギーの発電量は天候などにより大きく変動するため,火力の稼働率を変えて調整する。
 補注)ご覧のとおり,ここでは「燃料代が安い原子力や石炭火力」を「最優先に稼働させて安定した電力供給源とする」といっており,お決まりであった〈原発安価論〉を暗示するかのように反芻した記述になっている。

 「3・11」以前の時期であったならばともかく,いま〔2018年7月〕にまで来た時点で,まだなお「原発コスト安価」の「思想」を反復できる『日本経済新聞』の基本的な立場は,しかもここまで執着したかっこうで唱えられるしたら,すでに「原発コスト」に関する「安価・狂信説」だと断罪しておいたほうがよさそうである。一言断わっておくが,「燃料代が安い」原発の発電コストが安いのではなかった。
電源別発電コスト2014年モデルプラン
出所)http://president.jp/articles/-/15782?page=2

 火力のなかでも石油を燃料に使う発電所は液化天然ガス(LNG)に比べて効率が悪く燃料費がかさむうえ,二酸化炭素(CO2)排出量も多いため,稼働させる優先順位は低い。メンテナンスも滞りがちでトラブルが起きやすい。

 2018年冬に大雪などで東電の電力供給エリア内の電力需要が急増したさい,広野の石油火力は設備トラブルで計画どおり稼働できず需給逼迫の一因になった。

 欧州などに比べるとまだ少ないが,日本でも再生可能エネルギーの発電量は増えている。政府は再生エネを「主力電源」と位置付けることをエネルギー基本計画に明記する方針で,石油火力の出番は今後も減少が続く見通しだ。

 電力の総需要も減少傾向だ。関東では東京ガスなどによるLNG火力発電所の新規建設計画もあり競争が激化するため,東電は維持コストのかかる老朽設備の長期停止に踏み切ったようだ。他電力では中部電力が石油を燃料とする三重県の尾鷲三田火力発電所を2018年度中に廃止する方針を決めている。(引用終わり)

 ②「大島堅一教授による原発コスト試算」(河野太郎『ごまめの歯ぎしり』2016.11.19)

 安倍晋三政権のもとで,2017年8月3日外務大臣に就任する前において,すでに河野太郎自民党国会議員は,このブログ『ごまめの歯ぎしり』を閉鎖していた。こういう事情があった。
★「態度豹変・河野太郎氏に『入閣のため
毒饅頭食った』と失笑も」★
=『NEWポストセブン』2015.11.02 07:00 =

 政治家は入閣すると支持者から「オラが大臣」と喜ばれるものだが,逆に「露骨な変節」「失望した」と大ブーイングを浴びているのが河野太郎・行政改革担当相だ。

 河野氏は「脱原発」をかかげて安倍政権の原発政策を厳しく批判し,名物ブログ「ごまめの歯ぎしり」で霞が関を相手に舌鋒鋭くケンカを売りまくる姿勢が人気を博して,「自民党の異端児」と呼ばれてきた。

 ところが,悲願の入閣を果たしたとたん,過去のブログを「閉鎖」し,原発批判を封印して首相に恭順の意を示した。

 たとえば,2014年7月のブログでは,九州電力川内原発1号機について,〈再稼働する前に,使用済み核燃料とどう向きあうか,国民を巻きこんでしっかり議論するべき〉と主張し,〈核のゴミに目をつぶり,やみくもに再稼働しようというのは無責任です〉と書いていたが,現在は削除されている。川内原発1号機は2015年8月に再稼働,9月には営業運転を始めている。

 この変わりっぷりに,元外交官で評論家の孫崎 享氏からはツイッターで,〈河野太郎,入閣には過去を否定しなければならないのか。「初入閣の河野太郎が,ホームページ掲載の主張や政策を “メンテナンス中” と〔措置しておき〕読めない状態に。(中略) 撤回するなら初めからいうな〉と批判されるほどだった。

 自民党内からも,「いくら綺麗事を並べていても,最後は入閣のために毒まんじゅうを食ったということだよ」(ベテラン議員)と失笑を買っている。    
 註記)https://www.news-postseven.com/archives/20151102_360834.html
 それはさておき,以下に引用する河野太郎『ごまめの歯ぎしり』における記述は(なおこの文章は他所に転載・保存されていたものである),「3・11」以後,世の中に広く理解・認知されるようになった立命館大学大島堅一教授による「原発コスト試算」に賛同する立場に立っていた。

