June 30, 2018

映画雑感2018上半期

 半年間に観て良かった映画を振り返るいつもの。
2018年の上半期に劇場に足を運んだ回数は38回。
そのうち2回はインフィニティ・ウォーとちはやふる-結び-のリピートなので観賞本数としては36本。
そして内1本は午前10時の映画祭でのリバイバル上映なので封切り作品としては35本でした。
上半期は毎週最低1回は劇場に通ってたのでもっと多いかもと思ってたんですけど、2本も3本も観る週がそんなに無かったので結果的にはいつも通りの本数ですね。
睡眠不足な事が多くてハシゴはキツイのと、ハシゴすると映画だけで1日が終わってしまうから観る日を意図的に散らした部分もあっての毎週通いだったものの、長期的には生活の圧迫具合は大差無いなぁと。
やはり本数を減らすしか…


#アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー
 6つ揃えると絶対な力を発揮するインフィニティ・ストーンを使って宇宙の生命を半分にしようと画策するサノスに対しアベンジャーズが死闘を繰り広げる、MCUシリーズ最新作。
今年のベスト。
まだ半年残ってますけど、本作を凌ぐ衝撃作が出てくるとは考えられないのでまぁ揺るがないでしょう。
"映画は1本で纏まっているべき"という思いは依然として強く抱いてるものの、本作が10年かけて世界観を構築してきたシリーズだからこそ辿り着けた地平である事は疑いようがありません。
シリーズの1本ではなく本作単体で見ても、これほど映像的・ドラマ的に規格外な内容を破綻せず纏めあげてる事にはただただ驚愕です。
エンターテイメントとして要所要所できちんと盛り上がりつつも、作品全体はサノスの心境を反映したかのように物悲しく空虚なトーンなのも◎。
あとは来年公開のアベンジャーズ4できちんと〆てくれるのを期待するばかりです。

#スリー・ビルボード
 娘を強姦の末に殺害されてから半年経っても警察の捜査が一向に進展しない事に業を煮やした母親が、町外れの看板に警察署長に対する意見広告を出した事から巻き起こる騒動を描いたサスペンスコメディ。
世の中の大多数の人間は根っからの善人でもなければ悪人でもなくて、そうした人達が少しずつ善い方向へと変わっていこうとする、とても普遍的で胸を打つ作品でした。
コメディはコメディでも、悲惨な状況での人間の可笑しみであり、ファーゴ的な悲喜劇ですね。
それぞれの抱えていた痛みが救済される物語という点ではアニメ版のピンポンも連想しました。
主要キャストの演技も素晴らしく、アカデミー賞での主演女優賞と助演男優賞の受賞も大納得です。

#ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男
 1940年5月から6月にかけての、英国首相就任からダイナモ作戦終了までのチャーチルの1ヶ月を追った伝記映画。
この時期を表現したチャーチルの造語である原題・DARKEST HOURを元に演出したのであろう終始薄暗くて重苦しい映像、そこにクライマックスで射す一筋の光明。
そして何よりその光をもたらす人物!
独力で突っ張っていたものの挫ける寸前だった男が人との繋がりによって踏み止まり、やがて世界をも揺るがすワンアクションを起こす、という一連の流れの相似も含め、どうしても『英国王のスピーチ』との連続性を意識せずにはいられません。
そして『ダンケルク』。
今年初めのアカデミー賞の賞レース予想の際に「本作はダンケルクの裏話的物語」と何度かコメントされているのを散見しましたが、両作を並べてみると確かに、"空の1時間"、"海の1日"、"陸の1週間"に連なる"海の向こうの1ヶ月"に見えてならないです。
(多分他にも観てあるとより楽しめる映画は色々有るんだと思いますが)
ほぼ全編出ずっぱりのチャーチルを喋り方から身振り手振りまでトレースして演じきったゲイリー・オールドマンと、彼のパフォーマンスを特殊メイクで支えた辻氏の圧倒的スキルも見事の一言。

