child neurolepica-1-1

 近年、世界中の国々において、青少年(特に小学生、中学生といった若年層)への向精神薬の使用が急増しており、これでいいのだろうかと懸念する声が上がっている。私もそのうちの一人である。

 この青少年への向精神薬の過剰処方は医師の診断に基づく医療行為の結果なのだから、それでいいのだという意見もあろうが、精神疾患だと診断される数自体が児童で増えている訳であり、それは、過去と現在では有病率が変化している、すなわち、だんだんと精神疾患を有する児童が増加していることを意味する。
 
 しかし、精神疾患の有病率がそんなに急激に変化するのであろうか。もし、児童の人口が急激に増えれば、生育環境が追いつかずにそういった現象も起きなくはないだろうが、先進国で起きている現象なのである。児童の人口が増えているために起きている訳ではないのである。
 
 もし、本当に精神疾患を有する児童が増え続けているのが事実であれば、それは、人類という種の劣化が始まっていることになる。人類は滅亡に向かい始めているのである。生まれてくる子供は、皆、精神疾患ばかり。こうなると未来では社会は機能しなくなり、最終的には人類文明は滅び去ることになろう。

child neurolepica-1-2
 
 そんなSFの世界のようなことが人類に起こっているのであろうか。
 
 私は疑っているのである。これは、何か別の大きな要因が裏で働いているせいではなかろうかと。例えば、疾患の本質からは外れたような、市場原理(製薬会社の向精神薬の市場拡大促進計画、等)という経済的な側面に支配されての現象なのではなかろうかと(=すなわち、市場原理に従って患者が実際よりは過剰に作り出されているという、あってはならないようなことが起きていることになる)。
 
 今回は青少年への向精神薬の過剰使用に関することがテーマである。

 まず、青少年への向精神薬の過剰使用の実態について把握しておかねばならない。この点に関する論文をいくつか紹介する。

 下の論文は、児童における向精神薬(抗精神病薬)の多剤併用処方について調査した論文である。

小児や青少年への抗精神病薬の多剤併用の有病率や相関
Prevalence and correlates of antipsychotic polypharmacy in children and adolescents receiving antipsychotic treatment
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4010557/
 成人ですら、抗精神病薬のポリファーマシー(多剤併用投与)は、有効性が証明されておらず、安全性の懸念があるのだが、若者への抗精神病薬の処方がますます増えており、若者への多剤併用処方(APP)の実態はまだよく知られていない。そこで、若者へのAPPを報告した論文を調べたが、それに関する研究論文が15(1993年~2008年)あることが分かった。
 
 論文を解析したところ、抗精神病薬が使用されているケースの11.6%にAPP認められ、13歳以上になるとAPPになる傾向が増加し、APPの内容は、FGA+SGAという第一世代(FGA)と第二世代(SGA)の抗精神病薬が組み合わされて使用されているケースが多かった(70.9%)。
 
 多剤併用処方になっていると報告されている割合が多い疾患は、注意欠陥多動性障害(ADHD)であった(39.9%)。次いで、行為障害/反抗挑戦性障害(CD / ODD、33.6%)が多かった。13歳未満の児童に限定した場合も同様に、ADHD(50.6%)とCD / ODD(39.5%)が多かった。一方、13歳以上の青少年に限定した場合では、多剤併用処方になっている疾患は、多い順に、統合失調症スペクトラム障害(28.6%)、不安障害(26.9%)、双極性スペクトラム障害(26.6%)、CD / ODD(25.8%)であった。抗精神病薬で治療されている若者でAPPになっている率は9.6%(小児では5.9%、青少年では12.0%)であった。なお、APPになりやすい相関関係は、双極性障害や統合失調症と診断され、SGA+SGAという処方の間で認められた。
 
 安全性と有効性のデータを欠いているにも係らず、児童では非精神病のケースでも、抗精神病薬の多剤併用処方が安易に行われていることは明らかである。

(論文終わり)

 このように、アメリカにおいては、13歳未満という小学生の年代の児童に対しても抗精神病薬の多剤併用処方が行われていることが明らかとなった(しかも、調査は6年前までの時点のものであり、今はもっと増えているのかもしれない)。
 
 特に、深刻なのはADHDと診断された児童である。アメリカにおいては、ADHDの児童に対しては、ADHD治療薬だけでなく抗精神病薬までもが安易に投与されているのである。子供の場合はADHDは統合失調症と同じように扱われていることになる。かっては大人になったら自然に消失しているケースも多いと言われていたのがADHDである。以前は、そんな重篤な疾患だとは考えられていなかったのだが、いつから抗精神病薬が投与されるべき程の重度の精神病としてADHDが扱われるようになったのであろうか。

child neurolepica-1-3

 私は言いたい。ADHDは精神病なんかじゃない!! 

 ADHDの児童への第二世代の抗精神病薬(SGA)の処方が増えているという警鐘を促した論文は他にもある。下の論文では次のように報告されている。

ADHDを有する若者への抗精神病薬の薬物疫学データ: 臨床的動向
Pharmacoepidemiology of Antipsychotic Use in Youth with ADHD: Trends and Clinical Implications 
 注意欠陥/多動性障害(ADHD)の児童への抗精神病薬の処方に関する懸念が提起されているが、利用可能なデータベースは限られている。そこで、抗精神病薬の処方率と年代の傾向とを合体させたデータを提供するために、レビューを行い、ADHDの児童における抗精神病薬使用の疫学データを分析して保管することにした(著者らはこの事象には時代的な背景が絡んでいると考えている)。1806件がヒットし、うち21の研究は、解析可能なデータを報告しており、解析した結果、3つ集団としての結果が保持された。(1)抗精神病薬で治療された若者(研究数15、341586名)、( 2)ADHDの若者(研究数 9、6192368名)、(3)一般集団の若者(研究数5、14284916名)である。
 
 全体としては、抗精神病薬で治療された若者の30.5%がADHDであった。縦断的研究では、この割合は、1998年から2007年にかけて、21.7%から27.7%に増加していた。さらに、ADHDの若者の11.5%が抗精神病薬による治療を受けていた(ADHDと診断されたケースの10人に1人は抗精神病薬を内服している)。縦断的研究では、この割合も、1998年から2006年にかけて、5.5%から11.4%へと増加していた(=10年くらいで処方量が2倍になった)。最後に、一般集団では0.12%の若者がADHDと診断され、抗精神病薬の治療を受けていた。ここでも、縦断的研究にて、この割合は、1993年から2007年にかけて、0.13%から0.49%へと増加していた。

 これらのデータを要約すると、ADHDに抗精神病薬を使用することの有益性が明らかになっていないにも係らず、ADHDの若者への抗精神病薬の使用が増加していることを示している。

 注; 上の論文よりも大きい数字を報告している論文もある。

(論文終わり)

child neurolepica-1-4

 こういった青少年への抗精神病の処方の増加という事象はアメリカだけではなく他の国々でも同様に懸念されている。下の論文はドイツからの報告である。

小児や青少年における抗精神病薬の処方
Antipsychotic Prescription in Children and Adolescents
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3950759/

 2005年から2012年におけるドイツの健康保険データの分析結果では、この年齢層(0~19歳)への抗精神病薬の処方ができないにも係らず、児童への抗精神病薬の適応外処方が増えている。
 
