前回のブログで妊娠中にインフルエンザに感染すると子の海馬の遺伝子発現が変化し、海馬の組織学的構造が障害されるという論文を紹介したが、今回は、そのような変化が、次の段階として、どのように統合失調症へと発展していくかという1つの仮説を提示した論文があるので紹介したい。

 結論から述べると、海馬に生じた変化に、ストレスなどのエピジェネティックな要因が加わると、海馬におけるグルタミン酸神経伝達の過剰が生じ、それが統合失調症の発症に結びつくことになるという仮説(グルタミン仮説の1つの形)である。

すなわち、

(A) インフルエンザ感染によって母体がサイトカインを産生する。このサイトカインが胎盤を障害し、さらに、子の遺伝子発現にも悪影響を及ぼし、正常な海馬の組織構造が構築されなくなる。
(CA1や歯状回における海馬ニューロンの組織構造の変化。妊娠中のインフルエンザ感染によって海馬における神経発達が確実に障害される。↓)。
http://www.jneurosci.org/content/32/12/3958.full

(B) この結果、海馬では(前頭前皮質でも同様な現象が生じるようなのだが)、神経細胞数の減少をきたす。(→マクロ的には海馬容積の減少という形で表現される)。特に、パルブアルブミン陽性(PV)ニューロンGABA作動性の抑制系の介在ニューロンの細胞数が減少する。そのためGABA作動性ネットワークの形成不全をきたす。GABAはグルタミン酸系の興奮性の神経伝達システムに介入し、介在ニューロンとしてグルタミン作動神経と接続し抑制するようなフィードバックループを形成し、広範囲な脳におけるグルタミン酸系機能の微調整をしている。このGABA介在ニューロンは神経活動の同調性を維持する上で重要な役割を果たしている。しかし、インフルエンザ感染の影響によって、このGABA介在ニューロンによるフィードバック調節システムが十分に発達しなくなる。このためGABA/グルタミン酸神経伝達の不均衡な状態となる。

GABA-iterneuron-SZ












 この状況は、GABA介在ニューロンによる抑制がかからなくなるため、グルタミン作動性の興奮性出力が過剰な状態になり易い状況となっている。これは、下流に位置する腹側被蓋野(VTA)のドーパミン作動性神経を介し、線状体のドーパミンが容易に増加されてしまうことを意味する。さらに、NMDA受容体の機能不全も関与し、GABA作動性神経上に存在するMNDA受容体の機能が低下(減少?)しているため、ますますGABA介在ニューロンからのフィードバック機能を低下させてしまうという事態を招くことになる。前回のブログで触れたように、ラットの母体へのインフルエンザの感染実験結果では海馬などのGABA受容体のmRNAの発現が低下しているため、グルタミン酸作動神経上に存在するGABA受容体の数も低下している可能性がある。(上図を参照)

NMDAhypofunction






















(C) さらに、母体がストレスへの反応として産生したグルココルチコイドによる影響で胎児の海馬のグルココルチコイド受容体の発現抑制も加わる。この現象によって、生まれた子は視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸のストレス反応に対する抑制性のフィードバックがかかりにくくなり、ストレスなどのエピジェネティックな要因に脆弱となっている。
http://www.nature.com/npp/journal/v35/n8/full/npp201031a.html
SZ-GR
















 強いストレス状況下ではグルタミン酸興奮性神経伝達が過剰となり、健常ならばネガティブフィードバックがかかるが、HPA軸へのネガティブフィードバックがかかりにくいことも災いして、だんだんとグルタミン酸興奮性神経伝達の過剰が極限に達していく。

(D) グルタミン酸興奮性神経伝達がある閾値を超えると、統合失調症の症状を呈するレベルのドーパミン神経伝達の過剰が始まり、これは不可逆的な神経細胞死を招く現象となる。

(A)→(B)→(C)→(D)という仮説である。

 この一連の流れからは、(B)の段階であるグルタミン酸神経伝達の亢進を抑制することで統合失調症の発病予防が可能になるものと思われる。今回の論文はこの点に触れた注目すべき論文である。


