シャングリラ(中編)
11. 失われた時は返らず
116. 安アパート
116. 安アパート
(次の日から、メイは、アパートの管理人コウレンに雇われて、使用人としてただ働きすることになる。メイは朝6時に起床すると、コウレンから借りたエプロンを着けて、アパートの住人たちの朝食の準備をする。)
コウレン 「ローズ。あんた、使用人の経験はどのくらいあるんだい?」
メイ 「1年くらいです。」
コウレン 「前はどこで働いていたんだい?」
メイ 「あ、あの。その、他所のお屋敷のことは、お話してはいけないことになっています。プライバシーって言うんでしょうか…。」
コウレン 「プライバシーって、何だい?」
メイ 「いえ、よく知らないんですけど。」
コウレン 「なんで、辞めたんだい?いけ好かないご主人だったのかい?」
メイ 「いいえ。そんなことはありません。とても、親切な人です。」
コウレン 「スリに遭ったのは、気の毒だけど、お金は、働けば、また貯まる。このあたりじゃ、毎日のように、若い女が暴行された挙句、虫けらのように殺される事件が後を絶たないんだ。命まで取られなくてよかったよ。」
メイ 「そうなんですか…。」
コウレン 「ああ、華世蘭の中でも、ここいらの治安は最悪だからね。あんたも、外に出るときは、気をつけなよ。」
メイ 「はい。気をつけます。」
―暗転―
(7時になると、住人の踊り子たちが起きて食堂にやってくる。)
ケイト 「あら、あんた誰?新人?」
コウレン 「あ、紹介するよ。今日から、ここで働いてもらうことになったローズだ。」
ケイト 「このアパートで?ちゃんとお給金支払ってあげるんでしょうね。」
コウレン 「あたりまえじゃないか。まあ、いろいろと差し引くと、殆どは残らないだろうけどね。」
ケイト 「そういうのを、ただ働きって言うんじゃないの?」
コウレン 「ケイト、お黙り。人聞きの悪いこと言うもんじゃないよ。」
ケイト 「そういえば、前の娘は?」
コウレン 「辞めてもらったよ。」
ケイト 「女将さんは鬼だね。」
ローラ 「前の娘って?」
ケイト 「いたじゃない。確かに存在感薄かったけど。」
ローラ 「ああ、あの娘…。いつも陰湿な顔していた…。」
ケイト 「そうそう。」
(シュガー、リリアン、スザンナが食堂にやってくる。)
シュガー 「おはよ~。」
メイ 「お早うございます。」
シュガー 「ローズ。あなた、本気なの?」
コウレン 「シルヴィ、本気って、どういう意味だい?」
シュガー 「何もよりによって、こんな、おんぼろアパートで働からなくても…。」
コウレン 「おんぼろアパートで悪かったわね。」
シュガー 「だから、本気なのかって聞いているのよ。」
メイ 「もちろん、本気です。」
シュガー 「里帰りして、お母さんに会うんじゃなかったの?こんなところで油売っていたら、年を越しちゃうわよ。」
コウレン 「ローズ。食事の片付けが終わったら、アパートの外を掃除してもらうからね。」(食堂を出て行く)
メイ 「はい。」
ケイト 「まったく、見栄っ張りね。」
メイ 「どこのお屋敷でも同じです。」
ケイト 「え?何処のお屋敷も同じって、前のお屋敷でも、外掃除を?」
メイ 「はい、作り笑顔のしすぎで、頬が筋肉痛になります。」
ケイト 「あはは。どこのお屋敷も見栄っ張りばかりね。」
(メイは、外に出ていく。)
リリアン 「ケイト。見栄っ張りって、どういうこと?」
ケイト 「だから、メイドを雇っているってことを、近所に自慢するのよ。」
リリアン 「それで、外の掃除を?」
ケイト 「そうよ。前の娘なんか、愛想が無かったでしょ、だから、いつも女将さんに怒られていたわ。」
リリアン 「それで、辞めさせられたわけね。可哀想に…。」
コウレン 「リリアン。誰が可哀想だって?」
リリアン 「いいえ、何でもないわ。」(ため息)
―暗転―
(メイは、アパートの外に出る。外は木枯らしが吹き荒れている。)
