UCLA Laboratory of Neuro Imaging

 統合失調症(SZ)の患者における抗精神病薬による脳の形態学的な変化(morphological change)が多くの研究レポートで報告されている。これまでは抗精神病薬による脳の灰白質の容積の減少や脳室の拡大を報告するレポートが主であったが、最近では、脳の白質にも異常(FA値の低下、など)をも報告するレポートが増えてきている。今回と次回にわたって、この抗精神病薬による灰白質や白質へのダメージに関する論文を紹介したい。

 この脳の形態学的な変化に関する概要は下のトロント大学のNeurowiki 2013:脳の形態と統合失調症(Brain Morphology and Schizophrenia)やFuller Torreyらが書いた解説が良いレビューになると思えるので下にURLを紹介しておく。

 ここで注意しておかねばならない点がある。このような調査では脳の形態学的な変化に影響を及ぼしうる因子は抗精神病薬だけでなく、他の多くの因子が存在し、かつ、同時に存在しており、抗精神病薬が統合失調症患者の脳の形態に本当に影響を及ぼすかどうかは、他の因子(疾患そのもの病態学的な変化、炎症による変化、等)の影響を除去してからでないと断定できないという点である。すなわち、このような調査ではバイアスが常にかかっている可能性があることに注意しておかねばならないのである。

 しかし、このような脳の変化は、疾患本来の病態プロセスを直接反映している所見であるという意見が存在する一方で、抗精神病薬による直接的な影響も加わって生じている所見であると唱える意見が、近年、増えていることには留意しておく必要がある。

 これらの知見からは、抗精神病薬の投与に関しては、できるだけ少量で慎重な態度で行われなければならないことを意味する。むやみに初期に使用した高用量のままで同じ量を維持量として投与し続けることは、抗精神病薬による脳の形態変化を引き起すことになり非常に危険である。製薬会社や大学のド偉い教授連中が何と言おうとも、抗精神病薬は可能な限り少量で維持していくことが望ましいのである。当然、エビリファイでも例外ではない(次回のブログで紹介するのはエビリファイが投与されている研究論文である)。
 
 抗精神病薬の高用量での使用を推奨する製薬会社や大学教授の方々は、今回紹介するような不都合な論文は一切無視しているように思える。その結果、高用量で維持することを推奨するような宣伝や講演会の内容に結びついているのであろう。今回のブログで紹介する論文を見てほしい。投与用量に依存した抗精神病薬による脳の形態への変化(全脳の容積の減少、灰白質の容積の減少、等)を報告する論文が数多く存在するのである。
 
 それにも係らず、製薬会社が推奨するような高用量での維持療法に異を唱えるような国内の研究者は非常に少ない。今でも、製薬会社がスポンサーとなった講演会やセミナーがどんどん行われ、高用量での維持療法が推奨されていっているのであった。何と嘆かわしいことであろうか。
 
 今回は、抗精神病薬の灰白質への影響に的を絞って紹介したい。

 以下に検索でヒットした論文の概要を示す。(最近の論文を中心に示す。なお、抗精神病薬にナイーブな患者とは未だかって抗精神病薬に一度も曝露されたことがない患者のことを意味する。)

2014年度

<Juha Veijolaら>
 統合失調症における経時的な脳の容積の減少の証拠が示されてきている。我々は、脳の容積の変化と、症状の重症度、機能レベル、認知機能、抗精神病薬との関連性を、ほぼ10年という比較的長い追跡期間中のフィンランド北部の出生コホートサンプル(1966名)を用いて調査した。精神病性障害を有するケースと精神病を有していない全てのメンバーは、33~35歳、1999年~2001年の間にMRIスキャンや臨床的・認知機能の評価を受けた。フォローアップは9年後の2008~2010年の間に実施された。両方の時点での脳スキャンデータが、統合失調症の参加者33名、コントロールの参加者71名から得られた。脳の容積の変化は臨床的な変化や認知機能の変化を予測しうるかどうか、さらに、抗精神病薬は脳容積の変化を予測うるかどうかを調べるために回帰モデルを用いて解析した。統合失調症における年間平均の全脳の容積の減少は、0.69%、であり、コントロールでは0.49%であった(年齢、アルコール使用歴などをマッチさせている)。
 
 統合失調症患者の脳容積の減少は、特に、側頭葉と脳室周囲の領域で目立っていた。症状の重症度、機能レベル、認知機能の低下は、統合失調症における脳容積の減少とは関連していなかった。一方、フォローアップ期間中の抗精神病薬の投与量は脳の体積の喪失を予測しえるという結論を得た(=抗精神病薬の用量依存性に脳の容積は減少していく)。今回の研究結果からは、全脳の容積の減少は、発病後の統合失調症患者では継続され、抗精神病薬の投与は全脳の容積の減少を促進させるかもしれないと言えよう(注; 投与された抗精神病薬が定型なのか非定型なのかは不明だが、本文中には非定型抗精神病薬でも全脳の容積の減少を予測しうると結論付けられており、非定型抗精神病薬も使用されていたのであろう)。