#勝手に震えてろ
 高校時代に片想いしていた男子との脳内恋愛を10年続けてるOLが会社の同僚から猛アプローチをかけられるようになり、夢と現実の狭間で揺さぶられるラブコメディ。
一言に集約するなら和製アメリ。
だけどアメリが現実と向き合うのを避ける為に不思議ちゃんを徹底的に演じていたのに対し、本作の主人公は外での顔とプライベートでの顔くらいの使い分けになってて、それって男性も含めみんな大なり小なりやってる事だよなーというバランスにチューンナップされてるのがアメリとの決定的な違いです。
そして主演の松岡茉優。
ともすれば見るに耐えない性格ブスの陰キャになってしまいかねない主人公に愛嬌を与え、表の顔と素の顔をあまりにも自然に演じてます。
『ちはやふる』のコメンタリーで「表情のコントロールが自由自在」みたいな事を広瀬すずが言ってましたが、正にその通り。
プロットが気になるかどうかが自分が観る映画を決める際の最優先項目で、誰が出てるのかは優先順位としてはあまり高くないのですが、彼女が出てる作品はなるべくチェックしようと思うくらいには凄い人だと思います。
本作が映画初出演なので今後が本当に楽しみ。

#ちはやふる-結び-
  前作から2年後を描いたシリーズ完結編。
原作のエピソードの再構築ぶり(監督が言うところの”本歌取り”)が前2部作以上に冴え渡ってました。
「実写映画の主人公は太一であり、瑞沢かるた部である」という上の句のフォーマットに立ち返ったのも実に正しいです。
下の句がそうであったように、千早の天才性と苦悩は万人に向けたエンターテイメントとして描きづらいですし、何より2時間の映画では尺が全然足りないですから。
その分ライバルとしての詩暢の出番が無くなってしまったのは残念…
前作で若干滑り気味だった笑いの要素が素直に面白いものになってたのも良かったです。
邦画ってこういうのホント下手だよなーと常々感じていたのでちょっと安心しました。
劇中の経過時間と同じだけ実際にも歳を重ね、その間にそれぞれが役者として大きく成長した主要キャストの芝居はもう特に言う事ないです。
周防名人のキャラの描き方も見事。
この無機質で浮世離れした雰囲気の向こうにある人間らしさは、正直原作よりも上手く表現出来ていたと思います。
単なるメディアミックスで終わらず、独立した映像作品として見てもきちんとやりきってくれた監督に感謝。

#さよならの朝に約束の花をかざろう
 長命の種族の娘が人間の赤ん坊を拾い、戦乱の世へと向かっていく国内を転々としながら育てる一代記。
超ベテランが脇を固めているとはいえ、これほど絵作りが大変な話をきちんと纏めたのは、初監督である事を考えたら大金星なのではないでしょうか。
お話も、観る者への変な目配せやウケ狙いもなく、老若男女問わず誰にでも響く普遍的な話だと思います。
そして作画陣。これほどの顔ぶれが揃う事は向こう10年無いでしょう。

#空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎
 若き日の空海が白楽天と共に長安を揺るがす怪事件の謎に迫る伝奇ミステリー。
夢枕獏の途方も無いスケール感を見事に映像にしていて、それだけでもう満足。
美術に関しては、獏作品の実写化としては現状これ以上は望めないのではないでしょうか。
と同時に、建物の巨大なセットとか豪奢な衣装とか、こういうのは邦画でこそ見たかったなぁと一抹の寂しさも(本作は日中合作)。