 「原発最安価論」の虚説性はいまでは常識的な認識にもなっているが,旧態依然たる原子力村利害集団の圏内にあっては,この大島堅一の意見はいっさい受けいれられていない状況が堅持されてきた。なぜか? 過去において河野太郎が指摘し,批判した関連する論点をを聞けば氷解する。

 --2016年11月17日に開かれた第61回国会エネルギー調査会で基調提起された大島堅一立命館大学教授による「原発の発電コストへの影響」によると,つぎのようは数値が提示されていた。なお緑字の合計青字である
  東京電力    電力9社
   25,647   85,720   2010年度までの発電量(億kWh)
     2.5      0.8       賠償コスト単価(円 / kWh)
     5.9      1.8       事故費用単価(円 / kWh)
     8.6      8.5       実績発電単価(2010年度まで)
     1.7      1.7       政策コスト(2010年度まで)

     12.8      11.0       発電コスト(賠償コスト含む)
     16.2      12.0       発電コスト(事故コスト含む)
 大島教授によれば,同時期の火力発電コストは9.87円 / kWh,一般水力のコストは3.86円 / kWh となる。そして,大島教授による提案は,こうであった。

 「現在の会計は,廃炉費用の中身がまったく分からなくなっている。一般廃炉費用,事故炉廃炉費用,損害賠償費用を区別して経理し,それぞれがいくらかかっているか,分かる会計制度を構築すべきである」。「託送料金は,国会のチェック機能が働かない。そのため,経費がいくらかも分からなくなるし,経費の膨張も避けられない」。

 「提案が制度化されれば,ほとんどあらゆる追加的費用が託送料金から回収されることになる。これは,原子力の後始末に使途を限定した一種の目的税と同じである」。「すでに国民は,原発事故賠償費用を実質的に負担していることからすれば,託送料金ではなく税で徴収すべきである」。

 「税にすると国民の反発を招く可能性があるが,いったいいくらかかるのか,かかっているのか,また,経費の使い方が適切か,といったことが国民の前に明らかになる」。「東京電力の法的整理は避けられない。法的整理すれば,資産を売却することで,その分国民負担額を減少させることができる」。

 「賠償主体がいなくなるとの懸念はあるが,特措法を制定し,厳しい規制を行わなかった国の責任を認め,国が変わって賠償支払いをすればよい」。
 補注)原発が大事故を起こしていたが,その後における後始末に関して発生してくる経費,そしてまた,通常における廃炉工程の具体的内容にかかわっても予想すべき経費,また再生エネルギーの開発・利用にともなう送電線の利用状況などに関して,電力会社側はなるべく暗箱(black box)のなかに入れたまま隠しておこうとしてきた。電力体制の改革に対する反動勢力が電力会社じたいである。

 原発のコストが「最安価であった」どころか,各種普及してきた電源のなかでは,もはや滅相もなく高い水準方法にまで上がるみこみである。実際にも相当に高い原価になりつつある現状を,電力会社側は国家とグルになって,極力隠蔽するための努力を続行中である。

 古賀茂明は,負担の原則(それを優先させる順位)を,つぎの順位に表わしている。

   1 東電-経営陣-社員
   2 株主にとって株は紙切れに
   3 銀行などの債権を棒引きに
   4 電力利用者(電力料金)
   5 国民(税金)

 註記)以上,https://www.taro.org/2016/11/大島堅一教授による原発コスト試算.php

 ついでに触れておくと,河野太郎は,『科学』2012年5月号に掲載された「〈特集〉放射能汚染下の信頼 [座談会]原発の安全なたたみ方:資金・賠償・人材」に,大島堅一(立命館大学:環境経済学)と吉井英勝(日本共産党:衆議院議員)と3人で対談するかたちで登場していた。下掲画像資料はその1頁目の上部分。
  『科学』2012年5月号河野太郎対談
 吉井英勝は,京都大学で原子力工学(工学部原子核工学科卒業)を専攻した国会議員であり,あるとき,安倍晋三と議論したがそのとき示した安倍の態度の非常にひどかったこと(無知と傲慢と無礼),このうえなかった。
 註記)https://www.iwanami.co.jp/kagaku/Kagaku_201205_Oshima_etal.pdf 参照。

 ③「原発の発電コストが1番安かったのでは? 『新電力にも原発廃炉費用を』」(『小坂正則の個人ブログ』2016年09月08日,https://nonukes.exblog.jp/23474874/)

