2017年04月23日

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「変態知識」12冊合本
宮武外骨編
(半狂堂:大正13年) 

「変態知識」っていったい何だ?
 と思いきや、実は川柳の研究雑誌。
 江戸の無駄知識が多くて面白い。

 でも、川柳の解釈、江戸の雑学などのメイン記事を差し置いて、この雑誌の一番の見所といえば、宮武外骨と川柳作家阪井久良岐の紙上喧嘩。
 もはや論争とかじゃなくて、ただの喧嘩なの。これがまあ面白い。
 
 発端は第三号に掲載された「傾城を買はぬ男は罵られ」の記事。
 この句は、女郎買いを断った男が、仲間内にバカにされるという意味だ。
 その解説に絡めて、外骨は「遊女賛美の反面、女房を奴隷視する」ような江戸の封建制度を批判した。
 
 これに対して阪井久良岐が異議を唱えた。
「傾城を買はぬ男は罵られ」という句で「罵られ」たのは女房ではないと。
 外骨は、この句の意を利用して江戸時代における女性蔑視を指摘したのだけど、それを阪井は句の解釈だと混同して批判したわけだ。
 
 それだけなら、笑い話で済んだのだけれど、
「是大兄が詩人ならざる為め、古川柳美はおワカリに不相成義と存じ申候」(第四号)
 という、外骨の神経を逆撫でするようなこと言ってしまったからさあ大変。
 政府にすら平気で喧嘩を売る宮武外骨に、こんな事を言ったらどうなることか。
 当然のごとく大喧嘩となり、外骨は徹底抗戦の構え。
 もはや句の解釈云々なんぞはどうでも良くて、互いの川柳感やら人格攻撃がメインとなる。

 
 外骨の反論。
「ワタシは元来アナタのやうに古柳句を感情的に玩味せんとする者ではなく、芸術美の中から真を見出し、善を見出して、時代思想や制度風俗言語の変遷を研究せんとするのが目的で(中略)要するにアナタとワタシとは、古柳句研究の立場が違ふのであるから、彼是の抗議を御持込みになってもダメですよ」(第四号)
 
 外骨はとにかくシツコイ人で、この後の号でも何かといえば、阪井久良岐を罵倒し当てこする記事が濫出するようになる。
 
 第五号の巻頭言では、駄句にも歴史的な価値があると主張。第六号では京阪の雅な川柳を紹介。江戸っ子の粋こそが川柳の玩味であるという、阪井久良岐への当てこすりである。
 
 そして第八号にてとうとう爆発。
「ヒツコイに対し止めを刺して置く」という二ページ丸々の反論を載せた。
 
 その記事によれば、阪井久良岐からも再三「オレの言ふ通りにせぬのならば、変態知識は止めて了ふか、解題しろ」との手紙が外骨のもとへ舞い込んでおり、さらには他の川柳雑誌に置いて、外骨への批判が繰り広げているという。

 他の雑誌へ寄稿した阪井久良岐の外骨批判が引用されている。
「要点は先方(外骨)が全く情操教育が欠けて居るからで有ます、古川柳家の所謂浅黄裏であり、新五左である、俳人や学者などに、何で川柳がワカリませうか」(「大大阪」第一巻第四号)
 
「古川柳を知るに此情操教育の欠けた人には、其全貌を知ることが難いのである。近頃外骨氏と小生と古句研究で衝突して居るのは、全く此の情操と理智との衝突である」(「川柳鯱鉾」第十三巻六号)
 
「情操教育の欠けた理智一点張りの頭からでは、川柳はとても理解されぬのみか、折角吾人の苦心が多くの場合誤用されることを悲しむのである」(「よのころ」第三巻七号)


 阪井久良岐はしきりに、川柳を味わうには情操が必要であると繰り返す。
 つまりは、通人であらずんば、とても川柳の玩味は味わえるものではなく、外骨のような江戸っ子の慣性のない田舎者(浅黄裏、新五左)には、到底理解出来るようなものではないという。