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2013年度

<P. Fusar-Poliら>
 これまでの報告論文を分析し脳への抗精神病薬の影響を調べた。計1046名のSZ患者と780名のコントロールがピックアップされた。フォローアップ期間は中央値が72.4週間であった。ベースラインでは、SZ患者では全脳の容積の大きな減少と側脳室(LV)の拡大が存在を認めた。しかし、ベースラインでは、灰白質の容積(gray matter volumes、GMV)、白質の容積、脳脊髄液の体積や尾状核の容積における異常は検出されなかった。しかし、縦断的な調査では、SZの患者では、進行性のGMVの減少、左側脳室の拡大を認めた。観察されたGMVの減少は抗精神病薬治療への累積暴露と逆相関していたが(=抗精神病薬投与量が増大するほど灰白質の容積の減少が大きくなる)、疾患の期間や重症度とは相関していなかった。すなわち、統合失調症は進行性に灰白質容積が減少し側脳室の体積が増加することを特徴とすると言えよう。発病初期から既に灰白質の容積が減少しているという論文も多々あり、全てが抗精神病薬による変化だとは言えないが、これらの神経解剖学的変化のいくつかは抗精神病薬治療に付随する現象だと考えてよいだろう。
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<Nancy C. Andreasenら>
 脳の構造をMRI検査にて縦断的に調べることで、統合失調症の患者は発症後に進行性の脳組織の損失を認めることが示されている。再発の繰り返しが脳組織の損失において役割を果たしていると考えられているが、再発と脳の構造学的な変化との関連性については厳密に評価されていない。そこで、この再発と脳の構造学的な変化との関連性調べるために縦断的なデータを用いて分析することにした。構造学的なMRIデータを有するアイオワ州の初発の統合失調症の患者の縦断的研究から202名の患者が選択し解析した。MRIデータは平均7年間の定期的な間隔でスキャンが実施されている。
 
 解析した結果、再発の持続期間の長さは、全般的な、例えば、全脳の容積の著明な減少と(1年に換算して1.55ccの減少)、領域的な、特に、前頭葉の容積の著明な減少と関連していることが判明した(1年に換算して0.99ccの減少。特に、前頭葉の白質の容積の減少が顕著である)。一方、再発の数は脳の変化とは関連がなかった。さらに、脳への有意な影響(脳の容積の減少)が治療の強さ(投薬量)に関連していることが判明した。再発の持続期間が長くなることは、統合失調症の脳の統合性にマイナスの影響を与えるため、再発を防止し治療のコンプライアンスを改善していく積極的な対策を実施することが重要となる。
 
 しかし、この研究から言えることは、脳への影響の相対的なバランス、例えば、再発の期間と抗精神病病薬による治療の強さのバランスを検証することによって、臨床医が直面しているジレンマに光を投げかけてくれるかもしれないということである。例えば、再発の予防には何らかの抗精神病病薬の投与が必要だが、その一方で、抗精神病病薬の投与量が高くなればなるほど脳の容積の減少も大きくなっていく。今回の研究では、ハロペリドールを4 mg/day投与された患者では、毎年0.56ccの脳の容積が減少していくだろうと予測された。 再発予防は重要なことであるが、可能な限り低い薬物の投与量を使用して症状のコントロールを維持していく必要があると言えよう。

<Ulysses S Torresら>
 抗精神病薬と脳の形態変化に関してMRI検査によるボクセルベースの形態測定(voxel-based morphometric)定量的メタ解析を行った。なお、改良した解剖学的尤推定法(anatomic likelihood estimation technique、ALE)を用いた。10個の研究が選択基準に適合した(抗精神病薬に曝露された298名の患者、250名のコントロール)。選択された患者では、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、セルチンドール、アミスルピリド、クロザピン、ジプラシドンなど、患者の大半は、非定型抗精神病薬が使用されていた(78.5%の患者)。最もよく使用されていた抗精神病薬はオランザピン(40.7%)とリスペリドン(30.1%)であった。
 
 メタ解析によって、対照と比較して抗精神病薬を受けていた患者では、7つのクラスター領域で一貫性した構造学的な脳の変化があることが明らかにされた。その7つのクラスターは、容積が減少していた領域としては、左側外側側頭皮質(ブロードマンエリアBA 20)、左側下前頭回(BA 44)、左側中前頭回(BA 6)に至る上前頭回、右側眼窩前頭回(BA 11)であった。逆に、容積が増大していた領域としては、左側背側前帯状皮質(BA 24)、左側腹側前部帯状皮質(BA 24)、右側の被殻であった。なお、被殻、尾状核、視床においては抗精神病薬誘発性肥大が以前にも報告されており(定型、非定型両方の抗精神病薬で生じる。特に基底核の肥大はよく知られている)、今回の知見と一致する。今回の我々の結果は、統合失調症患者の抗精神病薬の使用によって構造的に影響を受けやすい特定の脳の領域を示すものである。しかし、統合失調症における本来の病理学的な進行のプロセスの結果である可能性もあり、さらなる研究が必要である。

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<Sander V. Haijmaら>
 統合失調症において脳の構造学的変化が存在することが強く実証されてきているが、脳の構造学的変化の定量的な分布を調査した研究はニューロイメージングの進歩にもかかわらず過去14年にわたってなされていない。さらに、抗精神病薬にナイーブな患者を対象とした容積測定メタ分析は実施されていない。そこで我々は、抗精神病薬の投薬を受けていた患者だけでなく抗精神病薬にナイーブな患者に対するクロスセクショナルな脳の容積の変化を調べるメタ解析を行った。1988年から2012年にかけて行われた317個の研究(抗精神病薬にナイーブな患者が含まれるのは33個の研究)がメタ解析に適合するかどうか選択された。患者数に加え、疾患の罹患期間、性別、現在の抗精神病薬の投与量、知能指数といった修飾因子となる可能性がある因子が判明している研究を抽出した。
 
