<大西総合法律事務所 大西洋一先生><ほくと総合法律事務所 関秀忠先生>

2010年07月09日

<伊藤塾塾長・法学館法律事務所所長 伊藤真先生>

photo_ito伊藤塾塾長・法学館法律事務所所長 伊藤真先生にインタビューをさせて頂きました。

Q1 伊藤塾塾長としてではなく、あえてひとりの法律実務家として、今いちばん関心があるのはどのようなことですか。
A1今一番関心があるのは、やはり一人一票実現運動です。日本において、一人一票を単なる理想ではなく現実のものとする。この運動は、まさに平和的な民主主義革命のための運動なのであって、日本において民主主義・立憲主義を真に実現していく上でとても大切だと考えています。憲法に関連しましては、一人一票実現運動の他に、平和主義の側面にも関心があります。今年は、安保改訂50年という節目の年でもあります。今こそ、辺野古・普天間の問題は、日本の安全保障がどうあるべきなのかという視点から実務家として考え直さなければならない問題だと思っています。そして憲法の価値を、多くの人に知ってもらうために、年間100回以上の講演活動や執筆活動を行っています。



Q2 現在のような、法律を教える活動をしようと決めたきっかけはどのようなものですか。資格に合格された時点でどのようなことを考えていらっしゃったのですか。
A2 司法試験に合格したとき、その当時では誰もやっていなかった勉強法で勉強をしていました。それは、論証のパターン化やフローチャートの使用といったものです。新しい勉強法を自分なりに追求して、最大限の努力をしました。そのとき考えていたのは、もし不合格になったとき、努力が不十分であったら、不合格の原因が努力不足なのかそれとも勉強方法のミスなのか、判断出来なくて困るということでした。そこで努力を最大限にしたところ、司法試験に合格することができました。しかし今度は、逆に受かった理由が勉強方法が斬新だったからか、努力したからなのかが分からない、検証できないという問題にぶつかりました(笑)。そこでその勉強方法を友達や後輩に教えたのです。すると、彼らは非常に感心してその勉強方法を実践し、そして彼らも合格することができました。そうして、その勉強法の良さを確認することが出来たので、これを勉強方法で苦しんでいる受験生に広めていこうと、受験指導の道に進んだのです。
受験当時は、誰もやったことのない勉強方法で合格しようとしていたので、やはり不安でした。正しいかどうか分からない方法の正しさを、証明しようとしていたのです。そして勉強していく過程で、憲法の面白さ、法律の面白さを発見していきました。そのとき憲法に熱くなる自分を初めて発見したのです。それから、憲法に関わる自分を夢に思い描いたのですが、それがどんな仕事なのか、当時はわかりませんでした。ただ漠然と問題意識だけは持っていました。憲法は、先人たちが血と汗と涙で作り上げてきた、ここ数千年の歴史の中で人類最大の発明だと考えています。憲法について勉強することで、そこに携わる人たちの生きざまが出てきます。そしてそのような憲法にかかわる生き方を私もしたいと思ったのが、護憲活動のきっかけでした。

Q3 先生が司法試験を受験なさった頃から、大きく司法試験制度が変化しました。受験指導者として、この変化をどのようにお考えですか。
A3当初の理念と現実があまりにかけ離れて、現実が理想と逆に進んでしまったことが残念でなりません。私は当初から、法曹界に多様性が欲しい、他学部生・社会人にも法律を教えたい、そのような人々に法律家になってほしいという理想をもっていました。昔は、法律を自宅で勉強するとき、みなカセットテープを使っていました。私が伊藤塾で映像を使った画期的な指導方法を作った契機は、そのような自宅で法律を勉強する人たちを助け、多様な法曹を産み出したかったからです。その理念はまさに新しい司法試験制度と同じものでした。
しかし今日実際に作られた制度は、現実を完全に無視した制度でした。現場を知らない官僚と学者の愚策の典型と言えるでしょう。政策として、失敗の典型だと思います。制度を作る者たちが、現場の実態の調査もせず、科学的実質的検証が何もなされていない。事実に基づかずに憶測と思い込みだけで作られた制度でした。その理念は良かっただけに、非常に残念です。
私がこの制度を失敗と考える理由は、志願者の激減、この一点に尽きます。志願者数が1/4に激減しています。5、6年でこれだけ人気がなくなる制度も珍しいのではないでしょうか。
新しい制度のもとでは、社会人などが逆に法曹になりにくくなってしまいました。社会人は1000万以上の貯蓄がないと、事実上ロースクールなど行けません。この新しい制度で、弁護士のみならず、裁判所・検察にも優秀な人材が集まらなくなります。司法に優秀な人材が集まらなくなってしまう。この事態は、憲法の三権分立、この国の根本が崩れてしまうきっかけになってしまうかもしれません。非常に深刻な事態です。しかし、ロースクール制度の推進派の方々の多くは現場の深刻で悲痛な声に耳を傾けることをせず、この失敗を認識できていません。非常に残念なことです。

