古くから存在するが新しく発見された第3の向精神薬 亜酸化窒素(N2O)


N2O-1

 一昨度の8月に、ニトロプルシッド・ナトリウムが統合失調症の症状を劇的に改善させたという論文を紹介したのだが、その薬理作用は一酸化窒素(NO)を介したNMDA受容体システムへの作用などが想定されている。酸化窒素系化合物はNMDA受容体システムに作用するのである。
 (関連ブログ 2013年8月24日 ニトロプルシッド・ナトリウムの統合失調症への効果)

(JAMAの一酸化窒素の精神疾患への効果に関する社説)
(統合失調症へのニトロプルシッド・ナトリウムの効果に関して新たに2014年に発表された論文)
(NOが統合失調症患者のワーキングメモリーを改善するのではないかという治験)

 今回は再び酸化窒素系化合物に関する新しい論文が出されたので紹介したい。それは亜酸化窒素、いわゆる笑気ガスである。笑気ガスもまた麻酔薬として古くから使用されていたものであるが(笑気ガスは、1799年に既に使用されており、1900年頃には麻酔薬として確立されていた非常に古くからある薬物である)、その笑気ガスが治療抵抗性うつ病に劇的な効果を発揮したというのである。しかも、ニトロプルシッド・ナトリウムの場合と同様に速効性があり、ニトロプルシッド・ナトリウムでは統合失調症であったが、笑気ガスでは難治だったうつ症状がすぐに改善したらしい。もし、これが事実であれば、すばらしい大発見である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%9C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%AA%92%E7%B4%A0 
http://publicdomainreview.org/2014/08/06/o-excellent-air-bag-humphry-davy-and-nitrous-oxide/
http://www.shroomery.org/forums/showflat.php/Number/13669068

N2O-2

 この論文には注目すべきである。一酸化窒素(NO)や亜酸化窒素(N2O)といった酸化窒素系化合物が第3の向精神薬になる可能性があるからである。
 
 酸化窒素系化合物によって精神科薬物療法が大きく変わる可能性があると言えよう。

 私は、最近、難治性になってしまった高齢化した統合失調症の患者さんで狭心症の治療薬であるニトロダームTTS(この薬も皮膚から吸収されて生体内でNOとなる)が劇的に効いたとしか考えられないようなケースを経験した。
 
 その統合失調症の患者さんは、大学時代という20歳台前半で発症し、60歳を過ぎたケースだが、ここ10年は、良くなったり悪くなったりを繰り返しており、そのため長期入院を続けていた。開放病棟と閉鎖病棟とを行ったり来たりを繰り返し、今回再び精神症状が悪化したため、閉鎖病棟に転棟となったのである。
 
 悪化を繰り返すたびに抗精神病薬は増えていき、抗精神病薬のCP換算値は1500を超えてしまっていた(恥ずかしいことに2000近い値)。今回も1年間程は全く普通に過ごせていたのだが(病識はないままだったが)、しかし開放病棟に移動するとチェックが甘くなるため、ある時期からは隠れて拒薬(吐薬)していたようである。こうなると非常に危険である。抗精神病薬の中止時ドーパミンD2受容体パラドックスが生じてしまう。この患者さんも、そのせいで再び激しい幻覚妄想状態になってしまったものと思われた(せっかく良くなっても、拒薬や吐薬を繰り返すために、増悪と改善を繰り返し、閉鎖病棟と開放病棟を行ったり来たりしていたのである。)。
 
 この患者さんは、こうなると全く疎通が取れなくなる。意味不明を独語をし続け、急に大声を出して興奮し始めるようなことを毎日繰り返し、幻覚妄想の世界に入り込んだままとなり、完全に拒薬、拒食となる。
 
 こうなった場合には電気ショック療法が試みられるのであろうが、当院では電気ショック療法は実施していないため、ジプレキサの筋注や、セレネースの点滴静注などが試されることになる。しかし、今回はなぜか全く反応しない。ジプレキサの筋注やセレネースの点滴静注では鎮静はかかり興奮は抑えらるものの、幻覚妄想状態は全くの不変である(CP換算値が強烈だっただけに、抗精神病薬の急激な中断によって、強烈なドーパミン受容体過感受性精神病が生じたのであろう)。一日中意味不明な独語をし続け、拒薬し続け、食事も一切摂らないし、飲水もしない。仕方なく持続点滴で管理することになった。
 
 しかし、その後も同じような状態が続き、いよいよ方法がなくなり、点滴にてセレネースを10mg~15mg/日(CP換算値で500~750)を投与して様子を見るしかできなくなった(20mgにしてみても全く同じなので、興奮が出なければいいため10mg~15mgで維持した。しかし、試しにセレネースを5mg/日にしてみると、それでは鎮静効果が不十分なのか、興奮する時が多くなるため、セレネースの減薬も中止もできないような状態が続いた)。
 
 やむを得ずセレネースの10mg~15mg/日の点滴でしばらくの間様子を見ていたのだが、2週目を過ぎた頃からとうとう錐体外路症状が出始めたのである(振戦、筋固縮など)。こうなると嚥下にも影響が出て、経口で食べていなくても、喀痰排出困難となり、肺炎を起し易くなる。これはまずい。セレネースを中止するか量を下げるか、または、抗パーキンソン剤のアキネトンを使用せねばならない。しかし、アキネトンは普通は筋注である。特殊な場合は点滴でも使用できるが、点滴での使用は安全性は保証されていない。もし、点滴で使用して病態に変化が起きたら医療事故扱いとなるため、そのような使用は避けねばならない。前回も同じような状況となり、アキネトンの筋注を繰り返しているうちに筋肉の炎症が起きてしまったため、今回はそのような事態は何とか避けたいと思った。

 仕方がないので、セレネースは5mg/日まで減薬して、減薬した代わりにデポ剤のリスパダールコンスタ50mgを使用し、セレネースは中止していく方向で検討した。セレネース5mg/日+コンスタ50mg/2週間に変更したが、興奮はそれで何とか抑えられることが分かった。しかし、重度の幻覚妄想状態は不変なままである。一日中独語をし続け、別の世界に行ったままであり、疎通は殆ど取れない状態であった(食事や内服を勧めても、ごくたまに、「要らん!!」と激怒して怒鳴る程度。あとは、話しかけても話しかけを無視して、意味不明な独語をし続けるといった病状)。
 
 しかし、悪いことは重なるものである。その時に、高血圧が元々あり、降圧剤の内服も中断されていたため、再び、血圧が160を超えるようになってきたのである(上昇した時は180~200までいく)。これまではセレネースが1日に10mg以上は入っていたため、何とか重度の高血圧になることは抑えられていたのだが、錐体外路症状のためセレネースを減薬したことで、高血圧が悪化してしまったのである。これで高血圧の方も何とかせねばならなくなってしまった。
 
 ところが、低レベルの場末のP科病院の当院には、点滴で投与するような降圧薬は置いていないのである。アポプロンしかない。200を超えるような高血圧時にはアポプロンの筋注をするしかないのである。しかし、毎日筋注をする訳にはいかない。アキネトンの筋注と同じで筋肉の炎症が起きてしまう。そこで、循環器系の内科医に相談することにしたのである。

 だが、この内科医はやる気のない医師であった。とにかく、いつもやる気がないのである。

 重度の高血圧の患者さんがいるのですが、拒薬や拒食があるため点滴で対応する何か良い方法はないでしょうかといった風に分かり易くコンサルトしたつもりだったのだが、しかし、そんなの私は知らないわよといった感じの返事が返ってきた。私は点滴で投与する降圧薬の注射製剤を臨時採用してくれないかと暗に打診したつもりだったのだが、あっさり無視されてしまったのである。きっと、そのようなことは面倒くさいのだろう。紙切れを1枚書けば済むにも係らず、注射製剤型の降圧剤の臨時採用申請書を薬局に提出しようとする気配はその内科医には一向になかった(悲しいことに、精神科医の私が申請しても、内科医から内科用の薬剤を申請してくれないと薬局長はなかなか承認してくれないよのね)。まあ、恥ずかしいことに当院には持続注入ポンプもないし、注射製剤型の降圧剤を使用するのであれば、そいった医療器具も一緒に購入せねばならないのだが、とにかく、この内科医師はいつも頑張って治療しようという熱意が全く伝わってこないのである。

 ふん、そんなの経鼻チューブから降圧剤を入れたらそれでいいんじゃないのといった感じの対応であった。
 
 この患者さんは、前回の悪化時も、前々回の悪化時も、経鼻チューブを使用して与薬や栄養管理をしていたのだが、経鼻チューブが挿入されたせいであろうか、誤嚥性肺炎を何度も併発し大変だったため、私は経鼻チューブからの与薬はできるだけ避けたいと思っていたのである。しかし、その内科医は肺炎になったってそんなのどうでもいいでしょう。私には関係ないわよといった感じであった。
 
 あかんなあ、この循環器系の内科医は。いつもやる気がないわ。ちょっとでもデータが悪くなると、この病院ではもう診れないと大騒ぎして、すぐに転院させようとするし。自分が使う内科用の医療器具も揃えようとしないし。人工呼吸器や持続注入ポンプを揃えずに、いったいどうやって重度の循環器や呼吸器疾患への対応をしようというのか。常勤で循環器系の内科医がいるのに、なぜ人工呼吸器や持続注入ポンプが未だにこの病院には1台もないのだ。おそらく、もし、そのような医療機器を揃えれば重度の場合でも自分が診なきゃいけなくなるので、あえて何も内科用の器具を揃えないままにしているのであろう。とにかく自分の仕事を増やしたくないのが見え見えである(悲しいことに、精神科医が申請しても、内科医が要らないと言うと、そういった医療器具はドケチの経営者は購入してくれないんだよね)。
 
 経営者は、これからは身体合併症のある患者もどんどん引き受けると言って内科医を雇ったはずなのだが、このような内科医を雇っても病棟の内科機能が全く充実しないので意味がないのであった。おまけに、NSTでも、いつも変な食事指導のコメントがカルテに書いてある。その上、常勤医のくせに私的な用事で病院を休んでばかりいるし、早退ばかりしている(早くこの病院を辞めてくれないかな。もっと別のやる気のある内科医が来てくれないかな。なんで経営者はこんな内科医を雇ったのだ。まあ、内科医の方にしてみれば、やる気がないからこそ精神科病院に来たのだろうけど。汗;)。
 
 さらに、悪いことは重なるのである。その患者には腹部大動脈瘤があることが判明したのである。サイズからすれば手術の適応レベル。しかし、本人は疎通も取れないし、親族は既に全員死亡しており家族による手術の同意すら取れない。しかも、この病態では転院したとしても手術は到底不可能である。おまけに、こんな精神状態では術後管理もできない。しかし、その循環器の内科医はいつものように、既に手術の適応のサイズなんだから、外科に転院させて手術させたらいいんじゃないのといった冷たい感じの対応であった。
 
 (こんな病態では、どこの病院も引き受けてくれる訳がないだろうに。この野郎、分かっているくせに、そんなこと言うなよ。まったく。)

N2O-5
 
 仕方がないので、もう一人の内科医に相談することにした。こちらの方は消化器系の内科医である。循環器系の内科医とは異なり、非常に真面目で熱心な内科医である。責任感も強く、やる気も十分な内科医であった。病棟での評判もすこぶる良い。
 
 あの・・・、(当院には循環内科のドクターが既にいるのですが)循環器のことで相談してもよろしいでしょうか。
 
 はい、いいですよ。あ、そういうことですか。それでは、とりあえず、ニトロダームTTSを使ってみたらどうですか。血管が拡張するはずですし、少しは血圧は下がるかもしれません(アドバイスいつも有難うございます)。
 
 そこで、その真面目な消化器系の内科医のアドバイスに従い、ニトロダームTTSを貼ることにしたのである。

 すると、なんと!!、ニトロダームTTSを貼った翌日から急に疎通が改善し会話ができるようになったのである。食事を食べると返事をようになったのである。今まで全く知らん顔で独語をし続けていたのだが、問いかけにきちんと返事をするようになったのである。ニトロダームTTSにて血圧も少し下がって危険な水準からは脱したのだが、血圧よりも何よりも、精神症状の方が劇的に改善したのである。

N2O-4
 
 これは奇跡だ。いったい何が起こったのだ。抗精神病薬の使用状況は、リスパダールコンスタの2回目の筋注をした2日後の状況である。コンスタがようやく効いてきたとも考えられなくもないが、こんな急激な変化はコンスタではあり得ない。これは、間違いなくニトロダームTTSの効果だろう。きっと、ニトロダームからの一酸化窒素(NO)が効いたのだ。あのニトロプルシッドナトリウムの論文は本当だったのだ。精神疾患にはNOが劇的に効果を発揮することがあり得るのだ。

 通常では、心疾患に使用するニトロダームTTSにて統合失調症の症状が改善するなんて絶対にあり得ないだろうと思うのは当然である。このケースでは、未だにリスパダールコンスタが効いたのだと他の医師や病棟のスタッフからは思われているのだが、私には経過からして、ニトロダームTTSの方が効いたとしか思えないのであった。

 ちなみに、他のドクターからは、じゃあ本当にそう思うんだったら他の患者さんにもニトロダームTTSを試してみたらいいじゃないですかと冷やかされている。確かに、NOに関しては、全く逆に作用する可能性もあり(統合失調症の症状を悪化させる)、他の統合失調症の患者さんに安易に試すことはできないのではあった(狭心症が合併しているケースには試そうと思っているが)。
http://www.schizophrenia.com/sznews/archives/005764.html
 
 その後は、その患者さんはぐんぐんと良くなっていき、ニトロダームTTSを開始してからは2週間後には幻覚妄想や独語は完全に消失した。食事も食べ始め、拒薬もなくなり、降圧剤の内服もするようになり、今では、抗精神病薬は2週間に1回のコンスタの筋注のみで維持できている。さらに、金銭も自己管理して、普通に外出して買い物をして帰ってきている(とにかく、ニトロダームを貼り始めてから2週間で寛解状態となったのである)。
 
 あれだけCP換算値が高かったのが、今ではリスパダール4mg/日相当で維持できるようになっている。精神状態が悪くなる前はCP換算値で言えばリスパダールを15mg~20mg/日をも内服していたことになるんだけどね。これはまさに奇跡に近い出来事であった。
 
 その後、腹部大動脈瘤の手術をしますかと本人に聞いたのではあるが、手術?、そんなのしなくていいですとあっさり拒否されてしまった。ニトロダームTTSは今でも毎日貼っている。本当にニトロダームTTSが効いたのかを確認するために、コンスタを中止してみてニトロダームTTSだけにしてどうなるかを試そうかなとも思っているのではあるが、コンスタの方の効果かもしれないと思うと未だに決心はできていないのであった(汗;)。

(こういったことは誰も信じてくれないのは間違いないし、誤った解釈をしている可能性も高いため、論文にはできないのですが、同じような経験をするドクターや患者さんがいないとも限らないので、何らかの参考になればと思いブログで書くことにしました。) 
 
 ということで、今日はNOではなく、N2Oの話です。
 
治療抵抗性大うつ病への亜酸化窒素:概念実証的トライアル
「Nitrous Oxide for Treatment-Resistant Major Depression: A Proof-of-Concept Trial」

(抄録)

 ケタミンなどのNメチル-D-アスパラギン酸受容体(MNDA受容体)拮抗薬は治療抵抗性うつ病(TRD)に対して即効的な抗うつ作用を有する。そこで、我々は、亜酸化窒素(nitrous oxide、一酸化二窒素、、笑気ガス、N2O)、この物質は吸入全身麻酔薬だがNメチル-D-アスパラギン酸受容体アンタゴニストでもあるが、N2Oが治療抵抗性うつ病に対して即効性を有する治療になり得るかもしれないと仮定した。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%9C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%AA%92%E7%B4%A0
http://en.wikipedia.org/wiki/NMDA_receptor_antagonist

 この盲検プラセボ対照クロスオーバー試験では、20名のTRD患者に対して、50%亜酸化窒素/ 50%酸素、または、50%窒素/ 50%の酸素(プラセーボ、対照)が無作為に割り当てられ、1時間吸入した。そして、24時間後のハミルトンうつ病評価尺度(HDRS-21)の21項目が評価された。

 その結果、亜酸化窒素の平均吸入時間は55.6±2.5(SD)分、吸気濃度の中央値は44%(37%~45%)であった。2名の患者が亜酸化窒素が即時に中止されており、3名の患者が治験を中止された。亜酸化窒素群では、プラセボと比較して、吸入後2時間と24時間の時点で抑うつ症状は有意に改善していた(HDRS-21の差:2時間後では-4.8点、 24時間後では-5.5点)。その内訳は、亜酸化窒素の吸入に4名(20%)の患者が反応し(HDRS-21は50%低下)、3名(15%)の患者では完全寛解(HDRS-21は7点未満)に至った(反応のオッズ比は4.0、寛解のオッズ比は3.0)。なお、重篤な有害事象は発生しなかった。有害事象は、全て短時間でかつ軽度から中程度のものであった。今回の試験にて、亜酸化窒素は、治療抵抗性うつ病に対して迅速で著明な抗うつ作用を有することが実証された

N2O-7

(本文)

 治療抵抗性うつ病(Treatment-resistant depression、TRD)は大うつ病性障害の重症型である。TRDの患者は、複数の抗うつ薬を使用しても治療が失敗し、長期予後は不良である。大うつ病(米国の成人の推定有病数は1000万人)患者の1/3がTRDである。そして、TRDの治療選択肢は非常に限定されている。

 亜酸化窒素がTRDへの治療となり得るような強力な生物学的な根拠がある。亜酸化窒素は中枢神経系に様々な形で作用することが知られているが、亜酸化窒素の主な標的は、ケタミンのようにNメチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体であり、NMDA受容体に対して非競合的阻害剤として作用する。

 NMDA受容体シグナル伝達は、中枢神経系の情報処理システムにおいて鍵となるような構成成分であり、うつ病に関与している。
 
 大うつ病の病態生理学におけるNMDA受容体シグナル伝達の関連性と一致して、ケタミン(一般的な、解離性麻酔薬)のようNMDA受容体アンタゴニストは、TRDに対して、麻酔域下用量で急速かつ持続的な抗うつ効果を有することが示されている。
 
 我々は、作用機序が似ていることから、亜酸化窒素も、TRDへの即効性への抗うつ効果を有し得るだろうという仮説を立てた。この臨床試験では、TRDに対する抗うつ効果が即時(2時間)に出現し持続(24時間)するかどうかを評価した。

実験方法と対象
Methods AND MATERIALS

研究デザイン
Study Design and Oversight

 (詳細は省略)。20名の治療抵抗性うつ病(TRD)患者への亜酸化窒素の抗うつ効果を、無作為化、プラセボ対照クロスオーバーパイロット臨床試験として設計された。なおこの試験は臨床試験として登録された(NCT02139540)。

患者
Patients

 (詳細は省略)。年齢は18~65歳。DSM-IV-TRの大うつ病性障害の基準を満たす。21項目のハミルトンうつ病評価尺度(HDRS-21)は18点より超過している。TRDに関する4つの診断基準を満たす。現在のうつ病エピソードでは少なくとも2種の抗うつ薬による治療に失敗している。なお、双極性障害、統合失調症、統合失調性感情障害、強迫性障害、パニック障害、薬物乱用、薬物依存、ニコチン使用障害を有さない。重篤なな肺疾患などの内科的疾患はない。現時点で自殺企図や精神病がない。試験の前にNMDA受容体拮抗薬(例えば、ケタミン)の投与は受けていない。電気ショック療法の継続的な治療は受けていない。女性患者では妊娠や授乳をそていない。亜酸化窒素の使用が禁忌となる条件を有さない(例えば、気胸、中耳閉塞、頭蓋内圧亢進、慢性コバラミン・葉酸・ビタミンB欠乏症)。

治療
Treatment

 患者は、1時間、50%亜酸化窒素+50%酸素(積極的治療群active treatment)、または、50%窒素+50%酸素(プラセーボ群)のいずれかを受けた。吸気する亜酸化窒素濃度が50%まで達するように最初の10分間で調節した。このパイロット試験では、歯科や産科の鎮痛や鎮静にて既に何十年も使用されており、優れた安全性と有効性が保証されているため、50%の亜酸化窒素濃度が選択された。さらに、治療効果とプラセーボとの間の変動を制限するためにプラセーボと等しい酸素濃度(50%)を維持することにした。
 
 ガスの混合物は、麻酔装置から接続管を介して標準麻酔用のフェイスマスクを使い投与された。吸入ガス・呼気ガス濃度を測定するためサンプルコネクターラインをフェイスマスクに挿入した。総ガス流量は4~8 L /分であった。患者は、麻酔科医によって、心電図、パルスオキシメトリー、血圧、呼気終末二酸化炭素がモニターされた。患者は1時間の笑気ガスの処置を受けた後、リカバリー領域に移動し、さらに2時間モニターされた。

転帰
Outcomes

 転帰を6回評価した(1つのセッションごとに3回測定し、2セッション)。すなわち、1つのセッションは、ベースライン時(笑気ガス処置前)、処置後の2時間、処置後24時間。さらに1週間後の転帰を評価し、2回目の処置時のベースラインでの評価の一部として利用した。試験中の主な評価項目は、笑気ガス処置の24時間後のHDRS-21の変化である。なお、2次エンドポイントには、抑う つ症状の自己報告スケール(QIDS-SR)のクイックインベントリーの変化が含まれている。
 
 亜酸化窒素による急性陶酔作用(acute euphoric effects)は24時間の時点では確実に消退するために、24時間後に気分の評価を行うように選択した(亜酸化窒素の陶酔作用は、典型的には亜酸化窒素の投与中止後すぐに消退するが)。
 
 自殺や精神病の出現(幻覚、妄想、解体した思考)の危険性がないかを慎重な臨床観察によって評価し、精神面に関するエンドポイントを決定した。その他の安全性のエンドポイントは、中枢神経系有害事象の有無、心血管系、呼吸器系、血行動態、呼吸監視によって決定した。亜酸化窒素によって誘発されるビタミンB12の不活性化の程度を笑気ガス処置前後の血漿総ホモシステインの測定によって同定した。

統計分析
Statistical Analysis

 (詳細は省略)。主要評価項目であるHDRS-21の点数を、制限された最尤推定を用いた反復測定混合効果線形モデル(repeated-measures mixed effects linear model using restricted maximum likelihood estimation)を用いて分析した。さらに、笑気ガスへの反応と寛解率を比較するために正確二項検定(Exact binomial test)を用いて比較した。

結果
Results

患者
Patients

 2012年11月~2014年2月の間に、TRDの24名の患者を登録した。3名の患者が除外され、21名の患者を無作為に研究グループに割り当てた(補足図S1)。1名の患者が、最初のセッションの後に離脱し、フォローアップ評価を完了した20名の患者を評価した。今回の全ての結果は、この20名の評価から成されている。
 
 患者は、大うつ病性障害として平均19年の罹病期間を有していた。そして、抗うつ薬治療に失敗した年月は中央値8年という期間を有していた(表1)。登録時のHDRS-21スコアの中央値は23.5(22.3~25.0)であり、QIDS-SRの中央値は、重度のうつ病という指標を満たす19(15.3~20.8)であった。

亜酸化窒素による処置
Treatment

 15名の患者が亜酸化窒素による60分間の吸入を完了した。2名の患者で亜酸化窒素による処置が5分間で中断され、他にも3名の患者で中止された(55分、28分、18分の時点で中止。中止の理由は、気分不良、逆流、閉所恐怖症、吐き気、嘔吐である[表2])。亜酸化窒素による処置時間は55.6±2.5(SD)分であり、平均吸気亜酸化窒素濃度は44%(37%~45%)であった。

研究転帰
Study Outcomes

 患者は酸化窒素の処置を受けた後、プラセーボと比較して、2時間後と24時間後の時点でうつ症状の著明な改善を示した。HDRS-21スコアは、2時間後で-4.8ポイント(-1.8~-7.8ポイント)、24時間後の時点での-5.5ポイント(-2.5~、-8.5)であった(プラセボは2時間後は-2.3ポイント、 24時間後では-2.8ポイントであった。図1。下図)。 

N2O-8
 
 図2(下図)は、抑うつ気分、罪悪感、自殺念慮、精神的な不安といった症状が最大の変化を示したHDRS-21の個々の症状の反応を提示している。QIDS-SRスケールは、プラセーボと比較して、亜酸化窒素処置後24時間の時点でベースラインから有意に減少した(-3.2点、-1.3~-5.0、補足1図S2)。

N2O-9

 24時間後の時点では、プラセーボ処置を受けた1名の患者(5%)と比較して、4名の患者(20%)は亜酸化窒素処置に反応した(HDRS-21の抑うつ症状が50%減少した時に反応があったと定義する。ORは4.0、図3A)。さらに、3名の患者(15%)では、亜酸化窒素処理後にて完全寛解に至った(HDRS-21が7点以下になった時に完全寛解と定義する)。プラセーボでは誰も完全寛解には至らなかった(ORは3.0、図3B)。

N2O-10

 HDRS-21スケールの得点から、正常、軽度、中等度、重度、非常重度といったように、うつ病の重症度を5段階に分割した場合、亜酸化窒素処置の24時間後の時点で、20名の患者(35%)うちの7名は、プラセーボ処置を受けた2名の患者と比較して、少なくとも2レベル以上の改善を認めた(すなわち、重度→軽度といったように。表3)。 なお、補足1表S1は QIDS-SRでの反応を示したものである。

1回目の処置セッションのみの分析
First Treatment Session-Only Analysis

 この試験では、患者が第2回目のセッションの時に、1週間後に抑うつ症状がベースラインに戻ってしまっていることが予想された(=笑気ガスの抗うつ効果が持続せずに消失していることが予想された)。しかし、数名患者は、1週間の間隔の後にも低いHDRS-21のスコアのままであり、著明なキャリーオーバー効果を認めた(=笑気ガスの効果は持続する)。図4に、1回目のセッションにおける亜酸化窒素(10名)とプラセーボ(10名)との間のHDRS-21の得点における有意な差を示す。

N2O-11
 
 我々は、このキャリーオーバー効果に関して、第1回目のセッションを分析した(並行群デザインによる亜酸化窒素群とプラセーボ群との比較した)。この分析は、1週間後の成果が含まれ、第2回目の処置セッションのベースライン評価を表すものである。

 第1回目の亜酸化窒素処置群(n=10)は、プラセーボ群と比較して、2時間、24時間、1週間の時点における抑うつ症状は有意な改善を有していた(HDRS-21の平均減少点は、2時間では-7.1点、24時間では-8.6点、1週間では-5.5点、図5)。

N2O-12

安全性
Safety

重篤な有害事象は発生しなかった。全ての有害事象は一時的なものであった(表2)。血漿総ホモシステインの増加は、亜酸化窒素処置やプラセーボ処置後には観察されず、亜酸化窒素に依存するビタミンB12の代謝性の不活性化はの最小のレベルであった(補足1図S3)

議論
Discussion

 この実証試験によって、亜酸化窒素は、治療抵抗性うつ病(TRD)に対して急速な抗うつ作用を有することが示された。これらの抗うつ効果は、少なくとも24時間、一部の患者では1週間維持した。TRDの20%が亜酸化窒素に反応し、15%が寛解に至った。一部の患者では、亜酸化窒素による一時的な中断や中止が必要となる有害事象(吐き気、不安、嘔吐)を経験したが、軽度から中等度の性質のものであり、即時に回復しており、TRDに対する亜酸化窒素のリスク/ベネフィット比に関しては許容可能な範囲にあると言える。

 我々のクロスオーバー試験の妥当性は、キャリーオーバー効果が観察され、キャリーオーバー効果の影響を受けている(すなわち、2回目の処置セッションでは、異なるベースラインを有していた)。我々の研究では、第2回目の処置セッションでは、いくつかの患者では著しく低いうつ病スコアになっていた。キャリーオーバー効果バイアスは、典型的には帰無仮説に向かう結果となる(すなわち、観察可能なエフェクトサイズが小さくなる)。
 
 第1回目の亜酸化窒素処置を受けた10名の患者では、フルコホートの5.5点と比較して、抑うつ症状はHDRS-21で平均して8.6点減少した。この観察結果は、亜酸化窒素は真の抗うつ効果を有するという考えを支持している。この試験の妥当性に影響を与えた第2の効果はプラセーボ効果の存在であった。プラセーボ効果は、抗うつ薬の治験では共通しており、マスキングや治療効果が誇張されることでバイアスが生じる。

 このようなフェーズII臨床試験では、小さいグループにおける効果を検出するように設計されており、有効性に関しては確実で決定的な測定値を提供することができない。今回結果は、大きなコホートで再現される必要があるため、今回のパイロット試験の結果は慎重に解釈されるべきである。

 この試験における抗うつ効果の結果は有望と思えるが、いくつかの制限事項が考慮されるべきである。

 第一に、我々の研究チームは、盲検化を維持する上で大きな配慮を払ったが、亜酸化窒素による陶酔効果をマスクすることは困難であるという点である。亜酸化窒素は、鎮静を誘導し、少しだけ甘い香りと味を有する。これは、一部の患者では、自分が亜酸化窒素かプラセーボか、どちらを受けたのかを判断できた可能性がある。我々は、自分の割り当てを知っていたかどうかを判断するためのテストはしていない。これがまず我々の結論を制限する。
 
 私たちは、急性の陶酔効果を最小化するための主要な対策として吸入24時間後のマークを選択した。しかし、亜酸化窒素の吸入は、抑うつ症状の「マスキング」を誘導している可能性が残っていることになる。すなわち、抑うつ症状は実際に変化しなかったが、むしろ他の効果によって隠蔽(マスク)された可能性がある。「マスキング」症状は、真の抗うつ効果ではなく、一過性の気分の変化であり、例えば、精神刺激薬(メチルフェニデートやコカイン)でも急速に促進されて作用することが観察されている。

 第二に、我々は、臨床的に各時点での幸福感と精神病の存在に関する評価をしたものの、それらに対する標準化されたテストを実施していない。なお、今回の患者群では、2時間と24時間の時点での陶酔感は報告されなかった。
 
 第三に、HDRS-21とQIDS-SRスケールは双方ともに、急速に生じる抗うつ作用を評価する上では制限がある。なぜならば、双方のスケールが、睡眠や体重に関連した質問が含まれ、数時間ではなく数日から数週間の経過とともに生じる変化を評価するためのスケールであるため、迅速な抗うつ作用を測定する上では理想的なものではない。International Positive and Negative Affect Schedule Short Formやvisual analog scaleといった異なるスケールの方が今回の試験では優れているかもしれない。
 
 第四に、我々は、TRDへの亜酸化窒素の使用についての予備知識がなかったため、亜酸化窒素の吸気濃度を一般歯科や産科での鎮痛で使用される50%という投与量を使用したことである。今後の研究では、異なる投薬レジメンにて、有効性や耐性を改善することができるかもしれない。

 大うつ病性障害で最も一般的に研究されいるNMDA受容体拮抗薬であるケタミンと同様に、亜酸化窒素も2時間以内という迅速な抗うつ作用の発現があったが、ケタミンで見られるような妄想、錯覚、幻覚といった精神的な副作用は有しない思われ、亜酸化窒素の薬物動態の方がケタミンよりも好ましい可能性がある。
 
 ケタミンと亜酸化窒素の双方がTRD対して抗うつ効果があるということは、NMDA受容体シグナル伝達が大うつ病性障害の神経生物学において重要な役割を果たしているという概念を支持している。

 しかし、最近のデータでは、急速な抗うつ効果を発揮する上でニコチン性アセチルコリン受容体を含む他の神経伝達物質受容体システムも重要な役割を担っていることが示されている。

 ある種のNMDA受容体拮抗薬(ケタミン、亜酸化窒素)は急速な抗うつ効果を有するが、メマンチンなどの他のNMDA受容体拮抗薬は有さない理由を推測することができる。この違いにはNMDA受容体チャネルのブロック仕方が関係しているように思える。なぜならば、ケタミンとメマンチンの違いは、極端な脱分極や病理学的な受容体の活性化(これは虚血でシミュレートされた)という条件の下で観察されるからである。
 
 細胞外のマグネシウムが、NMDA受容体へのケタミンとメマンチンの作用を異なるものにしているのであろう。メマンチンは、マグネシウムの存在下ではNMDA受容体が媒介するシナプス電流に対して効果がなくなるようである。
 この後者の効果は、脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生を促進する上での2つの薬物の能力の違いに関与するように思われる。

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 投与や薬物動態の違いもまた、ケタミンとメマンチンの間で観察される臨床効果の差異に寄与することができる。亜酸化窒素は、ケタミンと同様に非競合的NMDA受容体アンタゴニストであるが、ケタミンとは異なり、亜酸化窒素は依存性がなく、トラッピングオープンチャネルブロッカーではない。亜酸化窒素は、NMDA受容体機能を調節する臨床的な代替方法となることを提示している。

(注; ただし、ケタミンのNMDA受容体に対する作用メカニズムはよく調べられているが、N2Oに関してはまだよく解明されていない。少なくともNMDA受容体のイオンチャネルをブロックするタイプのアンタゴニストであるということは判明しているものの、NMDA受容体に対する詳しい作用メカニズムはよく分かっていない。ケタミンとほぼ同じような作用メカニズムなのであろうか。)
 50%濃度の亜酸化窒素/酸素の単回投与は、一般的に安全であることが見出されているが(亜酸化窒素で鎮静を受けた25828名の患者のうち4%に重篤ではない有害事象が報告されている)、2つの潜在的な安全上の懸念が存在する。

 1つ目は、我々の患者の一部では、通常は1時間の治療セッションの終わり近くに成されるのだが、亜酸化窒素の投与が中断または中止されなければならなかったという有害事象のプロファイルがあり、それは、一部の患者では、感情的な不快感を経験し、逆説的に不安のレベルが増加し、、亜酸化窒素の投与中の吐き気を生じる可能性があることを示している。ほぼすべての副作用は、ガスの吸入中に限定しており、中止後にすぐに消失したが、その性質からは、おそらく、より短い吸入時間、または、より低い亜酸化窒素濃度の方が有利であり得ることを示唆している。

 第二の潜在的な安全性の懸念は、亜酸化窒素によるビタミンB12の不活性化に関連する事象である。
 
 単一の曝露は、臨床的に関連するような血液学的または神経学的な合併症に結びつく可能性は低いが、亜酸化窒素の投与が短期間内に繰り返されると、そのような合併症のリスクが実質的に高まる。
 
 芽球性貧血や脊髄症などの血液学的な神経学的な合併症が、慢性的に亜酸化窒素を乱用しているケースや葉酸代謝が慢性的に障害されている患者で報告されている。

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 持続的な抗うつ効果のために亜酸化窒素を数回投与しなければならない場合には、このような合併症のリスクを増加させる可能性があろう。亜酸化窒素は、乱用されうる薬物であり、その乱用の可能性は、大うつ病性障害における臨床的有用性の上では制限される可能性がある。なお、今回の我々のパイロット研究では、この安全性の問題に対処するような設計は成されてはいなかった。

 結論として、この予備的な実証的な臨床試験は、亜酸化窒素がTRDの患者への迅速かつ著明な抗うつ効果を有し得るという最初の証拠を提供するものだと言える。多様なTRDの患者への亜酸化窒素の最適な使用戦略やリスク/ベネフィット比を決定するためにさらなる研究が必要である。
 
(論文終わり)

 笑気ガスは国内の一般の歯科の開業医でも使用されている。想像するに、この論文は偶然にも歯科治療で笑気ガスが使用されたところ、難治だったうつ病も改善した人がいて、それをヒントに臨床試験が行われたのかもしれない。もし、この論文が事実であれば、笑気ガスの吸入は外来レベルで実施可能な方法であり、精神科病院だけでなく、精神科クリニックのレベルでも実施可能なうつ病への治療方法となろう。将来は、うつ病の患者さんは精神科外来に受診して笑気ガスを吸入するようになるのであろうか。うつ病治療としての亜酸化窒素。今後の進展が非常に期待される。

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(ここでお知らせがあります。今勤務している病院の体制が大きく変わり、3月からかなり忙しくなるためブログを一時中断したいと思っています。ひと段落したらいずれ再開する予定ではいますが、いつになることやら・・・・、汗;)
 

青少年への向精神薬の使用は慎重であらねばならない 青少年への向精神薬の処方の実態とその有害作用 その3 各論 抗うつ薬(SSRI)


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 (前回の続きである)
 
 児童への向精神薬の過剰処方に関しては、抗精神病薬やADHD薬だけが懸念されるのではない。抗うつ薬に関しても過剰処方されており、その抗うつ薬は青少年では危険なことが分かってきているのである。
 
 これは大人の臨床場面でよく遭遇するような問題でもあり、正しく認識しておく必要があろう。

 抗うつ薬の青少年への使用に関して最も注意しておかねばならないことは、躁転という問題である。青少年では、抗うつ薬によって大人の場合よりも躁転を誘発しやすいという報告がなされているのである。この躁転という問題は青少年では十分に注意しておかねばならない有害事象であろう。

 もし、その躁転を躁うつ病(双極性障害)が発症したものだと誤診されてしまえば、一生涯にわたって躁うつ病だというレッテルが貼られてしまい、人生が大きく変わってしまうことになりかねないのである(特に、DSM-5を使用して診断されると、双極性障害だと100%診断されてしまうことになる)。
 
 しかも、まだ、よく分かっていないことは、躁状態になったことが、本当に双極性障害を発病した状態となっており、もはや後戻りできなくなってしまっているのか、それとも、抗うつ薬を中止すれば、元の状態に戻り、問題がなくなるのか、はたしてどちらなのだろうかということである。それを判断する方法が現時点ではないのである(MRI検査で白質のFA値を調べれば、ある程度は推測できるのかはしれないが、低レベルな場末のP科病院では到底不可能なことである)。
 
 統合失調症では、脳のグルタミン酸レベルが、ある一定域(閾値)を超えてしまうと、統合失調症として発病してしまうというモデルが想定されている。
 
 このモデルがセロトニンにも当てはまるのであれば、これほど怖いことはない。シナプス間隙のセロトニンがある一定域(閾値)を超えると、双極性障害を発病してしまうことも全くあり得ないとは言えないからである。

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 こういったことが実際に起こり得るのであれば、抗うつ薬を飲んだせいで、双極性障害を発病してしまったとも言えるのである(あくまで仮定の話だが)。しかも、そういった有害事象が大人よりも青少年で圧倒的に起こり易くなっていることが既に分かっているのである。

 この躁転に関しては、大人のうつ病の治療においても度々遭遇する問題であり、大人での事象も踏まえて理解しておいた方が良いであろう。

 まず、成人のケースも含めた抗うつ薬による躁転全般に関する総説を紹介する。

抗うつ薬によるうつから躁への気分の「スイッチ」
“Switching” of Mood From Depression to Mania With Antidepressants

 双極性障害は、しばしば、1つ以上の大うつ病エピソードを最初のエピソードの時に提示し、躁病や軽躁のエピソードが、気分を上昇させる効果を有する抗うつ薬、興奮剤、他の薬剤によって行われる最初の時の治療中に発生する可能性がある(初発のうつ病だと思って抗うつ薬で治療を開始したら、途中で躁・軽躁状態になることが多々ある)。躁への気分の「スイッチング」や、混合状態や精神病への移行は危険である。この切り替えは、抑うつ、不安、注意障害に対して抗うつ薬や刺激剤によって治療されている少年や若年成人の間で特に多く発生する。気分や行動の病理学的なシフトは、薬物による有害事象、あるいは、双極性障害(まだ双極性障害とは診断されていないだけ)の症状を表すもののどちらかであろう。

 DSM-5以前の版では薬剤によって誘発された反応と考えられていたが、DSM-5では、現在、抗うつ薬治療中の気分の高揚は、双極性障害という診断を正当化するものであると考えている。現代のように精神薬理学が発展する以前では、再発性単極性うつ病と、「躁とうつ」を様々な程度で示す双極性障害とを区別することはさほど重要ではなかったかもしれない。しかし、現在では、鑑別診断が、予後や治療を決める上で大きな臨床的意義を有しており、特に、いつから、どのくらいの期間まで抗うつ薬や気分安定剤を使用すべきなのかということも含まれてくるからであろう。

 我々は最近、抗うつ薬に関連した気分のスイッチと、単極型うつ病から双極性障害への診断変更(治療とは関係ない自発的な気分の高揚によって診断の変更が成されたもの)に関するこれまでの研究を体系的にレビューした。さらに我々は、以前に、双極性障害または単極性うつ病の患者における自発的な気分のスイッチと、抗うつ薬に関連した気分のスイッチの発生率を評価した。

 その調査では51の関連する研究報告を特定したが、この中には抗うつ薬で治療されていた躁や軽躁の既往のない大うつ病患者が約10万人含まれている。抗うつ薬治療に関連した気分のスイッチは、2.4年の治療期間の間に8.2%に発生しており、1年間での発生率は3.4%であった。気分スイッチの累積リスクは、抗うつ薬治療の24ヶ月までは増加する傾向があった。さらに、スイッチング率は大人よりも少年では4.3倍も大きかった。他の調査結果では、三環系抗うつ薬の方が最も新しい抗うつ薬よりも高いリスクを示しているものの、スイッチングするリスクは、1968~2012年の観察期間の中では同じような傾向にあった(=三環系もSSRIも同様なスイッチ率である)。

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 一方、我々は、自発的な躁や軽躁が発生したことで双極性障害という診断への変更が必要になった単極型の大うつ病患者に関する12の研究を検討した。このような抗うつ薬が関与しないケースでの診断の変更は、5.4年間に3.3%に発生していた。この数字は、抗うつ薬による気分のスイッチ率に比べれば5.6倍も小さい数字である。もし、新しく双極性障害だと診断される率が低い原因が過小報告によるものではない場合には、抗うつ薬に関連した気分スイッチング率との大きな差は、抗うつ薬による直接的な薬理学的な影響が気分の上昇や気分の切り替えに関与している可能性があり、抗うつ薬は双極性障害だったと「暴く」だけでなく「原因」にもなり得るという仮説を立てることができる。特に懸念されることは、これらの可能性が曖昧なままであることは、抗躁病薬や気分安定薬による長期的な治療の価値も不明確なままになってしまうことである(抗うつ薬に関連した躁転に抗躁病薬や気分安定薬を長期間使用することは意味があるのであろうか。発病ならば意味はあろうが、反応ならば意味はない)。
 
 我々の調査結果は、気分のスイッチは一般的な事象であり珍しいことではないことを示している。気分のスイッチは抗うつ薬による治療を受けている単極型の大うつ病患者の約6%~8%に発生する。スイッチングは大人よりも青少年ではるかに多いのだが、スイッチングは双極性障害を有する大人にばかりで認識されおり、少年だったケースでは除外されてしまっている恐れがある。特に興味深い発見は、抗うつ薬に関連するスイッチングが、双極性障害で報告された自発的な躁転による診断の変化よりもはるかに多いことであった。この所見からは、抗うつ薬に関連した反応の診断、予後、治療については疑問が提起される。

 抗うつ薬で治療中に躁になるうつ病患者は、双極性障害の他の特性を有する可能性が提示されており、抗うつ薬が今後も試されることが考慮されている場合は、厳密にモニターされなければならないという慎重さが要求される。抗うつ薬によって気分のスイッチングが1回発生したたけでDSM-5のように双極性障害だと診断することは支持しかねるのだが、ましてや、気分安定化を目的とした治療を無期限に継続することを支持する根拠は十分なものではない。実際、気分安定化剤は気分のスイッチングに対して保護的に作用すると広く想定されてはいるが、気分安定化剤が抗うつ薬に関連した気分のスイッチングに対して強く保護的に作用するということは未だに証明されていない。さらに、長期間の抗うつ薬治療が双極性うつ病の再発に対して十分に保護的に作用するというエビデンスは非常に限られており、情緒不安定性やラピッドサイクリング(病相の急速交代)を引き起こしてしまう可能性がある。

 我々の調査結果は、うつ病と新たに診断された患者に抗うつ薬治療を開始する際には注意する必要があることを強調している。次のような臨床的因子が、うつ病患者における薬物誘発性スイッチングや自発躁病様反応のリスクの増加を示唆している。すなわち、双極性障害や精神病の家族歴を有する、25歳前の発症、数年間にうつ病の複数回の再発、特定の気質的な特徴を有する(循環気質cyclothymic、発揚気質hyperthymic、易刺激性irritable)、産後精神病の既往、過眠症や食欲増加を伴う精神運動制止型のうつ病、気分上昇薬による過度の賦活の既往、現時点で焦燥と不機嫌さ有する特徴、物質使用障害の併存、三環系抗うつ薬(TCA)やベンラファキシンによる治療である。
(循環気質や発揚気質について)

 双極性障害の患者におけるうつから躁へのスイッチングは、躁病相の前にうつ病相が先立つという経過をたどるという臨床的な意味合があるが(うつ病相の前に躁病相があることに対して)、それは気分安定薬に好ましい反応をしていなかったことに関連している。この経過パターンは、将来のうつ病エピソードの過剰を予測するものであり、さらに薬物乱用、機能障害、自殺による死亡の多さ、後の他の内科的な疾患のリスクを伴うものである。

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(論文終わり)

 青少年では大人に比べて抗うつ薬による躁転が4倍以上もあり、かつ、薬物とは無関係な自然な経過における躁転と比べたら、はるかに高いというこの数字は、抗うつ薬によって青少年の双極性障害が医原性に作り出されていると言っていい程の数字かもしれない。
 
 しかし、これらのことは日本の医学界では無視されており、国からは未だに何の注意喚起もなされていないのが現状である。精神科医であれば、こういった有害事象があることを周知しているのであろうが(周知していない精神科医もいるが)、怖いのは小児科や内科などの精神科以外の他科の医師による青少年への抗うつ薬の処方である。

 こういった懸念は他の論文でも提示されている。
 
若年者のうつ病や不安障害に対する抗うつ薬治療による過度の気分の高揚と行動の活性化:系統的レビュー
Excessive mood elevation and behavioral activation with antidepressant treatment of juvenile depressive and anxiety disorders: a systematic review.

 抗うつ薬で治療さらている特定の疾患を有する小児や青年における過度の覚醒-活性化(excessive arousal-activation)の有病率や特性やその意味合いに関しては系統的に検討されていない。そこで我々は、抗うつ薬の臨床試験(n=6767名)における精神病理学的な気分の高揚や行動の賦活化に対してコンセンサスを得ている少年のうつ病(n=17)と不安障害(n=25)の報告を比較した。

 その結果、抗うつ薬の治療中に「過度の覚醒-活性化」を示した率は、少年では、不安障害(13.8%)やうつ病(9.79%)では非常に高く、プラセーボでは非常に低いものであった(5.22%、1.10%)。そういった反応のペア比較では、抗うつ薬/プラセボのリスク比は、3.50(12.9%/3.69%)であり、メタ解析でプールされた率では1.7であった。「躁または軽躁」の全体的な率は、抗うつ薬ありの場合が8.19%であり、抗うつ薬なしの場合では0.17%であり、薬剤/プラセボリスク比は、うつ病(10.4 %/0.45%)、不安障害(1.98%/0.00%)患者の間では大きい数字であった。

 抗うつ薬治療中の過度の気分上昇(躁-軽躁を含む)のリスクは、若年者の不安障害やうつ病性障害ではプラセーボよりもはるかに大きく、双方の疾患とも類似していた。うつ病性障害同様に不安障害への抗うつ薬の治療は、小児や青年に過度の覚醒-活性化を生じさせ、双極性障害になる潜在的な危険性を高めてしまうため、特別な注意やモニターリングが必要となる。

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(論文終わり)

 上の論文では、少年時代は単なる不安障害だったはずが、抗うつ薬によって知らない間に双極性障害に変化してしまう危険性があるとも言えよう。さらに、過度の覚醒-活性化が激しければ統合失調症などの精神病と診断されてしまうかもしれない。そうなると、その少年の一生が変わってしまうことになる。抗うつ薬が処方されたことによって。これは、非常に怖いことである。
 
 さらに、同様な報告は他の研究者からも成されている。

抗うつ薬は、うつ病や不安を有する子供や青少年の行動症状のリスクを高める
Antidepressants increase risk of behavioural symptoms in children and adolescents with depression or anxiety.

 質問: 気分障害や不安障害の小児や青年における抗うつ薬の使用は過度の感情的な覚醒(excessive emotional arousal)や行動活性化(behavioural activation)の症状と関連しているのか?

 結論: 躁-軽躁に加えて過度の感情的な覚醒や行動活性化という症状が観察された(ただし、スケールと方法の詳細はまだ提供できる段階ではない)。

 研究デザイン:メタ分析と系統的レビュー。

 データソース: 2012年3月に、MEDLINE、PsycINFO、CINAHL、PubMed、コクラン・ライブラリ、Web of Scienceを検索して参考文献リストを補完した

 分析: うつ病や不安障害と診断されたケースのRCT、レトロプロスペクティブ研究、子供や青年の抗うつ薬使用のレビューやメタアナリシス(未満18歳)の中から、新たに行動症状を発症したという報告を識別した。連続した測定値は、分散解析法、ペア化したt検定、ランダムエフェクトメタ分析を用いて比較検討した。

 結果: 42の研究(n=6767)が選択基準を満たした。子供/青年のうつ病に関する17の研究(6件のRCTを含む)があり(平均年齢12.5歳、54.3%が男子)、うつ病障害を有するケースはn=2637であり、2083名が抗うつ薬、554名がプラセーボを服用していた。抗うつ薬への曝露期間は、6~40週間の範囲であった。子供/青年のうつ病で抗うつ薬の使用はプラセーボと比較して行動症状の増加と関連していた(0.86±0.82%vs16.8±14.6%)。曝露された時間を調整した場合は、1週間につき抗うつ薬が1.16%(±1.25%)、プラセーボが0.084% (±0.091%)であった。対照試験のデータのみを用いた場合では、抗うつ薬の使用は、プラセーボ比較して行動症状の発生率は3倍であった (3.95%vs1.08%)。さらに、抗うつ薬は躁・軽躁を増加させることが観察された(抗うつ薬10.4%vsプラセーボ0.45%)。
 
 一方、子供/青年の不安障害に関しては25の研究(16RCTを含む)があり(平均年齢12歳、57.5%が男子)、不安障害を有するn=4130のうち、3211名が抗うつ薬を、919名がプラセーボを服用していた。抗うつ薬への平均暴露期間は17.6週(8~104週)であった。不安障害を有する小児/青年では、プラセボと比較して、抗うつ薬は行動症状の増加と関連していた(抗うつ薬22.6±20.3%、プラセーボ7.23±7.45%)。曝露された時間を調整した場合は、1週間につき抗うつ薬が2.10%(±2.22%)、プラセーボが0.714% (±00.820%)であった。さらに、抗うつ薬は躁・軽躁を増加させることが観察された(抗うつ薬1.98%vsプラセーボ0.00%)。
 
 抗うつ薬を使用しているメタアナリシス(19の比較試験)からも、抗うつ薬は、プラセボと比較して行動症状のリスクを増加させたことを明らかにした(RR 1.66)。うつ病と不安障害を分離したメタ解析でも、行動症状のリスクを増加させることが見出された(うつ病ではRR 3.61、不安障害ではRR 1.49)。
 
 結論: うつ病や不安障害を有する子供や青年抗うつ薬の使用は、過度の感情的な覚醒行動の活性化躁・軽躁のリスクを増大させる。

(medscapeによる解説)
 この研究は、うつ病や不安障害を有する青少年への抗うつ薬のトライアル試験で「活性化」や「躁・軽躁」の危険性を検討したものである。「活性化」には、不眠覚醒易刺激性怒りが含まれている。うつ病や不安障害における抗うつ薬とプラセーボを比較した時の「活性化」の割合は、うつ病では3.95%vs1.08% 不安障害では11.7%vs5.22%であり、平均発症期間は5週間であった。躁・軽躁に関しては、それぞれ10.4%vs0.45%、1.98%vs0%であった。著者らが認めたこの研究の弱点は、標準の欠如、結果の信頼性が含まれてはいる。未発表のデータや抗うつ薬、刺激剤、抗うつ薬と気分安定化剤との併用といったデータを解析しているため、この結果には異質性やバイアスが存在する可能性はある。

 しかし、この研究は、うつや不安を有する青少年における、薬理学的に誘発される覚醒・活性化の有病率や発症までの予想時間を推定する上で役に立つ。さらに、躁・軽躁がうつ病の治療においてより一般的であるのに対し、焦燥(agitation)が不安の治療においてより一般的であることを示唆している。この研究を補完する別の研究者による調査では、抗うつ薬で処理されていた若者の大規模なデータベースにおける躁・軽躁のリスクでは5.4%という発生率が見出されている。さらに、双極性障害の親を持つうつ病の若者への研究では、抗うつ薬で処置された57%に、興奮性、攻撃性,多動が生じた。これらの2つの研究では若い患者ほどリスクが高いことが判明している。
 
 要約すると、これらの知見は、活性化や躁・軽躁に対して信頼できる一貫性がある測定をする必要があることを支持している。さらに、活性化や躁を予測できるバイオマーカーや薬物動態学的研究(例えば、遅れて生じてくる代謝産物を同定するなど)の必要性、躁のリスクがある若者には心理療法を選択することや、臨床的に適切な使用用量を考慮する必要性があることを意味している。

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(論文終わり)

 これらの一連の論文からは、青少年に対する抗うつ薬の使用は、大人と異なり、躁を生じさせたり、行動を変化させてしまう危険性を強く有するものだと言えよう。青少年に対して抗うつ薬を使用する場合には、躁転行動の変化に常に注意しておかねばならないであろう。

(関連ブログ 2013年10月23日 うつ病の治療に関するここ10年間のまとめ 1) 
 
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 一方、抗うつ薬によるこの行動の変化という事象は、青少年では自殺に結びついてしまうことがある。

 さすがに、この自殺という事象に関しては、我が国でも既に注意喚起が成されており、23歳以下の青少年に処方する場合は、どの精神科医でも慎重に抗うつ薬を使用し、自殺念慮が生じないかをモニターしているものと思える(他の科の医師ではどうなのかは分からないが)。

 しかし、実際の臨床場面では、うつ病となり自殺企図をする青少年もおり、逆説的な結果を招くおそれはあるのだが、うつ病を治療するためには抗うつ薬を使用せねばならない時も多々あろう。
 
 問題は、そういった危険性に対して、現時点で分かってるリスクを予め正しく家族や本人に情報提供をしてから抗うつ薬を使用しているのかということである。
 
 情報提供がいつでもできるように、準備しておかねばならないことは言うまでもない。このためには、それなりに論文を読んでいないとダメである。

この青少年への抗うつ薬による自殺に関する論文をいつか紹介しておく。

ブラックボックスの外側:小児への抗うつ薬の処方を再評価する
Outside the Black Box: Re-assessing Pediatric Antidepressant Prescription

 このレビューの目的は、小児への抗うつ薬の使用がリスク/ベネフィットのプロファイルから好ましいものであるかを支持しているか、そして、ブラックボックスとしての使用を再考すべきかどうかについて評価することにある。

 このレビューでは、小児への抗うつ薬の使用が減少したため若者の自殺が上昇しているという提示をしているポストブラックボックスだと装うような研究を検証し、小児への抗うつ薬の有効性と安全性に関するエビデンスを要約し、若者へのフルオキセチンに関する最近のメタアナリシスの不規則性について議論する。

 分析した結果、小児への抗うつ薬の処方が有意に減少している訳ではなく、さらに、若者の自殺は近年増加していることが分かった。最近行われたメタ解析からは、抗うつ薬が青少年における自殺のリスクの増加と関連しているという証拠を弱体化させる結論にはならない(=未だに抗うつ薬によって若者の自殺は増加していると言える)

 青少年へ最初から抗うつ薬を処方することは勧められない。小児への抗うつ薬の使用に関してはブラックボックスであることと、国際的な警告が保証されていることを理解しておくべきである。うつになっている青少年に対しては心理社会的なオプション(心理療法)を積極的に使用することが推奨される。

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(本文の一部を追加して以下に紹介する)
小児への抗うつ薬使用に対するFDAの規制の影響と自殺傾向
Impact of FDA Regulations on Pediatric Antidepressant Use and Suicidality

 SSRIによる若者の自殺率の増加が指摘され、FDAから警告というアクションがあったため、抗うつ薬に関する警告をめぐる論争は2007年にピークに達した。しかし、警告によって小児へのSSRIの処方が大幅に減少したということは実証されていない。
 
 2004年以前の5年間で米国の若者に対する抗うつ薬の処方は急増し、最も顕著ものはSSRIであったことは十分に立証されている。予想されたことではあるが、FDAの警告の影響を評価する研究では、ブラックボックス化された以後も、予測された処方率と実際の処方率との間に著しい差が見出された。これらの調査では、処方率の有意な減少が見出せず、処方がこれ以上増加していくことに歯止めがかかっただけであった(=処方率が一定化しただけであった)。

 実際の処方率については、Gibbonsら(2007年)の調査では、IMS薬局データからランダムに選択されたサンプルを使用し、小児への処方は、2003年の処方率とのパーセンテージとして表現され、2005年では、年齢15~19歳では、約10%減少し、年齢11~14歳では14%減少し、10歳以下では20%減少していた。この研究は表ではなくグラフィカルにレートを提示しているだけであり、統計的に比較することは不可能である。
 
 これとは対照的に、実際の処方率を調べた他の全ての調査では、処方率は一定であり低下していないことを発見した。Libbyら(2007年)の調査では、FDAの勧告前後における処方率は統計的に有意な変化は認められなかった。さらに、Olfsonら(2008)は、ブラックボックス試験期間中の年齢6~17歳における抗うつ薬の使用率は有意に低下していないことを見出した。

 実際には、パロキセチンを除き、SSRIの使用は2004年までは増加し、ブラックボックス化された翌年でも抗うつ薬の新たな使用は有意に減少しなかった。同様に、Pamerら(2010年)は、2004年2月後から2006年の平均使用率は、2002年~2004年2月の期間との有意な差は認められなかったことを報告した。最後に、ChenとToh(2011年)は、1998年から2007年までの米国における外来の処方データを検討し、大うつ病性障害を有する子供への抗うつ薬の処方は、FDAの勧告後にも上昇したことを報告した。要約すると、ブラックボックス化以後に抗うつ薬の処方が有意に減少したという報告は支持されない。

 第2の根拠は、ブラックボックス化後のSSRIの処方の減少と若者の自殺(自殺率を含む)減少との間にリンクがあることである。

 適正に公表された1つの研究では、若者の自殺と処方の減少との間のリンクを位置づけたにも係らず、処方率の低下が仮定される前の2003~2004年に若者の自殺が増加したことがグラフにて描かれている。また、2003-2004年の疾病対策センター(CDC)の自殺データは、ブラックボックスによって若者の自殺が増加しているという主張と矛盾する。CDCによると、年齢6-17歳の自殺率は、2003~2004年にわずかに上昇し、その後は2007年まで減少た。

 Olfsonら(2008)の警告前の2004年までを調べた調査では、6-17歳への若者の処方率が上昇していることを見出した。ブラックボックスの期間では、全ての抗うつ薬の使用率には有意な減少はなかった。これらのデータとCDCのデータを接続すると、処方率と増加と協調するように若者の自殺が上昇しており、処方率が一定化した時に自殺率が減少したことが分かる(下図)。

 従って、小児への抗うつ薬の使用率の低下は若者の自殺の増加と相関しているという主張は実際に不正確なものである。

 2007年~2010年における利用可能なデータでは、若者の自殺(年齢6~17)は、100,000人あたり1.68から2.02というように増加傾向にある。より最近の処方レポートと一緒に分析したところ、2007~2008年では、抗うつ薬は、12~19歳の青年では第3位の最も頻繁に使用される薬剤でああった。2009~2010の1年間で、小児への抗うつ薬の処方率は、2004年以来最高レベルにまで再び増加していることが見出されている。これらのデータは、最近の若者の自殺の増加は2003年のレベルにまで再上昇したことで生じており、抗うつ薬の処方の少なさが若者を増加させるという主張を再び否定する所見である。

