エピローグの選択肢アンケートですが一旦保留とさせていただきます。
需要がありそうなら是非実施したいと思います。 










 最初の勝負から一晩明けた。
 まるでモデルハウスをそのまま買い取ったかのように平凡な佇まいの一軒家は足音一つ立たない。
 期待せずに冷蔵庫を空けると期待せずに良かったと思える空白が広がっていた。
 いつからか書き置きすら無くなり、五百円玉がぽつんと食卓に置かれるようになった。
 外出の準備を整えると無言のまま家を出る。
「いってきます」
「ただいま」
 それらの言葉を最後に発した記憶は朧気だ。
 表札には僕の元々の名字とは違う漢字が彫り込まれており、まだ陽も昇り始めた明け方だというのに車庫に車は無い。
 時折寂しいという感情を思いだしもするが、これが僕にとっての当たり前の光景なのだ。むしろ幸運と言っても良い。境遇に不満を唱えるのは筋違いというものだ。親類だからといって保護者にさせられた彼らの方が余程不幸に違いない。
 僕には明ちゃんが居た。だから自分が恵まれていないなどと感じた事は無い。袖時雨にいけばいつも彼女が笑顔で迎えてくれて、悪戯をすれば叱ってくれた。煙草の煙が煙たくて、牌の音が五月蠅くても、僕はずっとあの場所で明ちゃんと一緒に居たかった。
 途中でコンビニに寄って紙パックの牛乳と菓子パンを買う。近くの公園のベンチでそれらを喉に流し込むと再び袖時雨へと向かう。
 勝負の再会は今日の朝九時から。今はまだ七時にもなっていない。週末の早朝は駅前とはいえ人もまばら。
 駅ビルの狭く薄汚い階段は普段よりも肌寒く感じた。
 最上階まで昇ると足が躊躇いで止まる。
 明ちゃんが既に中で掃除をしているかもしれない。
 何事も無かったかのように顔を合わせる確信が持てずにいる。
 昨日の明ちゃんは僕が初めて恋をした女性とはたして同一人物だったのだろうか。一晩経っても狐につままれたような気分は拭えない。
 ドアノブに手を掛けると自分に言い聞かせるように呟く。
「何を恐れているんだか」
 袖時雨は鍵が掛かっており、中には誰も居なかった。どうやら僕が今日初めての訪問者らしい。しかし室内は綺麗に片付いており、一見すると埃一つ見当たらない。ヤニで黄ばんだ窓ガラスもピカピカだ。
 昨日のあの後、明ちゃんが掃除したんだろうか。
 文字通り透き通ったガラスに手の平を合わせて空を見上げる。相変わらず臨時休業の袖時雨はしんと静まり返っていた。
「あれ? 開いてる?」
 背後から聞き慣れた声とドアノブが回る音。
「あ、蓮」
 振り返る事に一瞬の戸惑い。しかし固まってなどいられない。
「おはよう明ちゃん」
 どんな緊張状態でもいざ追い込まれると何食わぬ顔で振る舞う事が出来るものだ。勝負の世界で幾度となく学んだ経験の一つ。
 しかし振り向いた僕の頬は微かに引きつった。
「お、おはよう」
 彼女の笑顔もどこか強張りと焦燥が張りついていた。
「やぁおはよう蓮君。今日もよろしくね」
 彼女の肩越しから届く桐山の挨拶。
 どうして同時に顔を出す?
