2011年09月22日

<永沢総合法律事務所 松本はるか先生>

松本はるか先生にインタビューをさせて頂きました。photo_matsumoto (1)

Q1.弁護士になろうと思ったきっかけを教えてください。
A1.私は、法学部出身ではなく、大学時代は社会学を専攻していました。
社会学は、社会について研究する学問ですので、当時の私は、色々な人に会ったり、色々な社会と接したりして、様々な価値観や文化・社会の構造を知りたい、そして自分の価値観や世界観を広げたいという気持ちが強くありました。
そのため、大学院に進んで社会学の勉強を続けることを考えた時期もありましたが、やはり実社会に出たいという気持ちがあって、法曹の仕事であれば様々な社会の人や会社の仕事ができるのではないか、といった期待を持っていました。
また、当時は(出身大学に法学部がないため)周囲に司法試験受験生がいなかったことから、司法試験を受ける人とはどんな人なのだろうという興味や、司法試験予備校ないし司法試験の受験界そのものに対する興味もあって、司法試験を受けてみることにしました。
そこで最初は、無謀にも某司法試験予備校が出版した問題集を買って民法の択一の問題を何問か解いてみたのですが、解説を読んでもさっぱり理解できなかったので、独学で合格することは難しいと思い、親に学費を出してもらって司法試験予備校に通わせてもらうことにしました。
受験生をさせてもらっていた時期には、家族や友達には本当に色々とお世話になり、大学を卒業した年に司法試験に合格することができました。
司法修習に行くに当たって、志望(裁判官・検察官・弁護士)を聞かれるのですが、父に相談したところ、父から「お客様からお金を貰わない仕事は、お金の有難味がよく分からなくなるから、公務員は駄目だ。」と言われました。私が弁護士になることを選んだのは、この父の言葉の影響が大きかったように思います。
また、私自身は親に学費を出してもらって大学や司法試験予備校に通うことができましたが、社会学の勉強を通じて、世の中には個人の力ではどうしようもない大変な状況の人もいるということも認識していました。そのため、できれば弁護士として社会的に恵まれていない人の助けになりたいという気持ちもあり、弁護士になることに決めました。

Q2.弁護士になって特に印象に残っている案件を教えてください。
A2.私は、現在所属している事務所の前に、公設事務所に勤めていましたが、同事務所にいた時に担当した裁判員裁判の模擬裁判が印象に残っています。
これは、実際に裁判員制度が始まる前に、裁判所・検察庁からは現役の裁判官・検察官が参加し、弁護士会も色々な事務所から弁護士を出してチームを作って裁判員裁判の練習をするという企画でした。
私たちの担当した事件は、被告人が強盗致傷で起訴されていたのですが、被告人としては、ただ逃げようとした時に相手の手をひねってしまっただけだ、という主張をしているものでした。私たち弁護人の主張としては、検察官の主張する強盗の実行行為は存在せず、窃盗未遂と傷害が成立するに過ぎないというものでした。
この案件は、他の事務所の先生4人と一緒に担当させてもらいましたが、どの先生も優秀で、ほとんどの先生が私よりも長いキャリアを持っておられたので、私自身とても勉強になりました。この模擬裁判のために、本当にたくさんの打合せを夜遅くまで行いましたが、そこで練った作戦が功を奏しまして、私たちの主張が全面的に認められました。
実際の裁判では評議の様子を見ることができませんが、模擬裁判では、裁判員と裁判官の評議の様子をライブビデオで見ることができました。この評議では、1人の裁判員が私たちの主張を受け入れ、他の裁判員や裁判官をも説得してくださった点が非常に印象的だったのを覚えています。
この模擬裁判の準備や実際の訴訟遂行の体験を通して、打合せはやればやるほどアイディアが出てくることや、複数の弁護士で事件処理をする場合には、一定の時間を一緒に過ごすことで、お互いの能力や微妙な「間」を理解できるようになることが分かりました。そして、結果として、お互いに最大限の力を発揮できるようになるのではないかと思うに至りました(長時間の打合せをやっている最中は、ただただ議論をまとめて早く終わらせたい一心でしたが・・・。)。
そのチームのメンバーとは、2年くらい経った今でも、とても仲良くさせていただいていて、年に一度くらい「同窓会」をしています。
当時はまだ裁判員制度も始まる前で、模擬裁判の経験をした人もとても少なかったため、弁護士会での研修や報告会に発表者として参加させていただいたり、この案件を担当した裁判官と意見交換させていただいたりと、たくさんの勉強をする機会に恵まれました。なお、昨年は、実際の裁判員裁判(傷害致死被告事件)を担当しました。