 投薬を受けていた患者(8327名)では、頭蓋内及び全脳の容積はそれぞれ2.0%と2.6%と有意に減少していた。灰白質の構造においては、-0.22~-0.58までの大きさで効果の大きさが観察された(=全脳容積の減少の大部分は灰白質の減少に起因するものである)。抗精神病薬にナイーブな患者のサンプル(771名)では、投薬を受けていた患者と比べて、尾状核(-0.38)、視床(-0.68)の容積の減少が顕著であった。白質の容積は両群で同程度に減少していたが、抗精神病薬にナイーブ患者では灰白質の損失は範囲が小さかった。灰白質の減少は、疾患の持続時間と抗精神病薬の高用量と関連していた。統合失調症の脳の損失は、疾患の経過によるものに、(早期の)神経発達プロセスが反映された頭蓋内の脳の容積の減少の組み合わせだと言えよう(さらに、高用量になる程、抗精神病薬の影響が加わる)。
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<B.H Ebdrupら>
 抗精神病薬への曝露は、大脳基底核(basal ganglia、BG)の構造学的な変化と関連するだろうと考えられている。伝統的な抗精神病薬は、第一世代と第二世代の抗精神病薬(FGAとSGA)に分けられるが、しかし、この分類の妥当性に関しては異議が唱えられ始めている。そこで、抗精神病薬ごとにBGの容積に対しては異なる効果が誘導されるのか、あるいは、容積への効果がFGAやSGAという分類に沿って説明できるのかどうかを明らかにする目的で、我々は、抗精神病薬が単剤で使用されていた時の影響を調べた縦断的なMRI画像研究をレビューすることにした。1996年~2011年の期間に発表され13個の研究を同定した。計6種(FGA2種、SGA4種)が調査された。ハロペリドール、zuclophentixol、リスペリドン、オランザピン、クロザピン、クエチアピンである。追跡期間は3~24カ月の範囲であった。
 
 予想外だったが、特定のFGAが有意なBGの容積の増加を誘導するという研究論文は見出せなかった。逆に、BGの容積の増加や減少が、増加、減少ともにSGAの単剤療法と関連していた(表2)。線条体の容積の増加の誘導は、FGAによる特徴的な所見ではない(従来はハロペリドールによってBGの容積は増大すると考えらていた)。さらに、クロザピンを除いて、慢性患者におけるBGの容積の減少は、特定のSGAに限定されるものでもない(クロザピンは尾状核の容積を減少させる傾向があると言える。また、逆に、リスペリドンやオランザピンはBGの容積を増加させる)。現在のレビューでは、脳の構造への影響からは、抗精神病薬はもはやFGAやSGAのいずれかに分類されるべきではないという考えが支持される。今後の臨床MRI研究は、特定の抗精神病薬の効果を解明するために努力が払われるべきである。
(表2)

2012年度

<Radua Jら>
 初発エピソード(first-episode、FEP)にある精神病患者への抗精神病薬による構造的および機能的脳の変化をマルチモーダルなメタアナリシスを使い解析した。人間の脳内の構造と機能は密接に関連している。精神病の初発時の脳画像研究では、脳の機能や構造における強い変化が同定されているが、これらの機能と構造という2つのドメインを相互に関連付けるデータは存在しない。43個の研究が今回の選択基準を満たした(構造データベースは965名のFEPと1040名のコントロール、機能的データベースには362名のFEPと403名のコントロールが含まれる)。
 
 分析した結果、FEPでは、両側の島/上側頭回と内側前頭/前帯状皮質における構造(灰白質の容積減少)と機能がジョイントした異常が同定された。これらの領域では、灰白質の容積の減少は強固で大きく、機能としては活性の低下か活性の上昇を伴っていた(島は幻聴に関連し、前帯状皮質は不安や感情処理に関連する)。メタ回帰分析にて、薬物療法を受けた患者では前帯状皮質と左島の灰白質の構造異常を示すことが多く、抗精神病薬への曝露の影響を受けていたことが示された。

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2011年度

<Hoら>
 統合失調症のための抗精神病薬療法は、臨床的な観察や実証的な研究によって、利益だけではなく害をもたらすことが実証された。その結果、過去50年の間に新たな抗精神病薬が開発されたが、その動機の一部は既存薬に対する有害事象に対して利益の方を強化したいことから開発されている。そこで、我々は抗精神病薬が統合失調症の進行性の脳容積の減少に影響を及ぼすかどうかを確認した。統合失調症の早期にある患者 (211名)が標準的な治療を受け縦断的な経過を見るためにMRI検査を受けた(平均7.2年間のフォローアップ。最長14年。1個人あたり2~5回のMRIスキャン)。
 
 その結果、抗精神病薬への曝露用量によって、脳灰白質と白質の容積の減少させ、被殻の容積を増加させることが予測しえることが分かった。すなわち、使用量が増えれば増えるほど灰白質や白質の容積が減少していくことを意味する。特に、白質においてその傾向が顕著であった。疾患の罹患期間や重症度も同様に小さな脳容積と関連していたが、抗精神病薬の使用と脳の容積の減少との関連性は、疾患の重症度や罹患期間や薬物乱用の履歴の影響を排除した後でも有意な所見であった。興味深いことに、脳の容積の変化は、抗精神病薬の全てのクラスで同様に認められた。すなわち、定型抗精神病薬、非定型抗精神病薬、クロザピンなどのあらゆる抗精神病薬で認められたのである。なお、疾患の重症度も脳の容積の減少と小さい相関関係があった。アルコールや違法薬物の使用歴は他の因子の影響を除去した後には脳の容積減少との有意な相関は認められなかった。