「さ、さっき下で偶然会っちゃって」
 何気無いはずの言葉は何故か釈明のように聞こえた。
「それより蓮はどうしたの? 時間にはまだ早いけど」
 話を逸らしたかのように聞こえるのは気の所為だろうか。口調もやや口早に思える。
「別に。たまたまだよ。ここから目にする空も見納めかもしれないしね。今のうちに堪能しとこうと思っただけだよ」
 僕の冗談に桐山が大人びた笑い声を上げる。
「何もここを打ち壊すわけじゃないさ。もっと健全なカルチャースクールにでもどうかなと思ってね。蓮君ならいつでも大歓迎だよ」
「はは。もう勝った気でいるんだ」
 桐山は爽やかな笑顔を張りつかせたままうっすらと目を開けた。
「実際何度か勝ってるしね。奥さんのおかげでもう一度勝負出来るけど」
 その言葉に明ちゃんは頬を染めて視線を床に落とした。僕はそれを見ない振りをして肩を竦める。
「確かにね。田島のおっちゃんの言う通りだよ。何回やっても勝てる気なんてしない」
「あはは。田島さんに何を聞いたのかな? 勝負はやってみるまでわからないさ」
 臆面もなく、何の嫌味も含まず、一欠片の悪意すら抱かず桐山はそう言う。慢心でも何でも無く心から僕を応援している。
 その背景にあるのは善意などではなく己に対する絶対的な自信。勝利の味しか知らない人間の微笑みはどこか無機質にも思えた。
 油断を誘うなどという安直な効果は期待していなかったが、そもそも桐山の辞書にはそんな言葉すら無かったようだ。自分が負ける姿など描きすら出来ないのだろう。
 どうも居心地が悪そうにモジモジしている明ちゃんを訝しみながらも再び窓の方へと振り返り駅前のロータリーを見下ろす。
 勝負開始の時間にはまだ早いのに神経質な性格の所為か鈴本が姿を現す。彼がこちらを見上げると眼鏡の奥で鋭く光る如何にも知的そうな眼光と視線が交差する。彼は僕に対して微かに頷き返すと、眼鏡の縁を一回触って歩き出した。

 再び勝負の幕が上がる。
 袖時雨の空気は嘘みたいに清々しかった。煙草の煙も混沌めいた喧噪も見当たらない。それを少し寂しく思ってしまうのはすっかり僕が毒されてしまったからだろう。
 明ちゃんは昨日までのように僕の真後ろにはつかなかった。斜め後ろに行儀良く立ち、どこか奥歯に物が挟まったような表情でやや俯いている。気には掛かるは今は気にしている暇は無い。
「僕が親だね」
 席順は変わらず対面が桐山。上家が鈴本で下家が田島。
 初っ端から親を引けたのは幸運だった。こんな化け物を相手に長期戦など冗談ではない。豪運は一瞬かつ小細工でねじ伏せる。
 その肝は協力者と僕の原初のスタイル。
 鳴いて鳴いて鳴きまくる。
 かつての明ちゃんによる「男なら簡単に泣いたら駄目」という教えを今日だけは破る。
 桐山にはなるべく積もらせない。
 そして昨日のあれから何とか連絡を取れた鈴本への協力要請は二つ返事でイエスだった。ここまでは計画通り。あとは彼が予想通りの動きをしてくれるかどうか。
 僕の打牌を受けて下家の田島が白を切る。
「ポン」
 それを即明刻にすると同時に鈴本へとサインを送る。
『白のみで早上がり。一筒を振り込め』
 すぐさま応答が返る。
『了解』
 そして鈴本は僕から目を逸らして桐山を見た。
 桐山はにやりと口端を歪ませると、「随分と今日は気が早いんだね」とノータイムで中を切った。
「この後用事があるからね。さっさと終わらせたかったんだよ。ロン」
「え?」
「はい大三元。僕の、袖時雨の勝ちで終わり」
「……は?」
 桐山だけではない。鈴本もわけがわからないと表情を浮かべている。
「ほら」
 見せつけるように自牌を倒す。田島だけが愉快そうにゲラゲラと笑った。
「わっはっは。こりゃたまげた。死ぬまでに桐山君が負けるところが見れるとはな」
 僕は立ち上がると、「それじゃあ帰るね。明ちゃん後はよろしく」と口にする。明ちゃんも唖然と立ち尽くしていたが、僕の勝利を漸く理解すると目に涙を浮かべて僕を突然抱きしめた。
「蓮! えらい! よくやった!」
 彼女の胸の中に顔が埋まる。息苦しいがこのまま死ぬまでここに居たいと思わせる柔らかさだった。
「ふ、ふざけるな!」