Q3.弁護士のお仕事のなかで嬉しかったことは何ですか。
A3.当事務所は、顧問先に損害保険会社があるので、その保険会社の代理人をすることが多いです。その保険会社の代理人として、非常に微妙な「モラル事件」を担当させてもらいましたが、当方の主張がそのまま裁判所に受け入れられ、請求が棄却され、確定した事案がありました。
「モラル事件」とは、保険の契約者の中に、ごくごく希に、いわゆる保険金詐欺と思われる請求をする(例えば、自宅や賃貸中のアパートに自分で放火しておきながら、保険金を請求する)人がいるため、保険会社がその支払を拒絶すると、その契約者から提訴されて保険金請求事件という形で裁判になるものです。
もともとモラル事件の場合は、目撃者が存在しないことが多いので、火災などの保険事故を契約者自身が発生させたことを立証するためには、保険契約締結に至る経緯や保険事故そのものの発生経緯が不自然であるとか、契約者の行動が不審であるなど、様々な不審事情の立証を積み上げる必要があります。そのため、モラル事件では、保険会社側にとっては非常に難易度の高い立証を求められるのが通常です。
加えて、先ほどの事案が更に難しかったところは、契約者(所有者)が自分で火をつけたのではなく、契約者から建物を賃借している別の人が火をつけた実行犯と思われた点です。そのため、当方は、一般的な不審事情のみならず、契約者(所有者)と賃借人との共謀をも含めた立証をする必要がありました。
この事案は、3人のチームで担当しましたが、お互いに協力し合い、非常に長い準備書面を作成するなどして主張・立証を尽くした結果、何とか裁判所に当方の主張を理解してもらうことができ、保険金の請求は棄却されました。そして、その後控訴されることなく確定しましたので、本当に良かったと思っています。
やはり弁護士としては、一生懸命取り組んだ訴訟事件で勝訴し、依頼者に喜んでいただけるというのは、とても嬉しいことだと思います。

前に所属していた公設事務所では、個人の依頼者が多かったのですが、依頼者から直接感謝していただけるということが、やりがいに繋がっていました。
公設事務所では、経済的に余裕がなく、法テラスから弁護士費用の援助を受けて、相談をされ、事件を委任される依頼者もたくさんいました。そういった依頼者の事件の場合でも、報酬の多寡にかかわらず、心のこもったお礼の手紙を送ってくださったり、ささやかながらも素敵な贈り物をいただいたり、喜んでもらえたことを直接実感できた時には、とても嬉しかったです。
また、公設事務所では債務整理事件が非常に多いのですが、債務整理事件として一括りにしてしまうと、依頼者はだいたい同じような方という印象を持たれるかも知れません。しかし、実際には、債務整理事件を委任される依頼者の層というのは非常に厚く、借金はたくさんあるものの社会生活が営めてキャッシュフローのある人から、身体的・精神的な疾患その他の事情があって社会生活が営めず、深刻なまでに困窮している人まで様々です。公設事務所の場合、特に他の事務所が受任を断ったような方の事件でも、必要性が認められる限り受任を断ることはありませんので、後者のような、社会生活が営めず困窮している方の事件を受任することも少なくありませんでした。
そういった方の事件を処理する際には、単に債務を整理するだけでは十分ではありませんので、区の福祉課と交渉して、生活保護を受給できるようにしたこともあります(そもそも、例えば精神的な疾患を抱えている方の場合、自力で区役所の福祉課に行き、生活保護の申請を行うこと自体が大変な困難であることが珍しくないと思います。)。
最初に事務所に来られた時には、生活苦や借金の心配から憔悴しきっており、言葉、表情や視線にも精気がなく、服装や髪型に気を遣う余裕もなかったと思われる方が、受任後に債務整理を通じ一定の生活の見通しが立つことによって、少しずつ元気を取り戻され、声や表情、視線にも活力が見えてくると、弁護士としては、力になれて本当に良かったと思います。
やはり、依頼者のより良い人生に助力できたと実感できることは、大きなやりがいに繋がると思います。

