中編24(日)、後編29(金)投稿予定です。









 主任は聴診器を外すと、「はい。もうシャツ下げても良いよ」と微笑んだ。まじまじと僕の目を覗き込む。
「あはっ。とりあえずどこも問題無さそうだね。一回死にかけたのにね。いや、一回死んだのかな?」
 あの後すぐに医務室に運ばれた僕は、主任の手によって簡易的な検査を受ける事となった。多少の倦怠感や息苦しさは残っているが、ほぼ健康体と言って差し支えはない。
「でも油断はしちゃ駄目だよ? ストッパーの発動自体が前代未聞だし、そこからの蘇生は言うに及ばずなんだから。今後どんな影響が出てもおかしくないよ」
 主任は困ったように笑うが、その瞳の奥で無邪気に輝く興味の二文字は隠し切れていない。
「やはり問題になりますか?」
「そりゃね。でも幸か不幸か、もう二度と君が同じストッパーを付与される事は無くなった。あれは出生する瞬間の最も魔力を帯びていない状態を見計らって設置するものだからね。つけ直す事は不可能なんだよ。つまり君はもう文字通り、心身共に自由の身ってわけ」
 それが嬉しくないと言えば嘘になるが、それよりも僕が気になるのは外した事による罰則。
「彼女に、蔓草凪に面倒事が及びますか?」
 主任は少し難しそうな顔で思案する。
「そうだね。無許可且つ完全に個人的な支援が目的になる魔術の使役だったからね。何のお咎め無しは有り得ないかな……う~んどうだろう。多分無条件で数年間の能力使用禁止とかそういう感じになるんじゃないかな」
「すみません」
「八雲君が謝る事じゃないよ」
「でも色々迷惑を掛けてしまいました」
「なんて言いながら、反省はしても後悔はしてないって顔してる」
 主任はいつものように幼く笑いながら、人差し指で僕の額をつんと押すと立ち上がった。
「本当にもう、あたしの手からも離れちゃったんだねぇ。嬉しいような寂しいような」
 庇護の下から抜けるという事は、責任を自ら背負うという事も意味する。浮かれてばかりもいられない。
「……あの、僕とチエちゃんはどうなるんでしょうか」
「心配しなくても大丈夫だよ。元々企業としては誰の子供でも良いんだから。この件に関してはとにかく早く問題を片付けるのが至上命題。だから当の本人であるチエちゃんが前向きかつ協力的な姿勢になれる選択肢が最善ってわけ」
 主任のその回答を聞いても僕には気掛かりが残されていた。チエちゃんと公然で子作りが出来る権利を、七雄がそう簡単に手放すだろうか。主任は僕のその懸念を見透かしたのだろう。「大丈夫だよ」と微笑んで言葉を続けた。
「八雲君が一回死んじゃった時、真っ先に駆けつけて必死に心臓マッサージしたの七雄君なんだよ。『戻ってこい馬鹿野郎!』ってね」
 あの人がそんな事をするはずがない、とは思えない。むしろごく自然に想像出来る絵面だった。七雄がその屑っぷりを発揮するのは女性関係のみで、先輩として、そして一人の人間としては、わりと常識的かつ人情深い一面がある事を、一緒に任務を共に僕は知っている。そんな彼への評価に主任が同調する。
「ああ見えて後輩想いだしね。というか男性には凄く甘いから。どうしようも無いのは女の子が絡んだ時だけだし。まぁそのどうしようも無い部分が本当に擁護しようもないどうしようも無さなんだけど。ね?」
 主任が扉の方に顔を向けると、かちゃりとドアノブが回った。
 七雄が無言で入室してくる。
 唇を強く結んだ堅い表情のまま、ベッドに腰掛けた僕の前まで歩み寄る。そして無言のまま右手を振り上げた。殺意をもって殴られる事すら覚悟して目を瞑る。本来恋愛とは人間にとってそれ程大きな意味合いを持つものなのだ。僕だって告白のために命を賭けたからわかる。
 しかし七雄の手は僕の頭を掴むと、そのままワシャワシャと荒っぽく撫でるだけだった。おそるおそる目を開けると、七雄は罰が悪そうにはにかみながら「……馬鹿野郎」と呟いただけだった。少し目頭が熱くなってるようにも見える。背後に見えた主任も「ほらね?」と言いたげに肩を竦めた。
「お前がチエちゃんを好きだなんて全然気付かなかったぞ。最初からか?」
 逡巡の後に黙って頷くと、七雄は更に頭をくしゃくしゃと撫でた。
「俺はな、ショートカットのロリ巨乳には目が無いが、同じくらいお前の事も可愛いと思ってたんだぜ」
 その言葉に主任が苦笑いを浮かべた。
「え、七雄君ってそっちもいけるの?」
「そういう意味じゃないんですけどぉっ!」
 七雄は勢い良く振り返りながら否定した。そして咳払いをすると僕に向き直る。
「とにかくだ、俺にとってはチエちゃんは百点満点だが、百点満点の女なんてこの世にいくらでもいる。でも告るために命を投げ捨てるなんてバカで可愛い後輩はお前だけだ。その覚悟に免じて手を引いてやるから、絶対幸せにしてやれよ」
