◆現在活躍中のピアニストの中で、とりわけ私が好きなピアニストの一人がマウリツィオ・ポリーニ(イタリア、1942~)。
◆ポリーニといえば、まず最初に挙げなければならないのはショパンだろう。
ポリーニはショパンコンクールに優勝(1960年)した後、しばらくの間音楽界から遠ざかっていたが、その後日本において最初に発売されたショパンの24の練習曲は世界中にセンセーションを巻き起こした。私もすぐにLPを手に入れたが、第1番の冒頭、物凄い音の洪水に度肝を抜かれた。音がスピーカーから溢れ出し、思わずアンプのボリュームを絞ったほどだった。そして24曲の全てに渡り、非の打ちどころがないかのような完璧な技術、音楽性に恐れ入った。そして「こんなすごいピアニストはこれまで聴いたことがない!」と思った。
◆その後に出た、同じくショパンの24の前奏曲も練習曲同様、最初から最後まで完璧な技術と音楽性で、何度聴いても飽きることのない超名演であった。今でもこの演奏を超えるものを見つけるのは不可能だろう。
◆その後ポリーニは、ベートーベン、シューベルト、シューマン、リスト、ブラームス、ストラヴィンスキー、ドヴュッシー、バルトークそしてバッハ(平均律のみ)と多岐に渡る録音を行い、しかもそのすべてが超一流で、これは・・・?というものがひとつもない。今やアルゲリッチと共に巨匠中の巨匠といっても過言ではないだろう。
◆しかし私には、そんなポリーニに一つだけ不満がある。それはモーツァルトのピアノ協奏曲が写真の19番と23番を収めた1枚(34歳の時の録音、オケはウィーンフィル、指揮はベーム)以外には、その後発売された17番&21番の1枚(2005年、63歳の時の録音)と12番&24番を収めた1枚(2007年、65歳の時の録音)の合計3枚しかないことだ。また得意なショパンも、コンチェルトに関しては、ショパン・コンクールで優勝した当時の古い録音しかないことも納得しがたい。
◆ポリーニには、アシュケナージなどと違って、なんでもかんでも「全曲録音」しようという気は毛頭ないようだ(ベートーベンのピアノ・ソナタと前述したショパンの練習曲や前奏曲、ポロネーズ、バラード、スケルツォなどに限っては全て録音しているが)。とにかく彼の選択の基準がどこにあるのかは知る由もないが、ポリーニは自分が特に気に入っている、あるいは興味がある、はたまた芸術性が高く、納得できる作品しか録音する気はないかのかも知れない。
*ミケランジェリなどは、ラフマニノフのピアノコ協奏曲の4番という、あまり、というか殆ど知られていない、といって良いような作品を録音しているが、超有名な2番と3番は録音していない。そのことを問われると、「2番3番には多くの名演がある。私が弾くまでもない」と答えた、という逸話が残っている。
◆とにかくポリーニについては、超名演を残しているモーツァルトのピアノ・コンチェルトの録音が3枚(6曲)しかなく、ソナタにいたっては、私の知る限り1枚もないとは、なんとももったいない話ではないか。勿論ハイドンのソナタ、協奏曲もやはり知る限りでは1枚も出していない。
◆今私のところにあるモーツァルトのピアノ・コンチェルトといえば、前述のウラジーミル・アシュケーナジ(全曲)、ダニエル・バレンボイム(全曲)、マレイ・ペライヤ(全曲)、それ以外はマルタ・アルゲリッチ(3枚ほど)、アリシア・デ・ラローチャ(同じく)、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(やはり3枚ほど)、マリア・ジョアン・ピリス(5・6枚?)くらいのもので、ポリーニさんには全曲とはいわない、ぜひもう3・4枚出してほしいところだ。彼の弾くモーツァルトのコンチェルトは他に比べても格段に素晴らしい上に、彼も既に81歳になるのだから。