 ドイツでは、抗精神病薬の処方を受けている子供や若者の割合が2005年から2012年にかけて、0.23%から0.32%へと上昇していた。特に、非定型抗精神病薬(SGA)は、2005年の0.10%から2012年の0.24%と時代が新しくなるにつれて頻繁に処方されていた。年齢では、10~14歳(0.24%から0.43%へ増加)と、15~19歳(0.34%から0.54%へ増加)という年齢層で抗精神病薬の増加が目立っていた。処方した医師は、主に、小児や思春期の精神科医と小児科医のいずれかであった。最も一般的に処方された薬は、リスペリドンとピパンペロンだった。リスペリドンは、多動性障害や行動障害の児童に最も一般的に処方されていた

 他の先進国と同様に、ドイツでも、近年、青少年への抗精神病薬の処方が増えてきている。ドイツでの数字は、北米のものよりも低いながら、欧州諸国では真ん中の範囲内にある。抗精神病薬の処方の増加の原因は検討されなければならない。抗精神病薬による長期的な治療効果は不明であり、副作用も懸念される。もし、不必要な処方であるならば批判されるべきであり、適切なものであったとしても、児童への抗精神病薬の使用に関しては、より厳密なガイドラインが制定されるべきであろう。

(論文終わり)

 ADHDの児童に過剰に投与れているのは抗精神病薬だけではない。下は、デンマークからの報告であるが、ADHDの治療薬(精神刺激剤)も過剰処方されていると報告されている。

 自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、他の精神疾患を持つ青少年へのADHD治療薬の国民への使用量はデンマークでは5倍にも増加していることが判明した。

自閉症スペクトラム障害、注意欠陥/多動性障害、他の精神疾患を持つ小児や青少年へのADHD治療薬が国民に処方される率は5倍に増加している:デンマークにおけるレジスタベースの研究
Five-Fold Increase in National Prevalence Rates of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Medications for Children and Adolescents with Autism Spectrum Disorder, Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder, and other Psychiatric Disorders: A Danish Register-Based Study
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3778945/
 
 この研究では、デンマークにおける(1)ASD、(2)ADHD、(3)他の児童の精神疾患という3つグループへのメチルフェニデート(methylphenidate)、デキサンフェタミン(dexamphetamine)、アトモキセチン(atomoxetine)の処方量と有病率の時代変化を推定した。

 1990年から2001年の間にデンマークで生まれた全ての小児と青年のコホートサンプルを統合して分析した(852711名)を。コホートデータから、メチルフェニデート、デキサンフェタミン、アトモキセチンの生涯処方の社会人口学的共変量を抽出し、処方期間を層別化した(6ヶ月未満vs6ヶ月)。

 その結果、ASDを有する青少年9698名の16%(1577名)、ADHDを有する青少年11553名の61%(7021名)、他の精神疾患を有する青少年48468名の3%(1537名)が1つ以上のADHD治療薬の投与を受けていた。3つのグループ全てで、これらのADHD治療薬の処方率の大幅な増加が認められた。すなわち、6~13歳までのASD、ADHD、他の精神疾の児童は、2003年から2010年にかけて、ADHD治療薬が処方される率は、それぞれ4.7倍、6.3倍、5.5倍にも増加していた(ADHDでもないのに、ADHDの治療薬がASDに投与されているのである)。

 今回の研究は、ASDの児童への精神刺激剤による治療を評価したこれまでで最大規模の研究である。16%ものASDの児童が精神刺激剤によって治療されていたという数字は、以前の研究と一致している。過去十年間で、デンマークの青少年におけるADHD治療薬の使用率は明らかに増加している。この増加は、ADHDを有するもののみに限定されるものではなく、ASDを含む神経精神障害を有する児童を含む。このような行為のリスクと利点に関してはさらなる研究が必要である。

(論文終わり)

child neurolepica-1-5

 こういった児童への向精神薬の適応外処方は、先進国で同様に起こっている現象のようであり、我が国においても例外ではないだろう。
 
 さらに、ADHDよりももっと深刻な事態になっているのが、デンマークの報告からも分かるように自閉症スペクトラム障害(ASD)である。ASDは、ASDだと診断される率自体が急増しており、それに従い、当然のごとく、向精神薬の使用も急増しているのである。
 
 しかも、抗精神病薬やADHDに使用される精神刺激剤などの様々な中枢神経系に作用する薬剤がASDの児童に対して使用されている。抗精神病薬と精神刺激剤は相反する薬理作用の薬である。もし、それらが同時に使用されているとするならば、全くナンセンスな薬物療法が自閉症スペクトラムと診断された児童に対して行われていることになる。
 
 特に、ASDの有病率の変化には首をかしげざるを得ない。例えば、アメリカでは2000年のASDの有病率は、6.7(1000人につき)だったが、2010年には14.7にまで上昇している。たった10年間で有病率が2倍以上になっているのである。このようなことが生物の世界で起こり得るのであろうか

child neurolepica-1-6

 これには、いろんな要因が考えられうる。まず、環境要因の変化(環境汚染、インフルエンザやトキソプラズマなど感染症、等)によって有病率が増加したことが考えられる。しかし、有病率が2倍以上にもなるような劇的な環境の変化があったであろうか。次に、考えられることは診断基準の変更である。DSMの普及によっ、診断閾値が下がり、ASDと診断されやすくなってしまったことが大きいのではと思える。そして、何よりも市場原理の方が要因としてははるかに大きいように思える。すなわち、ASDが増えたから向精神薬の使用が増えたのではなく、市場からの圧力によって、児童への向精神薬の使用を推進するために、ASDと診断されるケースが増えたためではなかろうかと私は怪しんでいるのである。

 下の論文はイギリスからの報告論文だが、イギリスもアメリカと同様な事態が起きていることが分かる。

プラマリーヘルスケアにおける自閉症スペクトラム障害への処方
Pharmacological treatments prescribed to people with autism spectrum disorder (ASD) in primary health care 
 自閉症スペクトラム障害(ASD)は、健康や社会的帰結に大きな影響を与え、子供の1%がASDという影響を受ける。米国におけるASDとその個人に対する向精神薬の使用は、時代の経過と伴に急増しており、現在では50%以上のケースに多剤併用が行われている。英国では、いかなる向精神薬も自閉症では承認されていないが、英国におけるASDへの薬物治療の実態は殆ど知られていない。

 そこで、我々は、代表的なプライマリケアデータベースを使用し、英国におけるASDの診断、向精神薬の処方、1992年から2008年の間における0~24歳の精神神経合併症の有病率などを評価した。
 
 その結果、ASDの有病率は、0.01%(1992年)から0.50%(2008年)と65倍にも増加していた。向精神薬はASDの29%(1619/5651)に処方されていた。最も多く処方された薬は、睡眠剤(患者の9.7%)、精神刺激薬 psychostimulants(7.9%)、抗精神病薬7.3%)であった。多くの患者では、精神刺激薬が1.5~6.3%、睡眠剤が2.2~5.9%と長期使用されていた。ASDの37%に神経精神疾患の合併症が記載されており、最も一般的なものは、発達障害や学習障害(12.6%)、行動や行為障害・人格障害(11.1%)、注意欠陥多動性障害(7.5%)であった。