 これに対して外骨は
「謡曲一つうなれず、長唄一つやれない無風流者、情操教育の欠けて居る事は無論であり、随って古川柳美は一切判らない浅黄裏、新五左であるとして置くが、其理智的一点張の研究と利用が何で悪いのであらうか」と反論する。
 
 そして、埋没していた古い前句附けや古川柳を漁って、それを江戸時代の言語・風俗・制度等の考証に引用することで、「変態知識」は広く愛読者や学界に歓迎されているのだと主張する。
 たとえば「此所小便無用花の山」という何の玩味もない駄句も、元禄時代に「小便無用」の張り紙が存在した事が分かる、重要な歴史資料になるのだと。
 そして「変態知識」には「情操道楽以上の広い学問の上に利益」があって、「家賃に衣食してお道楽に古川柳美を宣伝して居る久良岐子よりは、学問の上に貢献する所が大である」のだと止めを刺す。
 
 次の第九号でも、外骨の攻撃は止まず。
 まったく関係ない記事の中で「九段辺の剽碌玉が何とホザイても、古句の理智的研究には趣味もあり益もある」と急に挟み込む。しかもそこだけ大活字にする。このレイアウトにこそ、外骨の執念を感じる。
 さらに、前号の記事に対して送られてきた自分に賛成の私信を載せ、人の口を借りて阪井久良岐を罵倒するという卑怯な手口を取る。
 流石にそれはやり過ぎだとの声も上がってきたため(「キタナイ仕打ち」「目糞、鼻糞を嘲ふ」等)、喧嘩両成敗という感じで、グダグダとこの騒動も終焉する。


 偏執狂的とも言える、宮武外骨のしつこさ。一度、敵だと認定したら徹底的に攻撃にかかる。
 よく、宮武外骨は反権力のジャーナリストだ、みたいに評価がなされるけれど、俺は違うと思うんだ。
 この人は、自分に敵対する相手に反抗しているだけで、そこに主義主張はない。
 その相手が、たまたま政府であったから、反権力に見えただけの話で、根っこはへそ曲がりなだけのオッサンなんだと思う。
 今回の一川柳作家である阪井への攻撃も、「滑稽新聞」などでの政府批判も、まったく熱量に変わりがないことがその証拠だ。 
 何にせよ、面白いオッサンであることには変わりがないが。 

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2017年04月18日

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『奇態流行史』
宮武外骨 
(成光館出版:昭和4年、第四版)


 太古から現代の流行を列挙した雑学本。気軽に読めて面白い一冊。
 初版は大正11年で、入手したのは昭和4年の第四版。

 奇態とうたうだけあって、突飛な事象が多い。
  木製の入れ鼻(宝暦ごろ)だったり(梅毒で欠けたのだろうか)、人目を忍んで吉原へ行く時の付け髭(天和貞享)、法廷にて判決の量刑当て賭博が流行る(明治41年)など。
 出征軍人に贈る千人針の風習は、てっきり二次大戦の時の奇習だと思っていたが、日露戦争の明治37年に始まったのだとは意外々々。

 盲人と女の相撲興行(延享、明和、天明期)は、盲人の四股名が面白い。
 曰く、武者振、向見ず、杖ヶ嶽、笛の梅、佐栗手、夏嬉し、杖の音、うば玉、辻の音、足駄山、もみおろし。
 
 出版社が、雑誌を発行日以前にフライングして書店に配本し、それを各社が競っていくうちに、号の表記月よりも1月ほど前倒しになった(大正初年頃)。これは今では定着してしまっている。 


 一番気に入った記事は、女の「反っ歯隠し」。
 これは、明治31から34年にかけての奇態。
 東京の女性の間ににて、白絹の襟巻で顔の下半部、鼻から口にかけてを覆うのが流行したのだという。
 今、街を歩くと、子供から女子高生、OLまで、風邪でもないのにマスクをしているのを見かけるが、それとまったく一緒。なるほど、あれは反歯隠しだったのか。 