統合失調症のリスクを有する個人への予防的なメカニズムのアプローチ
「A Mechanistic Approach to Preventing Schizophrenia in At-Risk Individuals」
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23583102
(全文のPDF) 

序文

 Schobelらは 2013年の雑誌「Neuron」で発表した論文で 、統合失調症(SZ)を発症する高いリスクのある人においては、過剰な海馬のグルタミン酸が精神病への変化を引き起こすかもしれないと報告した。 それらのデータには、予防戦略の意味が含まれており、なぜストレスが統合失調症への変化を促進させるさせるかの理由が述べられている。

 (ここで補足しておくと、このSchobelらの論文の要旨は次の通りである。統合失調症のat-riskにある若い25人の経過を追った。統合失調症を発病した患者のケースでは、海馬のCA1領域から細胞外のグルタミン酸の増加が始まり鉤状回へと拡大した。その後、海馬は萎縮し始めた。ベースラインでのグルタミン酸の代謝亢進は、CA1領域において最も顕著であり、精神病へと進行と海馬の萎縮を予測可能にする所見であった。そこで、海馬のグルタミン酸の増加が海馬の変化につながったかどうかを確認するために、マウスでケタミンとを使用して統合失調症のモデルを作成した。マウスのグルタミン酸の活性を増加させたときに、研究者は患者と同じパターンを海馬で見出した。すなわち、海馬のグルタミン酸の代謝亢進が繰り返しなされ代謝亢進が基底の状態となった時に、介在ニューロンであるパルブアルブミン発現ニューロン(=GABA作動性ニューロン)における萎縮が同時に始まり海馬は萎縮し始めた。この論文は海馬におけるグルタミン酸の増加が統合失調症のドライバーとなることを証明した論文である。

本文

 遺伝子、脳イメージング、死後組織の分子生物学的分析の近年の進歩は、統合失調症(SZ)の原因と病態生理に関連した身体の情報の多くを得ることに貢献した。しかし、情報は知識に過ぎず、この蓄積された情報と共に、私たちは統合失調症の遺伝子と非遺伝子的な要因が多く存在し複雑であることに熟考しなければならなくなった。我々は SZに関しては楽観視ができなくなり、SZの治療を見つけることができると思うことや、これまでの抗精神病薬よりももっと効果的なものを提供できると思うことが、だんだんとできなくなってきている。さらに、SZはパーキンソン病やアルツハイマー病といった他の脳疾患と似ており、SZの行動異常などの症状自体が中枢神経における不可逆的なダメージの存在を意味しているのではと考えざるを得なくなってきている。この疾患の予後を改善するための最良の選択枝の1つは疾患への進行(発病)を防ぐことである。

  この10年間で、統合失調症の臨床フィールドは、メルボルン大学のMcGorryとYung、イエール大学のMcGlashanとMillerらによる業績によって、精神病を発病する可能性が高いと想定されるSZの前駆期にある個人(at-riskな個人)を同定する方向に進歩した。この業績の大きな意義は、個々のSZの臨床的帰結を同定することで、精神病の危険因子を同定することができるようになることである。危険因子の同定は、at-riskにある個人にマルチモーダルな非侵襲的方法を使用することで、精神病の前段階や移行時期における脳に生じている変化の特徴を明らかにし、適切な動物モデルを使用して背後に潜んでいる生物学な機序を明らかにすることで可能となる。安全に、かつ、効果的に、精神病を発症しつつある個人に予防介入するためには、発病のメカニズムに関する知識が必要である。

 Schobelら(2013年)が雑誌「ニューロン」で発表した論文は、統合失調症の介入への戦略に焦点をあてたニューウェーブな研究として注目したい。at-riskな個人では、精神病を発病しつつある時期に、海馬の代謝亢進と海馬の萎縮が存在するという、空間と時間における一致したパターンがSchobelらの縦断的な研究によって同定された。著者らは、海馬で同じような破綻のパターンを示す動物モデルを作成し、代謝亢進から萎縮という進行につながるグルタミン酸の利用亢進という精神病に関連した潜在的なメカニズムを同定した。これらのデータからは、グルタミン酸を減少させるような介入が、統合失調症のat-riskにある個人の精神病への移行を防止できるかもしれない

