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 前回はビデオゲーム(特に、暴力的な内容のビデオゲーム)の脳や心理状態への有害作用について触れたが、今回は、その逆の脳への有益な作用について触れてみたい。

 本年2月に、スーパーマリオでプレイすると脳の可塑性が誘導される。灰白質の変化は市販のビデオゲームでトレーニングした結果である。という衝撃的なタイトルの論文がNatureに発表された。

ビデオゲームをすることは脳に非常に良いというのである。
 
 このタイトルを見て、「スーパーマリオ・ギャラクシー」を必死でプレイしていた私は間違ってはいなかったのだと悟ったのであった。いい歳こいて何を言っているのかと笑われてしまいそうだが、私の脳にはとにかく良いことだったのである。
 
 (ただし、発表された論文で使われていたスーパーマリオは「スーパーマリオ64」であった。なんだ、もっと簡単なやつじゃないか^^;)
 
 本文が見れないので、論文の要旨だけを紹介すると、次のようになっている。

 ビデオゲームは、広く普及した娯楽活動であり、プレイするためには多くの複雑な認知機能や運動機能を要求する。従って、ゲームをすることは、いくつかの脳のスキルを強くトレーニングすることになると考えることができる。しかし、ゲームによって誘導される脳の構造的な可塑性に関してはこれまで調査されていない。

 ビデオゲームを2ヶ月間トレーニング(1日に少なくとも30分間)した群とコントロール群との比較にて、右の海馬(HC)右背外側前頭前皮質(DLPFC)および両側小脳灰白質(GM)が有意に増大していることを見出した。HCの増大は自己中心的なことよりも他者中心へとナビゲーション戦略が変化することと相関していた。そして、参加者のビデオゲームへの欲求がHCやDLPFCのGMの増大と相関しており、ゲームへの欲求は容積を変化させる予測的な役割を示唆する証拠となることが分かった。
 
 ナビゲーション戦略に関する行動を変化させる証拠からは、ビデオゲームでのトレーニングは、空間ナビゲーション能力、戦略的計画能力、ワーキングメモリー、運動遂行機能にとって重要な脳の領域を増強させると言える。今回提示されたビデオゲームのトレーニング結果からは、ビデオゲームを精神疾患、例えば、海馬や前頭前皮質の小さい容積の者、心的外傷後ストレス障害、統合失調症、神経変性疾患などの既知の危険因子に対抗するために使用することができよう。

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 なお、この論文に関してはウエブサイトの記事では以下のように紹介されている。

 ビデオゲームは、巧みな手の運動能力だけでなく、空間的見当識(空間ナビゲーション能力)、記憶形成、戦略的な計画を担当している脳の領域の容積の増大を引き起こすことができる。これは、マックスプランク発達研究所とシャリテ大学医学部で行われた新しい研究である。ビデオゲームのプラスの効果は精神疾患を標的とした治療的な介入になることを証明するものであろう。

 ビデオゲームが脳にどのような影響を与えるか調べるために、ベルリンの科学者が、1日に30分、2ヶ月間にわたってビデオゲーム「スーパーマリオ64」をプレイする大人を調査した。対照群は、ビデオゲームをしていない大人である。脳容積は磁気共鳴画像(MRI)を用いて測定した。対照群と比較して、ビデオゲーム群は、灰白質の容積が増加していた。これらの可塑的な効果は、右側海馬、右側前頭前皮質、小脳で観察された。これらの脳の領域は、空間ナビゲーション、記憶形成、戦略的な計画、手の巧緻な運動能力などの機能に関与している領域である。興味深いことに、これらの変化はビデオゲームをすることを希望している参加者に顕著に認められた。

 「以前の研究では、ビデオゲーマーの脳構造の違いを明らかにしたが、本研究では、ビデオゲームと脳の容積の増加との間の直接的な因果関係を実証することができた。これは、特定の脳の領域は、ビデオゲームによって訓練することができることを証明する研究である」と、マックス・プランク発達研究所・心理学研究センターのSimone Kuhn氏は述べている。
 
「多くの患者が他の医学的介入よりもビデオゲームを容易に受け入れることであろう」と、共同研究者で精神科医であるシャリテ大学医学部のJurgen Gallinat氏が付け加えた。メンタルヘルスの問題を抱えている患者に対するビデオゲームの効果を調査するためにはさらなる研究が必要である。なお、PTSDの治療としてのビデオゲームの効果に関する研究が既に行われている。と、このように紹介されていた。

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 さらに、同じ研究グループが、別の論文を本年度に発表している。
 
 ビデオゲームは青少年の共通のレクリエーション活動である。最近の研究では、ビデオゲームでよく遊ぶことは認知機能の改善と関連することが示されている。認知機能の改善は前頭前皮質の灰白質の変化に関連している。ビデオゲームに関連する人間の脳構造に関する研究は少ない。そこで、14歳のゲーマーの少年を調査した。皮質の全表面の厚さは、セルフレポートのビデオゲーム(時間/週)をプレイした時間と相関していた。左背外側前頭前皮質(dorsolateral prefrontal cortex、DLPFC)と左前頭眼野(frontal eye fields、FEFs)における皮質の厚さはビデオゲームの時間と強固な正の相関関係があることが観察された。一方、ビデオゲームで遊ぶ頻度と皮質層の厚さとの関連性は示されなかった。
 
 DLPFCは、遂行機能のコントロールと戦略を計画することを担う中心となる領域だが、この領域はビデオゲームで上手に遊ぶためには必須の認知機能の領域である。FEFsは、プログラミング、眼球運動の遂行、視空間に対する注意の配分においては重要であり、視覚機能と運動機能の統合に関する領域であり、ビデオゲームの最中にはその領域がプロセスに関与することになる。今回の結果は、以前に報告されたビデオゲームによる認知機能の改善の生物学的な基礎となるメカニズムを表現しているものであろうが、さらなる研究が必要である。