 まるで少年のような照れ笑いを浮かべてそんな事を言う。
「……はい」
 僕は思わず俯くと目頭を熱くさせた。七雄の気持ちに感化されただけではない。この世は性善と性悪、光と影だけでは割り切れない。それが嬉しかった。
 蔓草凪に教えてあげたい。貴女が望んだ一筋縄ではいかない世界は期待通りに複雑怪奇だと。昨日の敵が今日の友になり、その逆もあるだろう。ままならぬ理不尽に膝をつくこともあるかもしれない。でも二人でならきっと大丈夫。
 開きっぱなしになっていた扉に、チエちゃんが駆け込んでくる。
「やっ君!」
 七雄に頭を掴まれ、半泣きになっていた僕を目にすると、何を勘違いしたのか形相を変えて七雄に突進した。
「やっ君に手を出さないで!」
「ぐはぁっ!」
 チエちゃんの後ろ回し蹴りが七雄の脇腹に突き刺さると、そのまま七雄は弾き飛ばされ壁に激突した。
 鼻息を荒げるチエちゃんを、「いや、大丈夫だから。何もされてないから」と笑いながら制止する。チエちゃんは慌てて両手を上げた。
「え! すいません七雄さん! 早とちりしちゃったっす! 大丈夫ですか!?」
 七雄は壁に背をもたれて腰を下ろしたまま、今にも気絶しそうな表情でニヒルに笑いながら親指を立てた。
「いいんだぜ……二人の熱い想いに……乾杯」
 続いて入室してきたシャーリーが、猫背でへこへこと頭を下げながら、「ごめんね二人とも。今静かにするからね」と七雄の両脇を抱えると、そのまま粗雑にズルズルと引きずっていった。
「八雲ぉっ! 気合入れろよ! 種付け交尾のやり方わかんなかったら俺が教えてやっからな!」
 引きずられながらそう叫ぶ七雄の頭を、シャーリーがにこにこ微笑みながら叩いた。乾いた音が響く。
 主任もそれに続きながら、「それじゃ、あとは二人でよろしくやってね。もうこのままここで子作りしちゃっても大丈夫だよ。防音もバッチリだから」と退室していった。
 扉が締まるのを見届けると、ふとチエちゃんと視線があった。僕らは二人ともその瞬間に顔を真っ赤にさせて視線を逸らした。
 勇気を出して彼女を見る。彼女もおそるおそると視線を交わす。心臓は再び爆発しそうな程に跳ね上がる。
 僕は無言で自分の隣を叩いて、彼女にも腰掛けるように促した。
「……はい」
 チエちゃんは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、しおらしく言う通りにした。
 彼女の手にそっと手を重ねる。するとやはりおそるおそるではあるが、チエちゃんの方からも握り返してくれた。
「もう一回言うね」
「……ん。いや、ちょっと待って。あたしから言うから」
「いや僕からだから」
「でも順番的にはあたしからじゃない? 最初あたしで、次やっ君だったんだから」
 変なところで意地を張り合う。煩わしいどころか気分が高揚して仕方が無い。ああこれがイチャつくという事象なのかと納得する。世の中の人々が恋人を求め合うわけを理解した。極めて幸せと言わざるをえない。
「じゃあ、一緒に言おう」
「うん」
 示し合わせたかのように、二人して深く息を吸う。それがおかしくって笑いあう。
「やっ君、顔真っ赤だよ」
「チエちゃんだって」
 そして手を握り直すと、見つめ合い、「好きです」と同時に想いを伝え合った。
 お互いくすぐったそうにクスクス笑いながら、重ねた手の指が絡まる。身も心も溶けそうだ。ただの肉欲では味わえない多幸感。
 改めて深呼吸して、僕達がするべき事をはっきり口にする。
「子作りを前提に、僕と付き合って下さい」
 その言葉がおかしかったのか、チエちゃんはたまらないといった様子で吹き出す。
「なにそれ。変なの」
「だって、しょうがないじゃないか」
 言った後で恥ずかしくなって顔をそむける。
 するとチエちゃんは「……エッチ」とささやきながら、肩で肩を軽く小突いてきた。
 再び顔を付き合わせると、どちらからともなく顔を寄せる。
 ちゅ、と唇が触れあうと、チエちゃんの甘い匂いが鼻腔をついた。
 手を握っていない方の手をチエちゃんの胸に伸ばす。あどけなく愛らしい見た目とは裏腹に、ずっしりと重く、でもすごくふわふわで、手の平では余る大きな胸を掴む。
 五感全てで好きな女の子を感じる。きっと幸せの絶頂。
 顔を離すと、チエちゃんの表情が何かを言いたげに影が差す。躊躇いと不安。そしてそれ以上に彼女の覚悟と想い、何より僕への信頼を感じる。
「あのね、こんな時だけど、言わないといけない気がして……さっきの会話とかでも、気付いてるかもしれないけど、あたしね、その、実は今まで七雄さんと……」
