<あれも聴きたい、これも聴きたい>

ラド・ルプー 没

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◆偉大な芸術家が亡くなっていくのは寂しい。まして多くの恩恵を与えてくれた芸術家ともなればなおさら。私もそれなりの年齢に達しているので、最近では同じ時代を生きた、私にとって貴重な芸術家の死去がどんどん加速しているように感じる。

◆今年4月、ルーマニアのピアニスト、ラド・ルプー(本当はルプと発音するのが正しいようだが)がスイスのローザンヌの自宅で死去した。ルプーは1945年生まれなので、享年76歳ということになる。

◆亡くなった私の盟友、ギタリストの酒井康雄君は、若いころからピアニストではこのラド・ルプーが一番好きだと私に語っていた。当時私はそれほどには感じなかったのだが、年を追うごとに忘れ難いピアニストになっていった。今では、特にシューマン(左のCD)においてはミケランジェリと双璧をなしているのではないかとさえ感じるようになった。その音楽にはまったく尖ったところがなく、どこまでもしみじみとした歌と心がある。若いときはずいぶんバリバリ弾きまくったこともあったようだが、年齢を重ねるごとに芸術に奉仕するがごとく自己主張が後退し、その音楽表現は深くなっていった。

◆残念なことにあまり健康に恵まれていなかったため、来日の際、1回の公演を済ませただけで帰国せざるをえなくなったこともあったようだ。ルプーは亡くなったが、若い酒井康雄君がルプーを大好きだった気持ちは、今とてもよくわかるようになった。

カルロス・バルボサ・リマ 没



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◆先月の現代ギター誌に、カルロス・バルボサ・リマ(ブラジル生まれ)が亡くなった記事が載っていた。
随分以前からこのギタリストが大好きで、CDかLPを手に入れるべく八方手を尽くしているのだが、どこも売り切れ、ないしは販売停止(注文不可)になっており、現在所有しているものは、ベルタ・ロハスと共演した2枚目の写真のCDと3番目のLP1枚だけという始末。もちろん当世YOU TUBEで検索すればその多くのものが聴けるし、中には1番上のように動画で見られるものも沢山ある(但しこの動画の画質は劣悪)。

◆彼は一応クラシックギター奏者なのだが、なんといっても中南米ものやジャズなんかを弾かせたら、今これほど見事な演奏ができる奏者はいない。系統からいえばチャーリー・バードやローリンド・アルメイダに繋がるのだろうが、敢えて言わしてもらえば、バルボサ・リマはそういったギタリストよりはるかに上手い。
ご本人は、動画で見ると、ギターなどとても弾けそうもない手の形をしているのだが、信じられないくらいの技巧で軽々と弾く。(一度見てください)私もリマの編曲譜を見ながら一度挑戦してみたことがあるのだが、なかなか手に負えそうになかった。

◆その編曲も抜群で、LPではガーシュインとカルロス・ジョビンの作品をギター・ソロ用に編曲したものをリマ自らがソロ演奏している。(リズム楽器など一切なしのギターのみ)
いつかバルボサ・リマの演奏を全てまとめたCD集でも発売されそうな気もするので、それを楽しみに待つことにしよう。

荘+福×鈴+大

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◆昨日は兵庫県芸術文化センターにおいて、日本のトップギタリスト4人による二重奏のコンサートがあった。プログラムは少し見難いがパンフレットの通り。アンコールも含めてたっぷり2時間半の長丁場であった(内15分休憩あり)。

◆このコンサートのプログラミングが少し雑多でまとまりに欠けるものとなってしまったのは、趣旨から考えれば致し方ないだろう。しかし武満徹作品やサグレラス版「アルハンブラの想い出」のように聴きごたえのある演奏もあったのだが、全体を通して、およそこの4人の名手の演奏としては物足らないものになってしまった。なぜなら、私にはそのほとんどが「ギタリストが手慰みに合わせてみました」といった範疇を超えていないと思えたからだ。

◆常設のデュオではないので、「トコトン アンサンブルの可能性を追求した」というわけにはいかないとしても、なんとなく終始緊張感の足りない、緩いコンサートだったように思う。ファンとしては、1部最後のピアソラなどは、もう少し引き締まったスピード感を感じさせてほしかったし、その他の作品においても、アマチュアには見られない、トップ4人ならではの傑出した名人芸を期待していたのだが、そんなものは到底無理な願いだったのだろうか。

