acune and depression

 TVを見ていると、テレビコマーシャルはプロバイオテイクス製品スキンケア製品のCMであふれている。一見して、この2つの製品の間には関係がないように思えるのだが、実は深い関係があるのであった。

 このブログでかって腸内細菌とメンタルヘルスの関連性について触れたが関連ブログ2013年11月8日、腸内細菌は脳だけでなく皮膚ともリンクしており、腸-脳-皮膚・軸(gut-brain-skin axis)といったコミュニケーションを介してお互いに影響し合っていることが最近明らかになってきている。にきびの治療はスキンケアだけでなく、腸内細菌やメンタルのケアもしておかないと十分に改善しない可能性があるのであった。
(腸-脳-皮膚・軸に関するレビュー。この論文は一読の価値あり。)
Gut-Brain-Skin Axis in Acne Vulgaris

 特に、にきびに悩まされている若者では、にきびとメンタルヘルスと腸内細菌との関連性にも注意しておく必要がある。腸内細菌-脳-皮膚・軸の影響であろうか、「にきび」はうつ病不安障害、身体醜形障害などにもリンクしており(下図のグラフを参照)、「にきび」で苦しんでいる患者では、うつ病の罹患率や自殺の発生率が高いことが多くの論文で指摘されている(特に、「にきび」で悩むティーンエイジャーの自殺には注意しなければならない)。難治性にきびの治療薬であるisotretinoin(国内未発売)がうつ病の併発を招くという指摘もなされており、国内では若者が個人輸入で使用しているケースがあり注意喚起が必要であろう。
(皮膚疾患における自殺の危険性に関する詳しいレビュー。特に、注意せねばならない皮膚疾患としては、にきび、アトピー性皮膚炎、乾癬である。一読の価値あり。)
にきびと不安とうつ

 さらに、にきびのせいで外見を気にし過ぎるようになるためであろうか、自尊心が低下し、水泳などの肌を露出するような行為を避けるということで行動範囲が狭くなり、引っ込み思案な性格となり、社会的に孤立し易くなる。といった心理面への悪影響も指摘されている。このような生活を続けていけば大人になった時の社会不安障害にも発展していく恐れがある。「にきび」で悩み続けることは、後の人生に大きなマイナスの影響を与える可能性がある。スキンケアでにきびが十分に改善しない場合は、プロバイオティクス製品の併用、心理面へのアプローチの併用(カウンセリング)、といった皮膚科以外の対応も必要になるのかもしれない。
(皮膚疾患への心理面へのアプローチの重要性。一読の価値あり。)

 一方、皮膚疾患は性格とも関連しており、特に、アトピー性皮膚炎の患者では独特のパーソナリティを有することがあり、不用意な発言をしないように注意する必要があると当院に非常勤で勤務している皮膚科医から聞いたことがある。論文を調べてみたところ、アトピー性皮膚炎の患者では、抑うつ傾向や不安傾向が強い、情緒不安定になり易い、自己効力感が低い、自尊心が低い、他者を批判し易い、何でも限度を超えてやり過ぎてしまう、ストレス耐性が低い、怒りや敵意といった他者へのネガティブな感情をうまく処理できないことが多い、等の傾向があると指摘されていた。アトピー性皮膚炎のせいで、幼児の頃から限定された生活を強いられて苦しみ続け、多大なストレスに晒され続けることが影響するのであろうか。それとも、炎症性サイトカインの中枢神経系への慢性的な影響なのであろうか。さらには、腸内細菌-脳-皮膚・軸の影響なのであろうか。皮膚疾患は性格にもマイナスの影響を及ぼすようである。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1440-0960.1990.tb00643.x/abstract

 なお、アトピー性皮膚炎においても、腸内細菌との関連性が以前から指摘されており、にきび同様に、プロバイオティクスの使用によって腸内細菌叢を整えておくことで、腸ー脳ー皮膚軸を介する皮膚への良い補助療法となり得るであろうと報告されている。

 さらに、にきびによってボディ・イメージも歪んでしまうようだ。女性だとボディ・イメージの歪みは摂食障害と関連するため、にきびで悩んだことがきっかけとなり、摂食障害へと発展してしまう恐れがある(私個人の実際の臨床経験からは、摂食障害の女性とにきびとの間に何らかの関連性があるように思える)。