「大丈夫。関係無い。これからは、僕達二人で未来を作るんだから」
 強がりでもなんでもない。もう僕達を阻む過去なんて無い。二人でならどんな障害だって乗り越えられる。
 チエちゃんはほっと安心したようで、キスを再開する。
「君の全てを受け入れるよ」
「……うん。ありがとう」
 後はこのまま結ばれるだけというところまできて、ほんの微かな違和感を覚えた。


 
 第二医務室ではユカリがシャーリーを簡単な問診や触診を終えていた。
「やっぱり限界を超えてたのかもね。少し魔力に影響が出てるみたい」
「そうですか」
「八雲君の報告にあった『稲光の白兎』だっけ? 魂まで削るような消耗の激しい技だったんだろうね。魔力を増幅させる体内の機関に修復不可の損耗がいくつか見られる。以前のような跳躍のキレは失っちゃうかも」
 その宣告にもシャーリーの表情に動揺は無い。
「だとしても悔いはありません。皆を助ける為に全力を尽くしました」
「幸か不幸か、念願通りに最前線の任務からは外される事も多くなるかもね」
「元々争い事には向いてませんでしたから」
 シャーリーは晴れやかな笑顔を浮かべると言葉を続ける。その言葉は優しくも凜々しい。
「今後はまた別のアプローチで皆を助けていきたいと思います。あと五人囃子の座も退こうかなと」
「劣化してもまだまだトップクラスなんだけどね。勿体無いなぁ」
「丁度良い機会ですし」
「まぁシャーリーの決断を尊重するよ。五人囃子二位という責任ある勤め、今までお疲れ様でした」
 主任が頭を下げると、「いえいえ」とシャーリーが背筋を伸ばしてお辞儀を返した。
「さて、あたしは八雲君達の事務処理に戻らなくちゃ。お先に失礼するね」
 ユカリが立ち上がろうとすると、二人の脇のベッドで寝かされていた七雄のが挙手をする。
「あの。俺の診察まだなんですけど」
 ユカリは顎に人差し指を当てて小首を傾げ、「ん~」と暫く七雄を見下ろすと、「頭に問題有るけど私じゃどうにも出来ないかな。あはっ」と笑った。
「そんなぁ」
「ごめんだけど本当に忙しいんだよね。色々と清水君に任せたままだし。それじゃね。戸締まりとかはしなくて良いから」
 ユカリが立ち去ると、七雄が「ちぇー。チエちゃんに振られた腹いせにセクハラしようと思ったのに」と唇を尖らせた。
「そういう邪念を察知されてるんですよ」
「ていうかお前も案外あっさりしてるんだな。何その清々しい顔。露骨に肩の荷が下りたって感じじゃん」
「実際重かったですしね。他の皆にもたまに相談してたんですよ。やっぱりあたしは殴ったり蹴ったりは向いてなかったんですよ」
「なんだよ水くさいな。俺にも相談しろよ」
「邪念を察知してるんで。それじゃあたしも失礼しますね。お大事に」
 シャーリーも続いて立ち上がろうとすると、七雄が顔をしかめて「いてて。脇腹が」と苦しそうな声を上げた。
「大丈夫ですか?」
 シャーリーがかがみ込んで様子を伺うと、七雄はぱっと表情を変えて彼女の手を取り引き寄せた。
「きゃっ」
 ベッドの上で抱き合って寝そべる形になる。
 シャーリーは慌てて起き上がろうとはしない。
「……これもチエちゃんに振られた腹いせですか?」
「これは違うな。俺シャーリーの結構事好きだし」
「……離してください」
「これでも傷心してんだから慰めろよ」と軽薄な笑みを浮かべる。
 七雄の手は拘束と呼べるほどの事ではなく、ただシャーリーの手を握ってるだけだった。しかし彼女はそこから暴れて抜けだそうとはしない。
「シャーリーが相手してくんないなら、やっぱりチエちゃんにちょっかい出しに行っちゃおうかな~」
 シャーリーが盛大にため息をつく。
「……八雲君への対応で見直したと思ったらこれですよ」
「良いじゃん。ほら、一回だけ。祝勝会って事でさ」
 気軽に笑いながらシャーリーをベッドの縁に腰掛けるように上体を起こさせると、隣に腰掛けて肩を抱いた。
 シャーリーは顔を背けながら、「……七雄さんのそういうところ嫌いです」と呟いた。七雄はその顎を掴むを自分の方へと振り向かせる。
「どういうところ?」
 聞き返しながら唇をそっと重ねる。シャーリーも抵抗しない。肩を抱いていた手が胸元に伸びるとパジャマのボタンを外していく。白を基調としたシンプルながらも大人びた刺繍のブラジャーと、その色や控え目なデザインとは対照的な褐色の爆乳が顔を出した。それを優しく持ち上げるように揉みながら、七雄は気さくな様子で唇を啄む。ちゅ、ちゅ、と淡白な音を奏ながらも、シャーリーのうっすら開いた瞳はどこか不満気でやるせない。
「そうやって、人の心を弄ぶところです」
「嫉妬してる?」