なお、本文中の重要な箇所を紹介しておく。

 灰白質の容積への影響は、定型的な抗精神病薬の用量、クロザピン以外の非定型抗精神病薬の用量、クロザピンの用量に分けて表3に記載した。定型抗精神病薬の高投与量は全脳前頭葉の灰白質の容積の減少を関連していた。クロザピン以外の非定型抗精神病薬の高用量は、下側前頭葉頭頂葉の灰白質の容積の減少と関連しており、クロザピンの高用量は全脳各葉の容積の減少と関連していた。白質の用量に関しては、クロザピン以外の非定型抗精神病薬の高用量では頭頂葉の白質の容積の増加と関連していた。定型抗精神病薬やクロザピン以外の非定型抗精神病薬は他の白質の容積や側脳室の測定値における有意な影響は統計学的には認められなかった。一方、クロザピンの高用量は、脳溝の拡大と、尾状核、被殻、視床の容積の減少と関連していた。被殻の肥大は定型抗精神病薬とクロザピン以外の非定型抗精神病薬の高用量と関連していた。クロザピン以外の非定型抗精神病薬の高用量は、尾状核の容積の増大にも関連していた。
(表3)
(掲載された医学雑誌の社説によるHo博士の論文の紹介記事)

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<Meikei Leungら>
 統合失調症における脳の形態学的な異常は、投薬、慢性化、疾患の罹患期間によって変化しうる。初発の統合失調症+抗精神病薬ナイーブ(first-episode schizophrenia and neuroleptic naive、NN-FES)と初発の統合失調症+抗精神病薬治療中(NT-FES)の個人の脳画像を比較すれば、これらの潜在的な交絡因子の影響を分析することができる。解剖学なボクセルベースの形態計測法を使用(NN-FESは162名、NT-FESは336名)。解析時には大規模な数字が反映されるようにLiptak-Stouffer法に基づいたサンプルサイズへの重み付けを行った。
 
 分析の結果、NN-FES群では、前頭、側頭、島、線条体、後部帯状回、小脳の領域おける広範なネットワークにおける灰白質の障害が健常対照との比較で検出された。一方、NT-FES群では、NN-FES群と比較した場合、前頭、上側頭、島、海馬傍回領域における灰白質の障害が検出された。さらに、NT-FES群では、NN-FES群と比較した場合、尾状核、帯状回、下側頭領域にも小さいものの灰白質の障害が見出された。なお、NT-FES群では、灰白質の容積の増大を示す領域はなかった。前頭葉、線条体-辺縁系、側頭葉の形態学的な異常は、統合失調症の初期段階に既に存在し、抗精神病薬、慢性化、疾患の経過とは無関係である。一方、抗精神病薬によるダイナミクスな影響が、線条体-辺縁系、側頭葉(だだし前頭葉領域にはないが)といった領域の灰白質に容積の減少という形で存在するのかもしれない。

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<Boonstra Geartsjeら>
 統合失調症における脳の形態に関しては、抗精神病薬の影響があるため、時間の経過とともに解釈を混乱させることがありえる。我々は、脳の容積の変化における非定型抗精神病薬の中止の効果を評価することを目的として調査を行った(合計16名の安定した状態にある初発のエピソードの統合失調症、統合失調感情、統合失調症様障害の患者)。2回のMRI脳画像検査を1年間の間隔で全ケースに実施した。患者は、追跡期間中に投与されていた非定型抗精神病薬(オランザピン、リスペリドン、クエチアピン)を中止したか(8名)、中止せずに投与が続けられた(8名)。頭蓋内容積、全脳、灰白質、白質、小脳、第3および側脳室、尾状核、側坐核、被殻のそれぞれの容積を重回帰分析にて解析した。
 
 ベースラインの時点では被殻の容積は患者群では著明に増加していた。一方、追跡期間後では、対照と比べて患者群では、灰白質の容積や尾状核の容積が著明に減少していた。さらに、抗精神病薬が中止された患者では追跡期間後に側坐核や被殻の容積の減少を認めたが、抗精神病薬を継続していた患者では、追跡期間後に、側坐核や被殻の容積は増加していた。統合失調症患者における過度の灰白質の容積の減少というこれまでの調査結果が確認された。
 
 さらに、投薬の中止によって時間の経過とともに被殻や側坐核の容積が減少するという証拠を発見したが、これは投薬の中止よって非定型抗精神病病薬の効果を逆転させることができることを示唆している(投薬を中止すれば基底核の肥大は改善するのだろうが、灰白質などの他の部位に生じた変化については不明である。なお、この論文では、中止群と継続群が一色単にされて対照と比較されており、解析の仕方に問題があり、意味のあるデータは中止群と継続群とを比較したデータのみであろうと思われる)。
http://journals.lww.com/psychopharmacology/Abstract/2011/04000/Brain_Volume_Changes_After_Withdrawal_of_Atypical.2.aspx
http://share.eldoc.ub.rug.nl/FILES/root2/2011/Braivocha/Boonstra_2011_J_Clin_Psychopharmacol.pdf