 一方、不快な皮膚からの感覚刺激は人間の精神を蝕む。慢性的な皮膚疾患では皮膚からの持続する不快な刺激に中枢神経系が晒されており精神も蝕まれてしまう可能性がある。アトピー性皮膚炎や重度の尋常性ざ瘡(にきび)などの慢性的な皮膚疾患では、表皮のバリア機能が障害されているため、皮膚からの不快な刺激が常に中枢神経系を攻撃している可能性がある。その結果、覚醒度を高め、睡眠深度が低下し(ノルアドレナリン系の機能亢進)、慢性的な皮膚疾患を有する患者が多大なストレスを経験するとうつ病やPTSDになり易い恐れがあると言えよう。

skin barrier


 さらに、慢性的な皮膚疾患では、皮膚ー脳ー免疫系とのリンクによって、不快な皮膚刺激→中枢神経系への悪影響(HPA軸の障害)→免疫系の障害(炎症性サイトカインなどの増加)→皮膚におけるアレレギー反応や炎症性反応の増加→表皮のバリア機能の低下→不快な皮膚刺激といった悪循環が生じている。この悪循環はどこで断ち切ればいいのであろうか。しかも、腸内細菌叢が中枢神経系とリンクしており、腸内細菌叢の乱れが加われば、腸管からの炎症性サイトカインの増加も加わるため、悪循環はさらに加速することであろう。逆に、腸内細菌叢の乱れがきっかけで、この皮膚ー脳ー免疫系といった悪循環が始まることも十分に考えられうる。
(皮膚ー脳ー免疫系に関するレビュー。この論文も一読の価値あり。)

 皮膚ー脳ー腸内細菌ー免疫との関連では、ストレスによってにきびが悪化することが良く知れらている。ストレスによって皮脂が増えることが想定されたが、調査したところストレスによって皮脂は増える訳ではないことが分かり、ストレスとにきびの因果関係のメカニズムはまだ解明されてはいない。ストレスによるにきびの増悪は、皮膚ー脳ー腸内細菌叢ー免疫・軸を介した複合的なメカニズムによる現象なのかもしれない。
(ストレスとにきびとの関連性)
(注; ストレスで悪化する皮膚疾患は、にきびや酒さ以外にも、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、結節性紅斑、多汗症、神経症掻破、貨幣状皮膚炎、掻痒症、乾癬、脂漏性皮膚炎、トリコチロマニア、蕁麻疹などがある)
にきびとストレス

 結局、にきびを完全に制圧するには、この悪循環を断ち切る必要があるのだが、はたして皮膚のみへのアプローチだけでこの悪循環を断ち切ることができるのであろうか。プロアクティブやファンケルなどでスキンケアをいくら施してもにきびが改善しない場合は、皮膚ー脳ー腸内細菌ー免疫系の悪循環に陥っている可能性があり、同時に中枢神経系(心理面へのアプローチ、ストレスマネージメント、抗うつ剤、等)や腸内細菌叢(プロバイオティクス)にも働きかけていかねばならないのかもしれない。SSRIなどの抗うつ剤によって、慢性掻痒症の患者の精神的苦痛、掻痒感、引っかき傷が著明に低下したという報告があることなどにも注目しつつ、慢性的な皮膚疾患ではメンタルや腸内細菌への対応も施しておく必要があると言えよう。レジリアンスを高めておくことも、にきびやアトピー性皮膚炎といった慢性皮膚疾患を克服する上で役に立つかもしれない。

 このように、皮膚と精神(脳)は大きく関係しており、皮膚疾患におけるメンタルな面への影響を研究している学者がおり、Psychodermatology(精神皮膚科学)という名のもとに研究が行われている。

 今回は精神皮膚科学に関連した内容である。精神皮膚科学に関する手頃なレビューはないかと探したところ、昨年度に出されたざ瘡(にきび)や酒さと腸内細菌とメンタルヘルスに関する小さなレビューがあったのでその論文を紹介したい。

にきびの重症化
酒さ

 なお、今回の論文は精神科との関係性は殆どないのかもしれない。しかし、何せこの論文の著者はモデルかと見間違えるようなびっくりする程の美人である。しかも、その肌はしみが1つもないような美肌である。さらに、その美貌と美肌に加え、本人を紹介しているHPによれば、イェール大学を首席で卒業し、その成績をもって奨学金免除でペンシルベニア大学の医学科大学院に進学していると書いてあった。すごい女性なのであった。それに免じてどうかお許しを頂きたいのである^^;。
(Whitney P. Bowe博士の自己紹介HP。最初はご本人だとは気が付かず。モデルを雇ってイメージキャラとしてHPに載せているのかと思っていたが、ご本人だと分かってびっくり仰天。さすがにしみ1つないきれいな肌をしております。しかも超美人です。いや~、世の中にはこんなスーパーレデイが実際にいるんですね。)
WHITNEY BOWE MD

