テロメア0










 今回はテロメアについての話である。

  2009年度のノーベル医学生理学賞テロメアを研究した3人の学者の授与された。今、多くの疾患や老化や寿命との関連においてテロメアが注目されてきている。

 ウィキペディアなどによれば、テロメアは真核生物の染色体の末端部にある構造であり(DNA配列は「TTAGGG」のタンデムリピートであることが分かっている)、テロメアはゲノムの損傷を保護するために存在し直鎖状染色体DNA末端をキャッピングしているDNA-タンパク質複合体である。テロメアは、染色体末端を保護する役目を持ち、細胞分裂における染色体の正常な分配に必要とされる。テロメアの伸長はテロメラーゼと呼ばれる酵素によって行われる。従って、この酵素がない細胞では、細胞分裂のたびにテロメアが短くなっていく。さらに、テロメラーゼは人の体細胞では発現していないか、弱い活性しかもたない(唯一の例外は精子を作る精巣であり、テロメラーゼの活性が十分に保たれている)。人では細胞が分裂するたびにテロメアの末端から30~200塩基対(bp)が失われていく。そのため、テロメアの長さは、出生時には8,000bpであるが、高齢になると1500bpまで短くなってしまう(染色体全体の長さは約1億5000万bp)。テロメアが一定の長さより短くなると不可逆的に増殖を止め、細胞老化と呼ばれる状態になる。テロメアの短縮による細胞の老化が、個体の老化の原因となることが示唆されている。なお、体細胞を取り出して培養すると、テロメアの短縮が起こる。そのため、クローン羊ではテロメアが短かったことが報告されている(→クローン生物は短命に終わる)。
テロメア1テロメア2




































 すなわち、テロメアの短さは老化を反映しており、暦年齢ではなく生物学的年齢として、残りの寿命を予想するマーカーとなり得るものだと言えよう。
(鳥類では短いテロメアは1年以内の死を意味する)
(鳥類ではテロメアの長さによって残りの寿命が予測できる)

  なお、テロメアの短縮がどのように細胞の老化につながるかの分子メカニズムとしては、ミトコンドリアの酸化ストレスなどが関係していることが分かってきている。すなわち、p53の活性化を介して、p53がPPARγコアクチベーターであるPGC1αとPGC1β遺伝子のプロモーター領域に結合し、PGC1AとPGC1Bの発現が抑制され、その結果、PGCネットワークが阻害され、ミトコンドリアの機能不全(ATPの産生が減少など)を来たし、活性酸素種(ROS)が増加し、酸化ストレスへの防御ができなくなり、アポトーシスに導びかれてしまうといった経路が明らかになってきている(下図)。他のメカニズムも絡んでいるのだろうが、テロメアの短縮はとにかく酸化ストレスと強く関連しているようだ。詳細は以下のレビューを参考して頂きたい。
テロメア3









 
 一方、精神医学の領域でもテロメアの長さが調べられており、精神疾患、心理状態、ストレスになどに影響されてテロメアが短くなっていることが分かってきている。私がなぜテロメアに注目しているのかというと、テロメアの長さは精神疾患を評価する上でのバイオマーカーになる可能性があるからである。精神科領域では良いバイオマーカーが殆どない。糖尿病におけるHbA1cのように、特に、酸化ストレスが関与しているような精神疾患では酸化ストレスの病態(程度や持続の有無など)を反映するバイオマーカーになり得るかもしれないと思っている。テロメアの長さを調べる際に用いるPCR用のプライマーは既に確立している。後は、健常者の年齢に応じた基準値が統一して定まれば実際の臨床に導入することができよう。なお、喫煙者ではテロメアが短くなっており、喫煙者が多い精神疾患の患者では喫煙の影響を常に考慮しておく必要がある。
(テロメアの長さは慢性的な酸化ストレスや炎症のバイオマーカーとなりうる。)
  
 今回は、テロメアが短くなっていると報告されている精神疾患、心理状態、ライフスタイル、などについて解説を試みたい。どのように生活していくかによってテロメアの長さは左右され、短くもなるし長くもなろう。あなたの心の在り方によって残りの寿命は決まるのかもしれない。
 
うつ病

 まず、テロメアが短縮する精神疾患としては「うつ病」がよく知られている。「うつ病」では慢性的なストレスへの累積曝露に関連して、時間の経過とともに白血球のテロメアが短くなる。テロメアが短くなる生物学的な背景にはDNAの損傷という「うつ病」の病態を反映する炎症や酸化ストレスが関連していると推測されている(炎症や酸化ストレスはDNAに損傷を与える)。コルチゾールの高さやHPA軸の機能不全もテロメラーゼ活性を阻害するようだ。人ではテロメアの長さが変化するには数ヵ月~数年を要する。「うつ病」では「うつ病」を発症する相当前から酸化ストレスという現象が既に始まっているのであろうか。
 
