未知のウイルスとの戦い 陰謀論の行方

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新型コロナウイルスは世界で猛威を振るい続け、このブログを書いている2020年5月11日時点での世界における総感染者数は4103152名であり、死者数は282727名である。
https://coronavirus.jhu.edu/map.html

新型コロナウイルスによって我々の生活は一変してしまった。仕事も外出もままならず、収入は途絶え、いつ感染するか分からないと怯えながら行動し、自由が制限され、不安と疑心暗鬼に満ちた毎日を送り続けなければならなくなった。

人類はもうあの平和で自由な生活には二度と戻れないのであろうか。

なぜこのようなウイルスが出現したんだ。いったい、誰が。いったい、何の目的で。

どこに怒りをぶつけたらいいのか

陰謀論は個人的にはあまり好きではないのだが、新型コロナウイルスに関しては、中国の陰謀によるものであるという意見がある。

陰謀論の要点を整理すると以下のようになろう。

① 中国のミスで武漢の研究所からウイルスが漏洩し世界に解き放たれた。

② 中国政府はこのウイルスの怖さを知りながら情報を隠蔽した。当初から人と人との間で感染すると分かっていながら、その事実を隠蔽していた。その結果、世界中にウイルスが蔓延しパンデミックとなった。

武漢ウイルス研究所は、1月2日に新型コロナウイルスの全ゲノム配列を解析し、1月5日にはウイルス株の分離に成功している。当然、武漢ウイルス研究所は、中国政府に新しいSARSウイルスだという結果を直ちに伝えていたはずであり、1月初旬の段階で新型のSARSウイルスなのだと中国政府は知っており、人・人感染するとウイルスだと1月初旬の時点で分かっていたはずである。
https://citizenlab.ca/2020/03/censored-contagion-how-information-on-the-coronavirus-is-managed-on-chinese-social-media/

(中国政府は12月上旬に既に人から人への感染の証拠があることを周知していた。12月31日、台湾政府は、香港の専門家とともに懸念を表明した。しかし、1月20日まで人・人感染しないと中国政府は否定し続けた

(日本の厚生労働省も1月10日では人・人感染はしないと広報していた)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08851.html

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2019年12月下旬に医療施設から原因不明の肺炎患者のクラスターの発生が何件か中国政府に報告され、2019年12月31日、中国疾病管理予防センター(中国CDC)は、湖北省や武漢市に、調査チームを派遣している。と中国の学者達(China Novel Coronavirus Investigating and Research Team)が論文で正式に書いている。中国政府は、12月31日の時点で、当然、人・人感染することを掌握していたたことであろう。

中国のメディアも12月27日、湖北省統合西洋医学病院の医師であるZhang Jixian氏は、この病気は新しいコロナウイルスが原因であると中国の保健当局に伝えた。その日までに、180人以上が感染していた。と報じている。

しかし、人・人感染の恐れはないと中国政府からはずっと報告されていたようであり、WHOは1月12日の時点で人・人感染の恐れはないとアナウンスしている。1月12日時点までは、中国政府はWHOに人・人感染するとは報告していなかったという確実な証拠がWHOに残っているのである。

③ 中国政府は、既に武漢でエピデミックした昨年の時点でこのウイルスに関していろんな情報(人・人感染する等)を周知していた。しかし、意図的にわざと情報を遅く伝えた。それは、中国政府は自分だけが助かろうとし、国内での人・人感染の対策に使う医療物資を世界から調達するために、時間稼ぎのために、わざと情報を遅くWHOに伝えたのである。海外から中国に物資を運ぶ航空便がストップしないように。

世界の他の国にどのような甚大被害をこうむることになろうが、自分だけ助かるためにそれを承知で無視してわざと情報を遅らせた。時間稼ぎのためにWHOに対して適切な措置を講じるように早く進言しなかったのである。中国政府がもっと早く情報を世界(WHO等)に伝えて、世界各国が適切な措置を講じていたら、これほどまでの大惨事にはならなかったはずである。

(中国政府は、1月20日の前に、マスク・防護服・フェイスシールド・ゴーグルといった大量の医療物質を海外に発注していた)
https://www.taiwannews.com.tw/en/news/3927369

武漢が封鎖されたのは1月23日であるが、その前に既に多数の市民が武漢を脱出してしまったとされている。発生から既に1ヵ月くらい経過している。大都市を封鎖する決断はなかなか下せなかったのではあろうが、既にかなり前から武漢市はアウトブレークの状態となり医療崩壊をしていたことであろうし、封鎖されるのが遅かったと思える(その時点の患者数は571名とされているが、検査されていなかったらしく、実際はもっと多かったはずである)。
https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports/20200123-sitrep-3-2019-ncov.pdf
https://gnews.org/89749/

武漢の封鎖に先立ち、1月18日、北京からの調査チームが武漢に入った。北京からの調査チームは武漢の状況に驚愕した。さらに、1月20日と21日、中国と西太平洋地域出身のWHO専門家が武漢の現地を視察した。当然、WHOから人・人感染しているという指摘がなされた。ついに中国政府は人・人感染の事実を認めざるを得なくなった。1月22日、上記のWHO専門家らは、武漢で人から人への感染が起きたエビデンスがあるとようやく正式に世界に報道した。そして、WHOは1月22日と23日に国際的な懸念の公衆衛生緊急事態(PHEIC)かどうかの緊急会議を開くことになった。しかし、なぜかまだPHEICには該当しないという結論となった。その直後に武漢が封鎖されたのである。武漢を封鎖するからPHEICを宣言しないでほしいという中国政府の要望通りに決着したのであろうか
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/04/post-93105.php

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そして、1週間後の2020年1月30日にWHOが2回目の緊急会議を開いた。そしてようやくPHEICだと正式に認識された。しかし、WHOは、PHEICだと宣言しても、(中国への)渡航や(中国から)他国への渡航を制限すべきではないとした。そのため、ウイルスの拡散は防止できず、感染は世界に拡大していき、3月11日、WHOは新型コロナウイルスのパンデミックを宣言せざるを得なくなった。WHOはいったい何をやっていたのであろうか。

WHOの対応はとにかく非常に遅かった。PHEICだと発信したのは武漢でクラスターが発生してから既に2ヵ月も過ぎていた。これは致命的な遅れであろう。中国政府はもっと早い段階で周知していたはずなのに、なぜWHOにちゃんと報告や進言をしなかったのか。しかも、渡航を制限すべきという発信をWHOは一切しなかった。逆に、制限をすべきではないと発信した。中国からの圧力があったのであろうか。

WHOはいったい何をしていたのか。中国の言われるがままにやっていたとしか思えない。この点もきちんと検証されねばならない。WHOも武漢での肺炎が1月8日にタイでも発生したことを知っていたにも係わらずである。タイでも発生した、この時点で既にPHEICであり、国をまたいだ渡航は制限されるべきである。

中国とWHOがつるんでいたという疑惑もある。特に、テドロス事務局長には中国政府との癒着の疑惑があり、彼を罷免すべきだという署名が世界中からなされている。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200511-00000008-cnippou-kr

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WHOのお墨付きがあったせいか、人・人感染すると分かっていながら、既に海外のタイでも発生していると分かっていながら、中国政府は2月1日以降も中国人の海外への渡航を禁止しなかった。春節の観光客を世界中に解き放ったのである。WHOから渡航を制限すべきだという警告が出ていないからやりたい放題していたのである。その結果、中国からの死の使者が世界中に送り込まれたのであった。中国からの死の使者が日本にも多く送り込まれたのは皆さんもご存じのことであろう。

一方、中国政府は海外への渡航は禁止しなかったが、国内での移動は厳しく制限した。なんて矛盾しているんだ。自分だけ助かろうとしたような行為であるのが見え見えである。

中国政府とWHOの不誠実な対応のせいで世界での対応が遅れてしまったのは間違いないであろう。結局、世界はこのウイルスの侵入防止と封じ込めに失敗して、今の悲惨な状況となってしまったのである。

④ このウイルスは自然に発生したものではない。中国の研究者によって人為的に作られた産物である。

(新型コロナウイルスにはpShuttleを挿入した痕跡がはっきりしており、これは絶対に消すことができない人工的な操作が行われたという証拠になる痕跡である。新型コロナウイルスのスパイク・タンパク質は、このウイルスの他のタンパク質のゲノム配列と大きく異なっている。なぜなのだろうか。この所見は、スパイクの部分は他のウイルスの遺伝子を用いて人為的に改変されたということが推測される)
http://soujya.net/2020/03/03/post-13974/

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この①②③④のような点に関する疑惑が中国には生じており、アメリカのトランプ大統領は、新型コロナウイルスによる大惨事は中国が原因なのだ。中国に責任がある。中国によって招かれた人為的な大厄災なのだと激しく主張している。

イギリス政府も、中国のミスでウイルスが漏洩したのではという疑惑を検証している。

アメリカと諜報の協定を結んでいる5ヶ国、いわゆるファイブアイズ(5つの眼、UKUSA)は既に証拠固めに入っており、近々中国に対して損害賠償を求める国際訴訟が起こされる可能性がある。

果たしてアメリカや他の国々は中国を訴えるのであろうか。その損害賠償額はきっと莫大な金額となろう。

(中国は、アメリカ軍の生物兵器だというようなことを言い、世界中から非難を浴びた。このようなことを言うと余計に怪しく思える。ミスはない、やましいことなど一切していないのであれば、正々堂々と裁判を受けてたち、戦ったらいいのである)

真相は神のみぞ知るのであろうが、今回はこれに関した論文をいくつか紹介したい。

まず、本年2月6日、サウスチャイナ工科大学の研究グループは新型コロナウイルスは武漢の研究所に由来するものだろうという論文を発表した。①を主張するような論文が中国の研究者によって提出されたのである。自国の民から内部告発されたことになる。しかし、その論文はすぐに中国政府の検閲に逢い、削除されてしまった。さらに、筆頭著者のBotao Xiao(シャオ・ボタオ)教授はその後行方不明となったらしい。闇に葬られたのである。

シャオ・ボタオ教授と同じようなことを内部告発した者は医師やジャーナリスト等、他にも多数いたが、中国政府によって全て拘禁されたらしい(行方不明)
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なぜ、その論文は闇に葬られたのであろうか。事実をずばり指摘したせいで、中国政府の逆鱗に触れたからであろうか。

しかし、その論文はResearchGateにも掲載されたため、ResearchGateでは今でも見れるのである。

今回はその論文を紹介したい。

論文の掲載先↓

「The possible origins of 2019-nCoV coronavirus」
(2019-nCoVコロナウイルスの起源の可能性)

2019-nCoVコロナウイルスは、中国では 、 2020年2月6日までの時点で28,060名が感染し、564名が死亡した。

このウイルスに関して2つの論文がある。今週Natureに掲載された論文では、この患者から採取したウイルスのゲノム配列が、Rhinolophus affinis(キクガシラコウモリ)から発見されたBat CoV ZC45というコロナウイルスと96%、89%同一であった。
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2012-7
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(一番相同性が高いウイルスのシーケンスはRaTG13と呼ばれ、2019-nCoVとは約1100ヌクレオチド異なるだけである。このウイルスは武漢ウイルス学研究所が保管所持している)

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(コロナウイルスの感染源になり得る動物は多種にわたることが分かっており、コロナウイルスには動物を超えた感染のリスクがあることが、今回のパンデミックの前から懸念されていた。動物から採取されたコロナウイルス検体は人にも感染するおそれがあるため厳重な管理体制下で取り扱わなければならないことは当然であった。しかし、武漢研究所は、セーフティレベル4(P4)の施設だとされているが、ウイルスが漏洩してもおかしくないようなセーフティレベル2(P2)程度の体制だったという指摘がある。その研究所でいろんなコウモリから採取したコロナウイルスの収集と実験が行われていたため、武漢研究所から漏洩したのではという疑惑はぬぐい切れないであろう。)

(中国では過去にも漏洩事件を起こしている。2003年の北京の疾病管理予防センター研究所でのSRASウイルスの漏洩事故では、感染した1名が死亡しており、中国の研究所のセーフティレベルは以前から懸念があった)

病原体がどこから来たのか、それがどのようにして人間に感染したのかを研究することが重要である。

The Lancetに掲載された論文では、武漢の41名が急性呼吸器症候群を患っており、そのうち27名は華南海鮮卸売市場(Huanan Seafood Market)と接触があったと報告されている。

アウトブレイクした後に、市場で収集された585サンプル中、33サンプルで2019-nCoVが検出された。

その結果、華南海鮮卸売市場は、伝染病の発生源であると疑われ、検疫のためシャットダウン(閉鎖)された。

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しかし、CoV ZC45の宿主のキクガシラコウモリは、元々雲南省や浙江省で発見されたものであり、発見された2つの場所は、華南海鮮卸売市場からは900 km以上も離れている。 

コウモリは通常、洞窟や木に生息している。そして、華南海鮮卸売市場は人口が1500万人もの武漢という大都市の人口密集地域にある。 コウモリが市場にまで飛んでくる確率は非常に低い。

 武漢の31名の居住者と28名の訪問者の証言では、コウモリは、市内では、決して食料源にはなっておらず、市場では取引はされていなかった。
 
 (Lancetに発表された中国人の研究者達の臨床データからも華南海鮮卸売市場が発生源ではないと推測される。中国政府も華南海鮮卸売市場が発生源ではないと気付いていたはずである。華南海鮮卸売市場はクラスターの発生場所に過ぎなかった。誰かが市場の外で感染し、その後市場に持ち込んだものと推測できる。)
 
 既に確認された2019-nCoVの患者のシークエンスの系統樹分析からは、人への最初のジャンプは華南海鮮卸売市場ではなく他の場所で起こった可能性がある。
 
(華南海鮮卸売市場が発生源であるという 「ウェットマーケット」理論が、研究室の事故から注意をそらす目的で中国政府によって意図的に仕向けられている)
 
 新型コロナウイルスが、自然に変異した、あるいは、中間宿主を経由して伝染した可能性があるが、その証拠はまだ見つかっていない。

他に可能な経路はあるだろうか。
 
我々は、華南海鮮卸売市場の周辺をスクリーニングしたところ、コウモリのコロナウイルスの研究を行っている2つの研究所を特定した。 華南海鮮卸売市場から約280メートル以内の距離に武漢疾病管理予防センター(WHCDC)がある(図 BaiduおよびGoogleマップから)。  
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WHCDCの実験室では、研究目的で動物を保存しており、その一部は病原体の収集と同定に特化していた。

上記の研究の1つでは、キクガシラコウモリを含む155匹のコウモリが湖北省で捕獲され、450匹のコウモリが浙江省で捕獲されたと記載されている。
 
さらに動物を寄贈した収集のエキスパートの名前(JHT)が論文に記載されている。 彼は、2017年と2019年に中国全土の新聞やウエブサイトでウイルスを収集していると報じられている。
(上の2つのサイトは既にブロックされている)

(JHTという人物は、Jun Hua Tianという人物であり、WHCDCで働いていたらしい)

彼は、コウモリに襲われ、コウモリの血が肌に触れたことがあると述べている。 その際彼は、感染の危険性を知っていたため14日間自分自身を隔離した。
(このサイトもブロックされている)

別の事故では、 コウモリが彼を襲ってきたため、再び自分自身を隔離した。 彼は生きているダニを運ぶコウモリの捕獲という危険にもさらされている。
(このサイトもブロックされている)

収集された動物は手術を施され、DNAやRNAの抽出とシーケンシングの目的で組織サンプルが収集された。
 
組織サンプルや汚染されたゴミは病原体の源だった。それらは華南海鮮卸売市場からわずか280mしか離れていない。WHCDCはユニオン病院にも隣接しており、今回のエピデミック中に最初の感染グループとしてユニオン病院の医師4名が感染した。 
 
WHCDCのウイルスが周囲に漏れ、その一部が最初の患者を汚染した可能性があるが、確かな証拠としてはさらなる検証が必要である。
 
2番目の研究所は、中国科学院の武漢ウイルス学研究所であるが、華南海鮮卸売市場から12 km以内に位置する。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E6%BC%A2%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80

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(なお、この研究所の建設にはフランス政府が関わっている。フランス政府が何らかの証拠を握っている可能性がある)
 
この研究所は、 2002-3年にパンデミックを引き起こした呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)は、中国の馬蹄コウモリが発生源だったと報告した。
 
主任研究者は、SARS-CoV逆遺伝子システム(the SARS-CoV reverse genetics system)を使用してキメラウイルスを生成するプロジェクトに参加し、実験室で人間に感染する可能性があることを報告した
(主任研究者はZheng-Li Shiという女性で、 "bat woman"と称され、コウモリのウイルス研究者の第一人者として有名である)
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 要約すると、誰かが2019-nCoVコロナウイルスの進化に巻き込まれた。 そして、自然に生じた組換えと中間宿主が加わって、キラーコロナウイルスは武漢の実験室でおそらく誕生した。 
 
高リスクのバイオハザードラボの安全性レベルを強化する必要がある。 これらの研究所を市内中心部や他の人口密集地から遠くに移転するための措置がとられる可能性があろう。

(なお、シャオ・ボタオ教授以外にも、実験室での事故だったという可能性に言及している学者は他にもいる)

(論文終わり)

偶然なのか必然なのかはまだ分からないが、武漢にはコロナウイルスを扱って実験していた研究所が2か所もあり、その2か所とも新型コロナコウイルス(SARS-CoV-2)と高い相同性を有する、SARS-CoV-2の祖先と思われるコウモリのコロナウイルスを取集して実験に使用していたのである。もし、それが漏洩し人に感染したら、大変なことになるのは間違いない。

新型コロナウイルスが自然発生したとして、ある特定の場所でウイルスが自然発生する確率と、その場所に、そのウイルスと強く関連するウイルス(そのウイルスの直近の祖先)を所持している研究施設があるという、この2つの偶然の確率が重なるのは天文学的な確率となり、この2つが偶然に生じることはあり得ない、すなわち、偶然ではなく、必然だったと考えることはできよう。

武漢ウイルス学研究所のZheng-Li Shi博士のグループは、中国の洞窟でコウモリを捕まえて、ウイルスの糞便と血液を採取してきた。彼女達は、10,000以上のコウモリと2000の他の種をサンプリングしたと述べている。しかも、約500の新しいコロナウイルスを発見している。そのうちの約50は、系統樹ではRaTG13を含むSARSウイルスに比較的近いウイルスであった。Zheng-Li Shi博士がバットウーマンと呼ばれるようになった理由はコウモリのウイルスを採取しまくったからであるが、彼女がコレクションしたウイルスは膨大な数になる。それが研究所に保管され実験に使用されていたのである。

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(しかし、それらのウイルスのサンプルは証拠隠滅のために中国政府によって既に破棄されてしまったおそれがある。中国政府は、武漢ウイルス学研究所へのアクセスができないようにネットでの接続を遮断してしまい、武漢ウイルス学研究所が所有するサンプルの提供を各国からワクチン開発のために求められたが、中国政府はそれを拒否した。明らかに何かを隠そうとしている。

Zheng-Li Shi博士は、事故の危険性(研究所から漏洩しパンデミックを起こす危険性)を承知していたようで、新型コロナウイルスの遺伝子配列を解析した後に、直ちに研究所でコレクションしているコロナウイルスかどうかを調べたと証言している(結果は該当せずだったらしいが)。しかし、なぜ直ぐに調べたのであろうか。直ぐに調べたというのが逆に非常に怪しい。さらに、論文として新種のウイルスとして公表はしていないものの、極秘裏に今回の新型コロナウイルスを既に収集していた可能性もある。そして、その極秘裏に収集していたウイルスだったと判明し愕然としたが、言い訳をしておこうと画策し、NatureにBat CoV ZC45由来のように思わせる論文を発表した。ということもあり得よう。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6135831/
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2008-3

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(彼女は、口封じを恐れて、フランスのアメリカ大使館に亡命申請したという噂も流れている)
https://www.covid-19.no/bat-woman-zhengli-shi-asylum-us-embassy-in-france

China Novel Coronavirus Investigating and Research Team(中国政府から正式に資金提供されているコロナウイルスの研究者達の対策チーム)が出した論文には、Zheng-Li Shi博士の名前がない。彼女は対策チームには入っていないようだ。第一人者の彼女が対策チームに入っていないのは、逆に非常に怪しい。事故の責任を取らされてチームから外されたのかもしれない。

コロナウイルスはRNAウイルスだが比較的変異しにくいウイルスだと言われている。しかし、既に武漢で誕生し人に感染して以来、2週間おきに変異しているらしく、既に多数の子孫が誕生している。その系統樹が報告されているが、既にいろんなグループに分化しており非常に複雑である。従来の見解とは異なり、コロナウイルスはいったん宿主に感染し始めると変異しやすくなるのかもしれない
https://academic.oup.com/nsr/advance-article/doi/10.1093/nsr/nwaa036/5775463

L型とS型の2つに大きく分かれる
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既にいろんな国で変異したものが絡みあい多様性を獲得している
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タイプA・B・Cの3つのグループに分かれる
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5つのグループ(A~E)に分かれる。
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(新型コロナウイルスはどのように変異して世界に拡散していったかが動画で分かるサイト↓)
https://nextstrain.org/ncov/global
国によって感染の主な株が異なる
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(宿主の細胞に付着するスパイク部分の遺伝子が変異していき、感染性を増し凶暴に進化したD614Gという株が既にヨーロッパやアメリカで蔓延しているらしい。まだ日本でこの株が検出されたという報告はないが、日本での死者が少ないのは、このような強毒に変異した株が上陸していないだけなのかもしれない。)
https://i0.wp.com/emcrit.org/wp-content/uploads/2020/03/covid88evo.jpg?resize=1536%2C1218&ssl=1

遺伝子配列の系統樹からは、CoVid-19は、2019年11月頃に動物からヒトへ飛び移ったと推測されている。そして、その場所が武漢の研究所だった可能性は否定できない。昨年の11月には研究所で飼育されている動物の体内で新型コロナウイルスが既に誕生していたのかもしれない。

問題は、いつこのウイルスが誕生したのかということである。しかし、イタリアの患者のサンプルの分析では、中国で最初のSARS-CoV-2が報告された(2019年12月31日)数週間前にイタリアで既に存在していたことが示唆されている。2019年11月に既にイタリアで存在していたことになる。11月誕生説がイタリアの調査からは支持される。

さらに、フランスでの調査も、既に12月27日の時点でフランスに新型コロナウイルスの感染者がいたことが判明している。

ネット上の書き込みや検索からは既に昨年の11月の時点でこの感染症が中国で発生していた疑いが示唆されている。中国政府も11月17日の時点で発症していたという調査結果を発表している。

要約すると、昨年の11月の時点で武漢でこのウイルスは誕生し、感染した武漢の市民が海外に渡航し、フランスやイタリアでも感染させ、その時点でウイルスの感染者が既にイタリアやフランス発生していたということになる。最初の株は毒性が強くない株だったかどうかはまだ不明であるが、今流行している株とは違い毒性が低い株だったため、気づかれなかったのかもしれない。

このコロナウイルスは、2種の配列が異なるウイルス同士が合体し、新種に変身する能力を有することが知られている。合体して変身するのである。凄い能力を有しているのである。従って、研究所で多くの種類のコロナウイルスを集めれば集めるほど、いろんなコロナウイルスの組み合わせも可能になり、新しい種が誕生する確率が増し、今回のような危険な新種が誕生しやすくなると思われる(新型コロナウイルスは合体変身してフリン切断部位アミノ酸配列PRRARを持ったため感染力が桁違いに強まったと考えられている)。故意でなくとも、汚染し実験室に残存したウイルス同士の偶然の産物であろうとも。そのウイルス同士が合体すれば新種誕生(=新型コロナウイルス誕生)の危険性が確実に増すことであろう。
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研究所の中で、コウモリ以外の動物には感染するが人には感染しないスパイクを有するコウモリのコロナウイルス(スパイクにフリン切断部位がないRaTG-13株)と、人にも動物にも感染するスパイクを有するコロナウイルス(スパイクにフリン切断部位が有る)とが合体し、人に感染できる新しいスパイクを有するコウモリ型の新型コロナウイルスが誕生したのかもしれない。2種類のコロナウイルスが同時に存在する、そして、同時に同じ動物に感染するリスクがあるのはどういった場所であろうか。それは研究所でしかあり得ず、他では稀なことであろう
http://www.donga.com/jp/article/all/20200228/1991557/1/%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%80%81%E3%83%92%E3%83%88%E7%B4%B0%E8%83%9E%E3%81%A8%E3%81%AE%E7%B5%90%E5%90%88%E5%8A%9B%E3%81%AF%EF%BC%B3%EF%BC%A1%EF%BC%B2%EF%BC%B3%E3%81%AE%EF%BC%91%EF%BC%90%EF%BC%90%EF%BC%90%E5%80%8D

(雲南の洞窟でもあり得る現象だと言う意見もあるが、雲南から武漢までその動物は生きたまま移動できないはずだとシャオ・ボタオ教授は否定している。研究所が雲南の洞窟でその動物を捕獲して生きたまま研究所に持って帰れば可能だが)。

研究所で飼育しているある動物の体内で合体して昨年の11月に新種のウイルスが誕生した。そして、研究所の無名の女性インターンが誤ってその新しいコロナウイルスに感染した。その後、彼女は華南海鮮卸売市場に行き、市場の人々に感染し、市場で扱われている食用の動物にも感染し、市場で感染が広がりクラスターとなった。というように考えることはできよう。
https://www.dailymail.co.uk/news/article-8280921/Chinas-Bat-Woman-Shi-Zhengli-denies-trying-defect-confidential-files.html
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第一感染者(patient ZERO)にはいろんな説があるが、中国政府の発表では2019年の11月17日に発症した55歳の男性とされている。既に昨年の11月の時点でウイルスは誕生していたのは間違いない(きっと研究所の動物の体内で)。

一方、恐ろしいことに、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列は、人の遺伝子に既に組み込まれているHERV-Kのアミノ酸配列と有意な相同性を有するらしい。これは、新型コロナウイルスのスパイクへの抗体は、HERV-Kのアミノ酸配列による免疫寛容性のせいで、抗体が作られにくくなるのかもしれない(=免疫耐性)。言い換えれば、有効なワクチン、それはスパイクを認識する抗体を作らせることができるワクチンであり、そういったワクチンが一番有効なワクチンとなるのであろうが、それがHERV-Kのアミノ酸配列があるため無理かもしれないというのである。
http://virological.org/t/response-to-ncov2019-against-backdrop-of-endogenous-retroviruses/396

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立体構造からは新型コロナのペプチド22と
人の遺伝子の中のHERV-Kのペプチド22は
構造が似ており異物だと認識されないかもしれない
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しかも、スパイクタンパク質にはHIVウイルスと相同性を有する領域もあり、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質は免疫抑制作用すら有するかもしれないというのである。前回、述べたようにT細胞を殺してしまうのは、このアミノ酸配列があるせいであろうか。

HIVウイルスとも高い相同性を有する領域がある
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しかし、何ていうウイルスなんだ。こんな悪意に満ちたウイルスが自然に発生するのであろうか。あり得ない。

コロナウイルスは過去にも人為的に改変されたことがある。人為的に改変しようと思えばできるのである。

ということで、誰かがHIVウイルスとコロナウイルスとを合体させて人為的に新型コロナウイルスを作ったんじゃないのかという疑惑も生じてきているのであった。
http://www.iza.ne.jp/smp/kiji/life/news/200311/lif20031120000021-s1.html?utm_source=yahoo%20news%20feed&utm_medium=referral&utm_campaign=related_link

(中国は過去にも、毒性が強い鳥インフルエンザ(H5N1型)ウイルスを感染力が強いインフルエンザ(H1N1型)ウイルスに結合して127種の新型ウイルスを作成した前歴がある)

まず、インドの研究者から、新型コロナウイルスにはHIVウイルスが挿入されている可能性があるという論文が出され、bioRxivに掲載されたが、なぜか2日で取り下げられた(他のウイルスでも指摘された部位と同じ配列が見られるという理由のようだが)。
その論文は、まだネット上に残っている。そのサイトは↓である。
https://www.researchgate.net/publication/338957445_Uncanny_similarity_of_unique_inserts_in_the_2019-nCoV_spike_protein_to_HIV-1_gp120_and_Gag

上の論文では、HIVウイルス由来と思われる4つの部位が示されている。いずれもアミノ酸残基が5個ほど相同なのだが、その一致確率は、アミノ酸の種類は20種類もあるため、20の5乗=3200000。320万に1つの配列パターンである。自然の変異でこの配列が生じる確率は非常に低いと言える。それが4つもの部位(アミノ酸残基25個)に存在するのである。従って新型コロナウイルスで見られる変異がSARSウイルスに自然に起こる確率(20×25乗)は絶対にないと言い切れるほど低いのである
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この配列は、HIVウイルスでは、表面糖タンパク質Gp120とGagタンパク質の部位である。HIVのGagタンパク質は、宿主細胞の膜への結合、ウイルスのパッケージング、ウイルス様粒子の形成に関与している。Gp120 は、CD4に結合し宿主細胞を認識する上で重要な役割を果たしており、その能力を新型コロナウイルスも有するのかもしれない。
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そして3次元のタンパク質の立体構造の解析からは、この配列によって、宿主細胞との作用がさらに柔軟になり感染が促進されるのではと推測される。

一方、HIVの研究でノーベル賞を受賞したフランスのモンタニエ博士は、HIVウイルスのワクチンを作る目的で、このウイルスが武漢の研究所で作成されたのだろうという見解を表明した。
https://www.theweek.in/news/world/2020/04/19/coronavirus-man-made-in-wuhan-lab-says-nobel-laureate.html

その背景に、中国の研究者がHIVウイルスに感染しないように遺伝子を改変操作した新生児を誕生させたという事件がある。これは医学の倫理に反する行為である。その研究者には懲役3年の刑が下った。しかし、中国ではこういった倫理に反するような実験がどんどん行われているのかもしれないのである。
https://japanese.engadget.com/2019/06/04/crispr-ccr5/
https://wired.jp/2018/12/02/gene-editing-crispr-second-pregnancy/

これと同じような倫理に反することがコロナウイルスで行われたのだろうか。今度はHIVウイルスへのワクチンとなる人工ウイルスをコロナウイルスで作ろうとしたのである。新型コロナウイルスは、その結果の産物だろうとフランス人のブリケージ・ピエール博士がモンタニエ博士と同じ主張の論文を発表している。
https://www.researchgate.net/profile/Bricage_Pierre/publication/340583458_Is_the_new_Wuhan_Chinese_coronavirus_an_avatar_of_a_genetically_engineered_coronavirus_to_produce_a_curative_AIDS_vaccine_1_Curative_vaccines_what_technology_should_be_implemented/links/5e92c37b4585150839d6424c/Is-the-new-Wuhan-Chinese-coronavirus-an-avatar-of-a-genetically-engineered-coronavirus-to-produce-a-curative-AIDS-vaccine-1-Curative-vaccines-what-technology-should-be-implemented.pdf?origin=publication_detail

ピエール博士は、GTNGTKR (IS1)、HKNNKS, HKNKR (IS2)、GDSSSG (IS3)、 QTNSPRRA (IS4)、といったHIVウイルスのカプシドタンパクと相同性を有する配列が仕込まれており、HIVウイルスの機能が可能になると指摘しており、この部位はインドの研究グループが指摘した部位と同じ部位である。

さらに、新型コロナウイルスに同じような所見があることを中国の南海大学の研究者達(Ruan Jishou教授ら)も見出しており、同じような推測をしているようだ(論文はまだ未発表だがresearchgateでその論文が読める)。
https://www.scmp.com/news/china/society/article/3052495/coronavirus-far-more-likely-sars-bond-human-cells-scientists-say
https://www.researchgate.net/publication/340091740_A_mutation_model_explaining_acquisition_of_the_furin_cleavage_site_in_the_SARS-CoV-2_genome

一方、報道はされていないが、既にスイスで2005年にコロナウイルスをベクター(運び屋)として利用したHIVウイルスのワクチンを作ろうとする研究が行われていたこの研究にはアメリカのNIHが資金を提供していた(Project # 5R21AI062246-02)。同じような研究が既にヨーロッパのスイスでも行われていたのである。当然、HIVの研究者達はこの事実を知っていたはずであり、他の国々でもHIVウイルスのワクチンを作ろうと競争していたのかもしれない。ノーベル賞を受賞したHIV研究の第一人者のモンタニエ博士のところにはHIVウイルスのワクチンの開発状況に関する多くの情報が入っていたはずであり、武漢の研究所でもコロナウイルスを使ったHIVウイルスのワクチン開発の実験をしていたという情報をモンタニエ博士は握っており、今回の見解を発表したのかもしれない。
https://grantome.com/grant/NIH/R21-AI062246-02