 桐山の怒号と拳が台に振り下ろされる音が耳をつんざく。
 僕は明ちゃんに抱きつかれたまま身体を反転させる。首筋辺りで味わう柔い感触もまた勝利の余韻を増幅してくれる。
「何かお気に召さない?」
 桐山の表情はいつもの余裕が消え失せ、鬼のように僕を睨んでいる。
 この場に居る誰よりも僕の勝利を、そして己自身の敗北を信じられずに動揺している。
 彼の人生においておそらくは数えるほどしか経験の無い敗北。
「は、話が違うじゃないか!」
 震えた声の矛先は僕だけじゃなく鈴本にも向けられていた。
 当の鈴本もわけがわからないといった様子でしきりに眼鏡の縁を撫でていた。
「話って何? 八百長でもやってたの?」
 僕は信じていた。
 鈴本が僕ではなく桐山の味方をしてくれると。
 僕には運も無ければ頭もさほど良くない。ここで培われたのは観察眼。鈴本は初めて見た時からピンときた。こいつは負け犬の目をしている、と。
 怨嗟を向けるはずの桐山に勝利という復讐ではなく、内通で借しを作って妥協する。合理主義を盾にとった敗走。いつか一泡吹かせてやるという姿勢は己のプライドを守る為のポーズに過ぎない。
 その弱腰を利用した。
 きっと僕の偽の待ちを伝えてくれる事を期待して。
 憤怒の形相を浮かべる桐山から僕を守ろうとしてか、明ちゃんは殊更強く僕を抱きしめた。
 あまりに良い匂いで、あまりに心地好い感触で泣きそうになる。
 初恋の温もりがこんなにも近い。
 でも手が届かないほどに遠い。
 僕の胸の前でクロスする彼女の白い両手に嵌められた結婚指輪。
 その輝きは僕の目を細めさせた。
 頭上で明ちゃんが睨みを利かせたのだろう。
 桐山は舌打ちをすると、自らが座っていた椅子を蹴り飛ばして部屋を出て行った。鈴本もどこか気まずそうに後をついていく。田島だけが愉快そうに笑いながら立ち上がると、「やるじゃねえか坊主。面白いもんを見せてもらったぜ」と僕の頭をぐりぐりと撫でて出ていった。
 袖時雨には僕と明ちゃんだけが残った。
 相変わらず後ろからぎゅうっと僕を抱きしめたままの彼女からは鼻の啜る音が聞こえてきた。
「……蓮。ありがとね」
「言ったでしょ。勝つって」
「そうだね。蓮は約束守る良い子だからね」
「明ちゃん泣きすぎ」
「……だってぇ……お父さんも絶対ここ残したいってぇ……うぅ……ずび」
 責任感の強い彼女の事だ。きっと全てを一人で背負っていたに違いない。
「簡単に鳴いたら負けるって教えたの明ちゃんじゃん」
「たまには良いのよ。蓮だって今日はすぐに鳴いたじゃん。この馬鹿弟子」
 いつまでも袖時雨に縋り付いているわけにはいかない。いい加減外の社会で生きていく術を身につける時期だったのだ。だからここが消えてなくなってしまうのは、僕にとってはむしろ良かったようにも思える。それでも明ちゃんのどっと脱力したような嗚咽交じりの鼻声は、僕を勝利の余韻に浸らせるには十分すぎるほどのご褒美だったのだ。

「片付けなんて明日からでも良いんじゃないの?」
 ようやく落ち着きを取り戻した明ちゃんは腕まくりをしてテキパキと掃除を始めた。やはり明ちゃんは元気な姿がよく似合う。
「そういうわけにはいかないわよ。明日から営業再開するんだから」
「まずは親父さんに報告じゃないの?」
「さっきメール送った。今すぐこっちに来るとか馬鹿言ってたから看護師さんに見張りをお願いしたっての」
「ふぅん。窓なんて拭いちゃって。どうせすぐに煙草の煙でくすむのに」
「うーるーさーい。そういえば蓮、用事があるとか言ってなかった?」
「あれは言葉の綾。桐山が悔しがると思ってね」
「ったく。どこでそんな性格ねじ曲がっちゃったんだか」
「ここでしょ」
「はは。間違いないね。じゃあ暇なんだ」
「やだ」
「まだ何も言ってないでしょ。窓ふき用の洗剤買ってきてよ」
「ほら、面倒毎だ。拒否権は?」
「無い」
「今日の功労者なのに?」
「あとでご飯奢ってあげるから」
「それじゃあしょうがないな」
 明ちゃんとの時間こそが褒美なのだから元より拒否の意志など無い。漫画やドラマでよく見かける掘れた方の弱みという言葉の意味を漸く理解できた。