Q4 学生・塾生に何か変化はありますか。
A4 過去に辛い経験をしたから法律家になりたいだとか、自分の多様な経験を生かそうという意欲ある学生が、資金的な理由から諦めざるをえない、という現実があります。社会人も諦めざるをえない。この状態はすごく残念です。ポテンシャルがある人が法曹になろうと思ってもなれないという現状があるのです。
法律家は高い志をもって、高い障害を乗り越えていかなくてはなりません。現在は、受験制度が法律家になるルートではなく、バリアになってしまっています。しかし、そのバリアを乗り越える気概もって努力することは、法律家にとって必要なことであり、そのように前向きに捉えて努力をしていく他ありません。
これから始まる予備試験については、前向きに認識しています。法曹界の多様性のために、最後の救いとなる制度だと認識しています。予備試験を例外的なルートとするのではなく、予備試験の定員も多く確保して人材の多様性を確保するための制度として確立していくことが必要だと思います。
弁護士を増員していくことは必要だと思っています。しかしあまりにもペースが早すぎます。法律家のニーズの予測が甘いのです。年間3000人という数字はアメリカの年次改革要望書からもってきてしまった数字に過ぎず、科学的根拠や実証的根拠はなんらありません。
このような法曹界の現状を不安に思う学生がいるのはある意味仕方のないことです。大手4大法律事務所に行きたがっている学生が多いというのも、頷けます。そもそも一流大学に進んだ学生は、もともと大学行くなら東大・早慶でしょ、という発想の高校生だった人たちです。群れで生きて行こうという発想を持っているのかもしれません。しかし、本来はもっと多様な生き方・考え方ができるのにもったいないです。自分の可能性を4大事務所に行くと決めることで、あえて狭めてしまっている。自ら自分の可能性を否定してしまっている。これは残念な傾向だと思います。

Q5 学生時代、司法試験の勉強以外にはどのような活動をしていましたか。
A5 3年生まで、東大のオーケストラでトランペットを吹いていました。あとは車を改造して乗り回すのが好きでした。今考えると違法改造だったですけどね(笑)。
あと、ディスコブームだったのでそのブームに乗っていました。あのマイケル・ジャクソンと同い年でムーンウォーク練習をしたりしていましたね(笑)。
六本木で遊んでいたときに、アメリカ人ジャーナリストと仲良くなってその人に触発されるという経験がありました。当時芦部先生の憲法の講義をうけていた私は、憲法についてそれなりに理解しているつもりでした。しかしそのアメリカ人ジャーナリストに、日本の憲法で一番大切なものは何か、と聞かれて、応えることが出来なかったのです。そして彼に、そんなことに答えられなくてよく日本人やっていられるな、アメリカ人なら小学生でも分かるぞ、と言われました。これが私を真の憲法学習に目覚めさせるきっかけになりましたね。憲法と法律の違いは何であるか、というような巨視的な見方をするようになりました。このアメリカ人に触発されてから、私の切り替えは早かったと思います。