<Anthony C. Vernonら>
 齧歯類の抗精神病薬(APD)の投薬モデルを作成してAPDによる脳構造への影響を死後組織の病理学的分析とMRI画像分析を使用して解析した。抗精神病薬としてはハロペリドール、オランザピンを8週間ラットに投与した。MRIスキャンはベースライン、4週、8週目に行った。ハロペリドール、オランザピンの慢性(8週間)の曝露によって、双方ともに全脳の容積の減少(6~8%)を認めたが、これは主に前頭葉皮質の容積の減少(8~12%)に基づくものであった。海馬、線条体、側脳室、脳梁の容積はコントロールとは有意な差はなく、APDの皮質上への効果とは異なることが示唆された。これらの結果は、MRIスキャンによって確認され、皮質容積の減少は死後に病理学的分析でも確認された。
(さらに、彼らは同じような動物実験で、2013年度に前帯状皮質ACCの厚みの減少を報告している)
http://www.biologicalpsychiatryjournal.com/article/S0006-3223(13)00834-2/fulltext

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2010年

<Moncrieff Jら>
統合失調症では、多くの場合、通常よりも小さい脳と大きな脳室を有することが見出されているが抗精神病薬の影響は不明なままである。そこで我々は、MRI画像の系統的なレビューを行った。抗精神病薬を服用している患者における長期的な脳の変化の研究だけでなく、抗精神病薬にナイーブな患者の研究を比較して検証した。26個の縦断的研究のうち14個の研究にて、治療中における全脳や灰白質の容積の減少や脳室の拡大や脳脊髄液の増加が示されていた。前頭葉は、最も影響を受けていたが、びまん性の変化であった。大規模な研究の1つからは、いろいろな程度の容積の減少が異なる抗精神病薬の使用で見出され、脳の容積の変化は未投薬の場合と比べて投薬を受けていたことに関連していることが見出された。薬物への暴露と脳の体積の変化に関する線形関連分析の結果、混合した結果が得られた。

 抗精神病薬にナイーブであったか最少量が以前に使用されていた患者の21個の研究のうち5個の研究では、コントロールと比べて、いくつかの違いが示された。抗精神病薬に長期間ナイーブであった患者への3個の研究では、全脳の容積の差は報告されていなかった。ハイリスクグループの研究では、コントロールと比べて、全脳の容積や各葉の容積の差は示されてはいなかった。抗精神病薬は、脳の容積を減少させ、脳室や脳脊髄液の容積を増大させる可能性がある証拠が提示されたと言えよう。抗精神病薬は、統合失調症に生じる異常のいくつかに影響を及ぼす可能性がある。

2009年
 
<Luisa Tomelleriら>
 統合失調症の患者では、健常者と比べて、左側の内側前頭葉、下側前頭葉領域の灰白質の容積の減少を認めた。さらに、両側の前頭前皮質、左側側頭極、右側の尾側上側頭回の灰白質の容積と疾患の罹患期間による負の相関を認めた(=罹患期間が長くなると容積が減少する)。抗精神病薬への曝露の累積は、定型抗精神病薬では帯状回、非定型抗精神病薬では灰白質の容積と正の相関を認めた。これらの知見は、統合失調症の前頭、側頭皮質の中に構造学的な異常が進行性に存在し、なおかつ、抗精神病薬が脳の形態に重要な影響を及ぼすことを示唆している。
http://www.ecnp.eu/~/media/Files/ecnp/Projects%20and%20initiatives/Network/Neuroimaging/96%20Tomelleri%20antipsychotics.pdf

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<D Sunら>
 16名の統合失調症のFEP患者(平均年齢21.75歳、17.34~28.10歳)のMRI画像所見を約2年間フォローアップした(FEP開始から2年間、7名は定型抗精神病薬を、7名はリスペリドンやクロザピンの非定型抗精神病薬を内服していた。2名は不明)。脳の萎縮を画像評価するために患者群と対照群との間の皮質表面の縮小率(rates of cortical surface contraction)を比較した。その結果、最初のエピソード統合失調症(FESZ)の患者では背側前頭葉(特に、両側の上前頭回や中前頭回の前方部分)における表面の縮小化(Surface contraction)が有意に高いことが分かった。患者群と健常群における脳の表面の縮小化は同じような解剖学的なパターンを認めたが、患者群では脳の表面全体にわたる縮小化の程度は健常群よりも大きくなっていた(患者群では1年間で0.3mm縮小していくが、これは健常者の変化よりも0~0.2mm速い)。そして、脳の表面の縮小化は灰白質の容積の減少と相関しており、灰白質の容積の減少によるものであることが判明した。
 
 この変化には抗精神病薬の影響も絡んでいる可能性がある。抗精神病薬による比較では定型抗精神病薬を内服した患者では右前頭前皮質領域における脳の表面の縮小化が増大していたが、統計学的な有意差は出なかった(言い換えれば、非定型抗精神病薬でも脳の容積の減少は防止できないと言える)。このように統合失調症の初期の段階における脳の構造変化のパターンが健常者のパターンと似ているという所見は、思春期における正常な脳の発達プロセスと統合失調症に関連する因子が相互作用するという統合失調症の仮説と一致する。統合失調症では神経発達が遅延しているという仮説によって予測されうるように、統合失調症の患者に見られる増強した脳の表面の縮小化は、神経細胞の接続性の重度の損失をもたらし、シナプスの刈り込みの度合が増加していることを反映している所見だろう。
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2008年