「してません」
「怒んなって」
「怒ってません」
 小競り合いをした後のカップルのようにキスと前戯を進めていく。ブラが外され、手がショーツの中に入るとぐっしょり濡れていた。
「もうチエちゃんの話はしないからさ。絶対手も出さない」
 優しく語りかけながらシャーリーを押し倒すと残りの衣服も脱がしていく。シャーリーの両腕が自ら七雄の腕に巻き付いた。



 清水が両手に資料の束を抱えて廊下を早足で急ぐ。
「あ~もう一気に忙しくなったな。八雲達の生活環境整えて、あとは戸籍もどうにかしないと。主任はどこだ? シャーリーの診察か?」
 丁度通りかかった第二医務室をノックする。
「誰か居る?」
 扉越しにシャーリーのくぐくもった声が聞こえる。
「……はい」
「主任は?」
「先程診察を終えて退室しましたけど」
「じゃあ研究室の方かな。ありがとう」



 シャーリーはベッドに腰掛ける七雄の前で跪いていた。清水との会話中も亀頭に口づけを重ね、そして言葉を発する必要が無くなると目前の剛直を頬張り、血管を浮かばせる肉竿の表面に唇を滑らすように熱心に首を前後させた。くっちゅ、くっちゅ、くっちゅ、くっちゅ。
「あぁ。シャーリーのフェラが一番気持ち良いよ」
 頭を撫でながら心を込めた風を装って言う。それを額面通りに受け取るほどシャーリーは無垢ではないが、それでも口の中で七雄がより硬さを増すと、巻き付かせる舌についつい力が入る。絡みつく唾液も増してより卑猥な音を鳴らす。じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ。
「最初教えた時も勉強熱心だったよな」
 シャーリーは口を離すと、亀頭から根元に掛けて唇を裏筋に「ちゅ、ちゅ」と這わせて行く。シャーリーはなるべく表情に感情を表さないように努めるが、目の前でビキビキとそそり起つそれを目にする瞳に宿る熱は誤魔化しようが無い。七雄の睾丸を口に含み、熱心かつ丁寧に舌で転がすシャーリーの陰部からは愛液が糸を引くように床に垂れていた。
 従順に奉仕する彼女の頭をぽんぽんと叩く七雄の手はまるで恋人のように慣れ親しんでいる。
「挿れていい?」
 シャーリーは睾丸への奉仕を中断すると、耳に掛かった髪を掻き上げながら亀頭を舌で舐め上げた。
「嫌です」
 その言葉に棘は無い。
「そう言わないでほら。ちゃんと労ってやるからさ」
「結構です」
 口で我慢してください、言わんばかりに亀頭舐めを続ける。普段の温厚な印象とは違う、人を突き放すような態度を取る。
「機嫌直せって」
「だから怒ってません」
 亀頭を一気に呑み込むと、鬱憤を晴らすように、じゅぽっじゅぽっじゅぽっ、と唇で性交する。
 両脇に手を差し込んで持ち上げる素振りをする。さほど力を必要とせずにシャーリーは立ち上がり、ベッドに正常位で寝かすと、陰唇に亀頭をあてがい、流れるように挿入を完了する。その間シャーリーは唇を結って視線を横に向けていた。
「んんっ、あぁ……」
 びくんと瞳を閉じると、不服そうに七雄に流し目を向ける。
「……ゴムしてください」
「しちゃうとシャーリーの好きなとこゴシゴシ出来なくなっちゃうけど? ほら、ここ」
「はっ、ん……」
 下から抉るようなピストンの角度で、ねっとりと段差の高いカリでGスポットを擦りつけながらそう言う。
 シャーリーの控え目な性格とエキゾチックな顔立ちを同居させる愛らしい表情が弱々しく蕩ける。
「そういう強引でズルいところも、大っ嫌いです」
 七雄が顔を近づけると、やはり自ら両腕を彼の首を抱きしめ、瞳を閉じ、唇が触れると舌を差しだした。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」
 貸し切りの医療室に、切なげな喘ぎ声とベッドの軋みが慎み深く鳴り響く。
「あっあっ、タクヤさんっ、そこっ、ダメ……」
 いとも容易く自身を溶けさす恋人でもない男を、思わず甘ったるく名前で呼んでしまう。
「どうして?」
 なるべく無感情の外面を決め込もうとしていたシャーリーの表情から恥じらいと罪の意識で零れる。
 口に出してはいけないと理解しつつも我慢が出来ない。それは自身を抱く男への称讃でもあり、恋人を慮って言わせないで欲しいという懇願でもある。
「……だって、その一番深いところ、タクヤさんしか届かないから……」
 内面とは真逆の自己主張の激しい身体は、密着すると否応無しにその弾力で男の胸板を押し返す。
「だから、その、あまりそこばかり、されると……んっんっ、はぁっあっ、あっ、あっ、あっ」
