音楽

ペペ・ロメロ/ボッケリーニ

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◆近頃、朝晩は急にひんやりしてきて、それまでと比べると、日中もはるかに過ごしやすくなってきた。エアコンもほとんどつけなくなり、いよいよ音楽の秋、読書の秋になってきた。
こうなってくると、ついこの間までは聴く気もしなかった種類のレコードやCDも聴いてみようという気が起きてくるというものだ。

◆というわけで、ボッケリーニのギター五重奏曲、全8曲(*)。今日は購入した時に2・3度かけた覚えがあるだけの、ペペ・ロメロのギターによるものを聴いてみようと思った。弦楽四重奏はイギリスのアカデミー室内管弦楽団からの選抜メンバー4名。
 *本来は全部で12曲あったのだが、内4曲は紛失。
    *写真のLPは4番、5番4,6番の3曲を収めたもので、LPではこれしか持ってい
  ない。右は後に出された2枚組の廉価版CDで、8曲全て収められている。

◆棚には、この作品の全曲を入れているものは、今回のもののほか3種類ほどあるが、技術的にも音楽的にもこのペペ・ロメロ+アカデミーのものがピカイチだろう。勿論中には1曲、あるいは2曲だけ入れた、アリリオ・ディアス、ジュリアン・ブリーム、ジョン・ウィリアムス、ナルシソ・イエペス、ホセ・ミゲル・モレーノのものなど何種類かあり、それらもみな優れた演奏だが、全8曲を入れたものとなると、それほど多くないし、また全て名演か、ということになると、やはりこのペペ・ロメロの演奏が良くできているように思う。

◆ペペ・ロメロは、ギターを始めた当初、フラメンコを主体にやっていたからだろう、クラシックギターの巨匠と呼ばれるようになった現在でも、どうしてもその癖が出てしまう(というよりも、それが彼のスタイルとなっている)。クラシックの作品なのに、ところどころフラメンコ調が顔をだす。このボッケリーニの前に出した、ジュリアーニのギター協奏曲などは、当然ギターが終始活躍するが、特に速いスケール(音階)の部分などはフラメンコ調が出まくりで、折角の古典の名曲が、ずっと聴いていると段々軽薄な作品に聞こえてきてしまう。

◆ただ今回のボッケリーニは、古典の曲なんだけれども、ボッケリーニがスペインにおいて庇護を受けていたある貴族の依頼に基づいて作曲(といっても別に作曲してあった弦楽作品の改作であるが)したものなので、多少フラメンコっぽいフレーズがあった方が、そのギター大好き貴族(侯爵)も喜んだかもしれないと考えれば、そんなフレーズがあってもいいのかもしれない。

◆ペペ・ロメロの演奏は、そのギターから出てくる音すべてが羽のように軽く、躍動的で胸のすくような爽快感がある。クラシックギター奏者としては物足らない気がしないでもないが、私の好みとしては嫌いではなく、むしろ好きなタイプのギタリスト。

ガブリエラ・モンテーロ

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◆ごく最近、ガブリエロ・モンテーロというベネズエラ出身のピアニストの存在を知った。
今はまだ彼女の素性も経歴も何も知らないが、あのアルゲリッチ(アルゼンチン出身)がその才能を認め、数々のコンサートで共演し、嘘か誠か、「私の後継者」と言っているという話も伝わってくる。

◆とにかく彼女の才能はすさまじく、即興演奏が得意で、当然作曲もこなす。
もうすでに彼女の単独演奏によるCDも数枚出ているようだし、それに加えて、アルゲリッチとの共演のCD(ライブ録音)も何枚もあるようなので、とにかく今手に入るものをまずは一枚と思い、写真のCDを購入してみた。

◆このCDには、なんと彼女が作曲した、演奏に30分近くかかる堂々たるピアノ協奏曲とラヴェルのピアノ協奏曲が収録されており、彼女のピアノの腕前と作曲の才能が一度に味わえる。

◆CDが届いてから既に3・4回ほど聴いてみたが、確かに噂に違わぬ素晴らしい才能をいかんなく発揮している。とにかくスケールが大きく、幅広い才能をうかがい知ることができる。