メイ 「さ、寒い…。」
(メイは、身を縮こませて、掃き掃除を始める。人が通るたびに愛想笑いで挨拶をしている。)
隣家のメイド 「ちょっと、あんた。こっちにゴミを掃かないで下さらない?」
メイ 「あ、すみません。」
隣家のメイド 「あなた、初めてね。いつもの使用人はどうしたの?」
メイ 「あ、今日からここで働かせてもらっています。」
隣家のメイド 「あんたも売春婦?」
メイ 「いいえ、違います。」
隣家のメイド 「どうだか…。とにかく、ここから、こっちには、近寄らないでちょうだい。あなたと同類だと思われたくないから。」
(隣家のメイドは、そそくさと、門の中に入り、門戸を音を立てて閉める。メイは、不服そうな顔をしながらも、人が通ると、作り笑いをして挨拶をしている。)
―暗転―
(メイは、外掃除が終わると、アパートの廊下、階段など、共有場所の掃き掃除、拭き掃除を行い、各部屋の掃除も行う。)
―暗転―
(アパートの掃除が終わると、コウレンとシーナのランチを用意する。ランチは、コウレンの好意で、メイも一緒に食事をする。)
―暗転―
(ランチの片付けが終わると、下宿人たちの衣類の洗濯を行う。)
―暗転―
(洗濯が終わった後、コウレンは外に出かける。メイは、その間、シーナの子守を行う。)
―暗転―
(メイは、シーナを連れて、近所の市場に買い出しに出かける。)
―暗転―
(買い出しから戻ると、夕食の準備に取り掛かる。途中からコウレンが戻ってきて、夕食の支度を手伝う。)
―暗転―
(夕食の準備が終わった頃、昼間の仕事を終えた下宿人たちが帰ってくる。)
ケイト 「ただいまぁ。腹減ったぁ…。」
(ケイトが、食堂に入ってくる。)
メイ 「おかえりなさいませ。」
コウレン 「ケイト、おかえり。」
ケイト (テーブルの料理を見て)「うはぁ…。なに、これ。これ、ローズが作ったの?」
メイ 「いえ、わたしは、女将さんのお手伝いを…。」
コウレン 「ローズ。気を使わなくていいよ。ほとんど、ローズが作ってくれたんだよ。わたしは、殆ど、見ていただけ。」
ケイト 「めっちゃ、うまそう。」
(他の下宿人たちも、ぞろぞろと食堂に入ってくる。)
ローラ 「どうしたの?今日、誰かの誕生日?」
ケイト 「違うわよ。今日から、ローズが料理を作ったのよ。」
ローラ 「へえ、あんた、料理まで出来るの?」
メイ 「はい…。でも、美味しいかどうかは保証出来ません。」
リリアン 「美味しいに決まっているわよ。だって、こんなにいい匂いだもん。」
スザンナ 「早く、食べたい…。」
コウレン 「あんたたち、手を洗ったのかい?」
(全員、手を洗いに行く。)
コウレン 「しょうがない娘たちだねぇ。いつまでたっても子供なんだから。」
(手を洗った全員が戻ってくる。全員、一斉に食べ始める。)
ケイト 「旨い。ローズ、マジ、これ旨いよ…。」
ローラ 「ほんと、美味しい。」
(他のみんなも黙々と食べている。)
メイ 「女将さんの分は、お部屋に運びましょうか?」
コウレン 「ああ、そうしておくれ。」
ケイト 「ローズ。お代わりある?」
メイ 「はい。少しならあります。」
(メイは、ケイトの食器を受け取って、料理を追加する。)
ローラ 「わたしも。」
メイ 「ローラさん、ごめんなさい。シュガーさんの分がなくなってしまいます。」
ケイト 「ローラ、残念ね。」
ローラ 「ケイト、わたしにも分けて。」
ケイト 「残念でした。もう食べちゃった。」
ローラ 「ケイトの意地悪。食べ物の恨みは怖いんだからね。」
リリアン 「ローズ。でも、シュガーが食べちゃったら、あなたの分は?」
メイ 「わたしは、いいんです。」
リリアン 「どうして?あなたも食べなきゃ。」
メイ 「わたしは、別のものがありますから。」
ケイト 「別のものって?」
メイ 「残った食材を使って、何か作ります。」
ローラ 「残った食材?」
メイ 「はい。野菜の皮とか、根っことか…。」