 このブログは「これだけウソをいいつづけるのは『ミサイル実験を宇宙衛星』と〔強弁する近隣の某国が〕いうのと同じ」だと,最初に批判したうえで,つぎのように論じていた。

 a) まず,後段に引用した『毎日新聞』の記事を踏まえての話である。経産省・資源エネ庁の「総合資源エネルギー調査会」が「原発のコストを新電力に負担させる方法を導入させようとしている」といい,このさい「新電力へ乗りかえた一般家庭一軒で数十円から200円の負担」制度を導入する案を検討しているといっていた。

 この話は想定されていて驚くには値しない話だった。だだ,よくよく考えねばならないのは,政府のいっていることに論理矛盾がある点である。2011年3月11日までは「原発の発電コストは1kwhあたり5.3円で一番安い」と,政府も電力会社もいっていた。
 発電コスト比較図表22030年発電コスト予測図表
 ところが,福島事故を起こした以降は,さすがに膨大な事故処理費用のコストを考えると,いくらなんでも5.3円とはいえなくなった。2015年には10.1円と跳ね上がっていた。「なんだ原発は安くはなかったんだ」と思ったら,原発の発電コストを上げるのといっしょに,ほかの発電コストも軒並み上げておき,「やっぱり原発は一番安い」として,いまだにぬけぬけといいはっている。

 「これはミサイルではなく,宇宙衛星だ」と,いいはるどこかの国の偉い者とあまったく同じ論理である。誰でもがしっていることを,いまだにウソを通しつづけようとしている。

 b) 原発がコストが安いのであれば,そのツケを関係ない新電力に回すな。分かりきったことであるが,この国は資本主義の国である。市場原理で企業は競争しており,そこでは「社会的規制」(公害防止条例や大気汚染防止法)などの規制は受けるものの,「経済的規制」はできるかぎりなくす必要がある。

 そうでなければ自由競争や市場原理が歪められる。唯一経済的な規制があるのは「独占禁止法」である。大企業と中小零細企業が対等に競争するときには,大企業へは市場開放のために規制が必要となる。
 
原発コスト負担政府案 今回〔2016年4月にはじまった〕の電力自由化は,地域独占の既存の電力会社に対して新電力は零細企業で,そのシェアはわずか全国でも2.4%である。明らかにいまはまだ実質的に独占状態が続いている。

 本来なら既存電力のシェアを落とすために新電力を応援する政策をとらなければならない。一定のシェアまでは無条件に強制的な方法で市場を開放させる政策を実施しなければ,電力市場の対等な競争など実現できない。

 さて,この国は相変わらず国家官僚資本主義の国であり,呆れて開いた口がふさがらない状況が維持されている。いまだに,セッセと官僚と電力資本は,いわゆる「原発マフィア(原子力村利害集団)」の連中は,国民を騙して,なんとか原発を支える政策を導入しようと企んでいる。

 c) こんなふざけた制度を入れさえないためにも新電力へ乗り換えよう。原発のコストが高いのなら,まずは国民に「実は原発の発電コストは一番高い」と本当にことをいって,誤るべきである。そして,その後どうするかは国会で話しあうべきである。

 しかしも,国会に任せていたら民進党は電力会社の労組にあごで使われているので,まともな議論はできないからには,国民の判断を仰ぐべきである。この問題だけでも衆院は解散して「原発選挙」をおこなうべきである。「高くても原発は続けるべきか,高いし危険だからやめるべきか」という争点で選挙をおこなえばよい。

 ここまで国民を愚弄する政治をおこなう自民党と民進党の一部の議員は,辞任すべきほどの大きな責任がある問題になっている。こんな不当なことをやれば,「電力自由化」などまやかしでしかなく,新電力など育てられない。
 補注)新電力に関する統計資料は各種あるが,ここでは「小売販売量の事業者別シェアはどうなっているのか?(2018年3月実績)」から,つぎの図表を借りておく。( ↓  画面 クリックで 拡大・可)
電力小売販売量事業者別川柳率
出所)https://j-energy.info/?page=pps

 d) アベノミクスの3番目の矢は「規制改革」といっておきながら8兆円の市場の活性化をみずから壊そうとしている。ここは「電力自由化」を支えるためにも,消費者と新電力企業が一緒に声を上げる必要がある。消費者側は,こんなふざけた制度を導入させないためにも「新電力への乗りかえを進んでおこなう」必要がある。