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(論文終わり)

 上の論文では、FDAから青少年への抗うつ薬への警告が出された後に、いったん処方率は一定となり(低下はしなかったが)、しかし、それによって自殺率はいったん低下したが、最近、再び抗うつ薬の処方率が増加し、それに伴い再び若者の自殺率が増加してきていることになる。

 さらに、中国での調査では、パロキセチン(パキシル)によって青少年における自殺が有意に増加しているという結論を出している報告が最近発表されている。

 はたして、うつ病の青少年へのSSRIを処方することは自殺を増やしてしまうのであろうか。
 
 しかし、それに異を唱える意見も当然ある。抗うつ薬は自殺を増やすことはない。むしろ、抗うつ薬を処方しない方が自殺を増やしてしまうという意見である。

FDAからの警告やメディア報道の後の若者への抗うつ薬使用の変化と自殺行動:準実験研究
Changes in antidepressant use by young people and suicidal behavior after FDA warnings and media coverage: quasi-experimental study

 若者における抗うつ薬使用と自殺の可能性リスクの増加について、米国食品医薬品局(FDA)から2003年に広く公衆に対して警告がなされたが、その警告が若者への抗うつ薬の使用率の変化や自殺企図や完遂自殺の変化と関連していたかどうかを調査した。

 米国メンタルヘルスネットワークにおける11の保健計画のデータウェアハウスによる医療請求データ(2000-2010年)を使用した。研究コホートには、青少年(110万前後)、若年成人(140万前後)、成人(500万程度)が含まれている。主なアウトカム評価抗うつ薬調剤率、向精神薬中毒(自殺企図のための妥当性があるプロキシ)、完遂自殺を測定した。

 (注; この論文では、自殺企図の評価に問題がある。服薬自殺はうつ病の自殺企図によるものではなく、ただの逃避反応かもしれないし、何を服薬したのかを調べないといけない。ODしたのは睡眠薬かもしれないし)。

 その結果、抗うつ薬の使用の低下薬物中毒の発生件数は警告後に急激に変化していた。FDAの警告の後2年目では、抗うつ薬使用の相対的変化は、青少年では-31.0%(-33.0%~-29.0%)、若年成人では-24.3%(-25.4%~-23.2%)、成人では-14.5%(-16.0%~-12.9%)と低下していた。この数字には、青少年では100 000あたり696の抗うつ薬の調剤低下、若年成人では1216の調剤低下、成人では1621の調剤低下が反映されている。しかし、同時に、青少年における向精神薬中毒の21.7%(4.9%~38.5%)の増加、若年成人では33.7%(26.9%~40.4%)の増加が認められた。なお、成人では5.2%(-16.9%~6.5%)であり、増加傾向はなかった。これの数字には、青少年では100 000あたり2の中毒の増加、若年成人では4の増加が反映されている。(我々250万のコホートの中には約77件の中毒が含まれている)。完遂自殺は、あらゆる年齢層で変化はなかった。
 
(注; 抗うつ薬の処方は減ったが、他の薬剤、例えば抗不安や睡眠剤やリタリンなどの処方が増え、それをODしているようなこともあり得よう。)

 この所見は、抗うつ薬の安全性への警告と大々的なメディア報道後に抗うつ薬の使用が減少し、同時に若年層の自殺未遂の増加があったことを意味する。

(最近出されたこの論文も同様な意見である)

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(論文終わり)

 上の論文は、結論の根拠となるデータに問題があり、適切な結論だとは言えような論文なのだが、自殺の評価や調査は難しいということはよく分かる。

 そもそも、若者の自殺について正しい調査が実施できるのかという疑問がある。この観点から、NIMHでは、抗うつ薬が若者の自殺を増やすとも、減らすとも、どちらの立場を支持することはせず、中立的な立場を取っている。ただし、抗うつ薬を処方する場合は、自殺のリスクを必ず念頭に置いて、症状の変化を厳重にモニターしておくことが重要であり(特に最初の4週間が重要である)、変化があればただちに医療機関に受診することを勧めている(NIMHの調査データでは、SSRIを内服した青少年の4%に自殺念慮や自殺企図が生じ、その率はプラセーボを内服した青少年よりも2倍の率であったと記載されている。ただし、自殺を完遂したケースはなかった)。

 なお、FDAによるSSRIによる青少年の自殺率(ただし自殺して本当に死んだ数字ではない)のデータはプラセーボとの比較でRRが1.66(1.02~2.68)である。この数字は大きいのか、小さいのか。平均して1.6倍ということになるのだが・・・・。

 しかし、当然、有意差はなく、SSRIが自殺を増やすとは言えず、ベネフィットがリスクをはるかに上回っているという報告も多数ある。
http://www.psychiatrictimes.com/special-reports/relationship-between-antidepressant-initiation-and-suicide-risk/page/0/1 
http://www.cps.ca/documents/position/use-of-SSRIs-for-child-adolescent-mental-illness

 さらに、SSRIを処方されながら自殺した青少年における調査では、自殺したケースではSSRIが服薬されていないケースが多く見られたという報告も成されている。

 だが、自殺してしまったケースに、もし、SSRIを内服していたら自殺をせずに済んでいたという証明ができる調査でもしない限り自殺予防における真のベネフィットを評価することはできない。従って、青少年の自殺を予防する上で、抗うつ薬のベネフィットを正しく評価することも困難であると言えよう。
 
 従って、NIMHのように、SSRIの自殺予防に関するベネフィット/リスクに対しては何とも言えないという結論が妥当なように思える。このあたりの決着はまだまだ着かないようである。

 しかし、実際に、精神症状や自殺や自傷行為といった問題行動を示す児童が存在し、様々な医療機関に対応が求められていることも確かなことであろう。では、児童ではどのように対応したらいいのであろうか。

 それは薬物療法ばかりに頼るのではなく、CBTや支持療法などの心理療法や行動療法をもっと活用すべきなのだということである。
 
 青少年における精神疾患では、薬物療法は心理療法を補うものであるにしか過ぎないことを理解しておくべきである。小児や青少年においては薬物療法は精神科治療の中心ではない。こういった基本的な理念が、特に、児童では大切なのではなかろうか。
 
 そういった観点からは、国は、早急に臨床心理士を正式に制度化して、精神科医療の中に、特に、児童精神医学の中に組み込んでいき、臨床心理士の積極的な参加を促していかなければならないと言えよう。
 
 なお、NIMHでは、青少年のうつ病に対しては、心理療法と抗うつ薬を組み合わせた時に一番効果が高かった(自殺念慮の消退度合も一番高かった)ことから、抗うつ薬単独での治療よりも(心理療法単独よりも効果は高かったが)、CBTなどの心理療法と抗うつ薬を組み合わせることを推奨している。自殺念慮が消退していくスピードに関しては、抗うつ薬、CBT、抗うつ薬+CBTでは特に差はなかったようだ。当然のことながら、SSRIでは急激に中止しないこともNIMHでは警告されている(SSRIの中止時症候群も青少年では大人よりも出易い可能性があろう)。しかし、ダラダラと投与を続けていてもいけない。6か月目までには中止するように漸減すべきである。以後は、心理療法によるフォローアップを受けていくべきであろう。

 一般的に言えることは、軽度(~中等度)では、心理療法(CBT、支持療法、対人関係療法、環境調整など)が、中程度~重度では抗うつ薬と心理療法(CBT)の併用が望ましいとされている。このあたりは成人のうつ病の時と同じである。なお、いじめや虐待を受けていて心理的に追い込まれているためにうつ病のようになっていないかを見逃していけないことは言うまでもない。抗うつ薬ばかりに頼ろうとするようなやり方ではいじめや虐待を受けていたことを見逃してしまい失敗することであろう。

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 さらに、NIMHでは、青少年では最初に投与されたSSRIに反応する率は60%しかなく、残りの40%はSSRI-Resistant Depression in Adolescents (TORDIA)に移行してしまうだろうという警鐘が促されている。もし、最初に投与した抗うつ薬に反応しなかった場合は、他の抗うつ薬に変更するだけではダメであり、同時に心理療法(CBT)を必ず組み合わせることが大切であると述べられている。ただし、抗うつ薬に反応したか反応しないかは、6~8週間は観察せねばならないとされている。

 今のところ言えることは、SSRIにて平均してプラセーボを内服した時よりも1.6倍くらいの危険率として自殺念慮が生じてくるが(もちろん内服していなくてもうつ病では自殺念慮が生じるのだが)、完遂に至ることは少なく、安全だとも有効だとも明確なことは何も言えない。ただし、うつ病自体を改善する効果は十分に保証されており、特に、重度のうつ病には抗うつ薬は有効である。ということになろう。

 青少年への抗うつ薬の投与は(中程度~)重度のケースに限定すべきなのである。特に、軽症のうつ病にSSRIを処方して、自殺念慮を生じさせてしまうといった帰結を招くことは、愚の骨頂であり、最低の医療行為となろう。


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 では、思春期に抗うつ薬が投与されることで、どのような生物学的な変化が脳内で生じているのであろうか。この点に関してもいくつかの論文を紹介しておく。

思春期の雄ラットにおけるフルオキセチン曝露による短期的、長期的な機能変化
Short- and Long-Term Functional Consequences of Fluoxetine Exposure During Adolescence in Male Rats

 フルオキセチン(FLX)は選択的セロトニン再取り込み阻害剤であるが、若い集団の大うつ病性障害の治療のために処方されている。この研究では、感情を誘発する刺激に対する行動反応性に関する思春期におけるFLX曝露による短期的および長期的な影響を調査した。

 思春期の雄ラット(生後日35~49P)に15日間連続して1日2回のFLX(10mg/kg)を投与した。報酬と嫌悪刺激に対する行動反応性に対するFLXの影響を、24時間(短期)あるいは3週間FLXで処置(長期)した後に評価した。一方、成体ラット(生後65-79P)の別の群をFLXで処理し、強制水泳試験での反応性を思春期のグループと同じ時間間隔で評価した。

 その結果、思春期におけるフルオキセチン曝露は、大人になってからも長期間持続するような、強制水泳ストレスへの行動反応性の減少や、ショ糖や不安惹起状況に対する感受性の亢進をもたらした。FLXによって誘発される不安様行動は、大人になってからのFLXの再曝露によって緩和された。さらに、思春期におけるフルオキセチン処置は、大人になってからの性的交尾行動を損なわせた。フルオキセチンで処置された成体ラットでは、青年期に処理されたラットで観察されたような強制水泳ストレスに対する行動反応性の変化を示さなかった。

 思春期のラットにおけるFLX投与は、環境などの刺激に対する感情機能やそれに関わる脳回路に対して長期間持続する複雑な変化をきたす。今回の知見は、思春期における向精神薬への曝露は、神経系の発達に影響を与えてしまい、その結果、大人時代にまで持続するような変化を誘導する可能性があることを示しており、さらなる調査が必要であろう。

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(論文終わり)

 上の論文は、青少年時代にSSRIに曝露されると、大人になってからうつ的となり、不安を招くような環境刺激に対して敏感となり、性行為にも支障をきたす恐れがあることを意味している。しかし、そういった変化は再びSSRIを飲むと回復するようである。このような変化が生じるのであれば、大人になってからもSSRIを手放せなくなってしまうことであろう。

 なお、SSRI依存症のような状態になることは大人でも報告されている現象である。

 さらに、下の論文では、不安や感情処理に大きく関わっている扁桃体にも持続的な影響が及ぼされてしまうことを報告している。

フルオキセチンはラットにおける行動と扁桃体の神経可塑性に対して年齢に依存した影響を生じる
Fluoxetine Exerts Age-Dependent Effects on Behavior and Amygdala Neuroplasticity in the Rat

 選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)であるProzacR(フルオキセチン)は小児や青年のうつ病を治療する上で唯一の承認されている抗うつ薬である(アメリカでの話)。SSRIの安全性は成人においては十分に確立されているが、セロトニンは発達途上の脳における神経栄養作用に関わっているため、発達途上にある青少年では有害な作用を生じうる。

 この研究では、思春期と大人のラット(生後日25~46P、67~88)にフルオキセチン(12mg/kg)で慢性処理した後に(21日間投与)、フルオキセチン(または担体のみ)の最後の注射後の7~14日目にテストをした。ただし、最後の注射時にHPLCにて血漿中のフルオキセチンはウォッシュアウトされていることを確認している。さらに、血漿のフルオキセチンレベルは、最後のフルオキセチンの注射後の5時間後に測定し、臨床的レベルを一致させた。
 
 その結果、思春期のラットでは、フルオキセチンで処置された大人のラットでは見られなかった強制水泳試験における行動上の絶望の増加を示した。さらに、大人のラットの脳波によって確認された覚醒おけるフルオキセチンの有益な効果は、思春期のラットでは認められず、音響驚愕反応やプレパルス抑制における年齢に依存した影響がが観察された。
 
 一方、思春期のラットでは、フルオキセチンの食欲抑制効果に対する抵抗力を示した。そして、オープンフィールド試験における探索行動では、フルオキセチン処理による影響を受けなかったが、思春期と大人の双方のラット伴に高架式十字迷路試験における不安レベルはフルオキセチン処置によって増加した。最終的に、扁桃体におけるPSA-NCAM(シナプスのリモデリングのマーカー)免疫反応性ニューロンの数は、思春期のラットでは増加しており、背側縫線核や前頭皮質中膜では増加していなかった。逆に、大人のラットでは、慢性フルオキセチン処置によって減少していた。5-HT1A受容体にはフルオキセチンによる免疫反応性の変化は観察されなかった。
 
 結論として、フルオキセチンは、抑うつ行動、体重、覚醒、それらに部分的に関連する扁桃体における神経可塑性に対して、年齢に依存した有害な影響と有益な効果の効果を発揮することを示している。

(論文終わり)

 どうやら、SSRIの慢性投与を受けると思春期では扁桃体の可塑性を誘導し、扁桃体の活性を高めてしまう方向に作用するようだ。もし、この変化がが永続的なものであれば、大人になってからの不安障害やうつ病の原因となろう(ただし、この論文は思春期の投与による大人時代の影響を見た研究ではない)。

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 こういった懸念は次の論文でも報告されている。

思春期におけるフルオキセチン曝露が大人になってからの嫌悪刺激の反応性を変化させる
Fluoxetine Exposure during Adolescence Alters Responses to Aversive Stimuli in Adulthood

 思春期に抗うつ薬に曝露されることで生じる永続的な神経生物学的変化のメカニズムはよく理解されていない。この研究では、思春期に選択的セロトニン再取り込み阻害剤であるフルオキセチン(FLX)に曝露されることで生じる感情誘発刺激に対する行動反応性における長期的な影響を調べた。
 
 我々は、生後日P35~P49の雄の思春期のマウスに、FLX(10 mg/kg)を15日間、毎日投与した。投与3週間後(P70)に、嫌悪刺激(すなわち、社会的敗北ストレス、強制水泳、高架プラス迷路)への反応性を評価した。さらに、思春期のマウスやラットの腹側被蓋野(VTA)内の細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)、1/2関連シグナル伝達の発現に対するFLXの効果を調べた。
 
 その結果、思春期のFLX曝露は、大人になってから、社会的相互作用や強制水泳テストによって判定できるうつ病様動作を抑制したが、成人期における高架式十字迷路における不安様応答を増強した。
 
 この複雑な行動プロファイルは、VTAにおけるERK2のmRNAの減少やERK2タンパク質のリン酸化の減少を伴っていたが、ストレス単独では反対方向の神経生物効果をもたらした。薬理学的ERK阻害剤は(U0126、すなわち、VTA内のERKをウイルス媒介性にダウンレギュレーションする作用を有する)、思春期におけるFLX処置後に観察された抗うつ様プロファイルを模倣した。逆に、FLXの曝露と関係なく、ERK2の過剰発現は、うつ病様反応を誘導した。これらの知見は、思春期におけるFLXの曝露は、大人になってからの感情誘発刺激に対する反応性を変化させ、その一部はVTAにおけるERK関連シグナル伝達の長期間持続する変化を介するものであることを提示している。
 
(論文終わり)

 この論文では、強制水泳試験の結果が異なるのだが(おそらくSSRIの投与期間の差やテストした年齢の差によるものであろうが)、思春期におけるSSRIの曝露によって大人になってから不安が強まるといった同じような結果が示されている。どうやら子供時代にSSRIに曝露されてしまうと、大人になってから不安障害を惹起させてしまう恐れがあると言えよう。

 青少年の不安障害にもSSRIがよく処方されるのだが、不安が一時的は緩和したとしても、後に、そのSSRIのせいで大人になってからの不安が増し、生涯にわたってSSRIを飲み続けなければならなくなることであろう。なんという皮肉な結末なのであろうか。

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 これまでは齧歯類での所見であったが、では、霊長類ではどうなのであろうか。思春期におけるSSRIに曝露される影響を霊長類で調べた論文があったので紹介する。

少年の猿に投与されたフルオキセチン:セロトニントランスポーターや行動に及ぼす影響
Fluoxetine Administered to Juvenile Monkeys: Effects on the Serotonin Transporter and Behavior

 この研究は、思春期におけるアカゲザルのフルオキセチンによる長期的な影響を検証した。研究では、陽電子放射断層撮影法を用いて、セロトニントランスポーター(SERT)やセロトニン1A(5-HT1A)受容体を画像化した。また、同数のアカゲザルを用いて、生後の時から母親と分離された影響(=人間の子供時代のストレスモデル)についてもSERTや5-HT1A受容体を画像化して検証した。

 出生時、32匹の雄のアカゲザルは、ランダムに母親から分離されたか、通常の飼育条件のいずれかに割り付けた。2歳の時、各群の半分(N = 8)はランダムに1年間のフルオキセチン(3mg/ kg)またはプラセーボが割り当てられた。脳内の残留薬物の影響を排除するために、サルは、少なくとも1.5年薬物が中止された後にスキャンした。社会的相互作用は、薬剤投与中および投与後の双方で評価した。

 その結果、フルオキセチンは、新皮質海馬の双方にて永続的なSERTのアップレギュレーションを引き起こしたが、5-HT1A受容体にはそういった変化は認められなかった。全脳のボクセルワイズ分析では、フルオキセチンは外側側頭葉や帯状皮質においても有意な効果を有することが明らかになった。これとは対照的に、母体からの分離では、SERTや5-HT1A受容体に対する有意な変化はなかた。また、フルオキセチンは行動測定では有意な影響を及ぼさなかった。

 少年のサルに投与されたフルオキセチンは、成年早期におけるSERTをアップレギュレートする。この研究は、患者におけるSSRIの有効性や潜在的な悪影響について調べた研究ではない。今回の目的は、ランダムにSSRIまたはプラセボを割り当てた実験的アプローチを用いて、非ヒト霊長類における脳の発達におけるSSRIの影響を調べることであった。

(論文終わり)

 この研究ではSSRIの使用量が3mg/kgであり低いようにも思われるが、どうやら、SSRIによってセロトニントランスポーターが増えたままになり、それがSSRIの内服を中止しても大人時代まで続くようである。セロトニントランスポーターが増えるということは、どのような影響を及ぼすことになるのであろうか。
 
 有利な方向に作用すれば、SSREであるチアネプチンを内服しているのと同じような状態となろう。不利な方向に作用すれば、シナプス間隙におけるセロトニンの低下という状態となろう。
 
 はたして、どうなるのであろうか。
 
(関連ブログ 2013年2月2日 SSRE)
  
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 3回にわたって、青少年への向精神薬使用による懸念事項について述べたが、まだまだ論文はたくさんあり、紹介できたのはほんのごく一部に過ぎない。
 
 このブログが青少年への向精神薬の過剰使用の防止について少しでも役に立てれば幸いである。

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青少年への向精神薬の使用は慎重であらねばならない 青少年への向精神薬の処方の実態とその有害作用 その2 各論 抗精神病薬、メチルフェニデート


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(前回の続きである)

 前回のブログでは、青少年への向精神薬が安全性の保障がないにも係らず安易に過剰に処方されている実態と、それによる脳内の永続的な変化が生じることへの懸念について述べた。
 
 この永続的な変化は、へたをすると後戻りできないような変化となり、発病と同じような状態になってしまうのである。

 今回は、各論として、児童が向精神薬に曝露されることの有害事象の生物学的な変化を具体的に報告している論文を紹介したいと思う。
 
 まず、第一に懸念されるのが、ADHDやASD児童への抗精神病薬の使用である。この抗精神病薬は多動や攻撃性や衝動性などをターゲットとして処方されているのであろうが、長期投与をしていると、皮肉にも、逆の結果を招いてしまう恐れがあるので注意せねばならない。

時間依存性にリスペリドンやアセナピンによってドーパミンD2受容体が感作されていくメカニズム(抗精神病薬のドーパミンD2受容体への影響は長期間持続する)
Time-dependence of risperidone and asenapine sensitization and associated D2 receptor mechanism

 抗精神病薬が繰り返し断続的に与えられた時に、その行動の有効性の長期的な増加があることがしばしば認められるが、それは抗精神病薬感作(antipsychotic sensitization)と呼ばれる。時間の経過と共に、抗精神病薬感作の大きさは、時間依存性感作(time-dependent sensitization、TDS)、あるいは、メモリー減衰(memory decay)の原理に基づいて、増加したり低下したりする。本研究では、条件回避反応試験を用いて、リスペリドン及びアセナピンによって誘発される時間依存性感作の特徴や、ドーパミンD2受容体に及ぼすメカニズムの可能性を検討した。

 よくトレーニングされた雄の大人のラットを、リスペリドン(1.0mg/kg)またはアセナピン(0.2mg/kg)を繰り返し投与し、5日間連続して条件回避反応についてテストした。そして、第5回目の薬物投与後の8、18、38日目に、リスペリドンやアセナピンの投与による長期的な影響を評価するために、薬物フリーの状態で全てのラットが再試験された。
 
 その結果、薬物で前処理されたラットでは、担体で前処理したラットよりも条件回避試験にて有意に低い回避を示し、その差は、時間の経過とともに増加した。
 
 さらに、第5回目の薬物治療後の10、20、40日目に、追加薬物負荷試験を行うために、ラットに低用量のリスペリドン(0.3mg/kg)またはアセナピン(0.1mg/kg)を注射した。薬剤で前処理されたラットは再びコントロールよりも有意に低い回避を示し、抗精神病薬感作効果が確認された。
 
 最後に、キンピロール(D2/D3受容体アゴニスト、1.0mg/kg、皮下注射)によって誘導される自発運動亢進試験は、リスペリドンで前処理されたラットでは、担体で前処理したラットよりも運動量は有意に高いレベルを示した。
 
 これらの知見は、リスペリドンとアセナピンによる感作が長期間持続し、TDSの原理に従い、おそらくD2受容体の感受性亢進によって媒介されることを示唆している。

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(論文終わり)

 抗精神病薬の影響は長く持続するのである。これは成人のラットでの所見であるが、当然、人間の児童でも起こり得ることであろう。しかも、児童では薬剤に対しては脆弱であり、成人よりも鋭敏にこういった感作現象が持続してしまうおそれがある。しかも、それは、ドーパミンD2受容体の感受性亢進(ドーパミン過感受性症候群)によるものである(=ドーパミンに対しても感受性が亢進する)。小児では、抗精神病薬が中止されたとしてもその影響が持続し、抗精神病薬によるD2受容体の感受性亢進という変化が持続してしまう可能性がある。これはドーパミンそのものに対しても感受性が亢進していることになり、ドーパミンの分泌が刺激されてしまうような環境刺激に過剰に反応してしまうことになろう(見かけ上、症状が悪化したと判定されてしまい、再び抗精神病薬が投与される結果になることであろう。すなわち、ドーパミン過感受性精神病である)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%8E%E6%84%9F%E5%8F%97%E6%80%A7%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%97%85 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3858317/

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 次は、思春期への抗精神病薬の投与によっても、こういった効果が大人になった時でも実際に続いていることを示した論文である。

 思春期時代の抗精神病薬の曝露によって大人ってなってからのオランザピンやクロザピンに対する反応が変化する: フェンサイクリジンによる自発運動亢進モデルにおける前臨床試験
Adult response to olanzapine or clozapine treatment is altered by adolescent antipsychotic exposure: a preclinical test in the phencyclidine hyperlocomotion model.

 この研究は、思春期に繰り返されるオランザピン(OLZ)またはクロザピン(CLZ)投与によって、成人期における同薬剤に対する感受性をどのように変化させるかをフェンサイクリジン(PCP)自発運動亢進モデルを使用して検証した。
 
 雄の思春期のラット(P44-48)を、OLZ(1.0、2.0mg/kg、皮下注射SC)またはCLZ(10.0、20.0mg/kg、SC)で処置し、次に5日間連続してPCP(3.2mg/kg、SC)誘発性自発運動亢進モデルで使いテストした。その後、OLZ(0.5mg/kg)またはCLZ(5.0mg/kg)を思春期(adolescence、~P51)、または、成人期(~P76とP91)の間に投与し再チャレンジ試験を行った。
 
 思春期の時期に繰り返しOLZやCLZで処置した群では、5日間の試験期間越えてPCP誘発性自発運動亢進に対する持続的な阻害をもたらした。思春期における再チャレンジテストでは、以前にOLZで処置されたラットでは、担体(VEH)で処理した場合よりもPCP誘発性自発運動亢進は有意に抑制されなかった。対照的に、以前にCLZで処理されたラットでは、対照よりも弱いながらも抑制を示した。
 
 成人期での評価では、OLZで処置されたラットでは、OLZへの感受性の亢進とCLZへの感受性の減少が~P76だけでなく~P91のラットでも検出された。これらの知見は、思春期でのOLZやCLZへの曝露は成人期まで持続する長期的な抗精神病薬への反応の変化を誘導し得ることを示唆している。

(論文終わり)

 青少年時代に投与された抗精神病薬の影響は、たとえ抗精神病薬が中止されたとしても、大人になってからも残存しているのである。

 次の論文でも、同様に、大人時代まで抗精神病薬の影響が残ることを報告している。

オランザピン感作とクロザピン耐性:思春期から大人への条件付け回避反応モデル
Olanzapine Sensitization and Clozapine Tolerance: From Adolescence to Adulthood in the Conditioned Avoidance Response Model

 齧歯類における条件回避反応(CAR)の抑制は、抗精神病薬の1つのトレードマークになる特徴である(注; 条件回避反応を抑制する強さは抗精神病作用の強さの指標となる。D2・D3受容体のブロックと関連していると言われている。一方、条件回避反応は陽性症状の強さを反映するだろうと考えられている)。大人のラットでは、クロザピン(CLZ)を繰り返し投与することでCARの抑制が低下する(耐性、tolerance)のに対して、オランザピン(OLZ)を繰り返し投与することは、CARの抑制が強化され(感作、sensitization)。

 本研究は、(1)OLZ感作とCLZ耐性が思春期のラットでも誘導することができるかどうか、(2)思春期において誘導されたOLZ感作とCLZ耐性の程度が成人期まで持続するかどうかについて調べたものである。

 雄の思春期のラット(生後日数約P43~47)に、OLZ(1.0、2.0mg/kgを皮下(SC)注射)あるいはCLZ(10、20mg/kg、SC)を5日間連続投与しCARモデルを作成した。

 次に、思春期の時期(~P50)と大人 (~P76、P92) になってからのOLZ感作やCLZ耐性の発現について、低用量OLZ(0.5mg/kg)またはCLZ(5.0mg/kg)のいずれかを注射しチェレンジ試験を行った。

 その結果、青年期におけるテストでは、以前にOLZで処置されたラットは、担体で処理されたラットよりもCARは強い抑制を示した(=感作)。これとは対照的に、以前にCLZで処置されたラットは、担体で処理されたラットよりもCARは弱い抑制を示した(=耐性)。一方、成人期にテストした場合は、OLZ感作だけがP76とP92の双方の時期において検出されたが、CLZ耐性はP76の時期のみに検出されたのみであった。
 
 成人期の時期におけるプレパルス抑制と恐怖誘発22kHz超音波刺激のパフォーマンスに関しては、思春期の薬物治療によって変化はしなかった。
(プレパルス抑制について)
 
 要約すると、これらの知見は、思春期における非定型抗精神病薬治療は、脳が成熟していくにも係らず、長期的な特異的変化を誘導し、大人になってからも抗精神病薬の影響が持続していることを示唆している。抗精神病薬は、過去20年間で、小児および青年にますます使用されているようなっているが、この研究の知見は、思春期の抗精神病薬治療が脳と行動の発達に影響を及ぼすことを理解する上で重要である。この所見は、思春期抗精神病薬の治療における薬物の選択、投与量、投薬スケジュールの面などの臨床実践のために意味を有する。

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(論文終わり)

 たとえ投薬を中止したとしても、思春期に使用された抗精神病薬による影響は大人になってからも頑固に持続して残ってしまっているのである。

 なお、この論文では、感作sensitizationと耐性toleranceという表現が使用されているが、クロザピン耐性といってもクロザピンという薬の効果が弱まっていく訳ではなく、条件回避試験での現象であり、実際の臨床でクロザピンの効果がだんだんと弱まっていくという事象は殆ど報告されていない。一方、感作といっても薬の効果が高まる訳でもなく、感作を生じると言われている薬剤でも同じ量を漫然と使用し続けると逆説的に効果が無くなっていく現象が生じる(見かけ上の耐性形成)。従って、もし、感作されるのであれば、漫然と同じ量を使用するのではなく、むしろ減薬していった方がいいことになる。

 こういった有害事象の背景には、ドーパミンD2受容体数が増えるが(抗精神病薬へのブロックに対抗できる=耐性)、ドーパミンに対しては高親和性になっている(D2high)比率が増える(ドーパミンへの感受性亢進)といったドーパミンD2受容体の複雑な変化が関与しているようだ。生体内では常に、抗精神病薬とドーパミンとがD2受容体を巡って拮抗して占拠争いをしている訳であり、ドーパミンは抗精神病薬よりもD2受容体への親和性が高いことを念頭に置いておかないと、薬物療法に失敗することになる。

 さらに、以下の論文でも同じようなことが報告されている。

思春期におけるリスペリドン投与による影響は長期間続き、大人になってからのオランザピンやクロザピンに対する反応が変化する
Long-term impacts of adolescent risperidone treatment on behavioral responsiveness to olanzapine and clozapine in adulthood.

 この前臨床研究は、思春期における短期的なリスペリドンの投与による成人になった時のオランザピンやクロザピンといった抗精神病薬への反応に対する影響を検証したものである。
 
 抗精神病薬の効果はラットの条件回避反応(CAR)モデルを使用し、回避反応に対する薬物の抑制効果によってインデックス化された。
 
 雄の思春期のラットは、生後日P40~P44の時期に5日間連続してリスペリドン(1.0mg/kg、皮下注射SC)の投与、または、または滅菌水が投与され、CARモデルとしてテストされた。その後、大人になった時期(~P 80-84)に、オランザピン(0.5mg/kg、SC)か、クロザピン(5.0mg/kg、SC)、または、担体が5日間投与され、回避反応がテストされた。
 
 その結果、思春期の時期に、繰り返しリスペリドンが投与された時に、回避反応は永続的な抑制を生じた。しかし、大人になってからの5日間のテストにて、思春期にリスペリドンが投与されたラットではオランザピンにスイッチされた場合は、担体よりも著しく低い回避反応を示したが、これは、オランザピンに対する感作が増強し、この現象は思春期におけるリスペリドンによって誘導されたことが示唆される。
 
 一方、これとは対照的に、クロザピンにスイッチした場合には、思春期にリスペリドンが投与されたラットでは、対照のラットよりも回避反応が有意に高くなっており、これはクロザピンに対する感作が減少したことを意味し、この現象はリスペリドンによって誘導されたことが示唆される。
 
 なお、成人期における音響驚愕反応のプレパルス抑制におけるパフォーマンスは、思春期のリスペリドン投与によっては変化しなかった。
 
 要約すると、思春期におけるリスペリドン曝露は、長期間持続する他の抗精神病薬の感作現象を誘導し、変更した薬物に依存して感度が変化することになる(増加または減少)。これらの長期的に持続する変化は、おそらく薬物によって誘発された神経可塑的な変化によって媒介されると思われるが、これは、精神病症状を早期に発症する患者への抗精神病薬治療は臨床的にいろんな変化を明らかに生じてさせているものと思える。

(論文終わり)

 以上、いくつかの論文を紹介したが、こういった青少年への抗精神病薬による変化は、最悪な場合では、大人になってからの精神病を発病する原因にもなってしまう恐れがあると言えよう。

 なぜならば、これらの論文はまさに、大人で報告されている抗精神病薬によるドーパミンD2受容体パラドックスのような現象が児童にも生じ、それが大人時代まで影響が残ることを意味するからである。

 もし、投薬が中止された以降も、子供時代に投与された抗精神病薬の投与によってD2highの比率が増えて、D2受容体の感受性が亢進したままになっているのであれば、大人になってから、何らかのストレス刺激に反応してドーパミンが過剰に放出されてしまうと、ドーパミンに過剰に反応し急激に精神病症状が惹起されてしまうことになる(=ドーパミン過感受性症候群、ドーパミン過感受性精神病)。

(ドーパミンの感受性亢進はD2highという状態の増加と関連しており、D2highの増加は精神病へと導かれてしまう。Seeman博士の論文。)
http://www.pnas.org/content/102/9/3513.full 
 こうなると、精神病が発病したのだと誤解されてしまうことになろう。

 一方、このようなドーパミンD2受容体のパラドックスが子供時代に起こると、抗精神病薬を内服していながら抗精神病薬の効果がなくなったような状態となり、ちょっとしたストレスにて、行動の変化が生じることになる(ドーパミンD2受容体の感受性亢進に由来するような行動の変化)。これは、成人の統合失調症では幻覚や妄想の悪化で表現されるのであろうが、青少年では多動や落ち着きのなさや攻撃性や衝動性といった症状で表現されることになろう。すなわち、見かけ上、抗精神病薬が投与された原因になった症状が悪化するのである。その結果、抗精神病薬の投与量がだんだんと増えていくことにもなろう。

 前回のブログでも述べたような青少年への抗精神病薬の多剤併用といった有害事象は、まさに、この抗精神病薬によるドーパミンD2受容体の感受性亢進(受容体数の増加、D2highの増加)といった現象が生じており、抗精神病薬を増やさざるを得なくなったことを暗示しているのではなかろうか。
 
 こういった抗精神病薬によるドーパミン受容体の変化によって、抗精神病薬の投与量がだんだんと増えていくという悲劇的な事象は、既に、大人では論文にされて報告されており、そういった事象が児童でも起こりうるものと懸念される(全てのケースで起こり得る訳ではないのだろうが)。

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 もし、こういった悲劇的な事態になれば、大人になった時まで高用量の抗精神病薬を飲み続け、ADHDだったはずが、ASDだったはずが、いつの間にか精神病(≒統合失調症)に移行していたという悲劇的な帰結を招いてしまうことになろう。

 こういった抗精神病薬の投与量がだんだんと増えていくという懸念に対する実態調査は全く行われておらず、抗精神病薬が投与されているADHDやASDの児童において、抗精神病薬の投与量がだんだんと増えていくという悲劇的な事象が起きていないかを国は監視する必要があろう。
 
 前回のブログで触れたように、我が国で自閉症の児童に対して一番多く処方されている抗精神病薬は第一世代のハロペリドールである。第一世代の抗精神病薬のためドーパミンD2受容体の感受性亢進が生じていることがますます懸念される。今後はリスペリドンもASDに使用できるようになるはずであり、我が国では、ハロペリドールからリスペリドンに移行していくのかもしれないが、このリスペリドンも児童にとっては非常に危険な抗精神病薬であることには変わりはないであろう。
 
 しかも、日本小児精神神経学会や日本児童青年精神医学会の児童への抗精神病薬を使用する上での危険性に対する認識はまだまだ甘いものであり、今後、我が国においても児童への抗精神病薬の過剰使用がますます増えていくことが懸念される。

 さらに、抗精神病薬の使用量が増えていけば、用量依存性に脳の灰白質へのダメージも当然大きくなる。もし、そうなれば、病態は不可逆性となり、ますます重度になっていくことは間違いない。そういったことが我が国の青少年に対して起きていないことを祈るしかない。

 では、どうしたらいいのであろうか。実際の臨床場面では、激しい行動症状を呈する児童は確かに存在し、緊急を要するような場合も多々あろう。しかし、やむを得ない場合の抗精神病薬使用は当然許容されるものであろう。下の論文は、子供への抗精神病薬の断続的な使用は、大人になってからの社会行動上の影響を及ぼさないという論文である。
 
 児童への抗精神病薬は、少量で、かつ、一時的な使用や屯服のような形での使用に留めておくことが肝要なのかもしれない。

成人期におけるハロペリドールへの感作と社会的行動に関する影響は、思春期を通じたハロペリドールの断続的な投与と連続投与とでは差がある
Differential effects of intermittent versus continuous haloperidol treatment throughout adolescence on haloperidol sensitization and social behavior in adulthood.

 抗精神病薬の行動への影響を調べた動物実験では、投与方法が異なると薬物感受への影響も異なることが示唆されているが、間欠的な投与が感作(sensitization)効果を生じさせるのに対して、持続投与では耐性を生じさせると言われている(注; この当たりのことはD2受容体の権威であるシーマン博士によれば、必ずしも決まった事象とは言えず、逆の結果にも成り得る事象ではある)。
 
 そこで、本研究では、思春期におけるハロペリドール(HAL)の投与による感作がどのようにして誘導され、間欠投与と持続投与では、大人になってからの条件回避反応(CAR)テストにおいて異なる影響を示すのかを検証した。さらに、我々は、これら二つの投与方法が、成人期における社会的相互作用や社会的記憶にも影響を与えるかどうかを調べた。
 
 雄の思春期のラットは、生後P44~P71の時に、毎日ハロペリドール(HAL)が投与されたが、投与方法は、浸透圧ミニポンプによる投与(HAL-0.25 CONTと称するする:HAL 0.25 mg/kg/日、n =14、持続的投与に相当 )、あるいは、皮下注射による投与(HAL-0.05 INTと称する:0.05mg/kg/日、sc、n=14、間欠的な投与に相当)、または、対照(滅菌水、n=14)である。 ハロペリドールによる感作は、P80とP82の時期に、HALを0.025、0.05mg/kg, 皮下注射し、チャレンジテストにて評価した(注; ただし、体重が不明なため、皮下注射が実際に何mgなされたのかは不明。体重が200g~300gとすれば、ハロペリドールとしては0.01~0.015mgという非常に少量の投与量ではある。)
 
 2日後、各グループの半分のラット(n=7 /グループ)が4トライアルからなる社会的相互作用テストで評価された。もう半分のラットは、ハロペリドールによって誘発されるD2受容体の機能の変化を評価するためにキンピロール誘発性自発運動亢進試験で評価された。
 
 その結果、間欠投与群のみが、HAL0.05mg/kgのチャレンジテストにて強固な感作効果を示し、この群のラットでは、担体投与群(対照群)やHAL-0.25 CONT群(持続投与群)よりも有意に少ない(fewer)回避反応を示した(注; 回避反応の抑制が十分に見られ、ハロペリドールの本来の効果は変化しなかったということか?)。
 
 3つの全ての群において社会的相互作用は類似したレベルを示し、社会的な刺激の変化に対する感度は同じようなレベルを示したことから、思春期におけるハロペリドール投与は社会的行動や社会的記憶に影響を及ぼさなかったことが分かった。同様に、3つの全ての群においてキンピロールチャレンジによる自発運動の増加は同様のレベルを示したことから、思春期におけるハロペリドール投与は、長期的に持続するような変化をD2受容体の機能に生じさせなかった。
 
 これらの知見は、ハロペリドールによる感作は投与の仕方に依存する特有の現象であることを示唆している。すなわち、感作という現象は、連続的な投与より間欠的な投与において見い出される可能性が高い。断続的なHALの投与では社会的機能を損なわずD2の機能を変化させなかったという所見は、薬物によって誘発される薬剤への感受性の変化と社会的機能の変化と神経受容体との間には解離という現象が存在することを示唆している。

(論文終わり)

 この論文は今一つの論文なのだが、あえて紹介したのは、少量で一時的な(屯服的な)使用であれば、大きな問題は生じない可能性があると私は言いたかったからである。しかし、このあたりの研究はもっと行われていかねばならないのは言うまでもない。

 ただし、これまで述べたことは、既に知られている抗精神病薬の薬理作用や、動物実験での所見から、抗精神病薬の最悪な有害事象が出た場合を個人的に想定して書いており、事実として証明された訳ではなく、誤解のないようにして頂きたい。

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 なお、青少年への懸念される抗精神病薬の影響はD2受容体だけでなく、認知機能に関するものも既に少なからず報告されている。それらの論文を紹介する。

 下の論文は、第二世代の抗精神病薬によるワーキングメモリーへの影響や神経細胞の樹状突起棘の密度の低下などを報告している。

思春期のラットにオランザピンが投与されることで永続的で特殊なメモリーの障害や大脳皮質の発達や機能が変化する
Olanzapine Treatment of Adolescent Rats Causes Enduring Specific Memory Impairments and Alters Cortical Development and Function

 抗精神病薬は、青少年の様々な精神疾患の治療にますます使用されるようになっている。しかし、人生の早期における抗精神病薬による長期的な影響については殆ど知られていない。抗精神病薬の殆どがドーパミンD2受容体に対する強力なアンタゴニストか部分アゴニストであり、非定型抗精神病薬はさらに、セロトニン受容体のタイプ2Aに拮抗する。

 ドーパミンやセロトニンは、神経発達プロセスの多くを調節する。それ故、人生の早期における抗精神病薬の投与は、長期的な行動上、および、神経生物学的な障害を引き起こし、神経発達プロセスを混乱させてしまう可能性がある。

 この研究では、出生後28~49Pの思春期の雄のラットにオランザピンを投与した。その後、大人になってから担体を投与された対照ラットと比較したが、ワーキングメモリー(working memory)が障害されているが、空間記憶(spatial memory)は正常であることが分かった。さらに恐怖条件付けの消去(extinction of fear conditioning)が障害されていることが示された(恐怖に過剰に反応して条件付けられてしまう)。
 
 運動活動量や運動スキル、オープンフィールドへの馴化、情動(affect、不安やストレス反応など)に関する測定値は正常であった。
 
 一方、眼窩前頭皮質(OPC)や前頭前皮質内側部(MPC)、頭頂葉(PAR1)、側坐核のコア(NAc core)、海馬の歯状回(DG)においては、思春期時代のオランザピン投与によって部位特異的に神経発達の動態や樹状突起棘密度の成熟値が低下しており、脳内の変化が認められた(樹状突起棘密度の成熟値は、PAR1とMPCで50%の低下、OPCで16%の低下、 NAc coreでは21%の低下していた)。
 
 眼窩前頭皮質(OPC)や前頭前皮質内側部(MPC)では、ドーパミンD1結合能は減少しており、GABA-A受容体の結合能は増加していた。逆に、MPCでは、D2結合能が増加していた(注; D2パラドックスのような現象が生じていることになる)。
 
 これらの持続的な変化は、小児への抗精神病薬による永続的な後遺症を理解し、思春期の抗精神病薬治療の利点と危険性を計測する上で基礎となる所見であり、特に、高リスクなケースや無症候性患者への抗精神病薬の予防的投与の利点と危険性を理解する上で重要な所見であることを強調している。思春期の抗精神病薬の投与によって誘導される神経伝達物質の受容体の結合能や神経回路の長期的な変化は、他の治療薬や違法向精神薬による行動上の変化、神経生物学的反応の変化を永続的に引き起こすことになろう。

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(論文終わり)

 ワーキングメモリーの低下は、神経細胞の樹状突起棘密度の低下、すなわち、脳の成熟が遅れてしまっていることが原因であろうか。抗精神病薬によって脳の成熟が阻害されてしまう恐れがあると言えよう。
 
 私は青少年への抗精神病薬の使用は統合失調症のケースに限定すべきであると考えている。ASDやADHDでは、大人ってなるにつれて、自然と良くなっていくケースも報告されている、それは脳の成熟によるものであろう。従って、脳の成熟を遅らせてしまうような薬剤は使用すべきではないことは言うまでもない。ASDやADHDにおいては、やむ負えないような場合に一時的に使用べきであろう。

 ネットで調べるとASDやADHDが自然と良くなっていったという報告はたくさんある。鍵は食事やライフスタイルを変えたことにあるようだ(ω3脂肪酸を摂取したり、腸内細菌叢を整えたり、抗酸化物質を含む食品を摂取したり、など)。ただし、自然と良くなっていった(健常児と変わらないまで成長した)ケースで共通している点は、向精神薬を使用しなかったことかもしれない。これからの医学研究は、もっとそういった自然と良くなっていったケースに注目して、何が回復を促進させたのかを明らかにしていく使命があろう。
ASD
AHDH
 このように、統合失調症やADHDやASDでも、精神疾患全般において自然に回復して良くなっていくという晩熟(成熟)という現象は起こりうるが、薬物によってマスクされてしまう危険性があると私は考えている。同様な懸念は既にNIMH(アメリカ国立精神衛生研究所)からも発せられている。

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 一方、青少年への抗精神病薬の投与は報酬系にも影響を与え、大人になってからの報酬系に関連する障害が懸念されることが同じ研究者グループから報告されている。

ラットにおける思春期のオランザピンの投与は大人になってからの報酬行動や側坐核の機能を変化させてしまう(青少年時代に抗精神病薬に曝露されると大人になってからの報酬系の機能をも変えてしまう)
Olanzapine treatment of adolescent rats alters adult reward behaviour and nucleus accumbens function.

 抗精神病薬(APD)は、青少年の様々な精神疾患の治療にますます使用されるようになっている。しかし、人生の早期におかる抗精神病薬による長期的な影響については殆ど知られていない。

 抗精神病薬の殆どがドーパミンD2受容体に対する強力なアンタゴニストか部分アゴニストである。さらに非定型抗APDは、複数のタイプのセロトニン受容体に対して作用する。そしてドーパミンやセロトニンは、神経発達プロセスの多くを調節している。従って、人生早期における抗精神病薬の投与は、行動や神経生物学的な機能に関する長期的な後遺症を潜在的に引き起こし、神経発達プロセスを乱すことになる。
 
 我々は、人間において治療的に用いられている近似的な投与条件を設定し、思春期に相当する出生後28~49Pの雄ラットにオランザピン(Ola)を投与した。その結果、大人になってから、対照ラットと比較して、アンフェタミンへの強化された条件付け場所嗜好性を示した。さらに、側坐核のコアにおける、ドーパミンD1受容体結合能は減少し、D2結合能は増加し、腹側被蓋野における電気刺激によって誘発させるドーパミンの放出は減少していた。
 
 このように、思春期時代のオランザピン投与によって、大人になってからの側坐核における報酬刺激への行動上の鍵となるような反応性やドーパミン作動性の神経伝達が変化する。
 
 これらの持続的な変化は、オランザピンの投与は人生早期の限定した時期においてさえも他の治療薬や違法性精神作動薬への神経生物学的な反応や報酬関連行動への永続的な変化を引き起こすことになろう。これらの所見は、思春期、特に、高リスクなケースや無症候性患者へ抗精神病薬治療の利点や危険性を計測する上で基礎となる所見であり、小児への抗精神病薬の投与による永続的な後遺症を理解する上で重要な所見であることを強調している。

(論文終わり)

 この所見はドーパミンを上げるようなものに条件付けらやすくなっているような所見である。ギャンブルや過食(食品)にといった有害なことに何でも条件付けられてしまうような大人になってしまうのかもしれない。

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 次の論文も同じ研究グループの論文であるが、同様に、青少年時代に投与された抗精神病薬によって大人になってからの報酬系の機能不全を招く懸念があることを報告している。

ラットでは思春期時代のオランザピンの投与は側坐核におけるグルタミン酸やGABAの長期的な変化を引き起す
Olanzapine antipsychotic treatment of adolescent rats causes long term changes in glutamate and GABA levels in the nucleus accumbens.

 非定型抗精神病薬(AAPDs)は青少年の様々な精神疾患の治療として広く使用されている。しかし、脳が完全に発達する前に、AAPDsが投与された時の長期的な影響については殆ど知られていない。我々は以前の研究で、思春期(生後日P28~P49)のラットにおいて、オランザピン(OLA、広く処方さているAAPDだが)を人間に治療的に用いられている条件と近似した投与を行ったが、行動や神経生物学な面において長期的な混乱を引き起こすことが分かった。

 我々は、これらの効果のメカニズムを研究し始めている。ドーパミン(DA)やセロトニン(5HT)は、神経発達プロセスの多くを調節している。
 
 現在、承認されているAAPDsは、主にドーパミン作動性の活動を介して治療効果を発揮するが、AAPDsが治療に使用される統合失調症(SZ)や他の精神疾患では、ドーパミン作動性の機能障害はグルタミン酸作動性(GLUergic)の異常やγアミノ酪酸作動性(GABAergic)の異常を伴っている。
 
 この研究では、プロトン磁気共鳴分光法(1H MRS)を使用して、思春期のOLA投与におけるGABAやGLUレベルへの効果を調査した。その結果、思春期にOLAを投与した大人のラットでは、側坐核(NAc)におけるGLUやGABAの双方のレベルで長期的な減少を引き起こしていることが分かった。側坐核は、統合失調症では機能が障害されている脳の「報酬」システムとして重要な部位である。
 
 OLAによって誘導される側坐核や他の脳領域におけるGLUやGABAレベルの変化、および、それらの変化のダイナミクスやメカニズムに関してはさらなる研究が必要である。こういった研究は、治療効果が向上し、小児患者に投与した場合AAPDsによる長期的な異常を防止できるような既存のAAPDsの代替になるような新薬を設計するための必須のステップとなろう。

(論文終わり)

 これらの所見は報酬系へ負の影響であり、青少年時代に使用された抗精神病薬によって大人になってからの報酬系機能不全を生じる可能性があることになる。この報酬系の機能不全は薬物乱用や摂食障害やギャンブル依存などに結びつくことが分かっており、他の精神疾患を生じさせてしまう帰結にもなりかねず、非常に危険な所見だと言えよう(当然、報酬系の機能不全はうつ病の危険因子にもなろう)。

 こういった論文を読むと児童への抗精神病薬の使用は慎重にならざるを得ないことが理解できよう。

 さらに、別の大きな問題もある。青少年は大人の場合よりも第二世代の抗精神病薬(SGA)によって肥満になり易いことである。ある調査では、児童におけるSGAによる最初の3ヶ月間の体重増加は、順に、オランザピン(8.5Kg)>クエチアピン(6.1Kg)>リスペリドン(5.4Kg)>アリピプラゾール(4.4Kg)の順であった(投薬を拒否したケースでは0.2Kg体重が増えただけだった)。他の調査では、オランザピン>クロザピン>リスペリドン>クエチアピン>アリピプラゾール=ジプラシドンの順で体重増加が認められた。別の調査でも、SGAが投与された青少年は、無期限に継続する体重増加を示し、体重は最初の数ヶ月でベースラインから7%も増加することが分かった。

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 青少年でSGAが使用されている場合は肥満の防止は最重要課題となる。肥満を防止するためには、行動介入などによるライフスタイルの指導を必ず行っておかねばならない。さらに、コレステロール値などをモニタリングして、代謝障害の防止にも注意しておかねばならないのは言うまでもないだろう。
(下のサイトから各SGAに対するモニタリングフォームがダウンロードできる)

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 次に大きく懸念されるのは、ADHDの治療薬として使用されているメチルフェニデートによる脳内の変化である。ただ単に、大人になってからの薬物依存を増やさないという論文しかなく(=動物実験では、コカインの自己投与を増やさないなどの結果からそのように推測されている)、しかも、想定される懸念事項が正しく調査されているのかも怪しく、現時点の段階では、子供へのメチルフェニデートの投与は安全だとは言えないと私は考えている(子供時代に使用していたが、大人になってからADHD薬を中断したケースに対して、認知機能や感情機能や日常生活における行動などを適正に調査した結果からの結論ではなく、そういった調査は全く成されていないのである)。
 
 メチルフェニデートに関しては、実際に、次のような報告がなされている。
 
 まず懸念されることは、他のコグニティブエンハンサーと同様に、ドーパミンやグルタミン酸などの神経伝達システムや前頭前皮質に対する悪影響である。

 下の論文は、青少年時代にメチルフェニデートに曝露されることよって大人になってからの前頭前皮質の可塑性が低下してしまうという報告である。
 
 これは、前回のブログでも述べたように、子供時代のメチルフェニデートの使用によって、大人になってからの学習能力が低下したり、思考の柔軟性や創造性がなくなるということを意味しているように思える。

人間の臨床で使用される用量のメチルフェニデートの投与は子供のラットの前頭前皮質におけるNMDA受容体の組成やシナプスの可塑性を変化させてしまう
Treatment with a Clinically-Relevant Dose of Methylphenidate Alters NMDA Receptor Composition and Synaptic Plasticity in the Juvenile Rat Prefrontal Cortex

 メチルフェニデート(リタリン、MPH)は、子供に対して最も一般的に処方されている向精神薬である。メチルフェニデートは、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療に使用されているが、健康な個人においても認知機能の増強を目的として使用されているが(コクニティブ・エンハンサー)、潜在的な長期的な影響や、細胞メカニズムに対する作用は十分に理解されていない。
 
 我々は最近、臨床で使用される用量のMPHの投与(1mg/kgを腹腔内、単回注射)によって、幼齢ラットの前頭前皮質ニューロンの神経細胞の興奮性が大きく減少したことを報告した。
 
 今回の研究では、NMDA受容体サブユニットやNMDA受容体によって媒介させる短期または長期的なシナプス可塑性について、幼齢ラットの前頭前野皮質ニューロンにおけるMPHの投与による急性効果を調査した。
 
 その結果、MPH(1mg/kgを、腹腔内)の単回投与によって、幼齢ラットの前頭前皮質におけるNMDA受容体サブユニットNR1やNR2Bの表面や総タンパク質レベルが有意に減少することを見出した。なお、NR2Aサブユニットには影響は見られなかった。
(注; このNMDA受容体のサブユニットの発現が変化するという事象はシナプスの可塑性がMPHによって影響を受けることを意味する)。
(NMDA受容体サブユニットについて) 
 
 一方、前頭前皮質ニューロンでは、NMDA受容体によって媒介されるEPSCs(興奮性シナプス後電流)の減衰時間(decay time)や電荷転送(charge transfer)が有意に減少したが、AMPA受容体によって媒介されるEPSCsの振幅や短期降下が有意に増加した。
(AMPA受容体について)
http://ja.wikipedia.org/wiki/AMPA%E5%9E%8B%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93
(EPSCsについて)
http://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%88%88%E5%A5%AE%E6%80%A7%E3%82%B7%E3%83%8A%E3%83%97%E3%82%B9
 
 さらに、幼齢ラットの前頭前皮質ニューロンでは、MPHの投与によってLTP誘導の確率と大きさが有意に増加したが、LTD誘導に対する効果は小さいものであった。
(注; LTPとLTDはセットになって働くべきであり、LTPが強まるのは一時的には学習効果は上がるかもしれないが、LTPばかりが強まることになると危険であろう)。
(LTP、LTDと記憶や学習について)
 
 我々のデータは、MPHの新しい作用メカニズムを示すもである。例えば、人生早期にこえるMPHの使用によってグルタミン酸受容体によって媒介されるシナプスの可塑性が変化することになる。さらに、単一の投与でも、NMDA受容体が大きく変化するため、健康な個人、特に子供や若者による適応外使用は、可塑性や学習に影響を及ぼす可能性があろう。

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(論文終わり)

 1回のメチルフェニデート(MPH)でも前頭前皮質のNMDA受容体のサブユニットの発現が変化してしまうのである。NMDA受容体のサブユニットは脳の発達や成熟にも大きく関与している。もし、MPHを持続使用すれば、神経の可塑性だけでなく、脳の発達や成熟にも影響が出ることは間違いないであろう。


 この前頭前皮質に対する影響はシナプスの可塑性に関するものだけではない。高用量では前頭前皮質の機能にも変化が生じ、それは永続した変化になってしまうことが下の論文では報告されている。

脳の発達や大人になってからの前頭前野ニューロンに対するメチルフェニデートの影響は年齢に依存して異なっている
Distinct age-dependent effects of methylphenidate on developing and adult prefrontal neurons

 メチルフェニデート(MPH)は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)を治療するために長期間使用されている。しかし、その作用と前頭前皮質の神経回路への潜在的な影響の細胞メカニズムは十分に知らておらず、特に、発達中の脳のシステムへの影響は殆ど理解されていない。齧歯類では、臨床に関連する用量の成体への影響は調べられている。しかし、この臨床に関連する用量は、幼齢ラットではまだ十分に調べらていない。

 子供(P15)および大人(P90)に相当するSDラットにMPHまたは生理食塩水を投与した。全細胞パッチクランプ記録を用いて、前頭前皮質の錐体ニューロンの興奮性やシナプス伝達を調べた。MPH投与から回復した時期として、薬物中止後の1、5、10週目に調査を行った。

その結果、1mg/kgのMPHを腹腔内投与した場合(人間の成人で受け入れられている治療範囲内)、単回投与または慢性の治療のいずれかにおいて、幼齢ラットの前頭前皮質では、過分極活性化電流を増加させることによって錐体ニューロンの有意な抑制効果を生み出したが、大人のラットでは興奮性の効果を発揮した。

 最小の臨床用量(0.03~0.3mg/kg)でも、幼齢ラットでは用量依存的に抑制効果(depressive effects)を生じた(=子供の前頭前皮質はMPHの効果に対して敏感である)。1mg/kgを1週間慢性投与した時は機能は回復したが、3mg/kgや9mg/kgを慢性投与した時では10週間以降も持続する前頭前野ニューロンの機能の抑制を示した(人間の児童に1mg/kgを超えた量を使用するのは危険である)。

 これらの結果は、子供の前頭前野は、メチルフェニデートに非常に過敏であり、大人で使用される治療用量ではオーバーシュートしてしまうことを示唆している。子供へのMPH治療は、前頭前野の興奮性ニューロンの機能に関しては長期的に持続するような永続的な変化をもたらす可能性があろう。

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(論文終わり)

 小児ではメチルフェニデートに対して非常に敏感であり、少量でも十分に効果が発揮されるのである。この原則を無視して、大人に使用するような用量を設定して処方をすることは、前頭前皮質の錐体ニューロンをオーバーシュートさせてしまい非常に危険なことになる。

なお、日本におけるメチルフェニデート(コンサータ)に関する使用量は、以下のようになっている。

18歳未満の患者さん:通常、主成分として初回18mgを1日1回朝に服用することから開始し、維持量は1回18~45mgを1日1回朝に服用します。増量される場合は1週間以上の間隔をあけて1日9mgまたは18mgずつ増量されます。症状により適宜増減されますが、1日54mgを超えません。

18歳以上の患者さん:通常、主成分として初回18mgを1日1回朝に服用します。増量される場合は1週間以上の間隔をあけて1日9mgまたは18mgずつ増量されます。症状により適宜増減されますが、1日72mgを超えません。

となっており、場合によっては1mg/kgを超えてしまうケースが出てくる恐れがあると言えよう。

 さらに、児童へのメチルフェニデートは薬物中毒の危険性はないと言われていても、薬物中毒に関連する遺伝子や神経回路が変化してしまうことが報告されており、精神刺激剤への中毒に結び付くことが懸念される。すなわち、大人になってからも、メチルフェニデートを飲み続けないといけなくなるのである。へたをすれば薬漬けの一生になってしまう恐れがあろう。

