お母さんの顔をはっきりと思い出せなくなったのはいつからだろう。
綺麗な人だったような気がする。
背中や腕に刻まれた痣がやけに痛々しくて、そっちの方が印象強く記憶に残っている。
お父さんの顔をしっかりと見ることが出来なくなったのはいつからだろう。
いつも怒鳴っていたし、少しでも気に食わないことがあればすぐに手を上げる人だった。
だからあたしは出来る限り静かに、息を潜めるように生活をしていた。
弟はあたしよりも小さくて、いつも理不尽な恐怖に震えていた。
あたしの心が壊れずにすんだのは、きっとあの子の泣き顔を、少しでも笑顔に変えてあげたいと思っていたから。
今でも思う。
あたしに力があれば、お母さんや弟を守れたんじゃないかって。
皆がバラバラにならなくても済んだんじゃないかって。
一緒に生活出来る道があったんじゃないかって。
あたしはなけなしの勇気を振り絞り、何度もその不条理な暴力に立ち向かった。
小さな手。
小さな身体。
ひ弱な力。
それらは余計に怒りを買うだけで、結果としてはお母さんの痣が増えるだけだった。弟の嗚咽が続くだけだった。
あたしは強くなりたかった。
力が欲しかった。続きを読む
綺麗な人だったような気がする。
背中や腕に刻まれた痣がやけに痛々しくて、そっちの方が印象強く記憶に残っている。
お父さんの顔をしっかりと見ることが出来なくなったのはいつからだろう。
いつも怒鳴っていたし、少しでも気に食わないことがあればすぐに手を上げる人だった。
だからあたしは出来る限り静かに、息を潜めるように生活をしていた。
弟はあたしよりも小さくて、いつも理不尽な恐怖に震えていた。
あたしの心が壊れずにすんだのは、きっとあの子の泣き顔を、少しでも笑顔に変えてあげたいと思っていたから。
今でも思う。
あたしに力があれば、お母さんや弟を守れたんじゃないかって。
皆がバラバラにならなくても済んだんじゃないかって。
一緒に生活出来る道があったんじゃないかって。
あたしはなけなしの勇気を振り絞り、何度もその不条理な暴力に立ち向かった。
小さな手。
小さな身体。
ひ弱な力。
それらは余計に怒りを買うだけで、結果としてはお母さんの痣が増えるだけだった。弟の嗚咽が続くだけだった。
あたしは強くなりたかった。
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