 さらに、「うつ状態」が長く続けばそれだけ老化が促進されてしまう可能性が高くなる。この表(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3649747/table/tab1/)は「大うつ病」におけるテロメアの短縮を調べた研究の所見をまとめたものであるが、テロメアの短縮度合から「うつ病」では2年~10年分の老化が促進されているという結果が得られている(うつ病の異質性や罹患期間などが老化の度合のばらつきに関連しているのだろうが)。また、テロメア短縮の度合いと「うつ症状の強さ」との相関が示されている。
慢性うつ病はテロメアの短縮も含めて脳の老化のモデルになるかもしれない。↓)
 
 では、抗うつ剤によって「うつ病」が改善すれば短くなったテロメアの長さは元に戻るのであろうか。抗うつ剤などの治療によって「うつ症状」が改善してもテロメアの長さは元には戻らないという論文もあるが(酸化ストレスを除去しない限りテロメアは回復しないのかもしれないが)、

 一方で、抗うつ剤によってテロメラーゼ活性が回復したというデータも当然ある(セルトラリンなどで示されており、抗うつ剤によるテロメラーゼ活性の回復が治療への反応の予測因子になるかもしれない。↓)。なお、未治療のうつ病では海馬の萎縮とテロメラーゼ活性の低下との関連が示されており、「うつ病」が遷延すればアルツハイマー病に通常よりも早く移行していく懸念がある
 
 なお、「うつ病」とテロメアの短縮との関連を否定する研究結果もあることを付け加えておく。

認知症

 当然、加齢という老化現象が関連する代表的な疾患である認知症とテロメアの短さとの関連性が指摘されている。アルツハイマー病だけでなく、脳血管性認知症レビー小体型認知症でもテロメアの短縮という現象が見い出されている。テロメアが短い人は認知症への移行を心配せねばならないと言えるだろう(テロメアの短さと海馬容積の減少が相関しており、そういった現象も関連しているのだろう)。認知症の場合もフリーラジカルなどによる酸化ストレスによるDNAの損傷が関係していると想定されており、抗酸化剤やビタミンCやビタミンEがテロメアの短縮を防止してくれる可能性がある。加齢によるメラトニンの分泌低下もテロメアの短縮と関係があるようである(関連ブログ2013年9月16日)。中年期以降ではメラトニンの内服がテロメアの短縮を防止し認知症になることを防いでくれるのかもしれない。
(出版されたばかりの論文。長いPDF文書ではあるが、メラトニンの抗酸化作用とテロメアについてが44~45ページ付近に述べられている。↓)

 これとは逆に短いテロメアはアルツハイマー病とは関連付けられていないという研究報告もある。認知症も異質性が高い疾患であり、まだ統一した見解は得られないのかもしれない。

PTSDや不安障害などのストレス関連疾患

 PTSD、不安障害、高所恐怖症、DV、虐待、脅威などの心理的なストレスに関連する精神疾患でもテロメアが短くなることが示されている。PTSDでは5年分ほどテロメアの長さが短縮するようだ。そして、PTSDでのテロメアの短縮はうつ状態の有無とは関係がないことが分かっている。暴力などの虐待を受けた子供もテロメアの短縮が見い出されている。子供ですらテロメアが短くなって命を縮めてしまうのである。さらに、単なる心理的なストレスでもテロメアが短くなっていき、老化を早めてしまうことになる。例えば、高齢者や家族への介護によるストレスでもテロメアが短くなることが示されている。認知症の親の介護をしていてストレスを強く感じている方々は、親への介護はほどほどにして早く施設に入ってもらう方が、自身の老化を防ぐためにはその方がいいのかもしれない。認知症になった親の面倒を看ている間に自分も早く老化して早く認知症になっていくのでは意味がない。テロメアが短くなるメカニズムとしては、うつ病と同様に、PTSDなどのストレス関連障害でもHypocortisolism(=HPA軸の機能不全)や酸化ストレス、炎症などがテロメアの短縮に関係しているものと推測されている。

統合失調症

 統合失調症でもテロメアの短縮が報告されている。さらに、抗精神病薬がまだ投与されていないnaiveなケースでもテロメアの短縮が見い出されている。この所見は、統合失調症と統合失調症との関連性の高さが指摘されている身体疾患(糖尿病などの代謝性障害、心血管障害)との共通する病態メカニズム(酸化ストレスなど)が絡んでいるのではと推測されている。

