treatment effect

 (前回の続きである)

 プラセーボ投与後の神経伝達物質の放出の変化を同定するためにPETを使用した分子イメージングが行われている(結合能の変化によって同定される)。
 
 プラセーボの鎮痛効果によって誘導されるオピオイド神経伝達系の増加は(結合能の減少によって示される)、前帯状皮質ACC、眼窩前頭皮質OFC、島皮質、腹側線条体、扁桃体、PAGで認められた。この研究では、ドーパミン作動性(DA)神経伝達も評価され、その結果、腹側線条体、尾状核、被殻におけるDA神経伝達の増加を同定した(下図)。プラセーボによる鎮痛反応の高さは、腹側線条体におけるDAとOPの活性化の大きさと関連していた(注; ドーパミン受容体としてはD2・D3受容体を介した作用である)。
Placebo-induced activation of regional DAR

 腹側線条体からのDAの放出は、報酬回路に関連しているため、プラセーボ反応における報酬回路の活性化は、期待によるポジティブな変化である可能性がある。本研究のいくつかの被験者では、プラセーボ投与(ノセーボへの反応として研究ではラベル付けされていた)によって実際に痛みが増加したが、この現象はDA系とOP系の神経伝達物質の放出の低下と関連していた。

 このように、プラセーボ投与後に報告された痛みの減少や増加は、内因性のDAとOP神経伝達の反応と逆の関連を有していた。ドーパミン刺激剤(アポモルフィンAPO、レボドパ)の受領を期待することによって、パーキンソン病(PD)患者において誘導されるプラセーボ反応は(ラクロプリドによる結合能の低下によって示される)、線条体における内因性のドーパミンの実際の放出に関連していた。
Expectation and Dopamine Release
 
 プラセーボにより誘導されたドーパミンの放出は活性を有する薬剤を受領する見込み(probability)によって調節されたことが分かる。ドーパミンの最大放出量の75%までもが見込みによって生じたことになる。背側線条体におけるドーパミンの放出は、活性を有する薬剤(レボドパ)を投与した後に生じるドーパミンの変化の大きさと相関していたが、この所見は条件付け反応であることを示唆している。これとは対照的に、プラセーボにより誘導された腹側線条体におけるドーパミンの放出は、活性を有する薬剤を受領する見込みと相関しており、この現象は報酬への期待を表しているものであろう。

 注; プラセーボ効果を起動させることになる回路は、感情調節回路や報酬回路のようであるが、プラセーボ効果に関連する他の回路としては、プラセーボ反応中には、不安に関連する回路の活性が低下することもニューロイメージングの所見から得られている。抗不安薬を付加しておくことで、プラセーボ効果は増すのであろうか。逆に、不安が増すとノセーボ効果が強まるようである。なお、実験では、不安を増すような刺激によるノセーボ効果は抗不安薬で阻害された(私は、ノセーボ効果が強そうな患者には、メイラックスなどのロングアクティブな抗不安薬を併用することがよくある)。
Nocebo CCK
 
 偽の反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)もパーキンソン病患者における線条体のドーパミンの放出を誘発したが、そのパーキンソン病の患者はrTMSの治療効果を期待していた。

 これらの所見は、パーキンソン病患者におけるプラセーボ反応の一部は、黒質線条体のドーパミン系の活性化を介して誘導されることを示している。
 
PD placebo

 注; 統合失調症(SZ)では報酬系の機能が低下している。SZの患者に報酬刺激となるようなプラセーボを与えたが、健常者で活性化されるような上側頭回や後部帯状皮質といった脳の部位は低活性のままであった。SZの患者ではプラセーボ効果は生じないのかもしれない。不眠や痛みを訴えているSZの患者には、本物の眠剤や痛み止めを必ず与えねばならないのである。

 注; しかし、抗精神病薬の投与にて統合失調症の報酬系の機能は改善するようでもある。特に、陽性症状の改善と報酬刺激に関連した活性化の正常化との間に相関があった。治療後に陽性症状の臨床的改善度が最大を示した患者では、報酬刺激に関連した活性化も最大の増加を示した(陽性症状が改善しているSZの患者ではプラセーボ効果は期待できるのかもしれない)。

 注; さらに、プラセーボ効果が減弱する疾患がある。それは前頭前皮質の機能が減弱するような認知症疾患である(アルツハイマー病やFTLDなど)。前頭前皮質の機能が低下しているとプラセーボ反応は生じにくくなるようだ。