◆コンサートが異常に長かっただけに、ステージ上での過剰なトークや会話、奏者同士の譲り合いなど、延々と❝楽屋受け❞ばかり見せられているようで、あまり楽しいものではなかった。

◆奏者同士、ステージでの和気あいあいの雰囲気作りもいいが、度を越してしまうと、「自分たちには許される」といった、奢りのようなものを感じてしまう。ファンサービスも良いが、技術的、音楽的にもっと高いレベルを目指した、真剣勝負の演奏を聴かせてもらいたかった、というのが正直なところだ。

テレサ・ベルガンサ

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◆先月、5月の13日に、スペインの世界的なメゾ・ソプラノ、テレサ・ベルガンサが89歳で亡くなった。
テレサ・ベルガンサは、数多ある声楽家の中でも、フォン・オッターと並んで私が最も尊敬し大好きな歌い手だった。

◆ギターに古くから関わっておられる方の中には、イエペスのギターに乗せて歌われた、ファリャの「七つのスペイン民謡」を覚えておられる方も多いことだろう(上の写真)。
伴奏がピアノからギターへの編曲であるにも関わらず、この作品の芸術的価値において最右翼に位置するほどの名演であった。むしろベルガンサとイエペスのギターは、作品の内容から言えば、最もふさわしい組み合わせだったのではないだろうか。とにかくこのレコードでは、ベルガンサのみならず、イエペスのギターも秀逸で比類がなく、イエペスの残した録音の中でもピカイチの名演と言ってよい。

◆そして下の写真のLPには、「ヴィラ=ロボス」、「フランシスコ・ブラガ」、「カルロス・グァスタヴィーノ」らの歌曲が収められており、泣けるほどの名唱を聴くことができる。(ヴィラ=ロボスの第1曲目、Viora quebrada などは、まるで悲しく切ないロシア民謡のようで、冒頭から聴きほれてしまう。・・・・今あまりロシアとは言いにくいが)
そしてCDにはベルガンサの“おはこ”でもあったであろう、スペインのオペレッタ、さまざまな“サルスエラ”からの歌唱が収められており、そこにはギターに関係の深いトローバの作品も聴くことができる。
今日は一日、追悼の意味でも、ベルガンサの歌をじっくり聴いてみようと思っている。

ギターとヴァイオリン/オスカー・ギリア

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◆こんなLPレコードがあったことを長い間忘れていた。
先日取り上げたマルガ・ボイムル(ギター)のLPレコードと同じ、パガニーニのヴァイオリンとギターの作品ばかりを集めた2枚組のLP。ギターはオスカー・ギリアで、あの大ソナタもヴァイオリン伴奏を伴って演奏している。こちらのレコードもボイムルさん同様、50年以上前に発売されたもの。

◆収録作品
 ①ギターの為の大ソナタ(敢えて「ギターの為の」と謳っている)
 ②ギターとヴァイオリンの為のタランテラ イ短調
 ③ヴァイオリンとギターの為のソナタ集 作品3
  第1番~第6番
 ④ヴァイオリンとギターの為のソナタ集
  第1番~第6番

  ギター:オスカー・ギリア
  ヴァイオリン:レジス・パスキエ

◆いつも思うことだが、このころのレコードはほとんど録音データの記載がなく、日付、場所、そして使用楽器、録音機材、録音スタッフ名等、何もわからない。レコード(記録)としては誠に不親切極まりなく、レコード制作者達の認識不足が疑われる。
さらにオスカー・ギリアについては短いながらも解説が記載されているが、ヴァイオリンのパスキエさんについては一文字も掲載されていないのはどうしたことか!(このレコードも前回同様、東芝音楽工業㈱で、例の如く私の好きな赤い盤なのだが)

◆レコードの発売時期からみて、オスカー・ギリアは現役バリバリのころで、その時すでに来日は果たしていたはずだが、今日このLPレコードを聴き直してみると、昔気付かなかったことがいろいろ分ってきた。