 英国の医師はアメリカの医師よりも処方の際には保守的である。しかし、精神刺激薬や抗精神病薬の使用は、一般集団よりもASDを有するものではるかに高くなっている。しかも、2008年のデータでは、向精神薬が処方されたケースの34%に多剤併用が認められた。

(論文終わり)

child neurolepica-1-7

 こういったASDにおける薬物治療の傾向は、アメリカや英国以外の国々でも同様のようである。

自閉症スペクトラム障害への処方: 多国的研究
Psychopharmacological prescriptions for people with autism spectrum disorder (ASD): a multinational study.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24005531

 これまでの自閉症スペクトラム障害(ASD)における向精神薬の使用に関する研究は米国や英国からのものである。しかし、これらの研究結果は、他の国には一般化できない場合がある。そのため、この研究では、2010年~2012年に子供と大人におけるASDの治療のために向精神薬の処方されたパターンを調査した。ただし、データベースは、ヨーロッパ(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国)、南米(メキシコ、ブラジル)、北米(カナダ、米国)、アジア(日本)からの多くの国々のデータベースを使用した。
 
 その結果、北米の国がASDへの最も高い処方率を示し、ヨーロッパや南米諸国がそれに続いていた。しかも、処方率は大人に比べて子供のASDで高かった。青少年のASDに対する最も一般的な処方薬は、(英国と日本を除いて)、リスペリドンであった。英国では、メチルフェニデート(34%)が最も一般的であり、日本の若者ではハロペリドール(44.1%)が最も処方されていた。成人のASDでは、最も一般的に処方されていた薬は抗精神病薬であり、特に、リスペリドンであった(チオリダジンとジプラシドンは、それぞれ、ブラジルとアメリカの成人のASDに対して最もよく処方された抗精神病薬であった)。

 個々の国によるASDへの向精神薬の処方薬の相違は診断基準や臨床ガイドラインやヘルスケアシステムに起因する可能性がある。しかし、ASDへの向精神薬の有効性と安全性の証拠が不足している現状を鑑みれば、ASDへの処方における根拠のギャップを埋めるための研究が必要である。

(論文終わり)

 次の論文でも同様な報告がなされている。しかも、ASDへの処方率はGDPという経済的な要因によって変化していることが示されている。これは、若者への向精神薬の処方は、明らかに経済的な要因、すなわち、市場原理が優先されていることを意味している。

30カ国における自閉症スペクトラム障害(ASD)への向精神薬の処方率の変化
The variation of psychopharmacological prescription rates for people with autism spectrum disorder (ASD) in 30 countries. 
 ASDやその併存疾患の治療のための処方は個々の国々によって大きな差がある。しかも、低/中所得国ではメンタルヘルス障害を持つ多くの人々に対して適切な治療が施されていないことが示唆されている。そこで、本研究では、30カ国における自閉症スペクトラム障害(ASD)への向精神薬の処方を調査した。IMS処方データベースはヨーロッパ、アジア、オセアニア、中米、南米、アフリカの大陸で30カ国から得た(2007年から2012年までのデータ)。さらに、一人当たりの国内総生産(GDP)を、各国の収入のためのプロキシとして使用し、スピアマン相関から一人当たりの処方率とGDPとの間の関連を調べた。
 
 その結果、西ヨーロッパ(3.89~36.36/10,000)において最も高い処方率が見出された。一方、最も低い処方率は、トルコ、インドネシア、サウジアラビア、パキスタンなどのアジア諸国で見出された(0.04~0.82/10,000)。ASDの併存疾患の治療のために最も一般的に処方された薬は、殆どの国においてリスペリドンであったが、抗うつ薬や抗てんかん薬も頻繁に処方されていた。
 
 そして、一人当たりの処方率とGDPとの間には有意な正の相関があった、つまり、処方率が高いほど、一人当たりGDPが高い。すなわち、処方率には国際的な違いがあり、これは経済的な要因によって処方が決められていることを意味する。

(論文終わり)

child neurolepica-1-8

 経済的に恵まれていない国では処方には抑制がかかるのは間違いない。特に、高価な薬剤においてはそうであろう。しかし、値段が安い薬やジェネリック医薬品ならば、抑制はかからないことも予想される。
 
 この点に関しては、下の論文では次のように報告されている。

自閉症スペクトラムを有する小児や青少年に対する向精神薬の過剰使用:発展途上国からの視点
Overuse of psychotropic medications among children and adolescents with autism spectrum disorders: perspective from a developing country.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22119705
 
 薬物療法は、自閉症スペクトラム障害(ASD)への治療の一部にはなる。しかし、発展途上国での向精神薬の使用のパターンについては殆ど知られていない。そこで、我々は、イランにおける自閉症を有する345名の児童への向精神薬の使用について調査した。その結果、調査された児童の80%が、現在、少なくとも1つの向精神薬を使用していた。97%は昨年中に少なくとも1つの向精神薬の処方を受けていた。抗精神病薬は、最も処方頻度が高い薬(57.4%)であったが、抗うつ薬は8.7%という少ない使用頻度であった。向精神薬の処方と、臨床や人口統計などの任意の因子との関連性は認められなかった。今回の数字は予想した以上の処方率であり、発展途上国においても、ASD児童に向精神薬(特に、抗精神病薬)の過剰な処方が行われていることを意味する。

(論文終わり)

 発展途上国のイランでも同様にASD児童への抗精神病薬の過剰使用が懸念されているのである。どうやら、ASD児童への向精神薬の過剰処方は世界的な規模で行われているようだ。

 なお、唯一の例外はドイツだけのようだ。さすがは、いい加減なことが大嫌いで何でも厳密に対処するドイツ人である。アメリカとは異なり、ASDへの向精神薬の過剰な処方はしていないようだ。逆に、このようなデータがあるということは、ASDに対しては薬物療法は必ずしも必要ではないということを意味するようにも思える。

ドイツにおける自閉症スペクトラム障害を有する小児や青少年に対する向精神薬の使用
Psychopharmacological treatment in children and adolescents with autism spectrum disorders in Germany. 
 自閉症スペクトラム障害(ASD)の児童への薬物治療に関するデータが不足している。この研究は、ドイツにおけるASDと診断された青少年への精神科薬物療法の利用率を調査したものである。健康保険会社のデータを使用し、ASDと診断された0~24歳歳の外来患者の1年間(2009年)における処方率を同定した。さらに、2004年から2009年かけての処方の時代的な変化傾向を分析した。
 
 その結果、ASDの有病率は、男性は0.37%、女性は0.12%であった。2009年では、ASDの患者の33.0%が向精神薬の処方を受けていた。そして、12.5%は精神刺激剤(stimulants)かアトモキセチンが処方されており、抗精神病薬は11.7%、抗てんかん薬は9.1%、ベンゾジアゼピンは6.8%、抗うつ薬/ SSRIは3.8%に処方されていた。関心を引いた薬剤としては、メチルフェニデートが全ての向精神処方に占め割合として24.4%が処方されており、リスペリドンが13.3%、バルプロ酸が9.1%と最も頻繁に処方されていた。
 