Q6 弁護士になっていなかったら、どのような職に就いていたと思いますか。
A6 とりあえず世界を目指していました。もともとは外交官になりたかったのです。それで東大を目指しました。そして受験の時も東大の文科一類だけうけて、幸運にも合格することができました。
うーん、商社マンになっていたかなぁ。当時は、バリバリの商社マン、というのが格好いい時代でしたからね。

Q7 休日には、なにをしていらっしゃるのですか。現在の御趣味は。
A7 前からの趣味は、汽車の模型を真鍮で作ったり帆船模型を作ったりすることでした。結構凝っていましたよ。最近はチェロを始めて弾いています。もっと時間が取れたら旅行もしたいなぁ。それこそ各駅停車でゆっくりとした旅行をね。ゆっくり急げ、は伊藤塾のモットーでもあって、フェスティナレンテというラテン語の和訳ですが、これはスイスの氷河急行にも使われているのですよ。
伊藤塾のスタディーツアーはやっぱり仕事なので、まぁ旅行ではあるのですが、それでも大事な塾生さんと一緒だし気が抜けませんね。

Q8 現在の弁護士界についてどのようなお考えをお持ちですか?そして将来の弁護士界にはどのようなことを期待していますか。
A8 今の弁護士の活動領域は少し狭いように思います。新しいことに対して足を引っ張る体制が、弁護士界にできてしまっているとしたら残念です。弁護士の活動領域を、もっともっと広げたい。政治、実業、経済、芸術など各分野に渡って、弁護士の活動できるフィールドはもっともっとあるはずです
渋谷の弁護士バーも批判する人がいたようだけど、そのような新しいことはどんどん挑戦するべきだと思いますよ。フロンティア精神を持った人がもっともっと出てこないといけないと思っています。
日本では、弁護士出身のトップリーダーはまだまだ少ない。弁護士出身の人が政治の世界を支えるという動きが少ないです。アメリカのオバマ大統領夫婦の例をあげるまでもなく、海外にそのような事例はたくさんあります。
また、弁護士が中央官庁や地方自治体に入っていくというのも必要な動きです。自治体の条例の立案能力はまだまだ低い。地方分権と言われながらも、地方に政策を立案していく人材はまだまだ足りていません。もちろん知事とか議長になったっていいのです。弁護士たちは、地方公務員の仕事にももっともっと入り込むべきだと思っています。
弁護士のニーズはあります。弁護士界が縮こまっているのです。弁護士の意識が狭い世界にとどまってしまっているのが問題です。
また、世界に出て行く法律家も必要です。環境問題、企業の渉外部門のサポート、それに国際人権の問題。中国の弁護士は、中国企業が世界にでて発展するのをサポートしています。そのような活動を日本の弁護士たちもするべきです。世界的な視野を持った弁護士も、まだまだ少ないように思います。

Q9 先生の将来のビジョンをお聞かせ下さい。
A9 やはり、日本を真の立憲民主主義国にしたいです。立憲主義の確立、中高生への憲法教育の充実、中高生に向けての教立憲主義育。政治家に働きかけながら、真の立憲主義教育を実現したいです。日本において、民主主義を実現しなければなりません。一人一票でなければ、真の民主主義にはならないのです。一人ひとりが持っている政治に対する影響力が対等であるということが、ベースであるべきです。それがあってはじめて民主主義と呼べる。その根本の部分が、日本ではいまだ実現出来ていないのです。
この民主主義は、国民の意思によって実現していくべきです。日本人は民主主義のために武器を手にとった経験がありません。なんとなく民主主義になってしまった。今さら武器をとるだとかそんなことはありえません。そこで、平和的な民主主義革命が必要なのです。最高裁で違憲審査を出してもらうことより、さらに必要なのは、最高裁の判事の国民審査で×をつけるということです。違憲判決が出てよかったね、というのでは、やっぱり受動的です。自らの手で、一人一票に消極的な判事の国民審査で×をつけて制度を自らの手で変えていくことが、国民の手で民主主義を実現するという意味で絶対必要なのです。
平和に関しては、アジアにおける集団安全保障の確立を日本の法律家がリーダーシップをとって確立していくことが肝要です。それにはいろんな関わり方がありますが、方向性だけでも提示して、もっと発言する、という姿勢が必要になってくると思います。