<Nancy C. Andreasenのインタビュー記事>
 統合失調症を持つ人々は同じの年齢の健康な人よりも速い速度で脳組織を失っていく。ある患者では1年間で1%も失っていく。今その理由を解明しようとしている。我々が発見したもう1つのことは、薬物によってさらに多くの脳組織を失っていくことである。抗精神病薬は大脳基底核の活性をブロックする。前頭前野は必要な入力を取得できなくなり、抗精神病薬によってシャットダウンされる。それによって精神病症状は減少する。しかし、それによって緩徐ではあるが前頭前野の萎縮も発生していく。従って、これらの薬剤は可能な限り低い用量で使用しなければならないことになる。
(参考記事)
(↑の論文をよく見て、あることに気づいた。論文の中では考察されていないが、画像変化には薬剤の影響が加わっているということである。すなわち、抗精神病薬によって灰白質の容積の減少が増大していっているように思える。)

2006年

<Lynn E. DeLisiらの総説>

2005年

<Paola Dazzanら>
 定型抗精神病薬は、ドーパミン作動系に作用してドーパミンD2受容体をブロックする。一方、非定型抗精神病薬は、ドーパミン作動性受容体に対しては低親和性であり占有率が低く、セロトニン5-HT2A受容体への占有率が高い。これらの様々な薬理作用が脳の構造に対しても様々な効果を生み出すかどうかは不明なままである。そこで我々は、初発の精神病エピソードにある患者に対して、疫学的、非ランダム化のもとで、抗精神病薬治療による脳の構造上に対する様々な影響に対する調査を行った。大規模な疫学調査として統合失調症および他の精神病の被験者を募集し、22名の投薬なしの患者、32名の定型抗精神病薬で治療中の患者(薬剤としては、クロールプロマジン, スルピリド, ハロペリドール, チオリダジン, ドロペリドール, trifluoperazine, zuclopenthixolである。平均CP換算値は269.5 245 mg)、22名の非定型抗精神病薬(薬剤としては、オランザピン, リスペリドン,クエチアピン, sertindole, amisulpirideであり、投与量は表1に示した)にて治療中の患者を評価した。ボクセルベースの高解像度のMRI画像を解析した。

 その結果、MRI解析にて、定型・非定型抗精神病薬の双方が脳の変化と関連していることが示された。しかしながら、定型抗精神病薬よる所見としては、大脳基底核の変化(被殻の肥大)と皮質領域の変化(中心傍小葉、前帯状回、上前頭回、内前頭回、上側頭回、中側頭回、、楔前部の容積の減少)といった広範囲な変化に関連し、非定型抗精神病薬では、特に、視床の容積の増大に関連するように思われた(ただし、非定型抗精神病薬でも基底核の肥大を生じる可能性はある)。これらの変化は、疾患の持続期間、総症状スコア、治療の長さによる差がなかったため、抗精神病薬による脳への影響を反映する可能性が高いものと思われた(特に、前頭葉や側頭葉への影響は、非定型抗精神病薬でも生じるかもしれないが、定型抗精神病薬で特徴的に生じる可能性が高い)。結論として、短期的な治療後にでも、定型抗精神病薬も非定型抗精神病薬も、脳構造に対してはそれぞれが異なる影響を及ぼし得ることを提案したい。
(表1)

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 なお、次のような論文が2005年に発表されているが、今では、この論文の見解は否定的になったと言えよう。

(ハロペリドールでは灰白質の容積の減少を招くが、オランザピンでは生じなかった。)

 では、なぜ、抗精神病薬で灰白質などの容積に変化が生じるのであろうか。そのメカニズムは未だ不明なままであるが、想定されるメカニズムとしては、グリア細胞への影響などが考えられている(グリア細胞数が減る。すなわち、神経への直接的な毒性効果ではなく、グリア細胞への毒性効果として生じる)。

 ハロペリドールとオランザピンの慢性曝露によるグリア細胞への影響を調べた。マカク猿における動物実験では、ハロペリドールとオランザピンの長期曝露によって頭頂葉の灰白質中のグリア細胞は10~18%も減少する。その中でも、影響を最も受けやすいグリア細胞は、アストロサイト(細胞数は20.5%減少、有意差あり)であることが判明した。オリゴデンドロサイトも動物実験では減少したが有意差は統計学的には示されなかった(12.9%減少)。長期的な抗精神病薬治療ではグリア細胞数への影響を考慮しなければならないであろう。

 一方、最近報告された他の動物実験では、神経細胞数やアストロサイトの数は減っておらず、逆に密度が上昇しており、脳の容積の減少は神経網(neuropil)の喪失によるものではないかという指摘がなされている。いずれにせよ、メカニズムはまだ不明であるが、抗精神病薬の長期投与によって用量依存性に脳の容積が減少していくことだけは間違いのない事実であろう。

 なお、疾患候補遺伝子が関与していれば、脳の形態学的な変化が家族性に生じる可能性もあるが、この点に関してはまだ統一した意見は得られてはいない。脳の形態学的な変化は、発病していない親族の同じような脳の部位にも認められたため家族性に生じているのだろうという論文もあるが、家族性には生じないという論文もあり、見解はまだ分かれたままである。なお、炎症(細胞毒性を発揮するサイトカインなど)を絡めて調査した研究論文はないが、炎症が関与している可能性も十分にあろう。

 統合失調症の患者とその親族(未発病のケース)では、共通した領域、すなわち、前頭葉皮質(内側前頭葉、下側前頭葉)、側頭葉皮質、後頭葉、島における灰白質の減少を認めた。

 統合失調症のサブグループによっては灰白質の容積の減少などの脳の形態学的な異常がオーバーラップして家族性に生じるが、それ以外は脳の形態学的な異常は患者と家族の間では共通して生じることはない。

 一方、既に統合失調症の発病時から灰白質の形態異常が生じていることも報告されている。この所見は、疾患本来のプロセスとして脳の形態学的な変化が生じていることを意味する(疾患のプロセスが寄与する割合は不明だが)。
 