 注; 一般的に、報酬系の機能不全があるような場合はプラセーボ効果は期待できないように思われがちである。薬物やアルコールなどの依存性疾患のケースである。薬物依存ではプラセーボ効果は生じないのであろうか。プラセーボ反応が薬物依存でも生じるのであれば、プラセーボに置換していくことで依存薬物からの離脱もスムーズに行えるようになるのかもしれない。調べてみたところ、なんと薬物依存でもプラセーボ反応は生じるのであった。しかし、それは、薬物依存を強めていくような正の強化(reinforcing)に関わるようなプラセーボ効果であり、薬物がもらえると期待していた患者が本物の薬物をもらうと、もらえないだろうと期待していなかった時よりも50%も反応が増強した。逆に、薬物がもらえると期待していた患者がプラセーボを受け取った時の脳内の変化は殆ど生じなかった。従って、薬物依存の治療において、対象となる薬物をプラセーボに置き換えていくという方法は、効果がなく推奨される方法ではないことが分かる。この薬はもう効果がなくなったと勘違いして、もっと強力な薬剤に手を出すようになるだけかもしれない。離脱症状が一時的に出てもよいから、一気にやめる方が成功するのかもしれない。
expectation effects when placebo
  
 注; 同様に、禁煙の場合でも、喫煙によって常に脳内のドーパミンの放出が高まっているため、プラセーボのタバコ(低用量のニコチン含有の電子タバコ)では、本物のタバコ以上に報酬系が起動(=ドーパミンの放出の増加)されることはなく、禁煙は失敗するようにも思える。プラセーボタバコを使用すると代償性の喫煙が増えると言われており、禁煙目的でプラセーボタバコの使用を否定する意見がある。報酬系の機能不全の影響で、チャンピックスのような脳内に直接作用するような薬剤でないと禁煙の成功率は低いのだろうか。しかし、プラセーボタバコ(低用量のニコチン含有)の代償性喫煙は長くは続かない、プラセーボタバコは有効かもしれないという論文があった。

 注; 同様に、禁酒でも、ノンアルコール飲料というプラセーボを使用すれば断酒をうまくできると思っているアルコール依存症の患者が多いのだが、私には、ノンアルコール飲料では必ず失敗するように思える。ノンアルコール飲料では満足できなくて、かえって本物のアルコールを飲みたくなるだけのようにも思える。飲酒再開の刺激になるだけであろう。このあたりの論文を調べてみたが、ノンアルコール飲料でもそれなりの断酒への効果があるという論文もあったが、私の経験からは、ノンアルコール飲料にて断酒に失敗したケースは多々あっても、成功したケースを見たことがない。ノンアルコール飲料は、断酒を維持するためのプラセーボとして販売されているのではなく、断酒をしていない人が飲酒運転をしないために、一時的に使用するようなものであろう。

 注; しかし、アルコール依存症でもプラセーボ効果が期待できるという論文があった。断酒を維持していく上で、最近では依存症に効果があると言われている薬剤(国内では、レグテクトやトピラマート)を併用することが多いのだが、単に薬剤だけを処方するよりも、断酒会の意義などの医師からの助言を薬剤を処方する際に付加したり、その薬剤は効果があるはずだという患者側の楽観(=心理的なプラセーボ効果)があった方が断酒への効果が高いと結論付けられていた。この場合のプラセーボ反応は報酬系以外の脳内回路が関与しており、報酬系以外の回路(例えば幸福感に関する回路)に働きかけていけば、報酬系の機能不全が存在していてもプラセーボ効果を生じさせることができるのかもしれない。「トレインスポッティング」という薬物依存を描いた映画があるが、その主人公は、家族や恋人からの働きかけで、恋愛や社会での成功や家庭の暖かさなどの平凡な人生の中にある、薬物以外のもので心を満たすことの大きさや幸せを実感できるようになり、薬物依存症の仲間を裏切ってまでも薬物依存から抜け出す映画であった。
 
 あるグループでは、プラセボによる単一のニューロンの発火率の変化が誘導されたことを示した。脳深部刺激のために電極の移植を受けているパーキンソン病の患者が、アポモルヒネへの曝露によって手術前の3日間で事前の条件付けを施された。次に患者は、プラセーボの注射と利益や期待が高められるように設計された言葉による指示が手術中に与えられた。主観的な評価(患者からのレポート)、客観的な評価(臨床医の筋硬直度の評価)、双方の臨床尺度が測定された。

 プラセーボに反応した患者は臨床尺度の改善を認め、同時に脳の関連領域におけるニューロンの発火率に大きな変化があった。発火率は、視床下核と黒質では減少しており、視床の運動核(腹側前部、前部腹側方)では増加していたが、この変化はプラセーボによって誘導された回路の機能の正常化と一致していた。
placebo effect 4