中毒に関連した遺伝子の調節:コグニティブエンハンサーへの曝露のリスクvsその他の精神刺激薬
Addiction-Related Gene Regulation: Risks of Exposure to Cognitive Enhancers vs. Other Psychostimulants

 注意欠陥多動性障害(ADHD)やナルコレプシーなどの疾患の治療に使用されている精神刺激薬(psychostimulants)であるメチルフェニデート(リタリン、コンサータ)、アンフェタミン(アデロール)、モダフィニル(プロビジル)が健常者の間で「認知増強剤cognitive enhancers」として使用されることが増えている。しかし、これらの薬剤のニューロンに及ぼす長期的な効果は十分に理解されていない。
 
 過去20年にわたる研究の多くは、コカインやアンフェタミンなどの精神刺激薬の脳内の遺伝調節への効果に関する調査に費やされているが、これらの分子の変化は精神刺激薬中毒にとって重要だと考えられているためである。
 
 この研究では、これらの精神刺激薬によって誘発される遺伝子の調節を介した神経化学的および細胞メカニズムを検証し、神経システムの変化を同定した。
 
 その結果、最も影響を受けた脳のシステムは皮質線条体回路(corticostriatal circuits)であり、この回路は皮質-大脳基底核-皮質ループの一部であり、意欲に関連した行動を仲介している。他の神経伝達物質(例えば、セロトニン)も調節の役割を果たしているが、そのような遺伝子調節の上で重要な神経伝達物質はドーパミンであり、ドーパミンはグルタミン酸との相互作用している。
 
 このレビューでは以下のことを提示した。(1)コカインやアンフェタミンによって誘発される皮質線条体回路における遺伝子調節が回路の構築に及ぼす主な影響(2)メチルフェニデートや医療用アンフェタミン(アデロール)やモダフィニルによって生じる分子生物学的な変化の評価についてである。
 
 これらの所見からは、長期間にわたるコグニティブエンハンサーへの曝露は、コカインやアンフェタミンによって誘発される皮質線条体回路における遺伝子発現の変化と同質の類似した変化を誘導することが分かった。これらの神経細胞の変化は、精神刺激薬やコグニティブエンハンサー中毒に寄与することができると考えられる。
 
(注; 遺伝子の具体的な変化としては、 急性効果としては、線条体におけるc-FosやZif268、Homer 1aなどの遺伝子の発現の増加、慢性曝露では遺伝子発現の長期的な抑制、線条体から投射されるニューロンの神経ペプチドの遺伝子の発現の変化、ドーパミン受容体の変化、線条体黒質ニューロンにおける転写因子deltaFosBの蓄積、線条体黒質経路におけるダイノルフィン発現の増加、などであるが、それらの変化は、コカインやアンフェタミンやメチルフェニデートで非常に類似していたことが判明したのである。)

(論文終わり)

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 脳内の遺伝子の変化はメチルフェニデートでもアンフェタミンでもコカインでも同じだったのである。コカインやアンフェタミンは中毒になるともう二度とやめれなく程の強力な覚せい剤である。それと同じ遺伝子の変化がメチルフェニデートで生じるということは、大人ってなってからメチルフェニデートをやめることは困難になることを意味しているように思える。

 このチルフェニデートによる遺伝子発現の変化は次の論文でも報告されている。

注意欠陥/多動性障害(ADHD)の動物モデルである自然発症高血圧ラットの前頭前皮質や線条体におけるメチルフェニデートの繰り返し投与による増強効果に対する転写反応
Prefrontal cortical and striatal transcriptional responses to the reinforcing effect of repeated methylphenidate treatment in the spontaneously hypertensive rat, animal model of attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD)

 メチルフェニデートは、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療として最も一般的に使用されている刺激薬である。これまでの研究では、メチルフェニデートが「強化因子(reinforcer)」であり、ADHDを有する個人では、この薬を乱用していることが見出されている。にも係らず、ADHDの個人におけるメチルフェニデートの長期的なレクリエーション的な使用や乱用による分子生物学的な結果に関してはまだ完全には知られていない。

 最も認定され広く使用されているADHDの動物モデルである高血圧自然発症ラット(SHR)が、思春期(出生後日P42~P48)の時期にメチルフェニデート(5 mg/kg、腹腔内)で前処置され、その後メチルフェニデートによって誘導される条件付け場所嗜好性(CPP)と自己投与について検証された。その後、メチルフェニデートで処理された時にCPPや自己投与を示したSHRの前頭前皮質(PFC)と線条体における遺伝子発現の差分が調べられた(CPPや自己投与については、4回前に投稿したアルコールに関するブログを参照されたし)。

 その結果、前頭前皮質におけるゲノムワイドなトランスクリプトーム(転写産物)プロファイリングでは、アポトーシス(例えば、S100a9, Angptl4, Nfkbia)、転写 (Cebpb, Per3)、神経可塑性(Homer1, Jam2, Asap1)に関与する転写産物を含む30種の遺伝子の発現が変化することが明らかにされた。

 対照的に、線条体では306種の遺伝子の発現が変化し、それらの中で252種は減少する方向(ダウンレギュレート)で調節されていた。ダウンレギュレートされた遺伝子の中での主な機能カテゴリーは、細胞接着(例えばPcdh10、Ctbbd1、Itgb6)、アポトーシスの調節(Perp, Taf1, Api5)、 (Notch3, Nsbp1, Sik1)、ミトコンドリア器官(Prps18c、Letm1、Uqcrc2)、ユビキチン媒介性タンパク質分解(Nedd4、Usp27x、Ube2d2)である。

 これらの変化は、メチルフェニデートによってCPPと自己投与を示したSHRの脳における、メチルフェニデートによって誘発される神経毒性シナプスや神経可塑性の変化エネルギー代謝の変化ユビキチンに依存したタンパク質の劣化という現象が生じていることを示唆している。さらに、これらの知見は、前臨床試験において提示されたように、メチルフェニデートの慢性使用に関連する認知機能障害を反映する所見である。ADHDの個人におけるメチルフェニデートの長期的なレクリエーション使用や乱用に関する臨床的意義を同定するためにはさらなる研究が必要である。

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(論文終わり)

 アポトーシス(細胞死)を早めてしまうかどうかは別にしても、前頭前皮質における神経の可塑性が障害されるのは間違いないであろう。
 
 大人になってからのこういった変化は見かけ上は気付かれ難いのかもしれないが、よく調べれば、学習機能や思考の柔軟性や創造性といったようなカテゴリーで低下していることが検出されるのかもしれない。しかし、それは、児童への薬物療法を支持する医師からは、子供時代に内服したメチルフェニデートという薬剤による影響ではなく、疾患による帰結として扱われてしまうことになろう(健常な成人におけるコグニティブエンハンサーの使用で生じる所見からは十分に想定できる事象なのではあるが、そういった論文が発表されない限りは問題にもならないであろう)。

 なお、前頭前皮質の可塑性の低下については他の論文でも報告されている。BDNFという神経にとっては重要なタンパク質が低下してしまうことも影響しているようだ。

少年時代のメチルフェニデートは、ドーパミンD3受容体やBDNFを経由して大人になってからの前頭前皮質の可塑性を低減させる
Juvenile methylphenidate reduces prefrontal cortex plasticity via D3 receptor and BDNF in adulthood
 
 幼児期における早期の薬物療法による介入は、児童の潜在能力を短期的だけでなく長期的にも最大限に引き出すことを目指して行われている。メチルフェニデート(MPH)のような精神刺激薬への少年への曝露は、動物実験だけでなく、人間においても注意欠陥多動性障害(ADHD)のある種のサブグループにおける物質使用のリスクを低減すると一貫して言われている。
 
 そこで、我々は、発達過程にあるラットのドーパミン受容体D3(D3R)や脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を介して、MPHの脳の可塑性に対する効果を調べた。

 生後日20~35Pの間のラットに、生理食塩水担体(Veh)、あるいは、MPH(2mg/kg)を投与し、D3Rアゴニスト±7-OHDPAT、または、アンタゴニストnafadotride(0.05mg/kg)単独またはMPHとの組み合わせを1日2回投与した。その後、成人期になってから、Vehあるいはコカイン(10 mg/kg、2日間)をチャレンジした。さらに、前頭前皮質の総BDNFのタンパク質量とBDNF遺伝子のmRNAレベルについて分析したが、分析したmRNAのスプライス変異体(splice variants)についてはI、IIc、III/IV、IV/VIである。D3受容体の発現についても同様な分析を行った。別のグループに対しては、生後日20、35、40、60Pの時期のスプライス変異体についての評価を行った。

 その結果、年齢を横切って、MPH投与後における、Drd3(D3受容体)とBdnf(BDNF)のmRNAとの間の強い相関関係、 Drd3とエクソンIIcレベルとの負の相関関係があることが明らかになった。(注; BdnfのエクソンIIは、ニューロンに局在しており、その発現は神経可塑性の調節において潜在的な役割を果たしている)。
 
 BDNFタンパク質レベルは、ベースラインの時点ではVeh群とMPH群との間では差がなかったが、MPH投与群やコカインチャレンジ群では有意に低下していた(30.3±9.7%)。BDNFのmRNAはMPH投与群では有意に高くなっていたが、コカインにて逆転した(必ずしも、BDNFのタンパク質とmRNAは一致しないということか。エクソンIIcが絡んでいるのであろうか)。この効果はnafadotrideによってブロックされた。さらに、総BdnfやBdnfスプライス変異体I、IIc、III/IV、IV/VIは、子供時代や思春期後期を横切って変化した。

 これらの所見は、思春期やその前後におけるBDNF発現の調節関わる脆弱性の敏感なウィンドウが存在することを示しており、それが正常な動物と比較して、少年時代のMPHへの曝露は、成人期にコカインに曝露された時に前頭前野BDNFの転写や翻訳を低減させてしまうような永続的な変化を生じさせ、それはドーパミンD3受容体が絡んだメカニズムによって媒介されている。

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(論文終わり)

 現在、ADHDで使用できるのは、メチルフェニデート(コンサータ)だけではなくアトモキセチン(ストラテラ)も使用できる。はたして、アトモキセチンもメチルフェニデートと同じような脳の変化を招いてしまうのであろうか。

 この点に関しては、BDNFの所見からは、アトモキセチンはメチルフェニデートよりは安全だと言えるような報告がなされている。

アトモキセチンの亜慢性曝露は、思春期における高血圧自然発症ラットの脳内のBDNFの発現とシグナル伝達をアップレギュレートする: メチルフェニデートとの比較
Sub-chronic exposure to atomoxetine up-regulates BDNF expression and signalling in the brain of adolescent spontaneously hypertensive rats: comparison with methylphenidate.

 刺激性の薬物であるメチルフェニデート、および、非刺激性の薬物でアトモキセチンは注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療のために広く使用されているが、それらの治療効果の分子メカニズムは十分に理解されていない。我々の研究の目的は、ADHDの薬物療法におけるこれらの薬物の作用メカニズムを明らかにするために、思春期のラットにおけるBDNFの発現やシグナル伝達を詳細に分析することで、これら2つの薬剤の神経可塑性に対する亜慢性効果を調べることであった。

 その結果、アトモキセチン(ATX)は海馬におけるBDNFのmRNAレベルをアップレギュレートしたが、メチルフェニデート(MPH)は側坐核や尾状核・皮殻におけるBDNFの遺伝子の発現を増加させた。反対の効果は、注意障害の重要な領域である前頭前皮質でも認められ、BDNFの総mRNAやエクソンIV領域のmRNAのレベルは、ATXでは増加したが、MPHでは減少した。
 
 前頭前皮質におけるBDNFを介したシグナル伝達の解析からは、ATXがAKTやGSK3βのリン酸化を増強したのに対して、MPHでは、シナプスレベルにおけるTrkB(高親和性BDNF受容体)のレベルやERK1/2活性化を減少させた。今回の知見は、ATXとMPHはBDNFシステムの調節に関しては反対方向の変化を生じさせ、これは主に前頭前皮質において生じる現象であることが判明した。この2つの薬物によって発揮されるADHDの行動に対するコントロールは見かけ上の効果は同じでも、独立しており、BDNFに関しては異なる変化を生じさせることになる。このATXとMPHで異なる変化は、認知機能に及ぼす長期的な影響に関しては重要な所見となる可能性がある。

(論文終わり)

 前頭前皮質の可塑性という観点からはアトモキセチンはメチルフェニデートよりもはるかに安全であると言えよう。現時点では、ADHDの児童へ使用する薬剤としては、アトモキセチンにしておくべきである。

 しかし、アトモキセチンにも、有害な事象が将来は報告されるのかもしれない。アトモキセチンはノルアドレナリン系に作用する薬剤であるため、影響はメチルフェニデートほどではないことは予想されるが、青班核関連の有害事象が生じる恐れはあろう。すなわち、悪夢や過覚醒といった問題が大人になってから生じる恐れがあるのではと想定される。

 今回は、抗精神病薬とメチルフェニデートに関して触れたが、青少年への使用には問題がある向精神薬がまだ他にもあるのであった。それは抗うつ薬(特にSSRI)である。

(次回に続く)

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青少年への向精神薬の使用は慎重であらねばならない 青少年への向精神薬の処方の実態とその有害作用 その1 総論


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 近年、世界中の国々において、青少年(特に小学生、中学生といった若年層)への向精神薬の使用が急増しており、これでいいのだろうかと懸念する声が上がっている。私もそのうちの一人である。

 この青少年への向精神薬の過剰処方は医師の診断に基づく医療行為の結果なのだから、それでいいのだという意見もあろうが、精神疾患だと診断される数自体が児童で増えている訳であり、それは、過去と現在では有病率が変化している、すなわち、だんだんと精神疾患を有する児童が増加していることを意味する。
 
 しかし、精神疾患の有病率がそんなに急激に変化するのであろうか。もし、児童の人口が急激に増えれば、生育環境が追いつかずにそういった現象も起きなくはないだろうが、先進国で起きている現象なのである。児童の人口が増えているために起きている訳ではないのである。
 
 もし、本当に精神疾患を有する児童が増え続けているのが事実であれば、それは、人類という種の劣化が始まっていることになる。人類は滅亡に向かい始めているのである。生まれてくる子供は、皆、精神疾患ばかり。こうなると未来では社会は機能しなくなり、最終的には人類文明は滅び去ることになろう。

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 そんなSFの世界のようなことが人類に起こっているのであろうか。
 
 私は疑っているのである。これは、何か別の大きな要因が裏で働いているせいではなかろうかと。例えば、疾患の本質からは外れたような、市場原理(製薬会社の向精神薬の市場拡大促進計画、等)という経済的な側面に支配されての現象なのではなかろうかと(=すなわち、市場原理に従って患者が実際よりは過剰に作り出されているという、あってはならないようなことが起きていることになる)。
 
 今回は青少年への向精神薬の過剰使用に関することがテーマである。

 まず、青少年への向精神薬の過剰使用の実態について把握しておかねばならない。この点に関する論文をいくつか紹介する。

 下の論文は、児童における向精神薬(抗精神病薬)の多剤併用処方について調査した論文である。

小児や青少年への抗精神病薬の多剤併用の有病率や相関
Prevalence and correlates of antipsychotic polypharmacy in children and adolescents receiving antipsychotic treatment
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4010557/
 成人ですら、抗精神病薬のポリファーマシー(多剤併用投与)は、有効性が証明されておらず、安全性の懸念があるのだが、若者への抗精神病薬の処方がますます増えており、若者への多剤併用処方(APP)の実態はまだよく知られていない。そこで、若者へのAPPを報告した論文を調べたが、それに関する研究論文が15(1993年~2008年)あることが分かった。
 
 論文を解析したところ、抗精神病薬が使用されているケースの11.6%にAPP認められ、13歳以上になるとAPPになる傾向が増加し、APPの内容は、FGA+SGAという第一世代(FGA)と第二世代(SGA)の抗精神病薬が組み合わされて使用されているケースが多かった(70.9%)。
 
 多剤併用処方になっていると報告されている割合が多い疾患は、注意欠陥多動性障害(ADHD)であった(39.9%)。次いで、行為障害/反抗挑戦性障害(CD / ODD、33.6%)が多かった。13歳未満の児童に限定した場合も同様に、ADHD(50.6%)とCD / ODD(39.5%)が多かった。一方、13歳以上の青少年に限定した場合では、多剤併用処方になっている疾患は、多い順に、統合失調症スペクトラム障害(28.6%)、不安障害(26.9%)、双極性スペクトラム障害(26.6%)、CD / ODD(25.8%)であった。抗精神病薬で治療されている若者でAPPになっている率は9.6%(小児では5.9%、青少年では12.0%)であった。なお、APPになりやすい相関関係は、双極性障害や統合失調症と診断され、SGA+SGAという処方の間で認められた。
 
 安全性と有効性のデータを欠いているにも係らず、児童では非精神病のケースでも、抗精神病薬の多剤併用処方が安易に行われていることは明らかである。

(論文終わり)

 このように、アメリカにおいては、13歳未満という小学生の年代の児童に対しても抗精神病薬の多剤併用処方が行われていることが明らかとなった(しかも、調査は6年前までの時点のものであり、今はもっと増えているのかもしれない)。
 
 特に、深刻なのはADHDと診断された児童である。アメリカにおいては、ADHDの児童に対しては、ADHD治療薬だけでなく抗精神病薬までもが安易に投与されているのである。子供の場合はADHDは統合失調症と同じように扱われていることになる。かっては大人になったら自然に消失しているケースも多いと言われていたのがADHDである。以前は、そんな重篤な疾患だとは考えられていなかったのだが、いつから抗精神病薬が投与されるべき程の重度の精神病としてADHDが扱われるようになったのであろうか。

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 私は言いたい。ADHDは精神病なんかじゃない!! 

 ADHDの児童への第二世代の抗精神病薬(SGA)の処方が増えているという警鐘を促した論文は他にもある。下の論文では次のように報告されている。

ADHDを有する若者への抗精神病薬の薬物疫学データ: 臨床的動向
Pharmacoepidemiology of Antipsychotic Use in Youth with ADHD: Trends and Clinical Implications 
 注意欠陥/多動性障害(ADHD)の児童への抗精神病薬の処方に関する懸念が提起されているが、利用可能なデータベースは限られている。そこで、抗精神病薬の処方率と年代の傾向とを合体させたデータを提供するために、レビューを行い、ADHDの児童における抗精神病薬使用の疫学データを分析して保管することにした(著者らはこの事象には時代的な背景が絡んでいると考えている)。1806件がヒットし、うち21の研究は、解析可能なデータを報告しており、解析した結果、3つ集団としての結果が保持された。(1)抗精神病薬で治療された若者(研究数15、341586名)、( 2)ADHDの若者(研究数 9、6192368名)、(3)一般集団の若者(研究数5、14284916名)である。
 
 全体としては、抗精神病薬で治療された若者の30.5%がADHDであった。縦断的研究では、この割合は、1998年から2007年にかけて、21.7%から27.7%に増加していた。さらに、ADHDの若者の11.5%が抗精神病薬による治療を受けていた(ADHDと診断されたケースの10人に1人は抗精神病薬を内服している)。縦断的研究では、この割合も、1998年から2006年にかけて、5.5%から11.4%へと増加していた(=10年くらいで処方量が2倍になった)。最後に、一般集団では0.12%の若者がADHDと診断され、抗精神病薬の治療を受けていた。ここでも、縦断的研究にて、この割合は、1993年から2007年にかけて、0.13%から0.49%へと増加していた。

 これらのデータを要約すると、ADHDに抗精神病薬を使用することの有益性が明らかになっていないにも係らず、ADHDの若者への抗精神病薬の使用が増加していることを示している。

 注; 上の論文よりも大きい数字を報告している論文もある。

(論文終わり)

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 こういった青少年への抗精神病の処方の増加という事象はアメリカだけではなく他の国々でも同様に懸念されている。下の論文はドイツからの報告である。

小児や青少年における抗精神病薬の処方
Antipsychotic Prescription in Children and Adolescents
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3950759/

 2005年から2012年におけるドイツの健康保険データの分析結果では、この年齢層(0~19歳)への抗精神病薬の処方ができないにも係らず、児童への抗精神病薬の適応外処方が増えている。
 
 ドイツでは、抗精神病薬の処方を受けている子供や若者の割合が2005年から2012年にかけて、0.23%から0.32%へと上昇していた。特に、非定型抗精神病薬(SGA)は、2005年の0.10%から2012年の0.24%と時代が新しくなるにつれて頻繁に処方されていた。年齢では、10~14歳(0.24%から0.43%へ増加)と、15~19歳(0.34%から0.54%へ増加)という年齢層で抗精神病薬の増加が目立っていた。処方した医師は、主に、小児や思春期の精神科医と小児科医のいずれかであった。最も一般的に処方された薬は、リスペリドンとピパンペロンだった。リスペリドンは、多動性障害や行動障害の児童に最も一般的に処方されていた

 他の先進国と同様に、ドイツでも、近年、青少年への抗精神病薬の処方が増えてきている。ドイツでの数字は、北米のものよりも低いながら、欧州諸国では真ん中の範囲内にある。抗精神病薬の処方の増加の原因は検討されなければならない。抗精神病薬による長期的な治療効果は不明であり、副作用も懸念される。もし、不必要な処方であるならば批判されるべきであり、適切なものであったとしても、児童への抗精神病薬の使用に関しては、より厳密なガイドラインが制定されるべきであろう。

(論文終わり)

 ADHDの児童に過剰に投与れているのは抗精神病薬だけではない。下は、デンマークからの報告であるが、ADHDの治療薬(精神刺激剤)も過剰処方されていると報告されている。

 自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、他の精神疾患を持つ青少年へのADHD治療薬の国民への使用量はデンマークでは5倍にも増加していることが判明した。

自閉症スペクトラム障害、注意欠陥/多動性障害、他の精神疾患を持つ小児や青少年へのADHD治療薬が国民に処方される率は5倍に増加している:デンマークにおけるレジスタベースの研究
Five-Fold Increase in National Prevalence Rates of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Medications for Children and Adolescents with Autism Spectrum Disorder, Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder, and other Psychiatric Disorders: A Danish Register-Based Study
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3778945/
 
 この研究では、デンマークにおける(1)ASD、(2)ADHD、(3)他の児童の精神疾患という3つグループへのメチルフェニデート(methylphenidate)、デキサンフェタミン(dexamphetamine)、アトモキセチン(atomoxetine)の処方量と有病率の時代変化を推定した。

 1990年から2001年の間にデンマークで生まれた全ての小児と青年のコホートサンプルを統合して分析した(852711名)を。コホートデータから、メチルフェニデート、デキサンフェタミン、アトモキセチンの生涯処方の社会人口学的共変量を抽出し、処方期間を層別化した(6ヶ月未満vs6ヶ月)。

 その結果、ASDを有する青少年9698名の16%(1577名)、ADHDを有する青少年11553名の61%(7021名)、他の精神疾患を有する青少年48468名の3%(1537名)が1つ以上のADHD治療薬の投与を受けていた。3つのグループ全てで、これらのADHD治療薬の処方率の大幅な増加が認められた。すなわち、6~13歳までのASD、ADHD、他の精神疾の児童は、2003年から2010年にかけて、ADHD治療薬が処方される率は、それぞれ4.7倍、6.3倍、5.5倍にも増加していた(ADHDでもないのに、ADHDの治療薬がASDに投与されているのである)。

 今回の研究は、ASDの児童への精神刺激剤による治療を評価したこれまでで最大規模の研究である。16%ものASDの児童が精神刺激剤によって治療されていたという数字は、以前の研究と一致している。過去十年間で、デンマークの青少年におけるADHD治療薬の使用率は明らかに増加している。この増加は、ADHDを有するもののみに限定されるものではなく、ASDを含む神経精神障害を有する児童を含む。このような行為のリスクと利点に関してはさらなる研究が必要である。

(論文終わり)

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 こういった児童への向精神薬の適応外処方は、先進国で同様に起こっている現象のようであり、我が国においても例外ではないだろう。
 
 さらに、ADHDよりももっと深刻な事態になっているのが、デンマークの報告からも分かるように自閉症スペクトラム障害(ASD)である。ASDは、ASDだと診断される率自体が急増しており、それに従い、当然のごとく、向精神薬の使用も急増しているのである。
 
 しかも、抗精神病薬やADHDに使用される精神刺激剤などの様々な中枢神経系に作用する薬剤がASDの児童に対して使用されている。抗精神病薬と精神刺激剤は相反する薬理作用の薬である。もし、それらが同時に使用されているとするならば、全くナンセンスな薬物療法が自閉症スペクトラムと診断された児童に対して行われていることになる。
 
 特に、ASDの有病率の変化には首をかしげざるを得ない。例えば、アメリカでは2000年のASDの有病率は、6.7(1000人につき)だったが、2010年には14.7にまで上昇している。たった10年間で有病率が2倍以上になっているのである。このようなことが生物の世界で起こり得るのであろうか

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 これには、いろんな要因が考えられうる。まず、環境要因の変化(環境汚染、インフルエンザやトキソプラズマなど感染症、等)によって有病率が増加したことが考えられる。しかし、有病率が2倍以上にもなるような劇的な環境の変化があったであろうか。次に、考えられることは診断基準の変更である。DSMの普及によっ、診断閾値が下がり、ASDと診断されやすくなってしまったことが大きいのではと思える。そして、何よりも市場原理の方が要因としてははるかに大きいように思える。すなわち、ASDが増えたから向精神薬の使用が増えたのではなく、市場からの圧力によって、児童への向精神薬の使用を推進するために、ASDと診断されるケースが増えたためではなかろうかと私は怪しんでいるのである。

 下の論文はイギリスからの報告論文だが、イギリスもアメリカと同様な事態が起きていることが分かる。

プラマリーヘルスケアにおける自閉症スペクトラム障害への処方
Pharmacological treatments prescribed to people with autism spectrum disorder (ASD) in primary health care 
 自閉症スペクトラム障害(ASD)は、健康や社会的帰結に大きな影響を与え、子供の1%がASDという影響を受ける。米国におけるASDとその個人に対する向精神薬の使用は、時代の経過と伴に急増しており、現在では50%以上のケースに多剤併用が行われている。英国では、いかなる向精神薬も自閉症では承認されていないが、英国におけるASDへの薬物治療の実態は殆ど知られていない。

 そこで、我々は、代表的なプライマリケアデータベースを使用し、英国におけるASDの診断、向精神薬の処方、1992年から2008年の間における0~24歳の精神神経合併症の有病率などを評価した。
 
 その結果、ASDの有病率は、0.01%(1992年)から0.50%(2008年)と65倍にも増加していた。向精神薬はASDの29%(1619/5651)に処方されていた。最も多く処方された薬は、睡眠剤(患者の9.7%)、精神刺激薬 psychostimulants(7.9%)、抗精神病薬7.3%)であった。多くの患者では、精神刺激薬が1.5~6.3%、睡眠剤が2.2~5.9%と長期使用されていた。ASDの37%に神経精神疾患の合併症が記載されており、最も一般的なものは、発達障害や学習障害(12.6%)、行動や行為障害・人格障害(11.1%)、注意欠陥多動性障害(7.5%)であった。

 英国の医師はアメリカの医師よりも処方の際には保守的である。しかし、精神刺激薬や抗精神病薬の使用は、一般集団よりもASDを有するものではるかに高くなっている。しかも、2008年のデータでは、向精神薬が処方されたケースの34%に多剤併用が認められた。

(論文終わり)

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 こういったASDにおける薬物治療の傾向は、アメリカや英国以外の国々でも同様のようである。

自閉症スペクトラム障害への処方: 多国的研究
Psychopharmacological prescriptions for people with autism spectrum disorder (ASD): a multinational study.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24005531

 これまでの自閉症スペクトラム障害(ASD)における向精神薬の使用に関する研究は米国や英国からのものである。しかし、これらの研究結果は、他の国には一般化できない場合がある。そのため、この研究では、2010年~2012年に子供と大人におけるASDの治療のために向精神薬の処方されたパターンを調査した。ただし、データベースは、ヨーロッパ(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国)、南米(メキシコ、ブラジル)、北米(カナダ、米国)、アジア(日本)からの多くの国々のデータベースを使用した。
 
 その結果、北米の国がASDへの最も高い処方率を示し、ヨーロッパや南米諸国がそれに続いていた。しかも、処方率は大人に比べて子供のASDで高かった。青少年のASDに対する最も一般的な処方薬は、(英国と日本を除いて)、リスペリドンであった。英国では、メチルフェニデート(34%)が最も一般的であり、日本の若者ではハロペリドール(44.1%)が最も処方されていた。成人のASDでは、最も一般的に処方されていた薬は抗精神病薬であり、特に、リスペリドンであった(チオリダジンとジプラシドンは、それぞれ、ブラジルとアメリカの成人のASDに対して最もよく処方された抗精神病薬であった)。

 個々の国によるASDへの向精神薬の処方薬の相違は診断基準や臨床ガイドラインやヘルスケアシステムに起因する可能性がある。しかし、ASDへの向精神薬の有効性と安全性の証拠が不足している現状を鑑みれば、ASDへの処方における根拠のギャップを埋めるための研究が必要である。

(論文終わり)

 次の論文でも同様な報告がなされている。しかも、ASDへの処方率はGDPという経済的な要因によって変化していることが示されている。これは、若者への向精神薬の処方は、明らかに経済的な要因、すなわち、市場原理が優先されていることを意味している。

30カ国における自閉症スペクトラム障害(ASD)への向精神薬の処方率の変化
The variation of psychopharmacological prescription rates for people with autism spectrum disorder (ASD) in 30 countries. 
 ASDやその併存疾患の治療のための処方は個々の国々によって大きな差がある。しかも、低/中所得国ではメンタルヘルス障害を持つ多くの人々に対して適切な治療が施されていないことが示唆されている。そこで、本研究では、30カ国における自閉症スペクトラム障害(ASD)への向精神薬の処方を調査した。IMS処方データベースはヨーロッパ、アジア、オセアニア、中米、南米、アフリカの大陸で30カ国から得た(2007年から2012年までのデータ)。さらに、一人当たりの国内総生産(GDP)を、各国の収入のためのプロキシとして使用し、スピアマン相関から一人当たりの処方率とGDPとの間の関連を調べた。
 
 その結果、西ヨーロッパ(3.89~36.36/10,000)において最も高い処方率が見出された。一方、最も低い処方率は、トルコ、インドネシア、サウジアラビア、パキスタンなどのアジア諸国で見出された(0.04~0.82/10,000)。ASDの併存疾患の治療のために最も一般的に処方された薬は、殆どの国においてリスペリドンであったが、抗うつ薬や抗てんかん薬も頻繁に処方されていた。
 
 そして、一人当たりの処方率とGDPとの間には有意な正の相関があった、つまり、処方率が高いほど、一人当たりGDPが高い。すなわち、処方率には国際的な違いがあり、これは経済的な要因によって処方が決められていることを意味する。

(論文終わり)

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 経済的に恵まれていない国では処方には抑制がかかるのは間違いない。特に、高価な薬剤においてはそうであろう。しかし、値段が安い薬やジェネリック医薬品ならば、抑制はかからないことも予想される。
 
 この点に関しては、下の論文では次のように報告されている。

自閉症スペクトラムを有する小児や青少年に対する向精神薬の過剰使用:発展途上国からの視点
Overuse of psychotropic medications among children and adolescents with autism spectrum disorders: perspective from a developing country.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22119705
 
 薬物療法は、自閉症スペクトラム障害(ASD)への治療の一部にはなる。しかし、発展途上国での向精神薬の使用のパターンについては殆ど知られていない。そこで、我々は、イランにおける自閉症を有する345名の児童への向精神薬の使用について調査した。その結果、調査された児童の80%が、現在、少なくとも1つの向精神薬を使用していた。97%は昨年中に少なくとも1つの向精神薬の処方を受けていた。抗精神病薬は、最も処方頻度が高い薬(57.4%)であったが、抗うつ薬は8.7%という少ない使用頻度であった。向精神薬の処方と、臨床や人口統計などの任意の因子との関連性は認められなかった。今回の数字は予想した以上の処方率であり、発展途上国においても、ASD児童に向精神薬(特に、抗精神病薬)の過剰な処方が行われていることを意味する。

(論文終わり)

 発展途上国のイランでも同様にASD児童への抗精神病薬の過剰使用が懸念されているのである。どうやら、ASD児童への向精神薬の過剰処方は世界的な規模で行われているようだ。

 なお、唯一の例外はドイツだけのようだ。さすがは、いい加減なことが大嫌いで何でも厳密に対処するドイツ人である。アメリカとは異なり、ASDへの向精神薬の過剰な処方はしていないようだ。逆に、このようなデータがあるということは、ASDに対しては薬物療法は必ずしも必要ではないということを意味するようにも思える。

ドイツにおける自閉症スペクトラム障害を有する小児や青少年に対する向精神薬の使用
Psychopharmacological treatment in children and adolescents with autism spectrum disorders in Germany. 
 自閉症スペクトラム障害(ASD)の児童への薬物治療に関するデータが不足している。この研究は、ドイツにおけるASDと診断された青少年への精神科薬物療法の利用率を調査したものである。健康保険会社のデータを使用し、ASDと診断された0~24歳歳の外来患者の1年間(2009年)における処方率を同定した。さらに、2004年から2009年かけての処方の時代的な変化傾向を分析した。
 
 その結果、ASDの有病率は、男性は0.37%、女性は0.12%であった。2009年では、ASDの患者の33.0%が向精神薬の処方を受けていた。そして、12.5%は精神刺激剤(stimulants)かアトモキセチンが処方されており、抗精神病薬は11.7%、抗てんかん薬は9.1%、ベンゾジアゼピンは6.8%、抗うつ薬/ SSRIは3.8%に処方されていた。関心を引いた薬剤としては、メチルフェニデートが全ての向精神処方に占め割合として24.4%が処方されており、リスペリドンが13.3%、バルプロ酸が9.1%と最も頻繁に処方されていた。
 
 薬物治療を受けている率は、年齢と伴に増加し、0~4歳では16.3%だったが、20~24歳では55.1%へと増加していた。年代では、向精神薬で治療を受けているASD患者の割合は、2004年の25.9%から2009年には33.0%と上昇していた。
 
 ドイツでは、ASD患者への向精神薬の処方はメチルフェニデートとリスペリドンが最も頻繁に処方されている薬物であり、年代を経るにつれてドイツでもかなり増加しているという証拠を提示している。しかし、USAのデータ(50%以上のASD患者が多剤を処方されている)と比較すれば、薬物治療を受けているASD患者の割合は、ドイツでは著しく低いと言える。

(論文終わり)

 しかし、ドイツでも、自閉症児童に、ドーパミンを上げるメチルフェニデートと、ドーパミンをブロックするリスペリドンという、薬理作用が正反対の矛盾したような薬剤が使われているのである。これは、ASDではドーパミンシステムを刺激すべきなのか抑制すべきなのか、いったいどちらが適切なのかと問われれば回答できなくなり、厳密に考えればおかしいことなのだが、そういったことがまかり通っているのである。

 ドイツではまだ3割のASD児童が向精神薬の処方を受けているに過ぎないようだが、はたして日本ではどうなのであろうか。
 
 日本では第一世代の抗精神病薬であるハロペリドールが自閉症児童に最も多く処方されている薬剤のようだ(ハロペリドールならば査定を受けにくいという事情もあるのだろう)。しかし、日本では、自閉症への適応症を取得している薬剤はピモジド(オーラップ)のみである。だが、ピモジドが使われることはないようだ。ピモジドは併用禁忌が多く(SSRIやエリスロマイシンなど)、QT延長を起し易い薬剤であり、最近では成人においても殆ど使用されなくなったからであろう。今後は日本においてもアリピプラゾール(エビリファイ)などの第二世代の抗精神病薬が増えていくものと思える。アリピプラゾールは、アメリカでは2012年にASDの癇癪症状に対する適応症を取得している。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%94%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%AB 

 なお、ここまで述べてきた児童へ中枢神経系に作用する薬物を使用する点に関する懸念をまとめたような総説があるので、それを紹介する。
 
 まずは、何でも厳密にしないと気が済まないドイツ人の研究者からの懸念である。

小児や青少年における向精神薬
Psychotropic Medication in Children and Adolescents
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3950758/

 青少年の精神障害における薬物治療の使用量は、ドイツでも近年顕著に上昇している。これは、2003年~2006年に行った調査で明らかになった。

 Bachmannらは、児童への抗精神病薬の処方に関連する一般的な問題点を指摘している。非定型向精神薬(atypical neuroleptics)の殆どが青少年への使用は承認されておらず、従って、このクラスの薬物は、多くの場合、ラベルオフの状態で使用されている。また、承認された適応症は青少年の統合失調症、妄想性障害、双極性障害に限定されており、しかも、子供では、精神障害や自閉症スペクトラム障害に伴う攻撃性、衝動的行動や反応、自傷に対するものに限定されている。

 青少年への向精神薬の処方が驚くほどに増加し続けている理由に対する明確な答えはない。Bachmannらは、いくつかの理由を上げた。変更されたケアの状況、非定型向精神薬の激しいマーケティング、心理療法よりも薬物治療が好まれている、等である。さらに、Bachmannらは、メタ解析にて、青少年の精神障害の真の有病率は実際には上昇していないことを論文で発表している。そして、専門学会の青少年の精神障害に対する治療のガイドラインが変更された訳でもない。

 驚くべきことに、他の多くの欧米諸国だけでなく、ドイツでも同様に、青少年に対して抗精神病薬が以前よりも頻回に処方されるようになっている。たとえば、英国では、Raniらによれば、1992年から2005年にかけて7~12歳の児童において抗精神病薬の処方が倍増し、古典的な向精神薬から非定型薬剤へと変更されていることを発見した。彼らは、適応症の拡大診断基準の変化によって、薬物治療がさらに好まれるようになったのではと推測している。

 私自身が行ったドイツへの研究でも、2000年から2006年にかけて向精神薬の処方が大幅に増加していることを発見した。しかし、この増加は、英国よりもやや少ないものであった。この期間に、古典的な抗精神病薬の処方は減少し、代わりに非定型抗精神病薬の処方が増加していた。そして、特に、15~19歳の男児への非定型抗精神病薬の処方が増えていた。統合失調症スペクトラム障害の有病率の増加はなく、統合失調症以外の他の適応症への処方がこの現象を説明する上で一般的なものだと思われる。おそらく、攻撃性や衝動性を伴う行動障害に対して非定型抗精神病薬が処方されたことが処方の増加の主な要因であろう。

 Tyrerらの攻撃的な行動を有する患者への向精神薬の効果の研究では、抗精神病薬は、そのような患者にルーチンで与えるべきではないと批判的に結論している。しかも、プラセーボと比較して有意な効果は認められなかった。MatsonとWilkinsが指摘したように、向精神薬(抗精神病薬)の使用は、攻撃・反抗性や衝動的な行動が深刻なタイプに限定すべきである。

 現在では、深刻なタイプではないケースに使用されているという反対方向への傾向が観察されており、行動への介入(心理療法)の方が経験的に優れていることが示されている一方で、そのことは無視されており、攻撃性への向精神薬の適応は縮小されるよりも拡大されて解釈されている。この科学的な証拠がないにも係らず向精神薬の処方が行われているという事実は、Bachmannらも強調してしている。

 Bachmannらによる論文は、現在の抗精神病薬による治療パターンは批判的に再評価されねばならないという重要な結論を出しており、我々も同様に考えている。科学的証拠が不足しているにも係らず、攻撃性や衝動性に対する非定型抗精神病薬のラベルオフでの使用が増加している。非定型抗精神病薬の使用は、児童精神医学のガイドラインにも記載されていない(抗精神病薬は、マルチモーダルアプローチの1つとして使用されたかどうかも不明なままである)。リスペリドンは、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の患者の61.5%で処方されており、社会的行動障害を有する患者の35.5%に処方されていた。これらの所見は、Bachmannらによって成された考察の重要性を強調するものである。

(論文終わり)
 
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 次は、世界精神医学会のフォーラムで提示された意見である。

欧州における児童への向精神薬使用の疫学
A European perspective on paedo-psychiatric pharmacoepidemiology
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3683262/

 実態は国によってかなり違うが、児童における向精神薬の処方率が過去より上昇していることは間違いない。しかし、この現象は、市場原理によって意図的に青少年に対する向精神薬の使用が増やされているせいではなかろうか。
 
 児童における薬物治療の急増は、児童精神医学のアイデンティティに脅威を及ぼす。調査結果からは、小児や青年における向精神薬の過剰処方は、様々な国で程度が異なっていることが示されている。これらの違いを理解するためには詳細な分析が必要である。

 国際的な研究によって、小児や青年における向精神薬の処方率は国によって大きく異なることが示されている。2000年の若者における向精神薬の処方率は、米国(1,000人あたり67人)は、オランダ(1,000人あたり29人)やドイツ(1,000人あたり20人)よりも大きかった。世界の国々における違いは、個々の薬物のグループについても観察されている。例えば、米国のデータでは、2000年における0~19歳への抗うつ薬の使用率(1,000人あたり16.3人)は西ヨーロッパ諸国(1,000人あたり1.1~5.4人)を大きく超えている。

 さらに、処方の総数と各種の薬剤の使用の双方が年代によって変化している。子供への向精神薬の処方数は、2000年~2002年の間に、ヨーロッパ、南米、北米で上昇している。オランダでは、抗精神病薬、ベンゾジアゼピン、抗うつ薬、精神刺激薬の処方率は、1995年の1000人対して11.1人から、2001年では1000人対して22.9人に増加している。これらの年代による動向は、抗うつ薬、抗精神病薬、精神刺激剤の個々の薬剤においても観察されている。

 しかし、年代動向に関するデータの殆どは、調査された集団による特性、短い年数期間、無計画な観察期間によるバイアス(偏見)がかかっている。長い伝統があり品質が保証されているスカンジナビアのサンプルは、こういったバイアスの影響を受けていない。我々が最近行ったデンマークへの調査は、1996年~2010年間における0~17歳の全ての人口に対する15年連続の向精神薬の処方箋の一貫性ある分析調査である。この調査の主な結果は以下の通りであった。まず、15歳以上の向精神薬の使用率は9倍に増加した。この増加は、公衆衛生サービスの援助求めていた患者数の増加分を調整した場合は減少した。しかし、調整後でも、観察期間にわたって、処方は2倍以上の高さがあった。
 
 第2に、この傾向は、精神刺激剤において顕著であり、非調整の処方率では23倍の増加であり、調整した処方率でも8倍の増加であった。抗うつ薬の場合は、9.5倍の増加(調整後は1.8倍の増加)であった。抗精神病薬の場合は、6.6倍の増加(調整後は2倍の増加)であった。このようにデンマークの向精神薬の処方率は増加していたが、他の欧州諸国よりも、特に、米国よりは低かった。

 Vitielloは、多くの要因が児童への処方に影響を与えることを示唆した。すなわち、健康サービス組織、診断システムの違い、診療ガイドラインの遵守、薬物の規制、使用できる財源の配分の変化、青少年の精神疾患への文化的態度、などの要因である。この点に関して、デンマークの公衆衛生システムが市場から圧力の影響を相殺しているかどうかは不明なままである。

 しかし、スカンジナビア諸国における健康サービス体制はほぼ同じにも係らず、スカンジナビア諸国における向精神薬の処方率が著しく異なっているということは、厳密な薬物の規制や財源の配分に基づくはずの本来提供されるべき公衆衛生サービスが、市場プロセスによる強いコントロール下にあるということを意味するのであろう。
 
 デンマークはICD-10を使用しているが、米国はDSM-IVを使用しており、さらに、殆どの欧州諸国は臨床ガイドラインを厳格には順守しておらず、こういった診断システムの相違も影響を及ぼしている可能性がある。

 他の関係する要因としては、青少年の精神疾患に対する専門家や一般市民の文化的態度が異なることもあげられる。この点に関する研究やデータはないが、デンマークの社会のいくつかの特徴、すなわち、社会階層の差が小さい、安定した大規模な中産階級の存在、市民への無料公衆衛生サービス、生活の質が高いという国民感情、といったことが青少年へ向精神薬が過剰に処方されるという傾向に影響を与えている可能性がある。
 
 また、デンマークと欧州の児童精神医学の現状は、エビデンスに基づくガイドラインよりも、患者志向の評価や治療が奨励されている可能もある。しかし、この青少年への向精神薬の処方の増加という現象に関しては、さらなる詳細な分析が必要であろう。

(論文終わり) 

 社会福祉制度が充実している国ほど小児や青少年への向精神薬の処方が急増しているのである。日本も社会福祉制度が充実している国であり、同様に小児や青少年への向精神薬の処方が急増していることが懸念される。

 なお、既に、2012年6月、NHKのクローズアップ現代にて、日本においても青少年への向精神薬の処方が急増していることが報道されており、警鐘が促されていることを付け加えておく。我が国でも青少年への向精神薬の過剰使用という状況に陥っているのである。
(上のNHKクローズアップ現代の動画。この動画は必ず見ておくべきであろう。)
http://www.dailymotion.com/video/xua9fw_%E5%90%91%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E8%96%AC%E3%82%92%E3%81%AE%E3%82%80%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82_tech

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 このように、世界中において青少年への向精神薬の処方が急増しているという実態が明らかになった。
 
 しかも、それは市場原理に支配されての社会現象であることは明らかである。
 
 では、こういった社会現象は、このままでいいのであろうか。将来に大きな禍根を残さないのであろうか。
 
 国は、こういった市場原理を強力に排除し、青少年への向精神薬の過剰な処方に歯止めをかけていかねばならないのではなかろうか。それこそが政治の使命であろう。もはや、医師達は市場原理によって支配されているも同然の状態である。政治が介入せねばこの問題には歯止めはかからないものと思える。
 
 皮肉にも、何でも規制せずに自由に競争させる自由主義のアメリカでその傾向が非常に顕著になっている。それは国が積極的に規制しないからであり、逆に、こういった分野は国の強力な規制が絶対に必要な分野なのだということを意味しているように思える。

 既に、このブログでも紹介したように、抗精神病薬の長期投与による有害事象として、灰白質の容積の減少や白質のFA値の低下といった有害事象が判明しつつある。これは成人での所見であるが、もし、脳の発達段階にある児童でこういった影響が生じたら、成人における抗精神病薬の場合よりもいっそう深刻な事態になることが予想される。
 
 児童では、精神科の薬剤に限らず、どのような薬剤でも成人よりは副作用が生じ易く、しかも、成人よりも薬物に対してははるかに脆弱であり、成人よりも慎重に投与されねばならないことは、それは薬理学の基本中の基本の遵守事項である。
 
 当然のごとく、児童のいかなるケースにおいても、向精神薬は慎重に投与されねばならないことは他科の薬剤と同様である。精神疾患における薬剤は対症療法に過ぎないのであり、心理療法や行動療法などの薬物療法以外の対応が効果がないようなやむを得ないような深刻なケースの場合に限定すべきであり、しかも、努めて少量で、かつ、短期間に留めておくべきなのである。
  
 しかし、実態はそのようにはなっておらず、向精神薬が青少年に対して漫然と安易に処方されていることには間違いない。しかも、まだ精神病だとは診断されていないようなADHDやASDの児童に対して精神病に使用するはずの抗精神病薬が安易に処方されているのである。

 これでいいのであろうか。 

 しかも、恐ろしいことは、それだけではない。ADHDやASDでは依存性や中毒性があると分かっている精神刺激剤も処方されているのである。今のこのようなADHDへの薬物治療ありかたでは、生涯にわたってADHD薬を飲み続けなければならなくなるであろう。はたして、それでいいのであろうか。ADHD薬が脳の成熟を促進してくれるというエビデンスは何も示されていないにも係らず。
  
 注意障害や多動などの症状はADHD薬や抗精神病薬によって改善するのかもしれないが、その一方で、気付かない部分で大きな代償を払っているかもしれないのである。多動に対して処方された青少年への抗精神病薬による脳の灰白質や白質への影響が懸念されるように、注意障害の改善を目的として処方されたADHD薬の長期的な使用による有害事象(行動や認知機能への影響)がないとは言い切れまい。
  
 漫然と長期間にわたって抗生物質を児童に処方する医師はいないだろう。しかし、それは向精神薬でも同様である。精神疾患が慢性疾患だからといって、1型糖尿病に使用するようなインスリンと向精神薬が混同されて同じように扱われていないであろうか。

 下の論文は児童への薬物曝露の有害事象に関する総説だが、この論文では生物学的な観点から以下のように述べられている。特に、注意せねばならないことは、青少年期の向精神薬の曝露によって中枢神経系に永続的な変化(不可逆性)がもたらされる恐れがあるということである。すなわち、後戻りできないような変化が脳に生じてしまう可能性があるということである。

 言い換えれば、薬物によって青少年達の脳が改造されていることになる。まるで、仮面ライダーのショッカーのようなことが行われているのである。これは非常に恐ろしいことではなかろうか。

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(この論文は重要な論文だと思われるために全文を紹介する。)

思春期における薬物暴露の永続的な影響
Enduring Effects of Adolescent Drug Exposure

 思春期(Adolescence)は危険な時期である。ティーンエイジャー(10台の若者)は危険性や新規性を求め、危険性や新規性を求める行動は自分自身の健康に影響を与える。ティーンエイジャーの死因は事故で死亡する率が高く、ティーンエイジャーへの中枢神経系に作用する薬剤(psychoactive drugs)の影響は大きい。物質の使用が思春期という人生の早い時期に開始されると、成人早期での使用開始よりも、大人になってから薬物依存になる可能性が高くなるという説得力のある論文が多く提示されている。さらに、アルコールやタバコの使用の開始年齢と大人になってからの他の薬物依存との間に直接的な相関関係があることも分かっている。

 この相関関係を説明するために2つの考え方が提案されている。
 
(1) ティーンエイジャー自体が何かにつけて脆弱である。さらに、薬物を使用するような青少年は、生まれつき衝動的であり、危険な行動が好きであり、家族歴の影響があり、薬物使用は社会環境への挑戦のような行為である。

(2) 発達段階にある脳、特に、重要な最終段階にある脳が依存性薬物に曝露されることは、いっそう嗜癖に脆弱になるという永続的な変化を引き起こす。

 人における多くの研究が前者の可能性をサポートしているが、動物実験では、薬物の脳自体への作用が永続的であり、大人になってからの嗜癖の進行に寄与することが示唆されている(Cassらの論文などがこの後者の可能性を提示している)。

 Jay Gieddらの画期的な研究は、発達途上にある前脳(forebrain)は、思春期においても未だに著しい構造的な成熟が行われている最中であることが示されている。この研究では、思春期では危険を監視し出来事への感情的な態度を決定している扁桃体-皮質軸は未成熟なままであり、皮質よりも皮質下の報酬系システムの方が意思決定を強く支配していることが示されている(=青少年は報酬系の影響を成人よりも受けやすい)。
 
 これらの部位から大きな入力がある前頭前野は、遂行コントロールを担当しているが、成人に比べて思春期では機能はまだ低下している。思春期の齧歯類の研究でも、人間のように、薬物のような強化因子にドーパミンは過剰に反応し、罰よりも報酬が誘導されることが分かっている(=青少年は薬物という報酬が成人よりも容易に脳内に組み込まれてしまう)。
 
 動物試実験の数は少ないものの、大脳皮質の構造や機能といった多数の要素が、この思春期の脆弱性に寄与しうることが示されており、これらの脆弱性の中には、ドーパミンの反応が急速に進むことや、γ-アミノ酪酸(GABA)介在ニューロンによる抑制性のコントロールが成人よりも不足していることが含まれる。

 青少年における報酬、リスク、遂行機能のこの成人とは異なるバランスは、なぜ青少年が麻薬を使用し、それらに容易に強化されてしまうのかという理由を提示してくれるのであろうが、青少年時代における薬物への暴露自体が、中毒(嗜癖)のリスクを増大させるか否か、大人になってからの他の有害な行動上の問題を引き起こすのかどうか、といったやっかいな疑問に対しては、まだ何も明らかにはされていない(そのような実験を人に対して行うことは絶対にできない)。
 
 実際に齧歯類に行われた青少年時代に依存性を有する薬物を自己投与させた研究での成人期における結果からは、人生早期におけるニコチン、アルコール、コカイン、テトラヒドロカンナビノールの使用が、その後の人生における嗜癖のリスクを増加させるのか減少させるのかに関しては、相反するような結果が得られている。
 
 さらに、我々は、これらの薬物への曝露から生じる脳の変化が、大人になった時の行動を変化させるメカニズムに関しても少しも理解できていない。

 この問題に対するCassらによる研究では、青少年時代の依存性薬物への曝露の影響がどのように成人の脳に機能に影響するのかという点で大きなギャップがあることを提示している。

 Cassらの研究(PMC3722277)は、これまでは論理的で無視されていたターゲットを研究した。彼らは、迅速かつ正確にタイミングを図り皮質の錐体細胞の興奮作用を阻害している内側前頭前皮質(mPFC)におけるGABA介在ニューロンの高速スパイクを研究した。mPFCは、ワーキングメモリーと意思決定の作業に重要な役割を果たしており、コカイン中毒ではmPFCの機能が破壊されている。さらに、この破壊は、渇望やコカインの再摂取に寄与していると考えられている。

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 以前の研究では、皮質のこの部分における速いスパイクを出すGABA介在ニューロンにドーパミンニューロンが神経分布していることが示されており、コカインは、そのGABA介在ニューロンの活性を調節していることが分かっている。さらに、出生前におけるコカインへの曝露は、これらのニューロンの活性に影響を与えることも分かっている。
 
 Cassらは、コカイン暴露は、大人ではなく、思春期のmPFCの脱抑制状態につながることを本研究で示した。それらは青少年へのコカインの曝露は、皮質を抑制するための海馬からの重要な入力が減少することを示し、実際に、これらの皮質のニューロンは、思春期のコカイン曝露後に持続的な興奮を引き起こしやすくなっていた。さらに、コカインに曝露された動物では、コカインの暴露が終了した後も、最も吻側にある大脳皮質の部分は、大人になってからも、長期間にわたり代謝的に非常に活発な状態に変化していた。
 
 成人期における同等なコカイン曝露の研究では、これらの効果を有しておらず、多くの場合、対照(コントロール)研究という重要なことがしばしば省略されてしまっている。
 
 Cassらの研究は、コカインの曝露がGABA介在ニューロンの機能に影響を与えることができることが分かり、この結果は注目すべきことであった。ここで注意せねばならないことは、大人にそういった効果がないことは、発達臨界期にコカインに曝露されることで、中枢神経系の固有の発達に影響が及ぼされる可能性があることを意味する。
 
 さらに、彼らは、GABA拮抗薬の模倣物質や、GABAアゴニストが、これらの変化を逆にすることを示し、この現象を説明できるメカニズムを同定しようとしている。
 
 この研究について特に新しい知見であったことは、以前は無視されていたターゲットが炙り出れたことである。皮質におけるコカインの作用の焦点の殆どは、興奮性出力をアウトプットしている錐体細胞に当てられていた。しかし、介在ニューロンは、錐体細胞の興奮時間をロックする上で重要な役割を果たしている。さらに、介在ニューロンの成熟は、皮質の成熟においては最終的な発達イベントの1つであり、大人での意思決定の成熟度合にも貢献すると考えられている。今後の研究では、この永続的な変化を担当している分子生物学的な変化を同定することが望まれる。

 Cassらの研究は、コカイン使用による行動の帰結を評価していなかったが、その研究結果からは、青少年時代に中毒性の精神刺激剤を使用することで、大人になってからさらに衝動的となり意思決定機能が障害され、薬物中毒に関連した行動特性を示す可能性があることが予測できる。本研究は、これまで無視されていたターゲットの窓を開かせることが重要であり、そのことで思春期の薬物中毒(嗜癖)という現象を明確に説明し、将来の治療方法を同定していく上で役立つことを示唆している。

 これらの研究から発生する論争や問題の1つとして、注意欠陥/多動性障害(ADHD)を治療するために使用されるようなメチルフェニデートなど非中毒性(nonaddictive)の精神刺激剤への曝露が同様の効果を有するかどうかがある(注; メチルフェニデートは中毒性の物質であることは明らかであるが、この論文では非中毒性物質として扱われている)。

 動物実験による文献では、思春期における精神刺激薬の曝露の行動の結果については、投与経路の違いや、曝露の度合、投与量などの違いが混在しており、異なる結果が得られている。青少年時代でのメチルフェニデートの曝露では、他の薬剤への依存(嗜癖、addiction)のリスクが増加する、低下するという双方の結果が報告されている。しかし、人への暴露(低用量、経口投与、長期曝露)に最も近くマッチしている動物実験では、他の依存性薬物の自己投与の増強が最も低かったという結果が表示されている。
(霊長類でも同様の結果が得られているが、ただし1年間~30か月までの投与の結果である)

 注; ただし、上の3つの論文は共に自己投与という方法で対照群と差がなかったというだけの結果に過ぎない。しかも、メチルフェニデートvsコカインのみしか調べられておらず、そして、あくまで自己投与実験のみの結果であり、CPPなどの他の事象をも調べている訳でもなく、この結果をもって大人になってからの影響がないとは言い切れまい。さらに、大人になってからのアルコール依存性になる率が健常群の児童と差がなかったとも言われているが、はたしてそれだけで安全だと言えるのかも疑問である。既に、メチルフェニデートを飲み続けているから他の依存性薬剤を必要としないだけなのかもしれない。

 最後に、我々は保証と注意を同時に提言したい。青少年の大半は、薬物を乱用しない大人に成熟する。薬物使用は、全ての種類は成人早期にピークに達し、その後低下していく。動物実験では、動物の脳の成熟と伴に、アルコール、ニコチン、コカインの摂取が減少していく規範的なパターンが認められた。
 
 しかし、前述したCassらは、青少年期における薬物暴露の脆弱性を示唆している。この研究では、青少年の時代に薬物に曝露されることで、最も重要な思考機能を担っている脳の部分に永続的な長期的な影響が生じることが懸念される。今後の研究は、本研究で示された皮質からの抑制機能の変化が大人になってからの意思決定に影響を与えるうるかどうかを明らかにする必要があろう(こういった観点からは、メチルフェニデートによって意思決定の機能が損なわれてしまい、意志薄弱な大人になってしまう、すなわち、自分の意志をあまり持たない、何でも行政や政治が決めたことに言いなりになっているような、飼いならされた奴隷のような大人になる可能性があるように思える。これは、インカ帝国の奴隷と同じである)。
 
(論文終わり)

 薬物の自己投与(動物実験での薬物乱用のモデル)が増える訳ではないというだけで、児童へのメチルフェニデートの使用が安全だなんては言えないだろう。しかも、ゲートウェイ効果が完全に否定された訳ではない。意志薄弱になったため、誘惑に負けたり危険なことを冒し易くなっている傾向が生じているかもしれず、ギャンブルやアルコールや大麻や覚せい剤や麻薬や危険ドラッグなどに手を出し易くなっているかどうかまでは何も分からないままである(この問題に関しては意見が分かれており未だに決着は付いていないが)。
 
 しかも、子供時代のメチルフェニデートによる大人になってからの意思決定や思考や認知機能への影響に関しては何も調べられておらず(紹介した上の論文の内容からは、意志薄弱である、柔軟な思考ができなくなる、創造性がなくなる、等が予想されるが)、殆ど分かっていないのが現状である(そもそも、思考の柔軟性や創造性などは動物を使って調べることはできない)。
 
 意思決定思考の柔軟性創造性といった重要な機能に関してどのような影響が(おそらくかなりの影響が、しかも永続的な影響が)及ぼされるのかどうかは全く分からないままで使用されていることになる。
 
 さらに、メチルフェニデートが市場に多く出回ることは、ADHDの学生からADHDではない学生へコグニティブエンハンサー(スマートドラッグ)としてメチルフェニデートが不正転売されるという問題も懸念される。
 
 メチルフェニデートはドーパミントランスポーターをブロックすることで、シナプス間隙のドーパミンを上げるコグニティブエンハンサーなのでもあるが、それを使用するとロボットのような人間になってしまうことが分かっている。ロボットになるのである。まあ、危険なことではないのかもしれないが、思考の柔軟性や創造性といった人間として大切な機能を失うことになるのである。しかも、その変化は永続的な変化が予想され、大人になってからもロボットとして生き続けなくてはいけなくなるのである。私にはこれは非常に恐ろしいことに思える。
  

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 メチルフェニデートに関しては、さらに別の論文でも警告がなされている。特に、子供時代の早期にメチルフェニデートに曝露されることには大きな問題があると警告されている。

メチルフェニデートへの神経行動上の適応: 思春期の早期に曝露されることの問題
Neurobehavioral adaptations to methylphenidate: the issue of early adolescent exposure.