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 さらに、同じ研究グループは次のような論文も本年度に発表している。

 ビデオゲームで遊んだ時間の総量(joystick years、ジョイステック年量と呼ぶ)は、嗅内皮質、海馬、後頭葉の容積に関連する。ビデオゲームは子供や大人にとって人気のあるレジャー活動であり、脳の構造に影響を与える可能性がある。我々は以前、ビデオゲームで頻繁に遊ぶことと腹側線条体の灰白質(GM)の容積との間には正の相関があることを青少年のサンプルで示した。青少年で観察された効果は、神経への長期的な潜在的な影響のほんの一部を反映しているに過ぎない可能性があるため、今回はビデオゲームで遊ぶことと脳の構造的な変化との相関がないかを成人で調査した。
 
 その結果、私たちは、両側の海馬傍回領域(嗅内皮質)左後頭葉/下頭頂葉のGMとジョイスティック年量との間に有意な正の相関があることを発見した。一方、探索的分析では、嗅内皮質のGMの容積は、ビデオゲームで遊ぶことによって予測可能であり、例えば、論理/パズルゲームやプラットフォームゲームで遊べばプラスに作用し、そして、アクション・ベースのロールプレイングゲームで遊べばマイナスに作用し、ビデオゲームのジャンルで変化することが分かった。さらに、ジョイスティック年量は海馬の体積と正の相関を認めた。これらの所見は、ナビゲーションと視覚的注意に適応した結果、その領域に関する神経の可塑性が生じたことを示唆している所見である。
 日本の研究者(名古屋大学ら)もビデオゲームによる灰白質の変化を報告している。

 最近の研究では、アクションビデオゲームのプレイヤーは、非ゲーム・プレーヤーと比較して視空間認知タスクにおいて優れたパフォーマンスを発揮できることを示唆している。しかし、この視空間認知能力の優位性の根底にあるメカニズムは未知のままである。そこで、アクションビデオゲームの熟練者と非熟練者における灰白質の容積を比較した。その結果、熟練者では右後部・頭頂皮質で灰白質の容積は有意に増加していた。さらに、この変化は、視覚的なワーキングメモリタスクのタスクパフォーマンスと相関していた。これらの結果は、ビデオゲームプレイによる脳の構造の変化は、アクションビデオゲームの熟練者の優れた視空間認知能力に結びついていることを示唆している。

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 他にも、脳の特定の領域の容積が増大することが報告されている。
 
 プロフェッショナル・オンラインゲーマーでは、ゲーム歴が長くなる程、認知の柔軟性が増し、大脳皮質(右上前頭回、右頭頂状回、右中心前回)の容積が増大する。そして、前頭前野の皮質の厚さの増加は、プロゲームリーグの優勝率と相関していた。前頭前野と頭頂皮質での皮質の厚さの増加はウィスコンシンカード分類検査の高性能化と関連していた。

 なお、脳の特定の領域の容積はゲーム嗜癖(中毒)や依存になっても変化するため、脳のある領域の容積が増加したとしても、必ずしもプラスの効果かどうかは断定できないため、その解釈には注意する必要があろう(脳の容積の増大=プラスの効果であるとは単純に断定することはできない)。

 次のような報告もある。 

 オンラインゲーム中毒(on-line game addiction、POGA)の患者やプロのビデオゲーム・プレイヤーは、ビデオゲームを長時間プレイするが、異なる結果を提示する。前帯状皮質、視床、後頭-側頭領域は、プロゲーマーやPOGAでは変化する可能性がある。健常群と比較して、POGA群では、衝動性や保続エラーが増加し、左視床の灰白質の容積は増大したが、両側の下側頭葉脳回、右中後頭回、左下後頭回では灰白質の容積は減少した。一方、健常群と比較して、プロゲーマー群では、左帯状回における灰白質の容積は増加していたが、左中後頭回、右下側頭回の灰白質容積は減少していた。さらに、POGA群との比較では、プロゲーマー群は左帯状回で灰白質の容積は増加しており、左視床の灰白質の容積は減少していた。今回の所見は、プロゲーマー群の左帯状回とPOGA群の左視床の灰白質の容積は、プロゲーマーとPOGAの異なる臨床的特徴に寄与している可能性があることを示唆している。

 しかし、どうやら、ビデオゲームで遊ぶことは、特定の脳の領域のトレーニングとなり、その領域の脳の容積は増大すると言えよう。では、その領域の活性化自体はどうなるのであろうか。もし、タスク処理のために高い活性化が長時間も続くようなことになれば、その領域はオーバーヒートしてしまうのではなかろうか。そのようにオーバーヒートを防ぐために灰白質の容積が増大したものと思われる。

 例えば、同じタスクを1台のパソコンをフル回転させて行う場合よりも、何台ものパソコンで並列処理して行う場合(=灰白質の増大のケース)を考えてみれば、1台のパソコン自体の負荷は少なくなろう。従って、灰白質が増大した分、その領域はそれほど活性化しなくても高いタスクパフォーマンスを維持できるようになるのではと予想される。

 実際に、ビデオゲームでトレーニングをすることで特定の脳の領域(例えば、DLPFC)をそんなに活性化させなくてもタスクパフォーマンスを高いレベルで行えるようになることが報告されている。容積が増大したことで、その領域の脳のタスクの効率性が増す訳である。