 注; もし、ドーパミンの回路がプラセーボ効果にて正常化するのであれば、統合失調症でもプラセーボ効果にてドーパミンの回路が正常化するのであろうか。さらに再発も抑制されるのであろうか。調べてみたが、さすがに統合失調症ではプラセーボ効果はなく、症状の改善も再発の抑制もされないようである。再発に関しては、1年目の時点での抗精神病薬とプラセーボの再発率は27%VS64%であった。しかし、3割近くが再発しておらず、これはどのように解釈すればいいのか悩ましい(プラセーボ効果による再発防止効果なのか、はたまた、薬剤の維持療法が必要ないケースだったのか)。
 
 注; さらに、新しい抗精神病薬の治験結果ほど、プラセーボの反応が年々大きくなっていっているらしい。逆に言えば、抗精神病薬とプラセーボとの間の症状の改善の差が新しい薬剤ほど小さくなっているらしいのである。これはいったいどういうことなのであろうか。この点から、新しい抗精神病薬は古い世代の抗精神病薬よりは効果が弱くなっているのだろうと主張する学者もいる。私が思うに、今は治験に参加した被験者はかなりの報酬(お金)が貰えるのである。その報酬に対する反応(プラセーボ反応)なのであろうか。同じ治験でも報酬の金額を変えたグループで比較をするとおもしろい結果が出るのかもしれない。
placebo response in SZ trials

 注; 一方、全くプラセーボ効果がかからない状況で抗精神病薬が投与される場合がある。それでも抗精神病薬は十分に効果を発揮するのである。そのような状況としては拒薬の場合のブラインド(非告知)での投与がある。食事の中に抗精神病薬を混ぜて、本人が知らないままに食べてもらうのである。無理やり押さえつけて何回も注射をする方法もあるが、今後の治療の在り方を考えれば、病識が出て自ら服薬をするようになるまで根気強くブランドで使用した方がいいと判断した場合はブラインドでの使用を続けることになる。
 
 注; ある妄想型のSZの中年女性のケースは、ここは病院じゃない、北朝鮮の収容所だ、私は拉致されたのだと言って服薬を拒否していた。そのためブラインドでの使用を試みることになった。ジプレキサ・ザイディス10mgをブラインドで使用したのだが、2ヶ月後くらいから変化が見られるようになった。入院前の妄想に基づいた行動を指摘しても、当初は、私は間違っていないと激怒して拒絶していた。しかし、次第に、そう言われればそうかもしれないと妄想への洞察を示すようになったのである。そして、最後には、あなたの妄想はSZという病気のせいであり、薬を飲めば妄想の世界から完全に抜け出すことができるという説明を受け入れて、自ら服薬をするようにまでなったのである。以後は順調に良くなり退院できたのは言うまでもない。こういうケースではプラセーボ効果はゼロであり、抗精神病薬の効果が100%であろう。

 注; 次に、うつ病の場合はどうであろうか。抗うつ効果に関してはプラセーボ効果はかなり大きいようなのだが、うつ病の再発予防に関してはプラセーボはどうなのであろうか。再発予防に関しては、さすがにプラセーボの錠剤では十分な効果は発揮できなかったようである。しかし、抗うつ剤と心理的介入(認知行動療法CBTなど)に関しては、再発防止効果は同等、あるいは、それ以上だとする論文が多い。もし、心理的な介入は、介入してもらえているのだという安心感や、介入してもらえているのだから再発をしないはずだという期待や保証に基づく脳内の変化(≒プラセーボ効果)によるものであれば、抗うつ剤を内服しなくても受診さえ続けてもらい、主治医との接触を絶やさなければ再発しないという暗示を受診時に与えることで再発が防止できるのかもしれない。なお、プラセーボとの抗うつ剤との再発予防効果の差は6か月間までしかなく、抗うつ剤は寛解以降は6ヶ月までの間に漸減して中止すべきだという意見がある。
http://www.nature.com/nrn/journal/v9/n10/full/nrn2345.html 

Cognitive therapy vs antidepressants

プラセーボ反応とノセーボ反応に寄与する因子
Factors Contributing to Placebo and Nocebo Responses

 プラセーボ(またはノセーボ)反応の主なメカニズムは、個人の症状の変化への期待であり、過去の経験から学んだ条件付けである。

 それ故、この治療によって本当に有益な効果が得られるだろうという治療者からの保証を個人が信じた時に(=即時のポジティブな期待)、さらには、以前に受けた治療が有益な効果があったという経験を持っている場合(=条件付けられた学習)に、プラセーボ反応はより強くなるようである。