 七雄はごちゃごちゃ言うなとばかりに唇を奪って舌を絡める。シャーリーからも積極的に絡み返した。くちゅくちゅと唾液が混ざり合う。下の結合部もにゅるにゅると粘度を伴った摩擦音を鳴らし、褐色の臀部を白く泡立った本気汁が垂れていく。
「あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっ♡ タクヤ、さん……もう、あたし、その、すいません……イって良いですか?」
「流石企業最速の魔女」
 はぁはぁと息を荒げながらシャーリーが顔をしかめる。
「……茶化さないで下さい」
「セックスは楽しくやるもんだ」
 シャーリーが下唇をきゅっと噛んで七雄を睨み上げた。
「あたしは、タクヤさんのそういう考え嫌いです……セックスは、真面目に、男女の営みであるべきです」

 七雄が下腹部を密着させて、奥底を持ち上げるように腰を押し込む。
「あっん」
「彼氏じゃ届いてくれないとこ気持ち良い?」
「……お願い、そういう風に、言わないで」
 シャーリーの全身は汗でじっとりと濡れ、呼吸も悩ましげに浅くなっていた。その魅惑の肢体により熱を灯すように腰をぐりぐりと押しつける。
 恋人を想い胸を痛めるシャーリーだが強制的に甲高い声を上げさせられる。
「あっ、あっ、あっ♡」
 大した運動でも無いのに、豊満なバストがたぷたぷと波打つ。七雄がその褐色の肌よりも色素が薄い乳首を口に含みながら呟く。
「やだっ、だめなのに、あっあっ♡ イクっ♡」
 シャーリーの身体がぴくんと小さく痙攣する。
「気持ち良くなってるのは身体だけか?」
 息を切らしながらシャーリーが目を逸らす。逃がしはしないと七雄が追撃する。
「シャーリー、俺の事大好きだもんな」
 その言葉にシャーリーが目を瞑ると、絶頂の余韻が消えない彼女の身体を、七雄の腰が再び揺すり出す。
「んっ……はぁ……あっ、ん」
 シャーリーは何も言えないまま、左手で目元を隠す。薬指の指輪が医務室の蛍光灯を頼りなさそうに反射した。
「だから俺から過剰なくらい逃げ回るんだよな?」
「……わかってるならちょっかい出さないで下さい」
「素直じゃん」
「どうせ駆け引きじゃ歯が立たないですし」
「よくわかってらっしゃる」
「……お願いします。もうこれで最後にしてください。あたし、恋人が一番大切なんです。これ以上あたしの心をかき乱さないで下さい」
「やだ」
 ベッドの軋み音が徐々に加速する。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」
 乳首から鎖骨まで舌を這わし、首筋を吸いながら尋問するように言葉を掛ける。
「真面目なもんだから初めての相手ってのも気にしてんだよな? 古風だねぇ。堅い。お堅いぞ。身体はどこもプルプルなのに」
 その言葉は正しかった。貞操観念が人一倍強い彼女は処女を捧げた男性を特別視せざるをえなかった。
 それに加え魔法少女時代に苦難を共にし、唯一頼りとなる身近な異性であり、そんな緊迫した日常の中で幾度となく身体を重ねた男への想いは、一生消しようのない刻印として心と身体に刻まれる。吊り橋効果の上位互換とも言えるもはや刷り込みに近い感情。
 シャーリー自身もこの感情が普通とは違う心理が影響している事は理解してはいるものの、だからといって簡単に割り切れるような人間ではない。彼女は良くも悪くも仲間想いの情深い人間だった。
 七雄がシャーリーの左手を握ってどかす。
「ほら、好きって言ってみ?」
 からかうようなその言葉に、シャーリーは眉根を下げながら首を縦に振った。しかし七雄の目線が同じ高さまで昇ってくると、深く濃厚なキスをする。シャーリーの両手も七雄の背中から頭まで、指を這わせては抱きとめた。その様子は情熱的の一言。
「好きなんだろ?」
 くちゅくちゅと卑猥な音を奏でる舌による交接の最中、シャーリーは小さく頷いた。せめて言葉を介さない事が彼女なりの妥協点だったが、蟻の一穴は鉄壁すら瓦解させる。
「後ろからするから」
 顔を付き合わさないという逃げ道を更に与える。
 シャーリーが無言かつ緩慢な動作で四つん這いになる。その実、七雄の思惑通り少し安心していた。
 如何にもアスリート体型の引き締まった背中を見下ろしながら、程よく肉がついた臀部を両手で掴み、腰だけで膣口にあてがって再挿入する。日々陸上部として活動する事で密度を増した肉壷が「ぬちゅ」ときつめの抵抗感で男根を受け入れる。
 一度奥まで埋没させると、パンパンパン、と軽快に腰を叩き付ける。すっかり濡れそぼった膣道は締まりつつも潤滑な摩擦を実現させる。
「あっ! あっ! あっ!」
 柔肉がしっかりとぎゅうぎゅうに絡みつく挿入感に、甲高くも切ない声。思わず七雄も「いいね」と口角を上げる。