#ワンダー 君は太陽
 幼少期の病気の治療の跡が顔に大きく残っている少年が初めて学校に通う一年間を、彼と彼の周りの人間の目を通して多面的に描いたヒューマンドラマ。
障碍者が偏見やすれ違いを乗り越えて成功する話、というよくあるテンプレートの類型的側面を有してるのも確かなのですが、それは作品の一側面に過ぎず、"普通の人"もみんなそれぞれに悩みや問題を抱え折り合いをつけながら生きているところまで描き、いわゆる感動ポルノの一歩先を行っているのが本作の秀逸な点だと思います。
主人公オギーが彼の家族や友人に希望を与えるように家族や友人もまたオギーに希望を与えていて、そうした相互作用によって世界は成り立ち、それは映画の中だけではなく観ている我々も同じなのだという万人にとって普遍的なメッセージをまっすぐに、でも押し付けがましくなく自然な形で提示している手腕は実に見事です。
幕が移り、話の中心となる人物が変わるたびにジュブナイルだったりティーンエイジの恋愛物だったりと物語のジャンルが転々とするのも面白い構成。
主演のジェイコブ君がべらぼうに巧いのは以前『ルーム』の時にも語った事なので割愛するとして、彼と同じくらい難しい役どころであるお姉さんと友人も非常に繊細な演技でしたし、それ以外も全体的にハイレベルで言う事無しです。
いい人だらけな人物配置ではあるものの、内心苦々しく感じていたり最後まで差別意識を捨てられなかったりといった人物も存在するので決してご都合主義だけの話ではないと思いますし、寓話としては程良い塩梅なのではないかと。

#ダンガル きっと強くなる
 レスリングの国際大会で金メダリストになる事を夢見ていたものの生活苦から叶わなかった男が自身の子供達に夢を託す、実話を元にしたスポ根映画。
産まれてきた子供が娘だった事に一時は絶望するものの女子レスリングで頂点を取らせようとスパルタ教育を始める1幕目のコメディぶりも愉快だし、同世代の男子もなぎ倒す圧倒的強さで国のトップへと駆け上がっていく王道スポーツ物の2幕目も痛快だし、父と姉がすれ違う家族ドラマとしての3幕目も素晴らしかったです。
3幕目で父と姉の仲を引き裂く悪者役として登場するコーチのキャラ造形はいささか古典的でしたが、そこ以外は誇張を含みつつも現代的な価値観で作られてて、この辺のバランス感覚は日本の娯楽映画も見習うべきところだと感じました。
娘をレスラーに育てるのも、単なるギャグで済ませてしまうのではなく「インドの貧困層の女性は嫁いで子を産み家事をこなす以外の生き方が選択肢として存在しない」という現実と並行して描く事で父親なりの愛情表現にもなっているのが隙が無い作りです。
笑えて泣けて熱くなれるスポーツ映画と様々な要素をこれでもかと盛り込むインド映画の性質がこんなに相性が良いとは思いませんでした。
バーフバリみたいなド派手な作品ばかりが話題になりがち、印象に残りがちだけど、こういうごく普通の人間ドラマもきちんと面白いし、やっぱりインドの映画市場全体が豊穣だよなぁという思いを新たにしました。
(日本には入ってきてないだけで、箸にも棒にもかからないような作品も勿論ゴロゴロしてるんだろうとは思いますが)

#デッドプール2
 不死のボンクラヒーロー・デッドプールが未来で自身の妻子を殺す事になる少年を始末する為にタイムトラベルしてきた男・ケーブルとすったもんだするシリーズ第2作。
音楽とシーンの組み合わせ方とかアクションの見せ方とか不謹慎ギャグとか、正直どれも前作の方が好みなのですが、ヒーローとしてのデッドプールが描かれてるという一点において自分は本作の方が好きです。
(前作は自身の身の上話と彼女を拉致した連中への復讐譚でしたし)
本作を家族の話と評する人もいますが、誰かの為に自分が何が出来るか悩み、暴力以外の方法で世の中をほんのちょっとだけ良くするというプロットはやっぱりヒーローだと思うんですよね。
何をもってヒーローとするかは人それぞれでしょうし、その時々で定義も変わってくるでしょうけど、「これだけは外さないで」という自分の中のラインを逸脱するヒーロー映画がこの上半期は多かっただけに、個人的には満足度の高い一本でした。
あと、好みの話をしましたが、バランスのめちゃくちゃな構成やご都合主義的な展開に関しては、これはこれでデッドプールらしくて好きですよ。
作品の歪ささえも主人公が自ら「何これ酷いね」と突っ込みネタに昇華出来てしまうのはズルいですよね。

#アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル
フィギュアスケート選手トーニャ・ハーディングの栄光と破滅を描いた伝記映画。
伝記映画なのですが、史実を極力忠実に映像化する事に努めたドキュメンタリックな作りでもなければ史実を軸に大胆な脚色を加えた作りでもなく、トーニャ本人を含む主要人物の食い違った証言を整合性を取らないままシーンごと再現した、少々変わった作りになってます。
本作を観ていると「多分実際にはこうだったのだろう」という真相がそれとなく伺えるし、そこにすり寄せる形で構成する事も可能だっただろうと思うのですが、しかしながらトーニャが送った半生の破茶滅茶ぶりはこの支離滅裂な構成だからこそ描けたようにも感じます。
トーニャのパフォーマンスを完コピした(トリプルアクセルは流石にCGだけど)マーゴット・ロビーを始め、トーニャの母親、彼氏→夫、夫の友人と、強烈なキャラを怪演!と思いきや驚くほどモデルとなった人物通りで衝撃。
(本編のラスト〜EDで本人映像が出てきます)
スケート選手としては悲惨な末路を辿るトーニャですが、「それでも私は私」と次の舞台へ果敢に立ち向かっていくラストは不思議と希望に満ちてて奇妙な爽やかさが残る映画でした。

#15時17分、パリ行き
 2015年8月21日に発生したタリス銃乱射事件を、事件の対処にあたった青年3人が列車に乗り合わせるに至った経緯と共に描いたドラマ。
実話ベースの映画は数あれど、当事者達に事件を再現してもらう形で(しかもTVのドキュメンタリーのように「再現VTRですよ」というテイストではなくごく自然なドラマとして)撮った作品は非常に珍しいのではないでしょうか。
中盤のヨーロッパ周遊のくだりなんかは「当時スマホか何かで実際に撮ってた映像なのでは?」と思ってしまうくらいにナチュラルな芝居でしたが、これはひとえに3人が幼馴染で、そして何よりイーストウッド監督が現場の雰囲気を上手く作り上げ、リテイクを重ねて変に達者な演技にさせたりしなかった事が大きいのではないかと。
物語も、一見すると取るに足らない出来事が殆どなのですが、その実その全てがテロ事件に活きている…という事はなくやっぱり取るに足らない出来事も沢山あるんですけど、それがかえって"非日常は日常のすぐ隣に在る"事を際立たせているように感じました。
そして神に導かれるように事態に対処する主人公の行いも、決して偶然の産物ではなく、いつかやってくるかもしれない"その日"の為に備え続けたからこそ事を成せたものであり、その瞬間に行動を起こそうと決断出来た彼の意志の強さこそが本作/本事件において真に偉大で讃えられるべきものだと思いました。
日本ではテロに出くわす事はまず無いですが、交通事故や火事に遭遇した際に我々にも同じように行動出来ると勇気をくれる一本でした。


 こうして振り返ると、自分は本当にヒーローが好きなんだと改めて実感しますね。
ヒーローと言ってもコスチュームに身を纏ったキャラクターとしてのヒーローではなく(そのヒーローも当然好きですが)、もっと広い意味で、「不条理に抗う者」「自分以外の誰かの為に行動を起こす者」「挫けそうな時に踏み止まり前に進む者」が好きで、そういう姿が観たくて映画だったりアニメ特撮を追い続けているんだと思います。
下半期でもそうした勇気ある者達の姿が沢山観られる事に期待します。
(勿論そういう作品ばかりでなく、日時の些細な物語だったりくだらないコメディにも)

 あ、あと。
良かったと思う作品は毎回なるべく全部言及する事にしているのですが、今回『リズと青い鳥』だけやめました。
いまだに自分の中で消化しきれていないので…
全体を通して非常に丁寧な作りだったんですけど、その良さをどう言葉にしたらいいのか。
もしかしたら下半期に書くかも知れません。

bekkanko at 23:00│Comments(0) 映画・DVD 

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
プロフィール

山田

イベント行ったり
おもちゃ弄ったり
ついったー
うたスキ
fg

コメント