 さらに、Schobelらによる臨床調査の結果(2013)は、海馬と線状体との神経リンクが線条体のドーパミンを上昇させ、SZの前駆症状のサインや精神病への移行につながるというSZの発症メカニズムの洞察につながる。Stoneら(2010年)は、SZのハイリスクな個体における海馬のグルタミン酸レベルの上昇や線条体のドーパミンレベルの上昇を報告した。Schobelらによる発見(2013年)は、海馬のグルタミン酸の上昇と局所的な海馬の相対的な萎縮があれば、精神病への移行につながるドーパミンの異常を引き起こす可能性があることを示唆している。動物モデルと人間の死後の研究から、統合失調症の病態生理変化として、皮質や海馬におけるグルタミン酸が長期間にわたり過剰になっていることが示された。シナプスにおけるグルタミン酸の機能亢進という概念は、グルタミン酸神経伝達や統合失調症におけるこれまでの伝統的な見地に反するような考えではあるが、多くの臨床所見に一致するため、そのメカニズムは受け入れられるようになった。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20638047 

 理論的には、グルタミン酸の機能亢進は、疾患の原因となる遺伝子が様々に異なっていても共通の経路として存在することができ、皮質や海馬の萎縮を招くアポトーシスを含む神経毒性のプロセスにも一致する。メカニズムの見地からは、グルタミン酸の過剰は、GABA介在ニューロンの機能低下に対する適応的な変化であるというSZの死後脳で観察されたような他の病態生理所見や、ドーパミン・ニューロンは海馬や皮質のグルタミン酸神経からの投射を受けているためドーパミン神経伝達の亢進という事象が生じるのだと説明する上で役に立つ。これらの所見に基づいて、調節的なメカニズムを介しての、例えば、グループⅡ代謝型グルタミン受容体(mGlu2)のアゴニストのようなものを介して統合失調症のグルタミン酸神経伝達を減少させるという試みは今後10年間における重要な課題になろう。

 グルタミン酸の機能亢進を減少させるというアプローチは、慢性的な状態にある精神病の患者を治療する上では長期間の有効性はないかもしれないが、Schobelらの研究は、SZのハイリスクにある個人への予防的なアプローチとしては有益であるかもしれないと示唆する。グルタミン酸の過剰は at-riskの個体の病因になるかもしれないし、なぜ最初の精神病のエピソードがストレスへの反応として表現され易いのかを説明できるメカニズムを提供できるかもしれない。海馬や前頭前皮質の細胞外のグルタミン酸のレベルはストレスに対して敏感である。健常な状態では、ストレスによって引き起こされたグルタミン酸は、数分以内にシナプス間隙から取り除かれる
(さらに、健常者では海馬のグルタミン酸と線状体でのドーパミン再取り込みには相関関係が認められなかったが、at-riskな被験者では負の相関関係を認めた。すなわち、at-riskな個体では、グルタミン酸が増えるとシナプス間隙のドーパミンが容易に過剰になる可能性が高い。)

 しかし、もし、統合失調症への遺伝子的な疾病素因が細胞外液のグルタミン酸の濃度を増加させることによって、亢進したグルタミン酸神経伝達のトーンを伝達するのであれば、ストレスへの暴露やグルタミン酸の増加は ある閾値を超えた場合は、興奮性細胞死という結果につながることになろう。グルタミン酸作動性神経とストレスとのリンクは、予防介入としての非薬理学なアプローチに真剣に取り組まねばならないことを示唆する(下図)。
Glutamate













 認知トレーニングが早期の段階で試みられるようになったが(Addington and Heinssen、2012年)、ストレスへの反応性や不安を軽減させるような、認知トレーニングよりももっと効果的で包括的なアプローチが早期の時期に意図されねばならない。前駆期におけるグルタミン酸の過剰は酸化ストレスや神経の炎症に結びつく(Kaur and Cadenhead、 2010年)。炎症に関連したメカニズムをターゲットとした対処方法、例えば、食事によるω3脂肪酸の摂取は、毎日持続して摂取されることはないし、慢性期における治療的な効果はないのかもしれないが、at-riskな個人が精神病に移行することを減少させる上で予防的な効果はあるように思える。
(Kaur and Cadenheadの論文↓)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3136161/ 