 さらに引用するのは,以上に引用したブログが途中で紹介していた新聞記事である。これらの記事からはすでに1年と10カ月も時間が経っているものの,事態の本質はそれほど変化(進展?)していない。

 ※-1「原発コスト 新電力も負担,政府調整 料金に上乗せ」(『毎日新聞』2016年9月8日) 

 政府が原発の廃炉や東京電力福島第1原発事故の賠償を進めるため,大手電力会社だけでなく,新電力にも費用負担を求める方向で調整に入ったことが〔2016年9月〕7日,分かった。

 電力自由化で大手電力から新電力に契約を切り替える消費者が増えた場合,原発の廃炉や原発事故の賠償にかかる巨額の費用を賄えなくなる可能性があるためだ。だが,本来は大手電力が負担すべきコストを国民全体に求めることになり,議論を呼ぶのは必至だ。

 現行制度で原発の廃炉は,原発を保有する大手電力が自社の電気料金から費用を回収することになっている。福島第1原発事故の賠償は,東電が国の認可法人「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」から必要な資金の交付を受け,大手電力が負担金を同機構に納付している。

 政府が導入を検討している新制度は,原発を保有する大手9社だけでなく,新電力にも廃炉や福島原発の賠償費用を負担させる仕組。新電力各社は電気料金に上乗せして回収するため,契約者の負担が増すことになる。

 政府は事故を起こした福島第1原発のほか,全国の原発が廃炉になった場合の費用と,同機構を設立する前にかかった福島原発事故の賠償費用の合計を約8兆円と試算。家族3人の標準家庭モデルで月額数十円から200円程度の負担を想定している。

 しかし,新電力の契約者に原発の廃炉や東電の賠償費用を負担させることは,大手電力と新電力との競争を促すことで料金引き下げにつなげる電力自由化の趣旨に反し,原発を抱える大手電力の事実上の救済策といえる。

 政府は総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)のもとに小委員会を設け,新制度を議論し,年末までに一定の方向性を出したうえで,来〔2017〕年の通常国会に電気事業法の改正案を提出する。

 ※-2「大手の救済色濃く 利用者の反発必至」(『毎日新聞』2016年9月8日)
 
 政府が原発の廃炉や東京電力福島第1原発事故の賠償を進めるため,大手電力会社だけでなく,新電力を含むすべての電力会社に費用負担を求める背景には,4月に始まった電力小売りの全面自由化がある。

 電力自由化で大手から新電力に切り替える消費者が増えた場合,巨額の費用がかかる原発の廃炉や事故の賠償に支障をきたす可能性があるためだ。ただ,政府案は大手電力への救済策の色彩が強く,新電力各社や消費者から反発の声が上がりそうだ。

 原発の廃炉にかかる費用は,110万キロワット級の原発で570億~770億円程度とされる。これは50万キロワット級の火力発電所の廃炉費用30億円程度と比べて15~20倍超と巨額で,電力会社の経営の重しとなっている。原発を保有する電力大手各社は,原発の廃炉に備え,必要な費用を「原子力発電施設解体引当金」として,電気料金に上乗せして徴収している。
 補注)ここで説明されている廃炉のために発生する経費が,このような数値(価格)で済むと予想していたら,大きな間違いになる。とくに,イギリスやフランスですでに進められている廃炉工程は,その年数からして半世紀から1世紀を予定させられているし,これにともない発生してくる費用も莫大な金額になる。

 いまとなっては,原発の建設費を上まわる解体・処理のための費用が,廃炉工程の進行とともに発生している。通常の建設工学的な観点から計算できる「前後の費用関係論」としては,破格である,つまり,工学的な常識では考えられない「事後処理のための多額な経費」を発生させている。

 〔記事に戻る→〕 経済産業省によると,国内の原発の廃炉に必要な見積額は電力10社(大手9社と日本原子力発電)の合計で2兆8200億円。このうち2013年3月末時点で10社が解体引当金として積んでいたのは1兆5800億円で,引当率は56%だった。その後も10社は引当金を積み増ししているものの,電力全面自由化で将来,徴収が進まない可能性もある。

 大手電力から新電力に切り替えた契約数は7月末時点で約148万件と全体の約2.4%に過ぎないが,将来的には拡大するとみられている 註記)。そこで今回,政府が考えたのが,大手電力会社だけでなく,新電力を含めたすべての電力会社に廃炉や賠償の負担を求める案だ。
 註記)より最近の関連する統計は,前掲した円グラフを参照。