 薬物治療を受けている率は、年齢と伴に増加し、0~4歳では16.3%だったが、20~24歳では55.1%へと増加していた。年代では、向精神薬で治療を受けているASD患者の割合は、2004年の25.9%から2009年には33.0%と上昇していた。
 
 ドイツでは、ASD患者への向精神薬の処方はメチルフェニデートとリスペリドンが最も頻繁に処方されている薬物であり、年代を経るにつれてドイツでもかなり増加しているという証拠を提示している。しかし、USAのデータ(50%以上のASD患者が多剤を処方されている)と比較すれば、薬物治療を受けているASD患者の割合は、ドイツでは著しく低いと言える。

(論文終わり)

 しかし、ドイツでも、自閉症児童に、ドーパミンを上げるメチルフェニデートと、ドーパミンをブロックするリスペリドンという、薬理作用が正反対の矛盾したような薬剤が使われているのである。これは、ASDではドーパミンシステムを刺激すべきなのか抑制すべきなのか、いったいどちらが適切なのかと問われれば回答できなくなり、厳密に考えればおかしいことなのだが、そういったことがまかり通っているのである。

 ドイツではまだ3割のASD児童が向精神薬の処方を受けているに過ぎないようだが、はたして日本ではどうなのであろうか。
 
 日本では第一世代の抗精神病薬であるハロペリドールが自閉症児童に最も多く処方されている薬剤のようだ(ハロペリドールならば査定を受けにくいという事情もあるのだろう)。しかし、日本では、自閉症への適応症を取得している薬剤はピモジド(オーラップ)のみである。だが、ピモジドが使われることはないようだ。ピモジドは併用禁忌が多く(SSRIやエリスロマイシンなど)、QT延長を起し易い薬剤であり、最近では成人においても殆ど使用されなくなったからであろう。今後は日本においてもアリピプラゾール(エビリファイ)などの第二世代の抗精神病薬が増えていくものと思える。アリピプラゾールは、アメリカでは2012年にASDの癇癪症状に対する適応症を取得している。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%94%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%AB 

 なお、ここまで述べてきた児童へ中枢神経系に作用する薬物を使用する点に関する懸念をまとめたような総説があるので、それを紹介する。
 
 まずは、何でも厳密にしないと気が済まないドイツ人の研究者からの懸念である。

小児や青少年における向精神薬
Psychotropic Medication in Children and Adolescents
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3950758/

 青少年の精神障害における薬物治療の使用量は、ドイツでも近年顕著に上昇している。これは、2003年~2006年に行った調査で明らかになった。

 Bachmannらは、児童への抗精神病薬の処方に関連する一般的な問題点を指摘している。非定型向精神薬(atypical neuroleptics)の殆どが青少年への使用は承認されておらず、従って、このクラスの薬物は、多くの場合、ラベルオフの状態で使用されている。また、承認された適応症は青少年の統合失調症、妄想性障害、双極性障害に限定されており、しかも、子供では、精神障害や自閉症スペクトラム障害に伴う攻撃性、衝動的行動や反応、自傷に対するものに限定されている。

 青少年への向精神薬の処方が驚くほどに増加し続けている理由に対する明確な答えはない。Bachmannらは、いくつかの理由を上げた。変更されたケアの状況、非定型向精神薬の激しいマーケティング、心理療法よりも薬物治療が好まれている、等である。さらに、Bachmannらは、メタ解析にて、青少年の精神障害の真の有病率は実際には上昇していないことを論文で発表している。そして、専門学会の青少年の精神障害に対する治療のガイドラインが変更された訳でもない。

 驚くべきことに、他の多くの欧米諸国だけでなく、ドイツでも同様に、青少年に対して抗精神病薬が以前よりも頻回に処方されるようになっている。たとえば、英国では、Raniらによれば、1992年から2005年にかけて7~12歳の児童において抗精神病薬の処方が倍増し、古典的な向精神薬から非定型薬剤へと変更されていることを発見した。彼らは、適応症の拡大診断基準の変化によって、薬物治療がさらに好まれるようになったのではと推測している。

 私自身が行ったドイツへの研究でも、2000年から2006年にかけて向精神薬の処方が大幅に増加していることを発見した。しかし、この増加は、英国よりもやや少ないものであった。この期間に、古典的な抗精神病薬の処方は減少し、代わりに非定型抗精神病薬の処方が増加していた。そして、特に、15~19歳の男児への非定型抗精神病薬の処方が増えていた。統合失調症スペクトラム障害の有病率の増加はなく、統合失調症以外の他の適応症への処方がこの現象を説明する上で一般的なものだと思われる。おそらく、攻撃性や衝動性を伴う行動障害に対して非定型抗精神病薬が処方されたことが処方の増加の主な要因であろう。

 Tyrerらの攻撃的な行動を有する患者への向精神薬の効果の研究では、抗精神病薬は、そのような患者にルーチンで与えるべきではないと批判的に結論している。しかも、プラセーボと比較して有意な効果は認められなかった。MatsonとWilkinsが指摘したように、向精神薬(抗精神病薬)の使用は、攻撃・反抗性や衝動的な行動が深刻なタイプに限定すべきである。

 現在では、深刻なタイプではないケースに使用されているという反対方向への傾向が観察されており、行動への介入(心理療法)の方が経験的に優れていることが示されている一方で、そのことは無視されており、攻撃性への向精神薬の適応は縮小されるよりも拡大されて解釈されている。この科学的な証拠がないにも係らず向精神薬の処方が行われているという事実は、Bachmannらも強調してしている。

 Bachmannらによる論文は、現在の抗精神病薬による治療パターンは批判的に再評価されねばならないという重要な結論を出しており、我々も同様に考えている。科学的証拠が不足しているにも係らず、攻撃性や衝動性に対する非定型抗精神病薬のラベルオフでの使用が増加している。非定型抗精神病薬の使用は、児童精神医学のガイドラインにも記載されていない(抗精神病薬は、マルチモーダルアプローチの1つとして使用されたかどうかも不明なままである)。リスペリドンは、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の患者の61.5%で処方されており、社会的行動障害を有する患者の35.5%に処方されていた。これらの所見は、Bachmannらによって成された考察の重要性を強調するものである。

(論文終わり)
 
child neurolepica-1-9

 次は、世界精神医学会のフォーラムで提示された意見である。

欧州における児童への向精神薬使用の疫学
A European perspective on paedo-psychiatric pharmacoepidemiology
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3683262/

 実態は国によってかなり違うが、児童における向精神薬の処方率が過去より上昇していることは間違いない。しかし、この現象は、市場原理によって意図的に青少年に対する向精神薬の使用が増やされているせいではなかろうか。
 
 児童における薬物治療の急増は、児童精神医学のアイデンティティに脅威を及ぼす。調査結果からは、小児や青年における向精神薬の過剰処方は、様々な国で程度が異なっていることが示されている。これらの違いを理解するためには詳細な分析が必要である。

 国際的な研究によって、小児や青年における向精神薬の処方率は国によって大きく異なることが示されている。2000年の若者における向精神薬の処方率は、米国(1,000人あたり67人)は、オランダ(1,000人あたり29人)やドイツ(1,000人あたり20人)よりも大きかった。世界の国々における違いは、個々の薬物のグループについても観察されている。例えば、米国のデータでは、2000年における0~19歳への抗うつ薬の使用率(1,000人あたり16.3人)は西ヨーロッパ諸国(1,000人あたり1.1~5.4人)を大きく超えている。