 精神病のハイリスク(HR)や初発エピソード(FEP)にある抗精神病薬にナイーブな被験者をボクセルベースの形態計測を行った。その結果、対照群と比較して、HR群もFEP群も一貫性した灰白質の減少を認めた。HR群では、側頭、大脳辺縁系前頭前野の灰白質の減少、FEP群では、側頭葉・島皮質と小脳の灰白質の減少を認めた。精神病の発病に関しては、側頭葉、前帯状皮質、小脳、島における灰白質の減少を特徴とする。さらに、側頭葉の灰白質の減少は、精神病症状の重症度に直接的に関連していることが分かった。精神病への脆弱性は、前頭前野側頭・辺縁系領域の灰白質の減少に関連付けられる。一方、疾患の完全なる発病に関しては、側頭葉、島、前帯状皮質、小脳における灰白質の減少に関連付けられると言えよう。なお、精神病としての症状の発症の基底にある変化は、側頭葉領域における神経解剖学的な変化だと思われる。

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 統合失調症を発症する素因や脆弱性に関連していると思われる神経解剖学的な変化は不明である。統合失調症に対して遺伝的に高リスクだと判定された親族(HRR)733名、474名の統合失調症患者、563名の健常な対照者をボクセルベースの形態計測(VBM)を行い、差動マッピング(SDM)技術を使用してメタ解析を行なった。その結果、レンズ核(被殻と淡蒼球)、扁桃体/海馬傍回、内側前頭前皮質の灰白質の減少は遺伝的素因に関連していることが分かった。そして、両側島皮質、下前頭回、上側頭回、前帯状皮質における灰白質の減少は疾患の発現に関連していることが分かった。どうやら統合失調症を進展させていく遺伝的素因に関連した神経解剖学的変化は、疾患としての臨床症状の発現に寄与しているものとは異なるようである。灰白質の異常が、統合失調症の臨床症状の発現に中心的な役割を果たしている可能性が高いと思われる。

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 神経進行性変化(neuroprogression)を評価するため、アイオワ州のプロスペクティブな研究の患者(202名)と対照被験者(125名)における脳の変化をMRI画像データから解析した。その結果、患者群では、複数の灰白質領域(全脳、前頭葉、視床)、複数の白質領域(全脳、前頭、側頭、頭頂)の有意な減少と、脳脊髄液(側脳室と前頭、側頭、頭頂間溝)の増大が認められた。これらの変化は発症後の早い時期に最も深刻だった。そして患者群のサブセットに深刻なレベルで認められた。さらに、これらの所見は、認識機能障害と関連し、弱いながらも他の臨床所見と相関していた。神経進行性変化による脳の変化は、統合失調症の灰白質と白質の両方に影響を与え、疾患の初期段階で最も深刻に進行すると言えよう(=初発時FEPの時における治療が非常に大切である。まだ具体的な方法は発見されていないが、FEPの時期に灰白質の容積の減少を阻止するような治療を積極的に行うべきである。この点に関するヒントが述べられているレビューを次々回のブログで紹介する予定である)。
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 どうやら発病の初期に急激に脳の形態学的な変化が生じていくようだ。かといって未治療のままで長く放置していても灰白質の容積はどんどん減少していってしまうようだ。

 抗精神病薬にナイーブな統合失調症の未治療の持続期間(duration of untreated psychosis、DUP)と脳の灰白質容積の異常が関連しているかどうかは現時点では不明なままである。そこで、患者群を短いDUP(~26週間まで)と長いDUP(>26週以上)とに二分してボクセルベースの脳内の容積を測定して解析した。その結果、両側海馬傍回、右上側頭回、左紡錘状回、左中側頭回、右上前頭回において3群の間で有意な変化が認められた。対照群と比較して、長いDUP群では、これらすべての領域で有意に小さい容積を示していた。さらに、短いDUP群と比較して、長いDUPでは、右上側頭回、左紡錘状回、左中側頭回で容積は有意に小さくなっていた。この所見は、DUPが長くなると側頭葉と後頭側頭部の灰白質の容積の減少を招いてしまうことを示唆している。未治療の期間が長い精神病における脳の構造学的な変化は、貧しい治療応答と長期予後に影響する可能性がある(特に、初発時における未治療である期間の長さが大きな問題となろう)。

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 一方、こういった灰白質の容積の減少は一部は薬物療法によって緩和できるという意見もある。

 灰白質の容積減少などの脳の形態学的な変化の基礎となる病理学的プロセスは、疾患の最初のステージにおいて特に活発に生じていくように思えるが、薬理学的治療によって少なくとも部分的には緩和できるものと思われる。
(クロザピンやオランザピンによって前頭葉の容積の減少を小さくすることができる)

 これまでのことをまとめると、統合失調症で観察される灰白質の容積減少などの脳の形態学的な変化は、疾患のプロセスそのものによる変化であり防ぎようがなく、初発や再発時の未治療の期間が長くなればなるほど進行していき、その上に薬物療法の影響が加わればさらに深刻になっていく。さらに、FGAでもSGAでも高用量になると薬物療法の用量に起因する影響が加わり、灰白質の容積減少などの脳の構造はますます変化していってしまう。特に、抗精神病薬を高用量で維持していくことは脳の形態学的な変化を強めることになり非常に危険である。しかし、もし、適切な用量の薬物療法を行えば脳の形態学的な変化を緩和できる可能性もあり、できるだけ少量で3年~数年程度コントロールしていき再発防止に努めることがベターな選択だと現時点では言えよう(長期的な維持療法は予後を、特に社会的な予後を悪化させてしまうことも既に指摘されている)。
(関連ブログ2013年10月2日 抗精神病薬の長期使用は予後に貢献していない その1) 
 最後に、現在では第二世代の非定型抗精神病薬が幅広く双極性障害でも使用され、再発予防の維持療法としても使用されるようになってきている。しかし、はたしてそれで良いのだろうかという疑問が生じる。私は、双極性障害でも統合失調症のような抗精神病薬の投与量に依存した灰白質の容積の減少といった脳への障害が生じるおそれがあるのではなかろうかと懸念している。
 
