インターネット依存は脳のデフォルトの神経回路の接続性(デフォルト・ネットワーク・モードDMN)を乱してしまうという最新の論文があった。今回はDMNに関してのこれまでのレビューを踏まえつつ、インターネット依存では脳内にどのようなDMNの変化が生じているのかということを紹介したい。

 現在、ニューロサイエンスは課題遂行時や安静閉眼時に有意に活動している脳の領域と神経回路の接続の状態をfMRIなどによって調べれるようになってきており、近年、人間の脳は一見して何もしていない時でも(安静閉眼時でも)、さかんに活動している脳の領域があり、それらの脳の領域の活動は神経線維によって活動領域同士で情報のやり取りをしており(接続・コネクトされており)、それらの領域や接続設定はデフォルト・モード・ネットワークdefault mode networkDMNと名付けらた。現在、さかんにDMNが調べられている最中である(活動領域の同定や接続の度合などの評価の仕方などにはいろいろな解析手法があるようだが省略する)。


 DMNはある課題や外部刺激が与えられると、DMNの活動領域とネットワークとしての接続性connectivityは抑制され、課題や刺激に応じた領域とその接続性が活性化される。それを課題陽性ネットワークtask-positive network TPNと呼ぶ。今のところ健常なDMNに関する領域として同定されているのは、4つのコア領域が同定されており、内側前頭前野MPFC(ブロードマンの10・24・32野)、後部帯状皮質/膨大後部皮質PCC/RSP(ブロードマンの29・30野/23・31野)、左右の下部頭頂葉IPL(ブロードマンの39・40野)である。特に、PCCはDMNでの中心的なハブとしての役割を有していると考えられている。
 
DFM


















 誤解がないようにするが、DMNは脳が休息しているモードではない。睡眠時の脳のモードとは違う。機械のデフォルト・モードと同じく、何も設定されていない、覚醒時の初期設定のままの、外部から情報処理の課題が与えらていない時の脳の状態である。しかし、心の内部からの課題は常に脳へ与えられているのかもしれず、それ故、さかんに活動している脳の領域があるのかもしれない。本人が意識していようがいまいが脳は常に活動しておりブドウ糖を消費しているのであった。

 DMNは外部の刺激からは独立した思考と自己への内省self-reflectionに関連した機能を有すると解釈されている。自己の内省を促すような課題によってもDMNと同じ領域(MPFCとPCC)が活性化するからである。そしていろんなタスクを与えた時との比較から、DMNは過去の出来事を回想し、それを未来への計画に結びつけることで信念と言うべきものの形成に関与しているのだろうとも推測されている。ある学者はDMNは社会脳だと解釈した。すなわち、自己の内省を通じて他者の心の状態や他者に何が起きているのかを推測させて考えるような社会的な認識をするようなタスクの時もDMNと共通した領域が活性化されるため、DMNは人が常に無意識に社会の有り様を認識しておくための役割を有しているのだろうと推測した。しかし、DMNは猿などの霊長類でも見られ、猿も既に社会性を有しているからだという解釈も成り立つが、猿にでも認められるということは、逆に考えれば、DMNは動物的で本能的な生物として固有の脳のモードなのかもしれない。DMNの役割や意義の解釈についてはまだ見解は分かれている。


 一方、デフォルト・モードといっても、すべての人間が同じモードであるとは限らず、精神疾患によってはDMNの活動領域や接続度合connectivityが異なっていることも示されている。統合失調症やうつ病ではDMNは過剰に活動しており、それぞれの活動領域はハイパーコネクトであり、逆に、認知症ではDMNの活動減少やDMNの一貫性の破綻がみられる。なお、アルツハイマー病ではDMNの異常なパターンが脳内アミロイド沈着のレベルに関連していることも示されている。さらに加齢に伴い、若い青年時のDMNのパターンは薄らいでいくことも分かっている(DMNは加齢に従い、特に、60歳以降ではアミロイド沈着とは関係なく脳の前部と後部の間といった遠い接続性が減少する。情報処理のスピードが落ちるということなのであろうか)。精神疾患や年齢によって様々なDMNの所見が得られているのであった。