 さらに、処方の総数と各種の薬剤の使用の双方が年代によって変化している。子供への向精神薬の処方数は、2000年~2002年の間に、ヨーロッパ、南米、北米で上昇している。オランダでは、抗精神病薬、ベンゾジアゼピン、抗うつ薬、精神刺激薬の処方率は、1995年の1000人対して11.1人から、2001年では1000人対して22.9人に増加している。これらの年代による動向は、抗うつ薬、抗精神病薬、精神刺激剤の個々の薬剤においても観察されている。

 しかし、年代動向に関するデータの殆どは、調査された集団による特性、短い年数期間、無計画な観察期間によるバイアス(偏見)がかかっている。長い伝統があり品質が保証されているスカンジナビアのサンプルは、こういったバイアスの影響を受けていない。我々が最近行ったデンマークへの調査は、1996年~2010年間における0~17歳の全ての人口に対する15年連続の向精神薬の処方箋の一貫性ある分析調査である。この調査の主な結果は以下の通りであった。まず、15歳以上の向精神薬の使用率は9倍に増加した。この増加は、公衆衛生サービスの援助求めていた患者数の増加分を調整した場合は減少した。しかし、調整後でも、観察期間にわたって、処方は2倍以上の高さがあった。
 
 第2に、この傾向は、精神刺激剤において顕著であり、非調整の処方率では23倍の増加であり、調整した処方率でも8倍の増加であった。抗うつ薬の場合は、9.5倍の増加(調整後は1.8倍の増加)であった。抗精神病薬の場合は、6.6倍の増加(調整後は2倍の増加)であった。このようにデンマークの向精神薬の処方率は増加していたが、他の欧州諸国よりも、特に、米国よりは低かった。

 Vitielloは、多くの要因が児童への処方に影響を与えることを示唆した。すなわち、健康サービス組織、診断システムの違い、診療ガイドラインの遵守、薬物の規制、使用できる財源の配分の変化、青少年の精神疾患への文化的態度、などの要因である。この点に関して、デンマークの公衆衛生システムが市場から圧力の影響を相殺しているかどうかは不明なままである。

 しかし、スカンジナビア諸国における健康サービス体制はほぼ同じにも係らず、スカンジナビア諸国における向精神薬の処方率が著しく異なっているということは、厳密な薬物の規制や財源の配分に基づくはずの本来提供されるべき公衆衛生サービスが、市場プロセスによる強いコントロール下にあるということを意味するのであろう。
 
 デンマークはICD-10を使用しているが、米国はDSM-IVを使用しており、さらに、殆どの欧州諸国は臨床ガイドラインを厳格には順守しておらず、こういった診断システムの相違も影響を及ぼしている可能性がある。

 他の関係する要因としては、青少年の精神疾患に対する専門家や一般市民の文化的態度が異なることもあげられる。この点に関する研究やデータはないが、デンマークの社会のいくつかの特徴、すなわち、社会階層の差が小さい、安定した大規模な中産階級の存在、市民への無料公衆衛生サービス、生活の質が高いという国民感情、といったことが青少年へ向精神薬が過剰に処方されるという傾向に影響を与えている可能性がある。
 
 また、デンマークと欧州の児童精神医学の現状は、エビデンスに基づくガイドラインよりも、患者志向の評価や治療が奨励されている可能もある。しかし、この青少年への向精神薬の処方の増加という現象に関しては、さらなる詳細な分析が必要であろう。

(論文終わり) 

 社会福祉制度が充実している国ほど小児や青少年への向精神薬の処方が急増しているのである。日本も社会福祉制度が充実している国であり、同様に小児や青少年への向精神薬の処方が急増していることが懸念される。

 なお、既に、2012年6月、NHKのクローズアップ現代にて、日本においても青少年への向精神薬の処方が急増していることが報道されており、警鐘が促されていることを付け加えておく。我が国でも青少年への向精神薬の過剰使用という状況に陥っているのである。
(上のNHKクローズアップ現代の動画。この動画は必ず見ておくべきであろう。)
http://www.dailymotion.com/video/xua9fw_%E5%90%91%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E8%96%AC%E3%82%92%E3%81%AE%E3%82%80%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82_tech

child neurolepica-1-10

--------------------------------------------------------------

 このように、世界中において青少年への向精神薬の処方が急増しているという実態が明らかになった。
 
 しかも、それは市場原理に支配されての社会現象であることは明らかである。
 
 では、こういった社会現象は、このままでいいのであろうか。将来に大きな禍根を残さないのであろうか。
 
 国は、こういった市場原理を強力に排除し、青少年への向精神薬の過剰な処方に歯止めをかけていかねばならないのではなかろうか。それこそが政治の使命であろう。もはや、医師達は市場原理によって支配されているも同然の状態である。政治が介入せねばこの問題には歯止めはかからないものと思える。
 
 皮肉にも、何でも規制せずに自由に競争させる自由主義のアメリカでその傾向が非常に顕著になっている。それは国が積極的に規制しないからであり、逆に、こういった分野は国の強力な規制が絶対に必要な分野なのだということを意味しているように思える。

 既に、このブログでも紹介したように、抗精神病薬の長期投与による有害事象として、灰白質の容積の減少や白質のFA値の低下といった有害事象が判明しつつある。これは成人での所見であるが、もし、脳の発達段階にある児童でこういった影響が生じたら、成人における抗精神病薬の場合よりもいっそう深刻な事態になることが予想される。
 
 児童では、精神科の薬剤に限らず、どのような薬剤でも成人よりは副作用が生じ易く、しかも、成人よりも薬物に対してははるかに脆弱であり、成人よりも慎重に投与されねばならないことは、それは薬理学の基本中の基本の遵守事項である。
 
 当然のごとく、児童のいかなるケースにおいても、向精神薬は慎重に投与されねばならないことは他科の薬剤と同様である。精神疾患における薬剤は対症療法に過ぎないのであり、心理療法や行動療法などの薬物療法以外の対応が効果がないようなやむを得ないような深刻なケースの場合に限定すべきであり、しかも、努めて少量で、かつ、短期間に留めておくべきなのである。
  
 しかし、実態はそのようにはなっておらず、向精神薬が青少年に対して漫然と安易に処方されていることには間違いない。しかも、まだ精神病だとは診断されていないようなADHDやASDの児童に対して精神病に使用するはずの抗精神病薬が安易に処方されているのである。

 これでいいのであろうか。 

 しかも、恐ろしいことは、それだけではない。ADHDやASDでは依存性や中毒性があると分かっている精神刺激剤も処方されているのである。今のこのようなADHDへの薬物治療ありかたでは、生涯にわたってADHD薬を飲み続けなければならなくなるであろう。はたして、それでいいのであろうか。ADHD薬が脳の成熟を促進してくれるというエビデンスは何も示されていないにも係らず。
  
 注意障害や多動などの症状はADHD薬や抗精神病薬によって改善するのかもしれないが、その一方で、気付かない部分で大きな代償を払っているかもしれないのである。多動に対して処方された青少年への抗精神病薬による脳の灰白質や白質への影響が懸念されるように、注意障害の改善を目的として処方されたADHD薬の長期的な使用による有害事象(行動や認知機能への影響)がないとは言い切れまい。
  
