『剣舞独習法』 矢島嘉平次『今弁慶』 江見水蔭

2009年09月27日

IMGP9193
『熱血小説 宇宙戦艦ヤマト』
西崎義展=案 高垣眸=著
(オフィス・アカデミー:昭和54年)

「宇宙戦艦ヤマト」のTVシリーズ全26話をノベライズしたものなのだが、著者を見て驚いた。
戦前、「少年倶楽部」などで『豹(ジャガー)の眼』や『怪傑黒頭巾』を執筆した、少年小説の大家、高垣眸(たかがきひとみ)ではないか。
調べてみると、その筋では有名なトンデモ本なのだそうだ。

函入りA5判、270頁、定価1,600円。


あとがきに執筆理由が述べられているが、それによると、もともと軍艦が好きで、机上に戦艦大和の模型を飾る程であった高垣を、上手いこと西崎が口説きおとしたようだ。そもそもなんで高垣に書かせようとしたのは謎であるが。

IMGP9197このノベライズがなされたとき、高垣はなんと81歳。その年で、当時の若者がなぜ「宇宙戦艦ヤマト」に熱狂していたのか、正しく把握できるわけもなく、色々勘違いしたまま、それはもう好き勝手に書いているのがこの本の魅力だ。

 幼少時に、押川春浪の『海底軍艦』を夢中で読みふけり…などと著者はあとがきで述懐しているが、小説のノリはまさに押川春浪の世界だ。
裏表紙
これが、デスラー総統?


たとえば、波動砲を初めて発射するシーンを引用してみよう。木星の浮遊大陸にあるガミラス基地を、波動砲で殲滅する所。

「艦長、前方に敵の基地らしいものが見えます。宇宙艦隊らしいものも、出動準備を整えている様子です」
  電子望遠鏡の映像が、壁パネルに映しだされるのを見ながら、沖田艦長もうなずいた。
「うむ。この浮遊大陸にまでガミラスの基地があったのか? たぶん、冥王星基地への中継地か補給基地なんだろう。危ないところだったな。よし、古代、波動砲の試射をやって、あの基地を粉砕しよう。まだ威力を実験してみていないのだから、いい機会だ」
「はいッ。ですが艦長。波動砲発射には膨大なエネルギーを消費します。本艦のエネルギー保有量は、さっきの伝道管の故障で相当量ロスしましたので、もう僅かしかありません。波動エンジン用の分まで喰いこんでもよいのでしょうか?」
「かまわん。機会を逃してはならない。それに本艦の後方に敵基地を一つでも残しておいては、地球にとって禍いの因だ。エネルギー補給はなんとかなるだろう。やるのだ」
  戦機を見るに敏な百戦錬磨の沖田艦長だった。断固として決断して命令する。
「はッ、やります。波動砲エネルギー充填、発射用意ッ」


(中略)

IMGP9208 「射てッ」
  進の指に力が入った。ぐっと引き金が引かれた瞬間、巨大な宇宙戦艦ヤマトの艦体が、異様な振動を感じた。艦首のあの巨大な砲口から、もの凄い光芒と熱気が吐き出されたと思うと、暗黒の空間に尾を曳いて一直線に敵基地目がけて走った。
  その光と熱の巨大な塊のようなものが通り過ぎた跡のジャングルは、一瞬にして消え失せて一条の廃墟となり、さらに前方のガミラス中継補給基地のすべての建 造物も施設も、そして今や一斉に飛び立とうとしていた全宇宙艦体の姿も、かき消すように地上から消え失せてしまったことが、濛々(もうもう)たる白焔(はくえん)と砂塵が薄らいだ跡に、ただ一面の廃墟として見出された。


この手に汗を握らない感じはなかなかのもの。
高垣先生は「宇宙戦艦ヤマト」の大きな魅力であったはずの、SF的なギミックには興味がないらしく、波動砲を発射する準備やもろもろの描写は、「波動砲エネルギー充填、発射用意ッ」 「射てッ」で済ませてしまっている。
そもそもこの小説版では、ヤマトの航行速度は光速の99倍となっているぐらいだから、SFを求めるのが間違っている。どうやら高垣先生は一般相対性理論をご存知でないらしい。多分、設定書の99%を99倍と間違えたのだろうけれど。


後半に入ってからは、高垣先生の筆も乗ってきて、さらに好き勝手に書き始める。
ガミラス星のデスラー総統の司令室では、部下の諸将が集まってガヤガヤと小田原評定〉といった描写があったり、イスカンダル星女王スターシャに求婚し、振られたデスラー総統は、〈独裁者デスラー総統ほどの男にも “ 鴨川の水と双六の賽の目” のように、どうすることもできないものがあったのだ〉と評される。


