2008年02月09日

BRUCE SPRINGSTEEN / MAGIC

昨年10月に発表された最新作で、The E Street Bandを従えてのアルバムとしては、2002年の『THE RISING』以来の作品となる。

MAGIC発売時より「かつてのパワー・明るさ・ロマンが戻ってきた」として、全米・全英ともに1位を獲得するなど大変好評を博してるが、実際に耳にしてみると、曲の雰囲気のみならず楽器の音色など細部に至るまで、確かに70年代・80年代の名作を彷彿とさせる“音”で溢れている。

1曲目「Radio Nowhere」より、いきなりグルーヴ感のある分厚いギターリフが渦を巻き、かと言って単なるパワーソングに終わることなく奥行きすら感じさせる極めて完成度の高い演奏でこの作品の幕を開ける。
また、3曲目「Livin' in the Future」では、Clarence ClemonsのエモーショナルなサックスソロやDanny Federiciの煌びやかなキーボードの再現もあり、まさしく70年代・80年代の名曲である「Tenth Avenue Freeze-Out」や「Glory Days」にも通ずる“これぞThe E Street Bandサウンド”と呼べる音作りがなされている。

実際に、本作の制作にあたり、BRUCE SPRINGSTEEN本人は「E Street Bandとのライブ演奏を想定して曲を作った」といったような意味の発言をしており、このようなサウンドが偶然にもたらされたものではないことが分かるが、しかしそれだけでは、これだけの高い評価を獲得することは難しかったと思われ、やはりこの作品が“特別なもの”となることを予感させるには、4曲目「Your Own Worst Enemy」、6曲目「Girls in Their Summer Clothes」といった曲による“ロマンティシズム”への回帰が不可欠であったと言ってよいだろう。

BossがPhil Spectorを敬愛し、ずっと彼なりの「Wall of Sound」の構築に挑戦し続けてきたことはよく知られているが、この2曲におけるやや過剰とも思えるほどの音の塗り込め方が、結果としてこのアルバムに鮮やかな“彩り”を添える形となっており、パワーだけではない、はたまたシリアスだけでもない、まさにE Street Bandとのライブ演奏でみられるような、バラエティー豊かな表現の幅がこのアルバムの最大の魅力となっている。

では、なぜ彼ががこのタイミングでこのような音作りを志向したのであろうか。当初わたしは『MAGIC』というアルバムタイトルについて、「E Street Bandというかけがえのない仲間達と、今でもこうして音楽を作り出すことができる“奇跡”」といったポジティブな意味で使われているものと勝手に解釈していたのだが、実際は全くその反対であり、ここでは“手品”“まやかし”といった意味を通じて「為政者には騙されるな」という明確な反ブッシュ政権のメッセージを伝える手段として用いられている。

このように音作りの面では、上述のように「パワー・明るさ・ロマン」を感じさせるものとなってはいるが、一方で歌詞の世界においては、アルバムタイトル曲である「MAGIC」に限らず、今では彼の十八番となった社会や政治の暗部に目を向けた表現がそこかしこに登場しており、このことは、前回の大統領選で「Vote For Change(投票でアメリカを変えよう)」という活動の扇動役を自ら担い、民主党のケリー候補を支援したにも拘わらず、目的を達成するとができなかった彼が、今一度自らの祖国であるアメリカという国の危機的状況について警鐘を鳴らすべく意図した結果ではないかと思えるのだ。

また、あえて意地の悪い見方をすれば、前年に『Hammersmith Odeon, London '75 』『WE SHALL OVERCOME:THE SEEGER SESSIONS』といった作品をリリースしていながら、この短い間隔で新作を出してきたのも、次の大統領選が始まる直前のタイミングに合わせたものであると考えることもできなくはないし、更には、そのテーマの重さで話題となった『Devils & Dust』とは異なり、E Street Bandとの共演による「パワー・明るさ・ロマン」を持ったかつての名盤になぞらえた楽曲とすることにより、よりメッセージの即効性を重視したのではないかとも勘ぐってしまうのだ。