にきびと酒さへのプロバイオティクス
「Probiotics in Acne and Rosacea」

 ざ瘡(にきび、acne)や酒さ(しゅさ、rosacea)の病態生理学の理解は、 新たな治療の標的と高度な治療計画への発展へと進化し続けている。にきびの起因菌の抗生物質への耐性増加や自然な方法で皮膚疾患を治療しようという関心が高まっており、この観点からにきびや酒さへの補助的な療法としてプロバイオティクスが浮上してきている。プロバイオティクスは、 宿主の健康に利益を提供する生きた微生物であり、健康上の利益を与える物質を分泌することができる。にきびや酒さの治療としてのプロバイオティクスの局所的、経口的使用を支持するような予備的研究の数はまだ少ない状況である。
 
 プロバイオティクスやプロバイオティクス由来の製品の局所的な使用は、様々な方法によって、にきびや酒さになり易い肌への利益を提供することであろう。まず第一に、もし、皮膚の表面に生きたままでプロバイオティクス菌が生存することができれば、その菌株は、患者の皮膚を保護するシールドを提供することができるであろう。起因菌が皮膚に結合する部位をプロバイオティクス菌が競合阻害することで、プロバイオティクス菌が干渉し、他の有害な微生物のコロニー形成を防ぐことができる。もし、細菌が表皮の上で生存できるのであれば、この防護作用のメカニズムが応用できる。今までのところは、皮膚の局所へのプロバイオティクス使用の研究は、皮膚の表面では生存できないような消化管の菌株に関しての研究に限られている。
PROBIOTICS FOR HEALTHY SKIN
 
 第二に、ある種のプロバイオティクスの菌株は、抗菌の特性を有する物質を分泌することが示されている。抗生物質がにきびや酒さの起因菌への抗菌や抗炎症の治療として長い時代にわたって使用されてきたように、プロバイオティクスは、にきびや酒さの治療としてはユニークなメカニズムを有し、非常に好ましい抗菌作用を発揮する代替手段となることが想定できる。これらのプロバイオティクス菌が産生する物質は、長期使用によって耐性を誘導するような抗生物質とは異なるため、慢性的な皮膚疾患の治療においては、抗生剤よりも好ましいものになることであろう。

 第三に、ある種のプロバイオティクス菌株は、上皮細胞と接触ように配置された時に、炎症経路や炎症性のサイトカインの生成を阻害することができる。慢性炎症は、にきびや酒さにおいて主要な病態を果たしており、自然な成分による免疫調節物質は 、にきびや酒さの治療にとって重要な役割を果たし得るであろう。これらのメカニズムのいくつかは、皮膚で生き残るような生きた菌株を必要とするが、他の場合では、皮膚に適用された際に、皮膚や免疫の適正な機能を維持するようなプロバイオティクス菌の溶解物や誘導体を必要とするのかもしれない(=プロバイオティクス菌が生き残るよりも、その菌に含まれている成分が必要となる)
 
 (注; 例えば、乳酸菌であるStreptococcus thermophilusが含まれれいるプロバイオティクスのクリームは、アクネ菌への抗菌作用や抗炎症作用を示すセラミドやホスホリルコリンを産生し皮膚のバリア機能を高めてくれる)。
ホスホコリン セラミド

 プロバイオティクスの経口使用は いわゆる腸ー脳ー皮膚・軸を変化させることで、にきびや酒さの状態に影響を及ぼす可能性がある。プロバイオティクスとその代謝産物は腸管のリンパ組織と相互作用し、体の全免疫系の70%に近い程の免疫力を備えている。このプロバイオティクス菌と腸管の免疫系の相互作用は、病原体、アレルゲン、共生細菌に対してどのように応答すべきかの適切な意思決定を免疫系に訓練させる上で重要である。
 
 経口プロバイオティクスは、皮膚の炎症性サイトカインの放出を調節し、さらに、動物モデルにおけるインスリンの感受性を改善するが、にきび患者では高炭水化物食との関連性が最近の調査で明らかにされている。
high glycemic diets
 