 認知トレーニングによって脳機能の変化が誘導されることは知られているが、その認知機能の可塑性に関してはまだ十分に調査されていない。そこで、複雑な視覚運動タスクによって脳機能がどのように変化するかを調査した。宇宙要塞ゲームを使用し、特定のスキルを向上させるためにタスクの優先順位を管理したハイブリッド可変性優先トレーニング(Hybrid Variable-Priority Training、HVT)と、単純に練習するためだけの全強調性レーニング(Full Emphasis Training、FET)の効果を比較した。被験者は最高得点を出すようにプレイすることを指示された。HVTは30時間、FETは6時間のトレーニングを行った。
 
 FETに比べて、HVTでトレーニングをした被験者は高いパフォーマンスに達し、視空間注意やゴールを目指す動作に関連した脳の領域の活性化は小さくなることが示された。さらに、HVT群では、パフォーパンスの大きな向上と共に、右背外側前頭前皮質(DLPFC)の活性化は小さくなることを示した。関心領域の分析から、脳の活性化の減少は、向上したタスクパフォーマンスと相関していることが判明した。本研究からは、HVTとFETの有益性が分離できたことで、視空間注意と目標指向性運動計画をトレーニングし向上させる神経生物学的メカニズムは、ゲームの遂行を制御したり、ゲームのルールを管理することに関連すると言える。
 さらに、特定の領域間の接続性の効率や注意の配分効率が高まることでタスクパフォーマンスが向上することも報告されている。

 アクションビデオゲームによって、視覚などの選択的な注意を早期に効率よく配分できるようになることが知られている。この研究では、ゲーマーと非ゲーマーを比較することで、注意力の増強が要求された時の注意ネットワークの作動効率や不正解のプロセスを検証した。その結果、ゲーマーでは、不正解の選択肢を選ばないようにするために、無関係な情報を初期の段階で適切にフィルタリングしていることが示唆された。そして、ゲーマーでは、視覚的な運動の影響を受けやすい脳の領域(visual motion-sensitive area、MT / MST)の活性化が小さくなることが分かった。予想されたように、非ゲーマーでは、注意力の増加を要求された時に、前頭・頭頂ネットワークは大きく動員された。しかし、ゲーマーではこのネットワークの動員はわずかなものであった。
 
 前頭・頭頂ネットワークが担う機能は、トップダウンの注意の柔軟な割り当てを制御する接続であろうと仮定されているが、アクションゲームのプレイヤーにおける前頭・頭頂ネットワークの活性の減少は、無関係な情報をより効率的に早期にフィルタリングすることを可能にし、注意リソースをより容易に自動的に割り当てることができることを可能にしている変化であろう。

 アクションビデオゲームを行うことは処理速度を上げることを訓練することになり、注意リソースの配分効率を向上させることができる。ゲームトレーニング群では、対照群と比較して、複雑な視覚タスクを実行する際により少ない注意リソースを使用することが分かった。これは注意リソースの配分効率を高めていることを示唆している。こういったアクションビデオゲームによる認知効率の増加は若年成人だけでなく高齢者でも認められた。

 最近の研究では、アクションビデオゲームのプレイヤーは、知覚、注意、認知タスクにおいて非プレーヤーの機能を上回ることが明らかにされている。今回の研究では、アクションビデオゲームに上達することは、短く提示された視覚刺激に対する反応能力の向上(=短い提示にも係らず素早く効率的に反応すること)に関連している可能性があることが分かった。アクションビデオゲームに上達することは、視覚や認知プロセスがより効率化することに結びつくことになると言えよう。

 脳の情報処理の効率性が増す。これは、パソコンで言えば、インテルのCPUがより進化して、高速処理と省電力化が同時に可能になっていくのと同じようなすばらしい脳の進歩だと言えよう

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 しかし、CPUが進化しても実装メモリー(RAM)も進化しないとパソコンは使い物にはならない(実装メモリーの書込みや更新の高速化、容量の増加、など)。パソコンにおける実装メモリーに相当するのがワーキングメモリーなどであろうが、それも高速化されるのであろうか。
 
 次の論文によれば、ビデオゲームで遊ぶと脳内の実装メモリー(ワーキングメモリー)の書込みや消去するスピードも向上するようである。

 「一人称シューティング First Person Shooter(FPS)」というゲームは、迅速に反応し、視覚聴覚刺激の動きの速さを監視し、誤った行動を抑制するために、プレイヤーには柔軟なマインドセットを発展させることが要求される。この研究では、FPSが他の認知制御タスクを一般化して増強させるかどうかを検証した(ゲームではなくて、N-backタスクなどで検証した)。
 
 その結果、経験豊富なビデオゲームプレイヤー(VGPs)は、ビデオゲームを経験していない者(NVGPs)と比べて、より速い正確なモニターリングとワーキングメモリーの更新を行えることが判明し、ゴーシグナルに速く反応していたが、パフォーマンスを停止する機能はNVGPsと同程度であったを示した。今回の知見は、FPSゲームで遊ぶことは、衝動性に影響を与えることはなく、タスクに関連する情報を柔軟に更新する機能が強化されることを意味している(=ワーキングメモリーに関連する機能が向上する)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0

RAMディスク

 ただし、ワーキングメモリーの容量自体が増すかどうかはまだ議論が分かれているようだ。

 アクションビデオゲームでは、広範囲なタスクが要求されるため、感覚刺激から根拠となる有意な情報を抽出する能力が促進される。さらに、視覚感度が向上し、視覚的メモリーに保持される情報の容量や時間が拡張され、意思決定のために必要な情報を高いレベルで戦略的に活用する能力が向上すると考えらている。本研究では、アクションビデオゲームによる視覚的なメモリーへの効果について検証したが、視覚刺激に対する感受性は亢進するが、メモリーバッファー内に大きな情報を保持する力が強化される訳ではないことが分かった。