Q4.弁護士になって一番大変だと感じることは何ですか。
A4.大変というよりも気を遣う必要があると思うことは、依頼者とのコミュニケーションです。依頼者としては、当然、一定の結果を期待していることがほとんどですので、実際に何を望んでいるのか、仮に完全には望みどおりにならないとしても、どうしたら納得できるのか、ということを見極めるのが、一番気を遣うところです。
いくら弁護士が、客観的にはこれが望みうるベストの結果だと思ったとしても、依頼者に納得していただけない限りは、依頼者としては弁護士に依頼した意味がないことになってしまいますし、弁護士としても一生懸命に仕事をして一定の成果を出したにもかかわらず、依頼者に不満が残ってしまうというのでは、お互いに不幸なことだと思います。
そのため、仮に受任した事件の和解で一定程度譲歩しなければならないとしても、なぜ譲歩しなければならないのか、仮に訴訟で負けるとしても、なぜ負けるのか、ということを、依頼者が納得するまで十分に話をするということが最も大事だと思います。
弁護士として避けたい事態の一つに、懲戒請求を受ける、ということがありますが、現状、懲戒請求の請求者として最も多いのは、元依頼者です。
このように、一番気を遣う必要があるのは、依頼者との関係だと思っています。

Q5.休日はどのようにお過ごしですか。
A5.私は、実家の近くのマンションに夫と住んでいますので、週末は実家や親戚の家に顔を出したり、平日になかなかやらない家事をしたりしています。
また、健康と体力を維持するために、ジムにも通っています。
これは、どのような仕事でも同じかもしれませんが、弁護士の場合、特に代替性のない仕事を担当することが多いので、例えば突然倒れて、法廷の期日に欠席したりすると、1人で担当している事件の場合には、たくさんの方にご迷惑を掛ける結果になってしまいます。そこで、自分の健康管理には人一倍気を遣わないといけないと思って、ジムに通っている次第です。
ただ、目的が現状維持なので、ジムに行ってもそれほど一生懸命やるわけでもなく、あまり効果は見えません・・・。

Q6.弁護士としてお仕事をする上での信条・ポリシーを教えてください。
A6.依頼者あっての仕事ですので、どのような仕事でも依頼者の満足につながるように、またどのような結果でも依頼者が納得できるように、十分なコミュニケーションをしていきたいと思っています。
また、弁護士の仕事の多くは、他の業種の紛争や紛争予防であることが多いので、他業種の業務内容や慣行など、新しい分野の知識について、興味を持って勉強していきたいと思っています。
例えば前の事務所ではゴルフ場の事件を担当していましたが、当時私は全くゴルフに興味がなく、当然習ったこともありませんでしたが、(ボス弁と担当者の「ぜひ一緒に回りましょう!」という言葉にも押され)ゴルフを習い始めました(依然として上達しませんが・・・。)。
元々法曹の仕事に興味を持ったのも、様々な人や社会に関わる機会を得たいという希望があったからですので、現在の仕事を通して、自分の価値観や世界観を少しずつ広げ、人としても成長していければいいな、と思っています。

Q7.弁護士として特に関心のある分野は何ですか。
A7. 基本的には頂いた仕事をやります。私どもの事務所では倒産事件を多く扱っておりますし、私自身も管財人の仕事をさせてもらっていますので、特に倒産事件の分野については日々勉強していきたいと思っています。
Q2でお話ししましたように、刑事事件にも興味がありますので、裁判員模擬裁判を担当したり、昨年は実際の裁判員裁判を担当したりしています。機会があれば、積極的に弁護人を引き受けるようにしています。
また、労働事件にも興味がありますので、弁護士会の労働事件関係の委員会にも所属していています。これまでの自分の経験の中では取扱い件数はほとんどないのですが、社会に与えるインパクトが非常に大きい法分野だと思っていて、個人的な興味があるので、委員会を通して勉強させてもらっています。
本年の9月には、通貨危機後にめざましい経済成長を遂げた韓国の非正規労働の現状や、労働紛争の傾向、その解決方法や運用の実態を調査すべく、委員会で企画しました視察旅行に参加する予定です。