ケイト 「そんなもの食べられるの?」
メイ 「はい。わたしは、何でも食べます。」
(そこに、慌てて、シュガーが帰ってくる。)
メイ 「シュガーさん。おかえりなさい。」
シュガー 「メイ。ただいま。」
ケイト 「シュガー、遅いじゃない。もう、何も残ってないわよ。」
シュガー 「ええっ。ちょっと、少しくらい残しておいてよ。」
ケイト (笑いながら)「うそよ。ローズが、あなたのを残しておかないわけ無いでしょ。」
シュガー 「よかった。ローズ、ありがとう。」
(メイは、シュガーの皿に、料理をよそう。)
シュガー 「美味しいそうじゃない。あなたが作ったの?」
メイ 「はい。」
ケイト 「旨いわよ。びっくりするわよ。」
(シュガーは、料理を食べる。)
メイ (不安そうに)「シュガーさん、どうですか?」
シュガー 「う~ん、満点ね。」
メイ (嬉しそうに)「よかった-。」
ケイト 「あらあら、仲がよろしいこと。じゃあ、お邪魔虫は消えましょうか。」
メイ 「あ、ケイトさん。そんなこと仰らずに、食後のお茶でも如何ですか?」
ケイト 「いいから、いいから。」
(みんな、ぞろぞろと食堂から出ていく。)
メイ 「みなさん、何か誤解しています。」
シュガー 「ほっときなさいよ。」
メイ」 「でも…。」
シュガー 「わたしには、お茶をちょうだい。」
メイ 「はい。」
―暗転―
(全員、夜の仕事に出かける準備をしている。共用洗面所で、顔を洗い、口を濯いでいる。部屋では、メイクをして、髪を解いて、華やかな衣装に着替えをしている。)
―暗転―
(メイは、コウレンに食膳を運ぶと、ひとり厨房で賄い食を作る。賄い食が出来上がったころ、リリアンが厨房を覗きにやってくる。)
リリアン 「ローズ?」
メイ 「あ、リリアンさん。今からお出かけですか?行ってらっしゃいませ。」
リリアン 「それが、あなたの夕食?」
メイ 「はい。」
リリアン 「美味しそうね。本当に、それ、野菜の皮とかで作ったの?」
メイ 「はい。」
リリアン 「ちょっと、味見してもいい?」
メイ 「はい、どうぞ。」
(リリアンは、指で摘んで、味見をする。)
リリアン 「美味しい…。」
メイ 「でしょ?」
リリアン 「さっきの料理も美味しかったけど、これは、それを超えた美味しさよ。」
メイ 「エヘッ。それが、料理係の特権です。」
リリアン 「こんど、わたしにも、作って欲しいな。」
メイ 「はい。でも、みなさんには内緒ですよ。」
リリアン 「ええ。誰にも言わないわ。ローズだけ、美味しい料理を食べているなんて…。」
メイ 「いやだ。リリアンさんの意地悪。」
(玄関からリリアンを呼ぶ声が聞こえてくる。)
ケイト 「リリアン、何しているの?置いてくよ。」
リリアン 「ちょっと、まってぇ…。じゃあ、行ってきます。」
メイ 「行ってらっしゃいませ。」
―暗転―
(全員が夜の仕事場に出ると、メイは、夕食を済ませて、後片付けをする。)
コウレン 「ローズ。」
メイ 「はい、女将さん。ただいま。」
(メイは、コウレンの部屋を訪ねる。)
コウレン 「ローズ、すまないが、身体を揉んではくれないかい。」
メイ 「はい、女将さん。」
(メイは、コウレンの身体をマッサージする。)
コウレン 「ローズ、ほんとうに、あんたが来てくれて大助かりだよ。」
メイ 「いいえ。わたしこそ、お仕事を頂いて感謝しています。」
コウレン 「そうかい。そう言ってくれると、わたしも嬉しいよ。タダ働きしてもらうって言ったけど、ちゃんとお給金は支払わせてもらうよ。」
メイ 「いいのですか?」
コウレン 「あたりまえじゃないか。あんたみたいな優秀な使用人をタダ働きさせたら、お天道様の罰が当たるよ。」
メイ 「ありがとうございます。母へのお土産も盗られてしまったので、何か買って帰りたくて。」
(メイは、コウレンの身体をマッサージしながら、今まで、母シュンランの身体を揉むことすらしなかったことを思い返す。)