 ここで、ビデオゲームにも様々なジャンルがある。非アクションゲームでもアクションゲームと同じような認知機能を向上させる効果があるのかどうかが気になってくる。この点に関しては、次のような報告がある。
 
 アクションビデオゲームと認知機能や知覚機能の強化との因果関係を提示する報告がなされてきている。しかしながら、他のビデオゲームをプレイすることの利点はまだ調べられていない。そこで、我々は、非アクションゲームをプレイすることでも認知機能を向上させるかどうかを検証した。モバイルデバイス(iPhone / iPod Touch)のゲームを1日に1時間、週に5日、4週間(計20時間)の効果を調べた。ゲームの内容は、アクション、空間記憶、マッチ3、隠されたオブジェクト、エージェントベースのライフシミュレーションの5つである。
 
 その結果、アクションゲームは、注意が揺らぐことが軽減し、認知コントロールと複数のオブジェクトを追跡するタスクが向上した。マッチ3、空間記憶、隠されたオブジェクトのゲームは視覚的な検索パフォーマンスを向上させたが、後者の2つのゲームは、空間へのワーキングメモリーを向上させた。マッチ3とアクションゲームはさらに複雑な言葉のスパンが向上した。

 認知機能の向上はアクションビデオゲームのみに限定されず、異なるゲームでも異なる認知機能を増強させた。そして、同時に他の認知機能も向上した。ビデオゲームで特定の認知能力を訓練することは、共通の基盤となるような認知機能を向上できると言えよう。これらの結果は、多くのビデオゲームに関連した認知機能の向上は、遂行機能や注意制御などの一般的な幅広い認知システムを訓練したことに起因するのではなく、ゲーム中に特定の認知プロセスを頻繁に利用したことに由来することを示唆している。従って、多くのビデオゲームのトレーニングに関連した認知機能の改善は、近接的な転送学習の効果(near-transfer effects)に起因するものだと言える。

 従って、アクションビデオゲームだけでなく、非アクションビデオゲームをプレイすることでも転送学習というメカニズムを介して他の認知機能を向上させる効果あると言えよう。通勤中に電車の中でスマートフォンでゲームをすることは、通勤時間を利用した認知トレーニングに成り得るのである。
 
 この点に関して、テトリスをプレイすると、遂行機能、ワーキングメモリー、処理速度が飛躍的に向上するという論文がある。通勤電車の中で認知トレーニングも兼ねてゲームをするのならばテトリスやぷよぷよといった落下型パズルゲームがいいのかもしれない。

テトリス
 
 さらに、知的な面でのビデオゲームの効果も報告されている。すなわち、ビデオゲームは問題解決能力を向上させるというのである。

 一部の研究者は、ビデオゲームには良い学習効果があり、問題解決能力を促進することができることを提唱している。そこで、戦略的なビデオゲーム(ロールプレイイングゲームや戦略ゲーム)をすることで問題を解く能力が向上するかどうかを調査した(1,492名のハイスクールの学生)。その結果、戦略的ではないビデオゲームよりも戦略的なビデオゲームをプレイすることは熟考して問題を解く能力が向上することが示された。さらに、戦略的なビデオゲームによる問題解決能力の向上は、間接的ではあるが、学業の達成度が高くなることを予測できることが示された。戦略的なビデオゲームが問題解決能力を促進し、間接的に学業の成績を予測することを示すこの新たな知見は、青少年の何百万人もが毎日ビデオゲームをプレイすることを考えると重要な所見だと言えよう。

信長の野望

 学業成績を伸ばそうと思ったら「信長の野望」などの戦略的なビデオゲームをすべきなのである。高校生や大学生の諸君、人を斬りまくるような「三國無双」や「戦国無双」のようなアクションビデオゲームばかりせずに、「信長の野望」をもっとプレイしようじゃないか。「信長の野望」も戦国武将気分を満喫できまっせ。
http://www.gamecity.ne.jp/sengoku/ranking.html

(信長の野望プロモーションビデオ)
http://www.youtube.com/watch?v=Zsrr_PkK0zY
(三國無双プロモーションビデオ)
http://www.youtube.com/watch?v=BZMO82NMIiM
(戦国無双プロモーションビデオ)
http://www.youtube.com/watch?v=5VguMtuXzkw

(プロモーションビデオを見ているとプレイしたくなってきますね。よく見ると、実は全て同じソフト会社だったんですね。汗;)

 さらに、認知機能を向上させようという意志を持ってゲームをしないと効果が出ないことも示されている。

 本研究では、ゲーム体験が自分にとって何を意味するのかについて、6つのカテゴリー、感情的な反応(Emotional Responses)、ゲームプレイ(Game Play)、ソーシャル(Social)、ゲームの成果(Outcomes of Game Play)、目標(Goals)、個人的なクオリティ(Personal Qualities)について焦点を当てて調査した。その結果、以前の研究結果を確認し、ビデオゲームをすることは楽しい経験であり、強い社会的側面が組み込まれており、目的指向(goal-directed)が高いものであることが示された。自己決定理論は、本来の動機付けられた行動に関して、自律性、能力、関連性という心理的な要求の点から理解しようとする理論であるが、今回の結果を理解する上で最も関連性のある理論として提唱することができる(自己決定理論。ビデオゲームで認知機能を高めようと思ったら、楽しむと同時に、認知機能を向上させたいという目的指向を持ってゲームを行うことが重要である)。

 ここで、疑問が生じる。もし、脳の機能が損なわれていても、ビデオゲームによる効果が発揮されるのかということである。もし、疾患によって脳の認知機能が損なわれたとしてもビデオゲームによって再び回復していくのであれば、ビデオゲームは認知機能への良いリハビリテーションとなることであろう。
 