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「明治三十一年の暮より三十四年の春にかけて、東都の婦女間に白絹の襟巻を鼻口にかけて顔の半部を包むこと流行せり、三角形の折目を鼻梁の半ばに当てゝ後ろに廻し二つ巻きの端を襟元にて結ぶなり、始め新橋辺の芸妓が防寒の為めの工風なりしを、追々良家の婦女の間にも行はるゝに至れり」(桃泉随筆)
『都の花』所載、流行夜眼遠目の一節に「女の中、風呂敷的の白襟巻したるが多く、いづれも鼻の上より打巻きて口鼻を隠したる、下品にて厭はしきものなり、反歯隠しなど称へて好し」とある。男子にも此風が移って一時往々見受けた。 


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2017年04月12日

戦前の犯罪実話が好きで、ちまちまと読んでいる。

中央公論社の防犯科学全集『強力犯篇』(昭和10年)を読んでいたら面白い記事を発見した。

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その記事は、昭和4年1月19日に発生した、ピストル強盗・福田諭吉(30)の事件で、この凶賊が押し込んだ先が、なんと新渡戸稲造邸なのだ。
さらに、その犯人を目撃したのが、翻訳家の堀口大学というオマケ付き。


午前二時半ごろ、新渡戸邸の茶室の格子窓を破って侵入した福田は、二階へ上り睡眠中の稲造博士の枕元に立った。ネクタイピンの空箱(時価1円50銭ぐらい)を盗み、さらに金品を物色。
その物音に目を覚ました博士夫婦は目を覚ましてしまう。
そして夫婦に拳銃を突きつけて金銭を要求した。

「千円欲しい。千円出せ。」
 そんな現金があるものかと落ち付いて博士が賊をたしなめると、
「それでは五百円でいい。五百円だけだせ。」 
 と執拗に迫るのだった。

とてもそんな金はないとして、夫人が手持ちの40円を差し出したのだが、まだあるはずだと押し問答。
その騒ぎに女中が目覚めてしまい、犯人は諦めて逃走した。

さらに、福田は隣家に忍び込もうとするも、警邏中の巡査に見とがめられてしまった。
思わず、持っていた拳銃を発砲。
二巡査が凶弾に倒れてしまい、直ちに非常線が張られることになる。


▼逃走路を塞がれてしまったため、仕方なく福田は近所に潜伏。
その逃走中の犯人を目撃したのが、翻訳家の堀口大学
書斎で仕事中の堀口が、表が騒がしいので窓から外を眺めると、庭先に潜伏していた男を発見。それが潜伏中の福田だった。
堀口の目撃調書が載っていた。珍しいので全文引き写す(易読のためカタカナを仮名に直した)。

「私は昭和四年一月十九日午前十一時二十分頃自分の書斎で仕事をして居りましたが、表の方が大分騒しいので、其朝強盗騒ぎがありました事とて捕へられるかどうか致した事と考へ東の方の窓に引いてあった白布の下部を上げて表の方を見ました。
 処が私の窓から二間半位の先に下て石を積んで其上が太い木で格子に成って居る塀があり、其塀から三尺位の手前に南向に四つ匍匐になって顔を東に向け塀の隙から、外部の様子を窺って居た男がありましたので、きっきり強盗と思い、父や女中に其旨を告げました。
 そして私が再び」窓から見ましたときは其処に姿がありませんので、更に書斎の南窓から庭の方を見ました処、庭の西南隅の垣の処に腹匍の様になって居りまして、直ぐ前の道路をしきりに伺って居りましたが、其うちに垣を越へ石垣を飛び降りて終ひました。
 私が東の窓から見ました時は其男はがた/\震へて居りました。
 年齢は二十三歳位、丈は五尺そこ/\で細って居て、体重が十二貫もあるかどうか位で、頬はこけて、色は蒼く、頭髪は油気のない、余程のびてゐたもので、其模様から見て、非常に窮迫した家庭の者らしく、字は判りませんが、印半天に黒い股引をはき、尚腰になにかで締めて居りましたが、腰の辺がきちんとして居り、普通の紺足袋を穿いて居りました。私の見ましたのは二、三分の間です。」
 