 プラセーボ反応の条件付けとしては、明示的、暗黙的な手がかりの両方が実証されている
 
 治療内容を伝達することで強力な効果が得られることが次のような研究によって示された。その研究では、鎮痛剤が投与されると知っていた患者(治療者による鎮痛剤の投与が見えるような投与の仕方)は、いつ鎮痛剤が投与されるか知らされていなかった患者(あらかじめプログラムされた輸液ポンプだけでの投与)と比べて、より少ない薬物の投与量で済んだ。
open vs hidden

 間接的な経験(社会的な学習)の多くも、プラセーボ反応を増大させることができる。
 
 この例としては、既に同じような治療を受けて良い結果を得られた他者からの話を聞いたり、治療に反応している他者を観察したり、利益を示唆するようなコマーシャルを見るといったものがある。
 
 逆も起こり得る。ある研究ではノセーボ反応の誘導が示された。そのような薬剤への暴露によって有害事象が引き起こされたことを示唆しているようなメディアのレポートを見てもらった後で、偽の薬剤(ノセーボ)の曝露を受けたが、その後の患者からの報告書では症状が誘発されたことが分かった。
 
 別の例は、痛みを演じる俳優を見た被験者にノセーボ反応による痛覚過敏が誘導された。このノセーボ反応は男性の俳優が演じた時により大きくなった。

 注; 下にのURLで紹介した論文によれば、医薬品がジェネリックに変更になった場合にもノセーボ反応が生じると書かれてある。そして、ジェネリックではない他の先発品に変更になった場合にもノセーボ反応が生じる。これは薬が変更になることへの不安感によるノセーボ反応であろうか。さらに、薬の副作用がマスコミやネットで報じられると、次々に同じような副作用を訴える患者が相次ぐことがあり、一部はノセーボ反応によって生じた可能性があるようだ。疼痛やめまいなどの感覚系の症状ではノセーボ反応が生じ易いのかもしれない。例えば、SSRIによる中止後症候群(ZAPなど)の一部は感覚系の症状であり、ノセーボ反応との鑑別が必要であろう。
(ノセーボ反応がマスコミの悪意によって意図的に作られているのかもしれない。)
impact of televison

 注; さらに、本年度に出版された論文ではあるが、驚くべきことに、これまでの抗うつ剤の治験のデータを分析したところ、実際にはプラセーボが割り当てられたにも係らず(被験者はプラセーボだとは知らないのではあるが)、プラセーボを割り当てられた被験者の44.7%が有害事象を報告していたことが判明した。さらに、プラセーボが割り当てられた被験者の4.5%が有害事象に耐えれないという理由で治験が中止されていた。これは、抗うつ剤を使用した実際の臨床場面でも、半数もの患者にノセーボ反応が起こりうることを示唆しているデータである。いろんな抗うつ剤を試してもなかなか改善しないうつ病の患者さんがいるが、抗うつ剤に反応しない背景にはノセーボ反応が潜んでいるのかもしれない。
http://www.psy-journal.com/article/S0165-1781(13)00670-7/abstract

 注; 集団ヒステリー(mass hysteria)も、ノセーボ反応の一形態なのかもしれない。ノセーボ反応はヒステリーと同様に確かに女性に生じ易いようである。ノセーボ反応は治療に対するネガティブな予想で生じる。否定的なことを考え易く、疑い深い女性が症状の悪化を訴えてきたら、ノセーボ反応の可能性も考慮しておいた方が良いのかもしれない。
(古い論文だが、ノセーボ反応に関するレビュー)

 注; かって、ニューヨーク州でティーンエイジャーの女性にだけ集団発生した原因不明のチック様症状は、未知のウイルス感染という説もあるが、医師の治療に対するノセーボ反応だった可能性が指摘されている。この事例は不思議なことに同じクラブ活動をしていた女性にしか生じなかった。さらに、風力発電所への有害事象の多くは、頭痛やめまいといった感覚系の訴えが多く、風力発電は有害なのだというマスコミの報道に影響された集団ヒステリーというノセーボ反応だという指摘もある。

 同様に、性格や遺伝子的な形質も個人における反応の差に寄与している。

注; 本文ではたった1文の説明で終っているため、性格や遺伝子による影響についても補足しておく。

 プラセーボ反応は性格傾向とも関連するようである。楽観的である・寛容である・新しいものを好む・外交的・利他主義(→プラセーボ効果が出易い)、悲観的である・不安が強い・神経症的である(→ノセーボ効果が出易い)といった性格傾向によっても左右される。