Q10 少し大きな話になるのですが、今後の日本という国や法律家の在り方について、なにか意見をお持ちですか。
A10 日本の持ち味をもっと生かすことです。外国の真似をする必要はありません。社会では、人と人がそれぞれの違いを認め合って、そうして社会が発展していきます。国際社会でも同じことです。違う国どうしで互いの良さをしっかり認め合って国際社会を発展させていく。その時の日本らしさというのは、平和憲法をもっていること、非暴力という考え方、科学技術の先端をいけるポテンシャルをもっていること、優しく勤勉な国民性といったことです。この国の人がこう、とか言うつもりはまったくないですが、やはり日本にはマジメで良い人が多いと思いますよ。地政学的な位置、自然なども活かしてこの国の良さがもっとでればいいなと思っています。中国との関わり方だとか。外国を意識して日本を定義するのではなく、まず自国ありきです。これは個人のありかたとしても大切なことですが、日本独自の理念、価値観を持って、日本はこれでいく、と堂々と主張すれば、変わり者だと思われてもいいのです。それが日本の良さになっていきます。
日本の法律家は、やはりもっと世界で活躍するべきです。発展途上国などでも、日本の法律家が活躍できる場面はたくさんあります。途上国では、もともとの宗主国の法律が押し付けられてしまい、もともとのその国の良さが法律に出せていない国も多いです。日本は法律後進国であったが故に そういった法制度整備に努力し、そして成功したという歴史があります。この経験を生かすべきです。
それ以外でも、国際機関での活躍も期待できます。企業法務の世界での活躍は当然です。積極的にどんどん世界に出て行くべきです。アメリカやEU、中国などの事務所に入っていき、自分の可能性を拡げるのもいいでしょう。日本の若い法曹には、もっといろんな世界に出て行って欲しいです。

Q11 最後に学生に対して一言メッセージをよろしくお願いします。
A11 理念や志を高く持ち続けろ。青臭い夢を追い求めることは、価値があることだ。
学生らしく夢を追い求め続けて欲しい。失敗を恐れるな。
こんなところですかね。


<取材法学部生からのコメント>
伊藤先生は伊藤塾の塾長として沢山の法律家を輩出されており、社会的影響力のたいへん大きな先生です。今回直接に伊藤先生にインタビューをさせて頂く機会に恵まれ、最大限有意義なインタビューを行いたいという強い意気込みで臨ませて頂きました。抽象的な質問に対しても真摯にお答え下さり、質・量ともに充実のインタビューを行うことが出来ました。
お話を伺って、憲法への確固たる思いこそが伊藤先生の活躍の原動力になっていることを実感しました。憲法に出逢った時の感動を変わらずに持ち続け、多様な活動に邁進し功績を残されてきたことは、一人の生き方として純粋に眩しいです。これからの伊藤先生のさらなる御活躍への期待も込めて、今回の記事は日本国憲法の条数に因んで弁護士列伝『103』番目の記事として掲載させて頂きました。伊藤先生、本当に有り難う御座いました。

東京大学法学部三年 我有隆司


伊藤塾塾長としての顔、護憲派の論客としての顔、弁護士として様々な顔を持っている伊藤先生に対し、どのようなインタビューをしようかとワクワクして、相方のガウ君と入念に準備してインタビューに望みました。その結果、“ひとりの実務家としての”伊藤先生にお話を伺うことができたと感じています。伊藤先生はやはり熱意の人なのだな、と思いました。受験指導に対する熱意、憲法に対する熱意、日本の社会問題に対する熱意、短いインタビューでしたが、それらを強く感じましたし、溢れる熱意を分けてもらえたような気さえしています。どのような話をするにしても、伊藤先生の意識の根底に流れている、一本ピンと筋の通った法律家としての信念が感じられるように思い、どんどん話に惹き込まれていきました。本当に貴重な時間を過ごせたと感じています。ありがとうございました。

早稲田大学法学部三年 岡野直幸




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