以上を要約すると、こうなる。

武漢ウイルス学研究所でHIVウイルスのワクチンに使用できるウイルスをコウモリのコロナウイルス(RaTG-13ZC45株)を使ってHIVウイルスの一部を組み込み人工的に作ろうとしていた。人には感染しないがHIVウイルスだと認識してHIVウイルスを阻止できるような抗体を作らせることができるウイルスのはずだった。それは中国の極秘プロジェクトだった。中国政府も知っていた。しかし、2019年11月、研究所で漏洩し、ある動物に感染してしまい、その動物の中で合体変身が起こり、その人工ウイルスは人に感染する能力を持ってしまった。そして、その動物から研究所の誰かに感染し、感染した職員が華南海鮮卸売市場に行き、そこで、ウイルスを蔓延させて、クラスターが発生した。

新型コロナウイルスは新型エイズウイルスだとも言えるような人工のウイルスなのかもしれないのである。

ああ、恐ろしや、恐ろしや。

(今回は、陰謀論の立場に立って書いてありますが、私自身は陰謀論を支持している訳ではありません。)

追記:
その後、さらに、人工ウイルス説を指摘するような研究者の書き込みがResearchgateにあったため、下に示しておきます。
フェルナンド・カストロ・チャベス博士は詳細な考察を何個も掲載している。特許を取得した人工のヌクレオチドの配列ACGTGCCCGCCGAGG{139~153}がCovid-19には仕組まれている。等
https://www.researchgate.net/post/COVID-19_CCTCGGCGGGCACGT_PRRAR_AA_Furin_cleavage_site_at_23603-23617_of_the_MN908947_Genbank_Genome_Matches_Mostly_Bacteria_COVID-19_in_BLAST
https://www.researchgate.net/post/Second_Sequence_COVID-19_TAAAATTAATTTTA_Restriction_site_AATT_TTAA_for_the_enzymes_Sse9I_Tsp509I_and_TspEI_in_this_ending_palindrome_sequence
https://www.researchgate.net/post/Fifth_Sequence_COVID-19_2_variants_ATG-246-TT_CA-111-TAA_TTA_L_L-Type_70_TCA_S_S-Type_30_in_position_28144_of_MN908947_for_ORF8_NifB
https://www.researchgate.net/post/Eight_Sequence_COVID-19_2_variants_ATG-878-CC_TT-1729-TAG_CCT_P_L-Type_CTT_L_G-Type_in_position_14408_of_MN908947_for_NSP12

(その特許に関する研究はビルゲイツ財団が資金提供している)
https://www.modernatx.com/ecosystem/strategic-collaborators/foundations-advancing-mrna-science-and-research

cr37




未知のウイルスとの戦い 3つのSを守り抜け

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Social distancing
Stay home
Self isolation

令和2年4月7日、日本においても遂に緊急事態宣言が出された。そして、4月16日、緊急事態宣言地域は日本全国に拡大された。

新型コロナウイルスによって既にヨーロッパやアメリカでは悲惨な状況になっている。医療が崩壊し、目を覆いたくなるような社会状況がどんどん報告されてくる。なんとか持ちこたえて一刻も早く収束することを願うばかりである。

(ICUに収容された患者で退院できた人は0%)
https://encount.press/archives/38704/
(ニューヨークで死亡者を大量埋葬)
https://ourcommunitynow.com/news-national/nyc-mayor-explains-aerial-photos-of-supposed-mass-burial-on-twitter-thread

しかし、次は日本の番かもしれない。

果たして人類は、この未知のウイルスとの戦いに勝利できるのであろうか。

新型コロナウイルスの登場によって社会のあり方は一変してしまった。他の動物ではなしえなかったが、人類は社会を作り、社会を発展させ、その結果、文明を築き上げることに成功した。人類がここまで発展できたのは、社会を作ることができたからだと言えよう。

しかし、このウイルスの登場によって、社会のあり方の根幹が揺らぎ始めている。このウイルスによって社会が分断され、その結果、仕事や人と人との絆が奪われ、社会が破壊され始めているのである。

このウイルスは人類社会を破壊するウイルスだったのだ。史上最悪のウイルスだったのだ。
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/33562

今は、ワクチンという有効な武器がない以上、このウイルスとの戦いでは、人類の方が劣勢に立たされていると思うべきである。

もし、このウイルスが蔓延し、猛威を奮い続け、人類が敗北し、カタストロフィーの曲面を超え、社会が修復不能な段階にまで破壊されてしまったら、下手をしたら現代文明が滅びてしまうのかもしれない。世界中が廃虚と化し、石器時代に戻ってしまうということも絶対にないとは言えない。

今ここで、このウイルスを何とか食い止めないと、取り返しのつかない事になり、SF映画のようになってしまうかもしれないのである。

cr

ウイルスへの抗体を体内に持っていない限りウイルスの感染を防止することはできない。今はこのウイルスに対しては、人類の体は無防備である。侵入をいったん許してしまえば抵抗ができない無力な状況にあるのだ。この事をしっかりと理解しておかねばならない。

しかも、このウイルスは非常に性質が悪いことがだんだんと分かってきた。最初の頃のように、インフルエンザと同じだなんて言って呑気に構えていることなど、もうできないのである。

最近、このウイルスはHIVウイルスのように免疫系をどんどん破壊していく能力を有することが判明した。スパイクを介して免疫の司令塔であるT細胞に憑りつき感染し、T細胞と心中し、T細胞を殺すのである。
https://www.nature.com/articles/s41423-020-0424-9
https://www.peakprosperity.com/the-coronavirus-has-a-second-route-of-attack/
https://nazology.net/archives/56567

その結果、T細胞がどんどんやられていってしまう。T細胞の数が減れば免疫系が十分に機能しなくなってしまう。これは非常に危険である。エイズと同じことになる。
https://www.nature.com/articles/s41423-020-0401-3

場合にはよっては一気に免疫不全に陥り重篤化するであろう。いったん解熱して回復するかと思ったが急激に重篤化した。そういった症例が既に数多く報告されている。このような経過はT細胞が限度を超えて減ってしまったせいであろうか。

さらに、T細胞がやられてしまうせいか、十分な抗体ができずにウイルスに潜伏されてしまう人が30%にも上がるようだ。陰性化した後に再陽性になるケースが相次いで報告されているが、それはT細胞がやられてしまったままになっているのが原因であろう。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.30.20047365v1
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/04/3-195.php

ずっと十分な抗体ができない。こうなると生涯にわたってウイルスと戦わないといけなくなるかもしれない。体内に潜んでいるウイルスがいつ再活動を始めるか分からない状態で生きていかねばならないのである。

エイズウイルスは飛沫感染はしないが、新型コロナウイルスは飛沫感染し、エイズウイルと同じような破壊力を有するウイルスだったのである。飛沫感染する新型エイズウイルス。なんて恐ろしいウイルスなのか。

回復しても、じわじわと免疫機能が低下していき、数年後にエイズのようになる人が出ないとも限らない。

このウイルスに感染したらアウトかもしれないということを肝に銘じて感染予防をしていくしかない。

とにかく、今はウイルスを遠ざけて感染しないようにするしか手立てがない。しかし、感染者が増えれば増えるほど感染者の密度は高くなる。そうなれば、このウイルスを遠ざけることすら難しくなる。

感染者を可能な限り増やさない。それを収束(終息)するまでは続ける。これが何より重要である。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55991750T20C20A2CZ8000/

もし、一気に蔓延して感染者が増えてしまえば(感染爆発、オーバーシュート、アウトブレーク)、感染を予防することが困難になるだけでなく、医療が対応できなくなり、救える命が救えなくなる。
https://www.news.com.au/lifestyle/health/health-problems/coronavirus-simple-graph-shows-how-we-can-flatten-the-curve-and-lessen-the-disruption-caused-by-the-pandemic/news-story/6acd8c4c5c453e6138228b2ab2dde008

Covid-19-curves-graphic-social-v3-3

医療崩壊である。これが今さかん警告されている。北イタリアがアウトブレークしてしまい医療崩壊した。医療崩壊になれば社会の破壊は既に深刻な状況になっていると思わねばならない。

とにかく時間を稼ぎ、感染爆発を防ぎ、医療を機能させながら、その間にワクチンを開発するしかないのである。そうしなければこの社会は新型コロナウイルスによってどんどん破壊されていくだけであろう。

(既に様々な薬が試みられているが、まだ決定打は見つかっていない)
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2764727
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.02.26.964882v2.full

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(上の論文で試されている薬剤は一般市民では入手できない。しかし、緑茶の成分のカテキンやエピカテキンガレートは構造解析からはMpro阻害能力を有する可能性があり、緑茶を飲んでいたら感染予防には少しは役に立つのかもしない)
https://www.preprints.org/manuscript/202003.0226/v1
https://www.researchgate.net/publication/340542254_Potential_of_Plant_Bioactive_Compounds_as_SARS-CoV-2_Main_Protease_Mpro_and_Spike_S_Glycoprotein_Inhibitors_A_Molecular_Docking_Study

今はウイルスをとにかく遠ざけるしかない。それしか我々にはできないのだ。

手洗いやマスクの着用などウイルスを消去したり体内への侵入をブロックすることも重要であるが、それだけでは感染は防げない。体に付着したウイルスを完璧に除去したり、侵入を完璧にブロックすることは、通常のやり方ではできない。防護服、手袋、マスクといった装備でも完全には防げない。

その証拠に新型コロナウイルスの感染者を受け入れた指定病院でも院内感染が発生している。陰圧の環境、防護服など十分な準備の下での受け入れであろうが、いくら気をつけていても、それでも感染を防げないのである。
https://www.asahi.com/articles/ASN4B7W47N4BPISC014.html

このウイルスはいろんな環境下で長く生き延びるたちが悪いウイルスであることが分かってきた(空中でも数時間、表面では数日は感染力を有する。マスクに付着した新型コロナウイルスの感染能力は7日間以上もある。何もしないで放置したら生活環境から排除するのは容易ではない性悪のウイルスなのである。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMc2004973
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666524720300033?via%3Dihub

cr4

(ただし石鹸や様々な消毒液には弱いので、手洗いや、物品、場所などの消毒に徹すれば感染のリスクはかなり減る)

それこそ宇宙服のような完全に密閉されたものを常時着ていないと感染を完全に防止するのは無理であろう。個人では限界があるのである。

感染が完全に防げないのであれば、社会が油断していたら、ウイルスは、結局、社会にどんどん蔓延していくことになる。

もう個人個人では限界がある。従って社会という観点からの対策が極めて重要なことになる。

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社会という観点からのウイルスへの対策、それが

Social distancing
Stay home
Self isolation

といった行動なのである。

これらの行動は既に何度も報道されてネットでも多く力説されており詳細は省略する。

しかし、この取り組みが少しでも疎かになれば致命的となるため、全員に周知徹底して実践してもらわないといけない社会行動なのである。

このウイルスは、サイズが10μmと小さく空中に漂い飛沫感染するのだが、2mを超えて感染する場合は空気感染と定義されている。今のところは、このウイルスはエアロゾル感染は起こさないと言われている。従って、この距離以内に感染源に近づかなければ良いことになる(エアロゾル感染するのではとも言われているが)。

cr1

まず、Social distancingであるが、これは、社会的な距離を置くことである。すなわち、感染源となり得る他人との距離を置くことで、具体的には常に2mくらいの距離を保ち、常に感染源に近づかないようにすることである。
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/prevent-getting-sick/social-distancing.html
https://www.vice.com/en_uk/article/qjdm93/social-distancing-explained-statistics

ウイルスから遠ざかり、ウイルスに曝露しないように努めるための行動がsocial distancingである。そして、自分が既にウイルスに感染していても他者をウイルスに曝露させないよう努めるための行動でもある。
https://www.visualcapitalist.com/the-math-behind-social-distancing/

このウイルスは感染して発症するまでのタイムラグが長く(1~14日)、感染に気づかずにいる場合も多い。さらに、症状が出る前から感染させることが分かっている。他者は常に感染源だと思わねばならないのであるが、逆に、自分も感染源だと思わねばならないのである。
https://www.who.int/news-room/q-a-detail/q-a-coronaviruses
https://www.afpbb.com/articles/-/3278901

しかも、無症状でも体内のウイルス量は症状があるケースと同じ量らしい。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2001737

無症状者が感染させるリスクは非常に低いというWHOの意見もあるが、そうとも思えない。無症状でもウイルス量が相当あるのであれば、たとえ自分は元気でも無症状なだけであり、既に感染しており、自分は感染源かもしれないという前提で全員が距離を置くという行動しなければならないのである。

そして、この社会行動は全員が取り組まねば機能しない。裏切る人が多ければ効果は発揮されない。従って、全員に周知徹底させる必要がある。しかし、全員に周知徹底させるには社会(行政)が主導しないと無理である。

社会の全員にSocial distancingを周知徹底させる。そのための緊急事態宣言なのである。

もし、Social distancingの開始が遅れたら、感染者が一気に増えてしまう。アメリカ合衆国では、カリフォルニア州とニューヨーク州で感染者に著しい差が生じているが、それはニューヨーク州では緊急事態宣言がたった3日遅れたせいだろうと考えられている。
https://mainichi.jp/articles/20200408/k00/00m/030/208000c

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たった3日遅れただけでの大惨事。Social distancingがいかに重要な行動であるかが理解できよう。

たった3日でこのような大きな差が生じる。ウイルスは待ってくれないのである。

日本での緊急事態宣言は果たしてどうだったのであろうか。もう時間は戻せない。日本政府の判断は遅れてはいなかったと信じるしかない。

ここで、Social distancingの重要性を解析した論文を紹介する(インフルエンザの場合を人口3万人の町でシュミレーションした論文だが、Social distancing、SDの重要性が理解できる)。
https://bmcpublichealth.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-2458-9-117

SDとしては4種が定義されており
①school closure(休校)
②increased isolation of symptomatic individuals in their household(症状のある人は自宅で隔離)
③workplace nonattendance(出勤停止)
④reduction of contact in the wider community(接触を減らす)

RO値が1.5、2.5、3.5であると仮定してシミュレートすると、SDの介入が全くない場合は、最終的な感染率は、33%、65%、73%であった。RO値が2.5の時は、2、3、4週間のSD開始の遅延によって最終的な感染率は、7%、21%、45%であった。RO値が3.5の場合、感染率が減少したのは、遅延なく4種のSDが実施された場合のみであった。1、2、3週間の遅延により、感染率はそれぞれ19%、35%、63%に増加した。

cr8

新型コロナウイルスのRO値は今のところは2.0~2.5と見積もらているが、4.0以上という意見もあり、Social distancingの開始が遅れれば遅れるほど発病率はもっと大きくなろう。
https://www.businessinsider.com/coronavirus-contagious-r-naught-average-patient-spread-2020-3
https://www.peakprosperity.com/new-coronavirus-ro-of-4-1-massive-contagion-risk/

日本では、Social distancingの実施は、まず①から始まり、次に②が始まり、今ようやく③④が実施され始めた。4種が同時に実施された訳ではない。

しかも③はまだ不確実な実施状況である。日本では、Social distancing開始が遅れたのかどうか、今は誰にも分からない。遅れた訳ではないと信じたい。

さらに論文では、学校閉鎖に関してはそれだけ行なっても効果は不十分であり、4種のSocial distancingを同時にしないと十分な効果はないと書かれている。安倍総理の突然の一斉休校要請は意味があったのだろうかとも思える。
https://president.jp/articles/-/33403?page=2

当時は大人の感染者ばかりであった。なのに子供が真っ先に感染源扱いされて誤解され犠牲になったようにも思える。子供達がスケープゴートにされたのである。

あの時期は、いずれ一斉休校に踏み切ざるを得なくなる恐れがあるため、その準備を開始せよという警告でも良かったのかもしれない(オンライン授業ができるような体制整備などを早急に整えよ)。
https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020022900005.html

しかし、突然に休校となり、準備期間が全くなかったせいか、その後もずっと休校が続き、海外では実施されているオンライン授業は殆どの学校で未だに実施されておらず、子供達の教育の機会が奪われてしまい、放置されたままになっている。

今の日本は教育に関しては完全に後進国になってしまった。エジプトですらオンライン教育を行っている。アフリカの国々以下の教育体制なのである。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2004/16/news022_3.html

全国一斉に休校措置をしたが、結局、緊急事態宣言を出すことになってしまった。今の日本の状況は、大人達がその後も海外旅行や飲み会といったSocial distancingを無視した不用意な行動を重ねた結果のことであろう。決して子供達のせいではない。
https://article.yahoo.co.jp/detail/162b79e070ee7fc4a323341e4d4f30f565d82010

しかし、逆に、あの安倍総理の休校措置があったからこそ日本は瀬戸際で今でも持ち堪えられているという意見もあろう。

何もしない場合と比べて感染者40%減くらいの効果だろうが、それでも休校措置は意味があった。大人達もあれで意識が変わった。大人の行動を自粛させる効果もあったはずだ。まだ日本は医療崩壊までには至っていない。あの一斉休校措置のおかげだ。とも言えなくもない。

(あの安倍総理の突然の一斉休校要請は適切だったのか、いずれ検証されるのであろうが)

専門家会議のメンバーの西浦教授の試算によれば、何もしないと国内の死亡者は40万人以上になってしまうが、接触を8割減らせば約1ヵ月後には大幅に感染者は低下し収束に向かうことができると言われている(上の論文を参考にして、RO2.5、感染率65%、死亡率1%として計算すれば、その数字に近い試算となる)。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200414-00050041-yom-pol
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO57961860R10C20A4CZ8000
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200414-00050041-yom-pol

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しかし、1mくらいの距離では接触なしだと思ってしまうのはいけない。西浦教授も距離の重要性を力説している(2m以上)。相手は飛沫感染するウイルスである。1mでは効果は半減してしまう。しかし、国内の店で並ぶ時の位置の印は1m間隔が多いように思える。

飛沫感染を防ぐには2m以上遠ざからないと完全ではない。その距離を守ることで始めて接触していないと言える。

接触8割減が達成できるのは2m以上の距離を守った時であろう。2m。この数字を決して忘れてはいけない。店の印が1m間隔でも2mの距離で並ぼうではないか。

(2mでも十分でない、新型コロナウイルスは4mも飛散する、室内では換気も頻回にしないといけない、ジョギングの時は5m以上という意見がある)
https://www.afpbb.com/articles/-/3278146
https://mainichi.jp/articles/20200416/k00/00m/040/022000c
https://sp.hazardlab.jp/know/topics/detail/3/3/33761.html
(満員電車も避け、時差通勤を続ける必要がある)
https://qiita.com/innovation1005/items/dde6e76763e733d01d62

さらに、マスクを必ず着用する対面での食事も避ける、なるべく会話しない必要がある。食事は可能な限り一人でする。もう、ランチメイトは要らない。逆に、誰かと一緒に会話しながら至近距離で食事しているやつは馬鹿である。そのくらいしないと8割減は達成できないのである。
https://www.jiji.com/sp/article?k=2020041500430&g=soc
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%88%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-04-10/hong-kong-edge-over-singapore-shows-early-social-distance-works
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.01.20049981v2
https://www.japantimes.co.jp/news/2020/04/06/national/japan-social-distancing-talking-coronavirus/#.XpkIsMj7TD5

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一方、完全に終息していない状況でいったんSocial distancingを緩めてしまうと再び感染者が増えていくことも分かっている。
https://www.sciencemag.org/news/2020/04/ending-coronavirus-lockdowns-will-be-dangerous-process-trial-and-error#

これによって第2波や第3波といった再流行が生じる。スペイン風邪では半年ごとに世界中が大きな波に何度も襲われている。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/スペインかぜ

歴史は繰り返えされる。油断したらこのウイルスでも同じような現象がきっと起こることであろう。

下の論文のように、少なくとも2年間(2022年まで)はsocial distancingを続けないといけないのかもしれない。
(2024年までは再流行するであろう。→終息は2024年)
https://science.sciencemag.org/content/early/2020/04/14/science.abb5793?rss=1
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200415-00000032-asahi-sctch

2年間は非常に長い。しかし、我々人類は、政府や国際機関から終息したと宣言されるまでは、このSocial distancingを守り続けようではないか。

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しかし、Social distancingは初期の段階での行動である。さらにウイルスがもっと蔓延したら、外出せずに自宅に引きこもっているしか感染するリスクを減らせなくなる。Stay homeである。

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いったんウイルスが蔓延したら、いたるところの場所がウイルスに汚染されることになる。家のすぐそばの道路も汚染されているかもしれない。しかも、このウイルスは生存期間が非常に長い。そして飛沫感染する。汚染された道路から空中に漂い、その空気を吸い込み体内にウイルスが侵入しないとも限らない。

北イタリアやニューヨークの惨状を見ると、これはウイルスが完全に蔓延してしまったための惨状なのかもしれない。

北イタリアやニューヨークでは緊急事態宣言で家にいるように強制されたが、感染爆発は2週間では治らず一向に感染者は減らなかった。北イタリアやニューヨークではいたる所が汚染されたのかもしれない。

こうなると、もうSocial distancingだけでは無理であり、外にちょっと出ただけでも危険であり、もはや家の中でじっとしていない限り感染は防げないのかもしれない。

しかし、生きていくには食糧が必要である。食糧はいつかは尽きる。食糧の調達のためにいつかは外に出なければならない。家の外に出る時は感染を覚悟して出ることになろう。

(3週間家にこもったが感染した。宅配サービスを受け取るためにドアを開けた瞬間にウイルスに侵入されたのだろうか)
https://encount.press/archives/39305/

ずっとstay homeするしかない。ウイルスによる汚染がなくなるまでは、とにかく家でじっとしている。

そして、外に出る時は感染覚悟での命がけで外出する。なんて悲惨なことなんだ。

日本はまだそこまでには至っていない。日本がこうならないことを祈るしかない。

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次に、もし、自分が感染してしまったら、どうすべきか。それはもう隔離しかない。

免疫がついて他者に感染させなくなるまでは自分を隔離するしかないであろう。それを自分の意志で行うのである。それが、self isolationなのである。
https://www.nhs.uk/conditions/coronavirus-covid-19/self-isolation-advice/
https://www.bbc.com/news/uk-51506729
https://www.ottawapublichealth.ca/en/public-health-topics/self-isolation-instructions-for-novel-coronavirus-covid-19.aspx

自分が他者に一人でも感染させたら、そして、その他者が誰かを感染させたら、感染の連鎖はいつまでも断ち切れない。感染の連鎖を断つことでしか社会を守れない。この社会の運命は自分も担っているのだという自覚を持って、自分の意志で自分自身を隔離する必要があると言えよう。

もし、自分の意志ではなく強制させられたと思いながらの隔離では、隔離環境から出ていこうとするであろう。それでは意味がない。

自分の意志で自分を隔離するのである。

感染したらself isolationの気持ちをしっかりと持たねばならないのだ。

しかし、self isolationには今の体制では大きな問題点がある。

入院できれば良いが、しかし、既に受け入れ病院はパンクしている。ベッドは重症の人に優先されるべきである。重症の人がいつ発生するか分からないため空きベッドを確保しておかねばならない。そうしなければ救える命も救えなくなる。

既に軽症者はホテルや自宅での隔離となっている自治体が殆どである。これはまさしくself isolationそのものである。ホテルや自宅で一人でじっと耐える。誰も見守ってはくれない。self isolation、これは孤独との戦いとなる。
https://gemmed.ghc-j.com/?p=33280
https://gemmed.ghc-j.com/?p=33308

cr11

ホテルなら常駐しているスタッフがいるであろうから、ホテルに任せておけば良いのでまだ安心だが、自宅での隔離はこれほど心細いことはないであろう。

自宅で一人で隔離していて急に重篤化したらどうなるのか。食糧がなくなったらどうなるのか。

感染したと分かっての一人での自宅待機(自己隔離)。不安だらけで自宅でじっと耐えることができる人はどの位いるのであろうか。孤独との戦いに負けて外に出てしまう人も出てくるのではなかろうか。

(外に出てしまった。それでは意味がない。)

自宅となると、とにかくどうしたらよいのか分からないことだらけであろう。

しかし、自宅での隔離については、まだ何も具体的な体制は整っておらず、国(厚生労働省)からの指針や通達は出ているものの、ちゃんと自宅で療養(隔離)できるのかは分からないのが現状である。
https://www.mhlw.go.jp/content/000618525.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/000618526.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/000618528.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/000619458.pdf

もし、行政がいい加減な体制であったら、一人での自宅療養では見捨てられてしまうかもしれないのである。

https://www.nia.nih.gov/news/social-isolation-loneliness-older-people-pose-health-risks

ひどいことに、厚生労働省の指針には、自宅療養でも外出はするなとは書いてあるが、食糧とかをどうしたらいいのかは一切書かれてはいない。

家族と同居していたらいいが、家族間感染を恐れた家族が家を出ていってしまい、一人になってしまうことだってあるであろう。通達には家族と同居している設定ばかり書かれてあり、自宅で一人で療養(隔離)する設定が厚生労働省からは今は無視されている。

もし一人での自宅療養中に急変したら、誰を呼んだらいいのか。救急車を呼んでも陽性だと分かっていたら来てくれないのではないのか。救急車が来てくれても、病院で拒否されるのではないのか。感染の疑いだけでも既に受け入れを断れてしまっている。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000181825.html

果たして自宅療養でもしっかりサポートしてもらえるのであろうか。

PCR検査は自宅にまで来てしてくれるのであろうか。それとも自分が保健所まで行かないと受けれないのであろうか。

保健所の職員が来たら近所にバレてしまい非常に居ずらくなるのではないのか。賃貸マンションやアパートだったら大家さんから出ていけと言われるんじゃないのか。

それに食料がなくなったらどうすればいいのか。外出するなと言われても、食料が尽きたら、生きていけない。そんなに長い期間は食糧は持たない。

陽性者の家に宅配サービスが来てくれるのであろうか。もし、行政が届けてくれないのであれば、外に出て食べ物を買いに行くしかないのではないのか。

というように、外出するしかないと考える人も多いと思う。

既に、多くの自治体の知事や市長は、これからは軽症の方はホテルや自宅などでの療養になりますと宣言している。もし、ホテルもいっぱいになって溢れたら必ず自宅での隔離になるのである。

しかし、今の日本は自宅での隔離の時についてはどのようなサポートをしてもらえるのかは未知数のままなのである。

十分なサポートが受けれないため、結局、外出せざるを得なくなる。そういったケースが必ず生じるのでないのかと私は懸念している。

一回でも外出してしまえば、隔離の意味がなくなってしまう。

これでいいのであろうか。

良い訳がない。

自宅療養でも十分なサポートを受けれように早急に体制を整備せよ。我々はこの事を国に訴えていかねばならない。
https://mainichi.jp/english/articles/20200416/p2g/00m/0na/035000c

ロックアウトでの強制的な外出禁止措置(=自己隔離)。北イタリアやニューヨークであまり機能しなかったのは、何も決まっておらず、体制が整備されていない状況で、いきなり開始されたせいで、自己隔離(self isolation)をできた人が少なかったのが原因なのかもしれない。

日本がそうならないことを願う。

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最後に、ウイルスに勝つには免疫が鍵であり、前回のブログでも述べたが、アルコールは免疫機能を低下させるため、飲酒という行為をいかに制御するかが鍵となろう。

3つのSにもう一つのSを追加するのであればStop drinking alcohol。これになろう。

しかし、未だに日本という国はアルコールに関しては非常に甘い。緊急事態宣言下でも居酒屋で酒が飲める。レストランでも酒が飲める。穴だらけ、抜け道だらけの行動制限。これでは意味がない。

ナイトクラブやカラオケでクラスターが発生し、そういった業種は休業要請されたが、三密を満たしており危険だという理由であろうが、危険なことは三密以上に飲酒という行為なのかもしれないのである。

飲酒による免疫機能の低下が感染のリスクを高めたせいでクラスターが発生したかもしれないのである。

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アルコールによる免疫機能の低下の論文は非常に多い。一回の飲酒でも免疫機能が低下することもあり得る(大量飲酒では1回でも免疫機能は確実に低下する。習慣飲酒も危険。毎日大量に飲酒は感染予防では致命的。感染したら絶対に禁酒すべき。感染中に毎日飲酒していたら急に重篤化するリスクがある)
https://www.jimmunol.org/content/early/2019/11/08/jimmunol.1900770
https://www.recoveryways.com/rehab-blog/how-does-alcohol-affect-your-immune-system/
https://medicine.uiowa.edu/pathology/content/alcohol-induced-t-cell-dysfunction-during-influenza-infections
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11781510/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5115670/
https://www.nature.com/articles/s41598-019-44302-3
http://europepmc.org/article/PMC/4590616
https://www.medicaldaily.com/why-alcohol-abuse-associated-bad-flu-bouts-study-explains-how-booze-impairs-your-immune-299916
https://link.springer.com/protocol/10.1007/978-1-59745-242-7_1
https://www.dailymail.co.uk/femail/article-8115521/How-drinking-alcohol-impact-immunity-leave-higher-risk-catching-coronvirus.html

飲酒している状況下でウイルスに曝露されたら感染するリスクは非常に高くなるであろう。

飲み会での感染者が相次いでいるが、飲み会だと飲酒量は必ず増える。外で飲酒すると飲酒量増える必ず増える。これは非常に危険である。

(ナイトクラブで43人も一気に感染)
https://www.gifu-np.co.jp/news/20200415/20200415-232730.html

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台湾の感染者が少ないのは、対応が迅速で的確だっただけでなく、飲酒人口が少ないことも関係があるのかもしれない。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2001737
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200410-00080191-chosun-kr

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緊急事態宣言が出されたにも係らず外での飲酒は規制が不十分。次は居酒屋やレストランや飲食店での飲酒による感染者が多発することであろう。

既に地方では、ナイトクラブのような三密の条件を満たさない普通の飲食店でクラスターが発生している。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000181429.html

これは飲酒という行為が関係しているのではなかろうか。

飲食店の人達にお願いしたい。政府や行政からはアルコールの提供禁止とは言われてはいないけど、どうかアルコールの提供を緊急事態宣言が解除されるまでは自主的に中止してもらえないかと。

アルコールがなくても食事が美味しければお客さんは来てくれる。逆に、自分の店でクラスターが発生してしまったら店は必ず一時閉店となる。下手したら風評被害で店は廃業に追い込まれるかもしれない。自分のせいではなくアルコールのせいで。これほど悔やまれることはないはずだ。

日本をウイルスから守るために、アルコールの提供をどうかストップしてほしい。

Social distancing
Stay home
Self isolation
Stop drinking alcohol

4S = Survival

ウイルスとの戦いに勝つために4つのSを守り抜くのだ!!