その日は、まんまと逃走を許してしまったのだが、遺留品として現場に残っていた、ガラスの焼き切りに用いたカンテラから足が付き、後日、福田は逮捕された。


▼この事件には、もう一つオチがついていて、福田の逮捕後、彼の隠れ家を調べた捜査官は、とんでもないものを発見する。
それは、福田が女装して撮った写真であり、さらには、自分で自分に書いた恋文までもが出て来た。

 彼の隠家を襲った捜査官は、家財らしいものは何一つない、ガランとしたその棲家に一人の女の写真を見出した。一切の交渉を世間から絶ってゐるといふ彼に女の写真。これは彼にも隠れた情婦があったのか、と重大な手がかりの一つをつかんだ積もりでその写真を持ち帰った。
 猶も所持品を探すと、女から彼のところへ来た綿々たる恋情をしたためた恋文さへ数通出て来た。
(中略)
 ところが写真をよく見ると、驚くべし、それは彼自身が仮装して女性に扮して撮った写真であり手紙は彼が自分自身の若き姿を仮空の彼方に描いて、その自分に自分の手で書き送った恋文であった。
(中略)
 世に捨てられた天涯孤独の彼の生涯には涙なきを得ぬ。しかしその性質たるや偏狭にして凶暴、最も怖るべき犯人であった。

なんともはや。
そして、福田は刑の定まらぬうちに、獄内で 病死したそうな。

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2016年11月25日

大東亜戦争開戦直前に出版された、ユダヤの陰謀論をゲット。
裸本だけど、表紙のダビデの星がいい感じ。


『今次大戦と裏のニュース』 

国際政経学会調査部=訳編
(政経書房:昭和16年)

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これは「国際秘密力研究叢書」の一冊。
叢書の名前からして胡散臭いが、ラインナップはさらに胡散臭い。
なにしろ全十巻の総てが、ユダヤとフリーメイソンの陰謀論。

 『ユダヤの人々』 安江仙弘
 『国際秘密力の話』 長谷川泰造
 『猶太秘密力の裏工作』  G・S・ハッチスン
 『支那事変と猶太人』  赤池濃
 『マソン結社の組織と秘密』  J・トゥールマンタン
 『国際ロータリー倶楽部とマソン結社』  J・ド・ボアステル
 『スターリン背後の猶太人』  R・コンモス
 『世界の秘密』  愛宕北山=訳編
 『フランス敗亡と猶太金権秘密力』  ジョセフ・サント
 『今次大戦と裏のニュース』  国際政経学会調査部=訳編

タイトルのなんと香ばしいことか。
これは揃えたくなる。
マソン結社というのがフリーメイソンのことらしい。


▼で、今回入手した『今次大戦と裏のニュース』 は、副題に「世界猶太情報」とあることからも分かるように、外電からユダヤに関するニュースを抜粋編集したもの。それも、ネガティブな情報ばかりを集める。

なんでも、世界の動きの裏にあるユダヤ資本、及びその影響下にあるマスコミを暴露するのが、本書の目的なのだという。


序文によれば、ユダヤ人は「各国の王冠の墜落と民族団結の破壊」し、世界を支配しようと企んでいる。
そして、その目的のために、世界各国のマスメディアを掌握しつつあるのだという。

その結果、現在では「金本位経済組織と秘密結社フラン・マソンとの総合活用による所の猶太力の国際支配の要素」によって、「独伊を除く欧米の言論機関(中略)が殆ど猶太力の独占に帰している事は世界の常識」となっている。これは大変だ。