 精神刺激薬(psychostimulants)への曝露は、薬物の乱用と治療薬による使用が含まるが、人間では最初に曝露される時期は思春期(青少年期、adolescence)になる可能性がある。動物モデルを使用することは、思春期の特殊性を再現できるだけでなく、精神刺激剤の使用に対する神経行動学的な適応現象を研究するで役に立つ。
 
 人間の思春期は(一般的には9・12~18歳の期間とみなされるが)、ラットとマウスでは、生後日(PND)28・35~50日(28・35~50P)の間の時期として比較されている。この思春期の時期の齧歯類では、基本的に多動(自発運動の亢進、hyperlocomotion)であり、感覚を追究し危険を伴う行動になりやすいという強い傾向があり、探査行動が高くなる。
 
 (注; 人間の子供も、じっとしているのが嫌いで、落ち着きがなく、好んで危険な場所に探検に行ったりするのと同じである。しかし、今は、そういた子供はすぐにADHDだと診断されてしまうのかもしれない。私の場合もそういった子供だった。たまたま生まれた時代が昭和という時代であり、おおらかな時代であり、子供はそういったものだからと、社会や学校でも受け入れられていただけなのかもしれない。しかし、今の時代は、学校から精神科に受診するように指導されて、ADHDだと診断され、抗精神病薬が投与されることになるのであろう)。
 
 しかも、自発運動の感作の増強、薬物によって誘導されるはずの常同症が出ない、場所への条件付けが減少する、といった精神刺激薬への奇妙な反応が思春期の齧歯類では報告されている。
 
 この時期では、前脳のドーパミンシステムは、大量のリモデリング(改変)を受けることになるが、このことが思春期で観察される風変わりな行動を説明し、ある種の薬物への脆弱性を説明できる神経生物学的な基盤を提供する。
 
 さらに、この見地から、メチルフェニデート(MPH、RitalinRとしても知られる)は、注意欠陥/多動性障害(ADHD)と診断された小児および青年に広く処方されている精神刺激薬であるが(注; メチルフェニデートはドーパミントランスポーターをブロックするといった薬理作用を有し、それはコカインと同じ薬理作用である)、その長期的な使用における安全性の問題を提起することになる。MRI検査では、MPHによって誘発される急性効果は、成人と比較して、思春期のラットにおいては異なるように見える。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%81%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%8B%E3%83%87%E3%83%BC%E3%83%88
 
 さらに、MPHの思春期の曝露は、永続的な神経行動上の変化を惹起する。すなわち、自己管理能力の長期的な変調、本来の報酬や薬物への報酬の感受性の低下ストレスで誘発される情動反応の増強であり(それは同時に、皮質下ドーパミンシステムへの皮質による支配の増強を伴っているのだが)、側坐核内のHtr7遺伝子発現の永続的なアップレギュレーションを伴う(注; ストレスへの情動反応の増強は、言い換えれば、ストレスによってPTSDが生じ易くなっているとも言える)。
 
 要約すると、動物モデルによる研究は、思春期MPHの長期的な影響の理解を深め、さらに人生の初期の段階におけるMPHのような薬理学的治療の処方や投与の安全性を調査する必要があると言える。

(論文終わり)

 市場ではADHD児童へのメチルフェニデートは安全なように宣伝されているが、こういった論文を読むと必ずしも安全とは言えないように思える。

 さらに、青少年では、大人になってからの機能を変化させてしまう結果になるという薬物に曝露されることに特に脆弱な時期(vulnerability windows)があり、かつ、曝露されることになる薬物の薬理作用(どういったモノアミン系に作用するのかどうか)によってその時期は様々に異なるであろうと考えられるようになってきている。
 
 従って、この特定の薬物に脆弱になっている時期に、該当する薬剤に曝露されると深刻なダメージが脳内に及ばされ、大人になってから影響が出ることになる。
 
 この点に関する研究論文としては既に下のような論文が発表されている。
 
大人の感情と認知行動に影響を与えるモノアミンに敏感な発達の時期
Monoamine-Sensitive Developmental Periods Impacting Adult Emotional and Cognitive Behaviors

(有料の論文であり本文が見れないので、アブストラクトのみを紹介する。ただし、図と表は見れた。)
 
 発達段階にある脳は、敏感になっている時期を通過して成熟していくのだが、その時期は、成熟していく過程でも消失することがないような影響を中枢神経系に与え、遺伝的要因や環境要因によって脳の可塑性が影響を受ける時期でもある。中枢神経系の発達に関しては、そのような敏感になっている時期は、行動を起し、行動を調節し、行動をコントロールする役割を担う神経回路が形成される時期でもある。
 
 こういった一般的なメカニズムによって脳の発達は可能になるのだが、それは、遺伝子による青写真や環境内容の双方に左右される。そのような敏感な時期では、適応することを可能にする一方で、外部要因と内部要因が他のレジリアンス的な発生プログラムを狂わせることによって、疾患へのリスクを与えることになり、それは脆弱性の窓を開くことになる。

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 この論文では、精神医学と関連するモノアミン神経伝達システムや、大人になってからの行動に影響を与えることができる敏感になっている発達時期に関するレビューを行う。特に 我々は、(1)感覚システムの発達に影響を与えことになるセロトニンに敏感な時期、(2)認知機能、不安やうつに関連する行動に影響を与えるセロトニンに敏感な時期、(3)攻撃性や衝動性や精神刺激薬に対する反応に影響を与えるドーパミンとセロトニンに敏感な時期、についてレビューをする。さらに我々は、メカニズム的な洞察を提供してくれる前臨床データについて議論するが、それは、疫学的なデータや、臨床的データとの関連性を指摘するものとなろう。
 
 今や、トランスレーショナルな発達神経科学の分野は、指数関数的に進歩しており、確固たる概念の進歩やメカニズムに関する前例のない洞察を提供できるようになっている。発達に関する知識や方法論に関する技術革新が進行しており、精神神経疾患の発生起源を解明する分野がブレークスルーしつつあり、病態生理を理解するための態勢が整いつつある。行動の発達という複雑な軌道を決定する敏感な時期に関する知識は、神経精神疾患の予防や治療のアプローチを改善する上で必要なステップなのである。
 
(論文終わり)

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 脳の発達段階の脆弱性を有する時期に、薬物によってドーパミンやセロトニンなどのモノアミン系を操作することは、大人になってからの行動や感情や認知機能を変化させるだけでなく、疾患のリスクをも高めてしまう(疾患への窓を開いてしまう)結果になることに注意せねばならないのである。

 この観点からは、青少年へ抗うつ剤、特に、小児にSSRIを処方することは、大人になってからの不安障害やうつ病の原因を作ってしまうことにもなりかねず、非常に危険な行為となることが理解できる(この問題に関しては次回以降のブログで詳しく触れる予定である)。

 さらに、SSRIだけでなく、抗精神病薬も精神刺激剤も、同様に疾患への窓を開くことになろう。すなわち、抗精神病薬が精神病への窓を開き、精神刺激剤が依存性疾患への窓を開くことになるのである。
 
 下の論文は、前述の論文と同じ研究グループの論文であるが、青少年へのセロトニントランスポーターの阻害(=SSRIの投与)を安易に行わない方がよいと警告するような内容になっている。

2つの敏感な発達期間中にドーパミンやセロトニン神経伝達を操作することは、成人になったマウスの攻撃性や感情行動に対して別個の影響を与える
Dopamine and serotnin signaling during two sensitive developmental periods differentially impact adult aggressive and affective behaviors in mice.
 モノアミンオキシダーゼA(MAOA)やセロトニントランスポーター(5-HTT)を薬理学的に遮断することは、成人期においては抗うつ効果や抗不安効果を有している。しかし、遺伝子的な変異によるMAOAや5-HTTの機能低下は、攻撃性の変化や不安/抑うつの増加と関連している。この論文では、発達過程にあるモノアミンのシグナル伝達を増加が、これらの攻撃性や感情を逆説的な表現型に変える原因になるかどうかの仮説を検証する。
 
 我々は、生後直後の発達時期(P2-P21)では、MAOAを阻害することで大人(> P90)になった時に不安やうつ病のような動作を増大させることを見出したが、同様に、セロトニントランスポーターを抑制 (5-HTT inhibition)することでも生じた。しかし、思春期の前の時期(P22-41)ではそういった効果は見出させなかった(=小学生にSSRIを処方することは危険である)。
 
 また、思春期の前の時期(P22-41)におけるMAOAの阻害は、大人になった時の攻撃的な行動を増加させたが、P2-21やP182-201の時期では見出せなかった。さらに、P22-P41の時期におけるセロトニントランスポーターの抑制は、大人になった時の攻撃的な行動を減少させた。
 
 一方、P22-41時期におけるドーパミントランスポーターの阻害は、大人になった時の攻撃的な行動を増加させたが、ノルエピネフリントランスポーターの阻害では見出せなかった(=小学生高学年や中学生・高校生にメチルフェニデートを処方すると攻撃的な大人になってしまうのかもしれない)。
 
 従って、P2-21(=小学生高学年以下)という時期は、セロトニン(5-HT)による大人になってからの不安/うつ的な行動を調節する上で敏感になっている時期であり、P22-41(=小学生高学年や中学生・高校生)という時期はドーパミンやセロトニンの双方による大人になってからの攻撃性を調節する上での敏感な時期だと言える。
 
 P22-P41(=小学生高学年や中学生・高校生)という時期におけるモノアミン神経伝達の増加という事象によるドーパミン系の機能の永続的な変化は、大人になってからの攻撃性の基礎となる。
 
 我々は、この仮説が支持するような、成人期におけるアンフェタミンチャレンジによる自発運動の反応と攻撃性の変化は正の相関関係を有することを見出した。さらに、ドーパミン機能の変化と攻撃性との間の因果関係を証明すると共に、VTA(腹側被蓋野)のドーパミンニューロンの光遺伝子学的な活性化が攻撃性を増大させることを実証した。
(光遺伝学について)
 
 従って、敏感な発達期間におけるドーパミンやセロトニンのシグナル伝達に影響を与えることは、遺伝子的な要因や薬理学的な要因に影響を与え、大人になってからのモノアミン神経系の機能を変化させることになり、攻撃性や感情的な機能における障害のリスクを修飾することになる。

(論文終わり)

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 論文では特定の時期に限定された所見のように書かれてはいるが、これはあくまで齧歯類での所見であり、脳の発達過程は人類と齧歯類では大きく異なるため、人間においては、未成年ではあらゆる薬剤に対して大人よりも敏感になっていると考えた方が良いであろう。

 日本でも平成25年度に厚生労働省から通達が出され、それに基づきSSRIの使用上の注意が改定され、事実上、青少年への使用ができなくなったが(それでも、パキシルなどの一部のSSRIは使用できるのだが)、はたして日本の今の実情はどうなっているのであろうか。
(厚生労働省からのSSRIに対する通達)
(パキシルを小児に使用してもいいのか)
(FDAでは青少年へのパキシルの使用は推奨されないという声明文が2003年に出されているのだが)

 しかし、こういった論文を読むと、青少年に向精神薬を安易に処方することは絶対に慎むべき行為だということが分かる。

 青少年時代に中枢神経系に作用を及ぼすような薬物に曝露されることの影響に関しては、まだ何も分かっておらず、現在、臨床で使用されている薬物が安全である、無害であるという保証は全くないのである。このことを忘れてはいけないであろう。

(それにも係らず、市場原理に支配されて、世界中の青少年達に向精神薬が投与されていることになる。これは、もの凄く恐ろしいことではなかろうか。しかし、この背景には、経済がグローバル化したが、新たな産業を創出できずに苦しみ続けている人類の姿が浮き彫りになってくる。人口が限界近くまで爆発し、もはや経済は21世紀からはマイナス成長の時代に入ったのだが、それでも経済成長が最優先され続け、手っ取り早く成長できる産業分野として、青少年達への向精神薬の投与という決して手を出してはいけない領域に足を踏み込んでしまったようにも思える。人類は本当に滅亡へと向かい始めたのかもしれない・・・・。)

(次回に続く)

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STAP細胞は存在したのか(嘘についての考察)


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(以下の内容に関しては、今回は私の下衆なかんぐりに基づいてブログを書いていることを予め御了承下さい。全てが私が勝手に推測した内容に基づいて書かれたものであり、個人の名誉を損ねてしまうようなことも書かれているため、書かれてある内容は全てフィクションなのだと解釈して頂きたく存じます。)

(参考にしたサイト)

 昨年度は、青色LEDの開発という功績が称えられ日本からノーベル賞の受賞者が3名も輩出され、日本という国の素晴らしさを改めて実感できた1年であった。

 しかし、その一方で非常に残念なこともあった。

 それは、既に関心が薄まり忘れ去られつつあるが、日本の科学界を大きく揺るがせたSTAP細胞である。
 
 STAP細胞の論文がNatureに掲載されるや否や、2014年1月28日、突如、iPS細胞をも超えたノーベル賞級の世紀の大発見だと華々しく報道されたのである。論文を書いた小保方氏のチームは会見を開き、大々的なプレゼンテーションを行い、彼女は自ら「STAP細胞にて夢の若返りも可能」だと締めくくった。マスコミが大きく取り上げたことで、STAP細胞、小保方晴子という科学界の新しいスーパースターが突如として誕生したのである。この衝撃はまさにディープインパクト級だった。
(STAP細胞という世紀の大発見を報告する小保方さんの会見動画)
https://www.youtube.com/watch?v=Nf6slUvvpLI

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 そして、下村文部科学大臣安倍総理大臣もSTAP細胞には大きな期待を寄せているという声明を出した。小保方氏は、安倍内閣の女性の積極的な起用という政策の象徴的な人物としても抜擢されたのである。
 
(安倍内閣までもが期待を寄せている人物。この小保方さんて、凄い人物なんだろうな。)
 
 最初は、皆、この発見を本物だと信じていた。私も信じていた。これは本当にすごい大発見だ。
 
 その後、マスコミは連日小保方氏をヒロインのように報道し、理研のピンク色や黄色に塗られらた彼女の研究室や、割烹着を着て実験する彼女の姿や、ムーミンの絵が飾ってある冷蔵庫の写真などが披露された。亀を飼っている水槽で亀と戯れている彼女の姿も報道された。

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 そのフィーバーぶりは凄まじく、中学を受験する予定の小学生までもが必死でSTAP細胞というものを勉強した程であった。

 しかし、その頃から、逆に、あの一連の報道内容を見て、何か変だ、やっていることが非常識だ、何かおかしいなと思った人が出始めたのである。
 
 ラブホテルじゃあるまいし、こんなピンク色黄色で塗られた空間の中で集中して実験ができるのだろうか。しかも、実験室の棚は試薬瓶もなくスカスカである。冷蔵庫には普通は実験のスケジュールや試薬などのリストが貼ってあるのだが、ムーミンの絵を貼っているだけである。しかも、実験中には割烹着などの私服は絶対に着ない。しかもラボの中にはなどの実験に使う動物以外は一切持ち込めない。そんな物を持ちこんだら汚染の原因になるだけである。細胞培養をした経験がある人なら分かるはずだが、ちょっとした汚染でも細胞はすぐに死んでしまう。細胞培養は非常にデリケートな作業なのである。亀などを持ち込んでいて実験室が汚染されてしまったら培養は失敗してしまうだろう。

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(この人は、本当に実験をしているのだろうか・・・・。まさか、そんなことが・・・・。)
 
 そして、その後、共同で研究に従事した若山先生がSTAP細胞の再現を試みているが成功できないことが報じられ、STAP細胞の再現を試みた世界中の他の研究者からも同様に再現できないという報告が相次ぎ、あの論文は本当なのだろうかという疑惑が持ち上がった。この疑惑はカリフォルニア大学のKnoepfler準教授のブログで大きく取り上げられ、世界中の科学者が注目することになった。

 こうなると、ネットユーザーが黙っていない。マスコミが一切しなかったSTAP細胞の論文自体への点検作業がネットユーザーによって始められたのである。
  
 すると、どうであろうか。ネットユーザーから多くの疑惑が提出され始めたのである。
 
 日本の一般市民を馬鹿にしてはいけない。日本の一般市民は十分な科学力を有しているのである。簡単には騙されない。おかしなデータは一般市民によってすぐに見破らてしまう。
 
 理研や文部科学省が騙されて見抜けなかったことを、一般市民が見抜いたのである。
 
 画像データがおかしい。電気泳動のレーンが切り貼りされて1回の電気泳動でなされたように偽装されている。他の研究データの画像が加工されて何回も使い回されている。しかも、この画像は他の研究者の画像データじゃないのか。本当にT細胞が初期化したのだろうか。T細胞に分化した痕跡がないじゃないか。しかも、実験方法が他の論文をそのままコピーアンドペーストされている。KClがKC1になっている。PDFファイルからの文書をOCR変換したが、変換ミスをそのままにして論文に使ったのは間違いない。しかも論文に記載されていたライカ社のあのカメラは型が古すぎて今は使われていないはずだ。この論文はどう考えてもおかしい・・・・。

 出るわ、出るわ。次々と疑惑が指摘され、疑惑のオンパード状態になってしまった。
 
 さらに、彼女の過去の論文までもが点検され始め、学位論文の疑惑までもが指摘された。信じられないことだが、彼女は、大学院(学位論文)の時代から、そのデータは既に疑惑だらけだったのである。

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(そんなことは考えたくもないが、この人の人生って最初から全てが嘘で塗り固められているのではなかろうか・・・・。多くの人がそのような疑念を抱いたようだ。)
 
 後は、皆さんのご存知の通り。
 
 小保方さんは理研から事情聴取を受けるはめになってしまった。科学界のスターから、トンデモない不正をでっちあげた疑惑の人になってしまったのである。
  
 まず、若山先生が、3月10日に、STAP細胞に関して本当に存在するのか自信が持てなくなった論文は撤回すべきだとNHKなどのTVメディアを通じて呼びかけた。この報道は衝撃的であった。共同著者がTVを通じて論文の撤回を小保方さんに呼びかけたのである。この若山先生のTVを通じた会見の影響は大きかった。これで流れが一気に変わったように思う。

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 次に、この疑惑に関して、3月14日に理研から中間報告がなされた。
 
 そして、4月1日、理研から最終報告がなされ、小保方さんのNatureの論文のデータに改竄や捏造した部分があり、この不正行為は小保方さんの単独の行為である、懲戒処分も検討する予定であるという見解が調査委員会から発表されたのである。論文には不正があったと正式に認定されたことになる。

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(やっぱり、あのデータは捏造だったのか。そうなるとSTAP細胞自体の存在も怪しくなる。誰もが再現に失敗しているし、STAP細胞の存在自体も嘘なのかもしれない・・・・)

 しかし、彼女は、あの会見は不服だ、到底容認できないとして弁護士をすぐに雇った(弁護士は、あの船場吉兆の頭が真っ白会見を担当した弁護士である)。
 
(えっ?、弁護士がなぜ必要なんだ。なんか変だぞ。まだ懲戒処分が下された訳じゃないだろうに。しかし、なんて素早い対応なんだ。この対応の早さは何なんだ。刑事事件の容疑者が弁護士を雇って無罪を勝ち取るみたいな、そんな行為じゃないか。これは犯罪ですよと、モロに、自らそう証明しているようなものじゃないか。きっと、自分でやったことだから、この日が来るのを予想して準備していたんだな。STAP細胞、これはやっぱり小保方さんが企てた捏造事件なのかもしれない。)
 
 彼女は弁護士をつけた。そして、弁護士を通じてコメントを出し始めたのである。しかし、弁護士をつけたことで、疑惑は逆に深まっていくばかりであった。

 本当にSTAP細胞は存在するのか。でっちあげじゃないのか。国民の疑惑はピークに達した。
 
 4月10日、とうとう彼女は疑惑に答えるために会見を開いた。お騒がせして申し訳ありませんでしたと深々と頭を下げたのである。会見では、私はSTAP細胞の作製は既に200回以上成功したのだと述べ、「STAP細胞はあります」と涙を流しながら締めくくった。あの満面の笑みで会見した最初の会見と、このうつろな表情の謝罪会見。この落差はいったい何なんだ。STAP細胞が本物ならば、もっと堂々と会見すべきなのではなかろうか。しかも、STAP細胞が本物ならば、そもそも謝罪会見なんかする必要は全くない。一般市民が勝手に捏造だと騒いでいるだけなのだから。
(小保方さんの涙の謝罪会見の動画)
https://www.youtube.com/watch?v=Tcnepq7SDVw

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(謝罪会見をした。これって、疑惑を自ら認めたことになる。疑惑はやはり疑惑でした。はい、その通りでございます。申し訳ございません。すなわち、疑惑はやはり事実だったということなのか・・・・。)

 さらに、若山先生が小保方さんからSTAP細胞だと言われて保管していた細胞の遺伝子解析からは、STAP細胞は酸性刺激実験で使用したマウスとは違う株の細胞だったことが判明した。これは通常では絶対にあり得ないことである。誰かが途中で細胞をすり替えないとこういった事態は発生しない。
http://www.nature.com/news/gene-tests-suggest-acid-bath-stem-cells-never-existed-1.15425

(細胞が途中ですり替わっていたということは、じゃあ、小保方さんが別の多能性を有する細胞をSTAP細胞だと偽って若山先生に渡していたことになる。)
 
 当然、ネットでは、STAP細胞の正体はES細胞なのではという意見が出され始めた。

 キメラマウスの作成に急に成功したのは、ES細胞をSTAP細胞だと騙して若山先生に渡したから、急に成功したのだろうとという推測が大半を占めていた。もし、ネットでの推測が事実なのだとしたら、若山先生にES細胞をSTAP細胞だと騙して渡しておきながら、そんなことを一切悟られない演技ができるその能力。恐れ入るばかりである。

STAP-14

 (最終的には、小保方さんが若山先生に手渡したSTAP細胞と称する細胞の遺伝子解析結果は同じ理研の遠藤高帆上級研究員によって論文として正式に発表された。)

 一方、疑惑に関しては、4月16日に共同研究者の笹井氏も会見したのだが、納得のいくような会見にはならずに終了した。彼は、ライブセルイメージングなどからSTAP細胞の存在は支持されるという見解を述べていたのだが、既に、そのライブセルイメージング自体も、細胞が死ぬ間際の自家蛍光に過ぎず、細胞が分裂して増殖して見えるような映像も、マクロファージが死んだ細胞を貪食しているに過ぎない映像ではという意見が出されており、今さらそのようなことを言われても説得力はなく、私はひたすら彼女を信じているという科学者らしくない会見で終ったような印象はぬぐいきれなかった。
(大隅典子教授の反論)
 
STAP-15
 
 そして、STAP細胞は科学界の3大不正事件とまで言われるようになった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E4%B8%8D%E6%AD%A3%E8%A1%8C%E7%82%BA

 本当に実験していたのか。全てエア(架空)じゃなかったのか。世間の疑惑は消えることはなかった。

 ノートだ。実験ノートがあるはずだ。それを調べれば本当に実験していたどうかが分かる。一般市民からは小保方さんの実験ノートをチェックせよという意見も出され始めた。

 その声は無視できなくなったようだ。ちゃんと実験していたんです!!と、小保方氏の実験ノートが弁護士によって5月7日に披露されたのである。しかし、逆に、皆、驚いてしまった。

STAP-16
 
 何これ?、小学生の絵日記ですか。しかも、「陽性かくにん! よかった」、「移植 ♡」って、何ですか。こんなふざけた記載を実験ノートにしていいのでしょうか。この人は、実験そのものを舐めているとしか思えません。真面目に実験していたとは到底思えないノートです。キメラマウスが行方不明になったり、いつ実験したのかも日付もきちんと書いていないし、実験の条件が殆ど書かれていないような実験ノート。しかも、3年間の実験でたったの2冊。この小保方さんという女性は、ものすごくいい加減で無責任な人なんだということがこのノートでよく分かりました。
 
(あの実験ノートで日本中がとどめを刺されたようだ。この実験ノートにはiPS細胞でノーベル賞を受賞した山中博士も呆れていた。)

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 さらに、6月16日、若山先生が会見を開いた。若山先生がSTAP細胞はES細胞だった可能性が高いと断言したのである。

 さすがに、あの会見は小保方さんにも響いたようだ。あれだけ反対していた小保方氏もSTAP細胞の論文を撤回することに同意し、論文は7月2日にNatureからSTAP細胞の論文は撤回されたと発表された。STAP細胞の存在はついに白紙に戻ったのである。

STAP-18

 小保方さんは、その後、自ら再現実験を取り組むことになった。不正を防止するために監視カメラ付きで第三者が立ち会うという条件で。前代未聞の再現実験である。しかし、あの小保方さんならばすぐに再現してくれるはずだ(しかし、小保方さんの初日はいきなりのお休みでした。汗;)。

STAP-19
  
 そして、一連の疑惑は7月27日のNHKスペシャルで特集されて報道された。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E5%A0%B1%E5%91%8A_STAP%E7%B4%B0%E8%83%9E_%E4%B8%8D%E6%AD%A3%E3%81%AE%E6%B7%B1%E5%B1%A4
 
 NHKスペシャルでは、STAP細胞はES細胞の可能性が高く、そのES細胞は若山先生のチームが作成したES細胞を、小保方さんが無断で拝借して使用したのではという疑惑があるということを暗に示唆するような内容だった。すなわち、STAP細胞事件は窃盗事件と同じことになるのである。


 
 しかし、そうこうしているうちに、不幸な出来事が起きてしまった。8月5日、共同研究者の笹井氏が自殺したのである。これには日本中の国民が驚きと悲しみに包まれてしまった。
 
 皆を幸せにするはずのSTAP細胞は自殺者を出すという悲劇的な事態にまで発展してしまったのである

 幸せにするはずが不幸にする細胞だったのである。 
 
 なぜ、あそこまで業績を積んだ笹井氏が自殺する必要があったのであろうか。本当にSTAP細胞(STAP現象)が実在するのであれば、堂々と何回も再現してみせればいいだけじゃないか。それで疑惑や汚名は十分に晴れる。自殺したことは、STAP細胞(STAP現象)は実在しないと逆に証明しているようなものではないか。
 
 NHKスペシャルで男と女の不適切な関係があると取り上げられたことが大きかったのではいう意見もネットではあったが、上司と部下の不適切な関係、そんなことは大人社会からすれば、よくあることで、実際にあったかどうかは分からないが、あのクリントン大統領だって男と女の不適切な関係が実際にあったのである。そんなこと、大人の世界ならばあり得ることであり、誰もたいした問題じゃないと気にはしないはすだ。ヒラリー夫人も夫の過ちを許した。クリントン大統領をもっと見習うべきだった。たぶん、そんなことで自殺したのではないだろう。
 
 もしかしたら、笹井氏は、自らの死を持ってSTAP細胞は実在しないことを証明したかったのかもしれない。きっと理研も文部科学省も、大きな汚点になってしまうため、STAP細胞に関してはうやむやにして終わらせるはずだ。政治の世界はそれでいいのかもしれないが、科学は政治ではない。
 
 政治の世界の事は科学の世界では通用しない。このままうやむやで終れば、日本の科学界を大きく後退させてしまうことになる。今回のことで、日本への信頼を損ね、日本の分子生物学が背負ってしまったダメージは測り知れない程大きいものだったのかもしれない。日本の研究者に対しては査読がいっそう厳しくなり、日本人が書いた論文は、なかなか一流雑誌に受理されなくなってしまうかもしれない。それは科学者の良識としては絶対に許せないことである。
 
 科学者としての良心が、自分自身を責めたてる。このままうやむやで終らせていいのか。小保方氏の嘘を見抜けずに嘘の論文を完成させてしまい、日本の分子生物学の分野に大きなダメージを与えてしまった責任を取らねばならないのではないのか。そう思い込み、死を選択してしまったのかもしれない。
 
 「STAP細胞を必ず再現してください」というあの遺書は、小保方氏や理研や文部科学省に対して、これ以上嘘はつくなという最後の痛烈な皮肉をこめたメッセージだったように私には思える。

STAP-20
STAP-45

 (自殺したことは、本当にただ残念でならない。死ぬ必要は全くなかった。皆、分かっていた。ただ小保方氏に騙されていただけだということを。後に真実を語っていれば、疑惑や汚名はすぐに晴れたはずだ。名誉はすぐに回復したはずだ。しかし、これで真実を語れる人がいなくなってしまったのは確かである)。

 その後、理研のCDBは規模が縮小されることが決まり、多くのスタッフが職を追われることになった。STAP細胞の最初の会見の時からすれば、本来ならば、もっとCDBは大きく発展するはずだったのだが、この結末はあの最初の会見からは想像だにできなかった。

STAP-21
 
(政府が理研のCDBの規模の縮小を決めたということは、政府もSTAP細胞は存在しないと思っていることを間接的に証明しているようなものである。)
 
 そして、理研からは今年の3月に出されるはずだったSTAP細胞の再現実験の最終報告が、予定を3か月も早められて2014年12月19日に出されたのであった。
 
 結局、STAP細胞は再現されなかった。理研はSTAP細胞の実験を打ち切ることを決めたと発表したのである。理研が言うには、小保方さん自身が再現を48回試みたが、1回も再現できなかったという。STAP細胞とおぼしき緑色に光る細胞を胚盤胞にインジェクションしたが、キメラマウスは一度も作成できなかったということであった。

 しかし、理研は再現できないことをもって、STAP細胞の存在を完全に否定した訳ではなかった。ただ再現できなかった、実験を打ち切ると言っただけで、STAP細胞は存在しないとは断言しておらず、在るとも無いとも何とも言えないような曖昧な最終結論になっていた。しかも、相澤氏は会見が終ったにも係らず、わざわざ戻ってきて、「小保方さんを犯罪者扱いして、あんな屈辱的な実験をさせやがって!!」と、国民に筋違いな怒りをぶつけ、最後に強烈なすかし屁をかましてくれるお粗末ぶりであった(そうなったのは不正だと認定されたからでしょうに。身から出た錆びのせいでしょうに。国民がさせたのではありません。理研がそう決めたのです。国民に怒りをぶつけるのはおかしいですよ、相澤さん)。

STAP-22
STAP-23

 一方、小保方さんは、自ら実験を行っても再現できなかったにも係らず、それでもSTAP細胞は存在すると考えているというコメントを弁護士を通じて発表した。

 もはや、ただ単に緑色に光る細胞が存在するだけなのだろう。正体は分からないが、多能性を有するのではなく、初期化したのではないことだけが確実な細胞が・・・・

(いつの間にか緑色に光る細胞ということに論点の中心がすり替えられており、キメラマウスが作成できるという初期化や多能性を有するという一番肝心なことが、小保方さん本人や理研によって無視されてしまっている。弱酸性刺激で初期化し多能性を有する細胞が作成できたということが世紀の大発見だったはずなのに、このままうやむやで終ってしまうのであろうか。)

 しかし、2014年12月26日に、理研の調査委員会から衝撃的な意見が発表された。STAP細胞は存在しないとほぼ断言できる、STAP細胞の論文は、ほぼ全て否定されたと考えて良いというコメントが発表されたのである。
(STAP細胞:理研調査委員会の会見一問一答)
(分かり易いスライド形式での調査委員会の報告書)
(調査委員会の正式な報告書)
(会見の動画)

STAP-24

 調査委員会が言うには、STAP細胞なるものは99.9%ES細胞である。考えられうることは、ES細胞が偶然混入したか、誰かが意図的に故意に混入させた(=不正行為)のどちらかしか考えられない。しかし、そんな何回もES細胞が偶然に混入するなんてことはあり得ない。従って、誰かが意図的に混入させたとしか思えない。
 
 しかし、論文の関係者への聞き取り調査をしたが、関係者は全員、ES細胞を混入させた事実はないと否定していた。小保方さんも絶対にしていないと回答した(小保方さんの場合は、調査委員会が質問する前に自ら「私は絶対にやっていない」と言ったそうな。調査委員会もびっくり仰天。小保方さん、あの~、まだ、質問していなんですが・・・・・汗;)。従って、調査委員会としては、STAP細胞は存在しないとは言えるが、不正があったとまでは断定できない、という結論になるという見解だった。

 会見では、実験室の見取り図を見せて、誰もが自由にインキュベーターに行き来できる状況になっており、しかも7日間インキュベーターの中で放置されるため、この7日間の間ならば誰もがES細胞を混入できる訳であり、混入させた人物は特定できないような説明がなされていた(誰がES細胞を混入させたのか、それを明らかにすることは調査委員会では無理である。警察や検察がやるべき仕事だろうというニュアンスが含まれていたように思える)。

STAP-25
 
 一方、FACSの実験データは、小保方さんは、実験した記録がなく(しかも彼女は記録を提出しない)、しかも、実験したとされる日は海外出張をしていた日もあり、どう考えても実験したとは言えず、このFACSのデータは捏造だと認定した(FACSのデータは捏造だったと、それは小保方さんも認めたらしい)。

 FACSを行っていなかった。これは、すなわち、弱酸性刺激を加えることになるCD45+のTリンパ球を準備していなかったことになり、STAP細胞の根幹に関わるような弱酸性刺激実験そのものをやっていなかったことになる。

 桂委員長は締めくくった。なんでこんないい加減な(架空の)実験が論文として完成してしまったのか。誰も(小保方さんの)データを見ておかしいとは思わなかったのだろうか。ちゃんとデータを点検していたのだろうか。生の実験データの記録も全く残していないし、実験ノートもないし。私にはこんなお粗末な話は到底信じられません。彼女を指導できる立場にあった若山先生と笹井先生の責任も大きいと思う。と苦笑まじりに会見を終えた(不正とかいうレベルではなくて、STAP細胞、こんなの全部作り話しだよ、ほら吹き男爵だよ、小保方さんは完全にビョーキだよ、もう呆れて笑うしかないよ、騙された笹井先生も若山先生も悪いんだよ、と言いたそうな回答だった)。

STAP-26
 
(確かに、委員長の言う通りである。今回のSTAP細胞事件は、小保方さんという人物の実態を知ってしまった今では、理研というトップエリートが集まる研究所としてはあまりにもお粗末な話である。しかし、不正だとは言えないという調査委員会の結論にはがっかりした。どう見ても不正じゃないか。責任の所存を国はもっと追求すべきだと言ってほしかった。)
 
 そして、小保方さんは、一転してノーコメントとなった。1週間前はSTAP細胞の存在を信じているというコメントを出していたのだが。弁護士とも連絡がつかない状態らしい。その後、イメージチェンジをして、ノーコメントで颯爽と去っていく小保方さんの姿がニュースで報道された。小保方さんはトンズラして雲隠れをするつもりなのは間違いないだろう。
 
(いったい、何じゃの、この小保方という女の豹変ぶりは。いい加減にせんかい!!。イメージチェンジだと。ノーコメントだと。トンズラだと。早く表に出てきて会見せんかい。STAP細胞があるのならば、それでもあると言うはずだ。これまでずっと、STAP細胞はありますと言い続けていたのに。ノーコメントということは、間接的にSTAP細胞は存在しないと自分で言っているようなものじゃないか。人が一人死んでいるんだぞ。全く責任を感じていないのか。最初から全部嘘だったのか。こら、何か返事をせんかい!!)

 しかも、小保方さんは、理研の不正の認定に対して不服を申し立てなかった。200回は成功した、STAP細胞はあります!!と、あれだけ必死で言っていたにも係らず。その結果、今年の1月6日、STAP細胞の論文は不正だったことが確定し、STAP細胞は最初から存在しなかったのだということを小保方さんが自ら認めたことになった(STAP細胞が存在するのであれば当然不服を申し立てするはずである)。
http://www.yomiuri.co.jp/science/20150106-OYT1T50067.html
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1501/07/news043.html

 最終的には、小保方さんは昨年の12月15日付けで退職願いを提出しており、理研も受理し、12月21日付けで正式に理研を退職し、この事件は幕を閉じたのであった(あの、世紀の大発見という記者会見から1年もたたずに退職し幕を閉じたのである)。

STAP-27
 
 結局、うやむやになったままで終わり、STAP細胞はいずれ一般市民からは忘れ去られるのであろう。
 
 調査委員会は否定したが、特許申請が取り下げられた訳ではなく、理研自体がSTAP細胞に関しては完全に否定した訳ではない(特許を取得することはないであろうが)。そして、小保方さん自身が否定した訳でもない。
 
 UFOやネッシーは存在しないという証明は、悪魔の証明と呼ばれる。それは誰にもできない証明なのである。STAP細胞は、UFOと同じような、悪魔の証明の仲間入りをして終わることになったのである。

 うやむやにして終わらせる。政治の世界ではよくある当たり前の決着方法なのかもしれない。私も、もし、政治家だったらうやむやにして終らせていたであろう。しかし、これは科学の世界の決着方法ではないことは確かである。

 これは政府の、そして、文部科学省の方針なのであろうが、私はそれでいいとは思っていない。科学的な決着には全くなっていないし、正しい政治的な決着にもなっていない。他の研究者は、特に、分子生物学会は小保方さんを刑事告訴すべきなのではなかろうか。いったいどれだけの税金が無駄な事に使われたことであろうか。日本の生命科学に関する研究の信頼をどれだけ落としたことであろうか。国民はそれで納得するのであろうか。なぜ、有罪にならないのであろうか。なぜ検察が動かないのであろうか。我々が払った税金で行われたものであるならば、我々には全容を知る権利があるはずである。政府から正式に特定機密に指定された訳でもない。このままうやむやで終るのであれば、政府から検察に動くなというストップがかかっているのではと勘ぐりたくもなってしまう。
 
 もしかしたら、政府や文部科学省も最初から加担していたのかもしれない。小保方さんという女性を安倍内閣の政策の目玉として起用するシナリオをSTAP騒動が起きる1年前くらいから描いており、理研とずっと裏取引をしていたのかもしれない。すなわち、政府が小保方晴子という女性をリケジョのアイドルとしてデビューさせようと裏でプロデュースしていたのである。あのような大々的な世紀の大発見という記者会見をさせていたのが、実は、文部科学省の指示で行われていたりして。しかも、セルシード株のインサイダー取引きに政治家が絡み、特許申請に国や文部科学省が絡んでいたとしたら・・・・。実際に小保方さんはSTAP細胞の論文の前にセルシード(株)関連の技術に関する論文を書いている。もしかしたら、刑事事件となって、検察の取り調べを受け、小保方さんに喋られたらまずいようなことがたくさんあるのかもしれない。安倍内閣を揺るがしかねないようなことが・・・・・。
http://abekobe-geinou.com/598.html
http://stapcells.blogspot.jp/2014/02/blog-post_48.html

STAP-28

 結局、あの騒動はいったい何だったのだろうか・・・・。
 
 私は、未だにこのSTAP細胞(酸性刺激で細胞が初期化するというSTAP現象)には関心を持っている。なぜならば、一連のSTAP細胞の騒動は人間の本質に関わる大きな問題を抱えているからである。
 
 それは「嘘」に関してである。
 
 STAP細胞(弱酸性刺激で初期化する細胞)は本当に実在するのであろうか。彼女は嘘をついていたのだろうか。それとも彼女はSTAP細胞は実在すると信じていただけなのであろうか。
 
 ここで、嘘とは、wikipediaによれば、事実ではないこと。人をだますために言う、事実とは異なる言葉。を意味すると解説されている。英語版では、真実でないと知りながら意図的に虚偽なことを述べることと定義されている。
 
 もし、細胞が死ぬ間際に呈する自家蛍光という現象を初期化だと見間違えて(=判断ミス)、ただ初期化したと信じていただけだったとすれば、そうなると、事実を誤認した内容を述べただけの行為ということになる(=嘘をついていた訳ではない)。では、あの論文のデータは誰が作成したのだろうか。キメラマウスが作成できただけでなく、Natureの論文では、T細胞以外の皮膚や肺や脳や筋肉などの他の分化した細胞からもSTAP細胞が作成されたというデータまでもが提示されていたのである(論文の図ではES細胞と同じレベルのOct4、Nanog、Sox2、などの遺伝子が発現している)。絶対にそこまではたどり着けないのだが、そのデータは誰が作成したのであろうか。

STAP-29
 
 小保方氏の他には誰もデータを作成する人物はおらず、それらのデータは彼女が作成したことには間違いないのではあるが、そうなると判断ミスをして事実を誤認していただけに過ぎないということにはならない。判断ミスなのであれば、自家蛍光の段階以上の先のステージには絶対に進めないからである。従って、この現象は初期化ではないと分かりつつも、初期化だと主張し(=意図的に虚偽の内容を述べている)、さらに、キメラマウスが作成できた、他の分化した細胞からもSTAP細胞が作成できた、次のステージに進めたのだという嘘を小保方氏が重ねていった可能性が高いのである。

 若山先生が言うには、彼女からSTAP細胞だという細胞をもらい、それを胚盤胞にひたすらインジェクションをしてキメラマウスを作成することを繰り返していたらしい。最初は、キメラマウスの作成は失敗し続けていたのだが(絶対に次のステージには進めないでいた)、ある日、今回も失敗だろうと思ったが、突然、キメラマウスが緑色に光ったとのこと。まさに、奇跡の瞬間である。彼女は涙を流し、若山先生と小保方さんは手と手を取り合って喜んだらしい。

STAP-30
STAP-31
 
(この話が本当ならば、小保方さんという女性は、ものすごい演技力の持ち主の詐欺師である。)
 
 しかし、最初から失敗にしかならないようなことが、特に、手技やマウスの株を変えた訳でもないのに、失敗した原因を突き止めて何らかの対策を講じたという方法を取った訳でもなく、急に成功するなんて、どう考えてもおかしな話である。若山先生はキメラマウスの作成に何回も失敗した時点で、本当に初期化した細胞なのだろうか、小保方さんの言っていることはおかしいとは思わなかったのであろうか。
 
(きっと、自分のインジェクションの手技が悪くて失敗し続けているのだ、小保方さんに本当に申し訳ないとしか思っていなかったのだろう。まさか自分は小保方さんに騙されているなんて、露程にも思っていなかったのかもしれない。)

 もし、STAP細胞が存在しないのであれば、彼女は嘘だと自覚しており、不正な行為だと自覚しつつも、架空のデータをどんどんでっち上げていき、論文を完成させていったことには間違いない。小保方さんは、まさに、天下の大嘘つきだったことになる。
 
 おそらく、笹井氏や若山先生は、STAP細胞が嘘だと分かっていたら、研究チームには絶対に加わらなかったはずである。笹井氏や若山先生は彼女に騙されていただけでなのであろう。そして、あの理研も文部科学省までもが騙されていたことになる。
  
 彼女は最初から嘘をついていたと仮定しよう。では、なぜ彼女は嘘をついたのだろうか。その目的は、その動機は・・・・。
 
 当然、論文として発表されれば、他の研究者から再現が試みられるのは間違いなく、嘘であれば、他の研究者から再現されるはずはなく、嘘だとすぐにバレてしまうことは誰もが想像できよう。
 
 普通はそこまで考えて行動するはずである。子供じゃあるまいし、いい歳こいた30歳にもなった大人が、そんな簡単にバレてしまうような嘘はつかないのではなかろうか。
 
 もしかしたら、彼女は、そんな想像力までもが欠如しているのであろうか。通常の感覚からすれば、とても信じられないような行動ではあるが、彼女には何か大きな脳の障害でもあるのだろうか。
 
 それとも、人間は、そんな脳の障害とは関係なく、すぐにバレるような嘘を平気でつくようにできているのであろうか。
 
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 今回は「嘘」に関してがテーマである。
 
 気になった私は「嘘」について調べてみた。

 しかし、検索をした結果は、非常に多くの文献がヒットした。その数はあまりにも膨大過ぎる。

 結論を先に言うと、人間は嘘をつくようにできているのである。嘘は人間においては通常のありふれた行為なのである。
 
 STAP細胞も嘘だった可能性があると十分に言えよう。
  
 検索でヒットした中で、これはと思った論文を紹介する。

 下の論文では、以下のような解説がなされていた。

 精神疾患で虚言癖(Pathological Lying)、虚偽性障害(Factitious Disorder)という疾患が定義されているが、そのようなものは精神疾患にすべきではない。人間は嘘をつくようにできているのである。嘘はユビキタスなのである(神のごとく、どこにでも嘘は遍在する)。人間においては、嘘をつくことは単なる通常の行為の1つに過ぎないのである。従って、虚言癖なるものを正しく定義することはできないはずである。嘘をつきたくて仕方がないような衝動性を有する者は、虚言癖としてではなく、強迫性障害だと定義すべきなのではなかろうか。

 NIHの研究者への調査では、回答した者の1/3において、自分の研究論文の中で、データの偽装(fabrication)、改ざん(falsification)、盗用(plagiarism)といった10種の不正行為の定義に当たることを1つ以上したことがあるという報告がなされた。これが事実であれば、科学論文のデータの3割程度は嘘が紛れ込んでいると思わねばならないことになる。さらに、ある調査では、アメリカ人の90%の人は自分は嘘つきかもしれないと認めている。さらに、人は毎日、1日に2回以上もの嘘をついているとも報告されているし、40%の者が1日に1回は嘘をついているとも言われている。

STAP-32

 嘘は様々な目的や理由のために使用される。もちろん、利己的な目的や(仮病など。病気や怪我を理由に仕事を休んでいる人は、かなりの率で仮病で休んでいるという調査結果がある)、自分が不正な利益を得るために嘘がつかれることが多いのだが(詐欺行為など。結果的に、他者を陥れて損害を与えることになる)、しかし、そういった目的以外でも嘘がつかれることがある。1989年に行われた調査では、アメリカ人の80%医師は、患者が利益を得ることができると思った時(利他的な目的のため)には嘘をつくことがあることが分かった。

(私も、絶対に良くなりますよ、私を信じてくださいと嘘をついている。良くならないかもしれませんなんて、本当のことは絶対に言えません。もし、うつ病の患者さんにそんなことを言ったら、絶望して自殺してしまうかもしれません。)

 さらに、嘘は、嘘をつく人の置かれた状況(状態)や性格や現実認識の程度にも左右される。PTSDの患者が治療を受けたいがために症状を大袈裟に訴えたとして、それは嘘をついたことになるのであろうか。そしてPTSDだけでなく、他の多くの疾患でもオーバーに症状が訴えられる傾向があることも分かっている。救いを求める時には、人はオーバーに表現するのである。一方、その人の性格傾向に問題があり、自己愛が強いがために事実と少し異なることを話した時は(元々、事実認識が自己愛のために歪んでいる)、それは嘘をついたことになるのであろうか。

 そして、心理学的な実験からは、人は、一般に、提示されたものを何でも真実であると思うようなバイアス(偏見)がかかっていることが示されている。提示されたものは何でも真実だと思うように人間はできているのである(若山先生も、小保方さんから渡された細胞はSTAP細胞なのだというバイアスがかかっており、それで騙されてしまったことは間違いないだろう)。従って、人類は嘘を見抜く能力に乏しいようにそもそもできていることになる。嘘を見抜く能力に乏しい人類が、いったい何を持ってそれは嘘だと定義(断定)したらいいのであろうか。

STAP-33
 
 もし、ある判断を伝えられて、それを信じ、その判断が間違っていた場合、それは嘘をつかれたことになるのであろうか。逆に、もし、意図的ではなく、ただ自分が間違った判断を下し(判断を誤ることは誰にでも多々あろう)、それを他者に伝え、その判断を他者が信じてしまった場合、それは嘘をついたことになるのであろうか。
 
 さらに、嘘は医学的な評価や生理学的な評価よりも、道徳的な価値判断や司法的な判断の方が優先される事項なのかもしれない。
 
 しかも、嘘と推測と作話と空想と妄想と否認との区別も難しい。明確に区別することができない場合が多いのである。
 
 従って、人間は嘘については殆ど何も分かっていないのに等しい。こいつは異常な嘘つきだ(=虚言癖がある、虚偽性障害だ)と診断することなどはできないのである。
 
(論文終わり)

 とにかく嘘は日常茶飯事の出来事であり、科学の世界でもよくある話なのであった。小保方氏が虚言癖などの精神疾患を有していなくても、嘘をついていたということは十分にあり得る話なのである。

 しかし、1つや2つといった少ない嘘ならば分かる。だが、STAP細胞の場合は、それがもし最初から存在しないのであれば、あまりにも嘘だらけになってしまうのである。では、人は、そんなに数多くの嘘をつけるのであろうか。嘘ばかりつく。数え切れない程のたくさんの嘘をつく。それは皆、そうなのか。それとも、ある特定の一部の人において、嘘ばかりつくのであろうか。

 この点に関しては、殆どの人は嘘はつかないが、嘘つきは少数派だが実際に存在し、そして、嘘をつく人は嘘ばかりつくし、しかも、その嘘は自覚されている、すなわち、嘘つきの人は、皆、大嘘つきの傾向があり、しかも、それを自分で自覚しているという論文があった。
 
 最近の研究では、ほとんどの人は堅実であり嘘をつかないが(嘘をついたとしても1日に2つ以内)、一方、嘘をつく人は少数派だが、こういった人は非常に頻繁に嘘をついていることが報告されている。本研究でも、ほとんどの人が嘘をついていないことが判明した。一方、重要なことは、嘘を頻回につくと回答した人は少数派ではあったが(5%)、実際に不正行為(カンニングなど)をする率や精神病質を有する傾向と相関していることが分かったことである。そして、彼らは道徳的な価値判断の能力が障害されている訳ではないことも分かった。

STAP-34
 
(論文終わり)

 世の中の20人に1人は嘘つきでなのある。そして、嘘つきの人は、多くの嘘をつき、不正だという判断力(道徳観)を有してはいるのだが、不正行為も平気でするというのである。
 
 小保方さんを、だんだんと理解できてきたように思える。

 さらに、嘘をつくと、だんだんと嘘をつくことが習慣になっていくという論文があった。嘘をついてばかりいると、嘘をつくことが当たり前になってしまい、もう後には引き返せなくなり、最後まで嘘で塗り固めて終わってしまうことになるのかもしれない。大学時代から論文で不正をしていた小保方さんは、不正をすることが習慣になってしまっていた可能性が高い。

 そして、不正なことをすればするほど、だんだんと道徳的意識も薄れていき、道徳意識の薄れが新たな不正や嘘を呼ぶことも分かっている。不正や嘘と道徳意識の薄れという悪循環に堕ちていくのである。まさに、これは小保方さんの歩んだ道そのものであり、論文でのデータ捏造だけでなく、不正出張や、いい加減な実験ノート、身分不相応なホテル住まい(費用は理研の予算からなのか?)、など無責任で不道徳なことばかりしていた背景が理解できる。
 
 しかも、そういった傾向は子供時代から認められるようである。一般に、どんな子供も嘘をつくのだが、育っていく過程で、だんだんと社会規範を学んでいき嘘をつかなくなっていく。しかし、中にはそういった社会規範を学べずに育っていくケースがあり、そういった子供が将来、5%という中に入る嘘つきになっていくのかもしれない。

STAP-35

 小保方さんは、高校時代から、付き合ってもいないのに彼氏と付き合っていると言い張るような不思議ちゃんだったようだが、嘘をついてはいけないという社会規範を学べなかった人なのかもしれない。高校時代から既に大嘘つきだった可能性がある。

 一方、ある一人の人間の不正でその組織が利益を受けるような時は、その人間は自己の不正を正当化し罪悪感を感じなくなり、さらに不正を重ねていくことも分かっている。理研は小保方さんの論文から特定研究法人の指定を確実なものにしようという狙い(利益)があり、それを小保方さんも知っており、そのため全く罪悪感を抱くことなくあのような虚構の論文を作り上げ、大々的な発表に至ったのかもしれない(皮肉なことに、そのせいで特定研究法人への指定は流れてしまったのだが)。

 そして、腐ったミカンが周りのミカンを腐らせていくように、嘘つきの人がそばにいると、その周囲の人々も嘘つきになっていき、ダメな人間になってしまうという論文があった。嘘つきは伝染していくのである。嘘つきがいる組織は腐っていくのである。

 理研のCDBも小保方さんの影響で、だんだんと腐っていって嘘をつくようなダメな組織になってしまったのかもしれない。他者からの厳しいデータの点検を受けるという研究討論会もせずに(極秘プロジェクト扱いだったからという言い訳をしていたが)、しかも、あのピンク色や黄色に塗った研究室を認めてしまうなんて、実験室に亀を持ち込むなどといった非常識なことを容認してしまうなんて、小保方ラボの周囲は腐ってダメになっていたという証拠であろう。
 
 特に、笹井氏や竹市氏がこの影響をまともに受けていたのは間違いない。若山先生も小保方さんのデータの点検を怠っていたのは間違いなく、小保方さんの影響を受けてダメな人間になっていたのだろう(若山先生は、今は山梨大学であり、そういった影響はなくなり真面目に頑張っておられると思うが、小保方さんと一緒に実験をしていた頃は若山先生ですら悪影響を受けていたのは間違いない)。

STAP-36
 
 (ただし、理研のCDB自体が全部ダメになっていた訳ではない。高橋政代先生などは、その影響をシャットアウトして、最後までCDB内部で戦っていたようだ。)
 
 なぜ、理研で極秘プロジェクト扱いになったのかの経緯は不明なままである。誰が極秘プロジェクトにすると言い出したのであろうか。私が想像するに、彼女が自ら希望して極秘プロジェクトにしたのだろうと怪しんでいる。関係者以外にデータを見られたら、騙し通すことができなくなってしまうからである。彼女の希望を最終的に認めたのは、CDBのセンター長だった竹市氏ということになろうが。
 
 笹井氏が自殺した時の竹市氏あの無責任な言葉には呆れてしまったが、CDBセンター長という立場にあった竹市氏の責任も非常に大きいものがあったと思える。そもそも小保方さんを理研に採用したのも竹市氏だし、若山先生や笹井先生に小保方さんを手伝うように指示したのも竹市氏だし、そして、ユニットリーダーに抜擢したのも、若山先生に会見させないように圧力をかけていたのも、笹井氏の辞表を受理しなかったのも、そして、最後まで小保方さんを異常にかばっていたのも竹市氏だったのである。竹市氏も相当腐っていたのは間違いない。

STAP-37

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 しかし、小保方さんは、本当に嘘つきなのだろうか。

 もしかして、嘘をついているんじゃなくて、ただ間違えていただけなのかもしれない。そのように良心的に解釈している人も未だに多くいるようだ。
 
 すなわち、細胞死の間際の自家蛍光という現象を、初期化によるものだと考え違いをしていただけと擁護する人が未だにいるのである。

 しかし、それだと、なぜ、ハーバード大学に留学していた小保方さん程の人物が、細胞が死ぬ間際の自家蛍光という現象を初期化だと間違えたのかという疑問が生じる。
 
 この点に関しては、妄想を形成しやすい人は急いで意志決定をしてしまうらしく、早とちりしてしまうという論文があった。小保方さんが早とちりした可能性は十分にあろう。

 下の論文では、妄想を抱く傾向がある人は、決定を下す前に、不十分な情報しか収集せずに意志決定を行っている。そして、すぐに結論にジャンプする。その結果、成功する可能性が低くなり、失敗が増えることになる。と述べられている。

 もっと、情報を取集して、なぜ、緑色に光ったのかを調べたら、きっと細胞死の時に自家蛍光という現象があることにたどり着き、これは初期化だと判断を誤ることはなかったのかもしれない。しかし、一目見た瞬間に、これは初期化に違いないとひらめき、自分の判断を疑うこともせずに、突っ走ってしまったのかもしれない。結局、この論文の著者が指摘しているように、すぐに結論にジャンプしたことで、大失敗に終わってしまったことになる。

 では、途中で間違いに気付いたとして、じゃあ、すぐに訂正して引き返せばいいじゃないかとは思えるのだが、人間は途中で間違いに気づいたとしても、プライド(自尊心)や自己愛が邪魔してしまうせいなのか、間違ったことを素直に認められず、そう簡単には訂正できないようにできているようなのである。
 
 下の論文では、人間性を保つ上で共通する重要なものとしては、全ての人間は、不完全であり、失敗し、ミスをするのだということを認識できるがどうかだと述べられている。言い換えれば、自分も不完全な存在なのであり、ミスを犯しうるのだということを常に意識して、自分のミスに気付いた時点で謙虚な気持ちになって、すぐに訂正していくことが重要なことになる。
 
 もし、そういうことをせずに、ミスを認めなければどうなるのであろうか。その結果、ますます状況は悪化していくだけであろう。ミスを認めるには、プライドや自己愛などは捨てて、他者を、そして自分自身をも思いやる心(Self-compassion)がないとできないようだ。自尊心が高すぎても低すぎても不正に走り易くなることが知られている。そして、Self-compassionが歪んだ自尊心から生じる不正行為を防止することも分かっている。思いやる心がミスや不正から自分を救ってくれるのである。

STAP-39

 判断ミスをしたことに気づいても、それを認めなければ、結局は嘘をついていることになってしまう。むしろ、こういったことで世の中には嘘が増えている可能性がある。
 
 自分がミスをしたことを認めないという極端な形が否認ということになるのであろう。否認のレベルになれば、それはもう、防衛機制の上からも一番病的なレベルであり、難治な状態である。
 
 STAP細胞の場合も、小保方さんが判断ミスをしていたと途中で気づいていたとしても、それを小保方さん自身が認めなかったために、あそこまでの暴走になってしまった可能性はあろう(小保方さんの場合は、否認のレベルにまでなってしまっている可能性もあるが)。
 
 判断ミスをしたことを謙虚に認めるには、自尊心(self-esteem)がしっかりと保たれているということの他に(この場合の自尊心は、プライドや自己愛などとは少しニュアンスが異なるのだが)、宗教的な背景も重要なようだ。キリスト教の社会では、教会で懺悔するという習慣があり、ミスを謙虚に認め易くなるような土壌があるのかもしれないが、日本にはそういった宗教的な土壌はなく、ミスをしたことをなかなか認めたがらない社会になってしまっているようにも思える。特に、政治家や官僚の国会答弁を聞いていると、まさに、自分の判断ミスを絶対に認めようとしないため、嘘のオンパレードになってしまっている。

 この点に関しては、若山先生は素晴らしかったと言えよう。STAP細胞の再現を試みたが、失敗続きだという自分のミスを謙虚に認め、なぜなのだろうかと自分自身に問うたことが、STAP細胞への疑惑に気づくことになり、あのTVでの会見につながったのだと思う。あの若山先生のSTAP細胞への疑義を表明した会見がなければ、STAP細胞の不正は暴かれることはなった。若山先生は、そんなパッと出た小保方さんとはものが違う。本物の研究者は謙虚なのである。
 
(かたや、小保方さんの方は、まだ事件と認定された段階でも何でもないのに、すぐに弁護士を雇ったりしており、被害者意識が丸出しで、謙虚さが全くないなと感じていた人間は私だけではないだろう。)