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未知のウイルスとの戦い

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新型コロナウイルスの出現で今年の1月下旬頃からは人類はこの未知のウイルスに翻弄され続けている。我々は果たしてこの未知のウイルスとの戦いに勝てるのであろうか。

中国での感染事例が報告された当初は、ここまでの事態になるとは誰も予想していなかったことであろう。

しかし、以前から警告を発してい研究機関があったのである。このウイルスは、当初はインフルエンザウイルスと殆ど同じといった報道がマスメディアやSNSなどでよく発信されていた。そのため、たいしたことはないと思われてしまい、既になされていた警告が思い出されることはなかった。

そして、このウイルスはインフルエンザとは違っていた。SARSファミリーのウイルス(SARS関連コロナウイルス)だったのである。しかも、感染力はSARSよりも非常に高かった。新型コロナウイルスのスパイクは、SARSのスパイクよりも、ヒト細胞に対して10~20倍の高い親和性(結合しやすさ)を有していたのである。パンデミックとなる危険性が以前のSARSよりは、はるかに高かったのである。しかも、新型コロナウイルスのスパイクたんぱく質のアミノ酸配列は、これまでのSARSウイルスとの相同性は高いものであったが(75~98%)、残念なことに、そのわずかな変異によってSARS治療薬への耐性を既に獲得していたのであった
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9

既に2019年10月18日、ビルゲイツ財団主催で行われたEVENT201という世界経済フォーラムにて、ジョンズホプキンス大学のチームは、SARSウイルスが、もしパンデミックを起こしたら世界に大きな災いを招くおそれがあるというシュミレーション結果を報告していた。その警告がもっと明確に世界に発信されていたら、ここまでの事態は防止できていたのかもしれない。

ジョンズホプキンス大学の感染症の研究者のエリック・トナー(Eric S. Toner)博士は、既に昨年末に、もし、SARSファミリーのウイルス(シュミレーションではCAPSという名前のウイルスに架空された)が、世界中に蔓延しパンデミックとなった場合、6500万人が死亡し、それはかってのスペイン風邪で死亡した数をはるかに上回るという最悪のシュミレーション結果を出していたのである。そして、それは、死亡する数だけでなく、社会や経済にも甚大な被害を与えるという内容(株式市場は20%~40%減少し、世界の国内総生産は11%減少する、等)であった。

そして、皮肉にも、警告が発せられたその翌月に新型コロナウイルス感染が中国の武漢で発生したのである。だだし、発生当初はSARSファミリーのウイルスだとは判明していなかったため、このエリック・トナー博士のCAPSのパンデミックのシュミレーション結果は注目されなかった。

似たような警告は、同じジョンズホプキンス大学のトム・イングレスビー(Tom Inglesby)博士らによって2018年にアメリカ連邦議会でも既に報告されていた。しかし、トランプ大統領らによって軽視されて何の対策も講じられることなく終了した。新型コロナウイルスがアメリカでパンデミックするまでは、トランプ大統領は、このウイルスはたいしたことはない、恐れるに足らないような発言を繰り返していたのは皆さんも御存じのことであろう。さらに、この議会報告では、試算では20か月以内にワクチンを開発することができなかったという警告もなされている。この新型コロナウイルスへのワクチンが完成するには2年くらいが必要になると思っていた方がよいであろう。
https://hub.jhu.edu/2020/01/22/tom-inglesby-coronavirus-2499-em1-art1-qa-health/?fbclid=IwAR2t23IRBvYGrTiSicOg3IXkBYg4_PIARFkXBJ1iNRkBrzcUi_BKwS0pJ5I

恐ろしいことに、新型コロナウイルス(COVID-19)は、今まさに、ジョンズホプキンス大学でシュミレーションされた数字を目指して人類に挑戦状を叩きつけたような勢いになってきているのである。

人類は新型コロナウイルスとの戦いに敗北してしまい、最悪のシュミレーションと同じような結果を招いてしまうのであろうか。

とにかくまだ未知のウイルスである。感染したらどうなるかは分からないと思っていた方がよい。80%は軽症か無症状で終わるという報道が多いが、それはあくまで現時点でのことである。将来の帰結はまだ全く分からないのである。

感染症で怖いのは、慢性感染による慢性疾患への変化や潜伏感染による遅発性に生じる重篤な身体疾患の発生である。これらに関しては時間が経たないと分からない。数年以上経たないと分からないのである。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BD%9C%E4%BC%8F%E6%84%9F%E6%9F%93

COVID-19が細胞内に潜みこみ、慢性化して、あるいは潜伏化して、臓器をじわじわと蝕み、将来、重篤な合併症になっていくこともあり得るのである。1回きりでは終わらない。感染したら最後というウイルスなのかもしれないのである。

既にPCR検査で陰性化したが再び陽性化したケースが少なからず報告されている。今のところは、これは慢性感染の所見ではないという専門家の意見しかないが、組織生検をしてウイルスが肺組織等に全く潜んでいないことを確認した訳でなく、ウイルス感染が慢性化や潜伏化しているのが原因だと完全に否定はできないのである。

慢性化して将来重篤な病態を引き起こすウイルスには、免疫不全症となり死に至るエイズウイルス(HIV)や肝臓癌を引き起こすC型肝炎ウイルスがあるが、皆さんも既にご存知のことであろう。

COVID-19も、慢性化しないか、潜伏化しないかどうかはまだ未知数なのである。将来、肺線維症に進行していったり、肺癌になったり、といったリスクが高くなるかもしれないのである。そういったことは絶対にないとまだ否定できてはいないのである。

SRASでは、既に、感染から回復した後に慢性的な疲労感や筋肉痛やうつ症状などが続くという報告がある。COVID-19は同じSRASファミリーのウイルスである。感染して回復しても、こういった難治の症状に悩まされ続けるということもあり得るのである。うつ病のようになるチグングニヤウイルスについては既にこのブログでも取り上げたが、COVID-19でもうつ病のようになってしまうかもしれないのである。

そして、SARSでは、深刻な後遺症として大腿骨頭壊死肺線維症が報告されている。大腿骨頭壊は治療で使用したステロイドの影響が考えられるが、肺線維症はウイルスそのものによる肺組織への障害の結果かもしれない。

おまけに、ターゲットとなる臓器も不明である。既に、嗅覚障害味覚障害が生じたケースも報告されているが、呼吸器だけでなく、神経系もターゲットとなり侵されてしまうのかもしれない。

神経細胞に潜みこむウイルスである単純ヘルペスウイルスの感染は認知症のリスクを高めてしまうことが報告されている。もし、COVID-19にもこの性質があるのであれば(=例えば、単純ヘルペスウイルスは嗅球の嗅神経細胞に潜みこむ。嗅神経は海馬と解剖学的に位置が近いためそこに潜伏されると非常に危険である。下の論文PMC5481928を参照)、嗅覚障害や味覚障害という症状からは、COVID-19が感染すると嗅神経細胞などの神経細胞に潜伏する場合もあり、認知症のリスクを高めてしまうおそれがあるのではと懸念される(あくまで勝手な推測に過ぎないのだが)。

さらに気になるのが胎児への影響である。

妊婦が感染しても大きな問題はないと報道されているが、懸念されるのが胎児への影響である。既にインフルエンザでは妊娠中の罹患は、子の統合失調症や双極性障害のリスクを高めることが分かっている(このことはこのブログでも既に触れている)。COVID-19では、これから10年後くらいにその検証が始まることになる。COVID-19は、インフルエンザのような胎児への影響(=精神疾患のリスクを高める)はないと今のところは断言できないのである。

(インフルエンザの胎児への影響)
http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/31787414.html

とにかく、まだ全くの未知数のウイルスだと思っていた方がよい。感染して回復しても、その後の経過は全く不明なのである。回復すれば絶対に大丈夫だとは言い切れないのである。このウイルスの全容が分かるのは数年先なのである。感染しないにこしたことはないのである。

TVで、感染してもいい、(私は若いので重症化しないから)、と思っているというような発言をしている若い人達がいるが、その考えは間違っていると私は言いたい。

何度でも繰り返して言いたい。

1回きりで終わりだなんて分からない。
感染しないにこしたことはない。
このウイルスはまだ未知のウイルスなのだ。

ここで、感染予防に関して、少しだけ述べてみたい。

感染を予防する上で、ウイルスへの曝露のリスクが高まることを避けるように努めることは言うまでもないが(それらは行政やマスメデァから「3つの密を避ける」等、さかんに発信されているので周知徹底されているであろうが)、免疫力の低下を招くような事象も避けるべきだと思える。

免疫力の低下を招くような事象としては、数多くあるが、今回私が気になったのは、飲酒である。

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クルーズ船、屋形船、ライブハウス、といった場所から国内においてクラスターが発生したのは既に御存知とは思うが、それらに共通するリスク因子として飲酒という行為が浮かび上がってくるように思える。

慢性アルコール中毒やアルコール乱用者では免疫機能が低下しており感染症になりやすいことはよく知られているが、実は、飲酒は、量や回数に係わらず、たった1回の飲酒でも免疫機能を低下させ、感染のリスクを高めることになりかねないのである。さらに、感染予防だけでなく、感染した後でも、ウイルスと免疫系との戦いを抑制したり邪魔したりするため、感染を長引かせたり、異常な炎症反応を誘発したりするリスクが高まることになる(飲酒によってサイトカインストームが生じるリスクは高くなるであろう)。その上、ウイルスへの抗体獲得の支障をきたすことも知られている。飲酒は、ウイルスとの戦いにおいて、何一ついいことはないと言えよう。

そして、飲酒によって肺にも悪影響が直接及ぼされるため(肺のバリア機能の低下、など)、COVID-19との戦いにおいては、飲酒は非常に危険な行為となろう。

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さらに、COVID-19においては、高齢者ほど重篤になり死亡率が高まるのだが、それは、加齢による免疫機能の低下が関係しているのであろう。しかし、加齢という危険因子に飲酒というもう1つの大きな危険因子が加われば、これほど危険なことはない。クルーズ船での大惨事は加齢と飲酒という2つの危険因子も大きく関与していたはずである。

自宅待機していても、外出制限をしていても、飲酒をどんどんしていたら、意味がなくなってしまうおそれがあろう。

最後に、感染者数や死亡者数はまだどのように変化するかは分からないが、これまでの報告(死亡者の数)を見ていると、COVID-19においては人種差があるように思える。黄色人種よりも白色人種の方が重篤化のリスクが高いようにも思えるのである。

COVID-19は細胞表面にあるアンジオテンシン転換酵素2(ACE2)を介して感染するため、ACE2がウイルスの侵入の玄関口となるため、この酵素が多く発現しているほど侵入先が増えていることになり感染のリスクは高まるであろう。逆に、ひとたび感染すると、ACE2をダウンレギュレートしていまい、その結果、ACE2の機能が障害され、アンジオテンシン2が増加して、重篤な呼吸器症状を惹起してしまうらしい。ACE2の発現が多いと感染しやすくなるが、逆に、ACE2の発現が少ないと重篤化するのであろうか。

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現在、降圧剤としてアンジオテンシン2受容体ブロッカー(ARB)が多く処方されているのだが、ARBによってACE2の発現が増加するという報告がなされている。ARBを内服していると感染しやすくなるのだろうか。逆に、感染した時には、ARBを内服すれば重篤化が予防できるのであろうか。同じことが別の降圧剤のアンジオテンシン転換酵素阻害剤(ACEI)にも当てはまるのであろうか。感染予防にはARBは危険。しかし、感染したらARBを内服していた方が良い。どうすべきか非常に悩ましい限りである。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%AA%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%B3II%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93%E6%8B%AE%E6%8A%97%E8%96%AC
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%AA%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%B3%E5%A4%89%E6%8F%9B%E9%85%B5%E7%B4%A0%E9%98%BB%E5%AE%B3%E8%96%AC

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ここでACE2の遺伝子には人種差があるようだが、それが関係しているのであろうか。下の論文では、黄色人種はACE2の遺伝子の発現が白色人種よりも高いようである。すなわち、黄色人種は感染しやすいが、重篤化は白色人種の方がリスクが高い。ということになるのだろうか。

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オリンピックは延期になって正解であった。なぜならば、激しい運動は免疫機能を低下させるからである。適度な運動は免疫機能の向上につながるが、逆に、限度をこえた激しい運動はウイルス感染予防の観点からは非常に危険なのである。
fbclid=IwAR0GZsB5f2FJMDFwMMsohrs6IHQM3RWGrAiwwykR6MPeLyJ8nSwefzxDagc

オリンピックでは体力の限界に挑むような激しい運動が行われる。もし、COVID-19が収束していない状況で行われたら、多くの選手に感染者を生じさせることになりかねない。そのような事態は絶対に避けねばならない。東京オリンピックは2021年の夏になるのであろうが、ワクチンはその時でもまだ開発されていないかもしれない。その時までに収束しているかどうかは今のところは誰にも分からない。そうは思いたくはないが、東京オリンピックは中止になる場合もまだありえると思っていた方がよいのかもしれない。

新型コロナウイルス(COVID-19)は、残念なことにパンデミックとなってしまったが、最終結果は未だ出ていない。収束宣言がWHOから出された時の数字が今回のパンデミックの最終結果である。インフルエンザが登場して100年以上が経過したが、人類は未だにインフルエンザを撲滅できていない。COVID-19との戦いも、インフルエンザと同じように長い戦いが続くことになるのかもしれない。

1回きりで終わりだなんて分からない
感染しないにこしたことはない
このウイルスはまだ未知のウイルスなのだ




トリンテリックスという新しいタイプの抗うつ剤が発売された その2


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(前回の続きである)

うつ病では、大きな社会的な問題を生じていることが以前から指摘されている。それらは、職業機能の低下、就労困難、生産性の低下、欠勤、生活の質(QOLの低下)、などである。
https://journals.lww.com/co-psychiatry/Abstract/2016/01000/Cognition_in_major_depressive_disorder__a.9.aspx
https://journals.lww.com/co-psychiatry/Abstract/2018/01000/Cognitive_dysfunction_in_major_depressive_disorder.6.aspx

そして、認知機能障害が、この社会的な問題を生じさせている大きな原因の1つであることが、近年、指摘されるようになってきている。うつ病における認知機能障害が社会で生活していく上で大きな支障となり、重大な問題としてクローズアップされてきているのである。

アメリカ合衆国のCDCのホームページには、うつ病において、次のような記載がなされている。

うつ病は、就労世代での、機能障害(disability)、欠勤、プレゼンティーズム(就業中の支障)、生産性の低下といった問題の主な原因となっている。

アメリカ合衆国では、年間1880万人の成人(人口の9.5%)がうつ病に苦しんでいると推定されている(10人に1人がうつ病なのである)。さらに、55歳以上では、20%の人が何らかのメンタルヘルスの問題を抱えていると推定されており、うつ病は、高齢者の間ではも、最も一般的なメンタルヘルスの問題となっている。

(ここ20年間で、アメリカ合衆国では、うつ病による機能障害が以前よりも40%以上も増えている)
https://www.fda.gov/media/95730/download

(ヨーロッパでも似たような数字が提示されており、大うつ病の有病率は、10.1%と推定され、高齢者{65歳以上}では有病率は約10~15%であり、老人ホームの入所者では20~25%と、高齢になるほどうつ病は増加する)

一方、うつ病の約80%もの患者が、機能障害を有しており、27%もの患者が仕事や家庭生活における深刻な困難さを抱えているものと推測されている。

そのため、今では、うつ病の治療は、うつ症状だけでなく、認知機能障害も治療の標的にすべきだという意見が主流になってきている。

そして、これらの問題に対して、過去1年間にメンタルヘルスの専門家に相談したことがある患者は、うつ病の29%のみであり、重度のうつ病でも、相談したと報告しているのは39%のみであった。

うつ病における社会的な問題は、十分に相談すらされていないようである。うつ病での認知機能障害は未だによく知られていないせいであろうか。あるいは、有効な治療法がなく、良い対処方法がないせいであろうか。

就労に関しては、うつ病の患者は、3か月間で、平均4.8日を欠勤し、生産性の低下は11.5日間分になると見積もられている。さらに、うつ病によって、毎年、2億日分の労働日数が失われ、170億~440億ドルの損失にもなると見積もられている。

うつ病が原因で、就労に支障をきたし、大きな経済的な損失を招いているのである。

そして、社会的な損失だけでなく、うつ病への国家費用そのものも増えており、2003年では、メンタルヘルスサービスへの費用は1億ドル(100億円)を超えたと推定されている。

このように、うつ病における社会的な問題は、国家にとっても大きな問題だと認識されてきているのであった。

そして、うつ病における認知機能障害は、一般的なうつ症状(気分等)との重症度とは関連性がなく、寛解した後にも残存し、難治であり、SSRIなどの抗うつ剤では、効果がないか、効果が乏しいことが多くの研究で報告されている。これまでの抗うつ剤は認知機能障害には無力なのであった。

うつ病の認知機能障害にどう対処していけばいいのであろうか。

しかし、この、うつ病における認知機能障害に、ボルチオキセチンが有効かもしれないというのである。

これは本当なのであろうか。もし、そうであるとすれば、ボルチオキセチンは、うつ病への救世主のような存在になり得るであろう。

アメリカ合衆国では、2018年5月に、ボルチオキセチンの添付文書が改訂されたのだが、その改訂内容は、認知症状への臨床試験データの追加であった。このことは、アメリカ合衆国政府が、ボルチオキセチンは、大うつ病患者の認知機能障害に効果があると正式に認めたことになる。

下のニュースソースでは次のように紹介されている。

2018年5月2日、ルンドベック社は、米国食品医薬品局(FDA)によるTrintellixの補足申請承認を発表した。これには、大うつ病の認知機能に関する最大規模の臨床試験のデータが含まれている。FOCUSとCONNECTという臨床試験の結果では、認知機能の改善にプラスの効果があることがMDD患者で観察された。
(FOCUSの治験結果)
(CONNECTの治験結果)

うつ病は、複雑な障害である。抑うつ気分、興味の損失、睡眠不足といった身体症状だけでなく、集中困難、思考障害、思考鈍化といった認知症状の広い範囲がうつ病の症状として含まれる。この認知機能障害は、うつ病では一般的な症状である。

ワシントン大学医学部精神科の准教授であるグレゴリー・マッティングリー博士は、次のように述べている。

「私が診ている大うつ病の患者の多くは、気分障害や身体症状を認識しているが、認知症状もうつ病の症状である可能性を認識できていない。医師は、包括的な治療アプローチとして、うつ病に関する全ての症状について患者と話すことが重要である。処理速度の改善に関するTrintellixの改訂された添付文書は、医師やうつ病患者に重要な情報を提供することであろう。 

デビットは、2016年のFDA諮問委員会で、自分の経験について、次のように語った。
 
「うつ病になって、考えが遅くなったように感じました。それはまるで私の脳がスピードを維持できないような感じでした。医師から、これはうつ病の症状の1つだということを学んで、私は驚きました」。

添付文書に追加された新しいデータは、成人のうつ病患者(18~65歳)の認知機能障害に対するトリンテリックスの効果を評価するために設計されたFOCUSとCONNECTという2つの臨床試験データである。トリンテリックス10mg、20 mg /日を使用したこれらの8週間の無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、数字記号置換テスト(DSST)として知られる神経心理学的尺度が使用された。DSSTは、認知機能の1つである処理速度を測定できる神経心理学的検査である。DSSTで観察されたこの効果は、うつ病の認知機能の改善を反映している可能性がある。

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この、うつ病における認知機能障害に関しては、以前から数多く報告されていたが、最近まであまり注目されていなかった症状である。

これまでのレビュー等を参照して、うつ病における認知機能障害に関して要約すると、次のようになる。

記憶(即時再生、遅延再生、ワーキングメモリーなど)に関する障害

実行機能・遂行機能に関する障害

注意(集中)に関する障害

認識(空間、視覚、聴覚等)・思考・判断・学習・意思決定に関する障害

上記の機能に関連した情報処理のスピードに関する障害(=脳内の情報処理速度の低下)

上記のような広範囲にわたる認知機能が障害されるのである。

https://www.thelancet.com/journals/lanpsy/article/PIIS2215-0366(19)30291-3/fulltext

(大うつ病における認知機能障害。下の表)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4578787/table/Tab1/?report=objectonly

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(大うつ病MDD患者の20~30%に、実行機能の大きな低下が認められる。その他にも、作業記憶、注意、処理速度の低下が認められる。MDDでは、認知機能障害によって心理社会的機能、特に仕事でのパフォーマンスが障害されている)

(大つ病患者の記憶の即時再生や遅延再生の低下。実行機能の障害。それらの認知機能の低下によって大うつ病患者の精神的なQOLが損なわれている)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010440X19300707?via%3Dihub

(認知機能障害によって、仕事における生産性の低下や日常生活への支障をきたしている)

(空間認識spatial cognitionや遂行機能executive functioningの障害。それによって大うつ病患者では、心理社会的機能、自立性、主観的な認識に負の影響を受けている) 

(大うつ病患者では、記憶の即時再生や注意能力に持続的な障害がある。現時点でうつ病の患者では、視空間認識や注意領域でのスコアが低く、以前にうつ病だった患者と比べて合計スコアが低かった。うつ病全体では、現時点で失業しているケースでは、認知機能のすべての領域{注意を除く)}でスコアが有意に低かった。大うつ病では、認知機能障害によって、就労に対して悪影響が及ぼされており、失業という結末を招いている)。

(寛解期における、注意、実行機能、記憶、学習機能の障害は、職業上の機能に大きな悪影響を及ぼしている)

(大うつ病の寛解期では、選択的注意、ワーキングメモリー、長期記憶、といった障害が73%もの患者で持続しており、再発時に悪化するということを繰り返している。うつ病の治療は、再発予防も含めて、予後を改善するためには、これらの認知機能をターゲットにする必要がある)

(注意、反応の抑制、言語記憶、意思決定の速度、情報処理といいた5つの認知機能での障害は、抗うつ剤治療に反応せず、うつ病が寛解したとみなされた患者でも、改善は認められなかった。テストした3種の抗うつ剤、エスシタロプラム、セルトラリン、ベンラファキシンには差はなく、これらの認知機能障害に対する有効性は示されなかった。被験者の95%は効果がなかった。この広範囲に及ぶ認知機能障害は、病気の慢性化や早い年齢での発症と関連していたが、症状の重症度や以前の抗うつ剤による治療の失敗とは関連していなかった。うつ病では、持続する高次認知機能や情報処理の障害が認められるが、治療による臨床症状の変化とは関連性がなく、うつ病治療の標的にされていないものと思われる。)

(青年のうつ病でも認知機能障害は認められる。実行機能、注意、記憶といった認知機能が障害されている。SSRIでうつ症状は改善しても、これらの認知機能は改善しなかった)

(大うつ病での認知機能障害はアジア人でも同様に認められる)

(実行機能executive functioningの回復が、うつ病の認知機能の回復においては最も重要である)

(認知機能障害では、性別による差があり、大うつ病の女性では、前処理段階での視覚の情報処理に障害が認められたが、男性では認められなかった。このような認知機能障害が、女性のうつ病発症率の高さ(男性の2倍)に関係している可能性がある)

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上記のように、これまで多くの論文で、大うつ病では、様々な認知機能が障害されていることが報告されている。しかも、障害される認知機能は認知症の中核症状と同じような領域に及ぶ。この認知機能障害は、大うつ病のうつ状態の時の85~94%に認められ、寛解期でも39~44%に認められることが指摘されている。うつ病の多くの患者さんが、うつ症状が改善した後でも認知機能障害によって苦しめられているのである。

アルツハイマー病(AD)なのど認知症では認知機能障害は病態の中心となるような症状(中核症状)と考えられているが、認知機能障害は、うつ病でも症状の中核となるような症状であると今では考えられるようになってきている。

さらに、うつ病では、認知機能障害も改善しないと、本当に良くなったと患者さん自身も実感できないことが分かっている。感情や気分症状だけの改善では真の改善とは言えず、認知機能障害も改善した時点で真の寛解(=recovery、回復)だと言えるのである。うつ病の寛解の概念に関しても考え方が変わってきているのである。

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うつ病における認知機能障害は、診断基準の中にはまだ組み込まれてはいないが、DSM-Vでは、コメント欄で、認知領域の障害、特に記憶に関連する障害が抑うつ症状の改善後や寛解後も持続する可能性があると述べられている。次の診断基準の改訂の際には、認知機能障害に該当するような症状が、大うつ病の診断基準の中に何らかの形で明白に組み込まれる可能性があろう。

さらに、大うつ病における認知機能障害は、他のうつ症状(気分など)とは、経過や改善度において、関連しておらず、独立して認められる症状であることも分かっている。

一方、この認知機能障害は、患者の機能と生活の質だけでなく、うつ病の再発のリスクにも大きく影響している。特に、うつ病の再発は寛解期にも症状が残っている患者に多く再発することが分かっている(20%が再発する)。従って、認知機能障害は寛解期にも残存しやすいため、再発のリスクをも高めている可能性がある。再発予防の観点からも、うつ病の認知機能障害への対応が重要となろう。

この、大うつ病における認知機能障害は、可逆性(改善可能)と考えられており、以前は仮性(偽性)認知症(pseudo-dementia PDEM)と呼ばれており、認知症なのか、認知症とは違うのか等、さかんに議論されていた時代があった(特に、高齢者におけるうつ状態において)。

(ただし、PDEMを呈した高齢患者の70%以上が認知症に移行したため、高齢者のうつ病患者における認知症状は認知症の予測因子や危険因子としては考えられている)

今では、偽性認知症という概念は、ある疾患の1つの病状の側面に過ぎず、疾患としては否定されている。しかし、高齢になるほど、認知症状を呈しやすいことが分かっている。従って、高齢者においては、真の認知症(不可逆性)と、うつ状態(可逆性)が合併しうる場合も多く、うつ症状を呈している患者に存在する認知機能障害が、可逆性なのか、不可逆性なのか等、鑑別することが重要になってくる。

一般に、アルツハイマー病などの認知症では、認知機能障害は進行性に悪化していくため、経過と共にいずれは鑑別できるのではあろうが、高齢者のケース、特に初期では、SPECTやアミロイドPETスキャンやタウタンパクPETスキャンなどの神経画像検査をしないと鑑別は困難かもしれない。さらに、パーキンソン病のような神経症状を呈する場合は、DATスキャンなどが必要となろう(パーキンソン病では、うつ症状や認知機能障害も合併しやすいため注意が必要である)。
https://stm.sciencemag.org/content/12/524/eaau5732

(下表は、認知症と大うつ病での認知症症状の特徴を示したものである)

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このように、認知機能障害は、鑑別が困難なことがあるが、うつ病であれ、アルツハイマー病であれ、いずれのケースにしても認知機能障害は社会で生活していく上で大きな支障となっていることは言うまでもなく、特に、大うつ病では寛解期でも残存し、就労などに悪影響を及ぼしていることを理解しておく必要がある。

寛解期でも残存し続けて患者さんを苦しめている認知機能障害が、ボルチオキセチンで改善できるのであれば、それはそれで非常に素晴らしいことである。多くのうつ病の患者さんがボルチオキセチンによって救われることになろう。

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ということで、認知機能障害へのボルチオキセチンの効果が具体的にどのような結果だったのかを、これまで報告されている論文をチェックして調べてみた。pubmedでキーワード検索してヒットした論文をピックアップしただけなので全てを網羅してチェックできた訳ではないが。

下はうつ病の認知機能障害の治療に関する最近のレビューであるが、ボルチオキセチンは、うつ病の認知機能障害に対して直接的な効果があり、有益な選択肢となり得ると結論付けられている。

マウスやラットなどの動物と人間との認知機能を一色単にして評価することはできないが、動物実験では以下のようなボルチオキセチンによる認知機能の改善効果が報告されている。

(1)動物実験での結果

(動物における認知機能改善効果をレビューした表)

ボルチオキセチンは、高齢化したラットの視空間記憶を改善した。しかし、デュロキセチンとフルオキセチンでは効果がなかった。

動物実験では、ボルチオキセチンは、神経可塑性に関連する様々な分子を発現させ、認知機能の広い範囲でプラスの効果を発揮する。ボルチオキセチンは、ラットやマウスにおいて、文脈的恐怖記憶、物体認識記憶、視空間記憶の保持の強化が認められたが、この効果は、5-HT3受容体拮抗作用に関連していることが示されている。

ラットの慢性ストレスによって生じた認知機能障害(ストレス関連行動変化)を改善した。

ラットの物体認識タスク(object recognition task、ORT)を改善した。フルオキセチンでは効果がなかった。これはセロトニン受容体への直接的な作用によるものである。

ラットにおいて、5-HTニューロンの発火がボルチオキセチンによっても著しく速く回復した(フルオキセチンよりも早く)。

ラットにおける実験では、ボルチオキセチンの記憶への効果は、コリン作動性メカニズムを介するものであることが示唆された。

ラットの文脈記憶を強化した。

マウスの文脈識別(Context Discrimination)を改善した。これは不安障害にも効果が期待できる所見である。

このように、動物実験で認知機能への効果が確認されており、この効果は神経伝達が増強される作用によるものと考えられている。

さらに、ボルチオキセチンはニューロン自体のプラスの変化をも生じさせる。

GABA介在ニューロンは、グルタミン酸ニューロン(認知処理における重要なニューロン)を抑制するが、5-HT3受容体を介してGABA介在ニューロンを抑制することで、グルタミン酸ニューロンの発火を増強し、前頭前野や海馬においてグルタミン酸の放出を増加させる。これは、LTP(学習や記憶に関連する)を強化し、培養された海馬細胞の樹状突起棘の成熟を促進する。ラットのin viでの前頭前野皮質における研究では、5~20 mg /日の用量でこの現象が生じることが認められた。

ボルチオキセチンによって神経細胞の樹状突起棘の成熟が促された。

ボルチオキセチンによって、海馬の長期増強(LTP)に対するストレスの負の影響が軽減され、ストレスによって損なわれた反転学習reversal-learning deficitが回復した。

ボルチオキセチンは、慢性ストレス刺激にさらされたラットの海馬BDNFレベルを増加させた。フルオキセチンではその効果はなかった

転写調節、神経発達、神経可塑性、エンドサイトーシスに関与するバイオマーカーがボルチオキセチンによって調節されることが判明した。これは、ボルチオキセチンが神経可塑性ネットワークに関与できるということを示唆している。

そして、この認知機能への効果は抗うつ効果とは無関係だと考えられている。

(ボルチオキセチンは、抑うつ症状とは無関係に認知を著しく改善した。デュロキセチンでは認められなかった。認知機能の改善は、抗うつ効果とは無関係であることを示唆している)

このように、動物実験において、ボルチオキセチンによる認知機能へのプラスの効果が報告されている。

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では人間では、どういう結果だったのであろうか。

(2)人における結果

(人における認知機能改善効果をレビューした表)

前述したFOCUSでの結果を報告した研究論文。この論文によると、大うつ病患者への認知機能が、数字記号置換テスト(DSST)とレイ聴覚言語学習テスト、RAVLT)の2つのテストで評価されたが、2つのテストにおいて、ボルチオキセチン(10~20mg)が投与されたグループでは、プラセーボよりも有意に優れていたと報告されている。この認知機能への効果は、うつ症状への効果とは無関係であり、ボルチオキセチンの直接的な効果である。と書かれている。

なお、DSST(Digit Symbol Substitution Test、RAVLT(Rey Auditory Verbal Learning Test)、数字記号置換テスト、などは、大うつ病患者の認知機能障害を評価できると考えられているテストである。
https://academic.oup.com/ijnp/article/19/10/pyw054/2487622

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さらに、CONNECTでの結果でも、認知機能への効果があったことが示されている。大うつ病患者の認知機能がUCSDパフォーマンスベーススキルアセスメント(UCSD Performance-Based Skills Assessment、UPSA)によって評価されたが、ボルチオキセチン(10~20mg)が投与されたグループでは、うつ症状とUPSAのスコア(機能)、双方同時の著明な改善が認められたが、デュロキセチンでは認められなかった。

なお、UCSD Performance-Based Skills Assessment(UPSA)は、日常生活における機能を評価できると考えれているテストである。家事(料理や買い物)、コミュニケーション(電話)、金融(銀行での支払い等)、交通(公共交通機関の利用)、レクリエーション活動(ビーチ、動物園への外出)などの生活に関する機能によって評価される。

この上記の2つの治験データがFDAによって正式に認められた訳である。

さらに、人における認知機能への効果は他の論文でも数多く報告されている。

再発性の大うつ病の高齢患者への評価(5mg/day)。ボルチオキセチンが投与されたグループでは、処理速度、言語学習、記憶に関する認知テストでプラセーボよりも有意に優れていることが示された。

ボルチオキセチンとデュロキセチンの双方が、プラセーボと比較して、RAVLTで有意な改善が認められたが、DSSTでは、ボルチオキセチンのみが統計的に有意な改善が認められた。

DSST、RAVLT、トレイルメイキングテスト(Trail Making Test)、ストループテスト(Stroop test)、単純反応時間(Simple Reaction Time)、選択反応時間テスト(Choice Reaction Time tests)によって、実行機能、注意/処理のスピード、記憶が評価された。ボルチオキセチン(10mg~20mg)が投与されたグループでは、実行機能、注意/処理のスピード、記憶の改善が認められた。

就労しているケースの大うつ病への認知機能に対するボルチオキセチン(10mg~20mg)の有効性がテストされた。DSST、トレイルメイキングテストA / B(TMT-A / B)、ストループテスト、知覚欠損質問票(Perceived Deficits Questionnaire、PDQ)によって評価された。ボルチオキセチンの認知機能への効果は、就労しているケースほど大きくなる傾向があった。なお、うつ症状の改善とは無関係であった。

ボルチオキセチンとエスシタロプラムとの比較。8週目の時点で、DSSTとUPSA-Bのパフォーマンスは双方の治療グループでの改善度は統計学的には有意な差はなかった。しかし、認知、機能、気分症状の改善度はボルチオキセチンの方が大きかった。

ボルチオキセチンとパロキセチンとの比較。8週目の時点で、DSSTとUPSA-Bのパフォーマンスは双方のグループとも改善していた。気分の改善はボルチオキセチンとパロキセチンで同程度であったが、DSSTの数値的な改善度はボルチオキセチンの方が大きかった。