◆ちょっと前衛的で難解な曲だったらつまらないなと思って聴き始めた、彼女自身の作曲による、ピアノ協奏曲「ラテン」と言う曲もなかなかいかした作品で、とにかくカッコいい。ちょっと見当はずれかも知れないが、なんとなくガーシュイン作曲「ラプソディ・イン・ブルー」の現代南米版といった趣があって、芸術性はともかく、なかなか楽しく聴ける。

◆ラヴェルのピアノ協奏曲などは、アルゲリッチも録音しているが、一聴した限りでは、私は今回のガブリエラさんの方が好みの様な気がした。新しい才能に出会った時は本当に嬉しいものだ。

ある演奏家の方へ


敢えて誰とは言いません。


◆音楽を適当に崩して弾いてみせても、それが芸術を表現してることにはなりません。

◆自分が今表現できること以上のことをしない方がいい。
 敢えて他人と違うことをやろうとする必要はないのです。

◆そして、自分の個性を ‟探す” のはやめた方がいい。
 私たちは、嘘偽りのない、今の貴方を聴きたいのです。




ホアキン・アチューカロ

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◆ホアキン・アチューカロという、ちょっと珍しいかもしれない、スペイン出身のピアニストのCD(写真右)が手に入った。
*このアチューカロさん、2年ほど前だったか来日され、その時の演奏がNHKの朝の「クラシック倶楽部」で2回ほど放送されましたね。

◆このアチューカロさん、欧米ではなかなか有名なのだが、なにしろレコード・CDの類が極端に少なく、これまで私がもっているものとしても、唯一写真にある、ファリャのピアノ作品ばかり収めたLP盤のみ。

◆例のごとく日本盤の悪いところで、録音日時も録音場所も何の記載もないが、私が手に入れたのは40年近く前。アチューカロさんは今年92歳とかなりの高齢になるのだが、このレコードは40歳前後の録音らしい。

◆今回手に入った新録音のCDは、ショパンの24の前奏曲全曲が収録されている。2017年9月録音との記載があるので、当時アチューカロさんは85歳。そしてこのLPとCDの間には、ほぼ45年という長い年月の隔たりがあるわけだ。

LPの収録曲は
➊奇想曲風ワルツ
➋夜想曲
❸四つのスペイン風小品
 アラゴネーサ(アラゴン風)
 クバーナ(キューバ風)
 モンタニェーサ(ラ・モンターニャ風)
 アンダルーサ(アンダルシア風)
❹アンダルシア幻想曲
❺デュカスの墓に捧げる讃歌
❻セレナータ・アンダルーサ

◆40歳ころの録音とあって元気溌剌。しかもスペインものといったら、当時甘ったるいべたべたした演奏が多かったギターのそれと違い、適度にインターナショナルなスタイル。私のところにあるその他何枚かのファリャのピアノ作品の演奏に比べると、断トツに素晴らしく、比較する気も起きないほど。私はファリャのピアノ作品の真価を、この若いアチューカロの演奏で知ることができたと思っている。

◆そこで今回手に入ったアチューカロさんの弾くショパンの24の前奏曲だが、解説書には、「確かに私は≪前奏曲集≫を録音するまでに随分と長い年月を必要としました。しかしそれは、この曲集を完全に‟自分のものにした”という実感を求めていたからです。いうなれば≪前奏曲集≫が自分の潜在意識に沁み込むまで、待ち続けたのです。それは、誰かと友情を育むことと、どこか似ているかも知れません。いずれにせよ、録音スタジオの扉を開ける準備が整ったのです。レコーディングは、実に幸せな体験でした!」・・・とアチューカロさんの味わい深い言葉が見られる。

◆最初は、「あぁ、やっぱりお年寄りの演奏らしいなぁ」と言うのが第一印象。しかし、なにかひっかかるところがあり、もう一回、もう一回と、連日聴き続け、結果20回近くも聴き返してみることになった。すると、先ほどのアチューカロさんの言葉が、じわりと迫ってきた。
それまで私にとって、ショパンの前奏曲の理想形としては、ポリーニの、これも若い頃の演奏だったのだが、それに加えて今回のアチューカロさんの、温かい、年輪を重ねた演奏も加わることになった。