 統合失調症ではDMNの高い活動性と課題時の抑制減少(特に、MPFCにおける課題時の抑制減少)は、自己参照self-referenceの激化と注意への障害、ワーキングメモリーの障害、認知障害を示唆するものと考えられている。すなわち、統合失調症ではDMNから他のモードへのスムーズな切り替えが障害されており、例えば、タスク時に背外側前頭前野dorsolateral prefrontal cortexDLPFCの活性化が抑制されMPFCの活動抑制とは負の相関を示していた、等、それが統合失調症のワーキングメモリの障害や認知障害に関連していると考えられている。さらに、MPFCとPCC間の過剰接続hyperconnectivityというDNMの所見が幻聴や妄想などの陽性症状に関連しているとも考えられている。また、統合失調症の家族へのDMNの研究では、第一近親者も、DMNの過剰な活性化と過剰接続を有していた。このようなDMNの統合失調症に特徴的な所見の程度を評価することは、統合失調症の発病のリスクの評価に役に立つのかもしれない(注; なお、逆に、統合失調症におけるDMNの活動低下を報告した論文もあることを付け加えておく。まだ、見解は分かれている。)
DMNSZ2





DMNSZ












 大うつ病MDD
ではDMNの前部と後部の過剰な活性化を認めた。嫌な感情認識や感情判断、嫌な絵を見たり、それらの課題を再評価するなどのタスクを与えた時の所見では、MDDの抑制は減少していた。これらの所見から、うつ病におけるDMNの過剰な活動は、過去の失敗などをくよくよと考え、未来への計画、どうやってやっていこうかという手掛かりや、自分は何を信じるべきか、といったことをネガティヴな方向に考え、そういった思考の反芻ruminationを無意識にしているものと推測されている。さらに、MDDでは前帯状皮質ACC、視床、楔前部precunesとの過剰活動と過剰接続が観察された。ACC⇔precunesは感情処理に関係しているネットワークの一部を形成しており、大脳辺縁系との接続があり、この領域の活性化は恐怖や自律神経や内臓機能の調整に関係している。うつ病で常に怯えているようになっていたり、消化器系などの身体症状が出易いはこのせいかもしれない。また、MDDでは、背内側前頭前皮質dorsal medial prefrontal cortexDMPCの過剰活動を示していた。DMPC⇔、PCC、ACC、precunesは感情、DMPC⇔DLPFCは認知制御と関連しており、注意力を要求するタスクの際の抑制の減少は、うつ病における誇張された自己ばかりに焦点が当てられたような思考の反芻を意味していると推測されている(注;健常者ではDMPCは自己への内省に関連していると領域だと推測されている)。以上のことをまとめると、うつ病ののDMNの所見が意味することは、うつ病ではDMNに支配されて、くよくよと自分のマイナスのことを何度も考えて自己の未来を否定的に認識にしていることに脳が費やされていることを意味するのであろう。そして、MDDにおけるDMNの過剰な活動はうつ症状の重症度と相関しているのかもしれない。

DMNDP
















 
 

 双極性障害における躁病相のDMNの研究はまだ少ない。躁病相ではDMNとTNPとの相互関係において異常な所見を示した。健常者ではMPFC(DMNの関与、DMN時に活発、タスクによって活動減少)とDLPFC(遂行時ネットワークに関与、タスク時に活動増加)の間で負の相関関係を示したたが、躁病相では正の相関関係を認めた。さらに、MPFC⇔腹外側前頭前・島との間に過剰な接続性を認めた。(注;躁病相においては、いろんなタスク時にもDMNの脳の領域の活動が抑制されないということは、脳が正しくタスクを処理していても、常にDMNの支配下にある。すなわち、もし、DMNが動物としての本能的なモードであるのならば、本能に支配されたままで行動をしているような状態なのかもしれない。躁病で時々本能がむき出しになっているように思える患者様がいるが、DMNに支配されているせいなのかもしれない。)

 統合失調症やMDDにおけるDMNの過剰な活動と過剰な接続性は、自身の内面世界のタスクから外界の世界(現実世界)のタスクへの切り替えの困難さ、すなわち、脳のモードが外界に適応したモードにスムーズに切り替えられないことを表しているのかもしれない。さらに、うつ病で重度になると統合失調症と同じような妄想が出現してパラノイッシュとなるのは、DMNの支配がそれだけ強くなって反芻思考ばかりしているいるせいで妄想のような思考になっていくのかもしれない。

 なお、薬物治療がDMNに及ぼす影響としては、統合失調症における研究で、非定型抗精神病薬を内服している患者は定型抗精神病薬を内服してる患者よりもより健常に近いDMN、すなわち、タスクによるDMNの抑制がより健常であることが示されている。DMNは治療効果の判定にも役立つ可能性がある。さらにDMNとタスク時の変化の度合いを調べれば寛解状態にあるかなどの病状の評価にも応用できるかもしれない。