働いている大うつ病の患者の認知機能と職場における生産性への効果が評価された。12週目と52週目にPDQ-D-20(患者による自己評価)とWLQによって評価された。52週目までの時点で全ての期間において統計的に有意な改善が認められたが、12週目と52週目でのPDQ-D-20とWLQスコアの改善には、有意な相関があった。12週目と26週目に患者が自己評価した認知症状(PDQ-D-20)が、その後の自己申告による機能を有意に予測するものであることが判明した。うつ病の重症度と客観的に評価された認知能力は、機能に関する帰結を有意に予測するものではなかった。この結果は、就労している大うつ病患者へのボルチオキセチンの長期的な利点を実証し、認知症状と現実生活における機能が強く関連していることを示している。

部分的または完全に寛解した大うつ病患者に残存している認知症状へのボルチオキセチンの効果(SSRIの補助治療、または、単独療法としての効果)を検証した。すなわち、SSRI+プラセボ、SSRI+ボルチオキセチン(10~20 mg)、ボルチオキセチン(10mg~20 mg)+プラセボでの比較である。SSRI単独療法よりも、ボルチオキセチン単独療法の方が数字的に効果が大きくなる傾向があった。補助療法としてのボルチオキセチンは、うつ症状をさらに改善したため、数字的にもっと良くなる傾向があった。寛解している患者では、治療方法の違いよらず認知能力を改善した。この結果は、ボルチオキセチン単剤治療による認知能力の改善、ボルチオキセチン増強による抑うつ症状の改善への利点を示している。

MADRSで調整した後にDSSTの変化が評価された。その結果、デュロキセチンでは認められなかったが、ボルチオキセチンでは、認知機能を著しく改善したことが分かった。この効果は、抑うつ症状とは無関係であった。ボルチオキセチンは、大うつ病の認知機能障害に対する重要な治療法だと言える。

(MADRSはうつ症状を評価するスコアであり、治験でよく使用されている。治験ではうつ症状が寛解したと判断される指標としても使用されている。症状なしは合計点数6点以下だが、治験によっては10点以下で寛解したとみなされているので、治験データを評価する際には注意が必要である。さらに、MADRSでは認知機能は評価されないことに注意しておく必要がある)
https://ja.wikipedia.org/wiki/Montgomery_Asberg%E3%81%86%E3%81%A4%E7%97%85%E8%A9%95%E4%BE%A1%E5%B0%BA%E5%BA%A6

ボルチオキセチン(10~20 mg)はプラセーボと比較して、うつ症状や認知機能を有意に改善した。DSST(P <0.05)、PDQ(P <0.01)、CGI-I(P <0.001)、MADRS(P <0.05)、UPSA(P<0.001)という結果であった。分析によって、ボルチオキセチンの認知機能への効果は、抑うつ症状の軽減によるものではなく、直接的な治療効果であることが判明した。デュロキセチン(60 mg)は、プラセーボと比較して、PDQ、CGI-I、MADRSの改善には有意差があったが、DSSTとUPSAの改善では有意な差はなかった。

認知効果を評価する9つのプラセボ対照無作為化試験(参加者2550名)が同定された。内訳は、 ボルチオキセチン(n=728)、デュロキセチン(n=714)、パロキセチン(n=23)、シタロプラム(n=84)、フェネルジン(n=28)、ノルトリプチリン(n=32)、セルトラリン(n=49)である。抗うつ薬は精神運動速度(psychomotor speed)と遅延再生(delayed recal)にプラスの効果を有してした。認知的制御(cognitive control)や実行機能(executive function)に対する効果は、統計的な有意差がなかった。注目すべきことは、ボルチオキセチン除外して後には、精神運動速度の統計的な有意性が失われたことである。次に、8つの直接ランダム化試験が同定された。内訳は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI; n=371)、選択的セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI; n=25)、三環系抗うつ薬(TCA; n=138)、およびノルエピネフリン・ドーパミン再取り込み阻害薬(NDRI; n=46)である。SSRI、SNRI、TCA、NDRIの直接比較試験の結果では認知効果に統計的に有意な差は認められなかった(=認知機能に効果があったのはボルチオキセチンのみである)

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ボルチオキセチンは、認知パフォーマンスが維持される間、ワーキングメモリーの保持に関連する回路での神経反応を調節できる(うつ病で認められる変化とは反対の方向に調節できる)。この所見は、認知機能に関連する神経回路にボルチオキセチンが直接的に作用するという証拠であり、ワーキングメモリーの向上を意味し、実行機能を改善するメカニズムを支持する所見である。パフォーマンスが低下ているうつ病患者や寛解したうつ病患者においては、課題の実行中にdlPFCや海馬において過剰な反応を示すことが知られている。うつ病に見られるこの過剰な活性は、自己参照デフォルトモード(DMN)のオフが困難になっていることを意味する。ボルチオキセチンがこの過剰な活性化を低下させることができるという所見は、ボルチオキセチンは、うつ病に認められるような異常なDMNをオフにできる機能を有することを示唆している。

(うつ病におけるDMNについては以前のブログを参照してください)
http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/cat_950399.html

大うつ病(18~65歳、n = 602)の認知機能障害に対するボルチオキセチン(10mg~20mg)の有効性が、8週目に、DSST、RAVLTト、トレイルメイキングテスト、ストループテスト、単純反応時間、選択反応時間を使用して評価された。その結果、実行機能、注意/処理の速度、記憶での改善が証明された。ボルチオキセチン(10mg、20mg)は、認知パフォーマンスのマルチドメインにわたり有益な効果があると言える。

このように、人においても、多くの論文で、ボルチオキセチンによる大うつ病での認知機能の改善効果が報告されている。

これらの報告からは、ボルチオキセチンの認知機能への効果は、特に、就労をしているようなうつ病のケースに期待できるものと思われる。

ボルチオキセチンが、就労しているうつ病の患者さん達の就労困難さを軽減してくれるのであれば、それはそれで非常に素晴らしいことだと思える。

とは言え、全ての認知機能が改善する訳ではないであろう。ボルチオキセチンの認知機能の改善効果は薬理作用から推測すれば、アセチルコリン、ノルエピネフリン、ドーパミンなどの神経伝達物質の放出がPFCや海馬などで高まることによる効果であろう。しかし、認知機能は神経伝達物質の放出が高まれば(=神経伝達の機能が高まれば)全ての認知機能が上がる訳ではない。場合によっては、神経伝達物質が下がった方が良い場合もある。(これに関しては、以前のブログを参照して頂きたい)
http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/cat_1184312.html

特に、冷静な判断を要求されるような場合は、神経伝達物質のレベルがいったん下がった方が良い場合がある。仕事においてもそうであろう。いけいけどんどんというだけでは駄目であり、ボルチオキセチンを内服している場合は、仕事中は冷静さも欠かさないようにと、医師は患者さんに対してアドバイスしておく必要がある。

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その他、私なりに気になった点について述べておきたい。

まず、高齢者のケースである。その認知症状は、うつによるものなのか、認知症の初期症状なのかと迷う場合である。

特に、記憶に対する症状が目立つのであれば、SPECTなどの検査が絶対に必要となろう。アルツハイマー型の認知症であるならば、コリンエステラーゼ阻害剤を早く内服した方が良い場合があろう(周知のように、ドネペジルでは認知症の進行を遅らせることができると報告がなされている。そのような効果は確認できないという否定的な報告もあるが)。

高齢者のうつ状態では、認知症の初期の症状である可能性もあり、うつ病による症状だと判断してしまい、先に抗うつ剤を投与してしまい、コリンエステラーゼ阻害剤は使用されないということがあり得るかもしれない。コリンエステラーゼ阻害剤によって認知症の進行を遅させることができるのであれば、認知症の進行が遅れQOLが保たれる時間が少しでも長くなる可能性があるため、コリンエステラーゼ阻害剤を使用した方が良い場合もありえよう。検査をして鑑別してから薬剤の選択をすべきかとは思える。

しかし、検査などで鑑別している時間がかかる間に、ボルチオキセチンを試してみるという方法はあるかもしれない。

次のような症例報告があった。うつ症状と認知症状を同時に有していた高齢者での症例報告である。このケースでは他の抗うつ剤やコリンエステラーゼ阻害では効果がなかったのだが、ボルチオキセチンによって改善したようだ。

82歳の高齢女性へのボルチオキセチンを使用結果。1年前に認知症と診断されており、ドネペジル(コリンエステラーゼ阻害剤)が処方されていた。しかし、6か月後にうつ症状を訴えるようになり、自主性などの認知機能が低下してきていると診断され、エスシタロプラム10mg、ミルタザピン60mgが処方されたが改善しなかった。そこで、この2剤がウォッシュアウトされた後に、ボルチオキセチン10mgが開始された。しかし、吐き気を強く訴えたため、ボルチオキセチンが5mgに減量し、その後の忍容性は良くなった。6ヶ月後、抑うつ気分は改善し、自主性が戻り、やりたいと思えるような事ができるようになったと、彼女の家族から報告された。

(このケースではSSRIは効果がなかったようだが、高齢者のうつ状態へのケースでは、SSRIやSNRIは認知機能への効果は乏しく、ボルチオキセチンのような効果は期待できないおそれがある。なぜならば、SERT{セロトニントランスポーター}自体が加齢に伴って減ってしまっており、それに関連したセロトニン神経伝達の低下による認知症状の可能性があるためである。SERT自体が減ってしまっていては、SERT阻害という効果は発揮できないであろう。しかし、セロトニン受容体に直接作用するボルチオキセチンならば、SERT自体が減ってしまっていても効果が期待できると思われる)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0969996117301109?via%3Dihub

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認知症の進行の予防に関しては、コリンエステラーゼ阻害剤とは異なり、ボルチオキセチンではそういった効果はまだ報告されてはいないため、認知症の進行が予防できるようには思わない方がよいであろう。

(コリンエステラーゼ阻害剤でも認知症の進行予防効果が明白に認められる訳ではないが)

しかし、動物実験では、ボルチオキセチンにもそのような効果が期待できるのではと思わせるような報告があったので紹介しておく。

ボルチオキセチンは、アルツハイマー病の原因物質となるアミロイドβ(Aβ)のオリゴマーを注射されたラットの記憶低下や強制水泳試験における不動時間を軽減した。さらに、海馬におけるTGF-β1、シナプトフィシン、PSD-95レベルの低下を軽減した。これはボルチオキセチンが認知障害とうつ病の双方を予防できるという動物実験における最初の証拠である(フルオキセチンにも同じような効果が確認されたのだが)。

このように、認知症状が認められる高齢者のうつ病のケースにはボルチオキセチンを試してみる価値はあろう。

問題は、コリンエステラーゼ阻害剤と併用していいのか、そのような処方は意味があるのか、ということであるが、まだ十分な検証はなされていないようだ。

他の効果としては、SNRIのデュロキセチンのように、神経障害性疼痛にも効果が期待できそうである。

さらに、ボルチオキセチンは全般性不安障害(GAD)にも効果が期待できるかもしれない。

双極性障害(BD)の認知機能障害にはどうなのであろうか。薬理作用からは、5HT7受容体に作用するので、BDの認知機能障害にも効果が期待できるのかもしれない(ルラシドンのBDの認知症状への効果は5HT7受容体を介する作用だと推測されている)。

統合失調症の陰性症状にも効果が期待できそうではある(既に治療抵抗性の統合失調症へのボルチオキセチの効果が報告されている)

ドーパミンの放出も上げることからは、アドへニアへの効果も期待できそうである。既に、パーキンソン病(PD)のうつ症状に効果があったという報告がある。

(ガイドラインでは、PDのうつ症状に対しては、ドーパミン作動薬とモノアミン酸化酵素阻害薬MAOIが推奨されているが、うっかりしてMAOIと併用しないように注意する必要がある)

ただし、PDと病態が似ているレビー小体型認知症では、症状を悪化させたという報告があるので、レビー小体型認知症と鑑別ができていないようなパーキンソン病での使用は慎重にすべきであろう。

気になるのが躁転のリスクである。ボルチオキセチンによる躁転のリスクはないのであろうか。やはり、他の抗うつ剤と同様に、躁転に注意しておかねばならないようである。

特に、双極性障害での使用では躁転への注意が必要であろう。
https://www.researchgate.net/publication/298916978_Vortioxetine_in_bipolar_depression_induces_a_mixedmanic_switch

他にも、数は多くないものの、下のような躁転した症例が報告されている。

このケースでは、過去に双極性障害という診断を受けていないケースである。ただし、他の抗うつ剤(トラゾドン)が併用されており、トラゾドンによる誘発や、2種類の抗うつ剤による相乗効果によるものかもしれない。他の抗うつ剤との併用する場合は躁転への注意が必要となろう。
http://www.scielo.br/scielo.php?script=sci_arttext&pid=S1516-44462017000100086

下のケースではSSRIの投与後でのエピソードであり、SSRIの中止時症状であった可能性があるが、ボルチオキセチン投与後に躁転したようだ。

軽躁状態になった高齢者も報告されている

最後に、うつ病は、将来、認知症になるという警告のようなエピソードかもしれない。そのような論文が本年1月に発表されている。うつ病と診断された半年間は、認知症を発症するリスクが15倍以上にもなるらしい。さらに、その後も20年以上にわたって認知症のリスクは続くらしい)
https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1003016

うつ病になった人達は、将来、認知症になるというリスクを覚悟しておかねばならないのであろうか。認知症を防止する方法はないのであろうか。

追跡調査がなされないと何も明確なことは言えないが、もし、ボルチオキセチンによって、そういった事象が少しでも防止できるのであれば、ボルチオキセチンはうつ病の救世主的な存在となり得るかもしれない。

(今のところ唯一確立されている方法は、運動exerciseをすることであろう。運動は、認知症の予防とうつ病での認知機能の改善という2つを確実に同時にできる唯一の方法であろう)
https://www.fda.gov/media/95730/download

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(運動の精神疾患への効果については以前のブログを参照してください)
http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/36713300.html
http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/36918748.html




トリンテリックスという新しいタイプの抗うつ剤が発売された その1


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昨年の秋に、久々に新しいタイプの抗うつ剤が国内で承認された。トリンテリックスボルチオキセチン、Vortioxetine)である。

発売元のタケダ薬品のホームページには以下のような案内がなされている。

武田薬品は、ボルチオキセチンが、うつ病の症状をプラセボと比較して統計学的に有意に改善したことを示す国内臨床第3相試験(NCT02389816)などの結果を基に、2018年9月に厚生労働省に製造販売承認申請を行い、2019年9月20日に製造販売承認を取得しました。本剤は、セロトニン再取り込み阻害作用ならびにセロトニン受容体調節作用といった複数の薬理作用を併せもつ国内で承認を取得した初めてかつ唯一の製剤と考えられており、日本のうつ病患者さんに新たな治療選択肢を提供します。
(治験結果は↓)
(トリンテリックの添付文書)

世界保健機関の分類(ATC)では、ボルチオキセチンは、「N06AXその他、抗うつ薬」というクラスに属する。このクラスには、SSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)、三環系抗うつ薬、モノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAOI)に属さないような抗うつ薬が含まる。ボルチオキセチンは、セロトニン再取り込み部位の阻害+セロトニン受容体への阻害+セロトニン受容体への刺激といった複数の薬理作用を有し、SSRIと同じようなセロトニン再取り込み部位の阻害という薬理作用を有するが、SSRIではなく、他剤に分類される。

その名称は、セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬、または、セロトニン部分アゴニスト再取り込み阻害剤(serotonin partial agonist reuptake inhibitor、SPARI)、または、serotonin modulator and simulator (SMS)と呼ばれる(SMSに関しては適切な日本語訳はなし)。

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ボルチオキセチンは、複数の(=マルチモーダルな)薬理作用を有するため、その薬理作用をイメージしにくい薬剤である。

どのような薬剤かをイメージしようとするならば、SSRI+NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬 、ミルタザピン)のような薬理作用を有する薬剤であり、NaSSAにおけるシナプス前部のα2アドレナリン受容体(自己受容体)への阻害作用がないだけで、SSRIとNaSSAを同時に内服したようなイメージの薬剤と思えば理解し易くなるかもしれない
(ただし、NsSSAのようにセロトニン5HT2A・5HT2C受容体には作用しない)
http://www.showa-u.ac.jp/sch/pharm/showa_jour_pharm/back_number/frdi8b000000i611-att/2-1_Mitsugu_Hachisu.pdf

それに加えて、NsSSAにはない他のセロトニン受容体のサブタイプ(5HT1A・5HT1B・5HT1D・5HT7)への作用が加わる薬剤である。

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)+NaSSAを組み合わせた処方は、「カリフォルニアロケット」と呼ばれているが、ボルチオキセチンは「新型カリフォルニアロケット」とでも言うべき抗うつ剤であろう。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88

このように、ボルチオキセチンは、マルチモーダルな新しいタイプの抗うつ剤と宣伝されているが、しかし、誤解してはいけない。

マルチモーダルとは言われているが、これまで発売されている全ての抗うつ剤の薬理作用を網羅している訳ではない。マルチモーダルだと言われると全ての抗うつ剤の薬理作用を有するように誤解されるかもしれないが、α2アドレナリン受容体への阻害作用はないし、5HT2A・5HT2C受容体への阻害作用もない。さらに、SNRIのようなノルアドレナリン再取り込み部位(NET)への阻害作用もないことに留意しておく必要がある。

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ただし、間接的ではあるが前頭前皮質などでのノルアドレナリンの放出を高めるため、SNRI(デュロキセチン、ベンラファキシン)のようにノルアドレナリンのシナプス間隙での濃度が高まることにはなり、結果的にはSNRIと同じ薬理学的効果を引き起こすことにはなる。

今、カルフォルニアロケットで使用されるSNRIのイフェクサー(ベンラファキシン)が発売元のファイザー製薬によってさかんに宣伝されている。

ファイザー製薬は、新型ロケットのボルチオオキセチンに市場を奪われてしまうのではと恐れているのであろう。なにせライバルは新型のロケットである。旧式のカリフォルニアロケットだと、最大の効果を発揮させるには、燃料としては、NaSSAを3錠(15mg:43.7円を3個)、SNRIを3カプセル(75mg:270.7円を3個)、合計で6個も必要だが(薬剤費は1日に1000円近くにもなる)、新型の方はたったの1個(20mg:253.4円を1錠)で済む。これでは、新型の方にどんどん市場を奪われてしまうと恐れられても仕方がないであろう。

はたして、この新しい抗うつ剤のトリンテリックス(ボルチオキセチン)は、うつ病の救世主となりえるのであろうか。

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ここで、ある医師の意見を紹介したい。日経メディカルに掲載された北里大学の精神科主任教授の宮岡先生の意見である。

(私も宮岡先生の意見には賛成なので、このブログでそのまま引用させて頂くことにしました)

製薬会社の担当者が最近発売された抗うつ薬の情報提供に来た。私が常に尋ねるのは「既に発売されている抗うつ薬よりどの点で優れているか」という質問である。

すぐ出てくる回答は、受容体別の作用の差など薬剤の生化学的プロフィールで、これは新しく発売された抗うつ薬ではいつも聞く説明である。一方、臨床データで新たな特徴が示されることはほとんどない。「重箱の隅をつつくようなことでもいいから、何か臨床データで優れた点を示せないか」と問うと、弱ったような表情で、「強いて言えば」的に後付け解析の結果を出すが、既存薬とそれほど大きな違いが示されることはない。

かつて薬剤を認可する側の担当者に、同種同効であっても数剤は認可されることが多いと聞かされたことがあるので、驚くべきことではない。本当のところは今回の薬剤も同種同効であり、製薬会社担当者への「既に発売されている抗うつ薬よりどの点で優れているか」は、彼らにとっては意地悪な質問なのであろう。
 
新しい抗うつ薬への懸念

・薬剤の変更や追加

しかし、現在のように次々に同種同効薬が出ると心配は尽きない。第一に、うつ状態が改善しにくい患者さんに「新しい抗うつ薬が出た。これは効くかもしれない」と告げて、薬剤を変更や追加する医師が少なくない。多剤処方や大量処方につながりやすいだけでなく、患者さんに過度の期待を抱かせることにもなりやすい。

この背景として、1つ気になるのは、最初の「うつ病」という診断である。環境への適応力の弱い方が現在置かれている環境のストレスでうつ状態になった場合や性格的な脆弱性が問題になるうつ状態は、かつて抑うつ神経症という、あいまいであるが、詳細に問診しないと診断確定できない病名が用いられていた。

抑うつ神経症は適切な環境調整や精神療法が不可欠であり、抗うつ薬の効果は乏しいとされていた。現在のうつ病は原因としての性格や環境を重視せず、うつ状態の重症度や持続期間のみで診断する傾向があり、その診断で抗うつ薬がどの程度有効かを予測できないことが多い。

すなわち診断が適切であれば抗うつ薬が聞きにくいと最初に分かるうつ状態や、環境や性格への働きかけが重要なうつ状態にまで抗うつ薬が処方され、改善しないと次々に抗うつ薬を変えるという事態が起こっている。次々に出る同種同効薬は不適切な診断と治療をマスクする道具になっているかもしれないとも思う。
 
・使いこなせる薬剤

第二に気になるのは、筆者が教育機関に勤務しているせいもあろうが、若い医師の抗うつ薬の使い方である。自分が使いやすい薬剤を少数持っていて、それについては添付文書を熟読し、このくらいの体格の方にこの量を使えばこのくらいの副作用が出やすいと知っていてほしい、すなわち使いこなせる薬剤を持ってほしいと思う。

次々に発売される薬剤を処方することで満足し、どれも使いこなしているとはいえない若い医師に出会うことが少なくない。

私自身はノルトリプチリン(1971年に発売された薬剤であり、製薬会社の積極的な宣伝もすでにほとんどないので、あえてそのまま薬剤名を記した)と新規抗うつ薬1剤を自分なりに使いこなせる薬剤と考え、副作用の出やすさなどで例外的に他の薬剤を用いるだけで、かなりの割合のうつ病は治療できている。

「新薬を出さないと製薬会社の収益が下がり、新薬の開発が滞る」という産業活性化の話も分かるが、それが若い医師の適切な薬剤使用を妨げている可能性も否定できない。

・抗うつ薬の効果そのものの問題

第三に、より根本的な問題として、最近発売された抗うつ薬のプラセボとの二重盲検比較試験をみると、

(1)プラセボでもうつ状態がかなり改善している

(2)薬剤とプラセボの改善度の差をみると確かに統計学的には有意な差であるが、副作用なども含めて考えると、臨床的に意義があるとはいえないことが多い

(3)うつ病が軽症である時、抗うつ薬の効果は乏しい

といった特徴がある

(関連記事:プライマリケア医のうつ病治療に抗うつ薬はいらない?)。

多くの抗うつ薬があるが、うつ状態が重症でない場合、抗うつ薬を用いるかどうかは慎重に検討すべきである。

うつ病医療は変わるか

こんな状況下で、新しい薬剤が根拠も乏しいままに「認知機能に影響しにくい」「女性に用いやすい」「意欲低下に効果がある」などという怪しい宣伝文句とともに売られ、それに科学性があるかのように語る製薬会社の味方のような医師がいる。

製薬会社の目標が企業として利潤追求であるのは分かるが、新しい薬剤の販売とその宣伝のために歪められているとも思える啓発が、かえって精神医療の臨床を悪くしているように思える。

一方、同種同効であるからといって、発売される薬剤が1剤で、市場を独占するのは好ましくない。複数から自分の使いこなせる薬剤を医師自身が選ぶのが適切であろう。

このような状況が続くうつ病医療を放置してはいけないと思いつつ、問題の大きさと複雑さに悩んでいる。

(終わり)

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ボルチオキセチンは、うつ病の患者さんに新たな治療選択肢を提供してくれる期待が大きい新薬だが、うつ病に万能な訳ではない。過剰な期待はしない方が良い。その新薬を使いこなせていない間は、新薬を使う症例は慎重に検討してから決定すべきである。新薬だと抗うつ剤を使う必要がないような症例にまで処方されることが多々あるが、しかし、そのような処方はしてはいけない。という意見である。

(私には、医師としての良識にあふれた素晴らしい意見だと思える)

ボルチオキセチンに限らず、薬剤をうまく使いこなすには、その薬剤の薬理作用を熟知していなければ使いこなすことはできないであろう。製薬会社からの説明や宣伝をちょっと聞いただけで、薬理作用を十分に理解した訳でもないのに、自分はもうその薬剤を使いこなせると錯覚して、どんどん新薬を処方するドクターがいるが、いかがなものかと思う。特に、ボルチオキセチンのような複雑な薬理作用を有する薬剤では、いっそうの慎重さが要求されるのではなかろうか。

これまで発表された学術論文の多くは、ボルチオキセチンを評価し絶賛する論文が殆どではあるが、否定的な論文もある。

他剤との比較では、以前SNRI(デュロキセチンとベンラファキシン)で治療を受けていた患者ではボルチオキセチンにスイッチしても優位差はなかったという論文がある。

さらに、明らかに有意差があるのはプラセーボとの比較した場合のみである、SNRIと比べた場合は、ボルチオキセチンの利点はない、さらに、デュロキセチン(サインバルタ)と比べると抗うつ効果は劣っており、副作用の報告が少なかっただけに過ぎない、等の酷評が書かれているレビューもある。

このような厳しい意見もあることを知っておく必要があろう。

私個人は、トリンテリックス(ボルチオキセチン)には非常に期待しているのだが、はたして、この新しい抗うつ剤のトリンテリックス(ボルチオキセチン)は、うつ病の救世主となりえるのであろうか。

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しかし、本当に信じていいのかという専門家の意見があるとは言え、ボルチオキセチンはこれまでになかった新しいタイプの新薬であるのは間違いない。全く新しいタイプの新薬はなかなか開発されない貴重な薬剤である。ボルチオキセチンの特徴や利点について理解しておき、この新薬を正しく使いこなして、上手に活用すべきだとも思える。

ボルチオキセチンの特徴や利点については

(1)新しいタイプの抗うつ剤であり、マルチモーダルな薬理作用を有する
(2)忍容性に優れている(胃腸症状や性機能障害が少ない、等)
(3)従来の抗うつ剤では期待できなかった認知機能の改善効果が期待できる
(4)その他

に大きく分けられるであろう。

https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/A1E96BA41C2BED7C2FB0E08A3E94887F/S1092852915000486a.pdf/regional_distribution_of_serotonergic_receptors_a_systems_neuroscience_perspective_on_the_downstream_effects_of_the_multimodalacting_antidepressant_vortioxetine_on_excitatory_and_inhibitory_neurotransmission.pdf
https://f1000research.com/articles/6-123/v1
http://www.amhsjournal.org/article.asp?issn=2321-4848;year=2018;volume=6;issue=1;spage=81;epage=94;aulast=Fasipe

まずは、ボルチオキセチンの薬理作用を、これまでの論文から理解しておこう。

(1)ボルチオキセチンはマルチモーダルな薬理作用を有する

この点に関しては、精神薬理学の大家であるStahl博士の書いたレビューが良い参考資料になる。ボルチオキセチンの薬理作用は相当複雑であり、理解するのが私には大変であった(未だに理解できていないかもしれない。汗;)。

https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/A1E96BA41C2BED7C2FB0E08A3E94887F/S1092852915000486a.pdf/regional_distribution_of_serotonergic_receptors_a_systems_neuroscience_perspective_on_the_downstream_effects_of_the_multimodalacting_antidepressant_vortioxetine_on_excitatory_and_inhibitory_neurotransmission.pdf

要約すると以下のようになる。

ボルチオキセチンは多くのセロトニン系のターゲットに作用する。しかし、セロトニン系自体が複雑なため、その薬理作用は当然複雑になる。特に、セロトニン受容体はサブタイプが多く、非常に複雑であり、セロトニン系自体を理解するのが大変である(下表)。

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表からも分かるように、セロトニン受容体には、10種類以上もの多くの受容体があるが、セロトニン系の特徴の1つに、セロトニンニューロンは、セロトニン受容体を介して自分自身で抑制をかけているという特徴がある(負のフィードバック)

この点をしっかりと理解しておく必要がある。

この抑制に関わるのが自己受容体である。それらには、5HT1A、5HT1B、5HT1D受容体があるが、それらはシナプス前部に存在する(下図)。シナプス後部にのみ存在するのが5HT7受容体である。5HT7受容体は自己受容体ではないが、GABAを介して同じような抑制をかけている。そして、セロトニンが放出される量は、それらの受容体によって負のフィードバックを受けて抑制されているという前提を理解しておく必要がある。
https://brainstuff.org/blog/how-do-autoreceptors-work

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この負のフィードバックループに作用し、負のフィードバックループをブロックするのがボルチオキセチンなのであった。

ボルチオキセチンは、SSRIのようなセロトニン(5HT)トランスポーター(SERT)への阻害作用(⑥)だけでなく、SSRIにはないような複数のセロトニン受容体(5HT1A、5HT1B、5HT1D、5HT3、5HT7、①②③④⑤)にも作用する薬剤である(下図)。
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ボルチオキセチンは、このようにセロトニン系への6つものターゲットを有し(①②③④⑤⑥)、以下の3つのモードに同時に作用することになる。

1. Gタンパク質結合受容体への作用。すなわち、5HT1A受容体の刺激作用(①)、5HT1B受容体への部分的アゴニスト作用(②)、5HT1Dと5HT7受容体への阻害作用(③⑤)。

2. リガンド依存性イオンチャネル(5HT3受容体)への阻害作用(④)

3. セロトニントランスポーター(SERT)の阻害作用(⑥)

の3つである。

(アゴニスト{刺激}とアンタゴニスト{阻害}としての作用を同時に有するため混乱するが、刺激は1Aと1Bだけと覚えると理解し易い)

https://www.morecomunicazione.it/wp-content/uploads/2016/10/Nicoletti-01.pdf

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ここで、それぞれのターゲットのKi値は、SERT阻害(Ki= 1.6nM)、5HT1A受容体アゴニスト(Ki=15nM)、5HT1B受容体部分アゴニスト(Ki=33nM)、5HT1D受容体アンタゴニスト(Ki= 5.5nM)、5HT3受容体アンタゴニスト(Ki= 3.7nM)、5HT7受容体アンタゴニスト(Ki=19nM)である。
(Ki値が小さい方が親和性が高いと言える)

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Ki値から分かるように、ボルチオキセチンはSERTと5HT3受容体に対して高い親和性を持っており、この2つには低用量で作用する。しかし、全てのターゲットを占有するには高用量が必要になってくるという訳である。

さらに、ボルチオキセチンは、SSRIとは異なり、50%という低いSERT占有率で臨床的な効果を発揮する。これはSERTへの作用ではなく、ボルチオキセチンのセロトニン受容体への直接的な作用によるものであると考えられている。

ボルチオキセチンは、個々のターゲットへの作用は、最終的には以下のような変化を生じるさせることになる。

まず、ボルチオキセチンは、セロトニン5HT1A受容体に作用する(①)。5HT1A受容体には刺激(アゴニスト)として作用する。

セロトニン5HT1A受容体は、シナプス前部(5HTニューロンの神経終末。自己受容体。シナプス間隙へのセロトニンの放出を阻害する。①-1)だけでなく、シナプス後部(GABAニューロン。ヘテロ受容体。GABAの放出を阻害する。①-2)にも存在するが、この2つのタイプの5HT1A受容体に作用する。

①-1に対しては、当初は刺激だが、刺激を続けると脱感作して(この現象は早く生じるらしいが)、その結果、5HT1A自己受容体による抑制がかかりにくくなり、5HTニューロンからのセロトニンの放出が増強することになる(下図)。

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①-2に対しては、刺激することで、GABAニューロンからのGABAの放出が抑制され、その結果、GABAニューロンの下流のニューロン(ドーパミンニューロン{DA}、ノルエピネフリンニューロン{NE}、アセチルコリンニユーロン{ACh}、ヒスタミンニューロン{HA})への抑制が阻害される。その結果、下流のニューロンからの神経伝達物質(DA、NE、ACh、HA)の放出が増大することになる(下図)。

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(なお、5HT1A受容体アゴニストは、シナプス前部の体細胞樹状突起の5HT1A自己受容体の脱感作をもたらすが、シナプス後部の5HT1A受容体の脱感作は引き起こさないらしい)。

なお、DAの放出増加に関しては、5HT1A受容体の有意な占拠を生じる用量でのみ観察されている。他のメカニズムが関与している可能性もあるが、DAの放出増加に関しては、5HT1Aへの作用が主であると考えられている。

そして、この5HT1Aへの作用は、抗うつ作用だけでなく抗不安作用にも関係している。

次に、ボルチオキセチンは、セロトニン5HT1B受容体に作用する(②)。

5HT1B受容体には、パーシャルアゴニスト(刺激+阻害)として作用するが、アンタゴニスト(阻害)としての作用がボルチオキセチンの抗うつ効果に関係すると推測されている。