 注送を加速していく。
「あっいっ、いっいっい♡」
 しばらくは単調に抜き差しする。自身の味を丹念に叩き込むように、他の男では満足出来ないのではないかと思わせるように。
 そして頃合いを見計らってペースを落とす。前後運動は微か。溜まらずシャーリーの方から腰をうねらすと、出来るだけ真剣な口調で言う。
「彼氏と別れてくんない?」
 シャーリーの肩甲骨がきゅっと強張る。
「ちゃんと付き合うからさ」
 あからさまに気の抜けた声色だが、それでも他の男では味わえない、それこそ本当に好きな恋人でも到達不可能な高揚の最中にいるシャーリーにとっては、シロップを塗りたくられた甘言でしかない。
 七雄は上体を前方に折り曲げ、左手をシャーリーと重ね、右手は豊かに実った乳房を揉みしだき、腰は臀部に隙間無く密着させてグリグリと子宮口を突く。
「な? 良いだろ?」
「……お願いします。許してください」
 シャーリーは理解している。このまま責め立てられたらどんなバリケードも意味を為さない。きっと自分が籠絡される事を。しかし逃げる事も出来ない。身体は悦んでいる。逃げたいと思うはずがない。だから出来るのは許しを乞う事だけ。
「だめ、許してやんない」
 シャーリーの左手を、乳房を掴む手を強めると、腰をぐいっ、ぐいっ、と押す。
「あぁっ! あっ! あぁっ♡」
 シャーリーは切なそうに喘ぐと、シーツをぎゅっと握りしめ、そして何かに屈するように頷いた。苦痛や恐怖ならいくらでも耐えられる。強大な敵ならいくらでも立ち向かえる。しかし仲間から得られる快感は、抗う術を持たない。
 七雄の右手が乳首を絞るように摘まむ。
「本当は俺の事ずっと好きだったもんな?」
 七雄は上体を起こすと、再び小気味良く腰を振る。
「なぁ?」
 今度は頷くだけでは許さないという七雄の冷たい意志が見える。
 シャーリーは喘ぎながら、再び首を縦に振った。
「……好き、です」
「じゃあ今から別れのメッセージ書けよ。送るのは後で良いから」
 携帯を取る手。文字を打つ手。それら全てに激しい罪の意識が見て取れる。七雄はそれを見ながら口端を歪め、親指の腹で肛門を弄った。バックで責め立てながら興味本位で別れさせる。七雄はこの瞬間が女を抱く上で最も恍惚を感じる時間だった。
 後背位で貫かれながら、命を賭けてまで守ろうとした恋人から奪われる女の背中は、例外無く美しく官能的だった。別れを告げるメッセージで悩む女を突き刺しながら弄るアナルは何よりも甘美な感触がした。
 シャーリーが無言で携帯を脇に置く。
「書いた?」
 極度の罪悪感を伴った小さな頷き。
 ピストンを中断して頭を撫でると、「ありがとうな」と優しく声を掛ける。
 七雄は携帯を拾い上げると、「じゃあ送るな?」となんとも気軽かつ勝手に送信ボタンを押す。「え、そんな」「後も今も変わんないって」どれほどの想いを込めた文章かなんて一瞥すらしない。長々と謝罪が記されていたが、七雄にとっては明日の天気よりも興味が無い。
 そして全てを忘れさせる為に、書き換える為に激しく犯す。この身体は愛する人と幸福を育む為ではなく、俺の性欲を満たす為にあるのだと躾ける。
「あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっ!」
 恋人への想いが捨てきれない狭間で奏でる嬌声が、どんなセックスよりも味わい深くて好きだった。
「指輪外せよ」
 ガツガツと突き上げながら冷たく言い放つ。
 甲高く喘ぎながらも、シャーリーの右手が葛藤と苦悶を伴った重々しい動きで薬指を掴む。しかしそこから踏ん切りがつかないのか動かない。右手で指輪を掴んだまま涙を零していた。それを目にした七雄の剛直は更に硬度を増す。バ
 シャーリーの左手に手を伸ばし、無造作に指輪を剥ぎ取ると、手近にあったゴミ箱に投げ捨てた。
 ピストンを続けながら、指輪を剥ぎ取った感触がまだ残る指でシャーリーのアナルを優しく撫でる。
「好きだよ。シャーリー」
 台本をなぞったような声色。
 シャーリーは嗚咽を漏らしながらも喘いだ。
 勿論七雄にとってはこの瞬間がピークで、大抵は一月もせずに捨てられる。元サヤに戻す時もハメ撮りをしつつ電話をさせるのが良い肴になる事を七雄はよく知っている。
 射精感が立ち上ると、膣から抜き出してアナルの方に挿入して果てる。輪ゴムに締め付けられるような独特の挿入感は、絞り取るような射精の快感を得るにはもってこいだった。射精の為だけのぞんざいな接合。