 新電力に切り替えた消費者も,過去には大手電力が原発で発電した電力を使っており,「過去に大手電力の電気を利用した需要家(消費者)と,電力自由化後の需要家の間に負担の公平性が損なわれてはならない」というのが政府側のいいぶんだ。

 しかし,福島の原発事故を教訓に,再生可能エネルギーによる発電比率の高い新電力を選んだ消費者もいる。すべての契約者に負担を求めるとなれば,原発のない沖縄県の消費者にも廃炉費用を負担してもらうことになる。制度的な矛盾は否めず,消費者から「原発のコストは大手電力が負担すべきで,すべての国民に転嫁するのはおかしい」などといった反発が強まる可能性がある。

 電力全面自由化は,地域独占だった大手電力と新電力の競争を促し,電気料金を下げるのが目的だった。にもかかわらず,政府が原発の廃炉や賠償を優先せざるをえないのは,原発が潜在的にコスト高である現実も物語っている。
※ これこそ原発のリスク 大島堅一
立命館大学教授(環境経済学)の話 ※

 原子力事業者(大手電力)にも新電力にも有利,不利な点がある。なぜ原子力事業者だけ不利な点をとり去る必要があるのか。明らかにおかしな政策で,保護策といえる。要するに『原発のコストが高い』ということ。

 原子力事業者が自己解決すべきで,国が制度を作り面倒をみる必要はない。原子力事業者が原発のコストを払いきれなくなっている証明で,これこそ原発のリスクだ。政府が事故や廃炉のコストを入れても原発は安いと主張してきたこととも矛盾する。
 ※-3「原発をめぐる政府の主張と問題点」

 『政府』〔や電力業界〕の主張

  1 電力自由化で大手電力は廃炉や福島原発事故の費用を回収できなくなる恐れがある
  2 新電力に切り替えた消費者も,過去には大手電力が原発で発電した電力を使っている
  3 原発の廃炉や事故の賠償を円滑に進めるには,新電力を含むすべての契約者に負担を求めるべきだ

 『消費者や有識者』の主張

  1 廃炉や賠償の費用は大手電力が経営努力で電気料金から回収すべきだ
  2 廃炉や賠償の費用を入れても原発は安いといっていた主張と矛盾するのではないか
  3 原発のない新電力や沖縄県の契約者が費用を負担するのはおかしい。大手電力の救済ではないか

 戦後日本の経済発展にともない発生し,大きな問題となった公害(環境破壊・人間被害)は,企業経営の責任圏域をはるかに超えていき,社会全体にまでその損害・危害を及ぼした点は,社会的費用が発生させられた問題として議論されてきた。

 原発事故に典型的に現象されてもいるように,いちどでも深刻・重大事故を起こしておきながら,その後始末は結局「国民・国家」全体に付けまわしして済まそうとする「昔もいまも電力業界」の体質は,無責任きわまりない,それも本来の経営責任そのものはむろんのこと,社会的責任などろくに負おうともしない基本姿勢である。

 「国策民営」として電力会社の原発導入がおこなわれてきたからだとはいっても,ひとたび,21世紀の歴史に記録されるような大事故を起こしたあと,またもや「国策的に国民全体にその負担(ツケ)を強いている」様子は,『日本における原発導入・発展史』の展開が大失敗であった事実を,否応なしに教えている。

 『日本経済新聞』はそれでも,今日の朝刊記事のなかでは,こういっていた。「一般的に発電所はまず燃料代が安い原子力や石炭火力を最優先に稼働させて安定した電力供給源とする」と。

 そこで使われていた修辞の「一般的に」という工夫点からして,どだいマヤカシ的な論法であった。また,原発の「燃料代が安い原子力(原発)」という表現は,『燃料』(だけ)のことに触れる限定的な意見だと聞こえるいいかたをしていた点で,よりいっそう,そのマヤカシ性は倍加されていた。要は,目くらましのような “記事のなかでの表現” が駆使されていた。

 原発問題は廃炉(バックヤード)の問題にまで,延々と未来永劫的に続いていく。燃料の調達だけが問題であって(だから「発電コスト〔!〕が安くていいのが原発だ」といいたいのか?),それで議論が尽くせるような軽い・狭い・限られた論点ではなくなっている。原発問題全体を貫く総括的な困難は,廃炉工程において集約的に表出されている。

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