非常にバツの悪い電話を終えた僕は、妙な喉の渇きを感じていた。


車を停めていた場所から50メートルほど歩いた所に自販機があった為、そこでコーラを買って喉とキモチを潤す。

海沿いより標高が高いせいか頬を撫でる風も少しばかり涼やかで、何となく僕は落ち着きを取り戻しつつも、同時に奇妙な罪悪感を抱いていた。

とはいえ、ここまで来てしまっている以上はもう引き返せないワケで、半分ほどコーラ飲んだ所で車へ戻る。

何故か街中へ近づくにつれ、先ほどの狭い区間であれほど感じた対向車の存在が希薄になり、そこに一抹の寂しさを感じながら車を走らせていた。


僕は何処から来たのか…それはかろうじて解る。

だが、僕はこれから何処へ行こうとしているのか…?


暗夜行路ならぬ、「真夏の草いきれと蝉の音行路」は、とりあえず少し先の未来を目指して進む。


思えば、何処へ行くでもなく、誰に会うでもなかったのではないか?

ふとそんな疑念が心を掠める。

先ほどまでのノリノリ感は何処に行ったんだ?って感じ。


誰かを確実に裏切ろうとしている事への後ろめたさ…それは確かに背景にあるのだが、それだけではない何かがある…

この時の僕は、「今、感じている自由」というものが酷く脆弱なものであり、儚いものである事を何処かで感じ始めていた。

この夏はやがて終わる。

今日という日はやがて終わる。

「今」という時間は即座に過去になる。


そんな当たり前のことを、旅に出てからこの時点まで、僕は一度とて意識した事は無かった。


その時感じていた自由は、あたかも永遠につづくものと何処かで妄信していた。


だが、確実に「終わり」の時はやってくる。

それが現実であり、真理だ。

彼女からの電話は、確実に何かが終焉に向かうサインであった事は間違いない。

流石に鈍い僕でもその辺りの空気は肌で感じていたのだが、まだ僕は戻れない。

何を見出そうとしているのか、そして何を壊そうとしているのか…それすら具体的には予見出来ずに、ただひたすら車を走らせていた。


途中から国道に入り、道なりに進むと、久しぶりに大きな街である郡山へ出た。

今日はここらで夜を過ごし、明日の朝猪苗代へと向かおうと決意する。


ユカさんに連絡を入れ、その旨を伝えると、明日は1日あけておくとの返答。

何が何やら正直ワケワカラン感じになっては来たが、一応のスケジュールは決まってきたので…とりあえずパチンコ屋に逃げ込む事に。


なんだか行動がいつも同じような気もするが、何もせずに車内で一人悶悶としているわけにも行くまいw


まぁ…得てしてこんな心境の時に打ってもダメなんだけどねorz


で、当然諭吉を2枚程失ったところでスロットから退散するも、フラフラと店内を歩いていたら釘がよさげなパチンコを偶然見つけて勝負再開。

何とか負債を相当額取り返すことが出来た。


夜の帳も降りたので、とりあえずの晩飯にと蕎麦屋に入り、注文が届くまでの間にまたもやアレコレ考える。

とりあえず、もう振り返る事は出来ないのだ。


その先にどんな結末が待っていようと、来た道を進むというプランしか思いつかなかった。


何かよからぬ事があり、それが元で挫折があっても、まだまだ俺はやり直せるだろうしな…みたいな強烈な楽観主義をバックに、強引に導き出した結論。


それはそれで、多分そのときの僕の「精一杯」だったんだろうけど…とりあえず今晩は何処で寝るのか?


一番身近に迫った問題を、全く考えていなかったということに気付いたのは、食事を終えて車に乗り込んだ時だった…w


今回のBGM:OASIS「Don't Look Back In Anger」