 漫然と長期間にわたって抗生物質を児童に処方する医師はいないだろう。しかし、それは向精神薬でも同様である。精神疾患が慢性疾患だからといって、1型糖尿病に使用するようなインスリンと向精神薬が混同されて同じように扱われていないであろうか。

 下の論文は児童への薬物曝露の有害事象に関する総説だが、この論文では生物学的な観点から以下のように述べられている。特に、注意せねばならないことは、青少年期の向精神薬の曝露によって中枢神経系に永続的な変化(不可逆性)がもたらされる恐れがあるということである。すなわち、後戻りできないような変化が脳に生じてしまう可能性があるということである。

 言い換えれば、薬物によって青少年達の脳が改造されていることになる。まるで、仮面ライダーのショッカーのようなことが行われているのである。これは非常に恐ろしいことではなかろうか。

child neurolepica-1-11
 
(この論文は重要な論文だと思われるために全文を紹介する。)

思春期における薬物暴露の永続的な影響
Enduring Effects of Adolescent Drug Exposure

 思春期(Adolescence)は危険な時期である。ティーンエイジャー(10台の若者)は危険性や新規性を求め、危険性や新規性を求める行動は自分自身の健康に影響を与える。ティーンエイジャーの死因は事故で死亡する率が高く、ティーンエイジャーへの中枢神経系に作用する薬剤(psychoactive drugs)の影響は大きい。物質の使用が思春期という人生の早い時期に開始されると、成人早期での使用開始よりも、大人になってから薬物依存になる可能性が高くなるという説得力のある論文が多く提示されている。さらに、アルコールやタバコの使用の開始年齢と大人になってからの他の薬物依存との間に直接的な相関関係があることも分かっている。

 この相関関係を説明するために2つの考え方が提案されている。
 
(1) ティーンエイジャー自体が何かにつけて脆弱である。さらに、薬物を使用するような青少年は、生まれつき衝動的であり、危険な行動が好きであり、家族歴の影響があり、薬物使用は社会環境への挑戦のような行為である。

(2) 発達段階にある脳、特に、重要な最終段階にある脳が依存性薬物に曝露されることは、いっそう嗜癖に脆弱になるという永続的な変化を引き起こす。

 人における多くの研究が前者の可能性をサポートしているが、動物実験では、薬物の脳自体への作用が永続的であり、大人になってからの嗜癖の進行に寄与することが示唆されている(Cassらの論文などがこの後者の可能性を提示している)。

 Jay Gieddらの画期的な研究は、発達途上にある前脳(forebrain)は、思春期においても未だに著しい構造的な成熟が行われている最中であることが示されている。この研究では、思春期では危険を監視し出来事への感情的な態度を決定している扁桃体-皮質軸は未成熟なままであり、皮質よりも皮質下の報酬系システムの方が意思決定を強く支配していることが示されている(=青少年は報酬系の影響を成人よりも受けやすい)。
 
 これらの部位から大きな入力がある前頭前野は、遂行コントロールを担当しているが、成人に比べて思春期では機能はまだ低下している。思春期の齧歯類の研究でも、人間のように、薬物のような強化因子にドーパミンは過剰に反応し、罰よりも報酬が誘導されることが分かっている(=青少年は薬物という報酬が成人よりも容易に脳内に組み込まれてしまう)。
 
 動物試実験の数は少ないものの、大脳皮質の構造や機能といった多数の要素が、この思春期の脆弱性に寄与しうることが示されており、これらの脆弱性の中には、ドーパミンの反応が急速に進むことや、γ-アミノ酪酸(GABA)介在ニューロンによる抑制性のコントロールが成人よりも不足していることが含まれる。

 青少年における報酬、リスク、遂行機能のこの成人とは異なるバランスは、なぜ青少年が麻薬を使用し、それらに容易に強化されてしまうのかという理由を提示してくれるのであろうが、青少年時代における薬物への暴露自体が、中毒(嗜癖)のリスクを増大させるか否か、大人になってからの他の有害な行動上の問題を引き起こすのかどうか、といったやっかいな疑問に対しては、まだ何も明らかにはされていない(そのような実験を人に対して行うことは絶対にできない)。
 
 実際に齧歯類に行われた青少年時代に依存性を有する薬物を自己投与させた研究での成人期における結果からは、人生早期におけるニコチン、アルコール、コカイン、テトラヒドロカンナビノールの使用が、その後の人生における嗜癖のリスクを増加させるのか減少させるのかに関しては、相反するような結果が得られている。
 
 さらに、我々は、これらの薬物への曝露から生じる脳の変化が、大人になった時の行動を変化させるメカニズムに関しても少しも理解できていない。

 この問題に対するCassらによる研究では、青少年時代の依存性薬物への曝露の影響がどのように成人の脳に機能に影響するのかという点で大きなギャップがあることを提示している。

 Cassらの研究(PMC3722277)は、これまでは論理的で無視されていたターゲットを研究した。彼らは、迅速かつ正確にタイミングを図り皮質の錐体細胞の興奮作用を阻害している内側前頭前皮質(mPFC)におけるGABA介在ニューロンの高速スパイクを研究した。mPFCは、ワーキングメモリーと意思決定の作業に重要な役割を果たしており、コカイン中毒ではmPFCの機能が破壊されている。さらに、この破壊は、渇望やコカインの再摂取に寄与していると考えられている。

child neurolepica-1-12
 
 以前の研究では、皮質のこの部分における速いスパイクを出すGABA介在ニューロンにドーパミンニューロンが神経分布していることが示されており、コカインは、そのGABA介在ニューロンの活性を調節していることが分かっている。さらに、出生前におけるコカインへの曝露は、これらのニューロンの活性に影響を与えることも分かっている。
 
 Cassらは、コカイン暴露は、大人ではなく、思春期のmPFCの脱抑制状態につながることを本研究で示した。それらは青少年へのコカインの曝露は、皮質を抑制するための海馬からの重要な入力が減少することを示し、実際に、これらの皮質のニューロンは、思春期のコカイン曝露後に持続的な興奮を引き起こしやすくなっていた。さらに、コカインに曝露された動物では、コカインの暴露が終了した後も、最も吻側にある大脳皮質の部分は、大人になってからも、長期間にわたり代謝的に非常に活発な状態に変化していた。
 
 成人期における同等なコカイン曝露の研究では、これらの効果を有しておらず、多くの場合、対照(コントロール)研究という重要なことがしばしば省略されてしまっている。
 
 Cassらの研究は、コカインの曝露がGABA介在ニューロンの機能に影響を与えることができることが分かり、この結果は注目すべきことであった。ここで注意せねばならないことは、大人にそういった効果がないことは、発達臨界期にコカインに曝露されることで、中枢神経系の固有の発達に影響が及ぼされる可能性があることを意味する。
 