 疾患で異なるのであれば、当然、健常な個体間でも安静閉眼時に活動している領域や接続設定は異なっていてもおかしくないはずである。DMNのパターンの異なり方が逆に、その人の個性や性格特性を表現するということになるのかもしれない。さらに、同じ個体であっても、心配事がある時や疲労している時でもDMNのパターンは異なるであろう。向精神薬によってもDMNのパターンは修飾されるだろう。カフェインなどの物質によってもDMNのパターンは修飾されるだろう。同じ個体でも常に一定のパターンを表現するかどうかは分からない。従って、はたして人類に共通の健常時のDMNの領域が定義できるかもまだ分からない。今のところは、DMNは単なる安静閉眼時の脳のモードであるいうように理解しておいた方がいいのかもしれない。

 さらに、当然、人間の脳にはいろんなモードがあるはずであり、リラックスモード、集中モード、戦闘モード、さらには、、オリンピックで最高のパフォーマンスを可能にするような120%能力発揮モード、さらには火事場のくそ力のような驚異的な能力を発揮するモード、ブッダが到達したような悟りのモードといった、様々な脳のモードもあってもいいはずである。以前、このブログでも触れた瞑想は、デフォルト・モードではなく、瞑想モードと呼ぶべき特別なモードなのであろう。そして、瞑想によって脳の様々な領域をつなぐハブの機能を有する島の容積が増え、脳の各領域をコネクトする機能が高まり、瞑想はDMNから脳のいろんなモードへのスムーズな移行を可能にしてくれるトレーニングになるのであろう。瞑想は今までにない能力を発揮できるモードに自分自身を導いてくれるかもしれない。
 そして、最近、インターネット依存においては、DMNは健常時のDMNとは異なるパターンになっているのだと分かったのであった。


 では、インターネット依存モード(インターネットのオンライン・ゲーム嗜癖者の安静閉眼時のfMRI所見)は、どのようになっていたのかというと(被験者の設定や解析手法は省略する)、

 脳を39の領域に分け解析したが、各領域間の接続の中で59の接続の低下を認めた。その内訳は、前頭葉・頭頂葉・側頭葉の相互の間の接続の低下を認めた。後頭葉は影響を受けなかった。さらに、前頭葉と皮質下(海馬、基底核の中でも被殻と淡蒼球)、頭頂葉と皮質下との間の著明な接続低下を認めた。皮質下の部位の中でも扁桃体と尾状核は影響を受けなかった。前頭葉・頭頂葉・側頭葉と島の間は接続の低下を認めた。後頭葉と島、皮質下と島の接続は影響は受けなかったということであった(下図にまとめて示されている)。

DMNインターネット1
 









 これらの所見は、皮質下は脳内の重要なネットワークの中継拠点であり、インターネット依存は脳内のネットワーク障害であることを示唆する。薬物依存ではその薬物によってDMNは修飾されてしまうが、インターネット依存では薬物には修飾されていないため、皮質⇔皮質下のネットワーク障害という所見は嗜癖障害の共通したDMNの基礎的な所見なのかもしれない。影響を受けた59の接続は、25は大脳半球間の接続(ロングな接続)、34は同じ大脳半球内の接続(ショートな接続)であった。左右の大脳半球の間のロングな接続まで影響を受けているのである。この半球間のロングな接続障害はコカイン中毒でも見られる所見である。さらに、前頭葉⇔頭頂葉の間の接続障害はコカイン中毒やヘロイン中毒でも示された所見である。前頭葉⇔頭頂葉の間の接続障害は薬物依存における認知制御ネットワークの障害の中心的な構成要素かもしれない。要約すると、インターネット・オンランゲーム依存ではコカインなどの麻薬中毒と同じような接続障害を呈しているのである。

 なお、今回の接続障害の所見の中でも特徴的だったのは、被殻の関与であった。被殻はドーパミンによって機能が調整されており、別の論文で示されたインターネット中毒での線条体におけるドーパミントランスポーターの発現量の低下、すなわち、シナプス間隙のドーパミンの増加という所見が得られている(注;被殻+尾状核を線条体と呼ぶ)。これらの所見をまとめると、インターネット・オンラインゲーム中毒によって報酬系が常に賦活されており、安静閉眼時でも前頭葉(人間としての意志)の制御を被殻や淡蒼球が既に受けつけなくなっていることを意味するのであろうか。インターネット・オンランゲーム依存では自分の意志では制御困難なドーパミン系を介した報酬系の異常まで生じており、インターネット依存は薬物依存と同じ状態になっていると言えよう。

 そして、逆に言えば、影響を受けなかった領域間の接続が優位に活動していることを意味するのだろうか。すなわち、インターネット・オンランゲーム依存では、後頭葉⇔皮質下、後頭葉⇔島 島⇔皮質下の接続が安静閉眼時に優位に活動しているのかもしれない。