メイ (「お母さんに会ったら、いちばんに身体を揉んであげよう…。喜んでくれるかなぁ…。早く、会いたいなぁ…。」)
コウレン 「泣いているのかい?」
メイ (涙を拭って)「いえ、すみません。」
コウレン 「いいんだよ。泣きたい時は、いつでも泣いて。」
(メイは、母シュンランのことを思いながら、コウレンの身体を揉んでいる。コウレンもまた、生き別れた娘シュンランのことを思い出している。)
―暗転―
(深夜。仕事を終えたシュガーを始め彼女たちがアパートに帰ってくる。メイは、急いで階段を駆け降りて、彼女らを出迎えに行く。)
メイ 「お姉さま方。お仕事お疲れ様です。」
シュガー 「ローズ。まだ起きていたの?先に寝ていればいいのに。」
メイ 「いえ、お姉さま方が、働いておられるのに、わたしだけが休むわけにはいきません。」
ケイト 「その、お姉さま方って、わたしたちのこと?」
メイ 「は、はい。」
ケイト 「ローズは、律儀ねえ…。」
メイ 「ローラさんが見えないようですが。」
ケイト 「彼女はステイよ。」
メイ 「ステイ?」
ケイト 「お泊りってこと。朝には戻ってくるから、心配しなくていいわ。」
(全員、それぞれの部屋に戻っていく。メイは、シュガーに着いて、部屋に戻ろうとする。)
リリアン 「ローズ。ちょっと、来て。」
メイ 「はい。」
(メイは、リリアンの部屋に入る。)
リリアン 「ローズ。これ何だか分かる?」
(リリアンは、綺麗な包み紙で包装された小箱を見せる。)
メイ 「何ですか?」
リリアン 「まあ、こっちに座って。」
(メイは、床に置かれた低いテーブルの前に、膝を着いて座る。)
リリアン (小箱の包み紙を破り捨てて小箱を開ける)「じゃ~ん!」
(小箱の中には、綺麗にデコレーションされたお菓子が入っている。)
メイ 「綺麗。何ですか、それ。」
リリアン 「お菓子よ。お客様から頂いたの。」
メイ 「お菓子?こんな綺麗なお菓子なんて、見たことないです。」
リリアン 「綺麗なだけじゃないのよ。すっごく美味しいんだから。ちょっと、まって、コーヒーを入れるから。」
メイ 「わたしにも、頂けるのですか?」
リリアン 「もちろんよ。あなたに見せびらせておいて、ひとりで食べるような、酷い女に見える?」
メイ 「でも、そんな高価なお菓子を分けて頂いていいのですか?」
リリアン 「あなたを一緒に食べようと思って、持って帰ってきたのよ。そうでなきゃ、お店の楽屋で、ひとりで食べて来るわ。」
(リリアンは、コーヒーを入れると、ケーキを半分にして小皿に取って、ひとつをメイに渡す。)
メイ 「食べてみて。」
(メイは、フォークでお菓子を小さく刻んで、口に運ぶ。)
リリアン 「どう?どう?どう?美味しい?」
メイ 「甘くて、とても美味しいです。」
リリアン 「そうでしょう。わたし、甘いもの大好きなの。」
メイ 「わたしも大好きです。こんな、美味しいお菓子は食べたことありません。」
リリアン 「本当?」
メイ 「はい。リリアンさん、これ、シュガーさんにも、あげてもいいですか?」
リリアン 「だめよ。」
メイ 「どうしてですか?」
リリアン 「シュガーは、そんなもの、毎日のように貰っているはずよ。あなたも、わけて貰っているでしょ。」
メイ 「いいえ。シュガーさんからは、何も、頂いたりしていません。」
リリアン 「じゃあ、あの人、自分で独り占めしているの?信じられない。」
メイ 「…。」
リリアン 「あ、ごめんなさい…。あなたに怒ったわけじゃないのよ。」
メイ 「はい。分かっています。」
リリアン 「全部、食べていいのよ。」
メイ 「一度に食べてしまうのがもったいないです。」
リリアン 「でも、明日になったら、固くなってしまうから、美味しい今食べてしまって。」
(ケイトがメイを呼ぶ。)
ケイト 「ローズ。いる?ちょっと、来て。」
メイ 「あ、ケイトさんが、わたしを呼んでいます。」