Q8.今後の弁護士業界の動向はどうなるとお考えでしょうか。
A8.私は昨年、弁護士会の修習幹事として、弁護士業務の実務修習を行う司法修習生のお世話をさせていただく仕事(実際には、勉強会で講師をしたり、合宿や飲み会にご一緒したりする仕事?)を担当しました。
そのため、昨年は司法修習生とお話させていただく機会が多く、司法修習生の就職活動はすごくシビアになっていると感じました。そして、最終的に就職先が決まらない結果、ノキ弁といって一定の給料を約束されないでどこかの事務所に所属するとか、いきなり独立しないといけないような弁護士が増えてきている、という感覚はあります(最近の統計では、弁護士会費が支払えないからか、二回試験に合格しても弁護士登録しない人も増えているようです。)。
おそらく、今後増えていく弁護士に仕事を確保しなければならないということは多くの弁護士会が認識していることだと思いますので、例えば司法書士が業務分野を拡大していったように、弁護士も今までとは違ったサービスを提供できるよう、職域を拡大していく必要があるのではないかということはよく言われているようですし、日弁連や弁護士会にはぜひそういった動きを期待したいところです。

Q9.先生の今後のビジョンを教えてください。
A9.私はまだ6年目の弁護士ですので、一人前という感じでもなく、頂いた仕事を着実に処理して少しずつ勉強をさせてもらいたいと思っています(公設事務所にいた最初の3年間は、人手が足りなかったこともあり、勉強をしたり、仕事を教えてもらったりしたことはほとんどありませんでしたので、今の事務所で先輩の弁護士から仕事を教えてもらえることは本当にありがたいことだと思っています。)。
また、学生時代からの夢でもあったのですが、できれば興味のある分野についての知識や海外での運用、そして語学を勉強するために、留学に行きたいと思っています。

Q10.ページを見ている方々に対してメッセージをお願いします。
A10.私は、たまに他の弁護士に依頼しているという方から、セカンドオピニオンを求められます。
今お願いしている先生の方針でいいのかわからないので、ということでセカンドオピニオンを求められるのですが、よくよく話を聞くと、ほとんどの場合、事件処理の方針に問題があると言うよりは、今お願いしている先生とのコミュニケーションが上手くとれていないことが問題のようです。
そこで、まず弁護士を選ぶときには(お急ぎの場合も多いかとは思いますが)、ご自身がお話しし易い弁護士を選ばれることをお勧めします。
弁護士会の法律相談などであれば、たいてい毎回違う弁護士に当たると思いますので、複数の先生にご相談されて、自分が弁護士を選ぶというスタンスで接してみてはいかがでしょうか。
そして、依頼している事件について少しでも不安や疑問に思うことがあったら、できるだけ早く、担当の弁護士に電話や面会、メールなどをして疑問点を解消する、というスタンスで弁護士と関わっていただきたいと思います。
どのような弁護士でも、依頼者の満足のために仕事をしていますので、依頼者が不安に思っていることがあれば早めに教えてほしいと思っていますし、何か誤解が生じているようであればすぐに解決したいと思っているはずだからです。

Q11.ページを見ている法曹界を目指している方に向けてメッセージをお願いします。
A11.法曹の仕事は、私にとって、本当に様々な人(被疑者・被告人から会社の社長さんまで)や会社(ゴルフ場や、保険、建設、アパレルなど)に接する機会を与えてくれましたし、また他の仕事では味わえない、やりがいも与えてくれましたので、本当に素晴らしい仕事だと思います。
ただ、ご承知のとおり、司法修習生の就職は非常に厳しく、以前と違って司法試験に受かりさえすれば、就職は何とかなる、といった状況ではありません。
そこで、もし、これから法科大学院を受験されるのであれば、裁判官、検察官または弁護士になってどのようなことをしたいのか、明確かつ強い希望を持たれる必要があろうかと思います。


<取材学生からのコメント>
永沢総合法律事務所の松本はるか先生にお話をお伺いしました。
私自身社会学を専攻していることもあり、元々社会学を専攻されていた先生のお話に共感出来る部分も多くとても楽しいインタビューとなりました。
また、先生の仰っていた価値観、世界を広げ人間的に成長していきたいというお話には大変感銘を受けました。
松本先生、お忙しい中貴重なお話をありがとうございました。

武蔵大学社会学部2年 尾澤佑紀


bengoshiretsuden at 11:01│Comments(0)TrackBack(0)

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