 この点に関しては、脳卒中などにおけるビデオゲームトレーニングへの期待が次のように述べられている。

 人類は、新しいスキルを習得し、経験することで行動をも変化させることができる。人類は信じられないほどの能力を有していると言えるが、パフォーマンスの強化に関してはトレーニングのパラメータによって強く制限されており、しかも、一般化の証拠はほとんどなく、研究結果によって異なっている。このようなパフォーマンスを強化する上での特異性は、一般的な学習の促進を目的とした現実世界におけるトレーニングやリハビリプログラムを開発する上での大きな障害となっている。
 
 これらの特徴的な所見とは対照的に、過去10年間の研究では、「アクションビデオゲーム」でトレーニングをすることは、タスクの内容を越えて転送され、様々な学習効果を生み出すことが示されている。この観点から、アクションビデオゲームは、リハビリテーションの分野では、脳卒中後の、弱視への、他にも、様々な精密性が要求させるような仕事(内視鏡手術、無人ドローンの操縦、など)へのトレーニングになるものとして大きな関心が寄せられてきている。
 
 これまでの主な焦点は、アクション・ゲームによる機能強化の可能性の大きさについて議論にされているが、最近の研究では、アクション・ゲームの効果の根底にあるメカニズムの解明に焦点が当てられており、明確な目的を持った多くのビデオゲームを設計して使用する研究が進められている。ゲームプレイは、新しいタスクによる即時の利点(1回目のトレーニング直後からパフォーマンスが向上すること)を提示することはないのかもしれないが、むしろ、アクションビデオゲームプレイの真の効果は、新しいタスクを学習する能力を強化することにあるのかもしれない。このようなメカニズムからは、アクションビデオゲームは学習の転送という現象を生み出すことができるリハビリトレーニングとして機能するのではなかろうか(例えば、視覚・空間への注意力が増すことは、別の効果に転送されて、課題への正解率を増す効果を生み出す)。

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 実際に、亜急性脳卒中患者へのアクションビデオゲームの治療効果が報告されている。

 ビデオゲームベースの治療は、亜急性脳卒中患者などの神経学的状態におけるバランス機能を改善するのに有効なツールとして浮上してきている。本研究では片麻痺を有する亜急性期の脳卒中患者のバランス機能などの機能障害に対する有効性を調査した。トレーニングはWiiフィットで行われて、従来のトレーニング方法と比較された。その結果、Wiiフィットによるトレーニングはバランス機能や日常生活の活動性を向上させることに関しては従来のバランス療法よりも効果的であることが判明した。従来の治療へのアドオンとしてのWiiフィットによるバランス訓練は、亜急性脳卒中の患者のバランス機能や他の障害を減少させることに関しては、従来の治療法だけで行う場合よりも効果的であると言えよう。

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 さらに、外傷性脳損傷(Traumatic brain injury、TBI)への効果も報告されている。
 (TBIとは)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%96%E5%82%B7%E6%80%A7%E8%84%B3%E6%90%8D%E5%82%B7

 アクションビデオゲームは、様々な認知機能向上させたり(情報処理の高速化など)、注意力のスキルを向上させる証拠がある。本研究の目的は、注意障害と執行機能障害を有する外傷性脳損傷(TBI)のリハビリを支援するための新しい適応型ビデオゲームを開発することであった。TBI患者では、精神運動能力の遅さや、注意を集中することの困難さがあり、認知セットを長時間維持することができず、同時に異なる処理をすることが困難であり、意図的に計画して行動することができない。そこで、これらの機能を活性化し強化するためのビデオゲームを設計した(ゲームの内容については省略するが、視空間タスクや、同時に2つのタスクを実行したり、タスクの切り替えをするような内容である)。その結果、ゲームによって認知能力(遂行機能)が強化したことや注意の制御が改善したことが確認された。

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 脳卒中やTBIで損なわれた認知機能を回復させる効果を有するのであれば、加齢によって低下した高齢者の認知機能を回復させる効果も期待できるのではと思える。

 しかし、高齢者にも効果があだろうと想定されてはいたが、2011年までは、ビデオゲームの高齢者の認知機能への大きな効果は報告されていなかった。

 高齢者とコンピュータベースの認知機能トレーニングの有効性を調べるためにシステマティックレビューを行った(55歳以上。ただし、アルツハイマー病または軽度認知障害MCIを持っていない高齢者のみ)。1984~2011年までに行われた38個の研究が選択基準に合致し、さらに、使用されたプログラムの種類によって古典的な認知訓練タスク、神経心理学的ソフトウェア、ビデオゲームという3つのグループに分類した。トレーニング前後の効果(エフェクト)サイズは、古典的な認知トレーニングでは0.06~6.32、神経心理学的なソフトウェアでは0.19~7.14、ビデオゲームでは0.09~1.70の範囲であった(2011年の時点ではまだビデオゲームでのエフェクトサイズは小さく、大きな効果は提示されていなかったのである)。ほとんどの研究では、トレーニングを完了させたり、トレーニングの恩恵を受ける上で技術的に精通している必要はなかったと報告されていた。全体的に言えば、今回の調査結果は、紙と鉛筆といった伝統的な認知トレーニングと同等かそれ以上の効果があり、コンピュータ化された認知トレーニングは効果的であり、しかも、少ない労作で済むベターな選択肢であることを示唆している(なお、論文の本文では、まだエフェクトサイズは小さいものの、ビデオゲームも高齢者の反応時間、処理速度、実行機能、グローバルな認知機能を増強する有効な手段になり得るであろうと述べられている)。

 しかし、遂に2013年に、高齢者でもビデオゲームは大きな効果を有するという報告が遂になされたのである。この点に関しては、既にこのブログでも触れさせてもらっている。