 お駄賃込みの費用を受け取るとそれを片手に階段をスキップ交じりの歩調で駆け下りる。今日はこれからずっと明ちゃんと二人の時間。それを考えると無表情を装うのは難しい。
「やけに嬉しそうだね」
 駅ビルを出ると途端に声を掛けられた。
「桐山……さん」
「やぁ。さっきは取り乱して悪かったね」
 すっかり余裕を取り戻した桐山が明らかに僕を待ち構えていた。警戒心からか緩んだ頬が引き締まる。
「やだなぁ。そんな恐い顔しないでおくれよ。何も文句を言う為に待ち伏せしたわけじゃあないんだ」
「じゃあ何?」
「いや何。初めて会った時から僕達って似てないかなと思ってね。是非お友達になりたいんだ」
「全然そんな事無いと思うけど」
「そんな事あるさ。例えば……女性の趣味とかね」
「……何言ってるの?」
「まぁまぁ。男同士なんだから隠せなくても良いじゃないか。そこでだ。君にはまだ早いかもしれないけど将来の参考になると思ってね。これをプレゼントするよ」
 友愛の意志などこれっぽっちも感じない通り一辺倒の笑みを張りつかせたまま、桐山は一枚のDVDを手渡してきた。
「何コレ?」
「お近づきの証だと思ってよ。きっと気に入ると思うよ。それじゃあね」
 半ば強引にそれを僕に握らせるとそのまま踵を返して去って行った。
 すぐに捨ててやろうと思ったがどうにも中身が気になって躊躇する。
 結局買い物を終えて袖時雨に戻るまで手元に残してしまった。
 立ち戻ると入れ替わりに明ちゃんが親父さんの入院している病院に顔だけ見せに行く事になった。
「流石に報告くらいはきちんとしないとね。あの様子じゃお父さん這ってでもこっち来そうだし」
「安心させてあげなよ」
「なぁにませた事言ってんのよ。うりうり」
 人差し指で額をぐりぐりと突いてくる。
「ま、すぐに帰ってくるからさ。その間お留守番よろしくね」
「ん、わかった。ところでここってモニタとデッキってあったっけ?」
「ん? 何か映画でも観るの? レジの横に置いてあるの使って良いよ。どうせならモップ掛けといて欲しいけど」
「そんだけ遠慮無くこき使ってもらえると却って清々しいよ」
「あんたは半分身内みたいなもんでしょ。それじゃよろしくね」
 勝負が始まるまでのどこか沈んだ雰囲気など嘘のように颯爽と去って行く明ちゃんの背中を見送ると、早速さっき渡されたDVDをセットする。
「……半分身内か」
 好きな人から気心の知れた扱いを受けるのは喜び以外の何ものでもなかった。
 浮ついた気分のまま再生ボタンを押す。
『あっ❤ あっ❤ これ、イイっ』
 慌てて音量を下げるほどにその声は、袖時雨の平穏を引き裂くように響き渡った。
『あっあっ、すごい、こんなっあっあっあっ!』
 画面一杯に広がるのは間接照明に照らされた汗ばむ肌。臀部の割れ目らしきものが端に映るため、それは背中だと推測出来た。
『こんなの、久しぶりでっ、あっい❤ またすぐ、あっあっんっはぁ、んっ』
 引き締まった背筋は男の腰によってピシャンピシャンと乾いた音を打ち付けられる度に、より一層熱を帯びていく珠のような汗を浮かべていく。
『いっちゃうっ❤ またすぐ、イクっ、からぁっ』
『バックも久しぶり?』
『はぁっ、はぁっ、はぁっ……た、多分……』
『多分って何? 旦那さんとはしてるんだろ?』
『してる、けど……んっ……わかんなくなる……あっ、あっ……桐山さんのが、激しすぎて……あっ❤ イクっ❤ イクイクイクっ』
『良いよ。いっちゃいな』
『あっ、イクっ!』
『何回目?』
『はっ、はっ、はっ、あっ……わかんない……数えてない』
『ホテル来てからは?』
『……わかんないってば……あっ❤ うそっ』
『ラブホテルも久しぶり?』
『う、うん……ね、ねぇ……また、いっちゃいそう」
『次はガマンしよっか』
『む、無理……もう、きちゃいそうで……おかしくなりそう』
 女性の言葉を証明するように、アップで映し出された腰は今にも弾けそうにぷるぷると小刻みに痙攣している。
 画面右上に表示されている日付は昨晩、というよりはほぼ今暁と表現すべき時間だった。
『じゃあさっきみたいにもう一回旦那さんに謝ろっか?』
『……それは』
『そういえばちゃんと連絡したんだよね?』