 若山先生は真実を述べたことできっと満足しているはずである。私は小保方さんに言いたい。真実をどうか述べてほしいと。
 
 fNIRSを使った研究では、嘘をついた時よりも、真実を述べた時の方が心(報酬系)が満たされることが分かっている。悲しいかな、人間は嘘をついていたら、いつまでたっても決して幸せな気持ちにはなれないようにできているのである。詐欺でいくらお金を儲けても幸せにはなれないのである。カンニングでいくらいい点を取っても幸せな気持ちにはなれないのである。嘘で塗り固めた論文を書いてNatureに掲載されたとしても、自分が幸せだと思えるようにはならないのである。嘘や不正行為、そんなことばかりしていたら、終いには、報酬系不全に陥り、うつ状態になってしまうことであろう(笹井先生もうつ状態になったのだけど。汗;)。

STAP-40

 ここで、さらに、大きな疑問が生じる。小保方さん程の人物である。もし、他の研究者ではSTAP細胞は再現できず、それなりの騒ぎになると想定した上で、敢えてあの世紀の大発見という会見を開いたのかもしれないという疑問である。
 
 その場合は、どういった背景があって、そのような大それたことをしたのだろうか。
 
(以下は、私と小保方氏の架空のやりとりである。)

 O氏: とりあえず、一流雑誌に私の論文が掲載されることが、私が今一番望んでいることなのよ。論文の中身が嘘かどうか、そんなことはどうでもいいのよ。「Science」、「Cell」、「Nature」、とにかく一流雑誌に掲載されなきゃダメなのよ。一流雑誌に掲載されることが今の私の全てなんだから。
 
 O氏: 私は、もっともっとキャリアアップするつもりなの。理研のCDBのユニットリーダーなんかで満足しているような人間じゃないのよ。
 
 O氏: 理研に就職した以上、自分が書いた論文が一流雑誌に掲載されない限り、理研から成功したとは認めてもらえないのよ。そんなこと分かりきっているじゃない。私は、理研を踏み台にしてもっともっとキャリアアップしていくつもりなんだから。

 O氏: 人生は、正直に生きていくことも大切だけど、もっと大切なことは成功することなのよ。今は正直者がバカをみるような時代なのよ。昔と今は違うのよ。嘘をついてでも、不正をしてでもいいから、成功しないとダメなのよ。そして、その成功を世間に大々的アピールすることが大切なのよ。
 
 O氏: 世間に大々的にアピールすることで、私の価値はさらに上がるのよ。見てみなさい。あの安倍総理も下村文部科学大臣も、私をベタ褒めして私の価値を認めてくれたじゃない。
 
 私: あの・・・、そういった考え方って、非常に危険なんじゃないでしょうか。それとも、今の人達は、皆、そんな考え方なんでしょうか。なにせ、私は、古い世代の人間なんで。
 
 O氏: あなた本当に馬鹿ね。今の時代はそんなことを言っていたら、出世なんかできないわよ。結果を出すためならば、不正行為や嘘をつくことなんて誰でもやっているのよ。私の世代では、高校や大学ではカンニングなんて皆やっていたわ。テータ捏造や盗作なんて常識なのよ。まあ、早稲田大学が特に凄いのかもしれないけれど。不正をしてでも結果を出す。そのことでしかキャリアアップしていけない。そして、キャリアアップしていくことで、少しでも高い社会的なステータスを手に入れる。これが我々の世代の価値観なのよ。
  
(今の学生の多くは中学や高校時代からカンニングなどの不正行為をしている。不正行為は当たり前となっている。それは、成功が全てだという価値観が背景にあるようだ。アメリカの大学生の75%は盗作やデータ改ざんなどの何らかの学業上の不正を行っている。驚愕のデータ。↓)

 O氏: 私の仲間は社会人でも多いのよ。耳が聞えなくても作曲できる佐村河内守さん、iPS細胞から作成した心筋の世界初の移植を成功させた森口尚史さん、ゴッドハンドで数々の遺跡を発見した藤村新一さん、世の中を良くするためにカラ出張をしたのだと号泣した市会議員の野々村竜太郎さん、9次元の世界に住んでいるキリストの生まれ変わりの大川隆法さん、地球環境のためにもっとCO2を増やせと力説している武田邦彦さん、数え上げたらきりがないわ。皆1回は成功を手にしているわね。そして、皆、私みたいに、綺麗ごとや恰好いいことや奇抜なことを言って、世間から注目され特別扱いされるのが大好きなのよ。そうすることで、初めて自己愛が本当に満たされるのよ。ああ、あの世紀の大発見の時の私の心の満たされようと言ったら。今でも思い出すたびに絶頂感に浸れるわ。それだけでも十分なのよ。

STAP-41

 
 0氏: あなたなんか、そんな体験をしたことは絶対にないでしょうね。可哀想な人ね。きっと私の気持ちなんか理解できないわ。佐村河内守さんや森口尚史さんや藤村新一さんも、絶頂感を体験できたから、結果的には不正がバレたけど、後悔はしていないはずだわ。後悔するどころか、嘘がバレなきゃよかったのに、今でも世間からの注目を浴びて絶頂感に毎日浸れていたのにぃとしか思っていないわよ。嘘や不正は注目を集めるための手段に過ぎないのよ。狼少年の話を知っているでしょう。あの少年が嘘をついたのは世間の注目を集めたかったからなのよ。バレるかバレないかなんて最初からどうでもいいことなのよ。
 
 私: 絶頂感を味わう。確かに、誰もが体験できるものではないですね。そんな体験をできて本当に良かったですね。
 
 私: しかし、確か最初の会見では、科学を冒涜していると批判されても、夜を泣き明かしながらも頑張ってSTAP細胞を実現させた。それは、社会に貢献したい、病気の人を救いたい、このSTAP細胞で子供を産めない女性を救いたいという一心で頑張ったからなんだというようなことを言ってましたけど。皆、その言葉を信じて、小保方さんって何て偉い人なんだと感動したんですよ。でも、嘘のSTAP細胞ならば、そんなことは最初から全く不可能なこと。その点に関しては、いったいあなたは、どう考えておられるんですか。


STAP-42

 O氏: 社会に貢献したい、病気の人を救いたい?、そんなの私には最初からどうでもいいことなのよ。このSTAP細胞で子供を産めない女性を救いたいって、そんなこと私が言ったかな。全然、覚えていないわ。だって、他人のことなんか、どうでもいいんだもん。世間の注目をさらに集めるために適当な嘘をついただけよ。
 
 O氏: 他人は利用するだけ。私にとっては他人は私が利用するために存在しているに過ぎないのよ。若山センセも、笹井センセも。バカンティ教授も。皆、私が利用しただけなのよ。おーホホホホ。
 
 私: ところで、あのような大々的な会見まで開いてしまって、もし、STAP細胞が嘘だとバレたらどうするつもりだったのですか。
 
 O氏: もし、嘘だとバレたらどうするのかって。そんな時は適当にごまかせばいいのよ。そんなの当たり前でしょ。佐村河内守さんや藤村新一さんも、そんな気持ちで不正をやっていたのよ。嘘だとバレたら適当にごまかせばいい。でも、今まで一度も嘘だとバレたことはない。私の場合は特別だ。きっとこれからも嘘だとバレることはないだろう。きっとそんなことにはならない。しかし、万が一嘘だとバレても大丈夫。ジョセフ・ゲッベルスのあの有名な言葉があるのだから。これまで何度かバレかけたこともあったけど、嘘を続けていたら、また、皆が信じてくれた。ジョセフ・ゲッベルスのあの言葉には間違いはない。嘘をつく人や不正をする人は、誰もがそんな気持ちのはずよ。
 
 O氏:  私も同じよ。私は、大学の時から嘘やコピペや捏造で、ずっとそれでうまくやってきたのよ。あの、世界的な詐欺師のバカンティ教授だってすっかり騙されて信じてくれたわ。詐欺師ですら私には騙されるのよ。当然、若山先生も、笹井先生も、小嶋先生も、竹市先生も、相澤先生も、大和先生も、常田先生も、皆、信じてくれたわ。皆、私に騙されたのよ。私にかかればイチコロなのよ。今回もきっと成功するはずよ。嘘だとバレないはずよ。でも、たとえ嘘だとバレても大丈夫。その時はジョセフ・ゲッベルスの法則が私を必ず守ってくれるのだから。まあ、そんな軽い感じで会見に臨んだのよ。
 
 O氏: あなた、ジョセフ・ゲッベルスの言葉を知らないのね。あなたって馬鹿ね。嘘つきって、皆、あの言葉を信条にして嘘を平気でついているのよ。

 O氏: このジョセフ・ゲッベルスの法則を貫き通せば、STAP細胞もいつかは本物だとして認定されることになるのよ。本当はSTAP細胞は最初から実在なんかしないんだけどね。テヘっ。

STAP-43
 
(そんなことを考えながら、あの世紀の大発見の会見に臨んでいたとしたら・・・・(;゚Д゚))

 この点に関しては、ジョセフ・ゲッベルスの言葉にも触れておかねばならないだろう。
 
 詐欺を完成させることはできる。なぜならば、繰り返し嘘をつけば、その嘘が真実になる。この言葉を知っている人は多いだろう。
  
 小保方さんも、この言葉を知っており、この言葉を信じていたからこそ、あのような暴挙に走った可能性もあろう。
 
「嘘も100回言えば真実になる」
ジョセフ・ゲッペルスの法則

あなたが、頻繁に嘘を繰り返すと、人々はそれを信じるであろう。
If you repeat a lie often enough, people will believe it.
あなたが、頻繁に嘘を繰り返した場合、それが真実になる。
If you repeat a lie often enough, it becomes the truth.
あなたが、十分に大きな嘘を言い、それを繰り返し続けた場合は、人々は最終的にはそれを信じるようになるだろう。
If you tell a lie big enough and keep repeating it, people will eventually come to believe it.
あなたが、十分に長く嘘を繰り返した場合、それが真実になる。
If you repeat a lie long enough, it becomes truth.
あなたが、嘘を何回も繰り返すと、人々はそれを信じ始めなければならないようにできている。
If you repeat a lie many times, people are bound to start believing it.

(出典、ジョセフ・ゲッベルス)

 まあ、TVのコマーシャルも、製薬会社の宣伝も、政権演説も、講演会の内容も、皆、これと本質は変わらないのかもしれないが。
 
 黒柳徹子さんが「東和のジェネリック(は素晴らしい)」と何度もTVで言えば、あの黒柳徹子さんが「東和、東和」と言っているのだ。「東和のジェネリックはきっと素晴らしいんだ」と皆、信じてしまうことになるのである。
 
(ジェリック医薬品が素晴らしいだと?。冗談じゃない。安かろう悪かろうな物が素晴らしい訳がない。黒柳徹子さん、原末は中国産かもしれない、しかも、市販後副作用調査すらろくにしない、そんなジェリック医薬品のどこが素晴らしいのですか。あなたも小保方さんと同じで嘘をついているとしか思えません。だいたい、ジェネリック医薬品のCMに出ること自体が良識を失っているし。)

STAP-44
 
 小保方さんは、最初から、これを狙っていた可能性もあると私は考えている。

 O氏: ふふふふ、STAP細胞は再現できなくて当然よ。まだ私にしか作成できないのだから。コツがあるのよ。公開されていないレシピがまだあるのよ。でも、特許を申請中だから教えてあげたくても教えられないのよ。特許を正式に取ってから、もっと詳細なコツやレシピを公開するわね。だから、あなたには今再現できなくても我慢してね。でも、必ずSTAP細胞は存在しているのよ。皆さん、今言ったことは本当の事よ。だから、STAP細胞の存在をどうか信じてちょうだいね。
 
 O氏: そう言ってごまかしておけばいいのよ。そのうちに、きっと皆が信じるはずだわ。幸福の科学の大川総裁や中部大学の武田邦彦先生のように。そうなればSTAP細胞は真実になるの。これがジョセフ・ゲッベルスの法則よ。だから、論文をリトラクトする(取り下げる)なんてことは絶対に承認できないわ。
 
(あの謝罪会見で、小保方さん自身が、こんなことを言っていたのは、皆さんもよくご存じであろう。)

 O氏: こんな屈辱的な会見は本当はしたくなかったわ。でも、とにかく大丈夫。あの有名なジョセフ・ゲッベルスの言葉を信じましょう。私が嘘を言い続けていたら、皆、STAP細胞はあるのだと信じるようになるのだから。「STAP細胞はあります」と言い続ければいいんだから。

と、高をくくっていたのかもしれない。
 
(やりとり終わり)
 
 しかし、そうはならなかった。事態はもっと悪い方向に進んでしまったのである。ジョセフ・ゲッベルスの言った通りにはならなかったのである。
 
 結局、論文は2つとも取り下げになった。
 
 その存在を証明した論文が取り消しになった以上、現時点ではSTAP細胞は存在しないことになる。STAP細胞は、完全に消滅したのである。
 
 今、小保方さんが「STAP細胞はあります」と言うと、明らかに嘘をついていることになるのである。
 
 (まあ、小保方さんは、論文が取り下げになってからも、再現実験をしたり、STAP細胞の存在を信じていると言ってみたりしており、それ以後も完全に嘘をついていたことになるのではあるが。)
 
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 ここで、気になることがさらにある。嘘は見破れないのだろうかということである。この点に関しては、(嘘発見の開発も含めて)昔から、膨大な研究が成されているのだが、嘘自体にもバリエーションが多く 未だに、100%嘘だと検出できるような方法は開発されておらず、嘘だと完全に見抜くことは不可能なままなのであった。
 
 ただし、嘘をついている時の特徴は分かっており、そのいくつかを紹介しておく。嘘をついている時の特徴さえ分かれば、完全に信じ込んで騙されることは確実に減るはずである。嘘かもしれないと疑念を抱くだけでも、疑念を抱かない時と比べれば雲泥の差である。

 まず、人は反射的に即座に真実を話すようにできていることが分かっている。自分が喋る内容を注意して意識していないと、ついつい本当のことを言ってしまうようにできているのである。従って、嘘をつこうと思ったら、真実を述べてしまうという原始的な反射をまず抑制せねばならない。真実を述べてしまうことを抑制するにはそれなりの時間を必要とするため、真実を述べる時よりも嘘をつく方が時間がかかることになる。しかも、嘘の選択肢は1つではない。多くの選択肢の中から1つを選んで答え(嘘)として言葉に出すまでの、選択するまでの時間もかかる。嘘は即答できないのである。従って、言葉につまってから回答された時は嘘である可能性が高い。下の論文はこのことを確認した論文である。

STAP-46

 しかし、そのことは、既に、わざわざ実験で確かめなくても、誰もが感覚で既に分かっていることであろう。だから、嘘つきと話していると、この人は嘘をついているんじゃないのかと、何となく分かるのである。

 一方、真実を述べなくても即答ができることはある。それはただノーというだけの否認ならば選択肢はノーだけなので即答はできるであろう。犯人が黙秘をするのは、このことを本能的に分かっているからであろう。黙秘をすることは否認をすることと本質的には同じ行為なのだから。従って、黙秘を続ける犯人は非常に怪しいことになる。さらに、即答できるのは妄想や作話の時もそうである。さらに、Q&Aを作成し、あらかじめ選択肢を絞り込み、Q&Aに沿って即答できるように練習していた時も即答はできるはずである。
 
 詐欺をする会社やその会社の職員は、おそらく、即答できるようなる練習を何度も仕込まれており、トレーニングをしているはずである。考えられるうるあらゆるQ&Aを作成して練習しているのである。しかも、トレーニングをすることで、そういった反射的に真実を述べてしまう現象を抑制をする上での必要な認知タスクに多くの労力をつぎ込まなくても良いようにまで到達することが分かっている。トレーニングを積んだ結果、通常人よりもすばやく嘘がつけるようになるのである。従って、詐欺師は顧客がどんな質問をしたとしても、スムーズに何でも言葉が出て即答できるため、本当のことを述べているのだろうと印象を持ち、顧客はすっかり騙されてしまうことになる。そして、昔から嘘つきだった人は、嘘をつく経験を重ねていくうちに、自然とこういったトレーニングがなされているはずである、あの小保方さんも、きっと自然にトレーニングを積んで・・・・。

 トレーニングを積めば、場数を踏めば、スムーズに嘘がつけるようになる。もはや小保方さんの会見の時の質疑応答の仕方だけでは嘘だと見抜くことは難しくなる。それでも、この原則に従って、もう一度、小保方さんの謝罪会見の動画を見直すのもいいかもしれない。記者からの質問の返答に言葉を詰まらせた場面があったかどうかをチェックしながら見直すのである。ただし、弁護士から予め質問を限定させて頂くと宣言されており(=Q&Aで練習したことしか受け付けないという意味だろうが)、フィルターがかけられてしまっているため(この質問を限定させてもらうというやり方は、いかにも怪しいやり方なのだが)、もし、即答できていたとしても、彼女の口から語れた言葉は真実ではない可能性もあろう。逆に、何でも即答していたら、Q&Aで猛練習をしてから会見に臨んでいたのではと疑われる。それはむしろ嘘をついているという証拠となろう。
 
 面白いのは、200回以上成功したという時の小保方さんの返答であり、この部分は即答しており、これは、200回以上という数字自体は事実なのだと思える。実際は、ただ緑色に光る現象を200回以上目撃しただけ、すなわち、細胞が死ぬ間際の自家蛍光という現象を200回以上は見たということなのだろうと思われるのだが。
 
 それはそれで、何回も何回も、ただ死にかけている自家蛍光した細胞をSTAP細胞だと言って若山先生に渡し、若山先生に胚盤胞にインジェクションをさせていたに違いないのである。

 すなわち、若山先生は、小保方さんに騙され続け、200回以上、胚盤胞に死にかけている細胞をひたすらインジェクションをし続けていたことになるのである。 
 
 若山先生、200回以上も胚盤胞にインジェクションをしていたんですね。本当に大変でしたね。お疲れ様でした。

 次に、嘘をつく時に変化するのが顔の表情である。この嘘と人間の表情の変化について研究をしたのが、マーク・G・フランク(Mark G. Frank)教授である。

 彼は、嘘をつく時には必ず表情に必ず微細な変化が生じることを見出し、それを微表情(microexpressions)から考察した。この微表情という変化は、軽蔑、恥、不安、罪悪感、プライド、救済、満足、喜び、恐怖、といった様々な感情によって生じるのだが、嘘をつく時にも生じるのである。そして、この微表情は自分の意志では絶対にコントロールができないらしい。従って、この微表情を同定し解析すれば嘘をついたかどうかが分かることになる。しかし、微表情は、1/25~1/15秒という非常に短い時間でのみ表現される顔の表情の変化である。通常では、嘘をついている人の顔を見ていても気づくことは無く見逃されてしまうことであろう。
 
STAP-47
 
 なお、微表情という現象を発見したのはハガードとアイザック(Haggard and Isaacs、1966年)である。現在、この微表情は、犯罪の捜査だけでなくテロの防止などの国家の安全保障の分野にも応用できるのではないかと研究されているようだ(FBIでは、この微表情を読み取るような訓練が行われているらしい)。

 マーク・G・フランク教授の嘘をつく時の微表情の研究からは、44の動きのパターンが同定されている。特に、眼球と眉毛の動きが注目されており、この動き(特に眼球の動き)を自動的に読み取って嘘をついているかどうかを検出するコンピュータ化されたシステムが既に開発されている。
  
 もし、小保方さんの会見の動画を(謝罪会見だけでなく最初の世紀の大発見の会見も含めて)、このシステムを用いて解析したら、はたしてどういう結果になるのであろうか。
 
 ただし、デビッド松本(David Matsumoto)博士は、微表情が検出されたからといって、嘘をついていると100%断定してはならないと警告を発してしている。あくまで、嘘をついている疑いがあるにすると留めておくべきシステムなのではある(不安などの他の感情の影響でも生じるためであろう)。しかし、この微表情検出システムによる嘘の判定の的中率は、最低でも80%までは的中できるようである。黙秘しますと言って一切の質問に答えない時でも、さらに、どんなサイコパスのような人間にでも、この微表情検出システムが力を発揮できるのかどうかが興味が持たれる。
 
 確かに、挙動不審の人物は、眼の動きがぎこちなくなっていると思える。嘘などの何らかの良からぬ考えを心の中に隠しているためであろう。そういった観点から、もう一度、小保方さんの会見の動画を見直すのも良いかもしれない。眼球の動きが不自然な点がないかどうか、などを。(まあ、今更、そんな暇なことをするような人はいないだろうけど。謝罪会見での小保方さんの眼球の動きは非常にぎこちなかたように思える。汗;。)

 なお、微表情検出システムに関しては、そのようなシステムはあてにならないと否定する論文も出されていることを付け加えておく。

 神経言語プログラミング(NLP)の支持者は、特定の眼球運動が嘘をついているという信頼できる指標になると主張している。この概念によると、例えば、会見で右を見上げている人は嘘を言っており、左を見上げいる人は真実を言っていることを示唆することになる。しかし、これまでの研究では、その妥当性は検討されていない。この論文の研究1では、真実か嘘かのどちらかを言った被験者の眼の動きをコード化したが、NLPのパターニングとは一致しなかった。研究2では、被験者の一方のグループはNLP眼球運動仮説についての説明を受けた。両グループはその後、嘘検出テストを実施した。しかし眼の動きの有意な差は2つの群の間では示されなかった。研究3では、嘘つきと真実を述べているケースの記者会見の人の眼球の動きをコーディングした。しかし、有意な差は検出されなかった。3つの研究結果からは、NLPの主張を支持することができないという結論になる。

はたして、人類は嘘を見抜けるようになるのであろうか。

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 このブログを書いていて、私もブログの中で嘘をついているのかもしれないと思うと、ブログを書く気持ちが萎えてきてしまったのは確かである。
 
 私がしていることは、他人のふんどし(論文)を勝手に拝借して相撲を取っているようなセコイ行為であり、とても名前を出したらできるようなことではないため名前を出さずにブログを書いているのではあるが、もし、紹介した論文の3割が嘘であり、しかも、その論文を私が間違えて解釈しており、間違えたまま紹介していたら、ブログで書いていることは5割以上は事実ではなく嘘を書いていることになる。

 皆さんには、このことだけは理解しておいてもらわねばならない。このブログで書いてあることは、小保方さんの論文と同じであり、半分以上は嘘かもしれないということを(汗;)。

 いったい何を信じたらいいのであろうか。誰を信じたらいいのであろうか。
 
 結局は信じられる人間は自分しかいないのかもしれない。ただし、もし、毎日、正直に生きているのであればの話だが。もし、あなたが正直に生きていないのであれば、あなたには誰も信じられる人間はいないことになろう。自分自身ですら・・・・・・。

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最後に、ビリー・ジョエルの歌「Honesty」をSTAP細胞に捧げて終わりにしたい。


If you search for tenderness, it isn't hard to find.
もし優しさを求めているなら、優しさを見つけることは難しくはない
You can have the love you need to live.
生きていくために必要な愛だって手に入る
But if you look for truthfulness
しかし、もし、あなたが真実を探すのであれば
You might just as well be blind.
盲目になるのと同じことになろう
It always seems to be so hard to give.
真実なんて、いつも提示されないものだから

Honesty is such a lonely word.
誠実(正直)、なんて寂しい言葉なんだろう
Everyone is so untrue.
誰もが、そんな、正直だなんて言えないのに
Honesty is hardly ever heard.
誠実(正直)、そんな言葉は、一度も聞いたことがない
And mostly what I need from you.
そして、私があなたに対して最も必要としていることが正直であることなんだけど

I can always find someone to say, they sympathize.
誰かに同情していると言わせることは、いつだってできる
If I wear my heart out on my sleeve.
ただ率直に話せばいいだけだから(話す内容が嘘か本当かは別にして)
But I don't want some pretty face to tell me pretty lies.
しかし、可愛い顔をしているのに、嘘を言うことはやめてほしい
All I want is someone to believe.
私が望むのは本当に信じれる人なんだから

Honesty is such a lonely word.
誠実(正直)、なんて寂しい言葉なんだろう
Everyone is so untrue.
誰もが、そんな、正直だなんて言えないのに
Honesty is hardly ever heard.
誠実(正直)、そんな言葉は、一度も聞いたことがない
And mostly what I need from you.
そして、私があなたに対して最も必要としていることが正直であることなんだけど

I can find a lover.
私は恋人を見つけることはできる
I can find a friend.
私は友人を見つけることもできる
I can have security until the bitter end.
最後に苦い思いをするまでは安心していられる
Anyone can comfort me with promises again.
誰もがもう二度と嘘はつかないと約束してくれれば、私は安らげるのに
I know, I know.
私は分かっている、分かっているんだ

When I'm deep inside of me, don't be too concerned.
私が落ち込んでいても、気にかけないでほしい
I won't ask for nothin' while I'm gone.
そんな時は、私は何も要らないのだから
But when I want sincerity, tell me where else can I turn.
でも、正直であってほしいと望んだ時には、あなたのどこを信じたらいいのか私に教えてほしい
Because you're the one I depend upon.
なぜなら、あなたは私が頼りにしている一人なんだから

Honesty is such a lonely word.
誠実(正直)、なんて寂しい言葉なんだろう
Everyone is so untrue.
誰もが、そんな、正直だなんて言えないのに
Honesty is hardly ever heard.
誠実(正直)、そんな言葉は、一度も聞いたことがない
And mostly what I need from you.
そして、私があなたに対して最も必要としていることが正直であることなんだけど

双極性障害と白質の微細構造



white-matter

 最近の画像研究のデータからは、双極性障害では脳の白質の微細構造が障害されていることがほぼ確実なことと考えられるようになってきている。双極性障害は脳の白質の疾患だったのである。そのために、接続障害(disconnectivity)という病態を引き起こしていたのである。
 
(双極性障害は白質の微細構造の障害に起因する接続障害である。2014年のJAMAの社説。)

(最近、双極性障害患者における白質に関する大規模な調査が行われたが、その結果でも白質の障害を有することが明らかになった。特に、左右の大脳半球間の接続障害が重要だと思われる。この調査は双極性Ⅰ型障害に対する調査である。)

(さらに、この白質の障害は双極性Ⅱ型障害でも同様に認められる所見である。)

 この双極性障害における白質の障害(白質の微細構造の障害)は、私が大学を卒業した頃には全く想定されていなかったことである。

 精神医学は確実に進歩していると言えよう。
 
 今回は、この白質と双極性障害との関連性に関する最近の文献をいくつか紹介したい。

 まず、双極性障害と白質との関連性について述べた総説がないかどうか調べたのだが、発表年度が2014年11月と新しい総説があったので、その総説を紹介する。しかし、この総説は、最終的に受理された日付は2013年7月であり、既にその内容は古くなっているかもしれないことに注意して頂きたい。双極性障害と白質との関連性については、その後も多くの新しい知見が発表されているはずである。

双極性障害における白質病理の役割に関する最近の知見
「Recent Findings on the Role of White Matter Pathology in Bipolar Disorder」
http://journals.lww.com/hrpjournal/Fulltext/2014/11000/Recent_Findings_on_the_Role_of_White_Matter.5.aspx

(この論文は昨年まではオープンテキストだったのだが、今はなぜか有料となっていた。私はこの論文をオープンテキストだった時期に読んだので、全文を訳したのだが、かってはオープンテキストだったため問題はないであろう。)

(なお、白質の障害に関する基礎医学的な総説もあった。下の論文はかなり詳細に書かれている。興味がある方は一読をすることをお勧めする。)

抄録
Abstract

 双極性障害(BD)の患者は、情報処理や感情のコントロールが障害され、バイアスがかかっているような状態である。気分の変化は、特定の脳領域における刺激に対する神経の異常な反応性と関連している。さらに、双極性障害では、白質回路の統合性(integrity)が減少しており、それに伴って、大脳皮質辺縁系回路の各々の領域間の機能の接続性が障害されており、コントロール関わるネットワーク機能の障害が存在する可能性が示唆されている。
 
  拡散テンソル画像技術を用いた最近の研究では、(1)薬物治療とは関係なく、BD患者では白質微細構造の広範な破壊という徴候を示し、これは、軸索損失を伴わない著しい脱髄/髄鞘発育不全があること示唆している。そして、(2)リチウムによって効果的に長期治療が成された時は、治療期間に比例した形で、軸方向の接続性の増加があることが分かっている。
 
 これらの知見は、特定の脳ネットワークにおける白質微細構造の変化は、BDのエピソードと並行して、神経接続が障害されていることを示唆し、これらの変化は、BDの精神の生物学的基盤のメカニズムを説明しうるものだということを示唆している。

はじめに: 双極性障害における機能的な接続の異常
INTRODUCTION: ABNORMAL FUNCTIONAL CONNECTIVITY IN BIPOLAR DISORDER

 双極性障害(BD)の患者は、感情処理や認知機能が障害されており、それによって情報処理にはバイアスがかかり、気分に左右されるようになり、評価プロセス、社会的な判断、意思決定、注意、メモリーなどが影響を受ける。

 うつ病相では、ネガティブな感情的刺激への応答が増大している。躁病相では、情報処理にバイアスがかかっており、ポジティブな情報にいち早く反応するようになっており、認知パフォーマンが増大しており、気分は刺激の強さに左右されている。

 気分とバイアスがセットになって特定の神経基盤に関連しているかどうかを調べた研究では、悲しさを呼ぶようなターゲットに対する吻側前帯状皮質~内側前頭前皮質の領域における反応の上昇、感情的な選択肢に対する外側眼窩前頭皮質の反応の上昇が示された、。

 双極性障害のうつ病相の患者では、負の感情刺激に応答する際の、GO / NO-GOタスクでのパフォーマンスが促進しているが、気分が感情刺激によって左右されており(気分が外界からの刺激とセットになっている)、認知パフォーマンスにも影響を及ぼしていることが示されている。

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 これらの外界からの刺激は、一貫して、前帯状皮質(ACC)、背側内側前頭前皮質(DLPFC)、島、といった領域を活性化するが、この所見は、これらの領域が、刺激を受けた際の感情の処理や感情を生み出す基になるような認知機能に関与していることを示唆している。

 さらに、同じ領域における異なる神経応答がうつ病相患者と健常対照で観察されたが、これらの所見からは、うつ病相においては、ACCやmPFCが気分にバイアスされた反応を生み出す上で重要な役割を果たしていることを示唆している。
 
 なお、我々は、これらの領域における価値(道徳的)判断に対する神経応答の変化がうつ症状の重症度と関連しており、抗うつ薬への反応性にも関連してくることを見出している。抗うつ薬治療中に、(ポジティブやネガティブな)価値判断の刺激に対する神経応答性が変化していくことが、ACC、DLPFC、島、頭頂皮質において見出されている。
   
 この変化は、抗うつ薬に反応した者(レスポンダー)と反応しなかった者(ノンレスポンダー)では反対方向に変化していることから、感情的な刺激に対する血中酸素レベル依存性(BOLD)反応は、抗うつ薬への反応を予測できる機能的なバイオマーカーに成り得ることが示唆された(注; BOLDは、神経細胞の活動によって生じる還元ヘモグロビンの増加に伴うMR信号の変化を測定する方法)。
 
 例えば、レスポンダーでは、ネガティブな刺激によってACCの活性化は低下するが、DLPFCの活性化は増加する。ポジティブな刺激では、ACCやDLPFCの活性化は双方とも低下した。しかし、ノンレスポンダーでは、ポジティブな刺激によって逆にDLPFCの活性化は増加した。

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 これらの結果は、大脳皮質辺縁系回路は感情の認知コントロールを調節しているという、これまでに提案されたモデルと一致し、おそらく、辺縁系内部の脳のネットワークがBDにおける感情処理の機能不全の基礎を成すものと考えられる。

 注; なお、大脳辺縁系の白質微細構造は、うつ病から回復した状態では、右帯状束(CB)、左海馬傍帯状束(PHC、parahippocampal cingulum )のFA値は増加していた。
 
 バイアスや気分の状態の不安定性は、うつ病から躁病といった広い範囲で変動して認められるが、この観点からは、1つの脳の領域を調査するのではなく、感情の発生や感情のコントロールに相互に影響し合うような脳の領域の間の接続性を機能や構造の点から調査することが重要になるものと思われる。
 
 さらに、fMRIを用いた研究では、大脳皮質辺縁系ネットワークの機能的な接続(片方の領域における活性が他の領域における活性と関連する度合)は、BDの発症時に障害されることが示唆されている。
 
 双極性障害(BD)の青少年では、表情の感情認識に誤りがあり、ニュートラルな表情を敵対的な表情だと誤認している所見があるが、感情のラベリング障害が存在し、主に、左側の扁桃体を含む大脳辺縁系の機能亢進と関連することが示唆されている。
 
 さらに、接続性の機能不全があることを支持する所見として、健康な対照と比較して、BDの青少年では、表情の情報処理の最中に、左側扁桃体と側頭葉との間の接続機能が減少してることが示されている(注; 引用された原著の本文中では左扁桃体と右後部帯状回/楔前部や右紡錘状回/海馬傍回との機能的な接続性の減少と記載されている)。

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 注;  双極性障害(入院中の患者)では、DLPFCと扁桃体の間の接続性が低下しており、これは、気分や感情の調節異常を反映している所見であると考えられている。
 
 この前頭・側頭間の接続機能障害は、感情や認知タスクが与えられている時だけでなく、休止状態における機能的な接続性(resting-state functional connectivity、RSFC)を調査する方法でも調べることができる(=デフォルトモードネットワーク)。RSFCは、BOLDのfMRI信号の自発的な変動を同定することで可能になる。

 すなわち、双極性障害は、タスクには依存しない前頭・側頭間の領域におけるRSFCの変化が生じているという特徴を有する。
 
 BD患者と対照群では、双方とも、左DLPFCと右上側頭回との間の自発的なRSFCの変動は逆の位相関係を有していたが、BD患者では対照群よりも大きな負のRSFCの位相関係を有していた。
 
 感情を経験する部位として以前から定義されていた脳の領域に焦点を絞り(例えば、pregenual ACC、背側内側視床、扁桃体)、Anandらは大脳皮質と辺縁系との間のRSFCを調査したが、未投薬のBD患者では、健常者に比べて、接続性が減少していることが分かった。さらに、同じ研究グループは、抗うつ薬の投与によって大脳皮質と辺縁系との間の接続性が高まることを示した。

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 これらの接続性の異常は病状に依存しており、双極性障害のエピソードと関連することが示唆されている。
 
 注; こういった機能的なニューロイメージングの所見は、双極性障害における良いバイオマーカーとなると考えられている。)

 注; 白質の障害があるかどうかは、末梢血の検査でもある程度は推測できるようだ。下の論文では、双極性障害の末梢血の脂質の過酸化(脂質ヒドロペルオキシド、LPHなど)の程度と前頭前皮質の白質のFA値などとが相関することが報告されている。
(なお、脂質の過酸化の程度は下のような検査キットで測定できるかもしれない)

双極性障害における白質の統合性の障害
DISRUPTED WHITE MATTER INTEGRITY IN BIPOLAR DISORDER

 脳の領域間の機能的な接続性の欠如は、双極性障害における感情不安定性の中心的な原因であり、これは接続性が構造学的にも障害されていることが関係している。各々のニューロンは、神経細胞から伸びた軸索の束、すなわち、白質(white matter、WM)を介して接続しており、軸索はミエリン鞘で包まれており、神経インパルスを伝達している。
 
 通常では、ミエリン鞘が神経の軸索を覆い包むことで、軸索束の特定の方向へ分子が移動することを容易にしており、軸索壁からの漏出容量が減り、神経信号の伝送スピードが増加することになる。
 
 ミエリン鞘が損傷を受けると、構造的な接続性が障害されて、軸索束に沿うシグナルの伝送速度が減少する。これによって、機能的な接続性も損なわれ、脳の神経細胞が互いに効果的に通信する能力にも影響が及ぼされるものと推測できる。
 
 近年、拡散テンソルイメージング(DTI)によって、生体内における白質(WM)の微細構造の研究が可能になった。
 
 水の分子の拡散は、主に軸索の線維に沿って拡散する傾向があり(=軸方向の拡散率、axial diffusivity、AD)、一方、軸索は有髄であり、軸索の主軸と垂直な方向に拡散しようとしても軸索の壁にぶつかるため拡散できない傾向がある(=放射状拡散率、radial diffusivity、RD)。
 
 この異方性(anisotropic)、または、軸索の方向に依存する拡散は、拡散感度勾配を用いて拡散テンソルの行列を計算することで推定することができる。
 
 軸方向の拡散の減少は、軸索の消失や軸索束のコヒーレンス(結束性、密着性)の損失を示唆しており、放射状(ラジアル、軸索と垂直方向への)拡散率の増加は、髄鞘の障害を示唆している(髄鞘の形成障害、髄鞘の破壊や傷害、脱髄、など)。
 
 異方性比率(fractional anisotropy、FA値)は、拡散の方向に依存しており、異方性拡散テンソルの大きさの割合を示すスカラー尺度として、0~1の間の値で示される。

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 薬物治療や気分状態が異質な患者が混じっている初期の頃のWMへの研究では一貫した結果は得られなかったが、均質な患者群に行われた最近の研究結果は、双極性障害では白質の統合性が減少しているという仮説を支持している。
 
 我々は、白質を最もコンパクトに解析したところ、双極性障害の未治療のうつ病相では、脳の広範囲な領域においてDTI値は変化していることを見出したが、この所見は、脳梁、帯状回、主要な白質束、といった部位のミエリン鞘の統合性が障害されていることを示唆している。

 我々は、FA値と同様に、放射状拡散率と平均拡散率の増加を見出したが、この所見は、双極性障害では、対照群と比較して、認知機能や感情制御の鍵となる白質路が障害を受けていることを意味している。

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 脳梁の統合性は、注意の持続性や文脈処理において重要な役割を果たしているが、皮質と辺縁系前部の皮質下構造を含むネットワークの接続性は感情の調節に関与している。
 
 さらに、我々は、前頭葉と辺縁系とを接続しているネットワークの単一の白質路の構造を解析したが、双極性障害では、その白質束においては、FA値は減少し、軸方向や放射方向や平均拡散率は増加していた。
 
 異常なDTI測定値を示す白質路には、鉤状束、帯状束、眼窩前頭皮質と外側前頭前皮質とを接続している前頭前皮質-皮質白質線維が含まれていた。
 
 特に、鉤状束は、海馬、扁桃体、側頭極から膝下皮質にかけての領域と接続しているが、感情的な葛藤を解決し、負の感情的な刺激に対する扁桃体の反応を抑制する上で重要な役割を果たしている。
 
 これらの結果からは、前頭葉・辺縁系ネットワークの欠如は白質の構造的な統合性の欠如にも関連しており、双極性障害における感情的な刺激に対する異常な反応性を説明できるものだと言えよう。
 
(注; ただし、ネットワークの障害は、前頭葉・辺縁系ネットワークだけに限定されている訳ではなく、側頭様葉と頭頂葉を接続する白質路などの脳内の他のネットワークにおいてもFA値の低下が見出されている。)
 
 なお、双極性障害の治療で主力の薬剤であるリチウムは、投与された治療期間の長さに比例する形で 脳梁、帯状束、海馬、鉤状束、白質路の前方部を含む脳の大きな領域における軸索方向の接続性を高めることが分かっている(リチウムによって低下していたFA値は回復するのである)。

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 一方、帯状束の海馬部分の白質の微細構造は記憶障害と関連している。

 帯状束は、注意、記憶、感情調節に関与する異なる脳のシステムを統合しており、帯状束の白質の構造の変化は、快感の減少や認知パフォーマンスの悪化と関連している。
 
 リチウムによる軸方向の拡散率の増加が観察されているが、この所見は、リチウムが双極性障害で生じる白質の統合性における有害な病態に対抗できることを示唆しており、言い換えれば、リチウムは、ある種の双極性障害の患者では、特定の白質路の軸方向の拡散率を増加(回復)させるという有益な効果を有することを示唆している。
 
 なお、白質の統合性の低下は、薬剤にナイーブな青少年の躁病でも報告されている。
 
 以上の知見から言えることは以下の通りである。脳の特定のネットワークの白質の微細構造の変化は、(1) 双極性障害のエピソード中に脳内の接続性が平行して障害されていることを示唆しており、(2) 双極性障害(特に、小児のBD)のおける神経心理学的パフォーマンスが長期的に障害されるという生物学的な基盤となり得るようなメカニズムを説明する上で大きな役割を果たしている。

臨床との関連性
CLINICAL RELEVANCE

 上記の仮説と一致して、白質の微細構造の変化は、双極性障害を発症していない親族でも見出されており、遺伝的なリスクマーカーにも成り得るものとして提案されている。
 
 脳梁におけるFA値の低下は、双極性障害の遺伝的なリスクと相関しており、増加するだろうという予想に反して、思春(青年)期における進行性のFA値の低下が、まだ発症していない双極性障害のリスクを有する若者で観察されており、進行性のFA値の低下は脆弱性を示すマーカーに成り得るだろうと提案されている。

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 前視床放射線(anterior thalamic radiation)におけるFA値の低下は、一貫して、双極性障害で検出されており、発症していない親族でも見出されており、内包のFA値は循環気質に逆相関していることも見出されている。
 
 双極性障害の小児や第1親等にBDを有する小児では、対照と比較して、上縦束のFA値の低下を認めた(上縦束のFA値は遺伝的なリスクを反映している)。

 低いFA値は、双極性障害をまだ発症していない親族における双極性障害のリスクの増大と関連しており、大うつ病(MDD)の多遺伝子リスクとなりうる対立遺伝子とも関連している(双極性障害をまだ発症していない親族でも前頭葉や側頭葉のFA値が低下しており、MDDのポリジーンリスクプロファイルスコアが大きい個人ほど上縦束のFA値が低下する)。

 さらに、白質の微細構造は、子供時代の不利益な体験に対して非常に敏感であり、大きな影響を受ける。
 
 健常な(BDではない)大人の研究では、
 
 (1) 子供時代に親の言葉による虐待を受けたケースでは、弓状束や帯状束を含むいくつかの白質路のFA値が有意に低下している。
 
 (2) 仲間から言葉による虐待を受けていた(いじめを受けていた)ケースでは、脳梁や放線冠のFA値が低下している。

(3) 家庭内暴力を受けていたケースでは下縦束のFA値が低下している。
 
 これらの白質への影響は、気分障害の病因になり得る。
 
 最近の研究では、子供時代に虐待を受けていた青少年ではいくつか白質路においてFA値が低下していることが判明し、FA値の低下はフォローアップ期間中にうつ病が発症することと関連していた。

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 注; さらに、この総説を書いた著者らは、子供時代の有害な体験(adverse childhood experiences 、ACE)にて白質のFA値が低下し双極性障害の発症を早めてしまうことを2014年度に報告している。

 注; 人生の早期にネグレクトを受けると前頭前皮質の白質の微細構造が障害を受けることも報告されている。そして認知機能にも悪影響を受けることが示されている。

 注; なお、子供時代の白質の成熟過程については下の論文に詳しく書かれてある。私が驚いたことには、部位によっては10歳以降は白質が成熟しなくなる脳の部位もあり(脳梁、下縦束、上前頭後頭束、など)、幼少時期の生育環境が悪ければ、その部位の白質は生涯にわたり不十分な成熟度のままで終ることになるのかもしれないということである。幼少時期の生育環境がいかに大事であるかが分かる。

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 注; さらに、生育環境との絡みでは、母乳で育てられたほど白質の成熟が良いことも分かっている。そして母乳で長く育てられるほど、認知機能(運動、言語、視覚的な機能など)の発達も良くなることが示されている。脳の発達には母乳が一番いいのである。さらに、母乳が一番良いのだが、母乳以外については、牛乳よりも調整ミルクの方がまだ良いことも分かっている。早い時期から牛乳を飲ませるのは脳の白質には非常に良くないようだ。双極性障害になった方は、もしかしたら乳児期に母乳をあまり飲めなかった人であり、牛乳を早い時期から飲まされていたせいなのかもしれない。

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 双極性障害の患者では、認知機能に重要な役割を果たしているネットワークでも白質の統合性が障害されている所見が検出されている。
 
 これらの点に関する文献が増えているということは、特定の白質路におけるDTIの測定値は特定の神経心理学的障害と関連していることを支持している。
 
 双極性障害のエピソード中に、下前頭後頭束のFA値が低下することが見出されているが、この所見は、反応を適切に選択していく上で必要となる抑制性の認知コントロールの低下に結びつく。
 
 内側前脳束前方視床放射線の線維束は、報酬探査や感情状態の調節を媒介しているが、うつ病相では、遂行機能や処理速度が前方視床放射線や鉤状束の異方性と相関していることが分かった。
 
 白質の統合性を示すDTIの測定値は、統合失調症における脳の機能的な接続性や、青少年期の神経心理学的パフォーマンスなどにも相関していることを考えると、DTIによる測定値は、正常な脳の発達、精神病理学的プロセス、脳の接続性の機能と関連する生物学的なバイオマーカーになり得るものと思われる。

 注; ここで、他の論文のデータを補足しておく。2013年4月に発表されたNatureの論文では、白質の微細構造の障害が精神症状と強く相関していることが提示されている。怖いのは、FA値が低下していくことで、疾患のステージも進行していき、疾患として重篤化していくことである。
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 注; さらに、白質(前頭・頭頂ネットワークの機能的結合など)が障害されるとワーキングメモリーも障害されることが分かっている。それは接続性が損なわれるために当然の現象であろう。論文自体は、トレーニング(学習)によってこの接続性が向上し、幼児教育の観点の論文なのではあるが。

 注; そして、白質の成熟が遅れれば、数学の能力も低下してしまうようだ(特に、下側の頭頂・側頭ネットワーク)。数学が苦手な子供は白質の成熟が遅れているのかもしれない。

 注; さらに、双極性Ⅰ型障害では、白質の微細構造の障害と視覚的注意力の低下とが関連していることも報告されている。躁病相でなくても運転中に標識に気付かずに危険運転をし易くなっているのである。双極性Ⅰ型障害では、視覚的注意力が低下しているかもしれないことを忘れずに、慎重な運転を心がけるべきであろう。

結論
CONCLUSIONS

 白質の統合性が障害されているという所見が双極性患者の白質路で一貫して報告されており、白質の統合性の障害は、双極性障害の発病よりも先行している可能性がある。

 まだ発病していない親族でも、そして、双極性障害の発病前の人生初期のストレッサーによる負の影響としても報告されている。

 異常な白質路は、双極性障害における認知機能障害とも関与しており、それ故、双極性障害では、機能と構造に関する脳の接続性が障害されており、その接続性の障害の程度と双極性障害の症状や病状が相関しているという仮説が支持される。

 双極性障害の再発時や寛解(euthymic)時期も含めて、白質の障害は生涯にわたって変動するのかどうかという前向きな研究が欠如しているため、その点に関しては未だに不明なままである。

 リチウムのような作用有する薬剤による治療することで、双極性障害に関連するDTIの測定値の変化をある程度までは相殺できるだろうと提案されている。

 白質の変化は双極性障害の臨床と関連しており、双極性障害を理解し評価する上役に立ち、DTIは、双極性障害における治療効果を判定できる信頼できるマーカーとなりうる可能性を有するものであろう。

(論文終わり)

 今回の論文の内容は、昨年このブログでも述べたことと類似している内容も多い。私のブログも参照して頂けたら幸いである。

 なお、白質の障害以外にも、炎症性サイトカインの関与、酸化ストレスの関与、グルタミン酸システムの関与、キヌレニン代謝産物の増加、サーカディアンリズムの障害など、現時点までの双極性障害に関する多く生物学的な所見を統合してレビューをした論文が昨年度の8月に出されており、この論文も参照して頂けたら幸いである(かなりのボリュームのため読むのが大変だが)。

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 以上、今回紹介した論文を読んでいると、双極性障害は白質が障害されている疾患だと思えてくる。
 
 白質の障害は、特に、躁状態において顕著なように思える。私は、白質が障害されることで躁病相では次のような変化が生じているのではと考えている。
 
 (1)興奮性伝導の過剰。これは、前頭葉から辺縁系に向けての抑制性の接続機能が低下することも関連しているのだが、それだけではなく、白質が障害されることによって神経細胞の活動を抑制するカリウムチャネルなどの重要なイオンチャネルも障害され、興奮性伝導が有意となることも考えられる。さらに、ミエリンが障害され軸索がむき出しとなった部位からは、自然発生的に脱分極が生じ、たとえ神経細胞が興奮していなくても、興奮性伝導が勝手に自然発生する現象が生じることも考えられうる。その結果、興奮性伝導が過剰に生じている状態となり、過活動や多弁といった症状を呈するようになるのではなかろうか。

(双極性障害の躁病相は、辺縁系の過剰な活動性亢進のみならず、大脳皮質からの興奮性伝導が過剰に生じている状態である。)
 
 (2)しかし、同時に、白質の障害によって脳の接続性も障害されており、ブレーキがかかりにくくなってしまっている、すなわち、そういった行動をやめろという前頭葉から大脳辺縁系への指令が届かなくなっており、過活動はいつまでも止まることはない。

(双極性障害の躁病相は接続障害のためブレーキがかかりにくくなっているような状態である。)

 車に例えれば、ブレーキが故障しているため、エンジンを切らない限り暴走し続ける車のような状態になっている訳である。ただし、ハンドルは故障していないので(統合失調症ではハンドルまで故障しているのかもしれないが)、何とかフェンスとの激突を避けながら、ひたすら走り続けるF1グランプリのような状態になっているのであろう。本人にとってはスピードを出して突っ走っている状態は爽快なのかもしれないが、しかし、これは非常に危険な状態である。そんなに猛スピードを出し続けていたら、ハンドル操作では限界があり、フェンス(他者)との衝突は回避できる訳がない。結局、躁病相の間に、フェンス(大切な人)と衝突し、何度も何度も衝突を繰り返せば、だんだんと人間関係が壊れていってしまうことになる。

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 従って、双極性障害を完全にコントロールしようと思ったら、エンジンをいったん切るだけではだめで(抗精神病薬はドーパミンのレベルでエンジンをすぐに切ってくれるように作用するのだろうが)、接続障害も治しておかないといけないことになる。すなわち、急性期が過ぎた後では、ブレーキ(=白質)の故障もしっかりと修理しておかねばならないのである。

 下の論文は2104年11月という最近発表された論文だが、この論文では、双極性障害では、オリゴデンドログリアの密度は健常群やSZ群よりも増えており、これは、ダメージを受けたミエリン(白質)に対する代償機構が働いているためであろうと推測されている。そして、SZ群ではそういった変化は見出せなかった。この点がBDとSZとの大きな違いであろうか。双極性障害の脳の中では、ダメージを受けた白質を何とかして回復させようと頑張っているのである。白質を修理しとうと思えば十分に修理できる可能性があると言えよう。その頑張りを手助けするのは、あなた自身でしかできないのである。

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 白質障害の背景には、おそらく、炎症酸化ストレス、特に、脂質の過酸化(lipid peroxidation)が絡んでいるのであろう。その観点からは、ω3脂肪酸、NAC、メラトニン、ミノサイクリン、COX2阻害剤(セレコックス)、βカロチン、ポリフェノール、フラボノイドなどの抗酸化・抗炎症物質の摂取やビタミンの補給が重要となろう。特に、ω3脂肪酸、NAC、メラトニンは重要な物質であるが、日本の医療では提供されないため、自分が自費で購入して自分で補給せねばならない。何でも医師任せにしておくのはいけないのである。
 フェルラ酸(米ぬかから抽出したものが認知症のサプリメント「フェルガード」として販売されている)は軸索とミエリンを保護し、損傷した部分の炎症を抑える効果があり、白質の損傷からの回復を促進してくれる可能性が示されている。米ぬかの成分は精白された白米には含まれていない。白米ではなく玄米を食べると良いと思われる。

 さらに、緑茶のカテキンやウコンなどに含まれるポリフェノール類も白質の損傷からの回復を促進してくれる可能性がある。特に、緑茶は脳の接続性を高めてくれることが実験で示されている。

 抗うつ剤(ただし、三環系のイミプラミンとアミトリプチリン)もオリゴデンログリアの損傷を回復させる効果があると報告されている。うつ病相で苦しんでいるケースでは、SSRIではなく、古いタイプの抗うつ剤を試すのも選択肢の1つとなろう。

 将来的には、インターロイキン1阻害剤も白質の回復を促進させる目的で使用できるかもしれない。

 なお、双極性障害の遺伝的リスクのあるケースでも、発症しなかった親族では、低下していると予測されうる接続性が回復していることが見出されており、レジリアンスという現象が生じて発症を免れたのではと考えられている。遺伝的リスクも乗り越えることができる訳であり、白質の損傷は修復可能なのである。諦めずに白質のケアに努めることが重要となろう。
http://journal.frontiersin.org/Journal/10.3389/fnhum.2011.00184/full
(関連ブログ2013年12月18日 レジリアンスについて)

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 一方、白質の損傷をさらに悪化させてしまうようなことを防止することも重要である。

 まずは、体重の管理である。BMIが上昇すると白質のFA値が低下することが示されている。肥満も防止しておかねばならない。頑張って運動をしてBMIを少しでも正常域に近づけておく必要があろう。
 
 アルコールも白質のFA値を大きく低下させる。アルコールは当然控えなければならない。特に、躁病相やうつ病相で入院した後ではできるだけ長く断酒すべきであろう。

 当然、タバコもやめねばならない。タバコも白質の微細構造を破壊することが示されているからである。

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 さらに、睡眠にも注意しなければならない。
 
 不眠や睡眠不足だと白質が障害を受けそうな感じもするが、白質への直接的な影響はないようだ。だからと言って夜更かしをして良いことにはならない。なぜならば、睡眠不足によってグルタミン酸系の神経伝達が過剰になり、結局、再発に結びつくからである。

 むしろ、全然眠れないと過剰に心配して、たくさんの睡眠剤を飲んで眠る方が怖いと思える。それは、睡眠剤による睡眠中の呼吸抑制が怖いからである。睡眠時無呼吸と白質の障害に関しては多くの論文が既に発表されている。
 
 もし、睡眠時無呼吸があるのであれば、それも治療しておかねばならない。睡眠時無呼吸では白質がかなり障害されるようだ。しかし、CPAP治療にて白質は回復するため、早く耳鼻科に行って相談しておくべきであろう。
 こういった白質の障害からの回復を促進させるという観点からは、維持期の治療は、白質の統合性を回復するというエビデンスが既に得られているリチウムが推奨される。現時点では、白質のFA値が回復するというエビデンスが確立されている薬剤はリチウムのみであることを忘れていけない。これは、リチウムがGSK3-β(glycogen synthase kinase-3 beta)を抑制する作用に由来する効果であり、双極性障害で使用されている薬剤ではリチウムにのみ独特に見出されている作用である。さらに、リチウムは脂質の過酸化反応を減少させることも分かっている。

 ここで、大きな問題がある。ダメージを受けた白質の微細構造の修復に関しては、抗精神病薬の効果があるのだろうかということである。逆に、抗精神病薬は、白質の障害を回復させる効果がないどころか、白質に対してはかえって有害な影響を及ぼす可能性もあることが考えられうるのである。

 基本的には、双極性障害は白質が障害されて生じる疾患である。そして、灰白質が障害されることはない疾患であると仮定してみたい。しかし、統合失調症はそうではない。程度はケースごとに様々ではあるが、統合失調症は灰白質も白質も障害される疾患である。これが双極性障害と統合失調症の大きな違いである。私は個人的にはこのように考えている(正しい仮定だという保証は全くないのだが。下の論文でも灰白質の障害までは双極性障害ではI型でもⅡ型でも想定されないという見解である)。
 
(統合失調症も白質が障害されているのは確実である)

 一方、双極性障害でも灰白質の障害(前頭前皮質や前帯状皮質の灰白質の容積の減少など)は報告されているが、ごく少数の研究者からしか報告されていない。しかも、白質のように発病前から既に灰白質が双極性障害でも障害されているという報告はまだない(私が勉強不足なため、既にそういった報告がされており、見逃しているのかもしれないが)。そのため、双極性障害における灰白質の障害は、双極性障害における基本的な変化ではない可能性がある。もし、灰白質の障害は双極性障害では基本的には生じることがないのであれば、では、報告された論文ではいったい何が原因で灰白質の障害までもが生じていることになるのであろうか。
 
 既に、灰白質の容積の減少は、抗精神病薬の長期投与によって用量依存性に生じることは分かっており、もし、抗精神病薬によって生じているのであれば、これは大きな問題となろう。この観点から、双極性障害を抗精神病薬で長期間維持することはかえって予後を悪くしてしまう可能性があるのではと私は懸念している。
 
 そのため、私は、双極性障害と診断したケースでは抗精神病薬の使用は急性期に限っての使用にとどめている。急性期が過ぎた維持期はリチウムや抗てんかん薬(ラモトリギン、バルプロ酸など)を使用している(可能な限りリチウムの単剤で、かつ、可能な限り少量で。バルプロ酸は可能な限り早く中止の方向に持っていく。)。これまでの論文では、維持期における再発予防効果に関しては、リチウムと抗精神病薬との有意差は示されていないし、実際に、リチウムを中心として維持しくいくやり方で失敗したことは殆どない。危ないと思った時には早めに外来に来てもらい、抗精神病薬を短期間使用するが躁病相が治まり次第すぐに中止している。それで再入院は十分に防止できている。
http://journals.lww.com/hrpjournal/Fulltext/2014/11000/Factors_Associated_with_Lithium_Efficacy_in.8.aspx
 
 リチウムは特に躁病相の予防効果に優れていると言われているが、コンプライアンスが悪いと当然、躁は再発する。躁病相が再発したケースでは、きちんと内服していなかったのであろうか、ほぼ100%、血中濃度が下がっている(ある調査では、双極性障害では、23%~68%{中央値42%}が服薬を遵守していないらしい)。逆に、それなりの血中濃度で維持されていたケースで躁病相が再発したことは私は殆ど経験がない。
 
 一方、リチウムの場合は、内服は1日に2回はしてもらわねばならない(1日1回の内服でも維持できているケースもあるが)。当然、1日に1回の内服で済む抗精神病薬の方が内服は楽である。リチウムで維持することは、医師にとっても、患者にとっても、お互いに面倒くさいやり方だと思われる。しかし、脳の白質の回復にとっては、リチウムで維持することが患者さんにとっては一番安全で有益な方法なんだと思いながらやっている。

(双極性障害の治療薬ではリチウムが一番優れているのだという論文。2014年度。↓)

 上の論文では、リチウムの血中濃度は0.6未満でも意味はあろうと述べられている。

 あなたは、長期的な予後を決める維持期においては、1日1回の内服と灰白質の萎縮や白質の統合性の未回復のセット(リスペリドン、オランザピン、エビリファイなどの抗精神病薬)と、1日2回の内服と白質の統合性の回復のセット(リチウム)と、いったいどちらを選びたいですか。
http://journals.lww.com/hrpjournal/Fulltext/2014/11000/Role_of_Adverse_Effects_in_Medication_Nonadherence.10.aspx
 
 私が、今、一番懸念していることは、一部の学者や医師の言うことを鵜のみにして、双極性障害を抗精神病薬で長期間維持することは、灰白質の容積の減少を招いたり、ドーパミンD2受容体によるパラドックスを招いたり、かえって予後を悪くしてしまう恐れがあるのかもしれないということである。特に、双極性障害においては、リスペリドンやオランザピンを長く使用することは危険である。
 
 これを検証するには、抗精神病薬のみで治療されていたケースと、リチウムなどで治療され抗精神病薬が使用されていなかったケースとの長期的な帰結(長期的に内服した後の画像所見や認知機能、精神病症状を呈して入院した回数、など)を比較しない限りは不可能であろう。今のところはこういった研究は殆どなされてはいない。
 