 しかし、最近、これまでとは全く逆の結果を報告する論文が出ている。統合失調症では白血球のテロメアが長いケースがあり、それは、海馬容積の減少と相関していたというのである。フリーアクセスの論文ではなく本文を見れないので、どのように考察をしているのかは分からないのではあるが、海馬における細胞分裂の履歴の少なさ(=それだけ海馬での神経新生が少ないのか)や抗精神病薬の影響なども関係しているのかもしれない。同様の所見がAPOEε4アレルを持つ非認知症の被験者でも得られており、免疫系の現象が関与しているのではと推測されている。テロメアは短過ぎてもダメだし、長過ぎてもダメなのかもしれない(年齢相応よりも少し長めくらいがちょうど良いのかも)。
(女性では長すぎる白血球のテロメアは乳癌に関連している)

双極性障害

 双極性障害でもテロメアは調べられており、特にうつ病相を呈する場合はうつ病相の間にテロメアが短くなっていくようだ。
 
 しかし、最近、リチウムが投与されている双極性障害BPDにおいて、リチウムに反応するケースほどテロメアが長いことが報告されており、リチウムがテロメアの短縮に対して保護的な効果を発揮しているのではと推測されている。なお、テロメアが長いケースほどBPDのエピソードの回数が少なかったらしく、躁や軽躁のエピソードとテロメアの長さの変化は関連してはいないらしい。このリチウムのテロメアへの保護作用のメカニズムは、リチウムがβ-カテニンをリン酸化するGSK-3βを阻害することによってβ-カテニンの変性を防ぎ、テロメラーゼの触媒サブユニットであるhTERTの転写を抑制しているリプレッサーT細胞因子4(TCF4)をβ-カテニンが除去することでテロメラーゼ活性の低下を防いでいるのではと考えられている。リチウムに反応する双極性障害のケース(リチウムレスポンダー)での維持療法は、ジプレキサやエビリファイなどの抗精神病薬ではなく、リチウムが好ましいことがテロメアへの所見からも裏付けられたと言えよう。

 向精神薬全般とテロメアの関連を調べた論文もある。フィンランドの調査では精神疾患で向精神薬を使用している者ほどテロメアが長い傾向があったと報告されている。向精神薬によってテロメアの短縮が防止されているのだろうか。向精神薬を一色単に扱っている調査であるから何とも言えないのではあるが、ある種の向精神薬は酸化ストレスを緩和するため、そういった作用が関係しているのかもしれない。

仕事と関連したテロメアの短縮も報告されている。

 仕事による疲労の蓄積はテロメアの短縮を早めてしまう。フィンランドの調査ではあるが、仕事での消耗が激しい場合ほどテロメアの短縮と相関していることが見い出され、仕事での消耗が激しいと老化の速度を加速させてしまうと結論付けられている。老化を防ぐには休暇をしっかりと取るべきであろう。従業員に休憩時間や休暇をろくに与えないようなブラック企業には勤めるべきではない。ワタミでの過労死が大きな社会問題になったが、過労死した従業員の日記によれば、残業ばかりで夜も殆ど眠れず、仕事中の休憩時間も全くなかったようだ。しかし、会社として反省しているような声明はワタミからは一切なく、マスコミはもっとワタミを追及すべきであった。ワタミの社長は目立ちたがり屋で、東京都知事選に民主党推薦で立候補したかと思うと、今回は自民党に鞍替して参議院議員になったのだが、ころころと政党を変えるようなポリシーも何もない自己顕示でしかない行動のように思えた。今でも、自ら休憩時間を短縮して働くのがワタミの精神(社訓)のすばらしさだなどと社員にブログで書かせたりしている。最低の社訓じゃないか。そんな社訓は自慢にもならないぞ。健康を保つための休息や休憩の必要性を重視している医学の立場から言えば、あの人物は実にけしからん人物である。社員の寿命を縮めているだけはないか。私はとんでもない悪いやつだと思っている。

 さらに、夜勤やシフト勤務もテロメアを短くしていくことが報告されている(引用した論文は女性看護師のデータである)。背景には、夜勤やシフト勤務によって生じた睡眠障害や概日リズムの乱れが関連しており、メラトニンの分泌障害による酸化ストレスへの抵抗の低下の関与などが考えられている。夜勤やシフト勤務は、まさに命を削りながら勤務をしていることになる。既に長年夜の仕事をしており生活のリズムが確立しているような場合は除くが、老化を防ぐにはシフト勤務や夜勤は努めて避ける方が良いであろう。特に、壮年期以降はシフト勤務は絶対にやめるべきである。