 さらに、彼らは、GABA拮抗薬の模倣物質や、GABAアゴニストが、これらの変化を逆にすることを示し、この現象を説明できるメカニズムを同定しようとしている。
 
 この研究について特に新しい知見であったことは、以前は無視されていたターゲットが炙り出れたことである。皮質におけるコカインの作用の焦点の殆どは、興奮性出力をアウトプットしている錐体細胞に当てられていた。しかし、介在ニューロンは、錐体細胞の興奮時間をロックする上で重要な役割を果たしている。さらに、介在ニューロンの成熟は、皮質の成熟においては最終的な発達イベントの1つであり、大人での意思決定の成熟度合にも貢献すると考えられている。今後の研究では、この永続的な変化を担当している分子生物学的な変化を同定することが望まれる。

 Cassらの研究は、コカイン使用による行動の帰結を評価していなかったが、その研究結果からは、青少年時代に中毒性の精神刺激剤を使用することで、大人になってからさらに衝動的となり意思決定機能が障害され、薬物中毒に関連した行動特性を示す可能性があることが予測できる。本研究は、これまで無視されていたターゲットの窓を開かせることが重要であり、そのことで思春期の薬物中毒(嗜癖)という現象を明確に説明し、将来の治療方法を同定していく上で役立つことを示唆している。

 これらの研究から発生する論争や問題の1つとして、注意欠陥/多動性障害(ADHD)を治療するために使用されるようなメチルフェニデートなど非中毒性(nonaddictive)の精神刺激剤への曝露が同様の効果を有するかどうかがある(注; メチルフェニデートは中毒性の物質であることは明らかであるが、この論文では非中毒性物質として扱われている)。

 動物実験による文献では、思春期における精神刺激薬の曝露の行動の結果については、投与経路の違いや、曝露の度合、投与量などの違いが混在しており、異なる結果が得られている。青少年時代でのメチルフェニデートの曝露では、他の薬剤への依存(嗜癖、addiction)のリスクが増加する、低下するという双方の結果が報告されている。しかし、人への暴露(低用量、経口投与、長期曝露)に最も近くマッチしている動物実験では、他の依存性薬物の自己投与の増強が最も低かったという結果が表示されている。
(霊長類でも同様の結果が得られているが、ただし1年間~30か月までの投与の結果である)

 注; ただし、上の3つの論文は共に自己投与という方法で対照群と差がなかったというだけの結果に過ぎない。しかも、メチルフェニデートvsコカインのみしか調べられておらず、そして、あくまで自己投与実験のみの結果であり、CPPなどの他の事象をも調べている訳でもなく、この結果をもって大人になってからの影響がないとは言い切れまい。さらに、大人になってからのアルコール依存性になる率が健常群の児童と差がなかったとも言われているが、はたしてそれだけで安全だと言えるのかも疑問である。既に、メチルフェニデートを飲み続けているから他の依存性薬剤を必要としないだけなのかもしれない。

 最後に、我々は保証と注意を同時に提言したい。青少年の大半は、薬物を乱用しない大人に成熟する。薬物使用は、全ての種類は成人早期にピークに達し、その後低下していく。動物実験では、動物の脳の成熟と伴に、アルコール、ニコチン、コカインの摂取が減少していく規範的なパターンが認められた。
 
 しかし、前述したCassらは、青少年期における薬物暴露の脆弱性を示唆している。この研究では、青少年の時代に薬物に曝露されることで、最も重要な思考機能を担っている脳の部分に永続的な長期的な影響が生じることが懸念される。今後の研究は、本研究で示された皮質からの抑制機能の変化が大人になってからの意思決定に影響を与えるうるかどうかを明らかにする必要があろう(こういった観点からは、メチルフェニデートによって意思決定の機能が損なわれてしまい、意志薄弱な大人になってしまう、すなわち、自分の意志をあまり持たない、何でも行政や政治が決めたことに言いなりになっているような、飼いならされた奴隷のような大人になる可能性があるように思える。これは、インカ帝国の奴隷と同じである)。
 
(論文終わり)

 薬物の自己投与(動物実験での薬物乱用のモデル)が増える訳ではないというだけで、児童へのメチルフェニデートの使用が安全だなんては言えないだろう。しかも、ゲートウェイ効果が完全に否定された訳ではない。意志薄弱になったため、誘惑に負けたり危険なことを冒し易くなっている傾向が生じているかもしれず、ギャンブルやアルコールや大麻や覚せい剤や麻薬や危険ドラッグなどに手を出し易くなっているかどうかまでは何も分からないままである(この問題に関しては意見が分かれており未だに決着は付いていないが)。
 
 しかも、子供時代のメチルフェニデートによる大人になってからの意思決定や思考や認知機能への影響に関しては何も調べられておらず(紹介した上の論文の内容からは、意志薄弱である、柔軟な思考ができなくなる、創造性がなくなる、等が予想されるが)、殆ど分かっていないのが現状である(そもそも、思考の柔軟性や創造性などは動物を使って調べることはできない)。
 
 意思決定思考の柔軟性創造性といった重要な機能に関してどのような影響が(おそらくかなりの影響が、しかも永続的な影響が)及ぼされるのかどうかは全く分からないままで使用されていることになる。
 
 さらに、メチルフェニデートが市場に多く出回ることは、ADHDの学生からADHDではない学生へコグニティブエンハンサー(スマートドラッグ)としてメチルフェニデートが不正転売されるという問題も懸念される。
 
 メチルフェニデートはドーパミントランスポーターをブロックすることで、シナプス間隙のドーパミンを上げるコグニティブエンハンサーなのでもあるが、それを使用するとロボットのような人間になってしまうことが分かっている。ロボットになるのである。まあ、危険なことではないのかもしれないが、思考の柔軟性や創造性といった人間として大切な機能を失うことになるのである。しかも、その変化は永続的な変化が予想され、大人になってからもロボットとして生き続けなくてはいけなくなるのである。私にはこれは非常に恐ろしいことに思える。
  

child neurolepica-1-13

 メチルフェニデートに関しては、さらに別の論文でも警告がなされている。特に、子供時代の早期にメチルフェニデートに曝露されることには大きな問題があると警告されている。

メチルフェニデートへの神経行動上の適応: 思春期の早期に曝露されることの問題
Neurobehavioral adaptations to methylphenidate: the issue of early adolescent exposure.

 精神刺激薬(psychostimulants)への曝露は、薬物の乱用と治療薬による使用が含まるが、人間では最初に曝露される時期は思春期(青少年期、adolescence)になる可能性がある。動物モデルを使用することは、思春期の特殊性を再現できるだけでなく、精神刺激剤の使用に対する神経行動学的な適応現象を研究するで役に立つ。
 
 人間の思春期は(一般的には9・12~18歳の期間とみなされるが)、ラットとマウスでは、生後日(PND)28・35~50日(28・35~50P)の間の時期として比較されている。この思春期の時期の齧歯類では、基本的に多動(自発運動の亢進、hyperlocomotion)であり、感覚を追究し危険を伴う行動になりやすいという強い傾向があり、探査行動が高くなる。
 
 (注; 人間の子供も、じっとしているのが嫌いで、落ち着きがなく、好んで危険な場所に探検に行ったりするのと同じである。しかし、今は、そういた子供はすぐにADHDだと診断されてしまうのかもしれない。私の場合もそういった子供だった。たまたま生まれた時代が昭和という時代であり、おおらかな時代であり、子供はそういったものだからと、社会や学校でも受け入れられていただけなのかもしれない。しかし、今の時代は、学校から精神科に受診するように指導されて、ADHDだと診断され、抗精神病薬が投与されることになるのであろう)。
 