 下の論文は2014年の9月に発表されたばかりの論文だが、高齢者の双極性障害における灰白質容積を調査しており、厳密な条件による検証結果ではないものの、抗精神病薬による灰白質の容積の減少(総灰白質と海馬の容積の減少)との因果関係を報告している。そして、こういった変化はリチウムによって相殺できる可能があると述べられている。

 特に、BDの高齢者で灰白質の容積が低下し白質の統合性が低下していたケースでは、健常者な高齢者と比べて有意な認知機能の低下が報告されている。しかし、リチウムで維持された双極性障害の高齢者は、より良い白質の統合性を有しており、それはリチウムの神経保護作用によるものであろうと考えられている(ただし、加齢による認知機能の低下までもがリチウムで防止できる訳ではないのだが)。  

 このように、双極性障害を抗精神病薬で長期間維持することの有害性を懸念している研究者は海外には他にも多くいるはずである。
 
 今後は上で示されたような双極性障害を抗精神病薬で長期間維持した場合の有害事象の報告が増えていく可能性もある。そういった報告が増えてから、慌てて手の平を返したようにリチウムに切り替えたとしても、もはや手遅れであろう。今のうちからリチウムに切り替えていくべきである(当然、リチウムに反応することが前提条件ではあるが)。

 世界生物学的精神医学(WFSBP)が定めた双極性障害の治療のガイドラインの最新版(2012年)では、双極性障害の長期治療に関してはリチウムが未だに双極性障害の治療の中心的な存在であることには変わりはないのである。
http://www.wfsbp.org/fileadmin/user_upload/Treatment_Guidelines/Grunze_et_al_2013.pdf
 
 ここで、アリピプラゾール(エビリファイ)も、WFSBPのガイドラインでは、維持療法推奨グレードは1stランクになっている(ただし、アリピプラゾールの躁病相やうつ病相の再発予防効果に関するエビデンスに関しては未確立となっている)。リチウムに反応しないケースではエビリファイが良い選択肢にはなろう。しかし、エビリファイにてFA値が回復するというエビデンスはまだない。さらに、このブログでも触れたように、個人の体質によるものではあろうが、エビリファイでは白質のFA値が低下するケースも出てくる恐れがあり、代謝障害(特に、総コレステロール値やLDLコレステロール値)に関しては常にモニターしておく必要がある。リチウムでは血中のリチウム濃度のモニターが必ず必要なように、エビリファイでは、総コレステロール値やLDLコレステロール値のモニターが必ず必要なのである。
 
 もし、エビリファイの長期使用で総コレステロール値やLDLコレステロール値の上昇などの代謝障害が明らかに増加するのであれば、10年後もエビリファイが維持療法や長期使用において1stランクのままであるかどうかの保証はないと言えよう。

 長期維持療法では下表の推奨グレード1stランクの薬剤を努めて使用すべきであろう。維持療法において1stランクに指定されている薬剤は、リチウムアリピプラゾール(エビリファイ)、ラモトリギン(ラミクタール)、クエチアピン(セロクエル)の4つのみである。リチウムに十分に反応しないケースでは、薬疹が出ないのであれば、アリピプラゾールよりもラモトリギンの方が好ましいのかもしれない。クエチアピンも肥満の点からは維持療法には勧められない。

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 私は、白質の変化は、髄鞘(ミエリン鞘)の障害であり、基本的には可逆性の変化であろうが、灰白質の変化ともなると、グリア細胞や神経細胞の喪失を意味し、不可逆性の変化になってしまっているのではと考えており、これからも抗精神病薬は急性期のみの使用に留めるつもりである。

 最後に、脳の前頭前皮質の白質の方が脳の後部よりも加齢によって白質のFA値は早く低下していくことが分かっていることを付け加えておく。すなわち、双極性障害では、前頭前皮質という人間として最も大切な脳の部位の白質が、加齢の影響と疾患の影響が同時に加わることで、通常よりも早く低下していき、認知機能も早く低下していってしまう可能性があるのである。このことを忘れてはいけない。医師は白質までは守ってくれない。せいぜいリチウムを処方するくらいのことしかできない。他の多くの鍵はライフスタイルにかかっている。ライフスタイルに気をつけて、自分の大切な白質を自分自身でしっかりと守っていかれることを切に願っている。

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あなたは既にアルコールによって条件付けられている (「相棒」から学ぶアルコールの怖さ)


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(前回の続きである)

 不思議なことに、一度その店でお酒を飲むと、また同じ店に行きたくなる。こういった経験は誰もがしたことがあろう。
 
(おかしいなあ、自分の好みの店じゃなかったのに。またこの店に来てしまった。)

 そして、同じ店に行くだけではなく、前回飲みに行った時に同じ席についてくれた同じホステスさんを再び指名してしまうこともよくあることであろう。
 
(あのホステスさん、全然、好みじゃなかったんだけど。変だな、また今日も指名してしまった。汗;)

そして、あの杉下右京も全く同じだった。

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 警視庁特命係の杉下右京は、いつも同じ店で同じ女将(おかみ)さんを相手に酒を飲んでいるのである。

 しかし、その店、「花の里」に始めて行った時はこうだった。

 何だ、しょぼい店だな。客が全然いないじゃないか。しかも、女将は俺の好みのタイプの女性じゃないし。

 ふ~っ、もう二度とこの店に来ることはないな、と思いながら酒を飲んだ。

 しかし、翌日。

 あの店に行って、あの女将さんにまた会いたくなってしまった・・・・・。

 それ以来、ずるずるとあの店ばかりで飲んでいて、あの女将さんとばかり会話をしていた。

 そして、ついに、私とその女将は結婚して、夫婦になってしまったのである。

 私の好みの女性じゃなかったんだけど。

 これは、いったい、どういうことなのだろうか。

(私達は、確かに結婚した。しかし、結局、離婚してしまったのである。元妻は、その後、行方不明となり、店をいったん閉めることになった。だが、鈴木杏樹という綺麗な女性が店の跡を継いで女将になってくれたのである。ああ、店を再開できて良かった。番組もこれで続けられる。めでたし、めでたし。まあ、今もお客さんはいつも私1人で、ガラガラなんだけどね。汗;)

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マリコ: 相馬君、右京さんに用意した論文を説明してあげて。

相馬 涼: はい、分かりました。

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 それは、あなたが、知らない間に条件付けられていたからです。パブロフの犬の実験や、オペラント条件付けというのはご存知ですよね。
 
 既に、あなたは、その店に行くように、その女将さんと会いたいと思うように、そのお店に条件付けられていたという訳です。

 例えば、前々回のブログのホーディング障害に関しては、ラットの実験からは、オペラント条件付けによる行動の一種ではないかとも想定されています。人間では心的外傷体験による心の傷の痛みを再度経験しないように無意識のうちにホーディングをするように、オペラント条件付けが成されてしまっているということになります。小さい頃は、ぬいぐるみやおもちゃなどの物が心を慰めてくれることはよくあります。しかし、そのことで物へのオペラント条件付けが形成されてしまうのかもしれません。その結果、このオペラント条件付けのせいで物を捨てずに溜め込むという行動をするようになってしまう。そのように解釈することはできます。しかし、このモデルだけではホーディング障害の特徴を十分に説明することはできないので採用されてはいないようですが。

古典的条件付け
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E5%85%B8%E7%9A%84%E6%9D%A1%E4%BB%B6%E3%81%A5%E3%81%91

オペラント条件づけ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%9A%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%88%E6%9D%A1%E4%BB%B6%E3%81%A5%E3%81%91

 このオペラント条件付けは、自分が気付いていないだけで、様々な形で自分自身の中に条件付けが成されており、あなたの全ての行動を大きく左右しているのです。
 あなたは、たった1回、偶然その店に行っただけだった。しかし、そのことで条件付けられてしまったのです。

 そんなの信じられませんね。たった1回その店に行っただけなのに、しかも、女将さんと1回話をしただけなのに、そんなことがあるのですか。

 何回か同じ刺激を与えられないと条件付けが成されることはないんじゃないですか。しかも、その店の雰囲気は自分の好みじゃなかったし、その女将さんも私のタイプじゃなかったんですよ。そんな話はあり得ませんね。

 いいえ、店のせいでも、その女将さんのせいでもありません。アルコールの力のせいなんです。アルコールにはそのお店を好きにしてしまう作用があるのです。これはアルコールによる条件付けのせいなのです。

 えっ、マジですか、それは。

 しかも、アルコールによる条件付けはかなり強力です。マウスでの動物実験ではアルコールを1回投与しただけでも、条件付けが成されることが報告されています。

 すなわち、一回でもそこのお店に行って酒を飲めば、そのお店が好きになり、もう一度行きたいという条件付けがなされてしまうのです。アルコールって本当に怖い物質ですね。

 しかも、初めて行ったその店で結構飲んだんじゃないですか。

 まあ、そうですけど。客が私一人だったので、ついつい飲んでしまいました。

 その店でたくさんアルコールを飲むと、さらに条件付けが加速されるようですね。

 まあ、中くらいに飲むのが一番条件付けされやすいという論文もありますが。

 そして、若者ほど、アルコールによる条件付けが強くなるのです。そして、特に、男性ほど、そういった傾向があります。あなたが、そのお店に行ったのは結婚前だから、若い頃だったはずです。

 まあ、確かに、初めて行った時は、私はまだ若かった。

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 やはり、そうでしたか。私の予想通りだった。もう十分な条件がそろっていたのですね。

 右京さん、初めて店に行った時に、あなたはあの店に条件付けられてしまったのです。
 
 そして、この条件付けはそんな簡単には消えない。これからもあなたは番組の最後で、あのお店で酒を飲み続けることになるのでしょう。

 ところで、右京さん、結構、大酒飲みですよね。まさか、未成年の頃から、高校の頃から飲酒していたんじゃないでしょうね。

 いや、まあ、あの、その、ちょっとだけ・・・・・。

 初めて酒を飲んだ年齢が若ければ若い程、将来、大酒飲みになるという論文も最近出ています。右京さんは、高校時代からアルコールによって全てが決められていたんですね。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25257574

 しかし、自分で気づいていないだけで、今のその姿は、そして、誰と結婚することになるのかも、全てがアルコールによって決められているのです。それは単にアルコールによって条件付けられているだけに過ぎないのですが。アルコールって怖いですね。花の里の女将さんと結婚したことも、離婚したことも、それは全てがアルコールの成せる業だったのです。
 
(この若造は、俺の人生は、自分の自由な意志で選択した結果ではなくて、それは錯覚しているだけで、アルコールによって全てが決められていたんだと言いたいようだな。まるで俺は、動物実験でアルコールを投与された哀れなラットみたいじゃないか。)

 まあ、確かにあなたの言う通りですね。でも、店の雰囲気という条件には条件付けられることはあるのかもしれませんが、自分のタイプでもない女性と結婚までするというのは、私にはちょっと理解できませんね。

 少し反論させてもらっても宜しいでしょうか。

 家を出ていった妻には失礼になってしまいますが、妻は私の好みの女性じゃなかたんですよ。まさか、アルコールには、好きでもないタイプの女性を好きになってしまう力があるとでも言うのですか。魔法みたいな話ですね。冗談でしょ。私にはとても信じられませんね。

 そう、その通りなのです。アルコールには社会的選好を条件付ける強力な作用があるのです。すなわち、女性と一緒にアルコールを飲むと、場所だけでなく、その女性に対しても条件付けが成されるのです。

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 すなわち、一緒に飲んだその女性を好きになり、優先的にペアになるようになっていくのです。これは動物実験で既に確かめられています。
 
 例えば、下の論文では、雄ラットはアルコールによって社会選好(social preference、相手のことが好きになる)が誘導され、テストステロン(男性ホルモン)が、そのアルコールによる選好形成作用を増強するという論文が本年度に発表されています。すなわち、アルコールによって条件付けが成された相手をどんどん好きになっていく訳です。しかも、その効果は、自分だけでなく相手も同時に一緒に酒を飲むとさらに強まるようです。
 そして、雌ラットでも同じような論文が、昨年度に既に発表されているのです。
 
 え、本当ですか。

 右京さん、あなたは、初めて店に行った時から、奥様と店で一緒にお酒を飲みませんでしたか。

 まあ、閉店まで飲んでいたもので。閉店間際に、私からのおごりだと言って、女将に酒を勧めたところ、別れた妻はおいしそうに何杯も飲んでいましたわ。

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 これは、もう、最初からアルコールの力によってお互いに社会選好という条件付けがなされていたことになりますね。やはり、二人は結婚する運命だったのですね。
 
 アルコールの力はやっぱり凄いなあ。あの杉下右京までもがアルコールで条件付けられていたんだ。

(アルコールの魔力によって俺は好みでもない女性と結婚したのか。結局、妻とは離婚したんだけどさ。もしかしたら妻の方も俺は好みの男性じゃなかったのかもしれない。お互いが好みじゃなかったんだな。くそ~、俺は、知らない間にアルコールに支配され、人生を翻弄されていたんだ。今、ようやく気がついた。こうなるんだったら、あの時、たくさん酒を飲むんじゃなかった。)

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 (肩を落としてうつむいている杉下右京に論文が差し出された)

 これが、私が用意した論文です。右京さん、まずこの論文から読んでください。

 最初は、アメリカ国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が作成した「Conditioned place preference」の実験の概要に関する電子ブックです。全部読むと長くなるので、まずはイントロダクションの部分だけで結構ですよ。

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条件付け場所嗜好性(試験)
「Conditioned place preference」

イントロダクション
「INTRODUCTION」
 条件付け場所嗜好パラダイム(方法論)は、薬物の報酬効果嫌悪効果を研究するために前臨床段階で使用される標準的な行動モデルである。このモデル実験では、様々に異なるデザインの装置が使用されているが、このタスクの基本的な特徴は、特殊な環境と薬物との関連性を調べるものであり、引き続いて、薬物がない場合の異なる環境との関連性を調べるものである。

(ある環境下で薬物という条件が与えられると、その薬物の作用でその環境への条件付けが成され、薬物がない環境下でも、その環境条件を好むようになる。例えば、ある店で酒を飲むと、酒がない状況下でもその店を好むようになる。)

 この実験デザインの共通したバリエーションは、異なる特性を持つように設計された区切りを有する3つのチャンバー(空間、区画)で構成されている(例えば、黒い壁vs白い壁、松vsトウモロコシの寝具、クロスグリッドの床vs水平グリッドの床)。

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 中央区画は特殊な特性を有さず、薬物とペアになる空間ではなく、区画間のゲートは、動物はそれらの間を自由に通過することができるようになっている。

 トレーニング中に、動物(通常はラットまたはマウス)は、選好特性か嫌悪特性を有する薬剤を注射され、その後、数分間、外側区画のいずれかに配置される(=薬物コンパーメント)。翌日、ラットは、薬物担体(drug’s vehicle、薬物を体内で運ぶような溶媒のみ)を注射された後に、反対の区画に入れられる(=担体コンパーメント)。

 一般に、これらの毎日のセッションは、2・3日ごとに、薬物と担体が交互に注射される。

 その後、試験セッションが行われるが、試験セッションではいったん中央の区画に動物を置き、その後、両外側の薬物コンパーメントと担体コンパーメントの双方の区間に自由に行けるゲートが開けられ、セッション中に各々の外側区画にいた時間が記録される。

 もし、動物が、担体コンパーメントよりも、薬剤コンパーメントの方で多くの時間を過ごした場合は、条件付け場所嗜好(conditioned place preference、CPP)が生じたことが分かる。

 逆に、担体コンパートメントで多くの時間を費やす場合は、条件付け場所嫌悪(conditioned place aversion、CPA)が生じたと考えられる。

 典型的には、コカインのような依存性薬物はCPPを生成し、塩化リチウムなどの嫌悪効果を誘発する薬物はCPAを生成する。

 薬理学の研究にて使用される他の行動モデルと同様に、CPPパラダイムの際の薬物の行動における効果は、動物の種や株、投与経路、薬物投与の時間間隔、投与濃度、使用されるCPP装置に依存して変化する。
 
 さらに、乱用される多くの薬物は、投与量に応じて、CPPとCPAの双方を生成する。薬物に依存した動物では、離脱の際には、一般的にCPAを生成する。

 自己投与パラダイムに比べて、CPPパラダイムの方が、一般的にトレーニングを殆ど必要とせず、薬の効果を研究する上での信頼できる指標を提供できるため、CPPパラダイムは、標準的なニューロサイエンスのテクニックと組み合わされて薬の主観的な効果を解明する目的で使用されている(表4.1)

(論文終わり)

 なるほど、区画が店に相当するのですね。そして、その店ではアルコールという依存性を有する薬物が投与されることになる。まさに、店で酒を飲むという行為は、CPPを誘発されるべく実験台になったラットと同じですね。
  
 さらに、CPPという現象は中脳辺縁系のドーパミンシステムが関与しているのです。ドーパミンシステムが関与しているということは、コカインと同じような強烈な現象なんですよ。そんな簡単に消え去るような現象じゃないんです。
  
中脳辺縁系のドーパミンシステムは条件付け場所嗜好にとって重要である
「THE MESOLIMBIC DOPAMINE SYSTEM IS IMPORTANT FOR CONDITIONED PLACE PREFERENCE」
 これらの薬剤は、CNSへの作用は異なるが、CPP誘導作用の大部分は、腹側被蓋領域(げっ歯類におけるA10の領域)由来のドーパミン(DA)経路で構成されており、薬剤が中脳辺縁系DAシステムに作用し、辺縁系の側坐核や海馬に最終的に影響を与えることによって生じる。
 
 従って、ドーパミンD2受容体アンタゴニスト、例えば、ハロペリドールやメトクロプラミドなどは、アンフェタミン、コカイン、モルヒネ、ヘロインによって生成されるCPPやCPAをブロックすることが示されている。
 
 さらに、腹側被蓋野や側坐核の領域にアンフェタミンやモルヒネを直接注入すると、CPPを生成する。しかし、他の領域、例えば、前頭前皮質、尾状核、扁桃体などの領域へ直接、精神刺激薬やアヘンを注射してもCPPやCPAは生成されず失敗する。
 
 コカインで条件付けられた区画に入れた時に、コカインでCPPを条件付けられていたラットでは、ラットに担体だけを注射した後に側坐核におけるドーパミンレベルの有意な上昇が見出された。しかし、担体を注射されていた区画に入れた時には、担体を注射してもドーパミンの上昇は生じなかった。
 
(と言うことは、条件付けられていた店で、アルコールを飲まずに帰ってきても、それなりに満足できるということですか。)
 
(そうかもしれませんが、もっと続きを読んでください。)
 
 しかし、前頭前皮質におけるDAレベルも、アンフェタミンで条件付けされた数日後に、アンフェタミン区画に入れたラットにおいて上昇することが見出されている。前頭前皮質のノルエピネフリンを選択的に枯渇させると、アンフェタミンやモルヒネによって誘発されるCPPや、アンフェタミンやモルヒネによる側坐核におけるDAの放出を防止する。
 
 6-ヒドロキシドーパミンを使用して、腹側淡蒼球や中脳辺縁系のドーパミンニューロンの神経終末を選択的に欠損させると、DAニューロンの別の領域にコカインを注入した際に誘発されるCPPを減衰させることが示されている。また、CPPは、海馬にモルヒネを注入した場合にも生じる。
 
 従って、側坐核が乱用薬物を生じさせる重要な領域ではあるものの、他の辺縁系の領域、ならびに辺縁系の機能とリンクしている他の脳の領域でも、乱用薬物に関わるCPPを誘発する作用を変化させることができることになる(当然、音楽などの聴覚刺激や、肌を露出した妖艶なホステスさんなどの視覚刺激や、おいしい料理などの味覚刺激も辺縁系の機能とリンクしているため、CPPを強化できることになる)。

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(論文終わり)

 右京さん、アルコールはお好きなんでしょう。でも、アルコールには注意した方がいいですよ。
 
 アルコールは麻薬や大麻と同じ強さのCPPを形成するんですよ。この電子ブックにはそのように書いてあります。むしろ、CPPに関しては、大麻や麻薬よりも強力なのかもしれません。そういった自覚を持って酒を飲まないといけないのです。アルコールは麻薬や大麻と同じように、その人の人生を大きく狂わせるとても怖い薬物なのです。
 
 右京さん、あなたもアルコールで人生が大きく狂ったことは間違いないですね。

(この野郎、そこまで言うか。)

 次に、この部分も読んでください。

条件付け場所嗜好パラダイムに使用されている薬物研究
「 DRUG STUDIES USING THE CONDITIONED PLACE PREFERENCE PARADIGM」
 CPPパラダイムは、薬理学、行動科学、神経科学の研究分野で広く使用されている。PubMedのデータベース検索(http://www.pubmed.gov)でキーワード「条件付け場所嗜好」を使用して検索したところ、1398件の結果が得られた。

 CPPパラダイムは、単に、薬物乱用の可能性のためのスクリーニングツールとして使用されている訳ではなく、神経伝達物質、脳の領域、遺伝子、シグナル伝達経路、報酬(または嫌悪)効果と関わる他のメカニズムを研究するために使用されている。

 CPP研究で使用される薬物は、多くの論文でレビューされている。一般的には、精神刺激薬(覚せい剤)やアヘンは確実にこのCPPパラダイムを生成する。例えば、コカイン、アンフェタミン、ニコチンの全身投与は、ラットやマウスに2・3回区画とのペアで投与した後にCPPを生成することが見出されている(タバコも、2・3回吸ったら、もう条件付けられてやめれなくなるのである)。
 
 さらに、CPPは、モルヒネ、ヘロイン、ブプレノルフィンなどのオピエート類でも確認されている。同様に、他のクラスの薬物は、CNSを抑制するように作用するエタノールやジアゼパム、さらに、カンナビノイド受容体アゴニストであるデルタ-9- tetrahydrocannabinal(THC)、アドレナリン受容体作動薬のクロニジンでもCPPを形成することが確認されている。
 
 これらの化合物で形成されるCPPの多くは、投与量に依存している。例えば、ラットでは、ニコチンが0.4~0.8 mg/kgの範囲内の用量を投与された場合にCPPを生成する。逆に、ニコチンの高用量では、CPA(条件付け場所嫌悪)の方を生成することが報告されている。同様の所見は、モルヒネや精神刺激薬であるアポモルフィンなどの他の薬物でも示されている。

(論文終わり)

 右京さん、あなたは、昔、タバコを吸ってましたね。その店でもタバコを吸ったていたんじゃないですか。

 まあ、昔はどこの店も喫煙は自由でしたから。スパスパ吸ってました。今は禁煙してますけど。汗;

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 店でタバコなんか吸っているから、ニコチンの薬理作用で、さらに、条件付けが強化されたんですね。パチンコ屋もその手口で店へのCPPを強化しているんですよ。
 
 それに、喫煙者は断酒に失敗する率も高いようですよ。ニコチンとアルコールが相互に条件付け合って作用を強めているためなんですね。これは、今月、発表されたばかりの論文ですけど。タバコを吸っている人は断酒に失敗する。これは覚えていた方がいいですね。
http://informahealthcare.com/doi/abs/10.3109/10826084.2014.962050

 ついでに、エタノールのCPPに関する部分も読んでおいてください。

エタノール
「Ethanol」

 エタノールは、単独で投与される場合、齧歯類ではCPPかCPAが生成されるが、低用量ではCPPを生じ、高用量ではCPAが生じる(これは、あくまでネズミでの話かも)。

 エタノールのCNSへの効果を媒介する受容体メカニズムが見出されているが、エタノールによるCPPパラダイムの報酬を媒介する受容体かとどうか、GABAA受容体、NMDA受容体、5-HT3受容体などがテストされている(既にドーパミンD1・D2受容体が関与していることは分かっている)。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10353595 

 エタノールで誘発されるCPPは エタノールと共に競合的NMDA受容体拮抗薬であるCGP-37849が同時投与されたは場合には減弱した。しかし、非競合的NMDA受容体拮抗薬であるMK-801やケタミンが同時投与された場合は減弱せず、NMDAサブユニット拮抗薬ではCPPは何の変化もなかった(=従って、NMDA受容体のグルタミン酸結合部位がエタノールによるCPPにとって重要である→これはNMDA受容体やグルタミン酸神経伝達システムに作用する薬剤がアルコール依存症の治療薬となりえる。例えば、アカンプロセート{レグテクト}やメマンチン{メマリー}など。セロトニン 5HT-3受容体拮抗薬も治療薬に成り得る。)。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17880925 

 中脳辺縁系のドーパミン経路は、エタノールの報酬効果でも重要である。なぜならば、エタノールで誘発されるCPPは、ヘロインの投与によって増強するが、フルフェナジンなどのD2受容体アンタゴニストを側坐核内部に投与することで減衰させることができるからである。
 
 さらに、エタノールは、コカインのCPP効果を増強(変化)させることが見出されているが、アルコールはコカインの高用量によるCPPをCPAへとシフトさせ、コカインの低用量によるCPPを増加させることができる(CPPに対する効果はコカインよりも強力なのかもしれない)。

 肝臓では、エタノールはアルコールデヒドロゲナーゼによって分解されアセトアルデヒドになり、アセトアルデヒドは、さらに、アルデヒド脱水素酵素によって分解されて酢酸となる。アセトアルデヒドが蓄積すると、アセトアルデヒド症候群が生じるが、その症状は、吐き気、頭痛、嘔吐を呈するする可能性がある(こうなるとCPAの方が生成されるように思えるが、そうではない)。

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 しかし、CPPパラダイムでは、アセトアルデヒドは、CPAではなく、CPPを生成することが判明しており、しかも、その容量は致死限界量でもCPPを生成することが分かった。
 興味深いことに、エタノールによるCPAが影響されないのに対し、D-ペニシラミンによるアセトアルデヒドの失活はエタノールによるCPPの生成を阻害する。この所見からは、アセトアルデヒドがエタノールの報酬効果(例えば、幸福感)を媒介している可能性が示唆され、他の研究からその証拠が提示されている(アルコールではなく、アセトアルデヒドの方がCPPを生じさせているのかもしれない)。

(論文終わり)

 上の論文を読むと、齧歯類では高用量ではCPAになると書いてあるので、じゃあ、店でたくさんお酒を飲めばいいんじゃないかとも思えますが、そうは問屋が卸さないんですね。そんなに飲むと翌日に二日酔いになります。

 二日酔いはアセトアルデヒドの蓄積によるのですが、二日酔いのアセトアルデヒドがCPPを強化してしまうことになります。普通ならば二日酔いはとても苦しい状態ですから、もう二度と飲むまいとCPAの方に条件付けが成されそうなものなのですが、そうはならない。むしろもっと二日酔いを経験したくなるように条件付けられてしまうのです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E6%97%A5%E9%85%94%E3%81%84

 アセトアルデヒドの方がアルコールよりも報酬効果が高いのかもしれませんね。お酒を飲める人はアルデヒド脱水素酵素は十分に機能しているので、アセトアルデヒドは早く分解されるため、普通は高濃度のアセトアルデヒドに曝露されることは少ない。しかし、泥酔して二日酔いを経験すると高濃度のアセトアルデヒドに曝露され条件付けられてしまう。だから、お酒が飲める人ほど二日酔いになるまでの泥酔を何度も何度も繰り返すのでしょうね。お酒は本当に怖いですね。

 以前は、嫌酒薬としてシアナマイドがアルコール依存症の治療でよく使われていましたが、最近はあまり使われなくなりました。その理由は、シアナマイドがアルデヒド脱水素酵素をブロックすることで、飲酒中のアセトアルデヒドを増やし、苦しい思いさせることでアルコールに対する嫌悪条件付けをさせるのが大きな目的だったのですが、アセトアルデヒドには意図したような嫌悪条件付けをさせる作用がないことが分かったからです。しかも、シアナマイドを内服している状態でアルコールを一気飲みされると致死量のアセトアルデヒドが生成されてしまうかもしれない。だからもう、あまり使われなくなったのです。

 なお、このアセトアルデヒドは肝臓にも猛毒なのです。二日酔いばかり繰り返していると早く肝硬変になっていきます。右京さんも、二日酔いには気をつけた方がいいですね。

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 どうですか、アルコールのCPPの怖さが分かりましたか。

 いや~、怖いですね。こういうことを繰り返して、アルコール依存症になっていくんですね。
 
 でも、まだ分からないことがあります。
 
 確かに、アルコールによって店という場所へのCPPを形成することは分かりました。しかし、私はたった1回、何げなく「花の里」に行っただけなんですがね。コカインや覚せい剤のアンフェタミンですら、さっき読んだ電子ブックには、2・3回ペアリングをしたらCPPが形成されると書いてありました。アルコールには、コカインや覚せい剤よりも、そんな強い作用があるとでも言うのですか。

 だから、先ほど言いましたよね。アルコールのCPPはコカインよりも強力なのだと。そして、電子ブックではコカインのCPPをCPAに変えるまでの力がアルコールにはあると書かれている。しかも、1回だけでもアルコールによって条件付けが成されるという論文も発表されている。アルコールのCPPは1回飲むだけで十分なのです。
 
 これは、先ほど提示した論文ですが、アブストラクトの部分だけでもいいですから、もう一度、読み直してみて下さい。

 どれどれ、おお、これは今年の11月に発表されたばかりの論文ですね。

初期の主観的な報酬。マウスにおける単一のアルコール曝露による条件付け場所嗜好性。
「Initial subjective reward: single-exposure conditioned place preference to alcohol in mice」

 飲酒の激化や身体への深刻な影響があるにも係らず、多くの大人達はアルコールを消費するが、飲酒者の約10~20%は持続に(進行性)にアルコールを消費するようになる(=アルコール依存症になる)。
 
 アルコールの慢性使用に関連した根深い神経適応的な変化が生じる前に、リスクがある個人を同定することは、末期的な段階になることを防止し、壊滅的な影響を防止する上で重要なステップとなる。
 
 薬物の強化特性の初期の感度を評価するための動物モデルが存在しないことで、過度の飲酒に向かう軌道を描くことになる重要な表現型を呈する現象をうまく説明することはこれまでは実施できないでいた。
 
 そこで、この論文では、新しい条件付け場所嗜好パラダイムを使用し、アルコールの初期の報酬効果を評価した。
 
 以前の繰り返してアルコールを投与する方法を採用したCPPの研究結果とは異なり、3種のマウス株の雄と雌マウスともに、今回の実験結果では、比較的低用量である1.5g/kgというエタノールの単一曝露とペアになった場所(条件)への強固な選好を示した。
 
 今回のモデルは、脳や社会の双方に多種多様な影響を与え、広く使用されているアルコールという薬剤への主観的な報酬効果に対する初期感度を評価する上で妥当性を有するモデルであり、嗜癖を理解し治療する上で、理論によって主導された中間表現型的な遺伝薬理学的アプローチに使用できる新しいツールを提供するものである。

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(論文終わり)

 何ですか、この論文は。中間表現型的な遺伝薬理学的アプローチって、何のことかさっぱり分かりません。
 
 そんなことはどうでもいいのです。大事なことは1回だけのアルコール摂取によっても条件付けが成されるのだということなのです。
 
 右京さん、あなたは、たった1回、なにげなく「花の里」に行っただけだった。しかし、アルコールの力によって「花の里」という店に条件に条件付けられてしまった。
 
 そして、それで終わらなかった。

 右京さん、あなたはその店で初めて女将に遭ったのですが、初めて遭った時からその女将を好きになってしまった。

 店だけでなく、女将をも好きになってしまったのです。 
 
 この次の論文も、先ほど示したの論文なのですが、この論文でば、アルコールによるパートナー選びの際の条件付け嗜好(選好)という現象が報告されています。
 
 すなわち、一緒に異性とアルコールを飲むと、一緒に飲んでいた異性を好きになってしまうのです。
 
 アルコールはまさに惚れ薬なのです。
 
 最初に店を訪れた時に閉店間際に二人だけで一緒に酒を飲んだ。これは非常にまずかったですね。それによって、女将への嗜好(選好)までもが生じた。そして、女将も右京さんへの嗜好(選好)が生じてしまった。
  
アルコールは雌マウスの条件付けパートナー嗜好(選好)を誘導する
「ETHANOL-INDUCED CONDITIONED PARTNER PREFERENCE IN FEMALE MICE」

 飲酒行動と社会的コンテキスト(社会的な内容)が密接に絡み合っている。仲間との関係は飲酒を促進することができる。逆に、アルコールは社会的相互作用を促進する。本研究では、雌マウスにおけるエタノールによって誘発される条件付けパートナー嗜好をテストした。

 卵巣を摘出された(Ovariectomized、OVX、=女性ホルモンの影響を除去した)C57BL/6系統の雌が、慢性エストラジオールを投与された(OVX+E)か、エストラジオールをされずに(OVX)、同時に、ペア刺激となる生理食塩水、あるいは、エタノール(1、2、4g/kgの3種の投与量)の腹腔内投与を受け、さらに、同時に、2回のうち1回はパートナーとなるように仕向けられた他の雌からの刺激を30分間ずつ4回受けた(雌と雌同士の条件付けを行うことになる)。
 
 その後、テストされることになる雌は、生理食塩水とのペアで刺激されたパートナー候補の雌(CS)、または、エタノールとのペアで刺激されたパートナー候補の雌(CS+)に対するペア形成度合いが評価された(10分間の時間内でパートナーに接近して過ごす時間の評価)。
 
 第2の研究では、OVXとOVX+Eの雌について、2.5g/kgのエタノールが与えられ、パートナー(CS- vs CS+)への嗜好がテストされた。

 さらに、マウスの別グループでは、アルコールを投与された他の雌のマウスに対しても条件付けパートナー嗜好が生成されたかどうかを同定するため、ペアリングの最中にテスト雌マウスと刺激する雌マウスは伴にエタノールが投与された。

 その結果、OVX+Eの雌マウスでは、2g/kgのエタノールに反応して、CS+マウスへの条件付けパートナー嗜好(CPP)が生成されたことが分かった(CS+マウスへの選好スコアの変化:+ 86.6±30.0秒/ 10分)。しかし、0、1、4g/kgのエタノールではCPPは生じなかった。さらに、2.5g/kgのエタノールでは、OVX+Eの雌マウスは、IS+ (+63.6±24.0秒) や CS+ (+93.8±27.1秒)に対して条件付けパートナー嗜好を生成した。しかし、OVXの雌マウスでは、唯一、IS+(+153.8±32.0秒)に対してのみエタノール誘発性のCPPを示した。

 これらのデータからは、エタノールが雌マウスの社会選好を促進し、その作用は、エストラジオール(女性ホルモン)によって増強されることを示している。

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(論文終わり)

 この実験は、雌が雌を好むような条件付けの設定なのですが、そういう設定にしないと、雌と雄の設定では、アルコール以外の他のファクター(臭いなど)もペア形成に関わるため、必ずしもアルコールと伴にパートナーへの嗜好(選好)が条件付けられたとは言えないからです。そして、興味深いことに、卵巣を摘出された場合はパートナーへの嗜好は生成されなかったが、女性ホルモンがあるとパートナーへの嗜好は生成され、女性ホルモンにてアルコールの効果が増強されていることが分かった。女はやはり女なのですね。
 
 この所見は、性ホルモンの強さによって一緒にアルコールを飲んだパートナーのことを好きになるかどうかが強まることになります。

 従って、性ホルモンのレベルが上昇しているような状況、例えば、排卵前ではアルコールによるパートナーへの嗜好形成という現象が強まることになります。若い女性が排卵前に男性と一緒に酒を飲むと、アルコールが媚薬になってしまい、普段はそんな気にもならないような男性相手にベッドインしてしまうなんてことにもなりかねないので注意が必要です。逆に、閉経したような女性では、女性ホルモンが殆ど分泌されなくなるため、アルコールはもはや媚薬にはならないのかもしれません。

 さらに下の図をよく見てください。一緒にアルコールを飲んだパートナーとの条件の時が接近している時間が一番長かった。これは、一緒にお酒を飲むとお互いに親密になることを意味していると思えます。この実験は、同性同士の実験ですから、異性との関係だけでなく、同性同士の場合や他の社会関係でも当てはまります。友達と一緒に酒を飲むと友情が深まり、部下と一緒に飲むと上司や部下との関係が深まる。当然、職場の忘年会などは、職場の人間関係が深まることになるのでしょう。

 これは、婚活にも活用できます。お酒も飲めないような婚活パーティに、いくら参加しても無駄なのです。 本当にパートナーを見つけたかったら、婚活やお見合いの席でも、このアルコールの力を借りるべきです。 お見合いの席でも酒を飲むべきなのです。お酒なしの見合いをいくらしても無駄なのです。しかも、ラットなどのデータでは少ない量でもよい。少量でもCPPが形成されることが分かっています。とにかく、1回でも見合いの相手と一緒にお酒を飲めば、そのことでCPPや社会選好が形成されれば、その人がパートナーになってくれるかもしれない。すなわち、結婚できる確率が高まることになるのです。
 
 一方、雄のラットでも全く同じような実験結果(睾丸を摘出された雄)が今年に発表されています。まあ、雄では、テストステロンといった男性ホルモンでパートナーへの嗜好が増強されるようですけどね。

 そう言えば、右京さん、年齢(62歳)の割には肌の色つやがいいですね。若々しいですね。テストステロンも高いんじゃないですか。酒のみでテストステロンが高い男。右京さんは、相当な女好きだとみましたが。
 
(お前の方こそ、テストステロンが高そうに見えるぞ。いつもギラギラした眼をしているじゃないか。)

 さらに、自己投与パラダイムという実験方法もあるのですが、アルコールの自己投与パラダイムからの所見では、自己投与という行動もアルコールによって条件付けられることが分かっています。いったんアルコールでCPPが形成されると、次は自らその店に通って酒を注文し酒を飲むことになる(条件付けによる自己投与)。その結果、その店や女将への条件付けも強化されていく。

 同じスナックやバーやキャバクラに足繁く通っている男達が多いのはご存知ですね。しかし、それは皆、自己投与パラダイムをしているに過ぎないのです。それは右京さん、あなたも同じなのです。

 だから、右京さん、あなたは、毎回、番組の終わりで「花の里」に行っているんですね。

 もう、こうなると、杉下右京とはいえ、アルコールの自己投与の実験台にされたモルモットと同じ行動をしている哀れな存在に過ぎません。

(俺って、そんな哀れなモルモットのような男だったのか。いつも番組のクライマックスで、犯人に向かって、あなたは哀れな人ですねみたいなことを言っているこの俺が、今日は逆に、科捜研の若造に哀れな人だと言われる番なのかよ。)

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 まあ、この論文を読んでください。自ら「花の里」へ足繁く通ってアルコールを自己投与し、CPPも強化していたことが理解できます。

 自分の意志で自由に店に通っていたつもりが、自分の意志で自由に飲酒していたつもりが、実は、単に、条件付けられた行動を繰り返し、強化行動をしていたに過ぎないのです。

 私に言わせれば、行きつけの店などではなく、アルコールによって単に条件付けられた場所に過ぎないのです。 

齧歯類の飲酒: エタノールの強化効果に関連する自由選択な飲酒はあるのか?
「Ethanol Drinking in Rodents: Is Free-Choice Drinking Related to the Reinforcing Effects of Ethanol?」

 飲酒における遺伝的影響や環境的操作の影響を評価するために、多くの研究では、動物における自発的なエタノール消費という手法を使用している。しかし、そういったオペラント条件付けや道具による条件付けの手法を用いても、ホームケージの中でのエタノール消費(=特定の店での飲酒)とエタノール強化行動との間の関連性についてはまだ正確な評価はできていない。
 
 この論文では、マウスやラットのホームケージの中でのエタノール飲酒と、オペラント経口自己投与(operant oral self-administration、OSA)、条件付け味覚嫌悪(conditioned taste aversion、CTA)、条件付け場所嗜好(CPP)との間に一貫した相関関係があるかどうかを評価した。さらに、静脈内エタノール自己投与(intravenous ethanol self-administration、IVSA)に関する文献もレビューした。
 
 文献からデータを収集する際に、我々は、各文献の遺伝子操作の範囲を評価したが、その遺伝子操作では、遺伝子配列やエタノール摂取行動を変化させることができることになる選択育種、トランスジェニックモデル、ノックアウトモデル、近交系と組換え近交系などが含まれていた。もし、遺伝子モデルが分析結果に含まれている場合は、ホームケージでの飲酒の相違データや、他の行動測定のデータをも評価せねばならない(薬物の作用が、遺伝子によって大きく影響を受け、個々で結果が異なってくるのであれば、一般化して当てはめることはできないが、そのような影響をも考慮して、これまでのデータを解析した)。
 
 その結果、一貫性のある正の相関関係がホームケージの中でのエタノール摂取とOSAとの間で観察されたが、この所見は、道具的行動(instrumental behavior、=オペラント条件付けによる行動)がエタノールに向うような完了行動(consummatory behavior、=本能的欲求を満足させる行動)や摂食行動に遺伝子的に密接に関連していることを示唆している。
 
 負の相関関係がCTAとホームケージの中での飲酒との間で観察されたが、この所見は、エタノールへの嫌悪行動がエタノールの経口摂取を制限することができることを示唆している。
 
 一番小さな正の相関関係がームケージの中での飲酒とCPP間で観察された。

 しかし、ホームケージの中での飲酒とIVSAとの関係性を同定するための研究は十分に行われておらず関連性はまだ不明なままである。
 
 このように、広範囲の異なる行動手順と遺伝的に異なる集団との間にいくつかの一貫した結果が観察されたが、これは研究結果の妥当性や信頼性を高めていることになる。齧歯類以外の新規の動物のアルコール報酬関連行動を測定する際に、研究者がどのような表現型を使うかを決定する際に、これらの所見は重要な意味を持つことであろう。

(論文終わり)

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 この論文では、CPPと自己投与との直接の因果関係までは述べられてはいませんが、CPPと自己投与は、伴に、ホームゲージの中での飲酒と相関関係があるため、CPPと自己投与との間にも相関関係があることは確かなようです。
 
 さらに、論文からは、自己投与に関しては遺伝子の影響を受けやすいようですが(すなわち、足繁く店に通うかどうかは個人の遺伝子的な要因も関係してくるが)、CPPに関しては遺伝子の影響は少なく、誰もが条件付けられる現象だと言えそうです。

 キャバクラやホストクラブに嵌って足繁く店に通い、高価な酒を注文し大金を注ぎ込んでしまう人は、そういったことになりやすい(自己投与になりやすい)遺伝子を有しているのかもしれませんね。
 
 しかし、遺伝子の影響があろうとも、キャバクラやホストクラブで大金を使う人は、私からすれば、モルモットみたいな哀れな存在にしか思えません。
 
 右京さん、あなたも、1ヶ月間の飲み代がものすごく、「花の里」に大金を注ぎ込んでいるんじゃないですか。花の里は、噂によれば、東京の一等地にあるお店のようですから、かなり値段が高いんじゃないですか。
 
(この若造め、よく言うわ。お前はまだそんな店に行けるような身分じゃないから、俺に嫉妬しているだけなんだろうぜ。)

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 さらに、電子ブックの次の部分を読んでください。
 
条件付け場所嗜好 vs 自己投与
「CONDITIONED PLACE PREFERENCE VERSUS SELF-ADMINISTRATION」
 薬物の報酬の特性を評価するための別の一般的なモデルは自己投与パラダイムである。名前が示すように、このパラダイムは、薬剤の注入反応(例えば、レバー押し。通常は静脈内に投与されることになる)を動物が自ら示した回数を記録することから成る。

 自己投与パラダイムは、乱用の可能性がある薬物をスクリーニングしたり、薬物の報酬効果を解明するための重要なツールである。

 条件付け場所嗜好や自己投与パラダイムは、双方ともに薬物の報酬特性を測定するパラダイムではあるが、これらの二つのモデルの間には重要な違いがある(表4.2)

 まず、CPPと自己投与に関しては、双方伴に多くの薬剤の報酬効果に感受性を有するが、精神刺激薬とアヘンを含めたある種の薬物(例えば、LSD、ブスピロン、ペンチレン)では、CPPを生成しても、自己投与は誘導されないが、逆に、他の薬剤(例えば、ペントバルビタールやフェンサイクリジン)では、自己投与が生成されても、CPPは誘導されない。

 次に、CPP研究の殆どがラットやマウスが使用されているのに対して、自己投与研究は、サル、ラット、マウス、ハトで行われている。
 
 第3に、薬物誘発性CPPと自己投与に関わるメカニズムは異なっている可能性がある。例えば、D2受容体アンタゴニストは、コカインのCPP生成に対しては最小限度の影響しか与えないが、コカインの自己投与を減衰させる。

 最後に、これらの2つのパラダイムの間の重要な差異は、実験手順の違いである。CPPパラダイムとは異なり、自己投与パラダイムでは、通常は静脈内に薬物を投与するため、カテーテルを外科的に移植することが必要となり、大規模なオペラントトレーニングが必要となる。
 
 さらに、CPPにおける薬物の主観的な効果は、CPPの前のタスクに存在しているのに対し、自己投与パラダイムにおいては、被験動物は薬物投与による即時の効果をもたらすタスクを学習していることになる。ヒトにおける薬物使用の2つのモデルの中では、後者が最も類似しているものと思われる。

(論文終わり)

 CPPが先か、自己投与が先か、自己投与によってCPPが強化されていくのか、逆に、CPPによって自己投与が強化されていくのか、CPPと自己投与はお互いを強化していくのか、といったことは、まだ動物実験でも十分に調べられてはいないようですが(私の調べ方が悪く、既にそういった動物実験は成されているのかもしれませんが)、とにかく、同じ店に通って同じホステスさんを指名し、毎回たくさんのお酒を飲んで帰るという行為は、アルコールによるCPPとアルコールの自己投与とを相互に条件付けし強化し合っているような愚かな行為に思えます。

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 まあ、人では、CPPよりも、CPP後の自己投与の方が愚かな行為をしているのだと私にはそう思えますが。

 このように、アルコールには、我々の想像を超えた非常に大きな力があるのです。

 そして、そのアルコールの大きな力は、当然、人の人生まで大きく変えてしまうことになる。 
 
 右京さんの人生は、たった1回のアルコールで大きく狂ってしまった。あの時、あの店に行かなければ、女将さんと結婚することも、離婚を経験することもなかった。

 離婚された時は、さぞかし辛ったことと思います。

(離婚が辛いのは当たり前じゃないか。しかし、なんて生意気な若造なんだ。一度も結婚したことがないお前に何が分かるというのだ。もし、お前が俺の相棒だったら、いつもの俺のように即交代だな。)
 
 しかし、なぜ、離婚したのか。それは、右京さん、あなたが浮気したからじゃないですか。

 なっ、何を言うのだ。私は浮気などはしていない。
 
 妻は繁盛しない店の女将の仕事が嫌になって勝手に世界放浪の旅に出ていってしまったんだ。

 まあ、この論文を読んでくださいよ。とても大事な論文ですよ。
 
 どれどれ、

草原ハタネズミにおけるペア結合形成へのアルコールの効果は性別に依存している
「Drinking alcohol has sex-dependent effects on pair bond formation in prairie voles」

(この論文が掲載されたPNASの編集者によるコメント)
 この研究は、社会的接着におけるアルコールの効果は生物学的機構によって媒介され得るという最初の証拠を我々に提示している。雄と雌の間で観察された効果の差は、男性ではアルコールが社会的な結合を阻害するが、女性ではパートナーへの嗜好を促進したように、性別で異なっていた。さらに、行動に影響を与えるだけでなく、アルコールは、社会的、ストレス/不安様行動に関与する神経系にも影響を与えた。これらの所見は、我々は、社会的な行動を調節する因子や、その因子へのアルコールの影響に対する正しい理解を可能にする。これらの因子を同定することは、アルコール乱用によって社会的関係に壊滅的な影響が及ぼされることを予防し、アルコール乱用を治療する上での方法を発展させていく上で役に立つことであろう。

(本文の抄録)
 アルコールの使用と乱用が、社会的相互作用などの行動に様々な深い影響を与える。あるケースでは、社会的関係を破壊する。一方では、アルコールが社会関係を促進する。この論文では、自発的なアルコールの消費は、(ペア結合を検証する代用実験にて)、一夫一婦制を組む草原ハタネズミの男性のパートナーへの嗜好(partner preference、PPの形成を阻害できることを示している。逆に、女性においては、PPは阻害されず、アルコールによって促進されるようだ。
 
 行動分析や神経化学的分析の結果では、社会的な接合に関するアルコールの効果は、パートナーとの結合形成を制御する神経メカニズムを介する効果であり、交配や運動や攻撃性に関わる効果への影響によって媒介されている訳ではないことを示唆している。
 
 さらに、社会的な行動の調節に関与しているいくつかの神経ペプチドシステム(特に、ニューロペプチドYや副腎皮質刺激ホルモン放出因子)がパートナーとの同居中の飲酒によって変調されることが分かった。
 
 これらの知見は、アルコールが、社会的な結合に関与する性別に特異的な神経システムに直接影響を与えているという最初の証拠であり、アルコールの社会的な関係への影響に関わるメカニズムを探求する機会を提供するものである。

(論文終わり)

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 男は、酒をたくさん飲んでいると、だんだんと妻への興味を失っていくようです。
 
 右京さん、あなたの奥様は、妻への興味を失い、浮気をした夫に愛想を尽かして世界放浪の旅に旅立ったんじゃないですか。
 
 私の人生はいったい何だったのだろうか。なぜ、こんな男と結婚したのかと後悔しながら。
 
 この実験では11.2±0.81(平均±SE)(g/kg体重)という大量のアルコールを飲んではいるのですが、あの忠実な草原ハタネズミですら、交配したパートナーにも係らず、見知らぬ女性と同じくらいの興味になってしまっていますね。ペプチドホルモンの変化からは、CRFが低下することで不安を抱かなくなるためなのではと考察されています。一方、女性ではそういうことにはならないようです。

 アルコールのせいでパートナーと離れていても不安を感じなくなる
のかもしれません。
 
 それを人間社会に当てはめてみると、男が外でたくさんアルコールを飲むと、いつの間にか妻のことも忘れてしまい、ホステスさんにうつつを抜かし、ぐでんぐでんに酔っぱらって帰ってくることになるのです。とても悲しい話ですね。
 
 そうして妻からは愛想を尽かされ、ますます夫婦の間は疎遠になっていく。
 
 こうなると、もう見境いがなくなり、手当り次第、他の女性にも手を出すようになるはずです。
 
 右京さんは、アルコールが大好きですよね。今でも、手当り次第、女性に手を出しているんじゃないですか。
 
 バカなことを言うな。私は警視庁の刑事だぞ。前回のブログの浮気した男と一緒にしないでくれたまえ。
 
 それに、前述したラットの論文の結果からは、大酒飲みの男は異性のパートナーだけでなく、同性のパートナーに対してまで飽きっぽくなるのも間違いありません。
 
 右京さん、いつも、相棒をころころと変えてませんか。それはアルコールの飲み過ぎのせいですよ。こいつはもう飽きたからといって、相棒の刑事を降板ばかりさせていたら、そのうちにあなたが降板することになりますよ。

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 私は、二代目杉下右京が登場する日が近いと予想しているんです。
 
 設定は、アルコール依存症で杉下右京が再起不能になったという設定です。二代目の名前は杉下左京。右京の弟です。しかし、杉下左京は酒は飲まない。相棒も絶対に変えることはない。どうです、この設定、ナイスでしょう。

(この野郎。そこまで言うか。しかし、科捜研のマリコだって、部下をころころと交代させているじゃないか。お前は、いったいマリコの何代目の部下なんだ。)
 
 ところで、赤ん坊ができたばかりだというのに浮気したあの男の話はいったいどうなったのだ。ちゃんと説明してくれたまえ。

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(ここで、浮気をしてしまい、離婚の危機に陥った前回のブログのあの男が登場した。)
 
 実は、バゾプレッシンでもオキシトシンのせいでもなかったのです。確かに、バゾプレッシンやオキシトシンの作用はあったのかもしれません。それよりも、我々科捜研は、アルコールによるせいだと結論をしました。
 
 なぜならば、アルコールはオキシトシンの分泌を抑制する作用があるからです。まあ、分泌が完全に抑制される訳ではありませんが。抗利尿ホルモンでもあるバゾプレッシンの分泌もアルコールで抑制されます。酒を飲むとおしっこに行きたくなるのは、抗利尿ホルモンが抑制され利尿に傾くためですね。
 
 従って、あの状況下では、アルコールの作用の方が、バゾプレッシンよりもオキシトシンよりも優位になっていたと判断しました。
 
 一方、動物はアルコールによってすぐに条件付けられてしまう。しかも、その条件付けは強力である。
 
 さらに、アルコールによっても、バゾプレッシンやオキシトシンと同様に社会選好が生じる。お互いに一時的に好きになっていってしまうことは十分にありえる。
 
 そして、あの二人はアルコールがかなり飲めるのです。既に、過去のアルコールのせいで、いろんな条件付けが成されていたのではとも推測されます。
 
 学生時代は合コンをよくしますよね。合コンは男女が出会い恋に落ちる場所ですから、それはもう、右京さんも学生時代は何度も合コンをしたことでしょう。
 
 アルコールが恋を演出しているんですね。
 
 科捜研が調べたところ、浮気した男性の方は、学生時代の合コンで酒を飲みながら女性をよく口説いていたことが分かりました。そして、その女性の方も合コンの席で男性からよく口説かれていたことが分かりました。アルコールを飲みながら口説く、アルコールを飲みながら口説かれる。この二人には、それが既に学生時代に条件付けらていたんです。

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 そして、社会人になってからもその条件付けは消えずに残っていた。

 もうお分かりですよね。既にアルコールで条件付けられていた二人は、忘年会のはずが合コンになってしまったのです。
 
 忘年会で隣同士の席になり、とりとめもない話をして盛り上がったのですが、そういった行為は、実は、知らない間に、酔いながら、お互いに口説き口説かれをしていたことになります。
 
 忘年会のはずが、既に条件付けが成されていたため、男は学生時代の合コンのようなガールハントをする場所になっていた。かたや、女性の方はガールハントをされる場所になっていた。二人とも、なんとなく、そんなことを感じながら、話が盛り上がっていたことと思います。
 
 そして、アイコンタクトでサインを彼女から送って来た時、男の方もアイコンタクトでOKだと答えてしまった。ガールハントは成功したのです。
 
 学生時代の時にガールハントに成功したら、行く場所はもう1つしかない。
 
 後は、どうなるか。それはもう言わなくても分かりますね。
 
 もしかしたら、その女性は排卵が近かったのかもしれません。男性の方も、テストステロンが上昇しかけていたのかもしれません。赤ん坊が生まれると、不思議なことに男性の方も性ホルモンの分泌が変化し、テストステロンが1/3くらいにまで低下することが分かっています。この男性の場合は、逆に、今まで抑えられていたテストステロンがどーんと上がりかけていたのかもしれませんね。
 
 性ホルモンもアルコールの作用を強めてしまった可能性があります。

 まあ、そういった事件だったのです。
 
 アルコールの力を甘く見てはいけません。アルコールの強大な力、それは、右京さん、あなたが一番証明してくれているのですから。
 
 我々は、その事情を奥様に説明しました。バゾプレッシンとオキシトシンの話も一緒に説明しておきました。
 
 あくまでも一時的なことだったと説明しておきました。
 
 実は、奥様も学生時代に口説かれた経験が何度もあるということで理解してくださいました。私が、その立場だったら、そうなっていたかもしれないと。
 
 よかったですね。
 
 もう二度とあんなことはしないでほしいとの奥様からの伝言です。
 
 ううう(涙)、有難うございます。
 
 アルコールは怖いです。もう、二度と外では酒を飲みません。
  
 実は、妊娠してから妻は禁酒をしていました。それで、ずっと一緒に晩酌はしていなかった。妊娠する前は、一緒によく晩酌をして夕食を楽しんでいたんですけどね。
 
 しかし、そろそろ母乳も出なくなってきて離乳食がどんどん増えてきています。母乳ではなく完全に粉ミルクにしようかと妻は言っています。妻の禁酒期間も終わりになりそうです。
 
 これからは、家で妻と一緒に晩酌をして、お酒を楽しみたいと思います。当然、ほどほどに飲んで終わりにしますけど。
 
 そう、外では飲まずに家で晩酌をして適度に飲む。それが一番ですね。

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 アルコールで夫婦の愛を深め合う。本当に素晴らしいことですね。本来、アルコールは、そうやって上手に飲むものなんですね。
http://joshiplus.jp/gourmet/news/2006733/ 
 
 まあ、動物実験のように、CPPを強化しているだけなのかもしれませんが。それでも、パートナーとの絆が深まることには変わりはない。
 
 ところで、右京さん、あなたは、アルコール依存症になりかけていませんか。毎日、飲んでいませんか。

(ぎくっ。)

 最後に、アルコールに関する重要な論文を提示して終わりにしたい思います。

 この論文は、アルコール依存症の再発を防止する上でのパートナーの重要性を示した論文です。

草原ハタネズミの飲酒の再発をパートナーが防止する
「Social partners prevent alcohol relapse behavior in prairie voles.」

 アルコール依存症の再発に対する社会的な支援因子として対人因子が保護的な役割を果たしているという強固な証拠があるが、しかし、社会的因子が再発から個人を保護する上でどのように作用しているのかというメカニズムに関する研究は不足している。
 
 草原ハタネズミは一夫一婦制で暮らす非常に社会的な齧歯類であるが、自己投与では多量なエタノールを自由に飲酒する齧歯類エタノールであり、飲酒の社会的な影響を理解する上で有用なモデルになる動物である。
 
 この論文では、動物では一般的に断酒後の飲酒再開時にはエタノール摂取が一過性に増加するが(アルコール剥奪効果)、この断酒時の効果を利用することで、再発に対する社会的な影響に関するモデルとして草原ハタネズミが成り得るかどうかを検証した(人間でも断酒後に飲酒を再開した時にはリバウンドで断酒前に飲酒していた量よりも多く飲んでしまう人がいるようですが)。
 
 実験(I)では、被験ネズミは、2瓶選択試験において、10%エタノールに24時間アクセスできる状況で4週間、単独で飼育された。次に、エタノールを72時間ケージから除去した。動物は単独で残ったか、その後、顔なじみの同性ソーシャルパートナーと飼育され、エタノールへのアクセスが再開された。
 
 一人のままのハタネズミでは、飲酒再開前のベースラインよりもエタノール摂取が増加した。しかし、パートナーと一緒に飼育されたハタネズミでは、エタノール摂取の増加は示さなかった。そして、この所見は、パートナーのネズミがエタノールへのアクセス権利を有していたかどうかとは無関係であった。実験(II)では、一人で飼育されたハタネズミのコホートにてアルコールの剥奪効果が複製された。
 
 これらの所見は、草原ハタネズミはアルコール剥奪効果を有するが、草原ハタネズミの飲酒再開時には「パートナーという社会的なバッファリング(緩衝)効果」が存在することを示唆している。この行動パラダイムは、アルコール依存症の再発における社会的な影響の神経生物学的基盤を調べるための新しいアプローチ方法となろう。

(論文終わり)

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 この実験は泣かせる話じゃないですか。パートナーと一緒にいたら、アルコールを飲む量が明らかに減った。断酒に失敗しても以前のような量は飲まなくなった。そして、パートナーが酒を飲まないと、酒も好きでなくなっていく。一方、パートナーがいない一人もののままだと、断酒する前よりももっと飲んでしまった。まあ、草原ネズミでは、アルコールよりも、パートナーの方への条件付けの方が強かっただけなのかもしれませんが。

 しかし、人類でもこれは同じだと思えます。実体はパートナーへのCPPかもしれないが、それでも、パートナーへの愛が、夫婦愛が大切なのだと。

 夫婦愛、それこそがアルコール依存症から夫を救う大きな鍵になるのです。
 
 アルコール依存症の男達は、妻から愛想を尽かされて離婚になる前に、もう一度、妻への愛に目覚めなければならない。実験結果からは、離婚されたらもう二度と立ち直れることはないと言えます。
 
 だが、人間のアルコール依存症患者では、なかなかそうはならない。いつまでもいつまでも配偶者に酒で迷惑をかけ続ける人が多い。妻への愛をも失くしたままになっている。だから、アルコール依存症から抜け出せない。人間は草原ネズミよりも劣っている動物なのかもしれませんね。

 アルコール依存症から抜け出すためには、他者愛に目覚める必要がある。特に、奥様への愛にもう一度目覚めてください。

 えっ、俺は、今、独身だぞ。

(こら!! 勝手に話を作るなと、TV朝日のプロデューサーから怒れらてしまいそうなので、もうやめます。ブログも冬休みで3週間ほど休みます。)

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いつも外で飲んで帰ってくるあなた。年末年始くらいは、外で飲まずに家庭の中で奥様と一緒に晩酌をして、もう一度夫婦の愛を深め合ってください。

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母性のホルモンと父性のホルモン (オキシトシンとバゾプレッシン)


OXT-AVP

 忘年会シーズンである。

 しかし、今日は忘年会だが、愛する家族のために早く帰宅しようと決意して家を出たのだったが、その決意が逆に仇になってしまうワナが待ち構えていることがある。
 
 皆さん、気をつけましょうね。
 
 子供が6か月前に誕生したばかりの若い男性がいた。今の喜びは、我が子の安らかに眠る姿を見て、泣いたら抱っこをして、父親となった実感を味わうことだった。子供も誕生したし、俺には父親としての自覚が芽生えた。さあ、この幸せな家庭を守り続けるために今日も仕事を頑張るぞ。
 
 しかし、今日は忘年会だ。今日は今までとは違い早く家に帰ろう。

 何て愛しい我が子の寝顔。スースーと心地よさそうに眠っている。思わずおでこにキスをしてしまった。

 あなた、早く帰ってきてね。飲みすぎないでね。
 
 大丈夫だよ。もう父親になったんだから、若い時のような無茶はしないよ。今日は早く帰ってくるからね。じゃあ、行ってくるね。

 愛する家族のために、今日は絶対に早く帰るぞと、決意を新たにして家を出た。

 だが、いざ忘年会となったのはいいが、今日は非常に狭い店だった。しかも、隣に座った独身の若い女性がやたら気になって仕方がない。幹事は宴会でセクハラなどの間違いが起きないようにと、既に結婚しており子供が生まれたばかりのガードが固くなっている私の隣の席にしたのだろう。家庭状況からいって一番そんなことをしそうにないのは分かるけど、狭すぎて体と体がすぐにぶつかってしまうではないか。
 
 彼女とは余り話したことはないのだが、前から可愛い子だなと気になっていたのは確かである。向こうもなぜか今日は俺に親切で積極的だ。俺ってまだ魅力があるのかな。まだまだ捨てたもんじゃないな。ああ、あまり飲まないでおこうと思ったが、彼女がどんどんついでくるものだから、断る訳にもいかず、いつものように飲んでしまった。

(いやいや、これではいけない。今日は1次会で絶対に帰るのだ。)

 向こうは独身のためか、結婚生活にやたらと興味があるようであり、いろいろと聞いてくるので、家庭の話や子供の話をして盛り上がってしまった。

 今は赤ちゃんがいるから奥さんとはエッチはしていないのとか、奥さんと今でもラブラブ?、 とか聞いてくる。向こうも大分酔っぱらっているようだ。
 
 子供さんの写真を見せてよと言うので、スマホに保存してある子供の写真を見せた。
 
 きゃあ、可愛い!! 彼女はじっと写真を見いっている。

OXT-AVP-1
 
 どうだ可愛いだろう。ああ、なんて愛しい存在なんだ。
 (ここで、ある物質がどっと分泌された)
  
 あれ?、変だな、子供の写真を見たとたんに、なぜかその女性がすごく魅力的に感じてきた。
 
 逆に、彼女の方も、まじまじとこっちを見てくるではないか。恥ずかしい。俺をそんなにじっと見ないでくれよ。
 
 ああ、どんどん飲まされる・・・・・。
 
(こうして2時間半が経過した)
  
 じゃあ、皆さん、来年も頑張りましょう。乾~杯!!
 