 シャーリーは己の尻穴で自慰のような射精をされながら、涙を流しながらも絶頂していた。過ちだとわかっていながらも抗えない男の感触。だから今までずっと逃げ続けた。でもいつかこうなる事を望んでさえいたような気がして、それが情けないやら許せないやらで、彼女の嗚咽はより深く重く堕ちていく。
 七雄はシャーリーの後悔を身体で射精を楽しみながら、ふと思いつきで彼女の携帯でアカリに電話を掛けてみる。自分の携帯はとっくの昔に着信拒否されていた。
「はいもしもし」
「あ、アカリ? 俺俺」
 二秒で電話を切られる
(なんだよチエちゃんの事教えてやろうと思ったのに。でも安心しろよ。あの子は幸せにやってけると思うぞ。良い相手見つけたしな。俺も手ぇ出さないって約束したし)
 後輩として可愛がりつつも、男としても認めた八雲の前途を祝して満足気に穏やかな笑顔を浮かべると、シャーリーの携帯が今度は彼女の恋人からの通知を知らせる。シャーリーの肛門の中で七雄が再び雄々しさを取り戻す。
 七雄は世代や人種に関係無く、女という性別を見下していたし、男という性別に対して強い連帯意識を持っていた。男であればどんな相手でも善意を持って友好的に接する。
 ただし己の愉悦を増幅する道具として見なされた場合はその限りではない。
 シャーリーの意識と五感が全て男根に向けられているであろう甘美に震える背中を確認すると、携帯の通話ボタンを押した。
「はいもしもし。あ、シャーリーの元彼さん? ああそうです今彼です。今ですか? 貴方の元カノの尻穴でセックスしてます。ほら、聞こえます? ニュプニュプってやらしい音。抜こうとするとすっごい吸い付いてきて離そうとしてくれないんですよね。あ、すいません。また精液出そうなんで一旦切りますね。シャーリーもお尻でさっきからイキまくってるんで。ええ、この電話中も。ずっと貴方にごめんなさいって号泣してるんですけどね、何回も肛門でぎゅうぎゅうに締め付けてきてもう堪んないんっすよね。めっちゃ気持ち良いですよマジで。そんじゃ失礼しまーす」
 通話ボタンは切らずに携帯を結合部の真下に置くと本腰を入れてピストンする。
「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」
 引き締まった臀部がパンパンパンと乾いた音を。既に一度精液を放たれたアナルがグチョグチョと粘り気のある音をそれぞれ鳴らす。
 更には陰唇から漏れる愛液が直接携帯に滴り落ちた。未だ通話中の表示を続ける液晶を、シャーリーの本気汁が濡らしていく。
「あっいっ♡ いいっ、あぁっ♡ だめっ、タクヤさんっ、お尻、壊れちゃうっ」
「あんま喘ぐと元彼が聞いてるぞ」
「やっ、だめっ、聞かないでっ……やだっ、やだっ、あっあっ♡ ごめん、なさいっ、あっひっ♡ お願い、聞かないでっ、いっいっ、あっはぁっ、んっあっ! やっ、イクっ、このおちんちん、おっきぃっ♡ あっあっ、イクイクっ、あっだめっ、またお尻でイクっ♡」
「俺の事好き?」
「やだっ、聞かないでっ、あっあっ♡ 好きっ、だからっ、あいっ♡ 好き、ですっ、タクヤさんが、好きっ♡ あんっあんっ、くるっ、くるっ、おまんこみたいに、お尻に昇ってくる♡」
「元彼と新しい彼氏のどっちのが良い?」
「……やだ、そんなの、嫌です」
 駄々を捏ねる子供を戒めるように、下腹部をグリグリと押しつけて奥まで貫く。無理矢理返答を催促する男根による尋問。
「ひぃっ、いっ♡ あ……あっ……こ、こっちのが、気持ち、いいです……♡」
「どう違う?」
「……新しい彼氏のおちんちんのが…………大きくて、奥まで来ます」
 褒美と言わんばかりに優しい声を掛ける。
「後で俺達も子作りしような」
 シャーリーが余裕無くコクコクと頷く。
「ちゃんと言えよ」
「す、する、します、からっ、このおちんちんで、妊娠しますっ、あっあっあっ♡ やっ、イクの、止まらないっ、あっ♡ あっ♡ あっ♡ タクヤさんっ、好きっ、好きっ、あっあっ♡ イクイクイクっ、イック!!!」
 シャーリーの絶頂とタイミングを合わせて射精する。収縮する肛門で精液を放ちながら携帯に手を伸ばすと、丁度通話が切れるところだった。二人で絶頂するところまで聞いていた事を確認すると、七雄は得も言われぬ満足感に包まれる。恋人が他の男に肛門を犯されながら子作り宣言するのをどんな顔で聞いていたのだろうと想像すると、柔らかいアナルの感触と合わせて、下卑た笑みと射精が止まらない。
「あ~くそ、めっちゃ気持ち良い」
 思わず声に出る程に、男としての圧勝は心地好かった。
(五人囃子も脱退したからそこまで丁重な扱いしなくても大丈夫だろ。トモエの時は結構こっぴどく怒られたよな。佐倉なんかはサバサバしてるからその辺影響薄くて大丈夫だったけど。しかしシャーリーの後釜って誰になるんだろ。数人の候補は思い浮かぶけど、いきなりシャーリー並の実力期待するのは酷だよなあ)