 これは何を意味する所見なのであろうか。そして、この接続障害には、どう対処していけばいいのであろうか。

 ここで、私も1例だけではあるが、インターネット・オンランゲーム依存の入院症例を担当したことがある。今回提示した論文の被験者は青年のみであったが、私が担当したのは青年ではなく、既に中年の40代の男性という珍しい年齢だった(彼がはまったゲームは「リネージュ」というオンラインゲームであった)。入院前にもインターネット・オンランゲームを1週間以上やり続け店員に衰弱した姿で発見されたという過去がある。まさにネトゲ廃人と呼べるような状況である。そういった過去があるため、ボランティアの保護司(弁護士)が付いて注意して観察していたのだが、再びネットカフェに行き長時間インターネット・オンランゲームをし続け不審に思った店員によって衰弱された状態で発見された。無銭での利用だったため、有罪になるところだったのだが保護司が料金を立て替えた。もはやネットカフェができる環境から物理的に遠ざけないといけないと判断されて入院になったのであった(当然、本人が自ら同意しての任意入院である。)。次に同じようなことをすれば刑務所行きである。

 場末のP科病院にようこそおいで下さいました。この病院から再出発して社会復帰をして頂きます。 

 彼は、入院中の様子は全く健常な人に見えた。しかし、彼が言うには、常に、頭の中でゲームの場面が再生でき、頭の中で自由に設定を変えてオンラインゲームをすることができるようになってしまっているのだという。しかも、自分の意志に反して常にゲームをしているような状態であり、一見、何もしていない時でも、主治医と話をしている時でも、ゲームの場面が勝手に再生されてしまうらしい。しかし、その頭の中のゲームではもの足らない。本物とはやはり違う。ゲームをしている時の喜びは全く感じないのだという。そのため、常に、本物のオンラインゲームをしたいという衝動や渇望に駆られてしまい苦痛なのだということであった。しかも、他のことをしようとするとなぜかブレーキがかかってしまいスムーズにできないということであった。

 今思えば、彼のDMNの脳の状態はインターネット・オンランゲーム依存の論文で得られたようなDMNの所見そのものであったように思える。後頭葉という視覚イメージを司る領域と他の領域(皮質下など)との接続が強化されてしまっており(その反面、前頭葉・頭頂葉・皮質下の接続性は低下している)、脳内で勝手にオンラインのゲーム場面という視覚情報処理が意志に反して常に自動で反芻されて行われているのであろう。しかも他のタスクへ移行する際のDMNの抑制が減少しており、それが他のタスクへ移行する際のブレーキとして自覚されていたのだろう。

 その後、彼と相談して、意志に反して勝手にゲームの場面が脳内で再生されないようになればゲームへの渇望は抑えられるかもしれないということで薬物療法を試みることになったのだが(レクサプロという即効性のあるSSRIをトライしてみたが)、SSRIにてゲーム場面はいったんはかなり再生されなくなった。しかし、残念なことに、SSRIによりセロトニン症候群が出てしまいレクサプロを中断した。他のSSRIを試したが同様にセロトニン症候群が出た。非定型抗精神病薬を試したが効果はなかった。薬物療法は困難であると思えた。

 結局、彼はどうなったのかというと、退院して薬物療法には頼らずに保護司が運営する社会復帰農園で農作業をしながらインターネットゲームから遠ざかった生活を送り様子をみることになったのである(近くにネットカフェなどは全くないような田舎の環境である)。そして、1年以上が経過したが、インターネット・オンランゲーム依存からは何とか抜け出せたようだと保護司から彼の近況を聞くことができたのであった。

 おそらく、農作業という別のタスクのモードを強化していったことが、異常なDMNのモードを健常なモードに変えていったのであろう。ある特定の作業を通じて他のタスクのモードを強化していくことで、疾患本来のDMNから抜け出し健常なDMNに近づけていく。まさに、これこそが、作業療法の治療効果の原点ではないのだろうか。

 インターネットをし過ぎたらDMNが変化していって固定してしまう。そうならないように、インターネットをし過ぎた後は別の作業をするのが良いだろう。特に瞑想は脳内のハブの機能を高め、いろんな脳のモードへのスムーズな移行を可能にしてくれる。インターネットのやり過ぎで故障し始めたDMNも健常のDMNに戻ることだろう。インターネットをやり過ぎた後は瞑想をして締めくくるのが良いと言えよう。

(瞑想のDMNへ及ぼす効果の記事と論文。↓)