 はい、1次会はこれで終わりです。さあ、さあ、皆さん、2次会に行きましょう。
 
 え、もうそんな時間なのか。2次会どうしようかな。脚が少しふらつくな。まず、トイレに行かねば。

 げっ、えらく混んでいるではないか。先輩、お先に失礼しま~す。

 モタモタしていたらエレベーターを乗るのが一番最後になっちゃった。残り5名くらい。彼女もエレベータに乗り遅れたのか。
 
 帰りのエレベーターで2次会に行くべきかどうか迷っていたら、その女性が私の腕をつかんできた。

 私、酔っちゃったみたい。主任さん、今日は早く帰っちゃいや~ん。ねえ、一緒に2次会に行きましょうよ。私じゃダメ?
 
 先輩、お持ち帰りはダメですよ。ちゃんと彼女を2次会に連れてきてくださいね。
 
 バ、バカなことを言うな。妻帯者で子供がいる私がそんなことをする訳ないだろう。
 
 2次会の場所はここですから。皆でタクシーで移動します。
 
 あれれ、一番最後のタクシーになっちゃった。

 え、どうしよう。このまま彼女を1人で置いて帰るのもまずいし。まあ、まだ9時だし、1時間ほど2次会に参加してから、すぐに家へ帰ろう。ま、少しくらいならいいか。
 
 彼女とタクシーに乗る。運転手に行き先を告げる。

 ああ、なんだか眠くなってきた。運転手さん、店についたら起してください。
 
 ・・・・・・・・・・・・
 
 はい、お客さん、着きましたよ。起きてください。運転手がニヤニヤしている。
 
 着いたところは、なんと、ラ・ブ・ホ・テ・ル!!
 
 えっ?、ここはいったい・・・・・。
 
 なんでこんなところに着いたのだ。
 
 しかし、俺にもたれかかったままの彼女。俺の腕をつかんで離そうとしない。
 
 眠っている間に、彼女が運転手に違う行き先を告げたのであった。
 
 もうここまで来ると、会話は要らない。彼女が私に何をしてほしいのかは明らかである。
 
 いっ、いかん。これはまずい。妻と子供は俺の帰りを待っているのだ。

 誘惑に負けてはいけない。邪念を消すのだ。愛する妻と子供の姿を思い出すんだ!!
 
 愛しい妻と子供の姿がドドーンと脳内に再生された。

OXT-AVP-2

 (その瞬間、再びある物質がどっと分泌された)

 だが、皮肉にも、抑えなければならないはずの本能が逆に爆発してしまったのである。
 
 君はなんて魅力的な女性なんだ!!

(後は、どうなったかはご想像にお任せしますが、午前様になってしまい、奥様から厳しく問い詰められて修羅場になってしまったのは言うまでもありません^^;) 

(この話は、実際に似たような体験をした、とあるドクターの話を元に書いております。なお、私ではありませんので、くれぐれも誤解なさらぬようにお願い致します。)

 しかし、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。

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 オキシトシン(Oxytocin)とバゾプレッシン(Vasopressin)。

 この2つのペプチドホルモンが、人の精神(感情調節、共感能力、報酬系、等)や行動(特に、向社会行動など)に大きく関わっていることは以前からよく知られており、今でもさかんに研究されている。
 
 特に、オキシトシンは、母と子の絆(授乳などの育児や母性行動、母と子の愛着の維持、など)、男と女の関係(パートナーへの愛、浮気を防止し夫一婦制度を維持する、など)といった重要な事柄に大きな役割を果たしており、「愛のホルモン」と呼ばれている。愛撫や抱擁などの刺激で分泌されるため、「抱擁ホルモン」とも呼ばれる。また、性行為などにも関わり、男女の結合を強めるため、「結合ホルモン」とも呼ばれている。恋愛が始まった女性ではオキシトシンが高まっていることが報告されている。オキシトシンは、まさに「愛のホルモン」なのであった。

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 さらに、オキシトシンは、社会的な認識、社会的な記憶、社会的なアプローチ、社会的選好(social preference、ある社会的な状況への好みが増す。ある人を好きになるのも社会的な選好の1つである)をも促進することも分かっており、他者との信頼関係友好関係の構築を促進することにも大きく関与している。オキシトシンは自己と他者の違いを認識する能力を向上させ、他者への肯定的な評価を向上させくれるのである。

 その結果、オキシトシンが作用すると、アイコンタクト、ボディタッチ、子へのグルーミング(毛づくろい)といった他者との接触行動が増える。オキシトシンは、他者とのスキンシップを高めてくれる方向に作用するのである。

 そして、オキシトシンは赤ん坊という人生の早期から作用していることも分かっている。母親とのスキンシップは赤ん坊のオキシトシンレベルを高める。これによって、子供の親への信頼感は増加し、子供は安心して育つことになる。その結果、子は親を慕うようになり、子供は親を尊敬するようになり、しいては社会をも尊敬し尊重するようになる。社会はオキシトシンが作り出し支えているのだとも言えよう。
 
 一方、オキシトシンは、ドーパミンやセロトニン系にも関与しており、オキシトシン作動性ニューロンは側坐核や扁桃体や海馬などで報酬系や大脳辺縁系ともリンクしていることが分かっている。愛が人間の心を満たしてくれる、すなわち、報酬系を満たしてくれることは、誰にでも理解できよう。オキシトシンが報酬系を直接高めてくれることで、生涯一人のパートナーに忠誠を誓い、たとえ自分の夫や妻以外の魅力的な男性や女性に心を惹かれたとしても、オキシトシンのおかげで自分のパートナーからの報酬が一番最高のものだと実感でき、一夫一婦制度を維持していけるようになっているのである。そして、夜泣きされて育児がきつい時でも、心が満たされ、母親としての幸せな気分にひたれるのであろう。

(社会的選好について)
 こういったオキシトシンの社会性に関する役割の観点から、オキシトシンと自閉症との関連性が以前から調べられており、社会機能のスコアが悪い自閉症児童ではオキシトシンのレベルが低下していることなどが見出されている。

 オキシトシンのその作用からは、自閉症への社会症状や行動症状に対して効果が期待できるのではと想定され、既に、自閉症へのオキシトシンの点鼻薬の治験や臨床試験が行われている。しかし、オキシトシンのレベルは全ての自閉症児童で低くなっている訳ではなく、健常児童と変わらない高いレベル有するケースもあり、全てのケースでオキシトシンの効果がある訳ではない。自閉症とオキシトシンとの関連性については膨大な数の論文があるのだが、今回は自閉症とオキシトシンとの関連性については省略する(興味がある方は、下の総説や下の論文を読まれたし。なお、バゾプレッシンも自閉症に関わっていることが報告されている。統合失調症でもオキシトシンとの関連性が報告されている)。

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 下のHPからは、治験がうまくいけば、後2・3年もすれば、自閉症の治療薬としてオキシトシンの点鼻薬が発売されるのではなかろうか。

(なお、なぜ点鼻薬として鼻から投与するのかについては、「関連ブログ2014年2月5日 涙」を参照して頂きたい。)

 一方、オキシトシンの点鼻薬は、自閉症だけでなく、多くのケースに応用できる可能性がある。社会的なストレスを緩衝してくれるその作用からは、いろんなケースに応用できるものと思われる。
 
 特に、最近、自分の子供に虐待を加えてしまう親のケースが増えて大きな社会問題になっている。オキシトシンのその作用からは、オキシトシンの点鼻薬は、子供への虐待に悩む親を救い、子供への虐待を防いでくれるツールになる可能性があるのではなかろうか。

 抵抗性うつ病では、エスシタロプラとの併用でうつ症状を改善するという報告もある。これはオキシトシンの報酬系を介する効果であろう。

 さらに、依存や嗜癖などの中毒性疾患からの回復にオキシトシンの点鼻が役に立つ可能性がある。オキシトシンの点鼻によってアルコールの離脱症状が緩和することが報告されている。さらに、依存や嗜癖に陥るケースでは、オキシトシンシステムが十分に機能しておらず、報酬系が機能不全に陥っていることが分かっている。オキシトシンは、この報酬系の機能を回復してくれる可能性がある。オキシトシンシステムは通常は3歳までに発達を100%完了する。しかし、虐待やトラウマを受けたなど養育時の環境要因によっては、オキシトシンシステムの発達が阻害されてしまうことがある。依存性疾患に陥るリスクは、既に4歳から存在するのかもしれない。オキシトシン点鼻薬は、依存症の治療にも応用できる可能性があろう。ただし、オキシトシンシステムの発達が大きく阻害されていると効果がないことも考えられうる。

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 ここで、オキシトシンの点鼻薬を使用する上で注意しなければいけないことがある。オキシトシンは嫌な記憶を呼び覚ますことがあり、不安を惹起させ、社会ストレスの知覚を促進させ(人の男性での所見)、未来への恐怖やストレスを増強させることがあるため、想定されているオキシトシンの効果と逆効果になることがあるようだ。その使用には注意が必要であろう。

 話がそれてしまったので元に戻そう。

 人の精神や行動に関わるホルモンはオキシトシンだけではない。バゾプレッシンにも、人の行動に関わる大きな役割があることが分かっている。すなわち、男性としてのパートナーへの結合(妻への愛、一夫一婦制の維持、など)、子供との結合(子供への愛や育児、子供を防御する、など)、不安、ストレス、敵からの防御、敵への攻撃や警戒、社会的地位の維持、記憶(社会的記憶、など)、学習、といったようにオキシトンと同じように精神や行動に大きな役割を果たしていることが分かっている。そのため、今では、バゾプレッシンやオキシトシンはペアになって人間の精神や行動に大きく関与しているのだろうと理解されている。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4005251/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8413608
 この2つのホルモンの主な役割は、前述したように、向社会行動(prosocial behavior)である。特に、向社会行動を介して社会的な結びつき(social bonding)を強めるという大きな役割を担っている。

 社会的な結びつきには、親と子の結びつき、夫婦間の結びつき、救助活動、ボランティア活動、慈善活動や市民としての義務を果たすなどの他者との結びつきなどがあり、オキシトシンとバゾプレッシンは様々な社会的な結びつきに関わっているのであった。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4146394/
http://www.nature.com/nrn/journal/v12/n9/full/nrn3044.html
 

(向社会行動について)

 そして、向社会行動への作用も、同じホルモンでも男と女では作用が異なることが分かっている。オキシトシンとバゾプレッシンは作用に性差があるホルモンなのである。

 では、このホルモンの向社会行動や結びつきにおける役割とは具体的にはいったいどのような役割なのであろうか。
  
 この点に関して、一番重要なことは、オキシトシンは母性愛に、バゾプレッシンは父性愛に目覚めさせてくれることであろうと思われる。

 オキシトシンは母性のホルモンであり、バゾプレッシンは父性のホルモンなのであった。

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 女性では、母親になると、オキシトシンやその受容体の発現が高まることが知られている。これによって母性愛に目覚めることになる。さらに、そういった変化は、男性のバゾプレッシンでも報告されている。父親のオマキザルは父親になると、前頭前野における錐体ニューロンの樹状突起棘の密度が高まり、それと並行して、樹状突起棘におけるバゾプレシンV1a受容受容体が増えていることが判明した。これは、まだ父親になっていないオマキザルの雄には見られない変化である。さらに、バソプレッシンの注入を受けると、オスの大草原ハタネズミは子供のハタネズミを抱擁するようになった。男性では、父親になるとバゾプレッシンの作用が高まり、父性愛に目覚めることになるのである。
http://www.slate.com/articles/health_and_science/medical_examiner/2007/06/stretch_marks_for_dads.html
 
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 そして、オキシトシンやバゾプレッシンの発現を高め分泌刺激を与えてくれるのが、愛しい我が子の存在である。

 授乳の際にはオキシトシンが高まるのだが、赤ん坊を抱っこしただけでも母親のオキシトシンの分泌が刺激される(オキシトシンは単なるボディタッチという皮膚への物理的な刺激でも増えるようではあるが)。そして、赤ん坊が泣いた声を聴いただけでも、女性はオキシトシンが分泌されて、母性愛が作動し赤ん坊を養育しようと頑張るらしい。当然、赤ん坊のその愛らしい姿を見れば、女性ではオキシトシンが、男性ではバゾプレッシンが分泌されることであろう。その愛らしい姿を見て、母や父として目覚めない方がおかしいと言えよう。


(オキシトシンとバゾプレッシンの歌ですね^^;)
http://www.youtube.com/watch?v=PrRyJBo7VEw
 
 一方、既に述べたように、この2つのホルモンが作用する力には性差が認められる。興味深いことに、オキシトシンは女性で強く作用し、バゾプレッシンは男性で強く作用することが分かっている。

 そして、遺伝子の発現量も男女で異なっている(雌ではオキシトシンやその受容体の発現は雄の1.4倍も高い)。しかも、エストロジェンのような性ホルモンによって、オキシトシンやその受容体遺伝子の発現が刺激されることも分かっている。バゾプレッシンも同様に男性ホルモンで刺激される。逆に、男性では去勢されるとバゾプレッシン受容体が減少してしまう。まさに、オキシトンは女性へのホルモン、バゾプレッシンは男性へのホルモンなのであった。

 この観点からは、ストレスや不安に関連するバゾプレッシンが強く作用するように生まれつき定められている男性は、女性よりもストレスや不安に晒され易くなっているものの、その方が敵と戦う上では有利であり、愛する妻と我が子を守るために過酷な状況と最後まで戦い抜き使命を果たすように定められているのかもしれない。バゾプレッシンはまさに「愛する人を守るために戦う男のホルモン」なのである。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2689929/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7773686

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 この2つのホルモンは視床下部の室傍核と視索上核で作られて下垂体後葉から分泌される。

 このホルモンは、相同性が非常に高いホルモンである。アミノ酸配列は、双方共に9個からなり、オキシトシンが、
「Cys-Tyr-Ile-Gln-Asn-Cys-Pro-Leu-Gly-NH2」であり、
バゾプレッシンは、
「Cys-Tyr-Phe-Gln-Asn-Cys-Pro-Arg-Gly-NH2」であり、
たった9個の中の2つのアミノ酸が違っているに過ぎない。

 しかし、この2つの違いが大きな違いを呼ぶことになり、男と女の役割の違いを強くアレンジして作り出すことになる。

 なお、オキシトシンのPro(プロリン)がバゾプレッシンではArg(アルギニン)になっているだが、動物種によって異なるため、人ではバゾプレッシンをアルギニンバゾプレッシンと表現されることがある。多くの動物ではアルギニンバソプレッシン(英: Arginine vasopressin:VP)であるが、豚ではリジンバソプレッシン、鳥類などではアルギニンバゾトシンである。オキシトシンもバゾプレッシン同様に動物によって異なる。このようにこの2つのホルモンは動物種によって多様性に富んでおり、人類としての進化に関わるホルモンなのだと言えよう。人類で大きく発達したもの。それは社会性である。この2つのホルモンが社会性に大きく関わっているのは必然的なことなのかもしれない。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%BD%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%B3

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 一方、この2つのホルモンは構造が似ているため、化学構造式からの観点では、オキシトシンはバソプレッシン受容体に対してはアゴニストとして作用し(構造が似ているのであれば、こういう作用は十分にあり得るだろう)、バソプレシンはオキシトシン受容体に対してはアンタゴニストとして作用すると下の論文では述べられている(この作用は不思議である)。

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 さらに、バゾプレッシンはオキシトシンと反対方向の作用を有することも知られている。しかも、生理学的にもバゾプレッシンはオキシトシンの中枢神経系への効果を打ち消すように作用することも知られている。

 そして、中枢神経系に対しては男性と女性への効果も異なる。例えば、見知らぬ人の顔を見た際には、バゾプレッシンは、男性では警戒を強めた反友好的な表情を作り出すが、女性では親しみのある友愛を示す表情を作り出す。さらに、オキシトシンは、男性に対しては自分が関心がある自分の子供を優先するような行動を強めるが、女性に対しては、分け隔てない養育的で利他的な行動を強める。など、性差が報告されている(我が子の保護や養育にとっては双方の態度が必要なようではあるが)。
 
 オキシトシンは普遍的で分け隔てないマザーテレサのような愛を生み出し、バゾプレッシンは特定の対象(配偶者や我が子)への強い愛を生み出しているのかもしれない。
 
 愛する存在を守りぬく。それがバゾプレッシンが強く働くように運命られた男の使命なのかもしれない。しかし、男としての役割を果たそうと思ったら、オキシトシンの作用を抑えなければ、真の男としての役割を果たせない時がある。そう、それは敵と戦う時である。特に、愛する妻や我が子を襲おうとしているような敵と戦う時にはオキシトシンによる慈悲や友愛の心が邪魔になろう。男は、大切な妻や我が子を敵から守るためには、バゾプレッシンの力によってオキシトシンをブロックし、敵への愛(友好や同情)などは捨て去って、敵を攻撃して情け容赦なく打ちのめすように定められているのかもしれない。
http://www.researchgate.net/publication/51429083_Oxytocin_vasopressin_and_sociality/links/0046352b1a47aba857000000

 このように バゾプレッシン(アルギニンバソプレシン AVP)は攻撃行動に関係している。そのため、バソプレシン受容体遺伝子に変化があると、暴君を作り出すことになる。バソプレシン受容体(VBR、AVBR)には3つのタイプが同定されているのだが(V1、V2、V3)、V1はさらに2つのサブタイプに分かれる(V1aRV1bR。または、AV1aRAV1bR)。

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 これらのバゾプレッシン受容体の中でも、V1aR遺伝子が「無慈悲遺伝子」として注目されている。V1aR遺伝子のプロモーター領域の1つであるRS3には、短いタイプと長いタイプがあるのだが、短いタイプのRS3を持つ男性では「独裁者ゲーム」における振る舞いが、相手の取り分など配慮せずに情け容赦なく自己の利益ばかりを優先する傾向が強かったことが示されている。そのため、短いタイプのRS3を有するV1aR遺伝子は、「無慈悲遺伝子」や「暴君遺伝子」「独裁者遺伝子」と呼ばれている。短いタイプのRS3では利他主義が低くなり利己的になるのである。

 そして、この傾向は既に幼児期から認められることが分かっている。この遺伝子型を持つ児童は、利己的になり、子供時代からドラえもんのジャイアンのように相手に対して情け容赦ない振る舞いをするのである。ジャイアンはこの遺伝子型を持つのかもしれない。

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 なお、この領域の対立遺伝子の型は、318、320、322、324、326、328、330、332、334、336、338、340、342、344、346、348、350などの種類があり(数字が小さい短い程、遺伝子の長さは短くなる)、そして、血液型と同様に父親と母親のそれぞれから1つずつ受け継ぐ。従って、2種類の型を持つことになる。同じ対立遺伝子のペアを有するホモと、違うペアを有するヘテロも行動に影響を与えるようになることが知られている。

 さらに、V1aR遺伝子だでけでなく、V1bR遺伝子も同様に、攻撃性、社会的認識記憶、社会動機、社会選好などの行動に関連していることが報告されているが、V1aRほどは詳しく調べらてはいないようだ。

 ここで、あることが思い浮かぶ。暴君になるということは、バゾプレッシンは男と女の関係、すなわち、夫婦関係に関わってくるのではないのかということである。
 
 この点に関して、有名な論文を紹介したい。V1aR遺伝子が離婚(浮気)と関係しているという論文である。

 この論文では、V1aR遺伝子のRS3領域と妻への満足度(パートナーとの結びつきスケール、Partner Bonding Scale 、PBS)や離婚との関係性が調べられた(表2)。11遺伝子型へのテストを補正して解析したところ、334という対立遺伝子型を1つ以上有する男性ではPBSが優位に低いことが分かり、334という遺伝子型が離婚(浮気)遺伝子として炙り出された。
 
 すなわち、パートナーとの結びつきスケール(PBS)は、334の遺伝子多型を1つも有さない場合は配偶者の満足度の得点は48.0、1つ持っていると46.3、2つ持っていると45.5と有意に低下していた(表3)。他の遺伝子型では、こういった傾向は認められなかった(344もPBSが低いようにも思えるが、344・334タイプが混じっていたのだろうか。統計解析では有意差は出なかったようだ)。
 
 一方、離婚の危険性との関連からは、334を2つ持つ男性は、334を全く持たない男性と比較して、過去1年間で離婚の危機を2倍も多く経験していた(34%対15%、表3)。
 
 さらに、この334という遺伝子型は、結婚しないこととも関連していた。334を2つ持つ男性は、334を全く持たない男性と比較して、結婚している率が少なかった(68%対83%)。逆に、同棲をする傾向が高かった(32%対17%、表3)。
 
 逆に、結婚生活の質に関する妻側からの評価では、334を2つ持つ男性は、334を全く持たない男性と比較して、妻からの評価が悪い傾向があった。(愛情表現不足、夫婦間の意見の不一致、夫婦間の結束が低い、などと妻は感じている。表4)。
  
 これらの一連の結果からは、334という遺伝子型は離婚に結びつく傾向を有するのではないかと結論付けられている。

 なお、この334という遺伝子型の頻度は、334を少なくとも1つ持つ男性は40%、対立遺伝子が2つとも334の男性は4%であった。結構な割合で男は334を持つようなのである。これはスェーデン人のデータであり、日本人男性のデータではないが。

(この334という遺伝子型を持つ男性は結婚しない方がいいのかもしれない。しかし、論文の数字からは、7割はちゃんと機能した結婚生活を送っているとも思えるため、必ずしも悲観する必要はないのかもしれないが。汗;)
 
 こういった傾向を生む背景としては、334という遺伝子型を有すると、扁桃体の活性が高くなり、他者のマイナスの表情に対して敏感であり、対人関係において関係を持つことを回避しやすくなるといったことが関係しているのではと推測されている。妻のマイナスの表情を敏感に感じ取ってしまうため、夫婦間の積極的な関わりを回避してしまうのであろうか。さらにRS3の長さに関しては長い型の方が短い型(某君型)よりも扁桃体の活性が高かった。暴君になる人は他人の表情など気にせずにどんどん情け容赦ないことをするのだろう。なお、RS1領域の長さや対立遺伝子の型も扁桃体の活性度合と関連が見られたが、下の論文の表3を参照してほしい。

 さらに、チンパンジーではこのRS3領域は性格傾向に関与していることが報告されている。チンパンジーでは、このRS3領域を欠くケースが83例中、雌で34例、雄で19例認められたが(DupB(-)、上手)、このDupB(-)対立遺伝子をペアの型で有するケース、すなわち、DupB(-)(-)では性格傾向に特徴は認められなかったが、DupB(-)(+)という型では、不誠実になる傾向が認められた。そして、その傾向は雄のチンパンジーにおいて顕著であった(人類では、334を持つと不誠実な男になってしまうのかもしれない)。

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 このように、バゾプレッシンは男としての運命を決めるホルモンなのだと言えよう。

 ここで、疑問が生じる。バゾプレッシンは女性に対しては影響しないのであろうか。この点に関しては、女性でも上記のRS3というバソプレシン受容体V1aR遺伝子のプロモーター領域に関連しており、RS3の多型と母性の強さが関連していることが報告されている。不思議なことに、男性が暴君になっていく傾向とは逆で、長い方の対立遺伝子を2つ持つ母親は子供に対する母性が低下してしまうようだ。このように、バソプレッシンは母性にも関係しているのであり、必ずしもオキシトシンだけが母性に関係している訳ではなさそうである。

 では、オキシトンの方の作用はどうなのであろうか。オキシトンは愛のホルモンである。当然、夫婦関係に大きく関わっているはずである。
   
 この点に関しては、前述したように、オキシトシンは夫婦関係の維持(一夫一婦制、monogamy)に大きな役割を果たしているのではと1980年台の頃から考えられていた。これは、男女のペアを形成する草原ハタネズミと、単独で生活しペアを形成しない山地ハタネズミにおけるオキシトシンの作用や、オキシトシン受容体の分布パターンの違い、オキシトシン受容体への阻害実験などから推測されたのだが、フィンチ(鳥)など他の動物でもペアリングの際のオキシトシンの関与が確認されている。

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 オキシトシンは、どうやら、夫婦間の結合ペアボンディング、pair bonding)、夫婦間の信頼関係の構築夫婦間の記憶(思い出)の保持などを強くしているようであり、前述したように、報酬系も関与して、これらの作用が一夫一婦制を後押ししているのかもしれない(しかし、これらの所見は動物での所見であり、人間で確かめられた訳ではない)。

 特に、他者との信頼関係を築く上でオキシトシンは大きな役割を果たしていることが確認されている。オキシトシン受容体(OXTR)遺伝子のrs53576領域と他者への信頼感を調べた研究では、対立遺伝子型がG型(GG)を有する場合は、A型(AA/AG)を有する場合よりも他者への信頼行動が高いことが分かった。オキシトシンは愛だけでなく「信頼ホルモン」とも呼べるホルモンなのである。オキシトシンは、おそらく、子供が親を信頼することにも関連しているのだろう。前述したように、赤ん坊は母親からのスキンシップによってオキシトシンが増加することが分かっている。こういった母性愛の力によって、子供はオキシトシンシステムを発達させて、人を信頼する力を育んでいるものと考えられる。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3270329/
http://latchment.com/imprinting/

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 さらに、オキシトシンが点鼻された場合には、なじみのない人に対して親和行動を強めることが分かっている。オキシトシンは信頼感が高まるだけでなく、その人のことを好きになっていくのである。ペアであることを維持するには、信頼感だけでは維持できまい。好きじゃないとペアは維持できない。しかし、オキシトシンの力によってパートナーを好きになれるのである。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0018506X09000853

 一方、人間の男性においては、オキシトシンは妻への忠実度を促進するように作用することが報告されている。これは、鼻腔にオキシトシンを点鼻した時の、パートナーの写真を見た場合と見知らぬ女性を見た場合とのfMRIの所見から明らかにされた。そして、この作用は報酬系を介した作用であることも判明した(ドーパミンなどもオキシトシンを介して関与しているのであろう)。オキシトシンが他の女性よりも自分のパートナーの魅力や報酬価値を高めてくれているのである。人間はいつも、脳内の報酬系を刺激するために努力をしている。この所見からは、恋人と別れた時や自分のパートナーを亡くした時に、報酬系を満たす刺激が喪失されてしまうため、深い悲しみやうつ病に陥る理由が説明できると論文の著者は述べている。

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(この図を良く見ると、プラセーボを投与された時には、見知らぬ女性の写真の方に強く反応している。これは、男は、皆、浮気症があるということなのかもしれない。浮気をされたくなかったら、夫の鼻にオキシトシンを毎日点鼻するといいのかもしれない^^;)

 しかし、オキシトシンの夫婦間の結びつきを深めるという役割に関しては、男性ではなく、むしろ女性に方に強く作用しているようである。
 
 キンカ鳥(zebra finches)では、オキシトシンアンタゴニストを投与されると、ペアリングが阻害されるが、それは雄よりも雌でその傾向が強かった。

 さらに、ペアリングにおけるオキシトシンの効果は女性に強く影響するという傾向は人間でも確認されている。OXTR遺伝子のSNPsであるrs7632287という対立遺伝子を1つか2つ有する女性では、PBSスコアは低くなり、離婚の危機を経験する率が50%も高くなることが分かった(男性のV1aR遺伝子のRS3領域の334という対立遺伝子と同じような傾向が、女性のOXTR遺伝子のSNPsでも認められたのである)。

 さらに、(女性か男性かは分からないが、)、OXTR遺伝子のある種のSNPsは恋愛の初期におけるパートナーとの共感的なコミュニケーションをする上での困難さと関連していることも報告されている。OXTR遺伝子のrs7632287は女性における離婚(浮気)遺伝子だと言えよう。

 一方、オキシトシンは雌マウスが雄マウスへの関心を高めることも示されている。2014年に、オキシトシン受容体を発現した新しい介在ニューロンのタイプが内側前頭皮質で見つかった。解析の結果、これらのニューロンは、親密さ、愛、または母子の結合などの他のオキシトシン関連の社会的行動において役割を果たしていることが判明した。これらのニューロンの活性を破壊した時に、雌マウスは発情時期における雄マウスへの興味を失った。対照的に、この雌は、発情時期における他の雌マウスに対する興味は失われずに、非発情時期では雄マウスに対する社会的関心度も正常レベルを保持した。一方、雄マウスの社会的行動は、これらのニューロンの活性を破壊しても影響されなかった。オキシトシンは前頭皮質の介在ニューロンの特定のクラスを介して女性の社会的な行動(選好)を調節していることになる。この細胞は「恋愛ニューロン」と呼ぶべきなのかもしれない。発情時期(排卵時期)になると、雌はこの細胞を通じて雄への関心が高まるのであろう。しかし、この所見は、オキシトシンの作用が強まると、どんな雄でも好きになってしまう可能性がある(無差別の社会選好が起きる)ことを意味するのではなかろうか。女性でもオキシトシンの作用が強まれば浮気する可能性が十分にあるのではと思える。

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 しかし、夫婦の結びつきはオキシトシンだけが関与している訳ではない。バゾプレッシンも関与しているため、一夫一婦制についてはどうやら複雑なようである。
 
 この点に関しては、バソプレッシン受容体V1aRも、ハタネズミにおける一夫一婦制に関連していることが報告されている。パートナーを形成する草原ハタネズミではV1aRの発現は山地ネズミよりも腹側淡蒼球で高かった。逆に、外側中隔核では低かった。

 そこで、実験的に淡蒼球におけるV1aRの発現を低下させたところ、この雄では、パートナーとのペアボンディングが困難となり、一夫一夫制の維持に大きな支障をきたすことが分かった。

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 面白いことに、淡蒼球におけるV1aRの発現を過剰にしたところ、雄のハタネズミはパートナーである雌を好む傾向が促進されることが報告されている。さらに、雄の腹側前脳におけるV1aRの発現を過剰にすると、パートナーを無差別に選択してしまうようにもなった。これらの所見は、雄が雌(パートナー)を好きになるには、バソプレッシンが関わっていることを意味するのであろう。しかし、バソプレッシンが逆に強く作用し過ぎてしまうと、パートナー以外の女性をも好きになってしまう恐れが出てくるのかもしれない。これは、女性におけるオキシトシンの作用と同様のようである。

 そして、前述した浮気に結びつくバソプレシン受容体V1aRのRS3領域における影響のように、バゾプレッシンが適度に機能しないと、一夫一婦制はうまく維持できないようになっているのかもしれない。どうやら、男性においては、オキシトシンよりもバゾプレッシンの働きが重要なのだと言えよう(女性ではオキシトシンなのだが)。

 強い男でなければ英雄にはなれない。英雄になる程の強い男になろうと思ったらバゾプレッシンの力が必要である。まさに「英雄色を好む」とはこのことであり、英雄ほどバゾプレッシンの働きが強いため、女好きであり浮気をしてしまうように運命られているのかもしれない。

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 ここで、RS3領域の関与は、ハタネズミの一夫一婦制では関連性がないという報告がある。これは、人とは異なる所見である。動物種によっては、一夫一婦制におけるRS3領域の影響はその種によって異なるのかもしれない。さらに、V1aR遺伝子の長さに関しても、ハタネズミでは一夫一婦制には関係があるという論文もあるが、関係がないという論文もある。この点に関しては、動物ごとに異なるようであり、まだよく分かってはいないようだ。

(まあ、バゾプレッシンに限らず、オキシトシンも含めたナノペプチドは、ナノペプチドは全般にわたって動物の種によって作用が違うようではあるが。)

 このように、夫婦間の結びつきは、男性や女性の片方にのみ影響される訳ではなく、双方の要因に左右されるものであろう。夫婦間の結びつきに関しても、男はバゾプレッシンン、女はオキシトシンなのだと言えよう

 バゾプレッシンは男へのホルモン、オキシトシンは女へのホルモンなのである。三船敏郎じゃないけど、「男は黙ってサッポロビール」のように、「男は黙ってバゾプレッシン、女は黙ってオキシトシン」なのである。

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 しかし、一夫一婦制については、全哺乳類の種では、生涯に渡り一人のパートナーと最後まで伴にするのは3~5%と稀なことであり、人類の方が特殊なケースのようでもある(汗;)。
http://www.nature.com/neuro/journal/v9/n1/full/nn0106-7.html

 さらに、一夫一婦制の目的は、夫婦のためではなく、子供を守るためだという説もある。一夫一婦制の方が、子供を外敵に殺されることから守る上では有利であり、それは、バゾプレッシン遺伝子が人類に非常に近いものの、一夫一婦制ではないゴリラの嬰児率が高い(人類では非常に嬰児率が低い)ことから推測されている。従って、子供が巣立ってしまったら、もはや夫婦を続ける意味はなくなるのかもしれない。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3746880/

 しかも、オキシトシンは加齢によって、その作用は減弱していき、オキシトシン受容体の数も減少していくことが報告されている。女性は高齢になるとオキシトシンの作用が弱まり夫への愛情が薄れていくようにできているのである。熟年離婚はオキシトシンの作用が弱まっているせいなのであろうか。

 最近、熟年離婚が増えているが、熟年離婚は、オキシトシンによって定められた生物学な(本能的な)仕方のない行為だと言えるのかもしれない。

 生物学的には、人類は一夫一婦制を最後まで維持するようにはできていないのかもしれない。しかし、それでも一生涯を一人のパートナーに捧げて愛を貫き通す。これこそが、オキシトシンやバゾプレッシンをも超えた本当の愛の姿なのではなかろうか。

 ホルモンや遺伝子の作用などではなく、自分の意志で一夫一婦制を最後まで維持していく。これは、人類にしかできない本当に尊いことなのだと私には思えます。

(なお、最後に、必ずしもオキシトシンなどのホルモンは向社会行動を増す方向に作用する訳ではないことを付け加えておく。育った家庭環境が劣悪だとその効果が発揮されなくなる可能性があることが、最近、報告されている。)
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 ここで、先ほどの浮気をしてしまった男のケースの話に戻ろう。

 相棒でご活躍中の杉下右京さんが、みごとに推理してくれた。

(水谷豊さんの喋り方を思い出そう)

 ひとつよろしいでしょうか。

 皆さん、このケースは起きるべくして起きた事件だったんですね。

 この事件は、母親のホルモンのオキシトシンと、父親のホルモンのバゾプレッシンが引き起こした事件だったのです。

 オキシトシンは愛のホルモンとも呼ばれているのは、ご存知ですね。バゾプレッシンも愛のホルモンだということもご存じですね。

 あなたは、家を出る前に、父親になったことを強く自覚して家を出ましたね。その時点で既に、バゾプレッシンのレベルがかなり高まっていたのです。

 そして、忘年会では隣に独身の若い女性が座った。

 その女性は、誰にでも愛想がいい、誰にでも優しい友好的な女性だった。これは何を意味するのか分かりますか。

 そうです。普段からオキシトシンのレベルが高い女性だったのです。

 なぜ、彼女のオキシトシンのレベルが高いのかは分かりませんが、もしかしたら、彼女は辛い幼少時代を送っていたのかもしれません。

 そして、あなたの横に座ったことで、あなたと体が触れ合うようになり、あなたの存在が物理的な刺激になって、彼女のオキシトシンのレベルはさらに高まった。宴会の場所が狭すぎたのもいけなかったようですね。

 そういった状況の中で、赤ちゃんの写真を見せてしまった。これは、さすがにまずかったですね。その行為はお互いに、非常にまずかったのです。

 父親になっているあなたの方は、赤ちゃんの姿が刺激になって、バゾプレッシンが一気に分泌されてしまった。

 バゾプレッシンは敵に対して警戒したり攻撃する際に分泌されるホルモンですから、好都合なようにも思えるかもしれません。しかし、これには大きな落とし穴があったんですね。

 攻撃性や警戒はバゾプレッシンを介して発揮されるのですが、しかし、残念なことに、同性に対してしか発揮されない傾向があるのです。

 こうなると、その女性を警戒するどころか、逆に、その女性に対して、社会的選好という現象が生じてしまうことになります。

 そうです、バゾプレッシンのせいで、あなたのそばにいたその女性を好きになっていくのです。

 しかも、バゾプレッシンはオキシトシンをブロックしてしまいます。あなたの妻への忠誠心はオキシトシンのなせる業。それがブロックされてしまったら、いったいどうなると思いますか。もう説明しなくてもお分かりですね。

 かたや、女性の方も、赤ちゃんの写真で母性愛が刺激されてしまった。赤ちゃんの写真を見たことで、その女性の脳内にも、一気にオキシトシンが分泌されたことでしょう。

 すると、どうなるでしょうか。オキシトシンは母性のホルモンでもありますが、愛のホルモンとも言われています。そして、抱擁のホルモン、結合のホルモンとも言われています。それはあなたもご存知ですね。

 その女性にもオキシトシンのせいで社会的選好という現象が生じます。彼女のすぐそばに居た、あなたのことを好きになっていってしまうのです。

 赤ちゃんの写真を見てから、彼女があなたの方をじっと見つめてアイコンタクをし始めたのも、オキシトシンによる影響なんですね。

 そして、オキシトシンの作用で性行動が強まった。

 エレベータの中で、あなたの腕をつかんだ時には既に彼女の中では性への衝動が相当強まっていたんですね。

 彼女がタクシーの運転手に行先を変えて告げたのは、オキシトシンの仕業だったのです。

 でも、どうか彼女を責めないでください。赤ちゃんの写真を見せたあなたが悪いのですから。

 後は、あなたが、誘惑に負けてしまうかどうかだけでした。

 しかし、そんなあなたにとどめが刺された。

 それは、あなたが、赤ちゃんの姿を思い出して脳内で強くイメージしたことです。そんなことをしなければ良かったのです。

 まだ、分からないのですか。 

 あなたは自ら自分にとどめを刺したことになるんですよ。

 赤ちゃんの姿をイメージしたことで、あなたの脳内にはバゾプレッシンが一気に放出された。それはあなたが既に父親なっていたからなんですが、世の中は実に皮肉にできていますね。

 まさか父親になっていたことが逆効果になろうとは。あなたは、そんなことは夢にも思わなかったのでしょうけども。

 その結果、腹側前脳のV1aRの発現を過剰に操作させられたハタネズミのように、あなたは無差別に女性を選ぶ見境のない哀れな動物になってしまった。

 父性のホルモンのバゾプレッシンと、母性のホルモンのオキシトシンが織りなした、ミステリアスだけど必然的な事件。

 父性のホルモンと母性のホルモンが強く相互作用をしてしまうと浮気を生み出すことになるのですよ。


 これでもう十分にお分かり頂けましたね。

 最後に、もう一つだけ。

 奥様は離婚を考えておられるようですよ。

 あなたのV1aR遺伝子のRS3領域を鑑識課の米沢さんに調べてもらっています。

 334だったかどうか、結果を知りたいですか。

(そ、そんな・・・・・。涙)

 ・・・・・・・・

 ちょっと、待って、それは違うわ。

 科捜研の榊マリコさんが登場した。

 確かに、オキシトシンとバゾプレッシンからの推理は成り立つのかもしれませんが、もっと、大きなことが原因なんです。

 相馬君、用意した論文を提示して、お願い。

 右京: はあ?

(次回に続く)

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最後に映画を1つ。

父の愛(バゾプレッシン)と娘の愛(オキシトシン)が生み出す奇跡の物語。
「インターステラー INTER STELLAR」
父は愛する娘を救うために過酷な宇宙へと旅立つ。
娘は父を信じ続け、全人類への愛を貫く。
愛は宇宙をも時空をも超える。
160分間の感動のSF超大作。
(この映画は私が今年見た映画の中でNo1の映画だと思いました。)



INTER STELLAR

統合失調症に関連していた除夜の鐘と同じ数の遺伝子


SZ-GWAS

 現在、統合失調症に関連すると報告された遺伝子は1008種の遺伝子が登録されている(2014年11月現在)。私が大学を卒業した頃には、まだドーパミン受容体の遺伝子さえクローニングされてなかった。それを思うと隔日の感がある。しかし、逆に、増えすぎてしまっている。本当に、1008種が全部、統合失調症の発病に関与しているのであろうか。多くは発病後の2次的な変化に関与しているのかもしれない。しかし、それはまだ誰にも分からないままなのであった。

 もし、その全てが平等に等しく統合失調症に関連しているのであれば、その組み合わせの数は膨大な数となり(例えば、1008種中の100種が関連しているとしても、その組み合わせは1.4774E+140通りもある)、それでは、あまりにも多すぎて遺伝子の観点からの推測や考察などは全くできなくなってしまう。しかも、そんな1008種の遺伝子が全部関与して障害されていたら、生きていくことすらできなくなるだろう。死産に終わるか幼少時期にすぐに死亡するはずである。ということは、1次的に関与している遺伝子と、非1次的に関与している遺伝子とを区別していかなねばならないことになる。

 そこで登場したのが、ゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study、GWAS)である。疾患を持たない健常群との厳密な比較から、その疾患に有意に関連しているという遺伝子を炙り出す手法であり、GWASの厳密な統計解析にて有意であると示された遺伝子は、確実にその疾患に関連していることになる。しかし、この解析方法では、サンプルの数が重要であり、これまでは、サンプル数が少なく、GWASではなかなか統計学的に有意な遺伝子を炙り出すことはできなかった。

(GWASについて)
 しかし、本年度に、ついに、統合失調症のGWASにて、画期的な結果が発表されたのである。今回はこの論文を紹介したい。
 
 この論文については、別の研究者からは下のようなコメントが出されている。

 この論文は、統合失調症の研究において、過去10年間で最も重要な論文の1つだと言える。統合失調症は遺伝性疾患だと昔から知られているが、原因となる遺伝子座(座位)の同定は、複雑で異種の遺伝子構造が絡むため捕え切れていないままであった。この研究は、15万名に近い膨大な数のコホートサンプルを使用して、統合失調症のリスクが著明に増加(あるいは減少)する108種の共通の遺伝子領域を特定した研究である。同定された108種の遺伝子座(座位)は、極めて厳密な統計学的手法を用いて同定されており、統合失調症のリスクとなり得る遺伝子であると断言できよう。
 
 同定されたSNPsは、ドーパミン-2受容体(D2R)を含め、統合失調症のリスクの根底に関わる神経生物学的なメカニズムに寄与している遺伝子であろうと現時点で理解されている遺伝子と一致しており、それらは抗精神病薬の標的となるものであり、グルタミン酸作動性神経伝達に関与する複数の遺伝子が含まれており(=統合失調症の「グルタミン酸仮説」に合致している)、そして、統合失調症において既に知られている神経免疫の関与と合致する主要組織適合性複合体(MHC)遺伝子が含まれている。
 
 このGWASで最も強くヒットした遺伝子は驚くほど大きなエフェクトサイズを有していた(~1.3というオッズ比は、このSNPによって統合失調症のリスクが30%増加することを示す)。さらに、注目すべきことは、1よりも著しく小さいオッズ比を有するいくつかのSNPは、統合失調症に対して保護的に作用することを意味し、これらの遺伝子が薬物治療の標的として有力な候補となる遺伝子として同定されたことになる。
 
 この研究で同定されたSNPを組み合わせることで、著者らは、統合失調症のリスクが10倍にまで増加することを予測可能にする「遺伝子リスクスコア」を作成した。このスコアは、遺伝子による診断手段としてはまだまだ未完成ではあるが、近い将来、高リスクにある個人を同定するための重要なツールとなり、リスクのモニタリングや研究に応用されることであろう。
https://pubpeer.com/publications/80F9516724C0D3DA246CB7AF033CFC?utm_source=Chrome&utm_medium=ChromeExtension&utm_campaign=Extensions

 108種と言えば除夜の鐘と同じ数である。今回の結果は、創造主である神からの何らかのメッセージが込められているかのようにも思える。

 下がその108種の遺伝子座(座位)である。
SZ-GWAS-15

では、本文を読んでいこう。

統合失調症に関連する108種の遺伝子座(座位)に関する生物学的な考察
「Biological insights from 108 schizophrenia-associated genetic loci」

要旨
Abstract

 統合失調症(SZ)は、遺伝することが高い疾患である。遺伝的リスクは、多種の対立遺伝子によって付与されるが、疾患に対しては小さな効果しか有さないものの、共通の対立遺伝子はゲノムワイド関連解析によって検出できる。我々は、今回、最大で36989名のSZ患者と113075名のコントロールサンプルの多段階からなる統合失調症のゲノムワイド関連解析を報告する。我々は、ゲノム規模で有意な108種の保存された遺伝子座(座位)に位置する128種の独立した関連性を有するSNPsを同定したが、そのうち83種はこれまでに報告されていないSNPsであった。
 
 関連するSNPsは、脳内で遺伝子発現が濃縮しており、今回の調査結果は生物学的な妥当性を有する。今回の研究で得られた多くの知見は、統合失調症の病因に全く新しい洞察を付与する可能性があるが、DRD2などのいくつかの遺伝子との関連性は、統合失調症においてその関連性が既に知られていたものである。一方、統合失調症の治療と関連する可能性があるグルタミン酸作動性神経伝達のハイライト分子の関与も今回の知見に含まれており、現在中心となりつつある統合失調症の病態生理学的な仮説と一致している。脳内で発現している遺伝子とは無関係であるが、今回、関連性が判明した知見の1つは、免疫が重要な役割を持っている組織において遺伝子の発現が濃縮しており、免疫システムと統合失調症との間にリンクがあること示唆する根拠を提供している。

はじめに
Introduction

 統合失調症は、約1%の生涯発病率を有し、個人や社会が負担するコストの問題のみならず、死亡率も相当に高い疾患である。統合失調症では、薬物治療を利用することは可能だが、効果が乏しい患者も多く存在する。利用可能な全ての抗精神病薬は、ドーパミン受容体タイプ2をブロックすることで主な効果を発揮すると考えられているが、しかし、60年以上も前にこのメカニズムが発見されて以来、効果が証明されている他の標的分子に基づく新しい抗精神病薬は開発されていない。治療が停滞したままになっていることは、統合失調症の病態生理学が未知のままであるという事実の結果でもある。従って、統合失調症の原因を同定することは、疾患の治療方法や予後を改善する上で重要なステップとなる。

 遺伝する率が高いことが、統合失調症の病因は遺伝子の変異であり、それは遺伝することが可能であり、その遺伝子の変異が中心的な役割を果たしていることを示している。リスクに関わる変数は、普通から極めて稀までという広範囲に及ぶが、現時点までにGWASで見積もられた数字では、統合失調症の遺伝的リスクの3分の2は、共通する対立遺伝子によって指標化されうることを示唆している。それ故、GWASは、統合失調症の根底に関わる生物学的な病態を理解する上での重要なツールとなる。

 現在までに、30種の統合失調症に関連する遺伝子座(座位)がGWASによって同定された(この30種については原著のリファレンスを参照して頂きたい)。サンプル数の大きさが結果を制限する最も重要な因子の1つだと思えるため、(サンプル数を可能な限り大きくできるように)我々は精神医学ゲノミクスコンソーシアム(PGC)の中に統合失調症のワーキンググループ創設した。今回の研究の主な目的は、既に公表された、あるいは、未公表の統合失調症のGWASの遺伝子型サンプルデータを、1つの統合した形の利用可能なサンプルとして結合することであった。我々はこの論文で、分析結果を報告するが、その結果の中には、ゲノムワイドの点からは有意だと言える少なくとも108種の独立した遺伝子座(座位)が含まれいる。今回見出された遺伝子のいくつかは統合失調症の病態生理学の仮説を提示するだけでなく、治療の目標となり得る遺伝子である。そして、統合失調症における新しい洞察を私達に提供することであろう。

(以下、難解な表現ばかりであり、意訳している部分が多く、間違って訳している箇所やおかしな訳がかなりあると思えるため、疑念を感じた場合は、私の訳を信じることはせずに、原著を必ず読んで頂きたい。)

108種の独立した関連性を有する遺伝子座(座位)
108 independent associated loci

(とにかく変な訳が続くが、気にせずに読み飛ばして頂きたい。重要なことは何となく分かることであろう。統計学に関する記載が多く、私も何となくしか分からなかった。この章を簡単に要約すれば、非常に厳密な解析学的手法でGWASのデータ解析を行ったところ、真に統合失調症と関連性を有すると思われる遺伝子座が108種も炙り出され、その108種は全てが統合失調症と関連する遺伝子座であり、統合失調症は、やはり多遺伝子疾患だったということである。)

 我々は、ゲノム規模での遺伝子型データを得たが、そのサンプルの内訳は、人種をマッチさせ、かつ、オーバーラップしないSZのケースとコントロールのサンプル(ヨーロッパ系人種は46種、東アジア系人種は3種、34,241名の統合失調症ケース、45,604名のコントロール)、および、ヨーロッパ人の3組の家系のサンプル(発端者である親の影響を受けた1,235名の子孫)から構築されている(補足表1と補足メソッド)。

 この中には主なPGCのGWASデータセットが含まれている。我々は、全ての研究サンプルの遺伝子型を処理したが、処理する際に、解析の質を統一した制御手順を採用し、1000枚のゲノム・プロジェクト参照パネルを使用してSNPや遺伝子の挿入や削除を検出した。各サンプルに対して、人の集団を層別化し、コントロールと比較するために用意されたマーカー量と主成分(PCs)を使用して関連解析が行なわれた。解析結果は、固定効果モデル(fixed effects model)で重みつけがなされた逆分散を使用して結合された。解析の品質を管理した後に(補定INFOスコア≧0.6、MAF≧0.01、うまく補定されたもの≧20サンプル)、約950万個の変異に対する考察を行った(結果は下の図1に要約してある)。

SZ-GWAS-6

(固定効果モデルについて)
(固定効果モデルと変量効果モデルの違いについて。この資料は読んでおいた方がよいだろう。なぜ、この論文では、こんな記述があるのかが、何となく理解できる。この論文は、サンプルを結合しているため、結合によって不均一なサンプルになった結果ではないという説明をするためである。)
http://homepage3.nifty.com/aihara/meta_analysis3.html

 大規模なサンプルを確保するために、いくつかのグループは、研究基準による評価ではなく臨床医による診断が優先されているが、その診断は妥当性があることを確認している。事後の解析にて、関連する遺伝子座(座位)のエフェクトサイズのパターンは、異なる評価手法や確認モードによっても類似していることが明らかになり、我々が以前に行ったサンプルの調査結果の判定を支持している(拡張図1)

SZ-GWAS-3

 次に、メタ解析で P<1×10の-6乗という独立した連鎖不均衡を示したSNPのサブセットに対して、deCODEジェネティック社からの解析データを取得した(ヨーロッパの祖先を有する1,513名のSZのケースと66,236名のコントロール)。

 そして、我々は、低い連鎖不均衡の値(r2乗<0.1) を有する独立した連鎖不均衡を示すSNPsを、500kb以内に位置するよりSZと有意に関連するSNPとして再定義した。その結果、主要組織適合性複合体(MHC)遺伝子の延長した領域中(~8Mb)に高い連鎖不均衡を有するSNPの所見を得たが、このMHCの遺伝子座(座位)に含まれているSNPは1つのみであった。

 次に、deCODEのデータを、GWASの1次解析のデータと結合した。その結果、36,989名のSZのケースと113,075名のコントロールのデータセットが得られ、最終解析を行った。この最終解析にて、128種の独立した連鎖不均衡を示すSNPsが、ゲノム規模での有意差を越えた値を有していることが判明した(P≦5×10-8乗。補足表 2)。

 さらに、統合失調症のリスクを生じる変異として同定されている多くの共通した遺伝子変異が、メタ分解析にかけられたが、我々が行ったGWASでの検定統計量の分布はゼロからは外れていた。(拡張データ図2)。

SZ-GWAS-4

 これは、統合失調症が多遺伝子疾患であると論文で発表された以前の所見と一致している。ゼロから外れた検定統計量の偏差は(λGC=1.47、λ1000=1.01)、多遺伝子モデルから予想した値(λGC=1.56)よりもわずかに小さかったが、現在のサンプルサイズにおける統合失調症の遺伝子タイプの情報や生涯リスクや遺伝率を我々に提供してくれるものである。

 追加された一連の証拠から言えることは、我々が行ったGWASの中で観察された値とゼロとの間の分布の偏差は、統合失調症は、多くの遺伝子が寄与している疾患(=多遺伝子疾患)であると真に結論付けることを可能にする結果だということである。

 まず第1に、検定した統計値が大きくなる原因を区別して解析することが可能になる連鎖不均衡情報を使用する新しい解析方法を適用したことで、我々が得られた結果は、集団による層別化ではなく、多遺伝子によるアーキテクチャー(構成)による結果であることが見出された(拡張データ図3)

 第2に、SZのケースvsコントロールGWASにおいて非常に有意な値(P<1×10の-6乗)を有する独立した連鎖不均衡を示すSNPsのSZのリスクと関連すると思われる234種の対立遺伝子の78%は、deCODEの独立したサンプルの中でも過剰に炙り出されていた。このSZケースvsコントロールGWASとdeCODEで複製されたデータとが一致することは、偶然に生じることは殆どあり得ない( P=6×10の-19乗)。さらに、我々のGWASでテストされた対立遺伝子は、メタ解析のために3組の家系やdeCODEのデータを加える前に既にP<10の-6乗という閾値を越えていた。従って、GWASでもdeCODEでも認められた傾向は、独立した所見であると言える。

 第3に、親を発端者に持つ家系の子孫である1,235名の分析では、SZのケースvsコントロールGWASにおいてP<1×10の-6乗という値を有する263種の独立した連鎖不均衡を示すSNPsが示された。この中で、統合失調症に関連すると思われる対立遺伝子の69%は、遺伝子が子孫に過剰に伝えられていることを再び見出した。この結果は、偶然によって生じることはなく(P=1×10の-9乗)、SZとの関連性が閾値に到達していることを完全に説明しており、集団の層別化による結果ではないと言える。

 第4に、我々は、GWASで見出された3家系の傾向データを使い、真にSZと関連している場合の予想比率(P<1×10の-6乗)を見積もったが、3家系ではSNPsの対立遺伝子の1/2が偶然同じであったという傾向が予測されたという事実を考慮すれば、真にSZと関連したある種のSNPsは、サンプル数が制限された3家系の中では反対の傾向を示すこともあり得るということである(補足手法)。

 傾向テストの観察結果からは、スキャンの結果SZとの関連性が示された(P<1×10の-6乗)約67%(95%の信頼区間: 64.73%、あるいはn=176)のSNPsは、真実であると予想される(=本物のリスク遺伝子座)。従って、今回の研究で示された妥当性を有すると思われるSZと関連するSNPsの数は、現在までに行われた規模以上の数になろう。

 このように、これらの分析結果からは、観察された統計値のゼロからの偏りは主に多遺伝子がSZと関連していることを示唆しており、そして、真にSZと関連している遺伝子の末端領域において過剰な関連性が生じていることを示唆している。

 SZと関連している遺伝子の境界領域にあるSNPsは翻訳されないだろう。しかしながら、遺伝子の境界領域にあるSNPは統合失調症のリスク遺伝子を同定する上で有益である。

 我々は、SZと関連している遺伝子座(座位)を定義したが、その物理的な領域にはr2>0.6という相関値を示す128種の全てのSNPsが含まれていた。そして、250kb以内に位置する各々の遺伝子座(座位)は1つの遺伝子座(座位)として統合された。

 その結果、物理的に異なるSZと関連する遺伝子座(座位)は108種に帰結した。それらのうちの83種はこれまでに統合失調症との関連性が示されていなかった新たな遺伝子座(座位)であり、それ故、統合失調症の原因に対する新しい生物学な洞察を提供してくれる(補足表3; 領域のプロットは補足図1)。
 
(下にランク10位までを示しておく。108種全ては補足表3を実際に見られたし)
SZ-GWAS-5
 なお、108種の遺伝子座(座位)には、これまでに行われた大規模なGWASで有意差が既に示されている5つの遺伝子座(座位)も含まれている(補足表3)
 
 注; 今回の108種の遺伝子座(座位)には、あの有名なDISC1が含まれていない。DISC1はGWASでは炙り出されないのかもしれない。今回のGWASで危険度ランキング1位となった遺伝子座位は、Locus too broad(遺伝子座が大きすぎる)となっており、 まだ、どのような機能に関わる遺伝子なのかは不明である。

 注; なお、今回のGWASで炙り出された危険度ランキング2位の遺伝子座位は、MiR-137であった。

SZと関連する遺伝子座(座位)の特徴
Characterization of associated loci

 108種の遺伝子座(座位)の中で、75%はタンパク質をコードする遺伝子(40%は単一の遺伝子)であり、8%は遺伝子の20kb以内に位置している(補足表3)

 今回の研究で提示された遺伝子座(座位)の中で、統合失調症の病因や治療の中心となる仮説に関係しうる注目に値する関連遺伝子座(座位)としては、DRD2(ドーパミンD2受容体は全ての抗精神病薬のターゲットである)や、グルタミン酸神経伝達シナプスの可塑性に関与している多くの遺伝子(例えば、GRM3、GRIN2A、SRR、GRIA1)が含まれている。

 さらに、CACNA1C、CACNB2、CACNA1I(電圧依存性カルシウムチャネルのサブユニットをコードする)といったカルシウムチャネル・ファミリーとの関連性は、統合失調症や他の精神疾患における関連性が以前から指摘されていた。
 
 カルシウム・チャンネルをコードする遺伝子や、グルタミン酸神経伝達とシナプス可塑性に関与するタンパク質は、遺伝子の変異を調査する目的で行われた研究からは統合失調症に対しては独立して関連しているものと思えるが、共通する遺伝子としてその変異を調査した研究からは、それらの遺伝子の変異は、広範囲な機能のレベルにおいて収束して統合失調症に関与していることを示唆している。
 
 (注; 言い換えれば、1つの遺伝子ではなく、様々な遺伝子の機能異常が積み重なった結果、統合失調症失調症が発病するのである。もし、違う形で機能異常が積み重なれば、他の精神疾患として発病することも十分にあり得よう。)

 現在までに提唱された統合失調症の病因や治療に対する仮説に関連する遺伝子座(座位)は、これらの遺伝子が統合失調症との100%の因果関係を有する要素だと示唆する訳ではないが、議論を補足すべき遺伝子ということを我々は強調したい。

 統合失調症に関連する各々の遺伝子座(座位)に対しては、我々は、確実なSZの原因となるSNPのセットを同定した(その定義に関しては、補足手法を参照のこと)。

 今回検出された結果では、既知のエクソンに存在する多型として確実に寄与することが可能な関連シグナルは10例(補足表4)だけであった(下表)。

SZ-GWAS-7
 
 (注; 言い換えれば、エクソン、すなわち、タンパク質の構造を変えるという変異型は、SZのリスクを確実に生じさせる遺伝子座108種の中でたった10種でしかなかった。ということは、遺伝子異常によってタンパク質の構造が変化することがSZの主な原因ではないということになるのかもしれない。)

 注; なお、エクソン領域にSNPが認められた遺伝子の1つであるSLC39A8は、ランキング6位の遺伝子でもある。 SLC39A8は金属、特に、亜鉛トランスポーターをコードしている。統合失調症では亜鉛欠乏症になっているのであろうか(実際に、亜鉛欠乏と統合失調症との関連性が報告されている)。
 
 タンパク質をコードしている遺伝子に生じる変異は限定された役割しかないが、その役割については、エクソームのDNA配列の所見と一致しているし、GWASによって検出された最も関連性が高い変異であるという仮説とも一致していることから、考えられることとしては、SZのリスクと関連する遺伝子座(座位)における変異の役割は、タンパク質の構造の変化よりも、遺伝子発現量の変化に対して発揮されているということである。そして、この考え方は、統合失調症のリスク遺伝子座(座位)には量的形質遺伝子座(quantitative trait loci、eQTL)が多く含まれているという観察結果とも一致する。
 
(エクソームシークエンシングについて)
(量的形質遺伝子座について)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8F%E7%9A%84%E5%BD%A2%E8%B3%AA%E5%BA%A7%E4%BD%8D

(注; タンパク質の構造の変化がなくても、多種の遺伝子の発現が低下したり、増えたりすることで、その積み重なりの結果が統合失調症の発病を呼ぶことになるのであろう。)

SZ-GWAS-8

 そこで我々は、、統合失調症との関連について説明することができるeQTLsを同定するために、人間の大脳皮質のeQTL研究(n=5550)と末梢血(n=53,754)のeQTLs研究のメタ解析から得られた eQTLに対して、今回の研究で確実にSZのリスクと成り得るSNPsであると定義されたSNPsのセットを結合させて、さらなる解析を行った(補足手法を参照)。

 その結果、多数の統合失調症に関わる遺伝子座(座位)には、遺伝子座(座位)の1Mb以内に少なくとも1個のeQTLが含まれていた(補足表4)
 
 しかしながら、SZとの因果関係が相当高いと思われたeQTLは12種だけだった(脳では2種。末梢血では9種。双方では1種)。

 この低い割合は、もし、SZのリスクに最も強く関わっている遺伝子の変異は調節を受ける性質を有するのであれば、現在利用可能なeQTLのデータでは力不足であり、有意差を示せる程のパワーがなく、細胞の特異性や発達の相違を提供できないことになる。従って、eQTLによって明確なSZの発症のメカニズムの仮説を確立するためには、さらなる実験が必要である。
 
(注; SZのリスクに関わる量的形質遺伝子座 eQTLのデーターが増えていけば、SZの発症リスクのメカニズムがさらに詳細に明らかになることであろう。)

脳と免疫
The brain and immunity.