5HT1Bヘテロ受容体の遮断は、ボルチオキセチンがDA、NA、AchおよびHAの放出を増加させる別のメカニズムであると考えられている。

すなわち、5HT1B受容体は、シナプス前部のドーパミンニューロン、ノルエピネフリンニューロン、アセチルコリンニユーロン、ヒスタミンニューロンに存在するヘテロ受容体であるが、それらのニューロンからの神経伝達物質の放出を阻害しているのが5HT1B受容体である。この受容体がボルチオキセチンによって遮断されると、放出の阻害が解除されて、下流のニューロンからの神経伝達物質(DA、NE、ACh、HA)の放出が増大することになる(下図)。

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Stahl博士によれば、これらの現象は前頭前皮質(PFC)で生じているらしい。

次に、ボルチオキセチンには、5HT3受容体を介した、NE、AChといったニューロンへの間接的な作用がある。セロトニンはこれらのニューロンをGABA作動性ニューロンを介して抑制しているのだが、5HT3受容体を阻害することでそれらの抑制をブロックして、NE、AChといった神経伝達物質の放出を高めることになる。

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さらに重要な作用として、グルタミン酸ニューロン(錐体ニューロン)への作用がある。

まず、グルタミン酸ニューロンへは、セロトニン受容体を介した直接的な抑制と、GABAニューロン(介在ニューロン)を介した間接的な抑制がかかっている(負のフィードバックが2つもあるのであった)。

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さらに、セロトニンニューロンとグルタミン酸ニューロンは相互に調節し合っているらしい(セロトニンニューロンはGABAニューロンを介してグルタミン酸ニューロンを抑制。グルタミン酸ニューロンンは直接的に刺激している)。

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これらの図に示されたように、グルタミン酸ニューロンには、多くのセロトニン受容体のサブタイプが存在するが、ボルチオキセチンはそれらの受容体に直接作用することで、グルタミン酸の放出を増大させ、その結果、グルタミン酸ニューロンの下流に位置するニューロンからの神経伝達物質(DA、NE、ACh、HA)の放出が増大することになる。その中でも、5HT3受容体を介した作用が重要だと考えられている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/27106166/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/29274875/

特に、GABAニューロンに存在するセロトニン受容体(特に5HT3)にボルチオキセチンが作用することで、GABAニューロンからのGABAの放出が抑制され、その結果、GABAニューロンの下流のグルタミン酸ニューロンからのグルタミン酸の放出が増大し、その結果、グルタミン酸ニューロンの下流に位置するニューロンからの神経伝達物質(DA、NE、ACh、HA)の放出が増大することになる。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29174531

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Stahl博士によれば、セロトニン受容体によるグルタミン酸ニューロンへの刺激と抑制が同時に存在する意味は、グルタミン酸ニューロンの活動は、セロトニンによる刺激と抑制が組み合わさって、ちょうど良い程度に微調整されており、恒常性が維持されているらしい。

しかし、その微調整がうつ病では機能していないのである(=うつ病では、グルタミン酸ニューロンは活動低下に傾いている)。うつ病が関与しているのは、モノアミン系だけではない。グルタミン酸系やGABA系なども関与しているらしい。その観点からはボルチオキセチンは有利な抗うつ剤だと言えるのであった。

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ここで、疑問が生じる。もし、SSRIのように、セロトニンがただ上がるだけでは、負のフィードバックが存在するため、刺激と抑制が同時になされてしまうと、結局、相殺されてしまうことが考えられるのである。この点はStahl博士も指摘している。

しかし、ボルチオキセチンは、SSRIとは異なり、セロトニンをただ上げるだけでなく、セロトニン受容体に直接作用することで、特に、GABAニューロンに存在する5HT3受容体への阻害作用によって、GABAニューロンからのGABAの放出が確実に抑制されるため、Stahl博士によれば、負のフィードバックによって相殺される心配がないということである。

すなわち、ボルチオキセチンは、SERTを遮断してセロトニンを上げつつも、セロトニン受容体に直接作用することで負のフィードバックループを遮断し、グルタミン酸(錐体)ニューロンの活動の増強が確実に保証されることになる。

ボルチオキセチンのこの作用は、前頭前野や海馬で見いだされているらしい。そして、この前頭前野や海馬におけるグルタミン酸ニューロンの活動の増強は、長期増強(LPT)や神経可塑性に結び付いていると考えられている。

このように、ボルチオキセチンは、SSRIにはできないような負のフィードバックをブロックすることができる新しいタイプの抗うつ剤であり、前頭前野と海馬における神経伝達物質の放出の増強は、長期増強や神経の可塑性につながり、神経回路網の情報処理が改善され、その結果、うつ症状だけでなく、認知機能障害もボルチオキセチンによって改善されることになる。

(なお、5HT3受容体に関しても、ボルチオキセチンは、5HT1Bへと同じく、実は5HT3受容体に対してはパーシャルアゴニストだという意見もあるようですが、まだよく分かってはいません)

(なお、GABAを刺激するベンゾゼアゼピン系薬剤と併用すると、GABA受容体(特にGABA・A受容体)での作用が拮抗することで、お互いの効果が相殺されないのかが気になりますが、この点に関しての論文はないようです)

(この前頭前皮質における神経伝達物質の活性の増加は、統合失調症の陰性症状にも効果が期待できそうではありますが、この点に関する論文はまだないようです)
https://www.cambridge.org/core/journals/cns-spectrums/article/beyond-the-dopamine-hypothesis-of-schizophrenia-to-three-neural-networks-of-psychosis-dopamine-serotonin-and-glutamate/3E9E50ED717219011DD1B570365010E8/core-reader

最後に、ボルチオキセチンは、SSRIと同じく、SERTにも直接作用して、セロトニンの再取り込みを阻害し、シナプス間隙のセロトニンを上昇させることになる(⑥)。

(実は、ボルチオキセチンは、SERTへの作用だけでなく、ノルアドレナリン再取り込み部位に対しても、ベンラファキシンよりも強い親和性を有しているが、この点については詳しい調査はされていないようです)

このSERTへの阻害作用によって、シナプス間隙のセロトニンは上がることになる。

しかし、前述したように、セロトニンニューロンにはセロトニン受容体自体による抑制という負フィードバックがかかっているため、シナプス間隙のセロトニンがただ上昇しただけでは、負のフィードバックによってセロトニンの放出が下がってしまい、シナプス間隙のセロトニンが上昇した効果が相殺されてしまうことが懸念される。

しかし、ボルチオキセチンは、前述したように、この負のフィードバックをブロックするため、セロトニンの放出が下がることはなくなり、SERTへの効果が保証されることになる(下図)。

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さらに、ボルチオキセチンは、5HT7受容体にも作用して負のフィードバックをブロックする。二重三重のブロックをかけているのである。

このように、ボルチオキセチンは、負のフィードバックをブロックする効果は非常に強力なのであった。

一方、逆に、負のフィードバックがかからないとなれば、ボルチオキセチンによってセロトニンが逆に上がり過ぎてしまうことも懸念される。しかし、Stahl博士によれば、セロトニンはMAO(モノアミンオキシダーゼ)によって(すぐに)分解されるため、上がり過ぎてしまうことはないらしい。

さらに、ボルチオキセチンはSERTの占拠率が50%以下で臨床効果が発揮され、SERTの占拠率がSSRIのように100%近くが必要になる訳ではなく、臨床用量は50%程度(~80%)の占拠に設定されているため、セロトニンが上がり過ぎることはなく安全らしい。

(SSRIやSNRIが抗うつ効果を発揮するためには、SERTが少なくとも80%以上が占有されている必要があると言われている)。

もし、他のセロトニン作動薬とボルチオキセチンを組み合わせて使用すると、セロトニンが上がり過ぎてしまいセロトニン症候群のリスクが高まることになる。特に、ボルチオキセチンとMAOIとを併用すると、セロトニンが過剰に上昇し、セロトニン症候群のリスクが非常に高まることになる。そのため、ボルチオキセチンとMAOIとの併用は禁忌となっている。

なお、ボルチオキセチン単独では、治療用量(20mg)以下では、セロトニン症候群のリスクの増加はないとされているので安心して良いであろう(もし20mg超になるとセロトニン症候群のリスクは増加するであろうから、20mgまでで絶対にとどめておくべきであろう。さらに、後述するが、CYP2D6活性が弱い人では治療用量でもセロトニン症候群のリスクが高まるため注意が必要である)。


(2)ボルチオキセチンは忍容性に優れている

前述したように、サインバルタとの比較では、うつ症状の改善度では負けたが、忍容性ではサインバルタよりも優れていた。

Stahl博士によれば、多くの臨床研究において、ボルチオキセチンは、良好な忍容性を示し、半減期が長いため(57~66時間)、SSRIとは異なり、中止した際の中止時症状の程度は軽度だったらしい(SSRIでは強い中止時症状が出ることがあることは周知の通りである)。

治験での、副作用に関連した離脱の発生率は、プラセボのレベルに近かった。発生率が最も高かった有害事象は吐き気(悪心)であり、通常は軽度から中等度であり、有害事象で治験を中止した患者は殆どいなかったようだ。なお、吐き気は、治療開始後1週間以内に観察される(吐き気はほとんどの場合一過性であり、 5~20  mg /日の用量では、持続期間は10~16 日である)。

そして、2番目に多かったのが頭痛であった。

胃腸症状(吐き気など)は、5HT1A受容体への刺激によって生じるが、ボルチオキセチンでは、5HT3受容体への拮抗作用によって抑制されているのかもしれないと考えられている。

さらに、セロトニンの増加によって引き起こされる性機能障害も、ボルチオキセチンではプラセーボと同じレベルで低かった。

性欲減退、異常なオルガスム、射精遅延、勃起不全、射精障害、性的興奮の障害、オルガスム感覚の低下、性的機能不全の性的機能不全(TESD)の発生率は、プラセボと有意差はなっかた。これは、このような性機能障害を引き起こすことが知られている既存の抗うつ剤とは対照的である。

さらに、睡眠障害の発生もボルチオキセチンでは低かった。睡眠障害の低さは、5HT3受容体や5HT7受容体への拮抗作用が関与しているらしい。

セロトニンは、睡眠/覚醒サイクルの重要な調節因子であり、セロトニン系は覚醒時にアクティブであり、睡眠中は非アクティブとなる。

5HT1A受容体刺激は覚醒を促進し、5-HT1A、5-HT1B受容体刺激と5-HT 7受容体拮抗作用はREM睡眠を減少させる。睡眠ポリグラフ研究では、レム抑制特性を示したが、パロキセチンよりもレム睡眠には影響を与えなかったらしい。

ラットの研究では、5HT7受容体拮抗薬は、SSRIによって誘発される微小覚醒(すなわち、10秒間という短時間の覚醒。それによって非レム睡眠やレム睡眠が中断されてしまう)に対抗できることが示さている。ボルチオキセチンの5-HT7受容体拮抗作用が、SSRIにみられるような睡眠の断片化に対する防止効果をもたらしている可能性がある。

(5HT3や5HT 7受容体拮抗特性は睡眠へ良好な影響を与える)

この忍容性の高さは日本人における治験でも確認されている。日本の大うつ病性障害(MDD)患者への成績では、10 mg /日と20 mg /日の両方の用量で、強力な抗うつ効果を示し、8週間の治療期間にわたって忍容性が良好であった。

なお、抗うつ効果に関しては、前述したように、デュロキセチンの方が優れていたというデータもある。しかし、有害事象の発生率に関しては、ボルチオキセチンの方がデュロキセチンよりも有意に低かった。

ミルタザピンとの比較では、副作用では、ミルタザピンは、プラセーボと比較して、投与開始2目運転能力低下、認知機能障害、精神運動能力の障害をもたらしたが、ボルチオキセチンではプラセーボとの差はなかった。

ボルチオキセチンの副作用プロファイルはSSRIのそれと類似しており、胃腸症状(吐き気など)が最も一般的である。しかし、SSRIとは異なり、性機能障害および睡眠障害の発生率は非常に低く、SSRIよりは忍容性に優れている薬剤だと言えよう。

ここで注意しておいた方がよいことがある。それはボルチオキセチンのマルチモーダルな薬理学的な特性は、優先順位があるということである。

5HT受容体の立体構造から、ボルチオキセチンの結合モデル解析が既に行われている。

それによると、前述したKi値同様に、優先的に結合する順位は、5HT3  >  SERT  >  5HT1B  >  5HT1A、5HT7という順番である。 

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5HT1Aや5HT7に対するボルチオキセチンの親和性は低いため、5 mgでは、SERTと5HT3受容体への作用が主になる。そして、20mgくらいになってから5HT1Aや5HT7にも結合し、ようやく全ての標的に作用することになる。

さらに、SERTの占拠率は、ボルチオキセチンの使用量によって異なってくる。SSRIでの臨床使用量ではSERTの占拠率はほぼ100%なのに対して、ボルチオキセチンの臨床使用量(5~20  mg /日)では、SERTの占拠率は100%ではなく、50~80%である。具体的には、5 mgでは約50%、10 mgでは65%、20mgでは80%以上となる。この数字は、PETスタディで確認されている(下図)。

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従って、ボルチオキセチンでは使用する用量によって発揮される薬理作用が異なることになる。この点に注意しておく必要がある。

5mgという低用量ではSERT阻害作用は低く、5HT3への作用が中心となるため、低用量での薬理作用はミルタザピン単独の場合とあまり変わらないのかもしれない。もし、カリフォリニアロケットのような効果を期待したいのであれば、10mg以上を内服しないと期待できないものと思われる。

ただし、ボルチオキセチンは年齢によって投与できる開始用量が制限されている。アメリカでは、2013年に承認されたが、推奨開始用量は、65歳未満の場合は10 mg /日、65歳以上場合は5 mg /日で承認されている(国内では10mgからの開始としか書かれておらず、そのような開始時の年齢制限はないが、高齢者への開始用量は5mgにしておいた方が良いであろう)。

血中薬物動態に関しては、経口投与後7~11時間でピークに達し(平均T maxは7~8時間)、半減期は約57~66時間であり、1日1回投与が可能である。そして、投与後2週間以内に定常状態の血漿濃度に達するとされている(定常状態に到達するのに約5半減期を要すると仮定すれば、12日以内に定常状態に到達する

代謝に関しては、ボルチオキセチンは肝臓で代謝分解され、CYP2D6、CYP3A4 / 5、CYP2C9、CYP2C19、CYP2A6、CYP2C8、CYP2B6などのチトクロームP-450(CYP450)の複数の酵素が代謝に関わっている。その中でも、主にCYP2Dによって代謝され不活性化される。
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一方、ボルチオキセチンは、P450酵素の阻害や誘導を示さないため、薬物間相互作用を起こしにくい。CYP2D6を阻害するようなパロキセチンやデュロキセチンなどの他の抗うつ薬と比較すると、併用禁忌薬が少なくこの点に関しては利点がある。

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生物学的利用率は75%である。排泄は、不活性代謝物の約59%が尿中に、26%が糞中に排泄される。糞便中に排泄されるのはごくわずかな量の活性ボルチオキセチンのみである。

薬物動態に対する食物の影響は観察されてはいない。さらに、性別、年齢、人種、体の大きさ、腎機能や肝機能による違いは観察されなかった。従って、軽度から中等度の肝機能障害の場合、用量を調節する必要はない。

他剤による薬物動態への影響に関しては、CYP2D6阻害剤であるブプロピオンやシトクロムP450誘導物質であるリファンピンを除き、影響を受けなかった。この点に関しては、多くの薬剤で薬物動態が影響されてしまうSSRIとは異なる。

さらに、ボルチオキセチンは、エタノール、ジアゼパム、リチウムとの同時投与においても忍容性が良好であり、薬物動態や相互作用を示さないことが示されている。

ただし、抗真菌剤のフルコナゾールやケトコナゾール、アスピリン、ワルファリン、避妊薬のレボノルゲストレル/エチニルエストラジオール、オメプラゾールと併用する場合は用量の調整が必要となるようだ。

そして、以下の薬剤とも相互作用をするおそれがあるので注意が必要である。ビタミン、トリプタン、ハーブ系サプリメント(セントジョンズワートなど)、三環系抗うつ剤、リチウム、SSRI、SNRI、ブプロピオン、ブスピロン、抗精神病薬、気分障害・不安障害・精神病に使用される薬剤、 トリプトファン、NSAID、利尿薬、リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン、キニジン、トラマドール、フェンタニルなどである。

(FDAによる添付文書。臨床試験データや薬物動態などが非常に詳しく書かれており、厚生労働省が作った添付文書との差が歴然としている)
https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2017/204447s009lbl.pdf

費用対効果の研究では、前述したようにベンラファキシンよりも優れており、さらに、アゴメラチン、ブプロピオン、セルトラリンよりも優れていることが示されている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25087600

さらに、忍容性だけでなく、寛解率に関してもボルチオキセチンの成績は良かった。

その薬理作用からは、20mgの方が効果が高いようにも思えるが(占拠率からは、治療効果には用量依存性がありそうだが)、全ての研究でその傾向があった訳ではなく、研究デザインも関係があるのかもしれないが、明確な用量依存反応関係がある訳ではなく、改善度に関しては10mg、20mgどちらの用量でも寛解まで達成されている

大うつ病(MDD)における再発予防の研究では、再発率はボルチオキセチンが13%であり、プラセーボ群では26%であった。再発リスクの減少においても有効性が示されている。ボルチオキセチンは(2.5mg~20mg)、52週間の治療後でも効果を維持し、再発防止に効果があった。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0924977X16300050?via%3Dihub

なお、他の抗うつ剤(SSRIやSNRI)で効果が不十分なケースに、ボルチオキセチンにスイッチしてみる価値はあるようだ。

ボルチオキセチンへのスイッチにより、高い寛解率が得られることが既に示されている。ボルチオキセチンは、SSRIやSNRIに対して不十分な反応しか示していない患者への選択肢の1つになり得るであろう(忍容性が高いため服薬が維持されやすく、離脱率が低いことも関係があるのかもしれないが)。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S002239561630615X?via%3Dihub

再発性の大うつ病性障害の高齢者の治療においても有効であり、忍容性も良好だった。高齢者にも推奨される薬剤であると言える。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22572889

以上、トリンテリックス(ボルチオキセチン)は、多くの論文で推奨されており、かなり期待が持てる新しいタイプの抗うつ剤だと言えよう。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5889788/

ここで、ボルチオキセチンの最大の利点は何かと言われば、マルチモーダルな薬理作用でも、忍容性の高さでもない。

それは、大うつ病患者に認められる認知機能障害を改善させる効果が一番のメリットのようだ。ボルチオキセチンの最大のセールスポイントは、認知機能障害の改善なのである。

(次回に続く)

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抗精神病薬によるドーパミンD2受容体のアップレギュレーションは用量に関係なく必然的に生じる現象なのかもしれない


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前回の続きである。

私は抗精神病薬を決して否定はしてはいない。抗精神病薬は多くの患者さんを救った非常に有益な治療手段の1つだと信じている。

実際に、私は、精神療法や心理療法を上手にできる訳でもなく、薬物療法に頼り切っているのが精神科医としての自分の姿だと思っている。

しかし、抗精神病薬は諸刃の剣であり、いい面ばかりではないとも思える。薬は薬にもなるが毒にもなりえる。それは全ての薬物で当てはまることであろう。薬物としての評価と同時に毒物(=有害事象を起こす物質)としての評価もしておく必要があると思っている。

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抗精神病薬の過量投与によって、ドーパミンD2受容体が過剰にブロックされ続けると、D2受容体がアップレギュレーションし、好ましかざる状態(過感受性精神病)を惹起してしまうことが近年分かってきた。

そして、その病態は、用量依存性に生じるものと考えられていた。

すなわち、処方している抗精神病薬のCP換算値が常用量を超えるような場合に生じるものであろうと考えられていたのである。

(どのくらいの量が常用量{定義された1日使用量、DDD}なのかについては確実なものはないが、WHOが定義したDDDがスタンダードなものとして参考にされている)
https://www.whocc.no/atc_ddd_index/?code=N05A

そして、抗精神病薬は、常用量に抑えていれば過感受性精神病は惹起されず、安全だろうと思われていた。

しかし、しかし、である。最近、常用量でも過感受性精神病が惹起されてしまうリスクがあるという論文が発表されたのである。

この論文は、残念ながらオープンテキストではなく、全文は見れない。

(重要な論文はオープンテキストにしてほしい。私は、この論文がresearchgateに掲載された直後に全文が見れるように著者にオファーを出している。しかし、場末のp科病院に勤めているような精神科医は相手にしてもらえないようで、返事はずっとないままである。汗;。researchgateにメンバー登録はしているので、メンバーはresearchgateを経由して掲載された論文は全文が読めるように著者にオファーを出せるのだが、まあ、気長に待つしかないようである。Anne-Noel Samahaさん、私からのオファーにどうか気づいてちょうだい(-_-;)
https://www.researchgate.net/publication/332976173_Antipsychotic-evoked_dopamine_supersensitivity?
sahama
(この研究者は薬理学者なのであろうか。常用量での有害事象という発想は、薬物療法を治療の有効手段として活用している医師では難しく、薬理学者ならでは発想によるものであろう)

全文は見れないのだが、この論文の抄録には、人以外の動物では、常用量(=臨床的に適切な用量、clinically pertinent doses)の抗精神病薬でもドーパミン過感受性精神病(=dopamine supersensitivity)が引き起こされると警告的な感じで書かれているのであった。

そして、この論文では、常用量による過感受性精神病を防ぐ方法も提唱されている。
(検索したら図は見れたので、その図から推測すると、ドーパミンD2受容体が常時65%以上占拠されることがないように、そして、一時的にも80%以上が占拠されることがないように、投与する間隔や量を工夫するなどの予防方法が提唱されているようである)

DSP3

今回、抄録に書かれたということは、確証を得たことでないと抄録には書かれることはないので、この研究グループ(モントリオール大学)は既に常用量による過感受性精神病という有害事象の確証を得ているのであろう。

動物で生じたということは、人でも同じような現象が生じる可能性があると言えるのではなかろうか。

すなわち、厚生労働省によって許可された常用量でも、この過感受性精神病という有害事象が生じる可能性があるということなのである。

まさか、そんな事が。厚生労働省が決めた量なら安全なはずだ。

(常用量なら安全なはずだ。我々が勝手にそう信じていただけなのかもしれないけども)

個人的な経験では、CP換算値400mgで、経過が良いと思っていても、急に過感受性精神病のような状態を呈した患者さん(イライラ、易刺激性・易怒性の亢進)や多飲水を呈した患者さんが少なからずいた。なぜなのだろうかといつも疑問に思っていたが、常用量でも過感受性精神病が生じうるということであれば疑問が晴れる。

今後、もし、常用量でも過感受性精神病という抗精神病薬の有害事象が人類でも生じることが証明されれば、これまでに精神科医達が安全だろうと信じ込んでいた処方のせいで、多くの難治な患者さんが作り出されていたということが証明されることになる。

近年、ベンゾジアゼピン系薬剤への依存がさかんに警告されるようになった。特に、常用量でも依存症が生じることが問題視されており、常用量でもベンゾジアゼピン系薬剤の長期使用は努めて避けるべきである、症状が改善・安定したら漸減・中止すべきである、というコンセンサスが確立されている。

そして、ベンゾジアゼピン依存への訴訟も既に起こされている。

(ベンゾジアゼピン依存では、個人相手への訴訟が行われており、このような問題はまず国を相手にすべきであり、かなり過激な団体活動が行われているようです、、、)

今後、もし、今回紹介したような論文が増えていけば、ベンゾジアゼピン依存のように、将来は製薬会社や精神科病院や精神科医を相手にした抗精神病薬への訴訟の嵐がやって来るのかもしれない((((;゚Д゚))))

そして、過感受性精神病は、ベンゾジアゼピン依存よりは重度の病態かもしれず、しかも、ベンゾジアゼピン依存と同じように常用量でも生じるかもしれないのである。

抗精神病薬の常用量による過感受性精神病は、まだ人で証明された訳ではないが、これは必ず注意しておかねばならない落とし穴のように思える。

抗精神病薬の常用量でも過感受性精神病が生じるリスクがあることが明確に書れた論文は今回紹介した論文が初めだと思うが、このような論文には常に注意して臨床をしていかねばならないと、私はあらためて肝に銘じた次第である。

抗精神病薬のNOAELやTDIは予想された量よりももっと低いのかもしれない。
https://www.nite.go.jp/chem/shiryo/ra/about_ra4.html
https://www.chemsafetypro.com/Topics/CRA/How_to_Derive_Derived_No-Effect_Level_(DNEL).html
今回、このような論文が発表されたことで、私には、抗精神病薬によるドーパミンD2受容体のアップレギュレーションは必然的に生じる現象なのかもしれないと思えた。

それは使用量に関係なく生じる抗精神病薬への対抗現象であり、必然的な事象なのではと思えるのである。

受容体をブロックするという薬理学的な事象(抗精神病薬によるドーパミンD2受容体のブロック)が働いている限り、必然的に生じる現象なのではなかろうか。

(ここからは、全て個人的な勝手な推測であることを御了承ください)。

ドーパミンD2受容体が抗精神病薬でブロックされているという状態は、通常ではあり得ない、本来の生理学的な姿ではないであろう。脳にしてみたら想定外の事態であろう。そのため、それに対抗した現象が起こるのかもしれない。

抗精神病薬への対抗の手段はいろいろと考えられうる。

まずは、ドーパミンD2受容体自体を変化させることであろうか。すなわち、D2受容体の数を増やしてドーパミンが付着し易くするか、あるいは、D2受容体の形態を変えて高親和性にしてドーパミンがD2受容体から抗精神病薬をはねのけて付着し易くするといった変化であろう(=アップレギュレーション、過感受性精神病)。
https://www.quora.com/Is-it-possible-to-repair-damaged-dopamine-receptors

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次に、ドーパミンの放出を増やすという方法もあるであろう。しかし、ドーパミンの放出を増やすという方法は、逆に、ドーパミンの枯渇をまねくだけであり、そのような対抗手段が採用される可能性は低いのかもしれない。

しかし、D2受容体のアップレギュレーションでも対抗できなくなった時には、そういった強硬手段が発動しないとも限らない。ドーパミンのリリースを増やすという方法があるのかもしれない(=その結果、多飲水や慢性水中毒となる)。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/009130579390339U
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/003193849290126M

あるいは、抗精神病薬の分解や排除という手段であろうか。これは、肝臓に働きかけて、抗精神病薬の分解を強めるという手段があろう(=CYP酵素の誘導)。そして、このCYP酵素による対抗事象は脳でも働いているのかもしれない。

その際に、エネルギーの代謝経路も変化し、抗精神病薬の分解の方が優先されて、糖や脂肪の代謝が疎かになるということも考えられうる。ブドウ糖を最大に消費する臓器は脳である。その消費が抗精神病薬によって減ってしまうのであろうか。(=高脂血症、耐糖能異常)。

これは、別の観点からは、体脂肪を増やし(=脂肪細胞の増加、脂肪滴のサイズの増大)、その結果、脂肪細胞の方に抗精神病薬をどんどん移行させることができれば、その分、脳へ到達する抗精神病薬が減るであろうから、抗精神病薬への対抗手段になり得るであろう。

抗精神病薬によって体脂肪が増加するという報告は数多くある。では、抗精神病薬によって肥満となった患者さんの体脂肪からどの程度の抗精神病薬が検出されるのかということが気になる。

しかし、そのような研究がないかを調べてみたが、もっぱらメカニズムの方ばかりが研究されており、増大した脂肪細胞や脂肪組織へ抗精神病薬の移行も増大するといった、そのような研究はまだなされてはいないようだ。

もし、抗精神病薬による肥満は、抗精神病薬への対抗手段としての結果であるならば、肥満は避けられない運命にある悲しい事象なのかもしれない。

そして、昨年、ドーパミンD2受容体には、まだ知られていないような大きな役割が潜んでいるかもしれないという論文が発表されたのである。
https://www.news-medical.net/news/20191114/Dopamine-D2-receptor-modulates-Wnt-expression-controls-cell-proliferation.aspx

この事象が事実なのであれば、それは非常に重要な事象である。

その論文では、ドーパミンD2Rは、Wnt /β-カテニン経路を介したシグナル伝達経路に関与しており、ドーパミンD2受容体はWnt3aの転写調節因子であることが判明したと報告されている(=Wnt3aの発現を抑制する)。

Wntシグナル伝達系は非常に複雑であり、細胞増殖などに関与しているため、多くの疾患(癌など)にも関与していると考えられている。

Wntタンパク質は、分泌性糖タンパク質のファミリーを形成しており、Wntファミリーのメンバーは、Wntシグナル伝達イベントの引き金となり、個体発生における多種多様な生物学的プロセスに重要な役割を担っている。すなわち、Wntシグナル伝達系は、細胞増殖、発生、分化、遊走といった重要な生理学的な現象に関与しているのである。

Wntタンパク質が、受容体に結合すると、非常に複雑な連続するシグナル伝達イベントが開始され、最終的には細胞増殖や遊走などの細胞プロセスが開始されることになる。

Wntには3つの経路が知られている。古典的経路(Wnt/β-カテニン経路)と非古典的経路(PCPシグナル伝達経路とWnt/Ca2+シグナル伝達経路)である。そして、Wnt経路は、増殖因子やサイトカインシグナル伝達経路を調節するような他のシグナル伝達経路との間で高レベルのクロストークが存在することが分かっている。

Wnt

鍵となるWntリガンドはWnt3aらしい。このWnt3aの発現がドーパミンD2受容体への刺激で調節されているというのである。

この研究では、D2R依存性のクロストークがWNT3A遺伝子内に保存されているTCF / LEF部位を介してWnt3a発現を調節していることが見い出された。

最終的には、この研究グループは、D2RとWnt3aはお互いの発現を相互に制御し合っているのではと推測している。

Wnt-DR2

すなわち、Wntシグナル伝達によってドーパミンD2受容体の発現が誘導され、発現したドーパミンD2受容体によってWnt3の発現にブレーキがかかるというのである。

Wnt3aを制御するにはドーパミンD2受容体への刺激が必要不可欠だと言えるのかもしれない。

もし、抗精神病薬によってドーパミンD2受容体への刺激が遮断され、Wntシグナル伝達へのブレーキに支障をきたすようになれば、それは非常にまずいことになろう。

D2Rの刺激の低下は、腎臓では酸化ストレスを増大させ、腎臓の尿細管間質性線維症や糸球体を硬化させるらしい。逆に、腎虚血疾患モデルラットでは、D2Rへの刺激を介して腎虚血による障害を軽減したらしい。ドーパミンD2受容体への刺激によって腎臓の恒常性を維持できたことになる。

この研究グループは、ドーパミンD2受容体は、組織の恒常性の維持に大きな役割を果たしていると結論付けている。

ということは、逆に言えば、ドーパミンD2Rへの刺激は、一定以上のレベルを保持していないと、組織の恒常性が失われてしまうことになりかねない。

このドーパミンD2RとWnt /β-カテニン経路とのクロストークの所見は、今のところは腎臓や膵臓で見い出された生理学的な現象である。脳ではまだ見い出されてはいない。

しかし、遺伝子は臓器間では共通しており、その遺伝子機能がその臓器で発現しているか、いなかの差に過ぎないため、腎臓で発現しているこの生理学的事象は腎臓以外の臓器でも発現していることが推測される。脳でも、このドーパミンD2RとWnt /β-カテニン経路のクロストークが発現している可能性は高いと言えよう

細胞増殖の制御は、かなり重要な機能である。もし、脳では、過剰になるとまずいような細胞(ミクログリアなど)の増殖をドーパミンD2受容体が制御しているのであれば、その制御が抗精神病薬で遮断され、ドーパミンD2受容への必要な刺激が保持できないような状況になれば、脳の恒常性維持ができなくなるため、それに対抗するために、ドーパミンD2受容体を増やさざるを得なくなるのではなかろうか。

あるいは、抗精神病薬によってWntへのブレーキが減れば、WntによってD2Rの発現が誘導されて、必然的にドーパミンD2受容体が増えていくのであろうか。

脳では、ドーパミンD2受容体の遮断によって神経幹細胞の増殖が誘導されることが既に見い出されているのだが(ただし外胚葉性か中胚葉性かは不明)、これは、Wntを介した現象なのかもしれない。この現象は、抗精神病薬の治療効果を説明するものという解釈にもなりえるが、過剰な細胞が作られるということは脳の恒常性維持の観点からは有害になりえる可能性もあろう。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20651832

このWntとDR2の相互作用に影響を与えないような抗精神病薬は存在しないであろう。なぜならば、全ての抗精神病薬がドーパミンD2受容体の遮断作用というプロファイルを有している。ドーパミンD2受容体をブロックすることは、Wntへのクロストークをブロックしてしまうことになるからである。