しかしながら、このようなユダヤの国際陰謀を知る人はあまりにも少なく、むしろユダヤ人による逆宣伝を信じている人の方が大多数を占めているという。

その逆宣伝とは、
『ユダヤ人への悪評は「国民を動かす道具に利用してゐるヒットラーの排猶主義」に過ぎない』
というものだ。

つまり、ユダヤ人たちは「自分たちの評判悪いのはヒットラーの嘘によるものだ」という嘘をついているのだ。

とんでもないことを言っている気がするが、まあ気のせいだろう。




▼先述の通り、各国のメディアはユダヤ資本によって牛耳られてしまい、ユダヤに関する情報はねじ曲げられて伝えられている。
なので、反ユダヤメディアから伝えられたユダヤに関するニュースを収集抜粋することで、本来の世界の姿を伝えるのだ、というのが本書の目的。


▼記事は国別に編集されていて、その見出しを見るだけでも、この本の雰囲気が伝わって来る。ユダヤへの憎悪に満ち満ちているのが判る。

ちょっとだけ抜粋すると、
 「英国の密偵猶太比人」(英)
 「猶太人の手中にある英国の化学工業」(英)
 「戦争不況に乗じ猶太人の投機」(英)
 「紐育(ニューヨーク)=猶育(ジューヨーク)」(米)
 「愛国者の面をかぶり出した猶太人」(米)
 「米国を戦争の渦中に引摺り込まうとする猶太人」(米)
 「戦場泥棒猶太人」(仏)
 「第一線には出ない英雄的猶太人義勇軍」(仏)
 「現在の戦争に於けるマソン結社の役割」(仏)
 「独逸に対する憎悪と挑戦」(独)
 「反猶独逸を蛇蝎視する猶太」(独)
 「ファッショ伊太利は猶太人を征服すべし」(伊)
 「映画の都ホリウッドへ招かれた匈牙利人俳優」(ハンガリー)
 「匈牙利でも広告社は猶太人の独占」(ハンガリー)
 「猶太人の最鋭の武器は虚構なり」(スイス)
 「智利に於ける猶太人の詐欺移民」(チリ)
 「支那事変と猶太人」(支那)


 
当然、日本に関する記事もあって(「日本の為に弁ず」「日本に対して公平なれ!」「お化け日本」)、中国の経済発展に寄与している日本に対して、禁輸措置を取るルーズベルト(ニューディール・猶太派)が、 いかにアンフェアであるかを解いている。


歴史に詳しくないので、こう立て続けにネガティブな情報ばかりを読んでいると、本当にユダヤ人は国際陰謀を企んでいたのでは、と危うく洗脳されそうになる。
情報の少ない当時の読者なんかは、安易に信じ込んでしまったのだろうと、想像に難くない。

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2016年06月20日

文芸市場社談奇館随筆が、ようやく揃った!!

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談奇館随筆は、昭和4年に文芸市場社から刊行された全6冊の叢書。
完全予約制の会員頒布本で、
かなり攻めた内容。
そのせいで、全6冊中5冊が発禁処分を受けている。



内容見本にあった「談奇館随筆発刊之趣旨」を読むと、かなり力を入れた企画だったらしく、出版に対する並々ならぬ意気込みが伝わって来る。
 
「此の集は、いはば私達の仕事の自叙伝とも云ふ可きもので(中略)つまりは耽奇、探奇の境を卒業して、談奇の所まで進んだ相手の筆者達が自信のある作丈を自選して、力一杯の所、お話して見やうと云ふのです」

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内容見本二種


全6巻のラインナップは以下。
酒井潔らぶ・ひるたあ※発禁
梅原北明 秘戯指南※発禁
和田信義香具師奥義書 
アリベール同性愛の種々相 ※発禁
梅原北明続秘戯指南※発禁
羽塚隆成=訳 ナポリの秘密博物館 ※発禁


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左:らぶ・ひるたあ 右:香具師奥義書

『らぶ・ひるたあ』は、あの澁澤龍彦が敬愛したという、博覧強記の奇才・酒井潔の処女単行本。
酒井は、一時期話題となった『エロエロ草書』の著者でもあり、当ブログでも、彼が翻訳した猟奇SM小説『奴隷祭』を紹介したことがある。