 健常者や双極性障害の患者への抗精神病薬の脳への長期的な影響を調べた研究はまだ一切成されていない。しかも、健常者に対してそのような研究を施すこと自体が不可能である。しかし、既に、双極性障害の患者に対する第二世代の非定型抗精神病薬の長期投与が始まっている。統合失調症のような変化が抗精神病薬による長期投与によって双極性障害においても生じないとは限らない。双極性障害における非定型抗精神病薬の長期投与における影響を調べた研究報告が少しでも早く出されることを祈るしかない。
 
 なお、双極性障害では統合失調症とは異なり初発エピソード中の灰白質の容積の減少は生じないことが既に示されている(異なる結果を示す研究論文もあるのだが)。

<CagriYukselらの論文。2012年>
 統合失調症(SZ)と双極性障害(BD)は、危険因子、神経生物学的特徴、臨床症状、帰結などがオーバーラップしていることを示す証拠が増えてきている。SZは、前頭、側頭、皮質下の灰白質(GM)の異常などの脳の構造学的変化によって特徴づけらており、多くの論文で報告されている。最近のボクセルベースの形態計測(VBM)研究やメタアナリシスでは、BDにおいても認められる範囲は小さいもの、SZとオーバーラップしたような灰白質の減少が報告されている。しかし、SZと精神病症状を呈するBDの間で灰白質を比較した研究はほとんどなされていない。そこで、全脳のVBM用いて、SZ患者58名、精神病症状を呈しているBD患者28名、43名の対照群の灰白質の容積を比較検討した(薬剤の使用状況に関しては表1を参照)。
 
 SZ患者群では、対照群と比べて、前頭、側頭領域における灰白質の容積の減少していた。SZ患者群を精神病症状を呈しているBD患者群比べた場合は、膝下皮質における灰白質の容積の減少が存在することが示された。一方、SZ患者群では、対照と比較して、右後部小脳において灰白質の容積は増加していた。しかし、精神病症状を呈しているBD患者群では、対照群やSZ患者と比較した時の有意な灰白質の容積の減少は認められなかった。これらの所見は、灰白質の異常に関しては、SZと比較して、精神病症状を呈しているBD患者では有意な変化はないと結論づけることができる。この脳の変化は、疾患特異的な要因でも生じるが、BDで一般的に使用されるようになった薬剤(非定型抗精神病薬)にも起因する可能性がある(ただし、この研究は薬剤の投与期間が考慮されずに解析されているため、薬剤の投与期間が加味されて解析された場合は結果が異なってくる可能性があろう)。

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その他の論文としては、

 精神病症状を呈する双極性障害では脳の灰白質などの形態に関しては健常者との差はない。なお、統合失調感情障害では、双極性障害と統合失調症の中間のレベルの変化を示す。

 統合失調症(SZ)と双極性障害(BD)でオーバーラップする脳の形態学的な変化が認められたが(前頭前野、視床、尾状核、内側側頭葉、右島)、SZでは扁桃体と左島の変化が特徴的であった。しかし、容積の減少などの変化の度合いはSZの方がはるかに広範囲であった(注; この研究でも抗精神病薬という因子が全く考慮されていない。この論文において双極性障害でも認められた統合失調症とオーバーラップするような脳の構造の変化は抗精神病薬の影響で生じた可能性は否定できない)。

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 SZではBDと比べて、大脳皮質(背外側や内側前頭皮質、中心前回)、小脳、視床の容積が減少していた。皮質下の灰白質の容積の減少はSZだけでなくBDでも認められたが、被殻の容積の減少はSZに特徴的であった(注; この研究では抗精神病薬という因子が考慮されていたかは本文が見れないため不明である)。

 左吻側前帯状皮質(ACC)、右前頭・島皮質における灰白質の減少はBDと関連している。ただし、右前頭・島皮質における灰白質の減少は双極性障害の病初期には認められなかった。しかし、経過の長い慢性のBD患者では、逆に、大脳基底核、膝下ACC、扁桃体における灰白質の容積は増大していた。特に、リチウムを内服していた患者では減少する領域であるACCの灰白質の容積は増加に転じていた。

 リチウム、バルプロ酸(VPA)、抗精神病薬を内服しているBD患者を比較した。その結果、リチウムのみを内服していた患者では、他の群や対照群と比較して灰白質の容積の増加を認めた。VPAを内服していた患者では灰白質の容積の増加は認められなかった。このリチウムによる灰白質の容積の増加という変化はリチウム治療効果神経保護作用、神経栄養効果など)を反映しているものと思われる。

 上の論文が事実であるとすれば、リチウムによって抗精神病薬による灰白質の減少という事象に対抗できるのかもしれない。

 いずれにせよ、双極性障害における抗精神病薬の長期投与における脳の形態への影響を調査していくことが今後の大きな課題だと言えよう。