 そんな事を考えながら残尿感の始末をする。
「ひぃっ♡ いっ、ひ……♡」
 快楽以外は何も余地が残らない褐色の背中の痙攣を見下ろしながら考え事を続けた。
 思い浮かべた数人の次期五人囃子の候補。その僅か下に浮かぶ、まだ企業には属していない顔。
(そろそろアカリを勧誘しにいかないと。しかしあの様子だとサトシと良い感じなんだろうな。もう俺の事も忘れかけてたんじゃねーの。無言でもめっちゃ息呑むのわかったし。直接顔合わせたら本当に殺されるかもな)
「そんな嫌がらなくても。なあ?」
 一仕事した男根を慰労するように腰を前後してアナルで扱く。
「あいっ♡ いっあぁ♡」
 シャーリーの背中がびくんと反り返る。悲哀の涙を流しながらも、七雄の腰に合わせて砂糖を零したような吐息を吐き続けた。



「どしたのアカリ? すっごい恐い顔で顔で携帯睨んで」
 ルリに指摘されるとアカリはため息をついてから携帯を鞄にしまった。放課後のファーストフード店でお茶をする女子学生二人というありふれた光景だが、先程からアカリの放った殺気の所為で近隣の鳥が騒がしい。
「なんでもない。悪戯電話だった」
「へー。それでも珍しいね。アカリがあんな表情するなんて」
 元魔法少女とは思えない鈍感さでルリがジュースのストローを咥える。少しでも魔術に心得がある者ならば、アカリが現在放っている魔力に近寄ろうとはしないだろう。
「あたしだって苛つく事くらいあるよ」
「へ~。サトシ君と喧嘩しと時とか?」
「サトシと喧嘩ねぇ。記憶に無いなぁ」
 先程のイレギュラーな電話の事などもうすっかり忘れたように視線を遠くにやる。一見無表情だがどこか穏やかでもある。
「たまにはちょっとくらいした方が良いんじゃないの?」
「そうかな。ああでも昨日は少し怒ったよ」
「珍しいじゃん。なんで?」
 アカリはしまった、と内心自分の失態を悟った。何気無く返答してしまったが、追求されると口に出来るような話ではなかった。
 昨日の放課後、サトシの部屋で受験勉強をしていた二人は、付き合い立てのカップルよろしく互いの身体を求め合う事を我慢出来ずにセックスしてしまった。そこまでは良いのだが、思った以上に盛り上がってしまい、夕食の休憩を挟んで合計五回戦まで致してしまい、最後はゴムが無くなりつつも収まらないサトシが半ば強引に生挿入まで持っていった事を事後に叱った記憶はまだ鮮明だ。
 しかし自らもサトシと生で繋がれる事に歓喜してしまい、あまつさえ射精時に自分から両手両脚でつなぎ止めてしまったものだから、あまり強くは言えなかったという、どう考えても惚気にしかならない上に生々しい性生活の話なのでアカリは口を噤んだ。
「なんで顔真っ赤にしてんの?」
「してない」
「あ、わかった。サトシ君が満足させてくれなかったんだ?」
 一人勝手に恥じらっているアカリをよそに、ルリがケラケラと笑う。
 無表情のままのアカリの両手がルリの頬を摘まんで左右に広げる。
「ごめんなひゃい」
「さて。ルリの相手もしたしそろそろ学校戻ろうかな」
 アカリが腰を上げようとすると、ルリが不満そうに唇を突き出した。
「テレビのインタビューだっけ? 天才美少女剣士は大変だね」
「美少女かは知らないけど」
「天才なのは否定しないんだ? そりゃそうか。余興とはいえ男子の県大優勝者に勝っちゃったんだもんね。これからも注目されるんだろうな」
「大袈裟。どちらにせよ部活はもう引退だし」
 アカリは立ち上がりながら自分の手の平に視線を向ける。
 最近は自分でも思う。誇張や傲りではなく、少し強すぎる。変身してもいないのに、集中すると勝手に溢れ出てきてしまう魔力がその一因である事は容易に想像できた。
(今度あの主任とか言う人に相談しにいこう。剣道はあくまで競技なんだからこんなのはフェアじゃない。でも自分じゃ日に日に沸いてくる魔力を制御出来ない。今じゃどんな強敵相手でもスローモーションどころか三手先まで映像として浮かび上がる)
 手の平を握ると、拳を纏った魔力が炎のように揺らめいた。何とはなしに彼女はかつて力を欲していた後輩を思い出す。小さな身体に小さな拳。しかしその眼差しは誰よりも真っ直ぐで、秘めた勇気は何かの契機に噴煙を上げそうなほどくすぶっていたのをアカリは感じ取っていた。
(チエちゃん、元気かな。でもあの子ならきっと大丈夫。サトシにも負けない心の熱を持ってる子だった。当然といえば当然だけど、彼女の空手と組み合ったことが無い。もし再会が叶うなら異種格闘技戦になっちゃうけど、いつか手合わせしてみたいな)


中編に続く