 一方、公務員の男性でのデータであるが、睡眠不足でもテロメアは早く短くなっていくようであり、睡眠不足でのテロメアの短縮はうつ症状とは関連がなかった。特に5時間以下しか睡眠を取っていない場合はテロメアが6%も短くなるようである。老化を防ぐには最低でも6時間は睡眠を取った方が良いのだろう。なお、睡眠不足によるテロメアの短縮でも酸化ストレスが関与していると推測されている。睡眠時間を削ってまで残業しても老化が早くなるだけである。残業代を貰うよりも、睡眠時間を貰った方がいいのである。

女性でも、睡眠不足や睡眠の質の低下はテロメアの短縮を招くという報告がある。

 なお、紹介した2つの論文では眠剤の使用の有無は一切述べらておらず、テロメアの短縮を防ぐためには眠剤を使ってでも眠った方がいいのかは不明である。

テロメアの長さは心理状態にも左右される

 睡眠不足の際の男性公務員への調査と同じ被験者から得られたデータではあるが、テロメアの長さは心理状態にも左右されるようである。この調査では、他者への敵意(敵対心)hostilityや疑念suspiciousや不信感mistrustfulを抱く者ほどテロメアが短いことが示された。敵意を持ちながら腹黒く態度に出さないことはテロメアがもっと短くなるように私には思える。越後屋は長生きはできないのである。そうでないとおかしな世の中になる。これは自然の摂理として正しい現象だと思える。なお、この調査ではテロメラーゼ活性は逆に敵意を抱く者ほど高かった。これはテロメアが短くなったことへの代償的な反応ではないかと推測されている。テロメアが短くなるメカニズムとしては、敵対心と炎症やコルチゾールとの関連が想定されている。
 
 女性でのデータではあるが、悲観的な女性はテロメアが短くなることが示されている(男性も同様だろう)。悲観的に考える女性は白血球のテロメアが短くなるだけでなく、血中のインターロイキン6の値も高く、テロメアが短い白血球ほど前炎症サイトカインを多く放出するため、免疫系の老化を示す所見と考えられている。逆に、楽観的な女性はテロメアやインターロイキン6との関連性は示されなかった。くよくよと悲観的に否定的に物事を考えるマイナス思考の人は老化が早くなるのである。マイナス思考は「うつ病」における認知行動療法のターゲットでもあり(認知行動療法はひとことで言えばマイナス思考を修正する心理療法である)、悲観は心理だけでなく分子生物学的にも「うつ病」と共通するメカニズムが働いているのであろう。

 配偶者がいないこと(未婚、配偶者との離別、死別を含む)もテロメアを早く短くしてしまうようだ。40~64歳の成人の調査結果であるが、配偶者がいない場合は配偶者がいるケースよりもテロメアが短縮していた。論文では、一見すると配偶者がいる方が健康的なライフスタイルとなり易いことが関係してように思えるが、ライフスタイルを絡めた分析ではそういった要素は関係はないことが判明し、1人暮らしの孤独、社会的な孤立といった心理的な要因が関連し、孤独や社会的な孤立は酸化ストレスを強めてしまうのではと推測されている。老化を防ぐには独身でいるよりも早く家庭を持った方がいいと言える。

さらに、テロメアはライフスタイルにも影響されて短縮していくことが知られている。

 テロメアを短くしてしまうライフスタイルとしては、喫煙運動不足過体重(=大きいBMI)、アルコール、バターやチーズなどに多く含まれる短鎖~中鎖飽和脂肪酸SMSFAsの摂取量(閉経後の女性のデータ)、リノール酸の過剰摂取、ヘロインなどの薬物の乱用などが示されている。ひとことで言えば、常識で考えても分かるような不健康な生活習慣がテロメアを短縮させるのである。なお、妊娠中の母体が喫煙すると生まれてくる子のテロメアは短くなることが分かっている。妊娠中の喫煙は子供の寿命を縮めてしまうことになるのであった。

 最後に、感染症に罹患してもテロメアが短くなることが示されている(サイトメガロウイルスなど)。感染症に罹れば罹るほどストレスが蓄積していきテロメアは短くなっていくのかもしれない。感染症を防ぐことは老化を防ぐことにもなるのであろう(逆に、EBウイルスのようにテロメラーゼ活性がアップレギュレートする感染症もあるのだが、白血病などの血液やリンパ系の発癌につながるメカニズムなのかもしれない)。


 以上、テロメアが短くなる(=老化が早まる、寿命が縮まる)ことと関連付けられている事象について述べた。

 では、逆に、リチウムの内服のようにテロメアが短くなることを防いでくれることと関連しているような事象はないのであろうか・・・。

(次回に続く)
 
テロメアの短縮は最終的に発癌にもつながる(;゜Д゜)
テロメアの短縮と発癌1テロメアと発癌2