◆ギタリストとしての実力は、先のマルガ・ボイムルさんの方が数段上手い。他の曲よりも難易度の高い大ソナタになると、ボイムルさんは鮮やかな技巧とキビキビしたアンサンブルを発揮しているのに対し、ギリアさんの方は満足に指がまわっていない。特に速い箇所になると指がもたつきリズムがあやしくなる。従って音楽に余裕が感じられず颯爽とした感じが乏しい。
またデュオとしての相方(ヴァイオリン)を気にもせず、ギリアさんは右親指の出す音とその他の指の出す音に、ギタリストによく見られる癖、時間差(妙なズレ)を連発。ヴァイオリンが入るタイミングにとまどっているところがそこかしこに見受けられる。
アンサンブルということに向いていないのか、あるいはあまり慣れていないだけなのか分からないが、いずれにしろ、相手のパスキエさんがなんとも合わせ難そうだ。

◆昔ギリアが淡々と弾くバッハには大いに魅力を感じたものだったが、このLPを聴き直すと、技巧的な不足とアンサンブルに対するセンスの無さに少しばかりがっかりした。
しかしこれもギターの歴史の一コマとしての貴重な記録。いつかまた聴きいてみたくなる日が来るかもしれない。

イタリアのギター・コンチェルト/ジークフリート・ベーレント

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◆ジークフリート・ベーレントはドイツ、ベルリンの生まれのギタリスト。1933年に生まれ、少し早すぎるが1990年に没している(56歳)。演奏は即物的と言われ、評価は人、国によって大きく異なっていた。たしかに一風変わった(?)ギタリストだったが、様々な音楽界に広く貢献したことは無視できない。

◆リリースしたLPレコードは(主に晩年はドイツ・グラモフォン)、ギター独奏はもとより、様々なギター協奏曲、ギター室内楽、ギターと歌(スペイン歌曲からフォルクローレ、シャンソン、ポピュラーまで)など数多いが、その他ドイツにおいてマンドリン合奏団を編成し育成しただけでなく、加えて作曲家、編曲家としても広く活躍をした。勿論マンドリン合奏を指揮したLPも出している。

◆そんなベーレント氏が1967年来日の折、私は名古屋の鶴舞公園にある名古屋市公会堂にて、日本フィルハーモニー(だったと思う)をバックにアランフェス協奏曲を演奏したのを聴いたことがある。

◆写真のLPは「イタリアのギター・コンチェルト」というタイトルで、今から15・6年前、梅田のレコード店で見付けた輸入の廉価盤。

①ヴィヴァルディのリュート協奏曲を2曲(RV82ハ長調、RV93
 ニ長調)
②カルリの1楽章の協奏曲 イ長調
③ジュリアーニのギター協奏曲 イ長調 OP.30
 
 の以上4曲が収められている。

◆若い頃はベーレントの演奏はあまり好きではなく、これまでに購入したレコードやCDも非常に少ない。ざっと数えてもLPが4・5枚、CDでも6・7枚ではなかっただろうか。

◆今日改めてこの写真にある「イタリアのギター・コンチェルト」を聴いてみたが、昔抱いていた印象とかなり違っていたのは意外であった。ヴィヴァルディの作品はあの有名なニ長調において、第1楽章のテンポ設定が少し速過ぎることを除き、あとは非常に堅実、丁寧に弾かれており、私の知る限り、ギターで弾かれるヴィヴァルディのコンチェルトの中では最も良いもののひとつではなかろうか。

◆またカルリのコンチェルトでもその印象は変わらない。古典の雰囲気をよく醸し出していながらも、芸術的な価値が高いとは言い難い作品だけに、今後この作品をCD化してくれるギタリストがあまり出て来るとは思えない。よくぞベーレントさんがこれだけしっかりした演奏を残しておいてくれたものだ。

◆最後のジュリアーニのギター・コンチェルトについては、昔はこの作品の第1楽章を短縮版で演奏しているギタリストが多かったと思うが、ベーレントは、当時としては珍しくほとんどオリジナルに添った版を鮮やかに演奏している。
しかし、オリジナル版の第1楽章はしまりのない回りくどい部分が多く、私としては作曲家ジュリアーニのやり過ぎ感を感じてしまうし、他の2つの楽章に対して第1楽章だけが無駄に長くなり、どうしてもバランス感に欠ける。ベーレントの演奏は素晴らしいのだが、版としてはオリジナルよりも短縮版の方がすっきりとまとまっていて私の好みではある。

