国土交通省が取りまとめた「車体整備事業者による事故車修理の適切な価格交渉に関する指針」について、内容を分かりやすく解説します。
1. はじめに
- (1)背景
- 車体整備における保険修理では、車体整備事業者と損害保険会社が直接交渉し、修理価格を決定する慣行があります。
- しかし、近年、労務費や原材料費の高騰が適切に価格に反映されていないという声や、修理方法に関する見解の相違による問題が指摘されています。
- 車体整備業界の持続的な発展のため、適切な価格交渉の必要性が高まっています。
- 公正取引委員会の調査でも、車体整備業界は労務費の転嫁率が低いことが示されており、人材確保・育成の課題となっています。
- この指針は、車体整備事業者が適切な価格交渉を行うための指針として策定されました。
- (2)本指針の性質
- この指針は、車体整備事業者が損害保険会社との価格交渉において、透明性・公平性を確保しつつ、労務費の転嫁を含む適切な価格交渉を行うためのものです。
- 現状の課題として、車体整備事業者と損害保険会社との間のコミュニケーション不足や認識の相違があることを踏まえています。
- この指針は、国土交通省が車体整備事業者を指導・監督する際の指針であり、規制的なものではありません。
- (3)指針の対象
- この指針は、車体整備事業者を対象としています。
- 元請工場だけでなく、外注工場も対象に含まれます。
- (4)留意点
- この指針は、事故車修理における修理請負契約を念頭に置いており、損害保険契約の内容には言及していません。
2. 基本的な考え方
- 車体整備には高度な技能と設備投資が必要であり、車体整備事業者は適切な「技術料」を設定する必要があります。
- 一方で、修理内容の透明性を確保し、依頼者や損害保険会社の納得を得ることが重要です。
- 車体整備事業者は、自社の責任と判断に基づき、透明性をもって損害保険会社に説明することが重要です。
3. 車体整備事業者が取り組むべき事項
- (1)自社の責任と考えによる見積の作成
- 車体整備事業者は、自社の責任で見積を作成し、損害保険会社に提示する必要があります。
- (2)消費者物価指数のみならず人件費等の上昇も考慮した工賃単価の提案
- 人件費、設備投資、光熱費などの費用構造を分析し、適切な工賃単価を設定する必要があります。
- 人件費の上昇傾向を示す根拠資料(最低賃金、春季労使交渉の妥結額など)を活用します。
- 価格転嫁の妥当性について、損害保険会社の理解を得ることが重要です。
- 独占禁止法に抵触するような、事業者間での価格協定は行わないで下さい。
- (3)標準的な作業時間と実態を踏まえた価格請求
- 標準作業時間(指数)を使用する場合でも、実際の作業時間を考慮し、適切な価格を請求します。
- 指数と実際の作業時間に乖離がある場合は、国土交通省に情報提供します。
- (4)「見積書・領収書」、「作業記録簿」の標準様式の使用
- 標準様式を参考に、作業内容と価格項目を明確にします。
- 複数の価格項目をまとめることや、不当な値引きは避けます。
- 自動車メーカーの修理仕様書に従わない場合は、その旨を明記し、説明します。
- (5)損害賠償における代車費用の支払いに関する考え方の理解
- 代車費用の支払いに関する保険の仕組みを理解し、依頼者に説明します。
- 代車費用の全額が保険で支払われない可能性があることを考慮し、貸し出しの判断を行います。
- (6)透明性・公平性が疑われないような請求・説明
- 依頼者と損害保険会社に対し、価格の透明性と公平性を説明できるような作業と請求を行います。
- 不当な価格設定や値引きは避けます。
- 営業担当者と技術者間で情報共有を徹底し、精算見積に反映します。
- 「車体整備の消費者に対する透明性確保に向けたガイドライン」も参考にしてください。
- (7)損害保険会社との交渉における留意点
- 修理方法などで見解が相違する場合は、丁寧に説明し、建設的な対話を行います。
- 保険の仕組みや損害賠償の考え方を理解した上で、費用請求を行います。
- 損害保険会社の提示する根拠について、疑問があれば説明を求めます。
- 交渉が進まない場合は、国土交通省に情報提供します。
- (8)協定に時間を要する場合の対応
- 協定に時間がかかる場合は、依頼者に状況を説明し、判断を仰ぎます。
- 依頼者が情報を比較検討できるように、情報提供を行います。
- 事故車の保管料や代車費用の増加など、依頼者に不利益が発生する可能性がある場合は、事前に説明します。
- (9)依頼者に対する適切な情報提供
- 依頼者からの求めに応じて、修理内容などを丁寧に説明します。
- 保険修理の制約や、追加費用でより高度な修理が可能であることを説明します。
- 説明が難しい場合は、損害保険会社からの説明を促します。
4. 国土交通省による対応
- 国土交通省は、関係業界団体と協力し、車体整備事業者の取り組み状況を確認します。
- 関係省庁と連携し、価格交渉の実態・課題を把握します。
この指針は、車体整備業界の健全な発展と消費者保護を目的としています。車体整備事業者は、この指針を参考に、適切な価格交渉と透明性の高いサービス提供に努めることが重要です。
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