表紙・扉・目次によって「らぶ・ひるたあ」「らぶ・ひるたァ」と、表記のぶれがある。
ちなみに「らぶ・ひるたあ」とは「Love philtre」のことで、つまり媚薬を意味する。
東西の古典籍より、媚薬について研究した原稿が本書の半分を締める。

酒井潔の著作は、彩流社から何冊も復刊されており、この『らぶ・ひるたあ』も完全復刻されている

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『香具師奥義書』口絵
唯一発禁を逃れたのが
『香具師奥義書』
しかし、再販からは、口絵の足で弓を射る女の図が削除される。
著者の和田信義のことは良く知らないが、添田知道の旧友のアナキストらしく(出版・読書メモランダム)この書は、香具師と全国を行動を共にして著したものだという。

和田には他に『国際談話 秘密売買株式会社商品』という 著作がある。これは小咄・コント集。





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左:同性愛の種々相 右:ナポリの秘密博物館
 
この二冊は洋書の翻訳。
『同性愛の種々相』はレズに関する論考。
「女子の性器と性感」「女子同性愛の伝播」「娼家と女子同性愛者」「フェラトリー」「女子とソドミー」「女子の間に於ける性的悪習の原因」などけっこう過激。発禁も止む無し。

ポンペイ美術
ポンペイ美術
『ナポリの秘密博物館』
は、西洋の好色美術について。
牧羊神や、ポンペイの男根崇拝など。
表紙の金押しは、サロメだろうか。






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左:秘戯指南 右:続秘戯指南

梅原北明『秘戯指南』は、正続合わせると1,400頁を越える大著。
これでも、総ての原稿を入れることが出来ずに削ったというのだから恐ろしい。
内容は、古今の性愛に関する書籍から、性愛術について抜き出しまとめた、いわばHow to Sex本。
もちろん、実用的なものではなく、好事家向けのペダンチックな内容に仕上がっている。
正巻は「カーマ・スートラ」「アナンガ・ランガ」「玉房指要」といった実務書?からの引用。
続巻は物語の中から、性に関する記述をまとめる。

目次の大見出しと、小見出しの一部を抜き出してみる。

正巻目次
第一部 一般性愛学
 (生殖行為に於ける享楽の原因、古代印度に於ける四種類の女性、など)
第二部 性交術百態
 (性交の準備、接吻、爪の掻傷、歯の咬傷、など)
第三部 御法秘戯編
 (処女及び年増を御す方法、淫精を長く保つ秘訣、など)
第四部 秘薬方一般
 (強壮剤としての秘薬、男根の増大、女陰の縮小に関する秘薬、など)
第五部 恋愛術
 (愛を受くる法、処女の信頼を得る法、娼妓鑑識法、など)

続巻目次
物語に現はれたる恋愛術
 (時粧画巻、桶が物を云ひたる話、呪文と寄生虫の由来、人妻と牝馬の話、醜婦の人身御供、韮の頭で嬲られた話、尼寺を調伏したる話、やきもち療法の話、妻が恋人の代用をつとめた話、など)


BlogPaint
談奇館随筆は、函付きのものがあまり出ない。
たぶん、輸送用の函を兼ねていたため、汚れたり傷ついたりして捨てられたりしたのではないだろうか。
輸送函の特性状、背や表紙には何も印刷されておらず、ただの無地の函で面白みがない。
その変わり、というのも変だが、小包の送付票が貼付けられている。
文芸市場社の所番地が印刷された専用ラベルなので、チョットした資料としては面白いかもしれない。
私が持っている函は『続秘戯指南』のみで、参考迄に写真をあげておく。

 

以上6冊。これで総て揃った。
と喜んでいたのも束の間、実はもう1冊あることが判明。
『ナポリの秘密博物館』には、非売品の別冊で画集があるのだという。
 ……気がつかなかったことにしよう。

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