◆たしかに即物的といえばいえなくもない演奏が多いベーレントだが、この「イタリアのギター・コンチェルト」というLPレコードにおいては、とても良い演奏を残しておいてくれたと思っている。また弦楽のバックをつとめた「イ・ムジチ合奏団」も、このレコードの価値を高めることに大きく貢献しているように思う。

◆今後は、昔買いそびれたベーレントのLPやCDを探して、中古レコード店めぐりをしてみるのもいいかもしれない。

◆ちなみにベーレントの使用しているギターはワイスガーバー(ワイスガーベル)といい、サウンドホールが円ではなく弦に対して垂直方向に楕円形をしており、一種独特。まるでクリスタルガラスをたたいた時のような音がして、とても興味深い楽器だ。今でもあんな音のする楽器が手に入るのなら使ってみたい気がする。

ギター&ヴァイオリン/パガニーニ

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◆私がまだ高校生のころ(もちろん今から50年以上前になる)、偶然地元のレコード店で見付けたもので、パガニーニのヴァイオリンとギターのデュオが3曲収められている。
*東芝音楽工業(エンジェル)製のPレコードだが、当時東芝音楽工業から発売になるLPは全て透明な赤色で、見た目も美しかったが、他社のレコードに比較して静電気の発生が少ないため、スクラッチノイズがなく、私は大好きだった。このLPも含め私が持っている当時の東芝の赤いLPは、いまだにノイズもなく、新品当時の音を保ってくれている。

◆当時はギターにヴァイオリンと二重奏のできる曲があることを知らず、一般的なクラシック音楽で聴かれる様々な楽器に比べ、ギターという楽器にどこか引け目を感じ始めていたころだったので、このレコードを見つけたときには、何かギターの格のようなものが一段上がったように感じたものだった。

◆しかもこのLPレコードのB面には有名な大ソナタが収録されており、解説にはちゃんと「ヴァイオリン伴奏」とある。私は「そうか、ギターはあのヴァイオリンを伴奏にまわし、いっぱしの作品として成立する立派な楽器なんだ」と一人で満足感を味わっていた。
*この大ソナタは、今ではギター独奏として演奏されることの方が多いので、むしろこのLPも今では貴重な存在といえるかも知れない。

◆しかし実際に聴いてみると、ヴァイオリン伴奏とはいっても、あまりにもヴァイオリンの存在が貧弱で(ほとんどギターに合いの手を入れる程度)、少し様子が違うように感じたが、それでもヴァイオリンと二重奏のLPレコードとの出会いは、当時の私を満足させるに十分な効果があった。

◆収録曲

 A面①ギターとヴァイオリンのための協奏風ソナタ
   ②ヴァイオリンとギターの為のソナタ(遺作)
 B面③ギターのための大ソナタ(ヴァイオリン伴奏つき)

 全てニコロ・パガニーニ作曲
 演奏:グラーツ室内二重奏団(1954年結成)
    ギター マルガ・ボイムル(ケルン生まれ 後にグラーツへ)
    ヴァイオリン ワルター・クラジンツ

*CD登場以降の世代の方々には、上にあるA面、B面の意味を理解いただけるかどうか、甚だ心配ではある。


◆今改めて聴いてみると、ギター、ヴァイオリンともにかなりの腕前であることに驚いた。
A面の2曲については、私の考えるよりも少し早めのテンポではあるが、やり過ぎてはおらず許容範囲内。ヴァイオリンは勿論、ギターのボイムルさん(女性)のテクニックは素晴らしく切れのよいもので、音楽的にも正統派をいくもの。
*特に私は、後にマンドリンの名手、榊原喜三さん(全日本マンドリンコンクール優勝者)と長くデュオを組むことになったのだが、A面の①はその時の二人の良い手本となってくれた曲だ。

◆ただこのLPに収められたものも含め、パガニーニの、特にギターとのデュオ、あるいはギターを含む室内楽などに期待できるものは、あくまでも「愉しみ」「雰囲気づくり」「娯楽」「ちょっとした合奏の練習」などといったものであって、絶妙な和声やテンポの変化、意味深い転調の妙味、高い芸術性といったものからはほど遠い。
当然、ヴァイオリン・ソナタとは言え、その芸術的価値としては、モーツァルト、ベートーベン、そしてブラームスやフランクといった人たちが書き残した一流の作品には遠く及ばないのは仕方ない。ただ近くに気易い相手がいれば、ちょっとした気分転換にはもってこいの楽しい作品ばかりだ。

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