(NeuroRacerのデモ動画)

http://www.youtube.com/watch?v=PbsGtFgEgdk

 昨年度のNatureに発表された論文は、今はPubMed上でオープンテキストとなった。その論文では以下のように要約されている。

 認知機能の制御は、神経プロセスの集合によって成されているが、認知機能を制御することで目標に向かうことができ、人と複雑な環境との対話が可能になる。同時に複数の目標(マルチタスキング)を達成するような認知機能の制御訓練に定期的にチャレンジすることで、人類は基本的な情報処理能力の限界を越えることができるようになる。マルチタスキングな動作が要求されることは、テクノロジーとしては現代社会では当たり前になってきており、その結果、高齢者におけるマルチタスクの困難さや認知機能がうまく制御できないことが問題となる事例が増えてきている(高齢者の操作ミスによる交通事故などが該当しよう)。
 
 今回、我々は、三次元ビデオゲーム(NeuroRacer)でマルチタスクパフォーマンスを評価したが、20~79歳の成人では加齢に伴いマルチタスクパフォーマンス能力が直線的に低下していくことを認めた。しかし、NeuroRacerの適応型バージョン(マルチタスクトレーニングモード)をプレイすることで、60~85歳の高齢者は、マルチタスキングコストを対照群よりも減少させた。それは、トレーニングを受けていない20歳の成人の達成度を超えたレベルに到達しており、その後も6ヶ月間持続した。さらに、加齢による認知機能の制御能力の低下を脳波を用いて測定したが、認知機能の制御能力はマルチタスクトレーニングによって修復されたことが分かった(正中前頭部のシータ波の増強、前頭-後頭部のシータコヒーレンスの増強)。
 
 今回のトレーニングはパフォーマンス上の利点をもたらしたが、それは、トレーニングを受けていないような認知機能までもが向上しており(注意を維持することやワーキングメモリーが増強した)、正中前頭部のシータ波の増加を伴っており、6カ月後の時点まで持続するような注意能力やマルチタスク能力の加速的な改善であった。今回の知見は、認知制御システムを担っている前頭前野において確固たる可塑性が高齢者の脳でも生じたことを明らかにするものであり、我々の知る限りでは初めての知見であり、ビデオゲームは、年齢にとらわれない認知機能を評価しうるツールとなり、高齢者においても認知機能を向上させる強力なツールとなろう。

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 高齢者でもビデオゲームをすれば若者のレベルの脳にまで逆戻りできるというのである。

 私の脳は衰えていく一方だと思っていたのだが、この論文を読んで希望がわいてきたのであった。そう言えば、ここ2・3年は全然、Wiiやプレーステーションで遊んでいない。毎日論文ばかり読んでいる。最近、ボケてきたように思えるのはビデオゲームをしていなかったことが原因だったのだ。これはまずいぞ。明日から再びスーパーマリオ・ギャラクシーをやらねば。よーし、今度こそ最終ステージまでクリアーしてやるぞ。汗;

 ただし、この論文に対しては厳しい反対意見も出されており、この論文の結果に関してはこれからも検証されることが必要ではあろう。以下にこの論文に対するPubPeerのURLを示しておく。

 特に、神経画像データを用いたような検証がなされないと(高齢者でも特定の脳の領域が構造的に変化する。例えば、灰白質の容積が増大する、など)、確実に証明できたことにはならないため、今のところは、ぬか喜びはしない方がいいのかもしれない。

 ビデオゲームは、ビデオゲームの内容を越えて一般化され、広範囲の認知機能強化につながるという証拠が蓄積されてきている。強化されうる認知機能としては、手と目の協調運動(Hand-Eye Coordination)、反応時間(Reaction Time)、空間の可視化(Spatial Visualization)、視空間注意(Visuospatial Attention)、視覚的予想(Visual Anticipation)、視覚的探査戦略(Visual Search Strategies)、感覚注意の時間的動態(Temporal Dynamics of Sensory Attention)、外因性・内因性注意(Exogenous and Endogenous Attention)、タスク切り替え(Task Switching)、視覚システムの基本特性(Fundamental Properties of the Visual System)、視覚認識と知覚証拠の使用(Visual Perception and Use of Sensory Evidence)などであり、認知機能への介入としてのビデオゲームプレーの効果(Video-Game Play as a Cognitive Intervention)は多岐にわたっている。

 ビデオゲームによるトレーニングによって高齢者の認知機能低下を抑えることに関しては現時点では制限されている状況である。ビデオゲームによって高齢者の認知機能の低下を食い止めることができるかどうかを検証する研究は優先度が高い研究であろう。しかし、高齢者においては結果の妥当性を検証しなければならない。さらに、性差、熟達度合、ビデオゲームのジャンルにも注意を払う必要がある。しかも、高齢者における研究では適切なコントロールを行えるような条件を欠いた研究ばかりであり、結果の解釈には問題がある。高齢者で強化された認知能力を正しく評価するためには、神経画像研究を行い、脳の構造にも変化が生じたかどうかを調査するが必要があろう

 なお、この論文が発表された以降、他の研究者もビデオゲームによる高齢者の認知機能の改善を報告している。次の論文は本年度に発表された論文である。

 様々な認知能力、特に、遂行制御機能の下落が高齢者では観察される。一方、最近の研究では、若年成人のビデオゲームによるトレーニングは、視覚的注意能力への幅広い転送学習効果を生む可能性があることを示している。今回の研究では、ワーキングメモリ、タスク切り替え、短期記憶、阻害、推論など遂行機能をトレーニングできるリアルタイム戦略ビデオゲーム(ゲーム名は「Rise of Nations」)を高齢者に使用して検証した(23.5時間のトレーニング)。
 
