シャングリラ(後編)
13. ワーズワース
144. ハウスメイド


(早朝。第一厨房の前の廊下。キッチンメイド全員がメイを取り囲んで別れを惜しんでいる。)

メイ                「ベネット夫人、エリスさん、みなさん、お世話になりました。」

エリス            「ローズ、よく働いてくれたわ。ありがとう。あなたが居なくなるのは、わたしたちにとっては、大きな痛手だけど、あなたの成長のためだから、わたしたちは笑顔であなたを見送ることにしたのよ。」

メイ                「エリスさん。」

アグネーゼ      (花束をメイに渡して)「ローズ、しっかりね。あなたなら、きっと素敵なレディーズメイドになれるわ。」

メイ                (花束を受け取って)「アグネーゼ、ありがとう。」

メイ                (丁寧にお辞儀をしながら)「みなさん、本当にありがとうございました。お世話になりました。」

(全員、拍手でメイを見送る。エリスは耐えきれず涙を零す)

エリス            「ローズ。時々は顔を見せに来てちょうだいね。」

(メイは、微笑んでエリスに頷く。)

ジェニー          「じゃあ、エリス。ローズを家政婦長のシン夫人のところへ案内してあげて。それから、これをわたしからだと、シン夫人に渡して頂戴。」

(ジェニーは、エリスに封書を手渡す

エリス            「はい。」

語り               「こうして、3ヶ月間、スカラリーメイド、そして、エリスのサンドリーメイドとしての経験を積んだメイは、ハウスメイドとしての、新たな下積み生活を送ることになりました。」

―暗転―

(エリスは、燭台の蝋燭に火を灯すと、地下に続く真っ暗な階段を降りて行く。地下は、薄暗く、湿めっとした薄気味悪い空気に満ちている。メイは、急ぎ足でエリスのあとについて行く。階段を降りると、真っ直ぐな廊下が続いている。両側には、幾つもの扉が並んでおり、ひび割れた壁には、不気味な肖像画の額縁が掛けられている。エリスは、廊下の一番突き当たりまで進むと、一番奥にあるドアの前で立ち止まり、ドアをノックする。エリスは、メイを呼び寄せると、ドアを開けて中に入る。中に入ると、そこは薄暗く、部屋の真ん中にポツンと机だけが置いてある殺風景な部屋。机の前には、黒髪で黒い瞳の女性が座っている)

エリス            「おはようございます。マドモアゼル・フィレンチェを連れてきました。」

シン               「お待ちしていました。」

エリス            「こちらに、マドモアゼル・フィレンチェについて書いておきました。」

(エリスは、シン夫人にジェニーから預かった封書

を手渡す。)

シン               「わかりました。」

(シン夫人は、封書を開けて、内容を確認する。)

シン               (慌てた様子で)「ベネット夫人。先日、スチュアート夫人から聞いていた内容と、異なっているようですが。」

エリス            「はい。少し事情が変わりました。」

シン               「しかし、もう、係も部屋も決めております。」

エリス            「部屋はどこでも構いません。」

シン               「このことは、スチュアート夫人は、存知なのですか?」

エリス            「もちろんです。」

シン               「では、彼女には?」

エリス            「もちろん、伝えてあります。」

シン               「そうですか。それならば、結構です。」

(メイは、二人の会話の意味がわからずキョトンとしている)

エリス            「ローズ、わたしは、これで戻ります。あとのことは、シン夫人の指示に従って頂戴。」

メイ                「はい。いろいろと、ありがとうございました。」

エリス            「では、マドモアゼル・フィレンチェのこと、よろしくお願いします。」

(エリスは、退室する。)

―暗転―

シン               「マドモアゼル・フィレンチェ。わたしは、家政婦長のシン(杏)です。よく、来てくれました。あなたの評判はベネット夫人から聞いています。」

メイ                (頭をペコリと下げて)「ローズです。よろしくお願いします。」

シン               「では、早速、あなたの部屋へ案内しましょう。そこで、ハウスメイドの制服に着替えたら、さっそく、あなたの仕事場に案内しましょう。」

(シンは、部屋を出ると、長い廊下を進んでいく。)