 興味深いことに、にきび患者では便秘が多く見られる。便秘は腸内細菌叢の変化と関連しているが、乳酸菌やビフィズス菌などの健康的な細菌の低い糞便濃度、腸管の透過性の高さという所見を伴っている。心理的ストレスは、細菌の異常増殖を促進し(注; small intestine bacterial overgrowth 「SIBO」と呼ばれ、にきびを持つケースでは通常の10倍にも細菌が増殖していることが示されている)、小腸での通過時間が停滞し、腸管のバリア機能が障害される。同様に、ストレスは、酒さにもリンクしている。2008年のイタリアの研究では、酒さの患者は小腸における細菌の異常増殖が高いレベルにあることが示された。抗生物質であるrifaximinによって小腸の腸内細菌叢の異常増殖は正常化し、それに伴い酒さも改善し9ヶ月にわたり維持された。
SIBO intestine

 腸-脳-皮膚の健康状態はお互いにリンクしている。心理的な苦痛(例えば、不安、抑うつ)は、単独でも、あるいは、食物線維が欠くように処理された加工コンフォートフード(加工快適性食品)の消費と伴に、腸蠕動が遅くなり、腸内細菌叢が変化し、腸の透過性が亢進する。さらに、全身性の炎症のマーカの増加だけでなく、サブスタンスPの増加やインスリンへの感受性が低下する。にきびや酒さの遺伝子的な感受性を有する患者では、このカスケード(にきびカスケード、acnegenic cascade)は皮膚に影響を与え、皮膚の状態を悪化させる可能性がある。

 経口からプロバイオティクスを補充し腸内細菌叢を変化させることなどで、このカスケードへの悪影響を防止できるかもしれない。経口からの補充としては、有益な微生物(eg、ヨーグルト)を含む食品や飲料があるが、豊富な野菜や高い食物線維を含む食品を心掛けて摂取する食生活を習慣付けることも重要である。

 韓国の研究では、乳酸菌で発酵した乳製飲料を毎日消費した結果、12週間にわたりにきびの臨床症状が改善したことを示している。なお、乳製飲料にラクトフェリンや抗炎症性乳タンパク質を付加したところ、付加されなかったケースと比べて、にきびの炎症性病変の減少が有意に認められ、プロバイオティクスは、にきびへの補助的な治療になり得ることが示唆された。
 
 ロサンゼルスのカリフォルニア州立大学で行われた別の研究では、にきびはPropionibacterium acnes(P acnes) という特定の菌株と相関していたことが判明したが、この菌株はバクテリアの量とは関係なく毛包脂腺ごとにコロニーを形成する。一方、にきびのない被験者は、ある1種類のP acnes菌株がコロニーを形成する傾向があり、それは逆に、宿主がにきびになることを保護しているのかもしれない(→P acnes菌は皮膚の常在菌であるが、にきび患者のP acnes菌株は、にきびがない健常者のP acnes菌株とは遺伝子的には異なるため、それが皮膚に対しては、にきびになるか、保護になるかの枝分かれとなる)。以前の研究では細菌は属や種に基づいて分類をしていたが、この研究では、生着している細菌の複雑さという別のレベルを追加し、たとえ属や種が同一であっても、菌の株(strain)が重要であることを強調している。
(上の論文の図のリスト)
acnes Strain Populations

 プロバイオティクスやプロバイオ由来の製品の使用はまだ議論の余地があるが、著者は、にきびや酒さといった皮膚の炎症が病態である皮膚疾患への治療に大きな役割を果たす可能性があると信じている。最も有益な菌種や菌からの誘導体を同定し、皮膚への局所使用や経口投与が優れた経路であるかどうかを決定するために多くの研究が必要である。さらに、同じ属と種の細菌であっても、菌株が異なれば、異なる作用を及ぼすことを常に考慮する必要がある。

 近い将来、現在の治療選択肢がプロバイオティクスに交換される可能性は低いであろうが、著者は既にプロバイオティクスを経口抗生物質治療の補助として医師としての手技の中に取り入れている。著者はプロバイオティクスの経口使用が膣カンジダ症のリスクを減少させ、抗生物質による消化管の副作用を最小限に抑えることを知っている。プロバイオティクスはにきびや酒さを解決する有力な補助手段となり得ることであろう。

(論文終わり)

 もっと皮膚・腸内細菌・脳軸について知りたい方は、今回紹介したW.BOWE博士が書いた下のレビューをお読みください。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3038963/