無論、そのような政治的意図についてBoss本人が自ら口にすることは有り得ないので、個人的な想像の域を出ないのは承知のうえだが、それでも尚且つ本作のような音を待ち望んでいたリスナーが多かったからこそ評価されたわけだし、E Street Bandとのライブを楽しみたいという彼の気持ちも少なからずあったはずなので、仮に本作に「政治的な目的を達するための手段」としての側面があったとしても、我々は素直に楽しめば良いのだと思う。

なんだかあまり褒めていないような文章になってしまった気がするが、わたしにとっても本作は『Tunnel Of Love』以降での最高傑作であることには変わりない。あとは「Jungleland」のようなドラマティックな曲が戻ってくればもう完璧だろう。そういった意味では、折角これほどまでにライブ映えする新曲が発表されたわけであるから、1997年の「The Ghost of Tom Joad Tour」以来となる来日公演を激しく希望する。

では、YouTubeより本作から「Radio Nowhere」をどうぞ。

「Radio Nowhere」 (映像の流出にかなり厳しくチェックが入っているようで、いつまで見られるか分かりませんので、お早目にどうぞ)


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beerks880311 at 23:59│Comments(6)TrackBack(1)clip!ロック 

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1. Big Boss Groove  [ Otokichikun-Factory ]   2008年02月12日 01:57
今年の朝霧も無事終了。朝霧が終わると今年も終わりだなぁという気になります。すっかり涼しいしね。朝霧は激寒でしたが。笑 今年は小粒感といいますか、なんだか知らない人多いな、と思っていたのですが、フタを空けてみれば楽しいのなんの。やっぱある程度のクオリティの....

この記事へのコメント

1. Posted by エイタ   2008年02月10日 18:43
BRUCE SPRINGSTEENを今までちゃんと聞いたことが無かったんですが
「Radio Nowhere」の感想ですが音やメロディ、声全てが魅力的ですね
他の曲も聞きたくなりました。

味のあるロックっていつ聴いても素直に良いなぁと思ってしまいます。
2. Posted by ケニー   2008年02月10日 22:41
>エイタさん

コメントありがとうございます。

興味を持っていただきありがとうござます。男臭いイメージですが、実はナイーブなところが魅力です。

お薦めは『Born To Run(邦題:明日なき暴走)』『Darkness On The Edge Of Town(邦題:闇に吠える街)』ですが、分かり易さでは『BORN IN THE U.S.A.』でしょうか。
3. Posted by コハゲ   2008年02月11日 17:17
ボスのアルバムでは『Born to Run』と『NEBRASKA』を持っていて、どちらも大好きでした。

年代的には、やはり『BORN IN THE U.S.A.』の超絶的大ヒットをよく憶えていますが、どちらかといえば僕は、暗めの曲の方が好きという変な奴でした。(笑)
4. Posted by ケニー   2008年02月11日 22:29
>コハゲさん

コメントありがとうございます。

変なんてとんでもないです。BRUCE SPRINGSTEENのコアなファンには『NEBRASKA』が好きな人が多いですよ。

この多面性を理解できるかどうかが、Bossのファンでいられる条件なのではないかと思います。
5. Posted by kura_mo   2008年02月12日 02:02
ここ数年の流れを評価するあまりこのアルバムを純粋に楽しんでないんじゃないか?という批評家の方々はおいといて。やっぱそれもこれもコミでのボスだってことなんですよね。シーガーセッションの意味や意義も分からないでもないですが、ファンとしては新曲が聴けることのほうがうれしいに決まってます。
詩の内容は相変わらず社会的なのかも知れませんが、痛快にロックするボスは未だ誰にも負けないくらいかっこいいと思います。
6. Posted by ケニー   2008年02月13日 00:20
>kura_moさん

コメントありがとうございます。

仰る通り、Bossがいろいろな解釈の余地を残した詩を書くので、リスナーが必要以上に深読みしているようなところはありますよねぇ。

それもひとつの楽しみ方ですけど、ライブになればやっぱり本作のような曲のカッコよさがモノを言いますよね。
ライブが観たいです。

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