シン               「知っていると思いますが、ハウスメイドの女中部屋は、階下2階にあります。」

(シンは、燭台の蝋燭に火を灯して、地下2階に続く真っ暗な階段を降りて行く。メイは、急ぎ足でシンのあとについて行く。階段を降りると、真っ直ぐな廊下が続いている。両側には、幾つもの扉が並んでいる。シンは、廊下の一番突き当たりまで進むと、一番奥にあるドアの前で立ち止まり、ドアの鍵を開ける。)

メイ                (「何、ここ。まるで地下牢だわ。」)

シン               「あなたの部屋は、ここです。」

(言われて、メイは部屋の中を覗き込むと、カビと汗の臭いがムッと漂ってくる。シンは、部屋の中に入り、燭台の蝋燭に火を灯す。部屋の中には、所狭しとベッドが並べてあり、隣とのベッドを仕切るカーテンすら付いていない。)

シン               「ベッドを管理しているのは裁縫係長のリンリーです。おそらく、今、ベッドに空きはありません。あなたの寝る場所については、今夜にでもリンリーに聞いておきなさい。」

メイ                「はい。」

シン               「この時間は、全員、既に、持ち場に就いています。ハウスメイドの朝は特に早いのです。午前4時に起床、5時には、それぞれ持ち場に就いてもらいます。では、いまから5分、時間を与えますから、急いで制服に着替えなさい。」

メイ                「キッチンメイド用の制服しか、持っていないのですが。」

シン               「今日は、共用ロッカーにある予備の制服を着なさい。制服についても、今夜、リンリーに聞いておきなさい。」

メイ                「あのぉ、荷物は何処に置けば。」

シン               「あ、言い忘れていました。ここへは、個人の荷物を持ち込むことは出来ません。日用品以外は、わたくしの方で預かっておきます。」

メイ                「でも、これは、大切なものなのです。」

シン               「どんな理由があっても規則は規則です。必要な物があれば都度、わたしに申請しなさい。」

(シンは、メイから手荷物を奪い取る。メイは、ロッカーを開けると、強烈な汗臭いニオイが立ち込める。メイは思わず顔を顰めて鼻を手で押さえる。そこへは、汚れてボロボロに綻びた制服が数着ハンガーに掛けられている。メイは、そのうち、一着を取り出し、着替えを始める。)

シン               「だらだらしていないで、もっと、機敏に動きなさい。」

メイ                「はい。」

(メイは、急いで、制服に着替える)

シン               「では、これから、あなたの持ち場に案内します。わたしに付いて来なさい。」

―暗転―

(シンは、寄宿舎を出ると、裏門を出て、屋敷の敷地外へ出ていく。)

メイ                (「え?わたしの持ち場って、お屋敷の外なの?」)

(メイは、いったい何処に連れて行かれるのか不安になる。シンは、屋敷を離れて、河に沿って、どんどん丘の上に向かって歩いて行く。)

メイ                「すみません。一体何処まで行くのですか?」

シン               「勝手に、質問をしてはいけません。」

メイ                「…。」

(裏門を出て10分位歩いた頃、前方から、いかついた体をした男たちが、両肩に天秤棒を抱えて、大きなバケツをぶら下げて運んでくる姿に出会う。男たちは、シンにお辞儀をすると、メイの姿に気付いて、ジロジロとメイを見ながら、通り過ぎていく。)

シン               「マドモアゼル・フィレンツェ、あなたと同じ仕事の仲間です。もうすぐです。急ぎましょう。」

メイ                「今の男の人たちが仕事仲間?」

(メイは、いったいどんな仕事をさせられるのか不安になってくる。シンは、少し足早に歩き出す。メイも、急ぎ足でシンについていく。しばらくすると、ランドリーメイドらが、川で洗濯をしている姿が見えてくる)

シン               (川の畔までやってきて、水汲み場を指差し)「ここです。」

メイ                「ここが、わたしの持ち場ですか?」

シン               「そうです。」

メイ                「わたしの仕事は洗濯ですか?」

シン               「いいえ、あなたも聞いていると思いますが、あなたには、給水係を担当してもらいます。」

メイ                「給水って、どんなお仕事ですか?」

シン               「この川の水を汲んで、お屋敷まで運ぶのが、あなたの仕事です。」

メイ                (驚いて)「こんな遠くから、水を運ぶのですか?」

シン               「そうです。」

メイ                「でも、お屋敷には、ちゃんと井戸が。」

シン               「井戸は飲水です。大切な飲水を掃除や洗濯に使うことは許されません。」

シン               「あなたは、厨房から来たのですよね。」

メイ                「はい。」

シン               「あなたは、食器や鍋を洗ったり、厨房を掃除したりするのに、水を使いませんでしたか?」

メイ                「はい、使っていました。」

シン               「その水は、誰が、どこから運んでくるのか、知っていましたか?」

メイ                「いいえ、考えたこともありませんでした。」

シン               「厨房にも、ここから水を運んでいるのです。しかも、厨房は、もっとも水を必要とする場所です。」

メイ                (「知らなかった。あの厨房の水が、こんな遠くの川から、運んできているなんて、考えたこともなかった。」)