『……うん……袖時雨の件で色々あるからって』
『まぁ間違ってはいないね』
『ちょっと……』
『何?』
『……変になっちゃいそう……なんだけど』
『どうすれば良いかは言ったよね?』
『……わかったから……突いて』
『ベッドの上じゃ案外素直なんだね』
 パン、パン、パン、と乾いた音と共に画面がブレ始める。
『あっ❤ あっ❤ あっ❤ あっ❤』
 カメラがやや俯瞰で移すようになると、四つん這いになった女性の後頭部と、まるで小ぶりなバナナほどはありそうな男性器が臀部の割れ目で抜き差しする光景を捉えた。
『あ、あなた……ごめん、ね』
 黒光りするガチガチに硬そうなそれが、にゅぷ、にゅぷ、という音と共に他人の中に出たり入ったりしているのはまるで手品のように思えた。
『浮気セックスで……何回も、イッちゃってる……』
 明らかに避妊具を着けていない勃起した男性器が彼女の中へと滑らかに消えていく度に、彼女は切なそうに鳴いた。
『あっあっあっ❤ 生ちんぽで……あっんっ……もう、二回か……三回? ザーメン……おまんこに、びゅって、されちゃってる……』
『大丈夫ですよご主人。今日危ない日じゃないみたいなんで。ね? 奥さん?』
『う、うるさっ、あっあっあっあっやっ、すごっ、あっい、いいっ! それ、すごすぎて、あんっあんっ!』
 ベッドの上で犬のように背後から責められる彼女の背中は、胸が締め付けられるほどに美しかった。
『くるっ、くるっ、あぁ、もう、やだっ、あっあっあっ、おまんこ、きちゃうっ!』
『僕もご一緒して良いかな?』
『知らないっ、わよっ! 勝手に、してよ……あっ、いっ❤ イクっ、イクっ、イクっ!』
『生だよ?』
『もう、わかんないっ! あっ! あっ! あっ! 好きに、していいからっ、あっあっあっ❤ このまま、してっ! おまんこ、してっ! あっあっあっ❤ 本当、すっごいっ、あっ、イっクっ! イっクっ! きてっきてっ……あぁ、イクイクイクっ! あああぁっ!』
 絶叫のような甘い声と同時に、陰毛を纏った男の下腹部がびたんと激しく臀部に密着した。
『あぁ、奥さん良いよ。そのまま搾り取って』
『はぁっはぁっはぁっ……あっ、やだ……射精、わかる』
 そこで画面は突然暗転した。撮影していたのバレないようにカメラを隠したのだろうか。しかし音声だけは継続している。
『どうだい? 結構良かったでしょ?』
『……別に』
『足腰立たないみたいだけど?』
『疲れただけ』
『そんな調子で大丈夫かい?今日これから勝負なのに』
『あたしが打つわけじゃないし。蓮がやってくれる』
『へぇ。それじゃまだまだ可愛がっても大丈夫だね』
『……元気すぎ』
『良かったらこれからもどうかな? 互いに家庭のある身だから節度ある付き合いになるけど』
『結構よ……あっ』
『身体は随分馴染んだみたいだけどね』
 ぎし、ぎし、とベッドが軋む。
『やっ、あっ、あっん……やだ、かた……』
『何なら本気で僕の子を授けてあげようか? 可愛いし利発だよ。僕の子は』
『あっ、あっ、あっ……んっ』
『ふふ。必死にしがみついちゃって。可愛いな。ほらもっと舌出してみて』
『んっ、ちゅっ……くちゅ……んっ……ふぁ……あ、ん』
 すっかり画面へ釘つけになっていた僕は、ドアノブが回る音で心臓が止まりかけた。
 素早くDVDを停止させると取り出して懐に入れる。
「何慌ててんのよ」
 振り返るとコンビニの袋を手に持つ明ちゃんが首を傾げていた。
「な、なんでも無い」
「何何何? まさかこんなとこでエッチなビデオでも見てたんじゃないでしょね?」
「そ、そんなわけないだろ」
「あははは。蓮ってば顔真っ赤。ま、お年頃なんだから多目に見ちゃうけどね。ほらこれ。あんたの好きなアイスとかいっぱい買ってきてあげたよ。掃除の前に祝杯といこうよ」
 朗らかに笑う明ちゃんの声はやはり画面の中の媚びたような甘さは無く、僕はどうしようもなく頭を掻きむしりたくなったけれど、一先ず彼女が笑っているのでそれで由とする事にした。きっと皆もこうして処理の出来ないモヤモヤを抱えて大人になっていくのだろう。
 もう袖時雨に通う事は無いだろうが、彼女への淡い気持ちは当分色あせそうにはない。


終わり。