 注; 遺伝子による素因もプラセーボ反応に影響している。ドーパミンを代謝して不活化する酵素であるカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)のval158met多型は、プラセボ効果の予測因子であった。COMTval158met多型では、val/valに比べ活性が3~4倍も低くなり、前頭前皮質などにおいて高ドーパミンを有するようになる。この場合は、報酬を強く求め痛みを感じ易くなる。過敏性腸症候群(IBS)におけるプラセーボ反応を分析したところ、COMTval158metのメチオニン対立遺伝子の数はプラセーボ反応に直線的に相関していた(ただし回帰分析を使用している)。 最大のプラセーボ反応はmetのホモ接合体(met/met)で発生していた。この所見は、COMTval158met多型はプラセーボ反応の潜在的なバイオマーカーになり得ることを意味している。
COMTval158met IBS

 注; プラセーボ反応に影響を与える遺伝子素因としては、他にも、セロトニントランスポーター連動多型領域(5-HTTLPR)とトリプトファンヒドロキシ-2(TPH2)遺伝子プロモーターのG703T多型がある。プラセーボ反応に伴う扁桃体の活性の減少は、5ーHTTLPRの長い対立遺伝子のホモ接合体やTPH2のG変異体で観察され、短い5ーHTTLPRの対立遺伝子を有する場合やTPH2のT対立遺伝子を有する場合では観察されなかった。これらの遺伝子もプラセーボ反応の予測因子となり得る。

結論
Conclusions

 プラセーボ(またはノセーボ)反応の誘導は、疼痛、パーキンソン病、うつ病、免疫機能などの多くの状態で研究されている。ニューロイメージング(血行動態、代謝、分子)や電気生理学的なテクニックを使用して、これまで記載された研究において、プラセーボ効果やノセーボ効果の客観的な証拠が提示されている。これらの研究では、複数のレベルで、かつ、様々な神経解剖学的経路や回路で神経生物学的な変化が生じているという客観的な証拠が示されている。

 さらに、これらの研究では、条件付けや介入という手法が使用されたが、特有の効果を認め、条件付けや介入はプラセーボ反応と生理学的に関連していることを支持している。

 以下の事を銘記しておかねばならない、すなわち、プラセーボ反応に関与する因子は多様であり、過去でも現在でも生じており、それらの因子は患者の即時の期待に影響を及ぼすことができる。しかも、プラセーボ反応はダイナミックなものであり、常に変わる性質のものである。さらに、プラセーボ反応は、個人が経験した事の全体性によってその個人が作り上げている事象である。

 プラセーボ反応は、医師と患者との相互作用が患者の肯定的な期待を強化し、患者の健康を向上できる可能性があるという証拠を提示してくれている。プラセーボ反応を活用することは、医師が行う良い臨床的な手技の1つであり、治療の環境を最適化し、治癒を促進する方法である。

(論文終わり)

なお、プラセーボ効果に関する他のレビューとしては、以下のものがある。興味がある方は参照して頂きたい。
http://www.sakam.it/The_placebo_response_How_words_and_rituals_change_the_patient_s_brain.pdf

  最後に プラセーボ効果をテーマにした映画あるので紹介しておく。その映画は「コントロール」(2004年)である。

https://www.youtube.com/watch?v=C26DEtAE7zE
 
 既に見た人も多いかもしれないが、精神科に従事する者や精神医学に興味がある方は一度は見ておいた方がいい映画である。この映画は非常に泣ける映画である(映画の最後の方での主人公の医師に対する言葉や態度には泣けてしまう)。テーマがプラセーボという時点で既にネタバレになっているのだが、ストーリーは、人間性を全く持たない凶暴極まりない殺人犯の死刑囚(主人公)に、人間性を回復させるという新薬を試してもらうことになった。精神科医(神経薬理学者)が主人公の変化をモニターすることになったのだが、効くはずはないだろうと内心では思っていた。しかし、その薬を飲み始めたところ、主人公には変化が起き始め、だんだんと人間らしい心を取り戻していくのであった。そして、主人公もその変化を自覚し、自ら積極的に内服をするようになる。驚く精神科医。さらに、薬は効果を発揮し始め、自身の罪を後悔し、被害者へ心から謝罪をしたいと願うようにまでなる。ますます驚く精神科医。しかし、ある時にその薬は実はプラセーボだったということを精神科医は知ってしまうのであった。さらにさらに驚く精神科医。悩んだ末に精神科医は本人にも実はプラセーボなのだと事実を告げることを決意する。はたして、主人公はどうなってしまうのであろうか・・・・・。

control 2004