マウリツィオ・ポリーニ

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◆マウリツィオ・ポリーニが亡くなった。82歳。
1942年生まれというから、私たちに馴染みのある、ギターのジョン・ウィリアムスが生まれた翌年に生まれている。イタリア出身で、ピアニストとしては稀に見る超天才といって良いように思う。

◆私はつい最近、ここにポリーニの弾くモーツァルトのピアノ・コンチェルトのことを書いたばかりだったが、まさかそれからほどなくして亡くなってしまうとは。

◆私はポリーニがショパン・コンクールに圧倒的な実力で優勝したあと、しばらくの空白期間(約8年間)をおいて再デビュー、そしてドイツ・グラモフォンからLPを出した時からの長いファンで、現役のピアニストの中ではもっとも好きな演奏家だった。因みにグラモフォンから発売の第一弾はショパンの24の練習曲だったが、これがまたこの曲の最上級の演奏で、私も冒頭から衝撃を受けた演奏だった。

◆中でも3曲目、通称「別れの曲」は、どなたかは忘れてしまったが、昔「あらゆる音楽の中で、最も美しい旋律」と言われた言葉が心に沁みる最高の演奏だった。勿論全24曲、すべてに渡って非の打ち所のない超名演ばかり。従ってこの時のLPレコードは何回聴いたかわからないほどよく聴いていた。おそらく私が持っているLP、CDの中では、その次にリリースされた同じくショパンの24の前奏曲と共に、もっとも繰り返し沢山聴いているのではないかと思う。

◆そんなポリーニだが、先にも書いた通り、モーツァルトに関しての録音は決して多くない。多くないどころかまったく少ない。まず有名なピアノ・ソナタは1曲もない。ピアノ協奏曲に関しても、先に挙げたカール・ベーム指揮(管弦楽はウィーン・フィル)によるLPで、
第23番 イ長調 K.488
第19番 ヘ長調 K.459
が最初であったが、

その他は写真にある2枚で、それぞれ(いずれもウィーンフィルを弾き振りしている)
第12番 イ長調 K.414
第24番 ハ短調 K.491
の1枚と
第17番 ト長調 K.453
第21番 ハ長調 K.467
の1枚、合計3枚がある限りで
その他モーツァルトに関しての録音はまったくないのである。

◆私は最初に発売された23番と19番の1枚(LP)があまりにも素晴らしい演奏だったので、2005年と2006年に録音されたあとの2枚も手に入れたのだが、いずれ劣らぬ、私にとっては非の打ち所がない名演奏だと思っている。当然このシリーズは続き、少なくとも名曲と呼ばれる、芸術的価値の高い作品だけは録音してくれるものと思っていた。

◆ベートーベンの協奏曲についてポリーニは、当初ベームと協演して始まったシリーズが3番、4番、5番と録音を終えた後、ベームの死去によって中断を余儀なくされ、そのあと1番と2番をオイゲン・ヨッフムが引き継ぎ全曲完成させたのだが、それでも再度アバドの指揮で全曲を録音し直している。そこにはベートーベンの音楽に対するポリーニの執念のようなものが感じられる。

◆それにしてもポリーニのモーツァルトは素晴らしい。ポリーニは人生の最後にモーツァルトを残し、コンチェルトを1曲1曲、丁寧に残していくつもりだったのではなかったか、と私は思っている。しかし、残された命は、彼が思っていたほどは長くなかったようだ。

◆実をいうと、写真の右にあるCDを手に入れた時(ジャケットに写っている彼の写真は割と最近のもののように思う)、そこに写っている彼の写真を見た瞬間私はドキッとした。なぜならそこにあるポリーニの顔はそれまで私が知っていた顔と全く異なり(左のCDに写って写真とも違い)、なにか死神が乗り移ったような不気味な顔に見えてしまったからだ。
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