シン               「今日から、厨房に水を運ぶのが、あなたの役目です。厨房の水を切らすようなことがあれば、わたしの首が刎ねられるだけでは済みません。よいですかマドモアゼル・フィレンチェ。この大事な役目を、あなただからこそ、お任せするのです。そのことを決して忘れないように。」

メイ                「は、はい、かしこまりました。」

(メイは、男たちと一緒になって、バケツに水を汲んで、両手にバケツを抱えて、屋敷の厨房まで水を運ぶ。貯水槽を水でいっぱいにするためには、メイは、何度も往復しなければならない。日が暮れ、男たちは、担当の水を運び終え、やがて、太陽は沈み、空は暗くなり、月の光だけが夜道を照らしている。メイは、手足の血豆が潰れて、血だらけになりながら、それでも水を運んでいる。)

―暗転―

(ハウスメイドたちは、夕食もシャワーも終えて、自分のベッドで寛いでいる。そこへ、1日の仕事を終えて、くたくたになったメイが寄宿舎に戻ってくる。食堂へ行くと、既に食事は片付けられた後でガランとしている。メイは、手洗い場の水で、顔と髪を洗い、エプロンに水を吸わせて手足を拭くと、足を引き摺りながら、自分の部屋に戻る。部屋のドアを開けると、ベッドは満員、床も、3人のメイドたちが敷いた布団でいっぱいで、メイが布団を敷けるような場所は残っていない。)

メイ                (床に寝ている3人のメイドたちに)「あのぉ、少し詰めて頂けませんか?」

メイドたち        (メイの言葉を無視している)「…。」

メイ                「あのぉ、すみません。」

メイドたち        (さらに無視)「。」

メイ                (少し声を荒げて)「あのぉ…」

(ベッドに横になっているメイドのマリー(茉莉)が起き上がって)

マリー            「あなた誰?」

メイ                「あ、すみません。わたし、今日から、こちらでお世話になるローズと言います。」

マリー            「リンリー、ローズって娘が来ているけど、何か聞いている?」

(リンリーが、一番奥のベッドから降りて近づいてくる)

リンリー          「あなたが、ローズ?」

メイ                「は、はい。」

リンリー          「こんな時間まで、どこに行っていたの?心配していたのよ。」

メイ                「すみません。仕事が終わらなくて。」

リンリー          「仕事って、あなた、今日見かけなかったけど、どこにいたの?」

メイ                「水汲みをしていました。」

リンリー          「水汲み?」

(リンリーは、呆れている)

リンリー          「まあ、いいわ。その話はあとにしましょう。」

リンリー          (手を鳴らして)「みんな、ちょっと、ベッドから降りて整列してちょうだい。」

(全員、ベッドから降りて、ベッドの下手側に整列する。床に寝ていたメイドらも起き上がって、その場に起立する)

リンリー          「今日から、この部屋に来た新人よ。名前は…。」

メイ                「ローズです。」

リンリー          「そう、ローズ。」

リンリー          「マリー(茉莉)、あなたのベッドは、ローズに譲ってあげて。今日から、あなたは床で寝てちょうだい。」

マリー            「え?どうしてですか?」

リンリー          「質問はなし。以上よ。では、解散。」

(全員、自分のベッドに戻って行く。)

リンリー          「それから、あなたのロッカーですが、ここを使って下さい。」(ロッカーの前に移動する。ロッカーを開けて)「明日からは、この制服を着てください。キッチンメイド服と同じサイズなので、大丈夫だと思うけど、もし、サイズが合わない時は、マリーに言って、直してもらってちょうだい。他に何か質問がありますか。」

ローズ            「いいえ。」

リンリー          「では、朝は4時起床です。遅れないように。」

(マリーが、ベッドでごそごそしている。)