しかし、ドーパミンD2受容体から高速で解離する一部の薬物(クロザピン)ならば、高速解離することで内在性のドーパミンの邪魔をしなければアップレギュレーションは生じないのかもしれない(生じたとしても軽度)。

(クロザピンはドーパミンD2受容体の細胞への移行効率は他剤に比べてもっと低かった。クロザピンは高速解離するため内在性のドーパミン刺激を邪魔しないで済むのでWntによるD2R発現の誘導が最も低かったということであろうか)
http://www.jbc.org/content/early/2019/01/22/jbc.RA118.004682
https://digitalcommons.uri.edu/oa_diss/594/

(既にドーパミンD2受容体の立体構造をコンピュータ解析し、リガンドがD2受容体のどのアミノ酸残基に結合するのかが解析されている。クロザピンなどが解析されている。クロザピンが結合する部位にクロザピンの高速解離の秘密が隠されているのだろうか。このようなプロファイル分析から、高速解離すると推測される化学式を持った新しい抗精神病薬がいずれ開発されることであろう)
https://www.pnas.org/content/101/11/3815
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6479630/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6479630/
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jcim.7b00722

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最近、国内の製薬メーカーが、過感受性精神病のことが気になるのか、当社の製品はD2受容体のアップレギュレーションは起こしません、過感受性精神病は起こしません!!安全です!!という論文を出しているようだ。でも、それは信用できるのであろうか。

かって、アリピプラゾールは過感受性精神を引き起こしません!!という論文が国内の研究グループから出されたのだが、別の研究グループからは、アリピプラゾールでもやっぱり起こします!!と否定されている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21402722/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24045880

下の論文はブロナンセリンの製薬会社に所属する研究者が書いたようであり、ブロナンセリンはD2受容体の過感受性を起こしません!!と書かれてある。しかし、ブロナンセリンもD2受容体の遮断作用を有する限り、そして高速解離をする訳でもない限り、D2受容体のアップレギュレーションは生じるであろう。私は、実際にブロナンセリンを内服している患者さんで過感受性精神病のようになっている患者さんを見たことがある。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014299918302267

最近はエビリファイのエの字も言わなくなったレキサルティの大塚製薬からも、レキサルティは過感受性精神病を起こしません!!という論文が出ている。この論文も製薬会社に所属する研究員が書いている。しかし、私は既に、レキサルティを内服している患者さんで過感受性精神病になっているような患者さんを見たことがある。私が主治医ではないが、他剤からのスイッチのケースだが、レキサルティ2mgを内服しているが、過感受性精神病のような症状を呈していた。いったん、過感受性精神病になったら、レキサルティにスイッチしても効果がないだけかもしれないが(それに、エビリファイの仲間ですから、過感受性精神病でのレキサルティへのスイッチは逆にもっと悪化するおそれがあるようにも思えます。汗;)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31487433
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4363127/

(ただ動物に投与してその行動の変化を見ただけで、ドーパミンD2受容体の立体構造からクロザピンと同じような結合部位のプロフィール有し高速解離すると解析された訳でもなく、自社での実験ですし、他の研究グループで検証がなされた訳でもないため、100%信用しない方がいいと思います。汗;)


DSP2-12

(私は、主治医じゃなくても気になる患者さんがいたら、どのような処方になっているのか密かにチェックしております。あ、そういう処方だったのね。なるほどと、いろんな意味で勉強になります。職場の人間関係を悪くしたくないので一切口出しはしませんが。)
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ここで再び疑問が生じる、抗精神病薬への対抗手段が生じるのは、ドーパミンD2受容体がブロックされている程度(占拠率)と関係があるのかということである。

すなわち、ブロックされている分を相殺しようと対抗するのであろか。または、ある程度のブロックならばドーパミンD2受容体の数を増やさずに許容できるのであろかということである。

残念ながら、この点に関するドーパミンD2受容体アップレギュレーションの論文はまだないのが現状である。

ドーパミンD2受容体は、常に一定以上は内在性のドーパミンによる刺激をキープしていないと脳の恒常性が保てないのかもしれない。はたして、どの程度までドーパミンD2受容体への刺激をキープしている必要があるのであろうか。

内在性のドーパミンによる刺激のキープ率に関するデータもまだ非常に乏しい。下の論文では、8~21%、平均10%はベースラインで内在性のドーパミンによって占拠されていると報告されている。

常にキープしておかないといけない内在性のドーパミン占拠率はまだ不明である。

上の研究データからはいったん20%と推定しておこう。これはちょうど錐体外路症状が出ないと言われているラインと同じである(Wntの制御に使用する刺激も確保しておく必要があるであろうから、時と場合によっては必要とする内在性のドーパミン占拠率はもっと高いようにも思えるが)

では、CP換算値がDDD以内であればドーパミンD2受容体の占拠率は80%を絶対に超えないのであろうか。

論文によっては、下の論文で提示されたシュミレーションのように、CP換算値がDDD相当の量でもドーパミンD2受容体の占拠率は80%を超えているように提示されている。すなわち、DDDの使用量でもD2受容体が過剰にブロックされてしまうおそれがあると言えよう。
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このようなデータからは、DDDの用量でもD2受容体の占拠率が80%を超える(逆に、内在性のドーパミン占拠率は20%未満となる)ことは十分に起こり得る事象だと思える。特に、一時的な80%超えは、DDDでもよく起こるのではなかろうか。

今回、紹介した論文では、一時的な80%超えでも、繰り返されれば、ドーパミンD2受容体は過感受性になるような図が提示されている。

過感受性精神病を防ぐためには、Anne-Noel Samahaが言うように、DDDでも安全ではないのかもしれない。

もし、ドーパミンD2受容体への刺激が脳の恒常性維持に関わっているのであれば、抗精神病薬によって内在性のドーパミンからの刺激が必要許容範囲未満となることは、たとえ一時的なことであっても、それは無視できない重要な事象であり、抗精神病薬への対抗現象(=アップレギュレーション)が必ず起きることになるのであろう。

脳の恒常性の維持を邪魔にしないためにも、抗精神病薬はできるだけ少なくする必要があると言えるのではなかろうか。

(今後、内在性のドーパミンによるドーパミンD2受容体への刺激がどの程度維持されていないと脳の恒常性が保てなくなるのかが明らかにされていくことを期待したい)

私は思う。急性期にはそれなりの用量が必要だとしても、急性期を過ぎたら、脳の恒常性を保つためにはできるだけ減薬していく必要があるではなかろうかと。漫然と同じ量を投与していてはいけないのである。

では、どこまで抗精神病薬は減薬していけばいいのであろうか。そのめざすべき目標となる用量は具体的にはいくらなのであろうか。

その答えとなるような論文が、昨年、国内の研究グループ(慶応大学)から発表されている。
https://www.nature.com/articles/s41386-019-0573-7

その論文は、どこまで減薬できるかを検証したようだが、その結果からは、目標とすべき用量はCP換算値で200mgのようだ。これは常用量の50%未満の用量である。

私も、経過をみながら、可能な限り減薬しているのだが、その理由は、断薬されてしまい再発した際には、投与していた抗精神病薬のCP換算値が、400mgと200mgでは再発した際の病状に明らかに違いがあるということを何度も経験したからなのであった。

全ての患者さんが服薬を遵守してくれる訳ではない。服薬中断による再発のリスクも、必ず考慮して、それに対処しておかねばならない。

私の経験では、CP換算値が400mgと200mgでは再発した際に大きな違いがあると思う。再発した際の重症度はCP換算値200mgの方かはるかに軽度であり、内服を再開してもらい入院せずに済んだケースが多々あったと思える。

そして、これまでの経験では、抗精神病薬の用量が少ない患者さんの方が認知機能や社会機能への影響も少ないようにも思えた。少ない用量で維持している患者さんの方が、社会適応ははるかに良いようにも思えるのである。

(そのことを指摘している論文も昨年国内の研究グループから発表された)

(本来の重症度が低かったらから少量の抗精神病薬で維持できたのかもしれないと反論されるのかもしれないけども)。

個人的には、CP換算値は、さらに100mgまで減薬できたケースもあった。

行き過ぎた減薬による再発のリスクもあり、それは絶対に避けなければならないのではあるが、今後も、抗精神病は可能な限り減薬していこうと私は思っている。

DDDだから安全なはずだと油断したらいけないのだ!!

もし、あなたが抗精神病薬を内服しており、その容量がCP換算値200mgを超えていたら、その状態は決して安全だとは言えず、主治医と相談しながら、可能な限り200mgを目指して減薬していくことが大切なのかもしれない。

(追記: このブログをアップロードした時点で重要な論文を提示し忘れていた。それは、維持療法ではドーパミンD2受容体の占拠率は65%以上が必ずしも必要ではないという研究論文である。この論文も国内の研究グループから発表されている。CP換算値200mgでは占拠率が65%を下回るのではあろうが、問題はないのである)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25864950
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23899638


DSP2-9





治療抵抗性統合失調症の考察: 過感受性精神病と慢性水中毒(多飲水)が同時に混在することは稀ではないのかもしれない

DSP05

最近、いろいろと考えさせられた興味深い症例を経験した。それは、過感受性精神病と慢性水中毒(多飲水)が同時に混在していると思われた統合失調症の症例である。

今回はこの症例を通じて考察を試みたい。

まず、どのような症例だったかというと、
(個人が特定できないように内容を一部変更してあります)

10年以上入院している長期入院中の中年の女性の患者さんで、前の主治医が退職したため、交代して私が主治医となった。カルテを見ると、隔離等の行動制限の繰り返しの状況が続いていた。難治なケース(治療抵抗性統合失調症)であるような申し送りの記載がなされていた。

主治医を交代する数日前に、ようやく隔離が完全に解除になったばかりであり、6カ月間も隔離となっていた(一時解除で様子を見ても長続きしないため完全に隔離が解除できない状態が6カ月も続いていたのである)。

(隔離解除になって数日後の主治医交代。これは、確信犯的な交代劇だ。きっと難治な症例なんだろうなあ)

一方、主治医を交代した時は、処方薬のCP換算値は1500mgであった(処方歴は下図を参照)
DSP-PR1
DSPPR2
DSPPR4

そして、様々な抗精神病薬が試されているが、CP換算値は、この4年間以上、常に600mgを超えており、相当の期間で1000mgを超えていた。どの処方も十分な効果がなかったようだ。

<主治医を交代した時の処方>
ブロナンセリン(8)3T 3×毎食後
リスペリドン(3)3T 3×毎食後
アキネトン(1)6T 3×毎食後
バルプロ酸ナトリウム(200) 6T 3×毎食後
(CP換算値1500mg)

さらに、隔離解除後も、気分変動が激しく、情緒不安定で、午前中は穏やかだったかと思うと、午後になると突然に易怒性・易刺激性・攻撃性が亢進し、大声を出し始め、興奮が続くといった気分変動や衝動制御における症状が顕著であった。そのため開放処遇は無理な状態であった。

そして、主治医交代後1か月ほどした時、いつものように午後になって、他の患者さんから何かを言われこときっかけに、突然大声を出して怒り始め、今回は頓服を2回内服しても治まらず、長時間にわたり制止困難となったため、再び隔離を開始しないといけないような状況となったのである。

通常なら、このような際には、病状の悪化と判断されて、そして、薬物療法の効果が乏しいからだと判断されて、もっと増薬されるか、他の抗精神病薬にスイッチされるのではあろう。

しかし、ちょっと待てよと私は思った。

このケースは、高用量の抗精神病薬が長期間投与されており、この病状はもしかしたら抗精神病薬による過感受性精神病ではなかろうかと思えたのである。

特に、今も1500mgという高用量の抗精神病薬を内服しているにも係わらず、改善・安定しておらず、些細な刺激に反応し、気分変動が激しくなるといった病状からは、過感受性精神病になっているのではと強く疑われた。

(過感受性精神病の診断基準がいろんな研究グループから提唱されていますが、まだ、明確には規定されてはいません)

(遅発性ジスキネジアなどの運動症状の存在が診断基準に含まれているものもありますが、遅発性ジスキネジアとの関連性はないという論文もあります。特に、第2世代の抗精神病薬は、錐体外路症状がセロトニン5-HT2A受容体を介して生じにくくなっていますから運動症状はマスクされる可能性があります)

(ドーパミンD2受容体がアップレギュレートされていれば、内在性のドーパミンに対して過敏に過剰に反応するようになっており、ドーパミンの放出を促すような刺激や状況によって急に精神状態が悪化するように思えます)

(私は、高用量の抗精神病薬が処方されており、それにも係わらず、気分変動が激しく、易刺激性・易怒性が目立ち、ストレスへの耐性が低下しているように思え、急激な悪化を繰り返し、病状が非常に不安定なケースに過感受性精神病を疑っています)

DSP09

(D2受容体がアップレギュレートされていたら、もっと増薬しないと抑えきれなくなり、増薬でいったんは落ち着くのでしょうが、その結果、もっともっとD2受容体がアップレギュレートされていき、増薬した分もいつかは打ち消され、再度悪化し、また増薬するといったことを繰り返すことになるのかもしれません。すなわち、悪循環になっているのです。過感受性精神病では、悪循環に陥っており、どこかでこの悪循環を断ち切らないといけないように思えます)

これ以上の増薬は、逆に、過感受性精神病さらに強くするだけで、病状がもっと難治になっていくだけかもしれない。それは非常にまずい。

かと言って、既に殆どの抗精神病薬が試されており、スイッチすべき薬剤の選択肢はもうないに等しい。

どうすべきか。

(もう、クロザピンへスイッチするしか方法はなさそうだ。しかし、待てよ。減薬したら良くなったケースが多々あったな。もしかしたらこの症例も・・・)。

病棟スタッフからは逆のことをしていると誤解されるのかもしれないが、個人的な経験では、このようなケースで減薬して逆に良くなったことが多々あったと説明し、リバウンドによる精神症状のさらなる悪化が怖いのだが、思い切って抗精神病薬を減薬して様子を見ることにしたのである。

病状が悪化したのに減薬するのである。ナースはびっくりしたはずである。

(まあ、どっちみち、クロザピンにスイッチするにしても、ある程度は減薬しないといけないのだから)

まず、CP換算値1500mgだったのを、半量以下の600mgまで一気に減薬した。常用量にまで減薬したのである。

薬局からは、一気に減薬し過ぎです。リバウンドが出るのではないでしょうかと警告されたが、半量近くの減薬なら大丈夫です。他の薬剤でも、例えば、内科の降圧剤だって、効きすぎているようなときは半量に減薬するでしょう、私の経験からは半量にしても全てのケースで大丈夫でしたと言って押し切った。

DSP14

具体的には、リスペリドン9mg→3mg、ブロナンセリン24mg→12mgにまで減薬した。アキネトンも6mgも入っていたため 6mg→3mgへ減薬した。

一方、イライラなどの症状は、アカシジアのせいかもしれないため、クロナゼパムを1.5mg追加した。そして、バルプロ酸ナトリウムが既に1200mg入っていたため、気分安定化剤の補完として、トピラマートを50mg追加した。

<減薬後の処方 その1> 
ブロナンセリン(4)3T 3×毎食後
リスペリドン(1)3T 3×毎食後
アキネトン(1)3T 3×毎食後
バルプロ酸ナトリウム(200) 6T 3×毎食後
クロナゼパム(0.5)3T 3×毎食後
トピラマート(50)1T 1×昼
(CP換算値600mg)

具体的にどのくらいまで一気に減薬すべきはガイドライン等で示されている訳ではない。薬局から警告が出されても、なぜ、半量以下の600mgにしたのかは、次のように考えて決定した。

減薬後のCP換算値が600mgであれば、リバウンドはまず起きないであろう。なぜならば、通常は、CP換算値400mgでドーパミンD2受容体は65%くらいはブロックされており、それで十分に効果が発揮されることが既に分かっている。それを基準に考えたのである。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3627781/

DSP16
(逆に、80%を超えるようなD2受容体のブロックは錐体外路症状を誘発するだけでなく、認知機能を落としたりといった、メリットよりもデメリットの方が増えてしまうようですから、そうならないように注意せねばなりません)。

ここで、過感受性精神病に変化していると、D2受容体はアップレギュレーションしており、受容体の数が増えており、その上、高親和性への形態にと変化しているはずである。減薬によるリバウンド(=症状の悪化)が非常に出やすいおそれがある。

しかし、D2受容体の数がいくら増えていたとしても、せいぜい1.3~2倍くらいであろうし、CP換算値400mgの1.5倍の600mgもあれば、少なく見積もっても50%くらいは絶対にブロックされるはずだ。それならば、リバンドはまず起きないだろうという判断である。

(これに関するデータは乏しいのだが、D2受容体数の130%程度の増加や、高親和性形態{D2High}比率の160%の増加という論文がSeaman博士から提示されている)
(なお、遺伝子をノックアウトした動物実験などでは、D2受容体は200%以上に、もっと激しくアップレギュレイトされるらしい)

そして、D2受容体の親和性の形態(低親和性⇔高親和性)は、細胞内のGDPとGTPの代謝に応じて数分で変化するらしい変化が速い)(それが気分変動と関連しているらしいが)。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6177617/

もし、減薬して過剰なブロックから解放されれば、D2受容体の数はすぐには減らないのではあろうが、高親和性の形態(D2High)は減薬にすぐに反応して通常の親和性の形態に戻るかもしれない。今の病状が、D2受容体の高親和性の形態に由来するのであれば、減薬した効果で高親和性の形態が減れば、減薬の効果は比較的早く出るかもしれない。思い切って常用量まで減薬した方が、減薬によるポジティブな変化は早く期待できるかもしれないという判断であった。

(もうD2受容体への占拠率はずっと頭打ちの状態だろうし、ちょっと減らしただけでは、減薬後も高用量のままで頭打ちの状態のままでは、減薬の効果はきっと出ないだろう。もっとドーンと半量くらいにまで減らさないと、減薬したよというメッセージはドーパミンD2受容体へは届かない。少しだけの減薬では効果は期待できないだろうという発想である。非常に安易な発想ではありますが。汗;)

うまくいけば、減薬の効果が早く出るかもしれないので、隔離を開始するのは待って、もう少し様子を見ましょうと病棟スタッフに説明して、隔離をせずに押し切った。

(減薬の効果は早く出るというエビデンスなど全くないのだが。汗;)

しかし、たとえ50%占拠されていたとしても、リバウンドが起きないという保証は全くない。占拠率の変化とリバウンドの出現の因果関係に関するデータは全く不明である。それに、50%は占拠されているだろうという予測も、薬物動態の数理モデルを使って予測した訳でもない。投与量と受容体の占拠率は単純に正比例するような直線関係ではない。減薬後の占拠率は実際は不明のままで様子をみることにはなる。

(まあ、投薬を中止したからといって早期のリバウンドは出ないという論文もありますし、たぶん大丈夫でしょう。汗;)
(他剤に変更する際でも、即時のスイッチでも問題ないという論文もあるし、いきなり中止する訳ではないのだから、きっと大丈夫だろう。汗;)

(注: なお、初回時にいきなり半量以下に減薬するという、今回の減薬の仕方は、博打のようなやり方であり、決して推奨されるものではありません。)

一方、ドーパミンD2受容体以外の受容体のリバウンドも生じることが考えられるが、他剤へのスイッチではなく、同じ薬剤のままでの減薬なので、受容体へのプロフィールは不変であり、大丈夫であろうと判断した。特に、セロトニン受容体系は常用量以下の少量でも十分に占拠されているらしいので、半量での減薬でもセロトニン受容体のリバウンドは出ないはずだ。アセチルコリン受容体も、アキネトンが3mgもあれば十分であり、リバウンドは出ないだろう。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/11873706/

D2-5HT

(アキネトンもずっと6mg処方されていたのには驚いた。この患者さん、理解が悪く、何度も説明しないといけないことが多いのだが、アキネトンの抗コリン作用で認知機能が落ちているせいかと思いました。汗;)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25489477

しかし、不思議なことに、減薬してから2日後くらいから、病状は改善し、かなり穏やかとなったのである。そして、1週間後には開放処遇(病棟外単独散歩可)が可能になった。

(えっ?減薬して、たった2日で良くなったぞ。こんなにうまくいくとは思わなかった。あのD2受容体の親和性の変化は速いという論文はやっぱり正しかったのだ。ありがとうSeaman博士)。

(追加したクロナゼパムやトピラマートの効果かもしれませんが。汗;)

よーし、常用量まで減薬したし、これでもう大丈夫だな。

と簡単にはいかないのであった。

開放処遇になってから、1週間もたたないうちに、再び、同じような気分感情・衝動制御における症状が悪化し、治まる気配がなく、隔離せざるを得なくなったのである。

今回は隔離になってしまった。

(このような時は、むやみに増薬せずに、ねばることが重要なのだ。久しぶりの開放処遇による病棟外界での刺激によって、一時的なドーパミンのリリースが増えたのもかもしれない。D2受容体は、まだ十分に元の姿には戻っていないのだろう。処方を変更しなくても、刺激を避ければきっと早く良くなるはずだ)

しかし、隔離後も増薬せずに様子を見た。

その後は、一時解除を積極的に行い、10日後くらいには隔離は完全に解除となった。隔離解除後はすぐに開放処遇に戻ることができた。

(予想通りだった。もう大丈夫だろう)

しかし、またまた、そう簡単にはいかないのであった。

開放処遇再開数日後に、再び、気分感情・衝動制御における症状が悪化したのである。急に支離滅裂な文句を言い始め、激怒し続け、大声が治まらないため、再び隔離をせざるを得なくなってしまったのである。

(どうして?なぜ再び悪化したのだ。この患者さんは開放処遇は無理なのか?過感受性精神病の状態が未だに続いているせいで、ちょっとした刺激に過敏に反応して悪化してしまうのだろうか?)

しかし、あるナースから、この患者さんには多飲水が以前からあり、血液検査では低ナトリウム血症にはなっていないため注意はされていないが、今も多飲水が続いているという報告があったのである。

DSP11

そうだったのか。慢性水中毒もあったのか。ガーン!!

(早く気付くべきだった。そう言えば、衣類が度々水で濡れていたし、夕方や夜に尿失禁をしていた。多飲水のせいだったんだ)

ナースの報告からは、過感受性精神病だけでなく、慢性水中毒もあるために病状が安定しないことが考えられた。

隔離が解除になれば、飲水は自由である。慢性水中毒ならば相当量の飲水をして、強制利尿のようになり、せっかく薬も尿からの排出が促進されて、薬剤の血中濃度が有効血中濃度以下になり、ドーパミンD2受容体の占拠率も大幅に低下し、至適域を下回り、そのために精神状態が悪化することは十分に考えられうる。

今までは水が欲しいという要求があったら、隔離中でも飲水は特に制限せずの状態だった。そのため、飲水量は隔離中でも3Lを超え、慢性水中毒からは抜け出せていなかったのであろう。

投与している抗精神病薬の血中濃度が測定できればいいのだが、それは今の日本では保険診療ではできない。研究施設に頼み自費で行うしかない。保険診療で抗精神病薬の血中濃度が測定できるのは、今では使われなくなった第1世代のハロペリドールとブロムペリドールしかない。第2世代抗精神病薬は血中濃度が測定できないのである。血中濃度はモニタリングすべきなのに。

(有効血中濃度は分かっているのだ。何とか保険診療で測定できるようにしてほしいのだが、そうならないのは、どうしてなのか。治験では血中濃度をしっかり測定しているのにね)

(血中濃度が分かれば、占拠率はHill equationなどの数理モデルから推定はできるようだし)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%AB%E3%81%AE%E5%BC%8F
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3032087/

現在の診療レベルでは、多飲水による血中濃度への影響を調べる方法は、血中濃度が測定できる他剤を介して間接的に調べるしかない。抗精神病薬と他剤が同じ薬物動態になる訳ではないが、少しは参考になるかもしれない。

このケースでは、バルプロ酸ナトリウムがずっと1200mg処方されていた。気分安定化剤としての処方であろう。使用量が多いなとは思ったが、血中濃度は50μg~75μg/ml程度で推移しており、血中濃度としては問題ないため、1200mgのままにしていた。50μg/mlは投与量が1200mgにしては低いなとは思ったが、主治医交代当初は、血中濃度にはあまり注意を払っていなかったのである。

しかし、血中濃度の推移を注意してチェックしてみると、多飲水によってバルプロ酸も強制利尿で排泄されていたようであり、徐放性製剤ならば血中濃度は安定しているはずなのだが、この症例ではバルプロ酸の血中濃度の変動が非常に激しいことが分かった。高い時と低い時では50μgくらいもの差がある(採血時刻は朝食前に統一されているため、同じ投与量ならば変動の幅は少ないはずである。バルプロ酸は肝臓で代謝されてからの尿への排泄のようであり、この変動の激しさは飲水量と因果関係があるとは言い切れませんが)。

VPA01

ということは、多飲水によって、今使用している抗精神病薬の血中濃度も、低下してしまっているおそれがある。ましてや今は減薬しているし、きっと有効血中濃度未満になっているに違いない(下図)。

polydipsia01

そこで、隔離中でもあるし、今回は飲水制限をすることにしたのであった(飲水量は一日3L以下)。1日3L以内の飲水に慣れるまでは、一時解除はせずに様子を見た。

飲水制限開始当初は、抵抗が非常に強く、もっと水が飲みたい!!という強い要求が続き、精神状態も不安定であった。患者さんからは、3Lなんて少なすぎてとても無理だ!!、精神医療審査会に訴えてやる等と診察時に毎回も怒鳴られた。

(しかし、これを乗り越えないと先の展望は開けない。我慢しなさい)

心を鬼にして飲水制限を続けていたが、次第に飲水要求は軽減していった。さらに、飲水要求が低下していくと同時に、気分感情や衝動制御における症状も軽減していった。

一方、隔離の状況下であり、もう少し減薬ができそうに思えたため、ブロナンセリンを12mg→8mgに減薬した。この時点で、CP換算値は500mgとなった。目標としていたDDD(Defined daily doses)と言える用量にまで減薬できたことになる。ついでにアキネトンも2mgに減薬した。

<減薬後の処方 その2> 
ブロナンセリン(4)2T 2×朝夕
リスペリドン(1)3T 3×毎食後
アキネトン(1)2T 2×朝夕
バルプロ酸ナトリウム(200) 6T 3×毎食後
クロナゼパム(0.5)3T 3×毎食後
トピラマート(50)1T 1×昼
(CP換算値500mg)

その後は、一時解除をしながら様子を見て、体重の変動をモニターしつつ、注意深く観察し、多飲水をしないように指導し、体重の日内変動が3Kg以内で維持でき、十分に安定したと判断できた時点で隔離を完全に解除した。1か月以上はかかった。その間、当然、増薬はしなかった。

以後、体重を一日に4回は測定し、起床時から3Kg以上体重が増加しないことを目標とし、診察時に多飲水をしないように何度も注意し、多飲水によって症状が悪化することを説明し、患者さん自体が多飲水をしてはいけないと理解できるようになることに努めた。

その後の経過は順調に推移するように思えた。

しかし、1か月後くらいに、本人から、幻聴がひどくなる時がまだあるという訴えがあった。

(まだまだD2受容体は感受性が亢進しているんだろうな。過感受性精神病は、結構、長引くのであろう。このケースは半年はかかると思っていた方がよいかもしれない。なお、どの位の期間で過感受性精神病という病態が消退するかは不明である。これまで減薬したケースからの個人的な経験では3~6カ月はかかるだろうと思える。)

(減薬しても、抗精神病薬が細胞膜に蓄積して、長く残存し、影響を及ぼし続けているせいであろうか)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24074141

このような際は通常は増薬されるのであろうが、増薬は絶対にしたくなかったため、CP換算値500mgを維持しつつの変薬を試みた。

具体的には、リスペリドンを3mg→4mgと増やし、逆に、ブロナンセリンを8→4mgと減らした。今までは、ブロナンセリンが主剤なのかリスペリドンが主剤なのかは、どっちつかずのままであったが、リスペリドンが主剤となったのである。

<減薬後 その3> 
リスペリドン(2)2T 2×朝夕
アキネトン(1)2T 2×朝夕
ブロナンセリン(4)1T 1×昼
トピラマート(50)1T 1×昼
バルプロ酸ナトリウム(200) 6T 3×毎食後
クロナゼパム(0.5)3T 3×毎食後
(CP換算値500mg)

これは、幻聴にはブロナンセリンよりもリスペリドンの方が効果があるだろうという判断からであるが、必ずしもそうとは限らない。さらに、リスペリドンとブロナンセリンという2剤の抗精神病薬がまだ使用されており、ポリファーマシーをなくすという観点からは、ブロナセンは中止してリスペリドン4mgのみにしても良いようには思えたが、ドーパミンD3受容体への作用を少しは残しておいた方がいいかもと考えてブロナンセリンを4mgだけ残したのであった。たったの4mgだったら、そんなの意味ないよと言われそうで恥ずかしい処方ではあるが。

一方、この患者さんは、腕の皮膚が痛い、感覚がおかしい、ぴりぴりするという訴えもあった。神経性疼痛かなとは思えるが、体感幻覚なのだろうかとも思えた。そこでリリカ(プレガバリン)を150mgを追加した。リリカは神経性疼痛への薬剤だが、気分安定化剤としても期待できるはずだ。

<減薬後 その4> 
リスペリドン(2)2T 2×朝夕
アキネトン(1)2T 2×朝夕
リリカ(75)2C 2×朝夕
ブロナンセリン(4)1T 1×昼
トピラマート(50)1T 1×昼
バルプロ酸ナトリウム(200) 6T 3×毎食後
クロナゼパム(0.5)3T 3×毎食後
(CP換算値500mg)
(CP換算値は減ったけど、逆に薬剤の種類が増えてしまっている。汗;)

その後は、幻聴の悪化も腕の痛みも言わなくなり、再び単独散歩は可となり、最終的には病院の外のデパートに単独で買い物に行けるようにまでなり、現在に至っている。この患者さんが、単独で病院外に出てデパートで買い物をしてきたのは何年ぶりであろうか。

(他のドクターからは、開放で出会ったが、すごく良くなっていたのでびっくりした。どうやったのか等、聞かれたが、減薬しただけです、特別な事は何もしていませんとだけ言い、このケースで減薬したことが適切だったという保証は全くないため、なぜ減薬したのかは話してはいない。)

この患者さんは、まだまだ不安定な傾向があり、多飲水をしていると思える日もあり、いつ病状が悪化するかは分からないのだが、今のところは単独外出可で維持できている。なお、現在のCP換算値は500mgである。クロザピンを使用する予定も今はもうなくなっている。

今後は、ブロナンセリン、アキネトン、バルプロ酸、クロナゼパム、トピラマート、リリカ、を漸減中止していき、最終的には、リスペリドン2~4mgのみにまで減らしたいと思っている。

<最終にはこうしたい> 
リスペリドン(2)2T 2×朝夕
または
リスペリドン(2)1T 1×夕

(きっと、この症例は、過感受性精神病と慢性水中毒が同時に混在していた症例だったんだろうな)

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過感受性精神病(Dopamine Supersensitivity Psychosis)は、抗精神病薬によってドーパミンD2受容体が過剰にブロックされ続けたことで、D2受容体がアップレギュレートした結果生じる医原性とも言える病態である。

国内では千葉大学や慶応大学等が力を入れて研究している。千葉大学の伊豫教授らのレビューに詳しい解説が既になされている。
(この論文は必ず一読しておくべきである)

DSP

それによれば、統合失調症の患者さんの30%が過感受性精神病に陥っており、特に、治療抵抗性統合失調症と判定された患者さんの70%が過感受性精神病ではと推測されるらしい。その数字からは、相当数の患者さんが、過感受性精神病に陥って苦しんでいるものと推測される。

過感受性精神病の病態になると、D2受容体の数が増えるだけなく、受容体の性質が高親和性へと変化し、内在性のドーパミンに過剰に反応するようになるため、より重度の精神病症状を呈しやすくなり、薬物治療に対して抵抗性となる。難治な症例になってしまうのである。

そして、過感受性精神病は、用量依存性に、時間依存性に生じることが分かっており、CP換算値が1000mgを超えた処方が一定期間なされているが、それでも不安定で、症状の悪化を繰り返すような場合は過感受性精神病になってしまっていると疑った方がよいと思われる。

そして、この病態が近年多くの研究者によって警告されるようになった。

(以前の日本は諸外国に比べて抗精神病薬が多剤併用で高用量使用されていた。今はかなりそういった処方は減ったが、それでも、昔ながらの多剤併用で高用量の処方になっている患者さんを今でも見かける。過感受性精神病のようになり、処方の手立てがなくなり、放置されているのであろうか)
DSP12