リリアン 「もう。放っとけばいいわよ。どうせ、大した用事じゃないわ。」
ケイト 「ローズ、聞こえないの?」
メイ 「は、はい。ただいま。」「ごめんなさい。行かなきゃ。」
リリアン 「じゃあ、これ、持って帰って、部屋で食べて。シュガーには内緒よ。」
(リリアンは、お菓子を小箱に入れるとメイに手渡す。)
メイ 「はい。ありがとうございます。頂きます。」
(メイは、リリアンの部屋を出ると、ケイトの部屋に行く。ケイトが床に寝そべっている。)
メイ 「お待たせいたしました。」
ケイト 「ローズ、遅いじゃない。何してたのよ。呼んだらすぐに返事しないよ。」
メイ 「ごめんなさい。」
ケイト 「それ、取ってくんない?」
メイ 「え?どれですか?」
ケイト 「そこに、灰皿があるでしょ?」
メイ 「はい、あります。」
ケイト 「ありがとう。」
メイ 「…。あの、ご用は、それだけでしょうか?」
ケイト 「ええ、それだけよ。」
メイ 「…。では、失礼します。」
―暗転―
メイ (ふくれっ面で)(「リリアンさんの言ったとおり、ほんとうに大した用事じゃなかったわ。灰皿くらい、自分で取りなさいよ(怒)」)
(また、あちこちの部屋から、メイを呼ぶ声がする。メイは、どの部屋から呼ばれているのか分からなくなって右往左往している。そこにコウレンが階段を上がってくる。)
メイ 「はい。あ、はい。ただいま。…。」
コウレン 「あんたたち、いい加減にしなさい!ローズは、あなたたちの小間使いじゃないのよ。」
(シーンとなる。)
コウレン 「ローズ。ごめんなさいね。」
メイ 「いえ。」
コウレン 「あの娘らから呼ばれても、今後は、相手にしなくていいからね。わたしが呼んだときだけ来てちょうだい。」
メイ 「は、はい。」
(コウレンは、引き上げていく。それを見計らうように、スザンナが、ドアの隙間から顔を出してメイを呼ぶ。)
スザンナ (小声で)「ローズ…。お願い、ちょっと来て。」
(メイが、スザンナの部屋に入ると、スザンナが泣きそうな顔をしている。)
メイ 「スザンナさん、どうなさったのですか?」
(スザンナは、手に持った服をメイに見せる。)
スザンナ 「これを見て。」
(見ると、袖のところに大きなシミがある。)
スザンナ 「これ、お気に入りだったのよ。どうしよう。」
メイ 「いつ、付いたのですか?」
スザンナ 「今日よ。お客様がこぼしたソースがかかってしまったの。何とかならない?」
メイ 「大丈夫です。ソースであれば、水で洗えば、大概のものは落ちます。」
スザンナ 「本当に?」
メイ 「何とか、やってみます。」
スザンナ (メイを抱きしめて)「ローズ、ありがとう。お礼はするわ。」
メイ 「これ、お借りしてもいいですか?」
スザンナ 「ええ、もちろんよ。しばらくは着ないから、ゆっくりでいいわ。」
メイ 「いえ、早くしないと、落ちなくなります。明日まで、待って下さい。」
スザンナ 「お願い。期待しているわ。」
(メイは、スザンナの服を借りて、部屋を出て行く。)
―暗転―
(メイは、洗濯場に行って、シミが付いた部分を水で根気強くつまみ洗いをするが、どうしても、シミが残ってしまう。)
メイ 「だめだわ。少しシミが残ってしまう。」
(メイは、洗剤を使って、再度、シミが付いた部分を濡らして固く絞った布で執念深く叩いて、なんとか、目立たない程度までシミを落とす。)
メイ 「やった。これなら、シミは見えなくなるはず…。」
(メイは、洗った部分にアイロンを当てて乾燥させる。シミは完全に消えている。)
メイ 「よかった。消えたわ。」
―暗転―
(メイが部屋に戻ったのは、深夜2時過ぎ。メイは、手に蝋燭を持って、暗い階段を上がって自分の部屋に戻る。部屋の中では、ジェニーとシーナは、ぐっすりと眠っている。メイは、音を立てないように忍び足で部屋に入る。メイは、スザンナの服を綺麗に畳むと、蝋燭の明かりを消してベッドに入る。)
―暗転―

コメント