 その結果、トレーニングをした高齢者ではゲームパフォーマンスが有意に改善した。そして、タスク切り替え、ワーキングメモリー、視覚的短期記憶、メンタルローテーション(mental rotation)といった認知タスクのサブセットが有意に改善した。阻害能力や推論能力においても改善する傾向が認められた。さらに、ゲームのパフォーマンスの変化はタスクの切り替えの改善度合と相関していた。これらの所見は、高齢者における遂行制御プロセスが強化され、リアルタイム戦略ビデオゲームが高齢者における認知機能の低下を減衰させることができることを意味している。

Rise of Nations
(Rise of Nationsプロモーションビデオ)
http://www.youtube.com/watch?v=NRNbMv5RRMM

 私は、かって、シムシティという都市を作っていく戦略ゲームに嵌っていた時期があったのだが、最後までやったらそれ以上都市が進化することはなくなりやめたのである。しかし、この論文を読んでいたらRise of Nationsをプレイしてみたくなってしまった。Rise of Nationsは日本語版のゲームも販売されている。

 しかし、ここである疑問が生じる。高齢になる前からアクションビデオゲームをプレイしていないと、高齢になってから始めても難し過ぎて逆に効果が出ないことも考えられるのである。この点に関して次のような論文がある。

 ビデオゲームでプレイすることで認知機能に介入することは、加齢に伴う知覚機能や認知機能の低下に対抗する手段としては理想的であると報告されている。さらに、ビデオゲームによる介入は、他の介入方法と比べてコンプライアンスが高く、それは、ゲームプレイは楽しいため、やる気が出るからであろうと仮定されている。しかし、本当に楽しいと思って高齢者はビデオゲームをやるのであろうか。そこで我々は、アクションゲーム(マリオカートDS)と「脳フィットネス」ゲーム(脳トレ)を用いて比較検討し介入に関わる問題を検討した。
 
 その結果、加齢の影響による認知能力の低下を軽減する手段としてビデオゲームであるマリオカートを推薦するような介入をしたが、マリオカートをプレイした高齢者の認知機能は有意に改善されなかった。有意な効果が示されなかった背景として、最大の利益をもたらすと期待されているゲームだと教えたにも係らずコンプライアンスが最低であることが分かった。アクションゲームの参加者の評価によれば、アクションビデオゲームは楽しいとは感じられなかったと報告されており、コンプライアンスが低くなった原因だと思われた(高齢者にはマリオカートは相当難しいと思いますね。バナナや亀といったいろんなアイテムをうまく使いこなさないと勝てませんからね。汗;)。
 
 表面上の結果は期待外れであったが、アクションビデオゲームの効果の欠如は、低コンプライアンスやゲームへの否定的な態度に原因があるものと思われた。参加者は、「脳フィットネス」ゲームに比べて、アクションゲームは楽しくないと評価し、重要な能力を改善する可能性をアクションゲームが持っているとは信じていなかった。

 ビデオゲームによる介入は、加齢に伴う認知機能の低下に対処するという点では有望であるが、まだまだ未知数である。現代のアクションビデオゲームの複雑さを考えると、高齢者にとってアクションビデオゲームは魅力的なゲームだとは言えない可能性がある。研究者は、ゲームの好みの個人差を認識しなければならないだろう。高齢者が喜んで遊ぶことができない限り、世界で最も成功している認知機能の介入方法でも高齢者には効果を発揮できないことであろう。

 もし、将来、アクションビデオゲームが他のビデオゲームよりも認知機能を強化する効果が一番大きく、若い頃からアクションビデオゲームで遊ぶ習慣を有し、高齢になってからも続けていたケースでは認知症になりにくいという研究論文が発表されたとしよう。しかし、高齢になってからアクションビデオゲームを始めても、上で紹介した論文のように、アクションビデオゲームは難しくて楽しくはなく、すぐに挫折してやめてしまうことになるかもしれない。こうならないためには、高齢になる前からアクションビデオゲームで遊んでおいて、それなりの熟達度を維持しておく必要があると言えるのではなかろうか。

 この点に関しては次のような論文もある。若い頃からビデオゲームで遊ぶ習慣があった高齢者は心理的に健常な形で老後を迎えられるというのである。
  
 この調査の目的は、デジタルゲームをプレイしない高齢者と比較して、デジタルゲームをプレイする高齢者の心理的な機能(健常度合、うつ病、社会的機能)の違いを検討することであった。調査対象の平均年齢は77.47歳。被験者は3つのグループ、定期的なゲーマー、時々するゲーマー、非ゲーマーに分けた。60%が定期的または時々のゲーマーだった。定期的と時々のゲーマーは非ゲーマーの高齢者よりも、平均して、より良いパフォーマンスを行えており、心理機能に関しては良好であった。調査結果は、ビデオゲームで遊ぶ習慣によって良き加齢の仕方が行えており、ポジティブな活動性を維持できていることを示唆している。

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 この論文を読んで、やっぱり、数年ぶりにスーパーマリオギャラクシーで遊ぶようにしなければならないなと覚悟を決めたのであった^^;

 一方、既にある程度まで熟達していた場合は、高齢者になってもビデオゲームでプレイすればそれなりの効果が期待できる分野がある。それは運転機能である。

 加齢による認知機能の低下は、高齢者の安全ではない運転と関連している。そこで、ドライビングシミュレータによるトレーニングが高齢者の認知機能やオンロードの運転パフォーマンスを改善するかを検証した。ドライビングシミュレータ訓練群と注意トレーニング(警戒と選択的注意をトレーニング)群、対照群の3群を比較した。その結果、ドライビングシミュレータ群では注意トレーニング群と比較して、オンロードの運転パフォーマンスの改善を示した。さらに、両方のトレーニング群は、対照群と比較して認知パフォーマンスの向上を認めた。ドライブシミュレータによるトレーニングは、高齢のドライバーの運転技術を向上させる可能性があり、高齢ドライバーの安全性を高める強力なプログラムだと言えよう。