伊豫教授らのレビューによれば、過感受性精神病への推奨される対処方法としては、簡単に述べると、

クロザピンへのスイッチ

抗てんかん薬の併用(バルプロ酸、など。抗てんかん薬の効果は気分安定化剤としての効果であろうか。気分安定化剤として使用できると思われる薬剤は他にも多々ある。ドーパミンD2などの受容体に作用しないタイプが、特に、シナプス前部への薬理作用を有する薬剤が良いのかもしれない。)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%97%E5%88%86%E5%AE%89%E5%AE%9A%E8%96%AC

(下図は、非常に分かりやすく気分安定化剤を図で解説してあります。鮠野薬品さんの本から拝借させて頂きました)
mood stabilizer

持効性注射製剤(LAI)への変更

ECT(電気ショック療法)

などが推奨されている(特に①が最も推奨される)。

一方、私は、これまでに、過感受性精神病と思われるようなCP換算値が1000mgを超えた処方を受けていても病状が安定しない患者さんに、クロザピンを使用するために減薬したが、減薬の過程でCP換算値600(~800)mgを下回った時点で症状が軽減し、CP換算値を600mg以下(多くのケースで400mg前後)でしばらくの間(3~6カ月間)ねばっているうちに病状が改善・安定し、結局、クロザピンを使用せずに済んだケースを度々経験した。

これはいったいどういう訳なのだろうかと私なりにいつも考えていた。

既に述べたように、PETスタディでは、CP換算値400mgでドーパミンD2受容体は65%前後ブロックされており、CP換算値400mgでも臨床効果が十分に発揮できるはずだと考えられているが、本来の至適用量に戻した状況で維持したことで、レジリアンスのような回復力が働き、アップレギュレートされる前の元のドーパミン受容体に戻ったのかもしれないと考えている。

すなわち、過感受性精神病への推奨される対処方法としては、

⑤ 至適用量(=DDD)まで減薬して一定期間ねばる

という方法もあるかもしれないと私は考えている。

(注: ⑤はあくまで個人的な見解であり、決して推奨されるものではありません)。

なお、減薬してねばる場合は、気分安定化剤を併用するともっと良いと思われます。この症例には②+⑤の方法を試みたことになる。この症例では、気分安定化剤としては、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、プレガバリンが併用されていたことになります。

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一方、多飲水(polydipsia, 1日に3L以上を飲水)を繰り返し、病状が安定せずに予後不良となり長期入院を余儀なくされている慢性水中毒の患者さん達がいる。
http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/29346460.html

この慢性水中毒という病態は昔から報告されており、統合失調症に特異的である(精神遅滞などの発達障害が次に多いらしいが、その比率は統合失調症の患者さんに圧倒的に多い)。

これまでの文献によれば、多飲水の統合失調症の患者はかなりの割合で存在することが報告されている。決して軽視してはいけない病態なのである。

統合失調症の入院患者の20%前後(~30%)が多飲水を示すらしい。さらに、多飲水となったことがある入院患者の30%(~50%)は低Na血症(135mEq/L未満)になったエピソードを有するという。

逆に言えば、1日に3L以上の飲水をしていても低Na血症にならない患者さんも多々いることになる(多飲水の7割くらいは気づかれずにいる)。

腎臓の尿細管でNaの再吸収が問題なければ多量の水を飲水しても理論上は低Na血症にはならない。多飲水が気づかれずに見逃されているケースが結構あるのである。

(なお、低Na血症で固定している入院患者は5%(~10%)前後と見積もられている)

多飲水は抗精神病薬による副作用(口喝などによる)で生じたものだろうと思われている場合が多いようだが、研究報告では抗精神病薬と多飲水との直接的な因果関係は否定されている。

近年、非定型抗精神病薬が双極性感情障害にもよく使用されるようになったのだが、非定型抗精神病薬を内服している双極性感情障害の患者では多飲水は極めて稀であり、このことからも抗精神病薬との因果関係はなく(間接的な関与はあるであろうが、直接的な関与ではない)、慢性水中毒は統合失調症の中核をなすような、統合失調症に特有な、統合失調症で生じやすい難治な症状の一つなのかもしれないと考えられる。

なぜ統合失調症に特有な病態なのかは未だに不明なままだが、過剰な飲水行動の背景にはドーパミン神経伝達経路の異常が関与しており、統合失調症で生じているドーパミン神経伝達経路の異常と過剰な飲水行動を惹起させる神経経路に共通している部分があるためなのかもしれない。

(なお、抗精神病薬で治療が開始される前に既に慢性水中毒であった統合失調症のケースも報告されている)

しかし、である。やはり、抗精神病薬と多飲水(慢性水中毒)は関連しているのではという論文が発表されたのである。

その論文は国内の研究グループからの発表であった。その論文によると、ドーパミンD2受容体の高親和性を有する抗精神病薬は、多飲水のリスクの増加と関連している可能性があるらしい。
(この論文は慢性水中毒のこれまでのレビューも含まれているため一読する価値がある)

この論文で書かれてあることからは、過感受性精神病の時のように、ドーパミンD2受容体を抗精神病薬で高親和性(=過剰)にブロックし続けると、多飲水(慢性水中毒)が生じるとおそれが高くなるとも考えられうるのであった。

現在、使用されている第2世代の抗精神病薬の多くは、クエチアピンを除いて、ドーパミンD2受容体に高い親和性を有する薬剤が多い。ということは、現在、第2世代の抗精神病薬を内服している統合失調症の患者さんに多飲水(慢性水中毒)に陥っている患者さんが結構いるかもしれないということになる。

ここで注意しておくべきことがある。多飲水(慢性水中毒)の患者さんでは、いっきに飲水して急激に重度の低Na血症となり死亡するようなことがあるため決して軽視してはいけない病態なのだと理解することは容易であろう。しかし、多飲水(慢性水中毒)における有害事象は低Na血症だけなのであろうか。

多飲水(慢性水中毒)では、気分や感情といった精神症状そのものが安定しなくなり、精神状態の悪化を繰り返するようになることにもっと注意しておかねばならないと私は考えている。

(注: ここからは私の個人的な考察であり、確証があるものではありません)

私は、多飲水(慢性水中毒)の患者さんでは以下のようなことが起こっているのではと考えている。

多飲水では、OD(大量服薬)をした患者さんに点滴をして強制的な利尿をかけて、体内から薬物の除去に努めているのと同じようなことを自分で毎日しているのかもしれない。ということである。

OD1

薬物もナトリウムなどの電解質と同じように腎臓の尿細管では再吸収されるのだが、電解質ほどちゃんと再吸収されるのかは分からないが、多くの薬物の排出経路は尿からであり、尿量が増えれば増えるほど、当然、尿による薬物の排泄が強まるものと思われる。

飲水した真水は速やかに消化管から吸収されるらしい。一日に3Lを飲水したら500mlの点滴を6本したのと同じことになると考えていた方がよいであろう。慢性水中毒では5L以上飲水している患者さんは多々ある。5Lだと一日に10本も点滴しているのと同じことになろう。

polydipsia1
これでは、せっかくのお薬もウォッシュアウトされてしまい、血中濃度が下がり、有効血中濃度を下回れば、薬物治療の効果が減弱してしまうおそれがある。

毎日多量に飲水をしていれば、投与量から予測される血中濃度を下回っているのではなかろうか。これくらいの投与量であれば十分な効果があるはずだという期待が裏切られてしまっていると思われるのである。

この点については、以前から疑問に思っており、多飲水によって抗精神病薬の血中濃度がどの程度下がるのか、または、そんなに下がらないのかを以前論文検索をしたのだが、該当する論文が全く無かった。検索の仕方が良くないのかもしれないが、多飲水と血中濃度との関連性は全く調べられていないのかもしれない。

腎機能が正常であれば、1時間に1Lの尿を排泄できるらしい。人体の血液量は4.5~5Lであり、多飲水(慢性水中毒)の患者さんを放置しておくと一日中ひっきりなしに飲水をしている。短時間で相当な量の多飲水を続ければ、数時間で全血液量と同じくらいの量(4.5~5L)の尿が排泄されて、内服薬がすっかりウォッシュアウトされてしまうことにもなりかねない。

多飲水の患者さんの症状が安定しないのは、多飲水による強制利尿に起因した血中濃度の低下の問題もあるのではと私は考えている。

polydipsia3

多飲水によって悪化した際の症状は、過感受性精神病と似ており、いらいら、易怒性・易刺激性・攻撃性の亢進、不機嫌、気分変動の激しさ、といった気分感情や衝動性といった症状が強まる。多飲水だと一日のうちに悪化する。多飲水が始まり体重が増えると、それに比例して症状が悪化するのである。

私の経験では、多飲水の患者さんでは、飲水を続け、体重が(2~)3kgくらい増えた頃に、急に精神状態が悪くなることが多いように思える。

起床時から体重が3kg以上も増えるということは、食事による体重増加はせいぜい多く見積もっても1kg程度であろうから、食事以外によるものとすれば、飲水しか考えられない。その間に尿が1L(~2L)出ていたら、尿の分を加味すれば、既に3L以上は飲水していることは間違いない。

しかし、多飲水のせいだと気がつかれないと、精神症状自体の悪化と判断されて増薬されることが多々あろう。

血中濃度が下がったからといって、そんなすぐに短時間にD2受容体の占拠率が下がる訳ではない。この症状の悪化は、血中濃度が下がったことによるD2受容体へのリバウンドでは説明はできないのかもしれない。

症状の急激な悪化の原因は、ドーパミンD2受容体の他の受容体のリバウンドのせいかもしれないし、オーバーハイドレーションにより脳浮腫が生じたための症状かもしれない。あるいは、飲水行動自体が、ドーパミンの放出を高めるせいなのかもしれない。

いずれにせよ、多飲水を続けると、精神症状自体も悪化するのは間違いないようには思える。

一方、慢性水中毒から抜け出すことは容易ではない。隔離などの行動制限にて、一定期間飲水制限をしても、行動制限を解除したとたんに多飲水を再開する患者さんは多い。隔離中でも慢性水中毒の患者さんは入浴時にシャワーの水をがぶ飲みしたりする。その飲水行動の強さには驚かされてしまう。

では、多飲水(慢性水中毒)へはどのように対処すべきなのであろうか。投薬内容はそのままでいいのであろうか。

慢性水中毒への対応としては、飲水制限・飲水管理の他に、クロザピンへのスイッチが推奨されている。

クロザピンはドーパミンD2受容体への親和性が非常に低い抗精神病薬であるが、過感受性精神病と同じく、慢性水中毒でもクロザピンが推奨されているのである。

clozapine
もし、抗精神病薬のドーパミンD2受容体の高親和性という性質が多飲水(慢性水中毒)と関連しているのであれば、ドーパミンD2受容体への親和性が低いクロザピンへのスイッチは合理的な対処方法だと言えよう。

(クロザピンは、D2受容体への親和性は低いが、D2受容体の占拠率はそう低くはなく、血中濃度が上がれば60%以上は十分に占拠される、とも言われており、非常に効果があるのだが、未だにその効果が何に由来するのかは不明な謎の抗精神病薬である)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16040180
https://link.springer.com/article/10.1007/s00213-001-0967-0
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15337652

(クロザピンはD2受容体へのオン・オフが非常に早く、D2受容体に結合したら、すぐに解離する。ハロペリドールが1回オン・オフする間に100回もオン・オフするらしく、高速解離という性質がクロザピンの最大の利点なのかもしれない)
https://ajp.psychiatryonline.org/doi/full/10.1176/appi.ajp.158.3.360?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%3dpubmed

なお、トピラマートなどの抗てんかん薬で多飲水が軽減したという報告もある。これもまた、過感受性精神病の際と対処方法が似ている。

(クロザピンや抗てんかん薬のバルプロ酸で逆に多飲水が誘発されたという報告もあるけども)

まとめてみると、どうやら、多飲水(慢性水中毒)と過感受性精神病への対応が似ているのである。

ここで再び考察してみた。

多飲水で薬が強制利用されてしまった結果、血中濃度が下がり、有効血中濃度を下回り、病状が悪化すれば、精神症状自体の悪化と誤解され、薬の効果が不十分なせいだ(=投与量が足りない)と判断されてしまい、抗精神病薬が増薬されることは多々あろう。

しかも、ドーパミンD2受容体に高親和性の薬剤が高用量使用され、その状況下でもし隔離などの行動制限になれば、多飲水による強制利尿ががなくった分、逆に、血中濃度が上がり過ぎ、至適域を超え、占拠率が80%を超え、D2受容体が過剰にブロックされている状況になり、それを続けていけば、過感受性精神病のようになっていくのかもしれない。

(既に千葉大学から抗精神病薬の血中濃度が上がったり下がったりして好ましくないことが起こり得るということが警告されています)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23609386

それとは逆に、高用量の抗精神病薬が投与され続けば、ドーパミンD2受容体がアップレギュレイトしていき、その結果、過感受性精神病のようになり、過感受性精神病の症状として多飲水という行動が始まってしまうのかもしれない。

これまでの調査結果からは、過感受性精神病や慢性水中毒はかなりの頻度で存在しており、当然、その2つの病態が同時に合併していることも十分にあり得るものと考えられうる。

すなわち、過感受性精神病⇔慢性水中毒という関連があり、この2つの病態は相互に関連し合い、悪循環を繰り返し患者さんを難治にしていることが考えられうるのである。

悪循環


気が付かれずままに、この2つの病態が同時に生じており、難治になってしまっている患者さんが結構いるのではなかろうか。

もし、慢性水中毒(多飲水)の患者さんで、高用量の抗精神病薬を使用していてもいっこうに病状がよくならず、行動制限をゆるめると多飲水を繰り返し、病状も悪化し、抗精神病薬の効果がいっこうに発揮されないような状況に陥っている患者さんがいたら、思い切って至適用量(=DDD)にまで抗精神病薬を減薬し、その状況下で行動制限にて飲水量を一定期間コントロールしてみるという方法もあろう。

今回、紹介した論文(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0278584619305731)を見ると、多飲水(慢性水中毒)へのケースの治療前後の抗精神病薬の平均投与量は、治療前がCP換算値は800mg前後だったのが、治療後には400mg前後まで低下している。多飲水(慢性水中毒)だった時はDDDを超えていたのが、最終的には使用薬剤量はDDDにまで下がっているのである。今回紹介したケースと同じような投与量にまで減っていることが分かった。

なお、減薬の具体的な仕方については、減薬の仕方には多くの文献がある。今回紹介したケースのように、いきなり半量に減薬しても大丈夫なように書いてある論文もあるが、リバウンドが出るかもしれないということを考慮すれば、10~25%くらいづつ減薬していくのが無難であろう。

私の場合は、これまでかなりのケースに減薬を試みたが、個人的な経験では、いきなり50%減にしても、そのように減薬した全ての患者さんで問題は生じなかった。断薬や服薬中止のようにいきなり0%にするのは、当然、リバウンドが生じて重度な精神病の症状を惹起してしまうであろうが、元々高用量が使用されており、1回目の減薬後の用量が常用量の上限付近であれば、D2受容体は推定で50%はブロックされていると推測でき、大きな問題は生じないだろうと考えながら減薬していたのである。

(注: 元々、高用量だったので、半量に減薬しても、D2受容体の50%はブロックされているであろうという安易な推測の下での減薬です。これも全く推奨される訳ではありません)。

減薬することで、必ずしもうまくいく訳ではないし、病状が悪化した時に減薬することは、逆効果のことをしているようにも思われ、周囲から理解が得られがたい選択であり、勇気がいることだとは思えるが、減薬しても病状には大きな変化はなかったという論文もあり(下の論文では、病状が減薬にて改善したかは不明だが、27名が悪化はなく減薬に成功したようだ。減薬しようと思えばできるのである)、増薬という選択肢以外にも、減薬という選択肢があることを知っておくことは何かの際に役に立つであろう。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30074116

(抗精神病薬の投与量を減らせば、過感受性精神病が予防できるらしいが、逆に、過感受性精神病になってからでも遅くはなく、抗精神病薬の投与量を減らして維持すれば、元に戻る可能性はあるであろう)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/21035632/

(高齢化した統合失調症では減薬した方がいい。減薬することで改善が期待できる)
https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/fullarticle/2339964

(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所でも減薬してみましょうと呼びかけている)

いずれ抗精神病薬の減薬ガイドラインが正式に発表されるはずです。それを待ちましょう。

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私個人は、過感受性精神病の論文が出始めて以来、もう数年以上前から、DDD相当(CP換算値400mg前後)の抗精神病薬しか使用しないようにしているので、逆に、そのようにしてからは、不安定な患者さんがずっと減り、以前よりも楽にはなっている。主治医を交代した時、用量が多いなと思った患者さんに対してはすぐに減薬している。

経営者から、ナースから、早く精神症状を良くしてください、このままだと3カ月以内では良くなりません、増薬すべきです、とプレッシャーをかけられても、そんなに焦ってどうするんだ、そのうちきっと良くなるさ、と言って抗精神病薬は増薬せずにDDDを維持していても(気分安定化剤としての抗てんかん薬はよく併用しますが)、結局2カ月くらいで良くなって退院できるようなるのであった。私は、スーパー救急病棟(入院患者の60%は3カ月以内の退院が必要)に入院した患者さんでもそうしていた。

(高用量じゃなくても3カ月以内に退院できるんだから、増薬すべきとかのプレッシャーをかけないでほしいね)。

過感受性精神病を予防しつつ治療する、そう、DDDでいいんだよ!!

しかし、しかし、である。感受性精神病と慢性水中毒は、もっと多くのケースで生じているのかもしれないと思わせるような論文が最近出たのであった。DDDでも感受性精神病は防止できない、もっと少量が望ましいのかもしれないのである。

(その論文は2020年の1月に出版予定のため、このブログを書いている時点では、まだ出版されておらず、抄録しか読めていないのだが)。

次回に続く・・・・・。




人類を守るために作られたはずのものによって、逆に、人類は滅びようとしている


AMR1

高齢となり、ブログを書く意欲が無くなってからブログを長く更新していなかったが、論文のチェックだけはしていた。もっぱら登録したWEBサイトから送られてくる神経科学や精神医学に関するニュースで興味を引いたものをチェックしているだけなのだが。認知症の予防になるかもと思いながら論文チェックは私の習慣の1つになっている。

ということで、今年読んだ論文の中で、インパクトが強かったものをいくつか紹介したい。

まずは、抗生物質に関する論文である。

抗生物質は1940年代から使用され、抗生物質のおかげで人類が感染症に打ち勝てるようになり、今では抗生物質の無い医療は考えられない程になっている。

しかし、抗生物質の消費量は世界中で増え続け、抗生物質が乱用された結果、負の遺産のような抗生物質が効かない抗菌剤への耐性(antimicrobial resistance、AMR)を有する多くの菌が誕生した。

AMRは今後も増え続け、このままだと逆に人類は感染症に勝てなくなり、その結果、医療が崩壊し、人類社会は危機的な状況に陥ってしまうのではと懸念されている。
https://www.economist.com/graphic-detail/2018/04/02/antibiotic-use-is-rapidly-increasing-in-developing-countries

抗生物質の消費量は、2000年から2015年にかけて21.1億DDD(DDD=1日用量)から34.8億DDDへと65%も増加し、消費率は、1日1,000人あたり11.3DDDから15.7 DDDへと39%も増加した。

AMRへの対策として、抗生物質の使用を控える努力が既に開始されているが、現状のままで推移すれば、2030年の抗生物質の消費は、現時点よりも15%も増加すると予測されている。抗生物質の消費が増えればAMRはもっと増えていくことであろう。
https://www.pnas.org/content/115/15/E3463

antibaiotics1

現在でも、毎年70万人がAMRに罹患して死亡しており、このままだと2050年の時点では、AMRによる死亡者数は年間1,000万人に達すると見込まれている。

この数字は癌による死亡者数を上回り、それによる経済的損失は世界規模では累積で100兆ドルにもなると予測されているのであった((((;゚Д゚)))))))
(ジム・オニール議長からのメッセージ)
https://amr-review.org/
(日本語バージョン)
https://amr-review.org/sites/default/files/Japanese%20revised.docx

もし、2050年まで生きていたら、私もあなたも、AMRという感染症で死亡するのかもしれないのである。

元英国首相、デビッド・キャメロンは次のように述べている。

"If we fail to act, we are looking at an almost unthinkable scenario where antibiotics no longer work and we are cast back into the dark ages of medicine" – David Cameron, former UK Prime Minister

「もし、我々の行動が失敗した場合、抗生物質が全く効かなくなり、人類は暗黒時代に戻るという、考えられないようなシナリオが待ち構えている」

ちょっとしたかすり傷でも感染したら致命傷になるのかもしれない。

人類社会は、コレラやペストなどの感染症で大量死した中世時代に逆戻りしてしまうのであろうか。

そのため、WHOは、AMRと闘うための国家行動計画を確立しなければならないという声明を2015年に国連加盟国に対して出している。
(WHOからのAMRに関するニュース)
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/antimicrobial-resistance

“We have reached a critical point and must act now on a global scale to slow down antimicrobial resistance” – Professor Dame Sally Davies, UK Chief Medical Officer

「我々は重大な局面に差し掛かっており、抗菌剤耐性を減らすために、地球規模で今行動しなければならないのだ」- と英国の最高医療責任者のデイム・サリー・デイヴィス教授は述べている。

果たして人類はこのAMRという危機を乗り越えられるのであろうか。
(厚生労働省のAMR対策のホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html

それでは日本ではAMRはどうなっているのであろうか。

既に日本でもAMRは蔓延し悲惨な事例が増えているのであった。

4年前のNHKのクローズアップ現代での放送内容で少し古いのではあるが、日本でも深刻な問題になりつつあることが報道されている。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3734/index.html

AMR2

その報道の一部を紹介すると、
例えば、中耳炎では、耐性菌により治りにくい患者が増加。NICUでは、母親が知らずに持っていた耐性菌が母子感染し、新生児が亡くなるケースも起きている。特に警戒されているのが、CREという腸内細菌の耐性菌。腸内に保菌しているだけでは無害だが、血液中に入って炎症を起こすと、使える薬がほとんどなく、世界中で死者が出ている。

日本には少ないと考えられていたが、初めての全国調査により、この1年で1700人以上の感染者がいたことが明らかになった。最新の研究により、CREが様々な種類の菌を耐性菌に変えてしまう性質を持ち、従来の検査体制では発見が難しいこともわかってきた。

さらに、2017年では日本国内でAMRによって8000人以上が死亡したという。
https://news.livedoor.com/lite/article_detail/17480835/

「人類を守るために作られたはずのものによって、逆に、人類は滅びようとしている」
とまで言えるような皮肉な事態になってしまっているのである。

では、抗生物質による深刻な影響はAMRだけなのであろうか。

いいや、他にも抗生物質によって深刻な影響が人類にもたらされているかもしれないのである。

このブログでも既に述べているのだが、自閉症(発達障害)の急増という深刻な問題があり、特に先進国で自閉症と診断される児童が急増しており、大きな社会問題となっている。それが抗生物質と関係しているかもしれないのである。
https://safeminds.org/news/u-s-autism-prevalence-rate-soars-to-1-in-59-children/

アメリカ合衆国では、2000年以降、自閉症と診断される児童が急激に増え続け、現時点では自閉症と診断される児童は59人に1人の割合となっている。

AS1


この数字は、自閉症と診断された児童が12年間で2倍にもなっており、2年間で15%も増加したことを意味している。

さらに、自閉症のケアはコストがかかるため、自閉症の有病率が増加し続ければコストが劇的に増大することが懸念される。

自閉症の人々へのコストは、アメリカ合衆国では、1兆ドルに向かっていると警告されている。

アメリカ合衆国における自閉症関連の、医療、非医療、生産性の損失の予測は、2015年は2,680億ドルだったが、2025年は4,610億ドルと見積もられているが、この予測は間違っており、今後、効果的な介入や予防方法が特定されず、自閉症の有病率が増加し続けるならば、2025年までに自閉症関連で必要なコストは1兆ドル(100兆円)に達するおそれがあると指摘した研究者がいる。
https://health.ucdavis.edu/health-news/newsroom/autism-costs-estimated-to-reach-nearly-500-billion-potentially-1-trillion-by-2025/2015/07

AS2


このまま自閉症が増え続ければ100兆円が必要になる。100兆円なのである。100兆円!!日本の国家予算とほぼ同じ金額ではないか((((;゚Д゚)))))))

100兆円は、アメリカの国家予算でも3割に相当する。国家予算の3割が自閉症の人達で消えたなら、それはもう社会が成り立たなくなることであろう。

これはまさに大統領から非常事態宣言が出されるほどの国家の危機的な事態なのである。

日本でも自閉症(発達障害)と診断される児童(通級指導児童)は急増しており、いずれアメリカ合衆国のような国家の危機的な大きな社会問題になるのは間違いないのかもしれない。
(日本でも1993年度から2015年度のわずか20年余りの間に、通級指導の児童が7.4倍にもなった)
https://www.news-postseven.com/archives/20160507_409670.html?DETAIL&_gl=1*3yky25*_ga*RS1sckF4cXpPRW5vWnB0UXNlSXR4S2NNRWlBYzU4X1lfbnJxbl9uUEtxeUJRSF9KRk5GZ2JpU0haODBkMzNuTg..

AS3


そして、この自閉症児童の急増が抗生物質の乱用と関係があるかもしれないというのである。

この自閉症と抗生物質の因果関係を調査したレビューが今年発表されている。
https://link.springer.com/article/10.1007/s10803-019-04093-y

以前、このブログでも取り上げたように、腸内細菌叢は、ミクロビオーム-腸-脳軸を介して、脳機能や人間の行動に影響を与えることが示唆されている。
http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/33970030.html
http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/36200564.html

一方、抗生物質は、乳児期に腸内細菌叢の組成を妨害することが知られている。そして、多くの研究で、自閉症では健常者と比較して異なる腸内細菌叢の組成を有することが確認されている。

これらの所見からは、自閉症の危険因子の1つは、胎児や幼児への抗生物質の曝露かもしれないと考えられるのである。

この論文では既に発表された研究データから因果関係が無いかを検証したようだが、自閉症と抗生物質との間には因果関係がありそうだと述べられている。
AS4
AS5
(上記の図の解析で採用された研究論文の1つ)

しかし、腸内細菌叢が大きく変化するには、胎児や幼児に抗生物質による相当な曝露(頻度や期間)が無いとそうはならないだろう。常時曝露されているような状況になっている必要がある。

では、いったい、どのような手段や経路を経て胎児や児童が抗生物質に曝露され続けているのであろうか。

胎児や幼児への曝露は医療行為によるものでは決してないであろう。

では、いったい、何が原因なのであろうか。

既に動物への抗生物質の使用の警告が出されており、私は食品を介して曝露されているのではと疑っている。
https://time.com/4545243/antibiotics-food/?amp=true

AMR

抗生物質は人類にだけに使用されている訳ではない。むしろ大半は人類以外の動物への使用である。抗生物質の7割は動物への使用である。農業や水産業では家畜や養殖動物に対して感染症予防や成長促進の目的で、今では抗生物質が世界中で使用されている。投与する必要性が必ずしもある訳ではないにも係わらず、相当な量の抗生物質が漫然と動物に使用されているのである。

最終的には、抗生物質が投与された動物が食品となり、人類がそれを食べることで抗生物質に曝露されるのであろうが、動物への使用が急増すれば、当然、人類への曝露も急増することであろう。

自閉症の急増は食品に含まれる抗生物質が急増したせいなのではなかろうか。

今や、こんな食品にまで含まれているのかと驚く程に様々な食品に抗生物質が含まれている。
https://recipes.howstuffworks.com/10-foods-contain-antibiotics.htm

肉、ブルーベリーなどのフルーツ、ミルク、蜂蜜、ニンニク、きのこ、キャベツ、玉ねぎ、バター、スパイスやハーブ、、、、、、

もう安全な食べ物など無いのかもしれない。

さあ、今日は何を食べようかなあ。





私の勤務病院で若い綺麗な女医さんが増えました

御無沙汰しておりました。
歳をとり、学問への意欲を失くし、ブログはずっと休んでおりました。

最近、私が勤務している病院に若い女医さんが沢山入局してきました。
皆、アイドル系の顔立ちです。皆、美人です。

こんな感じです。

M先生













その女医さんの一人が曰く、私が書いていたブログを学生時代に読んでいたとのこと。

ええええ?、先生だったのですか。
彼女は私の2つ隣のデスクに座っております。

このブログが消えないようにしておいてほしいと彼女から言われましたので、ブログ継続のため3年ぶりにちょっとだけ書きこみをしておきます。

その綺麗な女医さんに、このブログはいずれ引き継いでもらおうかと考えております。
彼女はとても優秀で勉強家なのです。
私には無理ですと、あっさりとすぐに断られましたが(;一_一)、諦めずに説得し続けることにしました。



古くから存在するが新しく発見された第3の向精神薬 亜酸化窒素(N2O)


N2O-1

 一昨度の8月に、ニトロプルシッド・ナトリウムが統合失調症の症状を劇的に改善させたという論文を紹介したのだが、その薬理作用は一酸化窒素(NO)を介したNMDA受容体システムへの作用などが想定されている。酸化窒素系化合物はNMDA受容体システムに作用するのである。
 (関連ブログ 2013年8月24日 ニトロプルシッド・ナトリウムの統合失調症への効果)

(JAMAの一酸化窒素の精神疾患への効果に関する社説)
(統合失調症へのニトロプルシッド・ナトリウムの効果に関して新たに2014年に発表された論文)
(NOが統合失調症患者のワーキングメモリーを改善するのではないかという治験)

 今回は再び酸化窒素系化合物に関する新しい論文が出されたので紹介したい。それは亜酸化窒素、いわゆる笑気ガスである。笑気ガスもまた麻酔薬として古くから使用されていたものであるが(笑気ガスは、1799年に既に使用されており、1900年頃には麻酔薬として確立されていた非常に古くからある薬物である)、その笑気ガスが治療抵抗性うつ病に劇的な効果を発揮したというのである。しかも、ニトロプルシッド・ナトリウムの場合と同様に速効性があり、ニトロプルシッド・ナトリウムでは統合失調症であったが、笑気ガスでは難治だったうつ症状がすぐに改善したらしい。もし、これが事実であれば、すばらしい大発見である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%9C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%AA%92%E7%B4%A0 
http://publicdomainreview.org/2014/08/06/o-excellent-air-bag-humphry-davy-and-nitrous-oxide/
http://www.shroomery.org/forums/showflat.php/Number/13669068

N2O-2

 この論文には注目すべきである。一酸化窒素(NO)や亜酸化窒素(N2O)といった酸化窒素系化合物が第3の向精神薬になる可能性があるからである。
 
 酸化窒素系化合物によって精神科薬物療法が大きく変わる可能性があると言えよう。

 私は、最近、難治性になってしまった高齢化した統合失調症の患者さんで狭心症の治療薬であるニトロダームTTS(この薬も皮膚から吸収されて生体内でNOとなる)が劇的に効いたとしか考えられないようなケースを経験した。
 
 その統合失調症の患者さんは、大学時代という20歳台前半で発症し、60歳を過ぎたケースだが、ここ10年は、良くなったり悪くなったりを繰り返しており、そのため長期入院を続けていた。開放病棟と閉鎖病棟とを行ったり来たりを繰り返し、今回再び精神症状が悪化したため、閉鎖病棟に転棟となったのである。
 
 悪化を繰り返すたびに抗精神病薬は増えていき、抗精神病薬のCP換算値は1500を超えてしまっていた(恥ずかしいことに2000近い値)。今回も1年間程は全く普通に過ごせていたのだが(病識はないままだったが)、しかし開放病棟に移動するとチェックが甘くなるため、ある時期からは隠れて拒薬(吐薬)していたようである。こうなると非常に危険である。抗精神病薬の中止時ドーパミンD2受容体パラドックスが生じてしまう。この患者さんも、そのせいで再び激しい幻覚妄想状態になってしまったものと思われた(せっかく良くなっても、拒薬や吐薬を繰り返すために、増悪と改善を繰り返し、閉鎖病棟と開放病棟を行ったり来たりしていたのである。)。
 
 この患者さんは、こうなると全く疎通が取れなくなる。意味不明を独語をし続け、急に大声を出して興奮し始めるようなことを毎日繰り返し、幻覚妄想の世界に入り込んだままとなり、完全に拒薬、拒食となる。
 