イスカンダルに到着し、古代たちと対面した女王スターシャの口からは、
昔、 “天の羽衣” 伝説が日本に残されているのは、王家の女官の一人が道に迷ってワープに落ちこみ、着いたところがニッポンの三保の松原という所だったそうで、そこで日本人の漁師伯竜という人と結婚したけれど、イスカンダルを忘れかねて、宇宙艇を修理してまた戻ってきて以来、イスカンダル星では、なんとなく地球のニッポンに親しみを持ち、彼女が習い覚えて帰ったニッポンの言葉も、今に伝わっていたので、妹サーシャの持たせた通信カプセルにも、ニッポンの言葉 を高周波で刻みこんで送ったのです。今もこうしてこの人といっしょに住んだり、ニッポン人の貴方がたとお逢いできるなんて、ニッポンとイスカンダルとは、 神秘な因縁の糸で結ばれているような気がしますわ
などという、勝手な設定を語らせている。高垣先生には、何人であろうとも日本語を話すという、アニメのお約束が引っかかったようだ。それにしても、羽衣伝説を持ち出す必要はないじゃないか。



IMGP9207そして極め付けがこれ。
デスラー総統がヤマト艦内に
放射能ガスを充満させてしまった。それを無毒化するために、森雪がコスモクリーナーを作動させるのだが、自身は毒を吸い込み仮死状態になってしまう。そして、古代進が人工呼吸を行なうことになる。

これは原作にはないシーンなのだが、ここの描写で高垣先生が大暴走。
古代が博士の指示で、森雪の上に乗っかって心臓マッサージをする。


手早く宇宙服を脱ぎ棄てたが、童貞の進は恋人森雪の体に跨ることは、なんとなく性交の体位(ラーゲ)に似た気がして面映ゆく、ちょっと躊躇ったが、もちろんそんなことに拘わっている時ではなかった。彼は横臥した森雪の体の上に馬乗りになる。

ちょっと何いってんの?
ラーゲってルビまで振っちゃって。
さらにシーンは続き、蘇生しない森雪に、今度は
人工呼吸を試みるのだけれど、

まだ一度だって、互いの唇に触れ合ったことのない純情な仲だったのに……だが、進は勇を鼓して博士の言に従った。厳粛な気持ちだった。もちろん居合わした真田、島達も、若い二人の愛のラーゲにも似た姿を見ても、いささかも猥褻感を抱くような気持ちではなかった。

また出たラーゲ。
そして、古代の人工呼吸によって森は蘇生するのだが、恥ずかしさから部屋から出て行ってしまう。

ソファに寝ていた森雪は、フと立上って、一人で部屋を出て行こうとする。恋しい人とは言え、若い男と唇を合わせたり、あられもないラーゲでいるところを皆にみられたことが、うら若い処女には堪えられぬ羞恥だったのだ。


もう、「似た」が取れて「ラーゲ」そのものになってるよ!


このあと、逃げた森雪を古代が追いかけて、口論になるシーンも秀逸。

「どうしたって言うんだい? 何がそんなに気に食わないでふくれっ面してるんだ?」
「嫌い。君なんか大嫌い。あっちへ行って」
「ふん。それが命の恩人へのご挨拶かい。お前さんあン時や、死んでたんだぜ、毒ガスを吸い込んでよ。おれの人工呼吸のおかげで生き返ったくせに、その態度はなんだ。あばずれ」
「人工呼吸だなんてうまいこと言って、処女の唇を盗んだくせに、痴漢よ君は」
「何をッ、痴漢とはよく言ったなッ、こいつめ」

(中略)
「僕を痴漢だと言うのは、僕がこうしたからか、コラ雪ッ」
進はいきなり雪の唇へ、しっかりと唇を圧しつけた。
「ム、ク、ククッ、ああッ……」
熱い長い接吻、雪の両手が進の背を強く抱きしめる。そして僅かに唇が離れると、
「バカ、進のおバカさん。愛してるのよッ」
「おれも、おれだって雪が好きだッ」


エロイっすよ、高垣先生。もっと爽やかにできなかったんですか。
それに、べらんめい口調の古代と森雪が、「あばずれ」、「痴漢」と罵り合うのは、もう「宇宙戦艦ヤマト」ではないです。はい。

benirabou at 04:46│Comments(1)TrackBack(2)このエントリーをはてなブックマークに追加 珍本  人気ブログランキングへにほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ
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1. 宇宙戦艦ヤマト  [ 教えて!YouTube ]   2009年10月06日 00:17
実写版では古代進役に木村拓哉だそうですが・・・その前にオリジナルもどうぞ!
2. 津山事件: 『雄図海王丸』と『浮城物語』 その2  [ 事件関係ブログ ]   2010年07月11日 05:59
『浮城物語』現代語版 『浮城物語』には、「現代語版」というバージョンがあります。出版されたのは昭和18年(1943年)で、都井睦雄の死後です。現在から言えば70年近く前の「現代語」版ということになります。 訳者は高垣眸氏。1925年に少年倶楽部でデビューしたとのことで...

この記事へのコメント

1. Posted by 徐   2013年04月14日 08:44
こんなのがあったんだ。ご紹介有難うございます。
さすがは高垣眸先生。原作のスローモーになりがちな展開を手に汗握る疾風怒濤の雄大な展開に改作しているところを是非拝読したいものです。

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『剣舞独習法』 矢島嘉平次『今弁慶』 江見水蔭