 ゲームセンターが高齢者に人気らしいが、さすがにスーパーマリオカートで遊んでいる高齢者は少ないだろう。しかし、スーパーマリオカートをうまく操作できるような高齢者は絶対に運転ミスはしないのではなかろうか。車で送り迎いされてディサービスに通うよりは、自分で運転してゲームセンターに通い、スーパーマリオカートをプレイしてハイスコアで帰ってくるような高齢者になりたいものである。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0901M_Z21C10A1CC0000/ 

 なお、アルツハイマー病でもビデオゲームは認知機能のリハビリトレーニングとして有効であるという論文が本年度に発表されている。アルツハイマー病と診断されたからといって悲観する必要はないのである。頑張ってビデオゲームをしようじゃないか。使用されたゲームの種類はシリアスゲームである(シュミレーションのジャンルに該当するゲーム)。下にそのゲームのデモンストレーションの動画を示しておくので参照されたし(船に向かって魚雷を発射させて船を沈没させるようなゲームである。これならば、Wiiのアクションゲームで代用できるかもしれない)。


(シリアスゲームについて)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0

 一方、これまで紹介されたビデオゲームのメンタルヘルスへのプラスの効果に関する理論としてはPERMAという理論が提唱されている。
 
 ビデオゲームを遊ぶことは精神的な健康度を上げてくれるが、これは、ビデオゲームで楽しむことで、ポジティブな感情が持てるようになり(満足感、幸福感、喜びの感情、充実感、達成感、等)、個人としてポジティブに機能することができ(意欲、集中力、目的意識、自己制御、共感能力、等)、社会においてもポジティブに機能し(友人関係、人間関係、愛情にあふれた結婚生活、社会における良い経験、社会貢献、等)、メンタルヘルスやより良く生きること(=幸福な生活)をサポートしてもらえるようになるためである。ビデオゲームで遊ぶことは、個人を繁栄に導いてくれることになろうと下の論文では解説されている。
 
 英単語で表せば、PERMA(Positive emotion; Engagement; Relationships; Meaning and purpose;  Accomplishment)であり、論文ではSeligman’s PERMA positive psychology modelとして解説されている
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3978245/
http://www.youngandwellcrc.org.au/

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(ただし、前回のブログで触れたように、ゲームをやり過ぎてしまうと精神的な健康度は逆に悪化するため注意する必要はある)。
 
 そして、ビデオゲームによるメンタルヘルスへの好影響に関する青少年における理論も提唱されている。特に、ビデオゲームの主人公やストーリーへの強い思いが(player's deep affection for narrative protagonists)、青少年の行動を良い方向へ変化させ成長を促してくれるという理論である(=行動変容理論、計画行動理論、社会的認知理論、自己決定理論など)。

 このような理論から、青少年のメンタルヘルスの向上に役に立つようなゲームの開発がビル・ゲイツ財団から資金提供を受けたウィスコンシン大学で始められている。ターゲットとなるものは、共感能力、協調性、集中力、自己制御などの社会的スキルや感情スキルなどである。

 RPGは共同体を作る能力や問題解決能力を向上させるとも言われている。
http://books.google.co.jp/books?hl=ja&lr=&id=Pn3wR74wDCgC&oi=fnd&pg=PP1&dq=The+Functions+of+Role-Playing+Games:+How+Participants+Create+Community,+Solve+Problems+and+Explore+Identity&ots=Vo2WBzqgZV&sig=d7OUxhWmIWmOAgGRpPHKlSJiu-A#v=onepage&q=The%20Functions%20of%20Role-Playing%20Games%3A%20How%20Participants%20Create%20Community%2C%20Solve%20Problems%20and%20Explore%20Identity&f=false

 さらに、メンタルヘルスへの好影響だけでなく、ビデオゲームで遊ぶことは青少年の生活の質も向上すると報告されている。ただし、この論文でも、ビデオゲームに費やした時間の長さと生活の質は逆U字型の関係を示し、適度にビデオゲーム遊ぶことが重要であると述べられている。

 ファイナルファンタジーやドラゴンクエストなどのロールプレイングゲーム(RPG)が大流行した時期があったが、RPGの中で主人公を通して冒険をすることは、青少年のメンタルヘルスと生活の質を向上させて、青少年の心の成長を促してくれていたのであろう。

ドラゴンクエスト10

(ドラゴンクエストプロモーションビデオ)
http://www.youtube.com/watch?v=h5ltTV_TaqQ

 最後に、統合失調症などの精神疾患の治療として「Posit Science's game」というオンラインビデオゲームを活用しようという試みも始まっているようだ。まだ論文は出されていないが、FDAの承認を目指しているという紹介記事がNatureに載っていた。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/trying-to-help-schizophrenics-with-computer-brain-games/2013/02/15/045ba624-4abb-11e2-9a42-d1ce6d0ed278_story.html
 
 他にも、「PlayMancer」という欧州の多施設が共同で研究しているビデオゲームがある。ビデオゲームは精神疾患における相補療法的なツールになるだろうという論文も発表されている。

精神疾患の治療や予防としてビデオゲームが使用される時代がやってきたと言えよう。

(今回のブログは終わり)


 私は明日からスーパーマリオ・ギャクシーへの再チャレンジを始めます。最終ステージが終わるまでブログは休むかもしれません。すんません。こんなバカなおっさんを許したってください。なにせ、難易度が半端じゃないほど高いビデオゲームに挑戦するもので。汗;

(めざせ最終ステージのクリアを)