リンリー          「マリー、早くベッドを空けて。」

マリー            「は、はい。すみません。いま、退きます。」

(マリーは、いそいそと身の回りを片付ける。)

メイ                「リンリーさん。わたしが、床に寝ます。」

リンリー          「そうはいきません。シン夫人からの命令です。」

メイ                「シン夫人からですか?」

リンリー          「そうです。だから、あなたは、言う通りにすればいいのです。これ以上、質問はなし。いいですね。」

マリー            「ローズ、お待たせしました。どうぞ。」

(マリーは、ベッドを降りると、入り口の隅に布団を広げ始める。床に寝ていた3人のメイドたちは、それぞれ、少しずつ譲り合い、なんとか4人分の寝る場所を確保するが、寝返りひとつできないくらい窮屈そうにしている。)

マリー            「ちょっと、あんたたち、もうちょっと詰めてよ。」

メイドたち        「無理です。マリーこそ、もっと、そっちに詰めてくださいよ。」

マリー            「あなたたちねえ。わたしの方が先輩だってこと、わかってる?」

メイド              「先輩って言っても3日くらい早かっただけじゃないですか。」

マリー            「5日よ。5日の差は大きいのよ。」

(ローズは、居た堪れない気持になるが為す術もなく、まだマリーの温もりが残るベッドに入る。ローズは、ベッドに座ると、膝を抱える態勢になり、自分の足を見ると、血豆が潰れて血だらけになっていることに気づく。)

メイ                「痛い。」

(それに気付いた隣のベッドのリージュン(麗君)がローズに声をかける)

リージュン       「ローズ、大丈夫?」

メイ                「ええ、大した事ありません。」

リージュン       「大したことないって、血だらけじゃない。ちょっと待っていて。薬を持ってくるから。」

(リージュンは、共用ロッカーを開けて、薬箱ごとを持ち出してくる)

リージュン       「ちょっと、見せて。」

(メイは、両足を伸ばして、リージュンに見せる)

リージュン       (脱脂綿にアルコールを染み込ませて、メイの足に付いた血を拭き取る)「ちょっと、沁みるけど我慢して。」

メイ                (アルコール液がジュワっと音を立てて泡立つ)「い、痛い。」

(リージュンは、消毒が終わると、メイの指先に軟膏を塗ってガーゼを当てて包帯を巻く。)

メイ                「ありがとう、えーっと…。」

リージュン       「リージュンよ。」

メイ                「リージュン、ありがとう。」

リージュン       「ローズ、足に血豆が出来るなんて、どこで何をしていたの?」

メイ                「水汲みです。」

リージュン       「水汲みって?」

メイ                「川上から水を汲んで、厨房の貯水場に運ぶお仕事です。」

リージュン       「なんで、あなたが、水汲みを?」

メイ                「わたしは給水係だそうです。」

リージュン       「誰がそんなことを?」

メイ                「シン夫人です。」

リージュン       「シン夫人から、水汲みをしろって?」

メイ                「はい。」

リージュン       「ねえ、リンリー。」

リンリー          「ん、何?」

リージュン       「ローズって、給水係なの?」

リンリー          「給水係って何?」

リージュン       「水汲みですよ。」

リンリー          「だから?」

マリー            「それに、ローズは、給水係なのに、どうして、被服係の部屋なのですか?」

リンリー          「給水係?何を言っているの?ローズは、被服係だって言ってるでしょ。」

リージュン       「これを見て下さい。」

(リンリーは、ベッドから降りてきて、メイのところにやってくる。リージュンは、メイの血豆の足を見せる。リンリーは、驚いた顔になる。)

リンリー          「ローズ、どうしたの?」

リージュン       「だから、一日中水汲みをして、運んでいたそうです。」

リンリー          「そういえば、さっき、水汲みをしていたって言っていたわね。」

メイ                「はい。」

リンリー          「はいじゃなくて、ちょっと待ってよ。あなたは、被服係って聞いていたけど?」

メイ                「あ、あの、この部屋は、違う係なのですか?」

リージュン       「この部屋は、被服係よ。」

マリー            「え?ローズは、被服係じゃないの?」

リージュン       「給水係だって。どおりで、足に血豆が出来るはずね。」

マリー            「でも、給水係って、ハウスメイドの仕事だった?」

リージュン       「確か、給水は、奴隷の仕事よね。」

メイ                「奴隷?」

リージュン       「それに、ローズにだけ、個人ロッカーがあって、制服も新品。この待遇の差はなんですか?」

リンリー          「じゃあ、リージュンも、給水係に行く?」

リージュン       「と、とんでもない。あんなところ、死んでも行きません。」

(消灯時間。シンが明かりを消しにやってくる)