 一方、通常の抗精神病薬による対処方法では、at-riskな個人が精神病に移行することを予防する効果はないように思える。ケタミンにて誘発されたグルタミン酸放出の動物モデルでは、前駆期のような海馬における代謝亢進を誘導したが、抗精神病薬ではこの現象に拮抗する効果がなかったことは予想された通りであった。同じ動物モデルにおいて、クロザピンを含む抗精神病薬はグルタミン酸の放出増加を逆転させる効果はないことが分かった。さらに、抗精神病薬は細胞外のグルタミン酸を増加させうることが分かっている (Daly and Moghaddam, 1993年)。はっきり言えば、慢性期にある患者への抗精神病薬の使用はグルタミン酸の放出という有害な事象には影響を及ぼさないように思えるが、Schobelらは(2013年)、グルタミン酸の過剰が疾患へと導くことを示し、抗精神病薬の使用が逆に発症を加速させてしまうことになるため、前駆期での抗精神病薬の使用は避けるべきであると結論づけた。

 予防戦略は今や統合失調症治療の大きな分野となっている。予防には神経学的見地も含まれる。統合失調症もアルツハイマー病のような脳疾患であり、推奨されうる食事やライフスタイルが疾患の予防を可能にし、疾患の進行を減少させるであろうという考えが主流になってきている。SZへの移行のハイリスクにある個人の早期の同定は、統合失調症の予防的対策を確実に前進させるであろう。これまでの研究によって、前駆期や初回のエピソード中にある患者は慢性期の患者とは病態生理が異なることが示され (Kaur and Cadenhead, 2010年)、従来の抗精神病薬を使用した早期の介入は効果がないどころか、逆に結果を悪くさせるだけであろう。このことは、Schobelらが試みたように縦断的にメカニズム的に変換されねばならない。特に、SZのハイリスクにある個人の精神病を予防する戦略のデザインに生かされることが重要である。

(論文終わり)

 なお、前回のインフルエンザ感染症に関するブログで触れたように、インフルエンザ感染症(母体が産生するサイトカイン)によって子の海馬におけるGABA受容体遺伝子の発現自体が阻害されることは確実である。海馬のGABA受容体遺伝子の発現低下は介在ニューロンの細胞数の低下を強く意味する所見かもしれない。

 一方、海馬だけでなくmPFCなどの前頭前皮質のグルタミン酸(代謝型グルタミン酸受容体mGluRsを含む)もVTAを経由して線状体のドーパミン神経とリンクしており、前頭前皮質のグルタミン酸とSZとの関連性が海馬同様に指摘されている。前頭前皮質においても海馬と同様に、グルタミン酸作動性神経の活動が線状体のドーパミンを増加させ、介在ニューロンであるPV(GABA作動性)ニューロンの活動がドーパミンを減少させる重要な機能を有するようである。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3090452/ 

DLPFC
















 いずれにせよ、脳内のグルタミン酸の増加を抑え、GABAの低下を防ぐことがSZの発症予防では重要な鍵となるものと思われる。下の図は簡略化した図ではあるが、この図を見ればGABAとグルタミン酸とドーパミンの関係が理解し易いであろう(実際には、GABA介在ニューロンは、もっと複雑な神経回路網を形成しており、視床などからの投射も加わり、さらに、グルタミン酸受容体は多くの種類に分かれ、関与する神経伝達物質もGABAやグルタミン酸以外にも、カンナビノイド{シナプス前部神経終末に存在するCB1受容体}、グルココルチコイド、CCK、アセチルコリン、オピオイドなども関与しており、その全容はまだ殆ど分かってはいないのが現状である。)
http://www.jneurosci.org/content/25/42/9782.full
http://www.nature.com/npp/journal/v35/n8/full/npp201031a.html 
 このような一連の所見からは、グルタミン酸神経伝達系に作用する新しい薬剤の発売が待たれるのではあるが、現在、グルタミン酸神経伝達系に作用する何種類かの薬剤が開発・治験中である。