 こうなった場合には電気ショック療法が試みられるのであろうが、当院では電気ショック療法は実施していないため、ジプレキサの筋注や、セレネースの点滴静注などが試されることになる。しかし、今回はなぜか全く反応しない。ジプレキサの筋注やセレネースの点滴静注では鎮静はかかり興奮は抑えらるものの、幻覚妄想状態は全くの不変である(CP換算値が強烈だっただけに、抗精神病薬の急激な中断によって、強烈なドーパミン受容体過感受性精神病が生じたのであろう)。一日中意味不明な独語をし続け、拒薬し続け、食事も一切摂らないし、飲水もしない。仕方なく持続点滴で管理することになった。
 
 しかし、その後も同じような状態が続き、いよいよ方法がなくなり、点滴にてセレネースを10mg~15mg/日(CP換算値で500~750)を投与して様子を見るしかできなくなった(20mgにしてみても全く同じなので、興奮が出なければいいため10mg~15mgで維持した。しかし、試しにセレネースを5mg/日にしてみると、それでは鎮静効果が不十分なのか、興奮する時が多くなるため、セレネースの減薬も中止もできないような状態が続いた)。
 
 やむを得ずセレネースの10mg~15mg/日の点滴でしばらくの間様子を見ていたのだが、2週目を過ぎた頃からとうとう錐体外路症状が出始めたのである(振戦、筋固縮など)。こうなると嚥下にも影響が出て、経口で食べていなくても、喀痰排出困難となり、肺炎を起し易くなる。これはまずい。セレネースを中止するか量を下げるか、または、抗パーキンソン剤のアキネトンを使用せねばならない。しかし、アキネトンは普通は筋注である。特殊な場合は点滴でも使用できるが、点滴での使用は安全性は保証されていない。もし、点滴で使用して病態に変化が起きたら医療事故扱いとなるため、そのような使用は避けねばならない。前回も同じような状況となり、アキネトンの筋注を繰り返しているうちに筋肉の炎症が起きてしまったため、今回はそのような事態は何とか避けたいと思った。

 仕方がないので、セレネースは5mg/日まで減薬して、減薬した代わりにデポ剤のリスパダールコンスタ50mgを使用し、セレネースは中止していく方向で検討した。セレネース5mg/日+コンスタ50mg/2週間に変更したが、興奮はそれで何とか抑えられることが分かった。しかし、重度の幻覚妄想状態は不変なままである。一日中独語をし続け、別の世界に行ったままであり、疎通は殆ど取れない状態であった(食事や内服を勧めても、ごくたまに、「要らん!!」と激怒して怒鳴る程度。あとは、話しかけても話しかけを無視して、意味不明な独語をし続けるといった病状)。
 
 しかし、悪いことは重なるものである。その時に、高血圧が元々あり、降圧剤の内服も中断されていたため、再び、血圧が160を超えるようになってきたのである(上昇した時は180~200までいく)。これまではセレネースが1日に10mg以上は入っていたため、何とか重度の高血圧になることは抑えられていたのだが、錐体外路症状のためセレネースを減薬したことで、高血圧が悪化してしまったのである。これで高血圧の方も何とかせねばならなくなってしまった。
 
 ところが、低レベルの場末のP科病院の当院には、点滴で投与するような降圧薬は置いていないのである。アポプロンしかない。200を超えるような高血圧時にはアポプロンの筋注をするしかないのである。しかし、毎日筋注をする訳にはいかない。アキネトンの筋注と同じで筋肉の炎症が起きてしまう。そこで、循環器系の内科医に相談することにしたのである。

 だが、この内科医はやる気のない医師であった。とにかく、いつもやる気がないのである。

 重度の高血圧の患者さんがいるのですが、拒薬や拒食があるため点滴で対応する何か良い方法はないでしょうかといった風に分かり易くコンサルトしたつもりだったのだが、しかし、そんなの私は知らないわよといった感じの返事が返ってきた。私は点滴で投与する降圧薬の注射製剤を臨時採用してくれないかと暗に打診したつもりだったのだが、あっさり無視されてしまったのである。きっと、そのようなことは面倒くさいのだろう。紙切れを1枚書けば済むにも係らず、注射製剤型の降圧剤の臨時採用申請書を薬局に提出しようとする気配はその内科医には一向になかった(悲しいことに、精神科医の私が申請しても、内科医から内科用の薬剤を申請してくれないと薬局長はなかなか承認してくれないよのね)。まあ、恥ずかしいことに当院には持続注入ポンプもないし、注射製剤型の降圧剤を使用するのであれば、そいった医療器具も一緒に購入せねばならないのだが、とにかく、この内科医師はいつも頑張って治療しようという熱意が全く伝わってこないのである。

 ふん、そんなの経鼻チューブから降圧剤を入れたらそれでいいんじゃないのといった感じの対応であった。
 
 この患者さんは、前回の悪化時も、前々回の悪化時も、経鼻チューブを使用して与薬や栄養管理をしていたのだが、経鼻チューブが挿入されたせいであろうか、誤嚥性肺炎を何度も併発し大変だったため、私は経鼻チューブからの与薬はできるだけ避けたいと思っていたのである。しかし、その内科医は肺炎になったってそんなのどうでもいいでしょう。私には関係ないわよといった感じであった。
 
 あかんなあ、この循環器系の内科医は。いつもやる気がないわ。ちょっとでもデータが悪くなると、この病院ではもう診れないと大騒ぎして、すぐに転院させようとするし。自分が使う内科用の医療器具も揃えようとしないし。人工呼吸器や持続注入ポンプを揃えずに、いったいどうやって重度の循環器や呼吸器疾患への対応をしようというのか。常勤で循環器系の内科医がいるのに、なぜ人工呼吸器や持続注入ポンプが未だにこの病院には1台もないのだ。おそらく、もし、そのような医療機器を揃えれば重度の場合でも自分が診なきゃいけなくなるので、あえて何も内科用の器具を揃えないままにしているのであろう。とにかく自分の仕事を増やしたくないのが見え見えである(悲しいことに、精神科医が申請しても、内科医が要らないと言うと、そういった医療器具はドケチの経営者は購入してくれないんだよね)。
 
 経営者は、これからは身体合併症のある患者もどんどん引き受けると言って内科医を雇ったはずなのだが、このような内科医を雇っても病棟の内科機能が全く充実しないので意味がないのであった。おまけに、NSTでも、いつも変な食事指導のコメントがカルテに書いてある。その上、常勤医のくせに私的な用事で病院を休んでばかりいるし、早退ばかりしている(早くこの病院を辞めてくれないかな。もっと別のやる気のある内科医が来てくれないかな。なんで経営者はこんな内科医を雇ったのだ。まあ、内科医の方にしてみれば、やる気がないからこそ精神科病院に来たのだろうけど。汗;)。
 
 さらに、悪いことは重なるのである。その患者には腹部大動脈瘤があることが判明したのである。サイズからすれば手術の適応レベル。しかし、本人は疎通も取れないし、親族は既に全員死亡しており家族による手術の同意すら取れない。しかも、この病態では転院したとしても手術は到底不可能である。おまけに、こんな精神状態では術後管理もできない。しかし、その循環器の内科医はいつものように、既に手術の適応のサイズなんだから、外科に転院させて手術させたらいいんじゃないのといった冷たい感じの対応であった。
 
 (こんな病態では、どこの病院も引き受けてくれる訳がないだろうに。この野郎、分かっているくせに、そんなこと言うなよ。まったく。)

N2O-5
 
 仕方がないので、もう一人の内科医に相談することにした。こちらの方は消化器系の内科医である。循環器系の内科医とは異なり、非常に真面目で熱心な内科医である。責任感も強く、やる気も十分な内科医であった。病棟での評判もすこぶる良い。
 
 あの・・・、(当院には循環内科のドクターが既にいるのですが)循環器のことで相談してもよろしいでしょうか。
 
 はい、いいですよ。あ、そういうことですか。それでは、とりあえず、ニトロダームTTSを使ってみたらどうですか。血管が拡張するはずですし、少しは血圧は下がるかもしれません(アドバイスいつも有難うございます)。
 
 そこで、その真面目な消化器系の内科医のアドバイスに従い、ニトロダームTTSを貼ることにしたのである。

 すると、なんと!!、ニトロダームTTSを貼った翌日から急に疎通が改善し会話ができるようになったのである。食事を食べると返事をようになったのである。今まで全く知らん顔で独語をし続けていたのだが、問いかけにきちんと返事をするようになったのである。ニトロダームTTSにて血圧も少し下がって危険な水準からは脱したのだが、血圧よりも何よりも、精神症状の方が劇的に改善したのである。

N2O-4
 
 これは奇跡だ。いったい何が起こったのだ。抗精神病薬の使用状況は、リスパダールコンスタの2回目の筋注をした2日後の状況である。コンスタがようやく効いてきたとも考えられなくもないが、こんな急激な変化はコンスタではあり得ない。これは、間違いなくニトロダームTTSの効果だろう。きっと、ニトロダームからの一酸化窒素(NO)が効いたのだ。あのニトロプルシッドナトリウムの論文は本当だったのだ。精神疾患にはNOが劇的に効果を発揮することがあり得るのだ。

 通常では、心疾患に使用するニトロダームTTSにて統合失調症の症状が改善するなんて絶対にあり得ないだろうと思うのは当然である。このケースでは、未だにリスパダールコンスタが効いたのだと他の医師や病棟のスタッフからは思われているのだが、私には経過からして、ニトロダームTTSの方が効いたとしか思えないのであった。

 ちなみに、他のドクターからは、じゃあ本当にそう思うんだったら他の患者さんにもニトロダームTTSを試してみたらいいじゃないですかと冷やかされている。確かに、NOに関しては、全く逆に作用する可能性もあり(統合失調症の症状を悪化させる)、他の統合失調症の患者さんに安易に試すことはできないのではあった(狭心症が合併しているケースには試そうと思っているが)。
http://www.schizophrenia.com/sznews/archives/005764.html
 
 その後は、その患者さんはぐんぐんと良くなっていき、ニトロダームTTSを開始してからは2週間後には幻覚妄想や独語は完全に消失した。食事も食べ始め、拒薬もなくなり、降圧剤の内服もするようになり、今では、抗精神病薬は2週間に1回のコンスタの筋注のみで維持できている。さらに、金銭も自己管理して、普通に外出して買い物をして帰ってきている(とにかく、ニトロダームを貼り始めてから2週間で寛解状態となったのである)。
 
 あれだけCP換算値が高かったのが、今ではリスパダール4mg/日相当で維持できるようになっている。精神状態が悪くなる前はCP換算値で言えばリスパダールを15mg~20mg/日をも内服していたことになるんだけどね。これはまさに奇跡に近い出来事であった。
 
 その後、腹部大動脈瘤の手術をしますかと本人に聞いたのではあるが、手術?、そんなのしなくていいですとあっさり拒否されてしまった。ニトロダームTTSは今でも毎日貼っている。本当にニトロダームTTSが効いたのかを確認するために、コンスタを中止してみてニトロダームTTSだけにしてどうなるかを試そうかなとも思っているのではあるが、コンスタの方の効果かもしれないと思うと未だに決心はできていないのであった(汗;)。

(こういったことは誰も信じてくれないのは間違いないし、誤った解釈をしている可能性も高いため、論文にはできないのですが、同じような経験をするドクターや患者さんがいないとも限らないので、何らかの参考になればと思いブログで書くことにしました。) 
 
 ということで、今日はNOではなく、N2Oの話です。
 
治療抵抗性大うつ病への亜酸化窒素:概念実証的トライアル
「Nitrous Oxide for Treatment-Resistant Major Depression: A Proof-of-Concept Trial」

(抄録)

 ケタミンなどのNメチル-D-アスパラギン酸受容体(MNDA受容体)拮抗薬は治療抵抗性うつ病(TRD)に対して即効的な抗うつ作用を有する。そこで、我々は、亜酸化窒素(nitrous oxide、一酸化二窒素、、笑気ガス、N2O)、この物質は吸入全身麻酔薬だがNメチル-D-アスパラギン酸受容体アンタゴニストでもあるが、N2Oが治療抵抗性うつ病に対して即効性を有する治療になり得るかもしれないと仮定した。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%9C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%AA%92%E7%B4%A0
http://en.wikipedia.org/wiki/NMDA_receptor_antagonist

 この盲検プラセボ対照クロスオーバー試験では、20名のTRD患者に対して、50%亜酸化窒素/ 50%酸素、または、50%窒素/ 50%の酸素(プラセーボ、対照)が無作為に割り当てられ、1時間吸入した。そして、24時間後のハミルトンうつ病評価尺度(HDRS-21)の21項目が評価された。

 その結果、亜酸化窒素の平均吸入時間は55.6±2.5(SD)分、吸気濃度の中央値は44%(37%~45%)であった。2名の患者が亜酸化窒素が即時に中止されており、3名の患者が治験を中止された。亜酸化窒素群では、プラセボと比較して、吸入後2時間と24時間の時点で抑うつ症状は有意に改善していた(HDRS-21の差:2時間後では-4.8点、 24時間後では-5.5点)。その内訳は、亜酸化窒素の吸入に4名(20%)の患者が反応し(HDRS-21は50%低下)、3名(15%)の患者では完全寛解(HDRS-21は7点未満)に至った(反応のオッズ比は4.0、寛解のオッズ比は3.0)。なお、重篤な有害事象は発生しなかった。有害事象は、全て短時間でかつ軽度から中程度のものであった。今回の試験にて、亜酸化窒素は、治療抵抗性うつ病に対して迅速で著明な抗うつ作用を有することが実証された

N2O-7

(本文)

 治療抵抗性うつ病(Treatment-resistant depression、TRD)は大うつ病性障害の重症型である。TRDの患者は、複数の抗うつ薬を使用しても治療が失敗し、長期予後は不良である。大うつ病(米国の成人の推定有病数は1000万人)患者の1/3がTRDである。そして、TRDの治療選択肢は非常に限定されている。

 亜酸化窒素がTRDへの治療となり得るような強力な生物学的な根拠がある。亜酸化窒素は中枢神経系に様々な形で作用することが知られているが、亜酸化窒素の主な標的は、ケタミンのようにNメチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体であり、NMDA受容体に対して非競合的阻害剤として作用する。

 NMDA受容体シグナル伝達は、中枢神経系の情報処理システムにおいて鍵となるような構成成分であり、うつ病に関与している。
 
 大うつ病の病態生理学におけるNMDA受容体シグナル伝達の関連性と一致して、ケタミン(一般的な、解離性麻酔薬)のようNMDA受容体アンタゴニストは、TRDに対して、麻酔域下用量で急速かつ持続的な抗うつ効果を有することが示されている。
 
 我々は、作用機序が似ていることから、亜酸化窒素も、TRDへの即効性への抗うつ効果を有し得るだろうという仮説を立てた。この臨床試験では、TRDに対する抗うつ効果が即時(2時間)に出現し持続(24時間)するかどうかを評価した。

実験方法と対象
Methods AND MATERIALS

研究デザイン
Study Design and Oversight

 (詳細は省略)。20名の治療抵抗性うつ病(TRD)患者への亜酸化窒素の抗うつ効果を、無作為化、プラセボ対照クロスオーバーパイロット臨床試験として設計された。なおこの試験は臨床試験として登録された(NCT02139540)。

患者
Patients

 (詳細は省略)。年齢は18~65歳。DSM-IV-TRの大うつ病性障害の基準を満たす。21項目のハミルトンうつ病評価尺度(HDRS-21)は18点より超過している。TRDに関する4つの診断基準を満たす。現在のうつ病エピソードでは少なくとも2種の抗うつ薬による治療に失敗している。なお、双極性障害、統合失調症、統合失調性感情障害、強迫性障害、パニック障害、薬物乱用、薬物依存、ニコチン使用障害を有さない。重篤なな肺疾患などの内科的疾患はない。現時点で自殺企図や精神病がない。試験の前にNMDA受容体拮抗薬(例えば、ケタミン)の投与は受けていない。電気ショック療法の継続的な治療は受けていない。女性患者では妊娠や授乳をそていない。亜酸化窒素の使用が禁忌となる条件を有さない(例えば、気胸、中耳閉塞、頭蓋内圧亢進、慢性コバラミン・葉酸・ビタミンB欠乏症)。

治療
Treatment

 患者は、1時間、50%亜酸化窒素+50%酸素(積極的治療群active treatment)、または、50%窒素+50%酸素(プラセーボ群)のいずれかを受けた。吸気する亜酸化窒素濃度が50%まで達するように最初の10分間で調節した。このパイロット試験では、歯科や産科の鎮痛や鎮静にて既に何十年も使用されており、優れた安全性と有効性が保証されているため、50%の亜酸化窒素濃度が選択された。さらに、治療効果とプラセーボとの間の変動を制限するためにプラセーボと等しい酸素濃度(50%)を維持することにした。
 
 ガスの混合物は、麻酔装置から接続管を介して標準麻酔用のフェイスマスクを使い投与された。吸入ガス・呼気ガス濃度を測定するためサンプルコネクターラインをフェイスマスクに挿入した。総ガス流量は4~8 L /分であった。患者は、麻酔科医によって、心電図、パルスオキシメトリー、血圧、呼気終末二酸化炭素がモニターされた。患者は1時間の笑気ガスの処置を受けた後、リカバリー領域に移動し、さらに2時間モニターされた。

転帰
Outcomes

 転帰を6回評価した(1つのセッションごとに3回測定し、2セッション)。すなわち、1つのセッションは、ベースライン時(笑気ガス処置前)、処置後の2時間、処置後24時間。さらに1週間後の転帰を評価し、2回目の処置時のベースラインでの評価の一部として利用した。試験中の主な評価項目は、笑気ガス処置の24時間後のHDRS-21の変化である。なお、2次エンドポイントには、抑う つ症状の自己報告スケール(QIDS-SR)のクイックインベントリーの変化が含まれている。
 
 亜酸化窒素による急性陶酔作用(acute euphoric effects)は24時間の時点では確実に消退するために、24時間後に気分の評価を行うように選択した(亜酸化窒素の陶酔作用は、典型的には亜酸化窒素の投与中止後すぐに消退するが)。
 
 自殺や精神病の出現(幻覚、妄想、解体した思考)の危険性がないかを慎重な臨床観察によって評価し、精神面に関するエンドポイントを決定した。その他の安全性のエンドポイントは、中枢神経系有害事象の有無、心血管系、呼吸器系、血行動態、呼吸監視によって決定した。亜酸化窒素によって誘発されるビタミンB12の不活性化の程度を笑気ガス処置前後の血漿総ホモシステインの測定によって同定した。

統計分析
Statistical Analysis

 (詳細は省略)。主要評価項目であるHDRS-21の点数を、制限された最尤推定を用いた反復測定混合効果線形モデル(repeated-measures mixed effects linear model using restricted maximum likelihood estimation)を用いて分析した。さらに、笑気ガスへの反応と寛解率を比較するために正確二項検定(Exact binomial test)を用いて比較した。

結果
Results

患者
Patients

 2012年11月~2014年2月の間に、TRDの24名の患者を登録した。3名の患者が除外され、21名の患者を無作為に研究グループに割り当てた(補足図S1)。1名の患者が、最初のセッションの後に離脱し、フォローアップ評価を完了した20名の患者を評価した。今回の全ての結果は、この20名の評価から成されている。
 
 患者は、大うつ病性障害として平均19年の罹病期間を有していた。そして、抗うつ薬治療に失敗した年月は中央値8年という期間を有していた(表1)。登録時のHDRS-21スコアの中央値は23.5(22.3~25.0)であり、QIDS-SRの中央値は、重度のうつ病という指標を満たす19(15.3~20.8)であった。

亜酸化窒素による処置
Treatment

 15名の患者が亜酸化窒素による60分間の吸入を完了した。2名の患者で亜酸化窒素による処置が5分間で中断され、他にも3名の患者で中止された(55分、28分、18分の時点で中止。中止の理由は、気分不良、逆流、閉所恐怖症、吐き気、嘔吐である[表2])。亜酸化窒素による処置時間は55.6±2.5(SD)分であり、平均吸気亜酸化窒素濃度は44%(37%~45%)であった。

研究転帰
Study Outcomes

 患者は酸化窒素の処置を受けた後、プラセーボと比較して、2時間後と24時間後の時点でうつ症状の著明な改善を示した。HDRS-21スコアは、2時間後で-4.8ポイント(-1.8~-7.8ポイント)、24時間後の時点での-5.5ポイント(-2.5~、-8.5)であった(プラセボは2時間後は-2.3ポイント、 24時間後では-2.8ポイントであった。図1。下図)。 

N2O-8
 
 図2(下図)は、抑うつ気分、罪悪感、自殺念慮、精神的な不安といった症状が最大の変化を示したHDRS-21の個々の症状の反応を提示している。QIDS-SRスケールは、プラセーボと比較して、亜酸化窒素処置後24時間の時点でベースラインから有意に減少した(-3.2点、-1.3~-5.0、補足1図S2)。

N2O-9

 24時間後の時点では、プラセーボ処置を受けた1名の患者(5%)と比較して、4名の患者(20%)は亜酸化窒素処置に反応した(HDRS-21の抑うつ症状が50%減少した時に反応があったと定義する。ORは4.0、図3A)。さらに、3名の患者(15%)では、亜酸化窒素処理後にて完全寛解に至った(HDRS-21が7点以下になった時に完全寛解と定義する)。プラセーボでは誰も完全寛解には至らなかった(ORは3.0、図3B)。

N2O-10

 HDRS-21スケールの得点から、正常、軽度、中等度、重度、非常重度といったように、うつ病の重症度を5段階に分割した場合、亜酸化窒素処置の24時間後の時点で、20名の患者(35%)うちの7名は、プラセーボ処置を受けた2名の患者と比較して、少なくとも2レベル以上の改善を認めた(すなわち、重度→軽度といったように。表3)。 なお、補足1表S1は QIDS-SRでの反応を示したものである。

1回目の処置セッションのみの分析
First Treatment Session-Only Analysis

 この試験では、患者が第2回目のセッションの時に、1週間後に抑うつ症状がベースラインに戻ってしまっていることが予想された(=笑気ガスの抗うつ効果が持続せずに消失していることが予想された)。しかし、数名患者は、1週間の間隔の後にも低いHDRS-21のスコアのままであり、著明なキャリーオーバー効果を認めた(=笑気ガスの効果は持続する)。図4に、1回目のセッションにおける亜酸化窒素(10名)とプラセーボ(10名)との間のHDRS-21の得点における有意な差を示す。

N2O-11
 
 我々は、このキャリーオーバー効果に関して、第1回目のセッションを分析した(並行群デザインによる亜酸化窒素群とプラセーボ群との比較した)。この分析は、1週間後の成果が含まれ、第2回目の処置セッションのベースライン評価を表すものである。

 第1回目の亜酸化窒素処置群(n=10)は、プラセーボ群と比較して、2時間、24時間、1週間の時点における抑うつ症状は有意な改善を有していた(HDRS-21の平均減少点は、2時間では-7.1点、24時間では-8.6点、1週間では-5.5点、図5)。

N2O-12

安全性
Safety

重篤な有害事象は発生しなかった。全ての有害事象は一時的なものであった(表2)。血漿総ホモシステインの増加は、亜酸化窒素処置やプラセーボ処置後には観察されず、亜酸化窒素に依存するビタミンB12の代謝性の不活性化はの最小のレベルであった(補足1図S3)

議論
Discussion

 この実証試験によって、亜酸化窒素は、治療抵抗性うつ病(TRD)に対して急速な抗うつ作用を有することが示された。これらの抗うつ効果は、少なくとも24時間、一部の患者では1週間維持した。TRDの20%が亜酸化窒素に反応し、15%が寛解に至った。一部の患者では、亜酸化窒素による一時的な中断や中止が必要となる有害事象(吐き気、不安、嘔吐)を経験したが、軽度から中等度の性質のものであり、即時に回復しており、TRDに対する亜酸化窒素のリスク/ベネフィット比に関しては許容可能な範囲にあると言える。

 我々のクロスオーバー試験の妥当性は、キャリーオーバー効果が観察され、キャリーオーバー効果の影響を受けている(すなわち、2回目の処置セッションでは、異なるベースラインを有していた)。我々の研究では、第2回目の処置セッションでは、いくつかの患者では著しく低いうつ病スコアになっていた。キャリーオーバー効果バイアスは、典型的には帰無仮説に向かう結果となる(すなわち、観察可能なエフェクトサイズが小さくなる)。
 
 第1回目の亜酸化窒素処置を受けた10名の患者では、フルコホートの5.5点と比較して、抑うつ症状はHDRS-21で平均して8.6点減少した。この観察結果は、亜酸化窒素は真の抗うつ効果を有するという考えを支持している。この試験の妥当性に影響を与えた第2の効果はプラセーボ効果の存在であった。プラセーボ効果は、抗うつ薬の治験では共通しており、マスキングや治療効果が誇張されることでバイアスが生じる。

 このようなフェーズII臨床試験では、小さいグループにおける効果を検出するように設計されており、有効性に関しては確実で決定的な測定値を提供することができない。今回結果は、大きなコホートで再現される必要があるため、今回のパイロット試験の結果は慎重に解釈されるべきである。

 この試験における抗うつ効果の結果は有望と思えるが、いくつかの制限事項が考慮されるべきである。

 第一に、我々の研究チームは、盲検化を維持する上で大きな配慮を払ったが、亜酸化窒素による陶酔効果をマスクすることは困難であるという点である。亜酸化窒素は、鎮静を誘導し、少しだけ甘い香りと味を有する。これは、一部の患者では、自分が亜酸化窒素かプラセーボか、どちらを受けたのかを判断できた可能性がある。我々は、自分の割り当てを知っていたかどうかを判断するためのテストはしていない。これがまず我々の結論を制限する。
 
 私たちは、急性の陶酔効果を最小化するための主要な対策として吸入24時間後のマークを選択した。しかし、亜酸化窒素の吸入は、抑うつ症状の「マスキング」を誘導している可能性が残っていることになる。すなわち、抑うつ症状は実際に変化しなかったが、むしろ他の効果によって隠蔽(マスク)された可能性がある。「マスキング」症状は、真の抗うつ効果ではなく、一過性の気分の変化であり、例えば、精神刺激薬(メチルフェニデートやコカイン)でも急速に促進されて作用することが観察されている。

 第二に、我々は、臨床的に各時点での幸福感と精神病の存在に関する評価をしたものの、それらに対する標準化されたテストを実施していない。なお、今回の患者群では、2時間と24時間の時点での陶酔感は報告されなかった。
 
 第三に、HDRS-21とQIDS-SRスケールは双方ともに、急速に生じる抗うつ作用を評価する上では制限がある。なぜならば、双方のスケールが、睡眠や体重に関連した質問が含まれ、数時間ではなく数日から数週間の経過とともに生じる変化を評価するためのスケールであるため、迅速な抗うつ作用を測定する上では理想的なものではない。International Positive and Negative Affect Schedule Short Formやvisual analog scaleといった異なるスケールの方が今回の試験では優れているかもしれない。
 
 第四に、我々は、TRDへの亜酸化窒素の使用についての予備知識がなかったため、亜酸化窒素の吸気濃度を一般歯科や産科での鎮痛で使用される50%という投与量を使用したことである。今後の研究では、異なる投薬レジメンにて、有効性や耐性を改善することができるかもしれない。

 大うつ病性障害で最も一般的に研究されいるNMDA受容体拮抗薬であるケタミンと同様に、亜酸化窒素も2時間以内という迅速な抗うつ作用の発現があったが、ケタミンで見られるような妄想、錯覚、幻覚といった精神的な副作用は有しない思われ、亜酸化窒素の薬物動態の方がケタミンよりも好ましい可能性がある。
 
 ケタミンと亜酸化窒素の双方がTRD対して抗うつ効果があるということは、NMDA受容体シグナル伝達が大うつ病性障害の神経生物学において重要な役割を果たしているという概念を支持している。

 しかし、最近のデータでは、急速な抗うつ効果を発揮する上でニコチン性アセチルコリン受容体を含む他の神経伝達物質受容体システムも重要な役割を担っていることが示されている。

 ある種のNMDA受容体拮抗薬(ケタミン、亜酸化窒素)は急速な抗うつ効果を有するが、メマンチンなどの他のNMDA受容体拮抗薬は有さない理由を推測することができる。この違いにはNMDA受容体チャネルのブロック仕方が関係しているように思える。なぜならば、ケタミンとメマンチンの違いは、極端な脱分極や病理学的な受容体の活性化(これは虚血でシミュレートされた)という条件の下で観察されるからである。
 
 細胞外のマグネシウムが、NMDA受容体へのケタミンとメマンチンの作用を異なるものにしているのであろう。メマンチンは、マグネシウムの存在下ではNMDA受容体が媒介するシナプス電流に対して効果がなくなるようである。
 この後者の効果は、脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生を促進する上での2つの薬物の能力の違いに関与するように思われる。

N2O-15
 
 投与や薬物動態の違いもまた、ケタミンとメマンチンの間で観察される臨床効果の差異に寄与することができる。亜酸化窒素は、ケタミンと同様に非競合的NMDA受容体アンタゴニストであるが、ケタミンとは異なり、亜酸化窒素は依存性がなく、トラッピングオープンチャネルブロッカーではない。亜酸化窒素は、NMDA受容体機能を調節する臨床的な代替方法となることを提示している。

(注; ただし、ケタミンのNMDA受容体に対する作用メカニズムはよく調べられているが、N2Oに関してはまだよく解明されていない。少なくともNMDA受容体のイオンチャネルをブロックするタイプのアンタゴニストであるということは判明しているものの、NMDA受容体に対する詳しい作用メカニズムはよく分かっていない。ケタミンとほぼ同じような作用メカニズムなのであろうか。)
 50%濃度の亜酸化窒素/酸素の単回投与は、一般的に安全であることが見出されているが(亜酸化窒素で鎮静を受けた25828名の患者のうち4%に重篤ではない有害事象が報告されている)、2つの潜在的な安全上の懸念が存在する。

 1つ目は、我々の患者の一部では、通常は1時間の治療セッションの終わり近くに成されるのだが、亜酸化窒素の投与が中断または中止されなければならなかったという有害事象のプロファイルがあり、それは、一部の患者では、感情的な不快感を経験し、逆説的に不安のレベルが増加し、、亜酸化窒素の投与中の吐き気を生じる可能性があることを示している。ほぼすべての副作用は、ガスの吸入中に限定しており、中止後にすぐに消失したが、その性質からは、おそらく、より短い吸入時間、または、より低い亜酸化窒素濃度の方が有利であり得ることを示唆している。

 第二の潜在的な安全性の懸念は、亜酸化窒素によるビタミンB12の不活性化に関連する事象である。
 
 単一の曝露は、臨床的に関連するような血液学的または神経学的な合併症に結びつく可能性は低いが、亜酸化窒素の投与が短期間内に繰り返されると、そのような合併症のリスクが実質的に高まる。
 
 芽球性貧血や脊髄症などの血液学的な神経学的な合併症が、慢性的に亜酸化窒素を乱用しているケースや葉酸代謝が慢性的に障害されている患者で報告されている。

N2O-16

 持続的な抗うつ効果のために亜酸化窒素を数回投与しなければならない場合には、このような合併症のリスクを増加させる可能性があろう。亜酸化窒素は、乱用されうる薬物であり、その乱用の可能性は、大うつ病性障害における臨床的有用性の上では制限される可能性がある。なお、今回の我々のパイロット研究では、この安全性の問題に対処するような設計は成されてはいなかった。

 結論として、この予備的な実証的な臨床試験は、亜酸化窒素がTRDの患者への迅速かつ著明な抗うつ効果を有し得るという最初の証拠を提供するものだと言える。多様なTRDの患者への亜酸化窒素の最適な使用戦略やリスク/ベネフィット比を決定するためにさらなる研究が必要である。
 
(論文終わり)

 笑気ガスは国内の一般の歯科の開業医でも使用されている。想像するに、この論文は偶然にも歯科治療で笑気ガスが使用されたところ、難治だったうつ病も改善した人がいて、それをヒントに臨床試験が行われたのかもしれない。もし、この論文が事実であれば、笑気ガスの吸入は外来レベルで実施可能な方法であり、精神科病院だけでなく、精神科クリニックのレベルでも実施可能なうつ病への治療方法となろう。将来は、うつ病の患者さんは精神科外来に受診して笑気ガスを吸入するようになるのであろうか。うつ病治療としての亜酸化窒素。今後の進展が非常に期待される。

N2O-17
 
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(ここでお知らせがあります。今勤務している病院の体制が大きく変わり、3月からかなり忙しくなるためブログを一時中断したいと思っています。ひと段落したらいずれ再開する予定ではいますが、いつになることやら・・・・、汗;)
 
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