 さらに、我々は、統合失調症と関連してくる調節の性質をよく調べるために、56種の異なる組織や細胞のアクティブなエンハンサーの特性を備えた遺伝子マーカーの配列の上に、SZとの因果関係を確実に有する遺伝子変異のセット(n=5108)をマップさせた(補足メソッドを参照)

 その結果、統合失調症との関連性は、脳におけるアクティブなエンハンサーにおいて豊富に見出されたが、統合失調症との関係性がありそうもにない組織(例えば骨、軟骨、腎臓および繊維芽細胞)では、その傾向は認められなかった(下図2)。

SZ-GWAS-9

 エンハンサーを定義するために使用された脳組織では、不均一な細胞の集団から構成されている。そこで、さらに大きな特異性を追求するために、我々は、RiboTagマウスの系統を使用して神経細胞内やグリアで豊富に発現している遺伝子を対照比較させた。
 
(RiboTagマウスについて)

 その結果、複数の大脳皮質・線条体のニューロンのライン(系列)で強く発現している遺伝子は、SZとの関連性が豊富化していた。これは、統合失調症における神経の病理学的変化の重要性を支持するものの、この所見は、(図2を見れば分かるように)、統計学的には有意だが、他の系列と比べて十分に有意ではなく、他の系列の関与を排除できないことを意味し、神経以外の他の系列(注; 免疫系など)が関与していることを意味する。

 統合失調症との関連性は、重要な免疫機能、特に、獲得免疫(CD19とCD20ライン、下図2)に含まれるB細胞の系列の組織においてアクティブになっているエンハンサーで豊富であることが判明した。

(注; 抗体を産生するB細胞が統合失調症に関与している可能性が高いのである。ということは、統合失調症は自己免疫疾患なのであろうか。)

 これらの豊富になっているエンハンサーは、MHCの拡張領域や脳のエンハンサーの含む領域を除外した後の解析でも有意であり(例えば、CD20のエンリッチ値はP<10の-6乗であった)、この所見は、異なる組織のエンハンサー要素の間の相関関係によるアーチファクト(エラーやノイズ)ではなく、MHCの拡張領域との強い全般性の相関関係に由来するものではないことを示している。

(注; 統合失調症研究におけるCD19とCD20の今後の動向には注目しておく必要があろう。CD19やCD20はB細胞の表面に存在するタンパク質の種類であり、例えば、CD19はB細胞補助受容体としてB細胞の活性化に関与している。)
CD19

(注; もし、統合失調症がCD19やCD20を介した中枢神経系への自己免疫疾患であるならば、リッキシマブのような薬剤が効果を発揮する可能性があり、さらに研究が進めば統合失調症のCD19やCD20にだけ的を絞ったような薬剤が開発される期待がかかる。)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%84%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%9E%E3%83%96

 疫学の研究からは、統合失調症では免疫系の調節不全が役割を果たしていることが昔から示唆されていたが、今回の知見は、この仮説を遺伝子の観点から支持するものである。個々の遺伝子座(座位)への調査から明らかになった免疫仮説を超えるような生物学的な仮説を追加するためには、遺伝子セット解析を介した制限されたデータの採取のさらなる保証化を試みる必要がある。

 しかし、ゲノム規模で有意な遺伝子座(座位)の内部にある遺伝子対する利用可能なアプローチや解析方法は、今のところは2つしかなく、コンセンサスを得たような行われるべき解析方法もなく、最適な有意差を示せる閾値も確立されていないため、我々は、この点に関しては慎重であらねばならない。 

 いくつかの予想された候補となる経路では、SZとの関連性が見かけ上は有意に豊富になっていると観察された経路があるが(拡張データ 表1、下表)、経路テストでの相関からSZとの関連性が有意に豊富になっていると言えるような遺伝子セットは、どのアプローチでも同定されなかった(補足表5)
SZ-GWAS-10
 
 この点に関する十分な解析結果はいずれ他の論文で報告されることであろう。

(注; 有意だと示された経路は下表からは、細胞接着とトランスシナプスシグナリング、FMRP{脆弱X精神遅滞タンパク質}、カルシウムチャネル、miR-137、などである。特に、FMRPは有意差が高く注目される。なお、FMRPは、多くのタンパク質の発現をmRNAの段階で標的として調節している分子である。)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3528815/

 注; しかし、経路まで考えると、1つの経路が他の経路と複雑にクロストークしていたり、相互作用をしていれば、複雑なネットワークを形成している経路となろうが、そういった経路になると複雑過ぎて、もはや我々の頭の中でイメージをすることは不可能である。いろんな経路が最終的に収束してシナプス間隙のドーパミンの放出増加という現象(精神病状態)を生じさせているのが統合失調症なのであろうか。しかし、それを抗精神病薬でブロックし続けると、経路にフィードバックがかかり、上流における経路の流れが変わり、前頭前皮質のグルタミン酸(NMDA受容体)の機能不全(陰性症状、社会機能の低下)が生じるのであろうか。いずれにせよ、経路(ネットワーク)まで考察すると、もはや訳が分からなくなってしまう。

SZ-GWAS-11

稀な遺伝子変異のオーバーラップ
Overlap with rare mutations

 統合失調症に関連するCNVsは、自閉症スペクトラム障害(ASD)や知的障害とも関連し、オーバーラップすることがあるが、これは、遺伝子のデノボ変異(de novo mutations)に起因する。
(デノボ変異について)

 この点に関して、我々は、統合失調症のGWASによって関連性が示された遺伝子のインターバル(間隔)と、統合失調症におけるデノボな非同義的な遺伝子変異との間に有意なオーバーラップがあることを見出した。この所見からは、統合失調症における稀な遺伝子変異のメカニズムを研究することで、統合失調症に関する情報がさらに広範囲に得ることができるものと思える。

 さらに、我々は、統合失調症のGWASによって関連性が示された遺伝子領域と、知的障害とASDにおけるデノボな非同義的な遺伝子変異との間のオーバーラップを見出したが、この所見は、これらの疾患の病態生理学変化は部分的にオーバーラップしているという仮説をさらに支持するものである。 

(注; 統合失調症、知的障害、ASDの病態の一部はオーバーラップしていると、遺伝子研究から証明されたことになる。)

多遺伝子リスクスコアのプロファイリング
Polygenic risk score profiling

 従来の研究では、感受性や特異性が低いものの、GWASにて統合失調症との控えめな関連性が見出された対立遺伝子から構成されたリスクプロファイルスコア(RPS)でも、独立したサンプルにおけるSZのケースvsコントロールの状態を予測できることが示されている。

 この点に関しては、今回の研究でも強固に確認された。

 擬似R2乗(Nagelkerke R2乗、説明されたSZのケースvsコントロールの状態のばらつきの尺度)の見積もりは、RPS分析において選択されたリスク対立遺伝子に対する特定のターゲットとなるデータセットや閾値(PT)に依存する(拡張データ図5、下図。および6a)。

SZ-GWAS-12

(擬似R2乗 Nagelkerke R2乗について)

 しかし、初期の研究で使われた同じターゲットで閾値(PT)が0.05を有するサンプルを使用して解析したところ、今回のR2は0.03から0.184へと大きくなった(拡張データ図5)。

 負担閾値モデル(liability-threshold model)、SZの生涯リスクが1%、独立したSNPの効果、SZのケースvsコトンロールに対する調整などを仮定した場合、今回のRPSは、サンプルを横切った形で統合失調症への負担尺度の変化量の7%について説明することができ(拡張データ図6b)、それらの約半数(3.4%)はゲノム規模で有意だと示された遺伝子座(座位)によって説明することができる

(注; リスクの半数は遺伝子ということだが、残りの半数は環境因子ということなのだろうか。)

(注; 複数の遺伝的素因が組み合わさった発症リスクは理論的に正規分布を呈し、たとえば身長などの、多遺伝子が関連すると考えられる形質の分布とよく一致する。このような発症リスクの分布で、一定の閾値を超え、環境因子の影響も加わって発症するというモデルはliability threshold modelと呼ばれる。多遺伝子疾患は、多くの感受性遺伝子群の加算効果が一定の閾値を超えた時に発症するというモデルである。)

 さらに、我々は、連続的なリスク因子への標準的な疫学研究アプローチを使用して、SZケースvsコントロールの状態を予測するRPSのキャパシティ(能力)を評価した。
 
 この点に関して、我々は、3つのサンプルのRPSによるオッズ比を算出したが、各々を異なるスキームを用いて図で提示した(図3)。

SZ-GWAS-13
 デンマークのサンプルは、母集団に基づくサンプルである(すなわち入院患者と外来患者)。スウェーデンのサンプルは、統合失調症でスウェーデンの病院に入院した全てのケースに基づくサンプルである。さらに、統合失調症分子遺伝子(Molecular Genetics of Schizophrenia、MGS)サンプルは、米国とオーストラリアの臨床からのソースであり、遺伝子研究ために特別に用意されたサンプルである。このサンプルを用いて、我々は、RPSの十分位数(デシル、deciles)に個人をグループ化し、最低のリスクデシルを参照し、リスクの影響を受けた状態のオッズ比を見積もった。

 その結果、各々のサンプルにおけオッズ比は、統合失調症のリスク対立遺伝子の数の増大を伴いながら大きくなっていった。全てのサンプルにおける10番目のデシルとなった時の最大値は、デンマークのサンプルでは7.8(95%の信頼区間CIは、4.4~13.9)、スウェーデンのサンプルでは15.0(95%のCIは、12.1~18.7)、MGSのサンプルでは20.3(95%のCIは、14.7~28.2)だった。

 統合失調症に対して、インデックス化して遺伝子による負担を測定する必要性を考えると、個人を層別化(階層化)できるRPSの能力は、臨床研究や疫学的研究における新しい評価方法を提供することであろう。

 しかしながら、我々は、今のRPSの感度や特異性では、リスクを予測するテストに使用することを支持できないことを強調したい。例えば、デンマークの疫学のサンプルでは、受信者操作曲線(receiver operating curve)の下の面積は(Area under the curve、AUC)、たった0.62であるに過ぎない(拡張データ図6c補充表6。下図を参照のこと。)

(受信者操作曲線 receiver operating curveについて)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%97%E4%BF%A1%E8%80%85%E6%93%8D%E4%BD%9C%E7%89%B9%E6%80%A7
(注; AUCは、1.0に近い値でないと診断は誤診を招くだけであり利用できない)

SZ-GWAS-18

 最後に、リスクに対する非付加的効果(非相加的効果、non-additive effects)の証拠を求めるため、我々は、ゲノム規模で有意に達した125種の常染色体にあるSNPsの全てのペアの間の相互作用に対して統計学的な検定を行った。

 その結果、相互作用項目に対するP値はヌル(ゼロ)に従って分布しており、多重比較によって補正した後では、相互作用は有意ではないことが判明した。従って、我々は上位性や、有意差がある遺伝子座(座位)間における非付加的効果の証拠は見出せなかったことになる(拡張データ図7。上図を参照のこと)。
 
(注; 遺伝子のSNP同士の相互作用が加わってSZのリスクが増加する訳ではないという意味であろうか。)

 しかし、このような非付加効果は、他の遺伝子座(座位)との間に存在することや、または、より高次の相互作用の形で発生する可能性はあろう。

 注; こういった遺伝子リスクスコアが上昇するほど薬物治療に対して抵抗性を示し、クロザピンの治療歴を有する率が高くなる。さらに、社会機能のスコアが悪くなり、発症時期も早くなる傾向を認めたという報告が本年度に発表されている。発症のリスクの評価だけでなく、薬物療法(特に、従来の抗精神病薬)への反応性や発症時期などを予測するツールにもなるものであろう。遺伝子リスクスコアが高いケースには躊躇することなくクロザピンを試みるべきだと論文の著者は述べている。
(注; なお、この論文が発表された後に、統合失調症における多遺伝子による発病リスクを数値化して評価することに関する論文が発表されている。興味がある方は下の論文を読まれたし。)

議論
Discussion

 (我々が知っている限りの規模だが、)統合失調症における最大の規模の分子遺伝学的研究が行われ、今回、我々は、SZのリスクに関わる数多くの遺伝子座(座位)を同定する上でのGWASの力を実証できた。急激にサンプルサイズを大きくして設計された代替的な確認方式や診断方式を使用すると、異質なものが混入し、そのデータは壊滅的になると思われるが、そのようなことはないということを、我々の結果は示している。バイオマーカーや支持される診断テストが存在しないものの、統合失調症ような表現型に対してもこの点に関しては真実であり、今回のアプローチは、臨床的に定義された他の疾患のGWASに対しても適用できるであろうと楽観してよいものと思われる。

 さらに、我々は、SZとの関連性は全てのクラスや機能に関わる遺伝子を横切ってランダムに分布している訳ではないことを示した。もっと正確に言えば、それらは、ある種の組織や細胞で発現している遺伝子に集中(収束)していたのである。
 
 今回、炙り出された遺伝子は、最新の知見に基づく最も有望な遺伝子であり、治療のターゲットとなり、これまでに提唱された統合失調症の病因仮説の大系と整合するような遺伝子が含まれている。そして、今回報告された多くの新しい発見は、病態のメカニズムや統合失調症の治療に対する研究を発展させていくための基礎となる病因に関連する知識を提供することであろう。

 我々は、統合失調症における稀な遺伝子変異とGWAS遺伝子座(座位)の変異との間のオーバーラップを見出した。さらに、いくつかの遺伝子グループの機能への広範囲な収束を見出したが、それには、遺伝子変異のセット、特に、異常なグルタミン酸作動性シナプスカルシウムチャネル機能に関連する遺伝子が含まれていた。
 
 これらの遺伝子の変異が、どのように統合失調症のリスクを増加させる機能に影響を与えるのかは遺伝学(遺伝子)だけでは答えは得られないが、しかし、オーバーラップしているという所見は、共通で稀な遺伝子変異に対する研究は、相反するというよりむしろ補足的であり、稀な遺伝子変異によって駆動されるメカニズムに関する研究が統合失調症への情報を提供してくれることを強く示唆している。

(本文終わり)

 私は、読んでいて非常に難解な論文だと思った。意訳を駆使して読んでいったのだが、私は何となく分かったに過ぎなかった。しかし、それでも意味はあろう。ゼロよりはましである。
 
 しかし、議論の部分が何かもの足りない。今回炙り出された108種の遺伝子座(座位)についてもっと具体的に知りたい。そこで、補足議論の内容も訳して掲載しておくことにした。
 
「ゲノム規模での有意な遺伝子座(座位)の領域内にあるSZとの新しく関係性が示された遺伝子」

 我々は、統合失調症(SZ)のリスクと関連する遺伝子座(座位)の中に位置する遺伝子で、現在までに提示されたSZの病因や治療の仮説に関係性を有するような遺伝子が同定されたことを強調したい。しかし、我々は、今回の所見は、特定の遺伝子との関連性がSZの原因ではなく、GWASにてリスクとの関連性が示された遺伝子座(座位)に1つやそれ以上のリスクとなる遺伝子変異が存在するという意味でしかないことを強調したい。

「治療の標的(Gタンパク質にカップルしている受容体のシグナル伝達)となる遺伝子」

<DRD2(11q23.2)>
 ドーパミン作動性神経伝達は、認知、報酬、動機づけ、学習、メモリーといった機能にとって必要不可欠なものである。ドーパミン2型受容体サブタイプは、精神医学において特に重要である。なぜならば、D2以外に作用する新しい選択肢が試みられているが、D2をブロックすることは抗精神病活性の状態を十分に作り出す上で未だに必要な方法だからである。

<GRM3(7q21.12)>
 mGluR3は代謝型グルタミン酸受容体をコードしており、広範囲にアストロサイトで発現している。そして、GRM2(mGluR2の)と共に、主に、統合失調症の潜在的な治療の標的となり得るものとして研究されてきた。

「グルタミン酸神経伝達に関与する遺伝子」

<GRIN2A(16p13.2)>
 NMDA受容体サブユニットをコードするGRIN2A(NR2A)は、シナプス可塑性における重要なメディエーターである。ケタミンなどのNMDA受容器のチャネルブロッカーやNMDAの自己抗体は、人間において統合失調症に似たような症状を生じさせる。この遺伝子の変異は、焦点性てんかん、ID、自閉症、統合失調症で報告されている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/NMDA%E5%9E%8B%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

<GRIA1(5q33.2)>
 グルタミン酸受容体1(GluR1、GluA1)がコードしているものは、速いシナプス伝達を担当しているAMPA(非NMDA)受容体のサブユニットである。活性依存性にAMPA受容体のシナプスをターゲットにすることは、受容体を介した樹状突起形成や海馬のシナプス伝達や可塑性にとって重要である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/AMPA%E5%9E%8B%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

<SRR(17p13.3)>
 セリン・ラセマーゼは、L-セリンをラセミ化してDセリンに変換させる。DセリンはNMDA受容体に対する必須的な共アゴニストであり、NMDA受容体を活性化する。Dセリン値の変化は統合失調症に関連していることが報告されている。

<CLCN3(4q33)>
 CLC-3は、電位依存性のクロライド(塩素イオン)・チャネルをコードしており、海馬のグルタミン酸作動性シナプスに局在し。神経の可塑性を調節している。CLC-3をノックアウトされたマウスでは、GABA作動性の機能が変化し、出生後に海馬が完全に縮小しており、神経ネットワークの接続障害を引く起こすことが示唆されている。。

 他のグルタミン酸関連遺伝子としては、GRM3(上記を参照)や、SNAT7をエンコードしているSLC38A7(16q21)、SNAT7はL-グルタミンを優先的に神経内部にトランポートするアミノ酸トランスポーターだが、再取り込みや再利用においては重要な役割をはたしているのかもしれない。

「ニューロンのカルシウムシグナリングに関与する遺伝子」

<CACNA1I(22q13.1)>
 CACNA1Iは、Cav3.3 T-型カルシウム・チャンネルの開口部を形成するαサブユニットをコードする。このチャネルの活性化は、NR2B含むNMDA受容体と共同で活性化された時にシナプスの可塑性と長期増強を引き起こす。このチャネルのブロックはまだ効果が実証されていないが、ある種の抗精神病薬はT型のカルシウムチャネルをブロックする。
(カルシウムチャネル)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB
(T型カルシウムチャネル)

<RIMS1(6q12-13)>
 RIMは、多重ドメインタンパク質からなるシナプス膜エキソサイトーシス調節タンパク質1(Regulating synaptic membrane exocytosis protein 1)をコードしている。その役割は、カルシウム・チャンネルをシナプスの活性領域に拘束してドッキングさせ、シナプス前部の可塑性や神経伝達物質の放出を促進させる役割を有しており、シナプス小胞からの神経伝達物質の放出の際に中心的に関わっているタンパク質である。

 前述の遺伝子の他にも、カルシウムシグナリング遺伝子には次の遺伝子が含まれる。CACNA1C、CACNB2、CAMKK2、NRGN、ATP2A2である。ATP2A2遺伝子の変異はDarier病を引き起こし、双極性障害や精神病の家系からも分離されている。

「シナプスの機能や可塑性に関与する遺伝子」

<KCTD13(16p11.2)>
 KCTD13は、ポリメラーゼデルタ相互作用タンパク質1をコードしているが、このタンパク質は細胞骨格構造の調節に関与するBCR(BTB-CUL3-RBX1)E3ユビキチン-タンパク質リガーゼ複合体の基質特異性アダプターである。既に、神経発達障害や脳と身体サイズの表現型(小頭症)に関連付けられている16p11.2の領域内に位置するKCTD13の病原性CNVが報告されている。ゼブラフィッシュとマウスの研究では、このCNVにおける変異量に感受性を有する駆動遺伝子としてKCTD13のオルソログ(共通な祖先を持つ異種間の相同遺伝子)との関連性が報告されている。統合失調症と双極性障害のこれまでに行われたGWAS研究においてこの遺伝子座(座位)の関与が報告されている。

<NLGN4X(Xp21.33-32)>
 NLGN4Xは、ニューロリギンをコードする遺伝子であるが、ニューレキシンと結合し、グルタミン酸作動性やGABA作動性前部シナプスの形成を誘導することにより、軸索における神経伝達物質の放出関わる機能性部位の局在的な形成を誘導する。NLGN4は興奮性と抑制性の双方のシナプス後部に存在し、ニューレキシンとの相互作用を介してシナプス前部のカルシウムチャネルの集団を調節する。NLGN4遺伝子の変異は自閉症に関連していることが報告されている。
http://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%82%AE%E3%83%B3

<IGSF9B(11q25)>
 IgSF9bは脳に特異的な接着分子であるが、海馬と皮質抑制性シナプスに局在する介在ニューロンで強く発現している。介在ニューロンの発育のために必要とされる。

<CNTN4(3p26.3)>
 コンタクチン(Contactins)は、軸索と関連する細胞接着分子であり、神経回路網の形成や可塑性の機能に関与している。CNTN4は、脳の中で高度に発現している。遺伝子の欠損は変異はASDに関係すると報告されている。

<MEF2C(5q14.3)>
 筋細胞特異的エンハンサー因子2CやMADSボックス転写エンハンサー因子2とも呼ばれる転写調節因子をコードしている。この転写調節因子は、神経新生、興奮性シナプスの数、シナプス後部の構造における樹状突起形態形成や分化を調節している。胎生後期における前脳でのこの遺伝子の欠損は、興奮性シナプスの数の劇的な増加、海馬依存性の学習やメモリーの障害を引き起こす。初期の欠損は新皮質における異常なニューロンの遊走を生じる。MEF2C 機能不全はの単独でも重度の知的障害を引き起こす。

<PTN(7q33)>
 プレイオトロフィン(Pleiotrophin)は、ヘパリン結合脳分裂促進因子(HBBM)、ヘパリン結合成長因子8(HBGF-8)、神経突起成長促進因子1(NEGF1)、ヘパリン親和性調節ペプチド(HARP)、ヘパリン結合成長関連分子とも呼ばれ(HB-GAM)、神経突起成長促進因子ファミリーに属するサイトカイン/成長因子であり、発生の段階における神経突起成長を調節している。長期増強を抑制した時に、海馬において海馬の活性に依存した形で発現する。

<CNKSR2(Xp22.12)>
 CNK2は、細胞内伝達経路の1つであるRas→MAPK経路の下流に関与している足場/アダプタータンパク質である。その発現は、神経組織に限定されており、樹状突起棘に集中しPSDとの複合体を形成する。このタンパク質は、シナプス後部膜のシナプス複合体の構築や、細胞膜/細胞骨格のリモデリング関わるシグナル伝達のカップリングにおいて役割を果たしている。CNKSR2の変異による機能の損失は、非症候群性X連鎖知的障害(non-syndromic X-Linked intellectual disability)の原因となる。

<PAK6(15q14)>
 PAK6は、脳で高度に発現しているセリン/スレオニン・プロテインキナーゼであり、神経突起の伸長、糸状偽足(filipodia)形成や細胞の生存に関与している。PAK6は、PAK7と伴に機能的冗長性を示し、また、この2つをダブルノックアウトしたマウスでは特定の学習やメモリーの障害を生じる。稀に遺伝することがあるPAK7遺伝子の重複(duplication)は、統合失調症や双極性障害リスクの増加に関連している。
(遺伝子の重複)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E9%87%8D%E8%A4%87

<SNAP91(6q14.2)>
 SNAP91(AP180)がコードするタンパク質は、哺乳類のニューロンのシナプス前部終末に豊富に含まれており、クラスリン依存性再構築プロセスを介して、シナプス小胞のエンドサイトーシスを調節している。CALMと共に、それは極性を確立し、胎生期における海馬の神経の軸索や樹状突起の成長をコントロールしている。

「神経の他のイオンチャネルに関与する遺伝子」

<KCNB1(20q13.13)>
 Kv2.1は、ショウジョウバエshab関連サブファミリーに属する遅延整流VGKCである(遅い過分極電流を生成するタイプの電位依存性カリウムチャネル)。大脳皮質や海馬で豊富に発現しているが、神経細胞の興奮、活動電位の持続時間、活動電位の持続的なスパイクを調節している。

<HCN1(5p21)>
 HCN1(カリウム/ナトリウム過分極活性化環状ヌクレオチド依存性チャネル1)は、カリウムチャネルの開口部を形成するサブユニットであり、脳における内向きの過分極活性化プラスイオン電流を発生させる中心的な役割を果たしており、これによって、神経細胞の興奮性、リズミカルな活動、シナプスの可塑性を調節している。HCN1は、脳内で広範囲に発現しており、樹状突起の遠位先端部で豊富に存在している。さらに、心臓のペースメーカーでもある。
<CHRNA3、CHRNA5、CHRNB4(15q25.1)>
 ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR類)のαサブユニットをコードしており、リガンド依存性イオンチャネルを形成する。特定のニューロンや、神経筋接合部のシナプス前部、シナプス後部、双方に発現している。nAChR遺伝子のこの群は、ニコチン依存、喫煙、肺癌のリスクに関連している。

「神経発達に関与する遺伝子」

<FXR1(3q26.33)>
 FXR1Pは、RNA結合蛋白質のファミリーメンバーであり(FMRPを含む)、この遺伝子の変異は、脆弱X症候群を引き起こす。FXR1Pは、マウスの海馬の樹状突起棘で発見されたが、脳において、mRNAや、miRNA9・miR-24などの特定のマイクロRNAをターゲットにしている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%86%E5%BC%B1X%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4

<SATB2(2q33.1)>
 核マトリックス結合領域に特異的に結合するDNA結合タンパク質であり、転写の調節、クロマチンの再構築に関与している。この遺伝子の発現は、有系分裂後に分化していく新皮質のニューロンに制限されているが、脳の発達における大脳皮質の上部層の投射性ニューロンの同一性の決定因子として作用する。SATB2を削除すると2q32-q33欠失症候群を引き起こし、逆に、この遺伝子の重複はASDを生じる。

 なお、神経発達に関与する追加の遺伝子には次のものを含む。PODXL、BCL11B、TLE1、TLE3、FAM5B、である。

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 以上の遺伝子が、今回のGWASで炙り出された注目すべき遺伝子のようである。これから言えることは、ドーパミンだけでなく、グルタミン酸イオンチャネルも関与していることは間違いなく、統合失調症の治療の標的としては、今後は、グルタミン酸やイオンチャネルも視野に入れないといけないということである。これらの一部は、双極性障害ともオーバーラップしており、今後は、双極性障害とはオーバーラップしていないような遺伝子を炙り出していく作業が求められる。その遺伝子こそが統合失調症の本質を示してくれる遺伝子なのではと私は考えている。
(関連ブログ 2014年4月14日 単一精神病論)
(関連ブログ 2014年3月9日 イオンチャネル)

 最後に、統合失調症の危険度第2位(1位が何に関わっているのかは不明なため、今のところは暫定1位)の遺伝子座(座位)として炙り出されたmiR-137に関しての最近の報告について少しだけ触れてみたい。
 
 下の論文では、統合失調症の発症に関わるmiR-137の標的となるような遺伝子をmiR-137を過剰発現させて同定しようとしたが、時間の経過と共に他の遺伝子との関連性は変化していき、かなり複雑な結果だったようだ。その研究結果では、miR-137は細胞周期の調節、L型電位依存性カルシウムチャネル細胞-細胞間の相互作用シナプスの機能、といった神経の微調整に関わるような重要な経路に関わっているようであり、それらの遺伝子の発現がmiR-137の過剰発現によって経時的に増加したり減少し、様々な形に変化していくことが、疾患の表現型を複雑にしているのかもしれない。

(統合失調症のリスクはDLPFCにおけるmiR-137の過剰発現と関連している)

 また、統合失調症では、miR-137の発現がDLPFCという脳の局所において低下しており、それによって免疫グロブリンの転写因子であるTCF4の発現レベルがDLPFCでは増加しているという、逆のような論文も発表されている。統合失調症の脳の局所では自己抗体が過剰に作られており、それが障害を惹起させているのかもしれない。脳の局所にだけ存在するような自己抗体は末梢血では検出できないため、今のところは調べようがない(miR-137は、過剰発現しているのか、低下しているのか、いったいどちらなのであろうか)。

ゴミ屋敷の住人は精神疾患なのか、それとも、心の傷のせいなのか(ホーディング障害・買いだめ障害・溜め込み障害、ディオゲネス症候群) その2


DG-0

(前回の続きである)

 私は、かってイギリスを旅行した時、イギリス王家の城の中を見たことがあるのだが、呆れ返ってしまったことがある。ウインザー城の中を見学したのだが、なんと中は物だらけであり、壁や棚や陳列台に数えきれない多くの物が所有されており、しかも、その多くは略奪品であり、インドやエジプトや中国といったイギリス以外の国々の物が殆どであった。そして、行く部屋行く部屋全てで、これでもかこれでもかと陳列されていたのである。
 
 (一応、展示物として扱われているのだが、イギリス王家の威信を象徴する宝として、大英帝国の歴代の城の所有者であるの王家の民が世界中から略奪して収集していたことは間違いない)。

 特に、インドの物が多かった。ある部屋は、壁一面にインドのターバンやサーベルばかりが展示してあった。

(大英帝国って、インドでとんでもなく悪いことをしていたんだ。)
 
 他の観光客は、すごいなあ、さすがは大英帝国だと感心して見ていたのだが、私は、途中で気分が悪くなり、最後まで見ることはやめて城の外に出た。

(イギリス王家って、頭がおかしいんじゃないの。ここの展示、かなりヤバイわ。)

 なんだこれは。かって大英帝国に支配されていた国々からの献上品として展示しているのかもしれないが、これって、結局、全部、他の国から奪い取った物じゃないか。しかも、生活していく上で、こんなにたくさんの物が必要なのか。ターバンやサーベルが必要なのか。こんな城は、全然、素晴らしくも何ともない。物欲の塊の象徴であり、醜いだけである。この城は、ウインザー城ではなく、もはや、ホーディング城と呼ぶべきだ。

DG-2

 大英帝国。あんたらは、植民地支配して、世界を苦しめていたただけじゃないか。ああ、嫌なものを見てしまった。

 略奪した物は他国に返還すべきである。こんな物を自慢して展示しているようでは、大英帝国は神から祝福されることはないであろう。
  
 イギリス王家は私有財産を多く所有しているので有名である。会社の株まで所有している。物欲に支配された王家だと言えよう。そして、私有財産を禁じているはずの社会主義や共産主義を謳っている国家の元首も、皆、私有財産を所有している。しかも、大英帝国よりも、さらにもっとえげつなく多くの私有財産を所有しようとする。ルーマニアのチャウセスクしかり、北朝鮮のキム王朝しかり。人類はホーディングから逃れられない運命にあり、人類の歴史は醜いホーディングの繰り返しの歴史であったと、歴史自体が証明しているのである。資本主義であろうと社会主義であろうと同じである。社会主義者や共産主義者は、綺麗ごとを言っているだけに過ぎないと私は思う。その証拠に、日本共産党や社民党の議員だって私有財産を所有しているではないか。
 
 しかし、日本の天皇家は私有財産を一切所有しない。このような形態をとっている王は日本だけである。だからこそ、日本という国は尊いのである。日本の天皇家は尊いのである。だからこそ、日本は世界で一番誇れる国なのである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%B3%95%E7%AC%AC88%E6%9D%A1

 かたや、国内でもギリス王家と同じことをしている人達がいる。それは過剰な貯蓄をしている大人達である。特に、高齢者になればなるほど、その傾向が強くなる。将来や老後が心配だからと言うのだが、本当にそんなに貯金が必要なのであろうか。中には、職場の飲み会など、そういったことを一切せずに(協調性がない人ほど貯金が大好きなようですが)、ドケチに徹して信じられないような額を貯蓄している人がいる。それでも、まだ足らないと言う。これでもかこれでもかと金を通帳に積み上げていく。どうやら、いくら貯金をしても不安が取れないようである(こうなるとりっぱな障害ですね。重症になると、マネー障害と診断できるかもしれません。しかし、いくら貯め込んでも、オレオレ詐欺やブラック企業に騙されるだけかもしれないし、たくさん貯金をしても、幸せを実感できる訳でもなく、空しいだけですよ)。

 最近、睡眠剤を多量にODした80歳台の単身の高齢の女性が入院してきた。自殺未遂はこれで数回目らしい(個人が特定されないように一部を変えてあります)。ベネッセが経営している有料老人ホームに入居しているのだが、寂しいからODをしたのだと言う。あっけらかんとして話す。夫は既に数年前に死亡。子供はいない。兄弟はいるが皆、疎遠になったまま。病院まで付き添ってきたスタッフは、介護スタッフなのだろうが、どことなく冷たい感じ。もういい加減にしてほしい、できれば施設から出ていってほしいと顔に出ている。しかし、簡単にそこを出る訳にはいかない。彼女が言うには、入居する時に3500万円も払ったらしい。しかし、そこを出る時には500万円しか戻ってこないとのこと(本当かどうかは分かりませんが、桁が1桁違うような気もしますけど)。こりゃ、全然、楽しくなくても、寂しくしても、そこを出る訳にはいきません。施設から入院してほしいと言われたから、しばらくは入院しているけど、早く退院したいと言っていた。

 その老人は、入院してからは施設の文句ばかり言っていた。あれだけの大金を払ったのだから、何でも熱心に私に尽くしてくれてもいいはずだ。施設の対応が悪いから私は寂しくなって死にたくなるのだと言いたいようであった。しかし、人の心はお金では買えません。ODはもっと自分に関心を向けてほしいからしたのかもしれませんが、逆に、施設のスタッフからは嫌がられてしまうだけですよ。

 一方、その施設の方も、ビジネスでやっているという感じの対応だった。入院後に主治医に病状も聞いてこない。単身者なんだから施設のスタッフが家族の代わりになってあげないとダメなんですがね。ベネッセって、確か進研ゼミじゃなかったのか。少子化のこの時代、子供相手じゃ儲からないから、老人相手に方向転換したようだ。しかし、ベネッセさん、2000万人もの個人情報を漏洩させたり、いったい何をしているのですか。3500万円も出させたのだから(350万円かもしれませんけど)、そんな寂しい思いをさせたらあきまへん。あのブラック企業のワタミも介護ビジネスに力を入れているし、高齢者はお金を溜め込んでいるし、きっとすごく儲かるんでしょうなあ。ワタミといい、ベネッセといい、オリックスといい、ブラック企業ほど高齢者向けのビジネスを急展開しているようです。しかし、まあ、皆さん、高齢者相手にあこぎな商売をしていますなあ。施設を出る時には入居一時金はほんの少ししか戻ってこない。はっきり言ってボッタクリですがな。こりゃあ、高齢者はもっともっとお金を溜め込まないといけいないのかもしれませんね。
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1411/20/news037.html
http://www.benesse-style-care.co.jp/

預金通帳

 高齢者がお金を溜め込む。その結果、どうなるのかというと、経済に大きなマイナスの影響が及ぼされることになる。金が社会に出回らなくなるため、経済は停滞することになる。高額な貯金をしている人は、社会に対しては非常に迷惑なことをしているのであるが、その事に気づくことはない。高齢者の多額な貯蓄ほど醜いことはない。過剰な貯金をやめて、もっと、社会のために、特に、社会を支えている若者達のために、お金を使うべきである(若者の低賃金は高齢者が過剰に貯金をするせいだという意見もある)。しかし、多額の貯金をしている高齢者程、頑固であり、自己中心的であり、社会のためにお金を使うべきだなんて考えようともしない。どうにもならず、日銀は新しいお札をどんどん刷るしかなくなる。結局、消費税を上げざるを得なくなり、その消費税を払うことになるのは、過剰な貯蓄はせずに、適度に消費をして、日本経済にちゃんと貢献している、適正な生活を送っている一般市民や若者達である。
http://biz-journal.jp/2014/11/post_7370.html 
 
 こういった過剰な貯蓄のケースも、ホーディング障害マネー障害だと海外では考えられているようだ。まあ、見方を変えれば、高齢者だけでなく、内部留保で莫大な金や資産をホーディングしている大企業や金融業界もホーディング障害やマネー障害だと言えなくもないのだが。
(マネー障害について) 
 
(トヨタは、日本1位という莫大な内部留保をホーディングしており、そのくせ法人税を全然払っていないのである。けしからん企業である。日本経済を支えている企業ではあるが、社会に真に貢献しているとは言い難く、今では、派遣社員制度を積極的に利用して、正規雇用を減らし、内部留保をますます溜め込んでおり、強迫性ホーディング障害やマネー障害として治療を受けねばならない企業だとも言えよう。)

 そして、マネー障害というか(強迫性マネーホーディング障害とも言うべきか)、守銭奴というか、金の盲者と言うべきか、この京都の再婚したばかりの5人目の夫である75歳の男性を青酸カリで殺害した67歳の女性も、究極のレベルにまで到達した高齢者のように思える。とにかく我々の想像の範囲を遥かに超えている。これまで彼女と関わった7人もの男性が不審死をしているらしい(もっと多くの男性が不審死しているという噂もある)。しかも、その都度、莫大な遺産を相続し、相続権がある親族に無断で勝手に土地や家を売り、遺産は跡形もなくなり、全て多額の現金に換え、そのまま姿をくらましていたようだ(不動産という形で持っていたら固定資産税を払わねばならないからだろうけど)。その合計金額は、なんと10億円以上とも言われている。外見は質素な生活に見えたというTVの取材での報道だった。しかし、家の中は非常に散らかっていて汚かったらしい。ゴミを捨てていなかったのか、青酸カリは家のゴミ袋の中から発見された。

 びっくりするのは、何ヵ所もの結婚相談所に登録し、収入が1000万円以上ある男性という条件を出していたということである。おまけに、殺した夫と入籍した直後から婚活を再開していたとのこと。結婚した時点で既に夫を殺すつもりだったのは間違いない。そして、自治会費を払うことを拒否し続けていたらしい。この金への凄まじい執着。いったい、人を何人殺してまで、何でそんなにお金がほしいのか。全くもって理解不可能。まさか、貯金通帳に貯まった金額を見つめながら、毎日、うっとりとしていたいんじゃないだろうな。だが、十数以上もの預金口座を持ちながら、預金は殆ど残っていなかったらしい。

 では、お金はいったいどこに消えたのか。どうやら、先物取引やFIXに手を出して大きな損失を抱えていたらしい。先物取引やFIXでもっとお金を増やそうとしたのだろうか。この女性の金欲は底なし沼のようだ。物欲に支配され、人の命の大切さまで分からなくなってしまった究極の女である。
http://matome.naver.jp/odai/2141643120557295301
http://www.yomiuri.co.jp/national/20141120-OYT1T50125.html?from=ytop_main7

守銭奴婆

(人類は、所詮、動物としての本能に支配されており、憲法などの法律で制限しない限り、物欲の塊となってホーディングをする運命にあるのかもしれない。)

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(話が大分逸れてしまったので元に戻そう)
  
 前回のブログの最後の方で、ホーディング障害では注意力や記憶などの認知機能障害を併発していると書いたのだが、注意力や記憶力も低下しているとなると、他の脳の機能も障害されている可能性があると言えよう。
  
 下の論文では、ホーディング障害の患者の意志決定のメカニズムを調べたところ、前帯状皮質における異常な活性化パターンを認めたと報告している。
 
 HDのこれまでの神経画像研究では前頭葉の異常が示唆されていたが、現在のHDのモデルでは、意志決定の問題、所有物への愛着、洞察力の低下によるものであろうと考えられている。そこで、HD患者における意志決定の神経メカニズムをfMRIを用いてOCD患者や健常者(HCS)と比較した。その結果、OCDやHCSと比較すると、HD群では、前帯状皮質と島における異常な活性化パターンを認めた。具体的には、アイテムが書かれた紙を提示され、それを破棄するような意志決定をする際に、HDの患者は、被験者が所有していないようなアイテム(EPs)ではこれらの脳の領域の活性化は低かった。しかし、逆に、自分が所有しているアイテム(PPs)を破棄する意志決定をする際には、これらの領域は過剰な活性化を認めた(二相性の活性化)。これらのEPsとPPsとの差の大きさは、ホーディングの重症度、優柔不断さ、「全く道理にかなっていない」という感情と相関しており、HDはOCDやうつ症が原因ではないと考えられる。

DG-4

 このように、捨てることに関しては、ホーディング障害では、前帯状皮質(ACC)→島ネットワークの異常があるため意志決定に支障をきたしているのかもしれない。
 
 しかし、この所見は、意志決定にも問題があるが、それよりも、自分が所有している者を捨てようとするとACCが活性化してしまい、ネガティブな感情が湧きおこり、その感情が島(特に、島の前部)を通じて大脳皮質(特に、眼窩前頭皮質)に伝達されて、捨てようという行為にブレーキがかかってしまうとも解釈できる。ホーディング障害では、認識力や感情のコントロールも障害されているのかもしれない。
 
(ACCとネガティブな感情との関連性)
(島前半部と不快な感情との関連性)

 もし、島の前半部が優位になってしまっているのであれば、瞑想をすることで、島の後半部が鍛えられ、島の後半部の活性が優位となり、こういった負の感情を乗り越えられるようになる可能性がある。


DG-5

 この点に関して、さらに、HDでは、ギャンブルタスクでの障害は認められず、必ずしも意志決定機能が障害されている訳ではなく、むしろ、認知機能の障害(=認知プロセスの障害)であろうという論文もある(意志決定も広義には認知プロセスの一部に含まれるのではあろうが)。
  
 ホーディング障害(HD)の現在のモデルでは、意志決定に問題があると強調されている。しかし、HDにおける神経心理学的所見は統一した結果は得られていない。一方、認知症でもホーディング行動が多く報告されており、この観点からは、意志決定の問題よりも、前頭葉の機能障害(=認知機能プロセスの障害)や、経済行動学的な側面が絡んでいるのかもしれない。そこで、HD患者において、意志決定の際の経済的推論の問題を抱えていないかどうかをアイオワギャンブルタスク(IGT)を用いて調べた。その結果、結果は、HDの患者は、IGTでは何の障害も示さず、アイテムを選択したり拒否して不協和さを低減するようなタスク(dissonance reduction task)の結果にも、健常者との差は認められなかった(HDでは経済的推論の問題は認められず、健常者と同じような経済的推論ができる)。さらに、これら2つのタスクのパフォーマンスは、ホーディング症状の重症度や優柔不断さとは無関係だった。従って、HDでは、まだ研究されていないような他の認知プロセスの問題などが関与している可能性が示唆される。

DG-6

 IGTのタスクは健常群と変わらないということは、ホーデイング障害では、眼窩前頭皮質の機能は保たれているのであろうか。負の感情によりブレーキがかかっているため捨てることを決断できなくなっているだけで、こういった負の感情を克服さえすれば、捨てることが決断できる可能性を有すると言えよう。

(眼窩前頭皮質について。IGTはOFCの機能を調べるタスクとして用いられている。)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9C%BC%E7%AA%A9%E5%89%8D%E9%A0%AD%E7%9A%AE%E8%B3%AA
 
 では、どうして捨てることで負の感情が湧き起ってしまうのであろうか。それは、認識、すなわち、認知のプロセスに何らかの異常があるためではと考えられうる。心的外傷体験に影響されたままの認知プロセスになってしまっているのではと推測される。
 
(これこそが物に心が奪われてしまっている状態であり、これを乗り越えたのが、今回のブログの最後で紹介する聖フランチェスコなのである。聖フランチェスコは心的外傷体験を契機にホーディングからの決別を決意した。聖フランチェスコを思い出そう。心的外傷体験を抱えていても、必ずホーディング障害から抜け出せるはずである。)

 この点に関しては、下の論文でもホーディング障害における認知プロセスの異常が提唱されている。

 特定の認知プロセス、例えば、意志決定(decision-making)、分類(categorization)、注意(attention)などのプロセスは、物への過大評価に寄与するため、ホーディング障害では、こういったプロセスが障害を受けているのではと推測されている。この論文では、ホーディング障害における執行機能のプロセス(executive functioning processes)について検証した。その結果、健常群と比較して、強迫的なホーディングを有する被験者では、パフォーマンスの障害があることが判明した。すなわち、計画・問題解決の決定、視空間への学習と記憶、持続的注意・ワーキングメモリー、組織化における障害である。カテゴリー化・概念形成、視空間処理、抑制制御に関しては、これまでに報告された調査結果と一致しないため、さらなる調査や試験が必要である。

 まだ、十分には調べられてはいなものの、ホーディング障害では様々な認知機能の障害や認知機能不全が影響し、遂行機能不全(=捨てるという行動を遂行できない)に陥っているのかもしれない。

 ここで、気になることがある。それは加齢の影響である。

 前回のブログで述べたように、ホーデイングは慢性化し、自然に消失することは少ないため、ゴミ屋敷は高齢者ほど頻度が高くなる。従って、精神科が介入せざるを得ないようなひどいゴミ屋敷のケースは高齢者であるケースが中心となる。

 もし、ホーディング障害の患者では、認知機能(認知プロセス)の障害が背景に存在するのであれば、高齢になればなる程、加齢の影響が加わるため、ホーディング障害も重度となり、認知機能の低下も重度になっていくことが予想される。逆に言えば、高齢者では、ホーディングも重度であり、若いホーディング障害のケースとは異なり、認知機能も大きく低下しており、その結果、生活に関する機能も大きく低下し、日常生活全般が大きく障害されていることが予想される。
 
 ひとことで言えば、高齢者のゴミ屋敷では、全然まともな生活ができておらず、生活だけでなく、健康管理も全くできておらず、家や部屋だけでなく、身や心も、全てがボロボロになっているような悲惨な様相を呈していることが予想されるのであった。
 
 この懸念は既に多くの論文で報告されている(下のPMC4083761を参照のこと)。
 
 下の論文では、ホーディング障害は慢性の経過をたどり、高齢になる程、重度になり、社会機能も大きく損なわれており、身体疾患を有することが多く(そのため、ますます認知機能が落ちていき、いっそう重度となる)、一人暮らしで孤立しており、治療されずに放置されたままの状態になっており、行政が積極的に介入せねばならないと警鐘を促している。

DG-7
 
 下の論文でも、高齢者のホーディング障害の特徴については、精神、身体、認知機能、生活機能などに大きな問題を抱えている特徴を有すると報告されている。そして火災のリスクまで生じていると述べられている。

 さらに、高齢のホーデイング障害では遂行機能が大きく障害されていることが報告されている。この遂行機能障害ゴミ屋敷の重症度と相関しているようである。高齢者のゴミ屋敷の住民は、遂行機能障害があるため、もはや、ゴミを拾ってくることしかできなくなっているのかもしれない。近隣住民がいくら本人に苦情を言ったところで、本人には遂行機能障害があるため、ゴミを片づけることなんてことはもはやできず、一切何もしないでことであろう。

 高齢者のゴミ屋敷は、家も部屋も体も心も全てがボロボロになっているのである。当然、どれだけ不衛生になっているかは分からない。かつ、火災のリスクも生じている。汚染された水があちこちに放置され、ヒトスジシマ蚊が大量に発生しているかもしれない。ねずみやゴキブリなども大量に発生しているかもしれない。あらゆる感染症の巣窟になっているかもしれない。そして、おまけに、いつ火災が発生するかも分からないのである。高齢のゴミ屋敷の近隣住民は計り知れない程の大きな被害を被る危険性があると言えよう。

 注; このゴミ屋敷の危険度は、レベルIからレベルVまでの5段階に評価される。レベルIV以上では、保健所も含めた行政が一刻も早く介入すべきであろう。

レベルI: 標準的な家。時折、新聞の溜め込みなどを見られることがある。
レベルII: 家は整理整頓が必要であり、非常に散らかっている。
レベルIII: 家は、廃棄、解体、清掃などの訓練を受けたプロによる整理整頓や清掃が必要である。
レベルIV: 整理整頓や清掃のプロの業者やコーディネイトされたチームによる助けが必要である。医療や家計の問題の存在している可能性がある。
レベルV: マルチタスクチームが必要である。チームのメンバーには、レベルIVのチームのメンバーだけでなく、メンタルヘルスの専門家、防火の専門家、地域安全の専門家、地主などが含まれる。
http://www.masslocalinstitute.org/onlinecourses/hoarding/Hoarding_print.html
 
 高齢者のゴミ屋敷。これはもう絶対に放置していてはいけない問題であり、行政が積極的に介入し早急に解決せねばならない問題だと言えよう。

DG-8
 
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 高齢者が住むゴミ屋敷。そこに住む住人は、我々の想像を絶するような生活をしているのであろうか。
  
 この高齢者のホーディング障害の究極の状態のケースが「ディオゲネス症候群、Diogenes syndrome」として、近年、定義化され、ディオゲネス症候群の症例がレポートされるようになってきている(またの名を、高齢者不潔症候群 senile squalor syndromeとも呼ぶ)。究極の状態とは、いわゆる、早く何とかしないと本人や近隣が危険なレベルにまでになったゴミ屋敷の状態である。

 特徴となる症状は、セルフネグレクト(self-neglect、自分の問題を無視する)、不潔な家や部屋(domestic squalor)、 社会的な引きこもり(social withdrawal)、無気力(apathy)、強迫的なゴミのホーディング(compulsive hoarding of garbage)、恥の欠如(lack of shame)である。

 ノルウェーでの調査では次のように述べらている。
 
 ディオゲネス症候群(DS)は、全ての年齢で認められるが、特に、高齢者に多かった。DSの住民が住む家は、家具、食品、ネズミ、尿、糞便、腐敗物、ゴミだらけのとんでもない程、不潔な家に住んでいた。さらに、ホーディングの傾向があった。60歳以上の高齢者でのDSの年間発生率は、1000名につき約0.5と推測されたが、ノルウェーでの真の有病率は不明である。症例の50%以上で、認知症、統合失調症、物質依存性といった診断がなされていた。前頭葉機能障害と重度のDSとを関連付ける論文が増えてきている。周囲の者がDSの状況に懸念を表明しても、DS患者は助けられることに消極的である。DSのケースは複雑であり、一般開業医や地域の看護師では対処することは非常に困難である。自律性を尊重することと援助することの矛盾があるため、DSを援助することは非常に困難である。
 
 「ディオゲネス症候群」。まるで、もはや治ることはなく進行していくだけの不治の病であるアルツハイマー病のような病名である。もうここまでの状態になってしまうと、アルツハイマー病と同じく不治の病なのかもしれない。

 この「ディオゲネス症候群」の由来は、古代ギリシャの哲学者であったディオゲネスという人物の名前に由来する。
 
 ディオゲネスは家を持たず、物乞いに頼り、乞食のような生活をしていたらしい。家を持たないため樽の中で生活をしていたとも言われている。従って、いつも不潔だった。ディオゲネス症候群とは、本来は物や家を所有しないで乞食のような生活をすることで、衣類の洗濯もせず、風呂にも入らずに、極めて不潔な状態になっている人に対して使っていたと思われる。しかし、今では、不潔は不潔で同じなのだが、物の所有に関しては、ディオゲネスとは正反対で、物に執着しゴミを集め、ゴミ屋敷の中で生活している人に対してディオゲネスという名前を使用しているようである。ゴミ屋敷の中での生き方は、ディオゲネスの本来の生き方とは異なっているため、ディオゲネスに対して失礼な使い方になっているのかもしれない。

DG-9

(ディオゲネスについて)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AA%E3%82%B2%E3%83%8D%E3%82%B9_(%E7%8A%AC%E5%84%92%E5%AD%A6%E6%B4%BE)
 
 注; 下の記事によれば、ディオゲネス症候群という病名は、ゴミ屋敷だけでなく、ニートなど長期間引きこもっているような状態に対しても使用できる可能性がある(必ずしもニートが不潔な生活をしている訳ではないが)。内閣府の調査では、国内では67万人が引きこもっており、引きこもっているという状況に何の苦痛も感じることなく生活を続けているように見えるケースが多いため(=セルフネグレクト)、ディオゲネス症候群との鑑別が必要になろう。なぜならば、ニートはディオゲネス症候群の初期の段階であるという可能性も考えられうるからである。

 ここで、最近報告されたゴミ屋敷としてのディオゲネス症候群のケースレポートを見てみよう。

<症例1>

 地域精神支援業務に従事する看護師から、双極性障害と甲状腺機能低下症の既往歴を有する61歳の肥満の白人女性が紹介されてきた。彼女は、多弁で、気分が高揚しており、活動性亢進、極めて不衛生な状況にあることが分かった。彼女は、ボサボサの乱れた髪で、悪臭を放つ汚れた服を着ていた。彼女は非常に苛立っており、スタッフに対して暴言を吐き、粗暴な行為をしようとした。そして、病識がなく、治療を拒否した。

 結局、彼女は、薬物療法が遵守されておらず躁病相が再発していると診断されて、精神科病棟に入院となった。全血球数、電解質、グルコース、肝機能、脂質プロファイルは全て正常範囲内であった。T4(甲状腺ホルモン)は正常範囲内であったが、甲状腺刺激ホルモン(TSH)はわずかに上昇していた。ビタミンB12は、正常下限値であった。入院後は、バルプロックスとクロナゼパムの再投与が開始された。

 翌日、彼女は猫と犬に餌をあげないとダメなんだと譲らなかった。そのため、看護師が彼女のペットの様子を見るために彼女の家に入る許可をもらい、家の中に入ることになった。しかし、家の中に入ると、家の中は完全に無茶苦茶な状態になっていた。汚い服、ゴミ、汚れた皿、腐った食物で満杯になっていた。台所の流しは見えなくなており、あたかも皿をトイレの便器で洗っているかのように見えた(下の写真1・ 2)。
 
 床は猫と犬の糞が散乱していた。二階建ての自宅から耐え難い悪臭が放たれていた。しかし、彼女は、この家の状態や衛生状況を問うても、全の問題もないと言い、病識は完全に欠如していた。その結果、ディオゲネス症候群(DS)の疑いと診断された。

図1
浴室。患者はトイレで排泄しつつ、トイレの便器で皿を洗っていた(おえ~)。

DG-10

図2
リビングルームは、汚い衣類、古新聞、動物の糞で充填していた。
 
DG-11

 症状の定義が定まっていないため、ディオゲネス症候群(DS)の診断は困難である。DSで併発するホーディングは、強迫性障害(OCD)、統合失調症、認知症、などの多くの精神疾患でも認められる。DSでの蓄積という行為は、エゴシント