シン               「みなさん。消灯の時間ですよ。」

リンリー          「シン夫人。」

シン               「なんですか、リンリー。」

リンリー          「ローズのことで、お聞きしたいことが。」

シン               「もう消灯時間です。明日にして下さい。」

リンリー          「お時間は取らせません。」

シン               「わかりました。では、わたしの部屋に来なさい。」

(シンは部屋を消灯して扉を締める。リンリーは、シンの部屋に入る。)

シン               「リンリー、ローズのことで話というのは何ですか?」

リンリー          「ローズが、給水係と言うのは、本当ですか?」

シン               (少しためらって)「そうです。」

リンリー          「昨日までは被服係だと。」

シン               「事情が変わったのです。」

リンリー          「では、なぜ、被服係の部屋にいるのですか?」

シン               「それは、急な変更だったので、仕方なかったのです。」

リンリー          「それにしても、おかしいです。ローズだけに個人ロッカーが与えられて、制服も支給ですか?」

シン               「リンリー。これ以上の質問はゆるしません。恐らく、何か事情があるのでしょう。厨房婦長のベネット夫人からも、そのことについては、何も聞いておりません。どうしても、知りたいというのなら、あなたが、直接、ベネット夫人にお聞きなさい。」

リンリー          「わかりました。明日、ベネット夫人に聞いてみます。」

(リンリーは、シン夫人の部屋を出ていく。)

―暗転―

(リンリーが部屋の中に入ってくるなり、リージュンがベッドから話しかけてくる)

リージュン       「リンリー、何かわかった?」

リンリー          「いいえ、明日、厨房婦長のベネット夫人に直接聞いてきます。あなたたちは早く寝なさい。」

―暗転―

(翌日、リンリーはジェニーの部屋を訪ねる。)

リンリー          (ジェニーの部屋をノックする)「失礼します。」

ジェニー          「あなたは?」

リンリー          「被服係のメイド長です。」

ジェニー          「ハウスメイドのあなたが、わたしに何の用ですか?」

リンリー          「ローズのことでお聞きしたいことがあってきました。」

ジェニー          「何か問題でも?」

リンリー          「いいえ。仕事のことではありません。」

ジェニー          「では、何ですか?」

リンリー          「ローズの係を、急に被服係から給水係に変更されたのはなぜでしょうか。」

ジェニー          「ローズが給水係?」

リンリー          「はい。わたしは、シン夫人から、被服係だと聞いていたのですが、急に、ベネット夫人から給水係に変更するようご指図があったと聞きました。」

ジェニー          「わたしは、確かに、シン夫人に、ローズを被服係か、刺繍係として使って欲しいとは申し上げました。しかしながら、それは、あくまでも、わたしの希望に過ぎません。」

リンリー          「では、ローズを給水係に命じられたのは、ベネット夫人では無いとおっしゃるのですか。」

ジェニー          「そのとおりです。わたしは、厨房婦長です。実際に、ローズをどこで働かせるかは、家政婦長の裁量です。わたしがとやかく言う資格はありません。」

リンリー          「わかりました。とんだ失礼なことをお聞きして申し訳ございませんでした。」

ジェニー          「気にしなくて結構です。それよりも、ローズの様子はどうですか?」

リンリー          「手足に血豆を作って、辛そうです。」

ジェニー          「血豆を…、そうですか…、給水係と言うのは、そんなに大変なお仕事なの?」

リンリー          「はい。給水係は、いまや、ハウスメイドの仕事ではなく、奴隷の男たちの仕事です。」

ジェニー          「それは、本当ですか。」

リンリー          「はい。ですから、わたしも、おかしいなと思い、ベネット夫人にお聞きしようと…。」

ジェニー          「わかりました。わたしからも、直接、シン夫人に聞いておきます。にかく、ローズのこと、お願いします。何かあれば、わたしがスチュアート夫人に叱られます。」

リンリー          「はい。心得ました。」

(リンリーは、一礼をして、ジェニーの部屋から出ていく。)

ジェニー          (「ローズを、そんな過酷な仕事に就かせるなんて、どういうつもりかしら。」)

―暗転―