 イーライ・リリー社のLY2140023が有名であるが、論文で発表されたフェーズ2の治験結果は芳しくなかったようだ。しかし、現在フェーズ3にまで突入しており、最終段階までにこぎつけて発売に至ることを期待したい。

 一方、イーライ・リリー社は苦戦しているようであるが、ロッシュ社が治験中のグリシントランスポーター阻害剤(RG1678)は治験が順調に進んでいるようであり、このまま順調に治験が進めば2015年頃に発売される予定である。

 なお、グルタミン酸受容体やグルタミン酸神経伝達系をターゲットにした新しい抗精神病薬に関するレビューは下の論文が詳しい。興味がある方は一読されたし。一読する価値はあるレビューである。
glutamate-Rs














 さらに、DNA脱メチル化を誘導するようなヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害作用を有するバルプロ酸のような薬剤も、GABA作動性遺伝子のプロモーター部位のメチル化を減少させることができるため、統合失調症へのat-riskなケースだけでなく、双極性障害へのat-riskなケースにも予防効果が期待できる薬剤になる可能性があることを付け加えておく。

 以前のブログで述べたように、ω3脂肪酸リチウムは既にSZのハイリスクにある個人への予防効果が示されている。重要なことは、第2世代も含めた抗精神病薬を発病していないケースに予防的な目的で投与しないことであろう。紹介された論文では、逆にSZへの発病が促進されてしまうという恐ろしい結果を招いてしまうだろうと警告されている。

 その他、SZのハイリスクの個人に発症予防効果が期待できる物質としては、グリシンが想定されているが、グリシンはBBBの通過性が悪く、大量に摂取しないと効果が発揮できないようである。味の素から休息を促進させるサプリメントとして「グリナ」というグリシン製剤が発売されているが、1包に含まれるグリシンは3gであり、効果の程はあるのだろうかと疑っている。
(統合失調症のNMDA機能障害仮説からみたグリシン治療の可能性についての解説。グリシンは1日15gから初めて最終的には1日に60gという大量投与での臨床試験が試みられている。)
(グリナのHP。値段が高いぞ。30本で6000円もする。もっと安くせよ。もっと1包の用量を増やすべきである。)

 私は、既に3年くらい前から統合失調症にも抑肝散をよく使用している。なぜならば、抑肝散は既にグルタミン酸の放出を抑制する作用があることが分かっているからである。悲しいことにグルタミン酸の放出を抑制する薬剤で使用できるものは抑肝散しかない。グルタミン酸の放出を抑制する目的で処方しようとなると漢方薬の抑肝散を使用せざるを得ない。私はもっぱら陽性症状がなかなか改善せず長期入院を余儀なくされているような薬剤抵抗性の統合失調のケースを対象に抑肝散を使用しているのではあるが、すぐには効果は出ないものの、じわじわと効果が発揮され、投与後2・3週頃からは効果が見られるようになり、最終的には幻覚・妄想も軽減し穏やかで安定した状態となる。抑肝散を併用使用した症例では、抗精神病薬を増量せずとも殆どのケースで効果が認められたように思える。効果発現までに1か月くらいを要する場合もあるため、入院期間が1か月以内に限定されてしまっているような精神科スーパー救急病棟では抑肝散が使用されることはないであろう(薬剤選択の上でも精神科スーパー救急病棟は無意味であることは言うまでもない。こんなシステムは早く廃止すべきである。)。抑肝散単独では効果は全くなく、あくまで併用使用をしなければならないのは当然であるが、しかし、抑肝散のグルタミン酸の放出を抑制する薬理作用からは、抑肝散の単独使用でも、発病には至っていない前駆期にある統合失調症のat-riskな個人への発症予防効果を示すのではと私は期待しているのであった。


 最後に、薬剤だけでは、SZにat-riskになっている個人の発症を予防するのは困難であり、ストレス防止などの環境要因への対策も必ず必要となろう。具体的にはどのような点に注意すればいいのであろうか・・・。

(次回に続く)

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