 しかも、自発運動の感作の増強、薬物によって誘導されるはずの常同症が出ない、場所への条件付けが減少する、といった精神刺激薬への奇妙な反応が思春期の齧歯類では報告されている。
 
 この時期では、前脳のドーパミンシステムは、大量のリモデリング(改変)を受けることになるが、このことが思春期で観察される風変わりな行動を説明し、ある種の薬物への脆弱性を説明できる神経生物学的な基盤を提供する。
 
 さらに、この見地から、メチルフェニデート(MPH、RitalinRとしても知られる)は、注意欠陥/多動性障害(ADHD)と診断された小児および青年に広く処方されている精神刺激薬であるが(注; メチルフェニデートはドーパミントランスポーターをブロックするといった薬理作用を有し、それはコカインと同じ薬理作用である)、その長期的な使用における安全性の問題を提起することになる。MRI検査では、MPHによって誘発される急性効果は、成人と比較して、思春期のラットにおいては異なるように見える。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%81%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%8B%E3%83%87%E3%83%BC%E3%83%88
 
 さらに、MPHの思春期の曝露は、永続的な神経行動上の変化を惹起する。すなわち、自己管理能力の長期的な変調、本来の報酬や薬物への報酬の感受性の低下ストレスで誘発される情動反応の増強であり(それは同時に、皮質下ドーパミンシステムへの皮質による支配の増強を伴っているのだが)、側坐核内のHtr7遺伝子発現の永続的なアップレギュレーションを伴う(注; ストレスへの情動反応の増強は、言い換えれば、ストレスによってPTSDが生じ易くなっているとも言える)。
 
 要約すると、動物モデルによる研究は、思春期MPHの長期的な影響の理解を深め、さらに人生の初期の段階におけるMPHのような薬理学的治療の処方や投与の安全性を調査する必要があると言える。

(論文終わり)

 市場ではADHD児童へのメチルフェニデートは安全なように宣伝されているが、こういった論文を読むと必ずしも安全とは言えないように思える。

 さらに、青少年では、大人になってからの機能を変化させてしまう結果になるという薬物に曝露されることに特に脆弱な時期(vulnerability windows)があり、かつ、曝露されることになる薬物の薬理作用(どういったモノアミン系に作用するのかどうか)によってその時期は様々に異なるであろうと考えられるようになってきている。
 
 従って、この特定の薬物に脆弱になっている時期に、該当する薬剤に曝露されると深刻なダメージが脳内に及ばされ、大人になってから影響が出ることになる。
 
 この点に関する研究論文としては既に下のような論文が発表されている。
 
大人の感情と認知行動に影響を与えるモノアミンに敏感な発達の時期
Monoamine-Sensitive Developmental Periods Impacting Adult Emotional and Cognitive Behaviors

(有料の論文であり本文が見れないので、アブストラクトのみを紹介する。ただし、図と表は見れた。)
 
 発達段階にある脳は、敏感になっている時期を通過して成熟していくのだが、その時期は、成熟していく過程でも消失することがないような影響を中枢神経系に与え、遺伝的要因や環境要因によって脳の可塑性が影響を受ける時期でもある。中枢神経系の発達に関しては、そのような敏感になっている時期は、行動を起し、行動を調節し、行動をコントロールする役割を担う神経回路が形成される時期でもある。
 
 こういった一般的なメカニズムによって脳の発達は可能になるのだが、それは、遺伝子による青写真や環境内容の双方に左右される。そのような敏感な時期では、適応することを可能にする一方で、外部要因と内部要因が他のレジリアンス的な発生プログラムを狂わせることによって、疾患へのリスクを与えることになり、それは脆弱性の窓を開くことになる。

child neurolepica-1-14

 この論文では、精神医学と関連するモノアミン神経伝達システムや、大人になってからの行動に影響を与えることができる敏感になっている発達時期に関するレビューを行う。特に 我々は、(1)感覚システムの発達に影響を与えことになるセロトニンに敏感な時期、(2)認知機能、不安やうつに関連する行動に影響を与えるセロトニンに敏感な時期、(3)攻撃性や衝動性や精神刺激薬に対する反応に影響を与えるドーパミンとセロトニンに敏感な時期、についてレビューをする。さらに我々は、メカニズム的な洞察を提供してくれる前臨床データについて議論するが、それは、疫学的なデータや、臨床的データとの関連性を指摘するものとなろう。
 
 今や、トランスレーショナルな発達神経科学の分野は、指数関数的に進歩しており、確固たる概念の進歩やメカニズムに関する前例のない洞察を提供できるようになっている。発達に関する知識や方法論に関する技術革新が進行しており、精神神経疾患の発生起源を解明する分野がブレークスルーしつつあり、病態生理を理解するための態勢が整いつつある。行動の発達という複雑な軌道を決定する敏感な時期に関する知識は、神経精神疾患の予防や治療のアプローチを改善する上で必要なステップなのである。
 
(論文終わり)

child neurolepica-1-15

 脳の発達段階の脆弱性を有する時期に、薬物によってドーパミンやセロトニンなどのモノアミン系を操作することは、大人になってからの行動や感情や認知機能を変化させるだけでなく、疾患のリスクをも高めてしまう(疾患への窓を開いてしまう)結果になることに注意せねばならないのである。

 この観点からは、青少年へ抗うつ剤、特に、小児にSSRIを処方することは、大人になってからの不安障害やうつ病の原因を作ってしまうことにもなりかねず、非常に危険な行為となることが理解できる(この問題に関しては次回以降のブログで詳しく触れる予定である)。

 さらに、SSRIだけでなく、抗精神病薬も精神刺激剤も、同様に疾患への窓を開くことになろう。すなわち、抗精神病薬が精神病への窓を開き、精神刺激剤が依存性疾患への窓を開くことになるのである。
 
 下の論文は、前述の論文と同じ研究グループの論文であるが、青少年へのセロトニントランスポーターの阻害(=SSRIの投与)を安易に行わない方がよいと警告するような内容になっている。

2つの敏感な発達期間中にドーパミンやセロトニン神経伝達を操作することは、成人になったマウスの攻撃性や感情行動に対して別個の影響を与える
Dopamine and serotnin signaling during two sensitive developmental periods differentially impact adult aggressive and affective behaviors in mice.
 モノアミンオキシダーゼA(MAOA)やセロトニントランスポーター(5-HTT)を薬理学的に遮断することは、成人期においては抗うつ効果や抗不安効果を有している。しかし、遺伝子的な変異によるMAOAや5-HTTの機能低下は、攻撃性の変化や不安/抑うつの増加と関連している。この論文では、発達過程にあるモノアミンのシグナル伝達を増加が、これらの攻撃性や感情を逆説的な表現型に変える原因になるかどうかの仮説を検証する。
 
 我々は、生後直後の発達時期(P2-P21)では、MAOAを阻害することで大人(> P90)になった時に不安やうつ病のような動作を増大させることを見出したが、同様に、セロトニントランスポーターを抑制 (5-HTT inhibition)することでも生じた。しかし、思春期の前の時期(P22-41)ではそういった効果は見出させなかった(=小学生にSSRIを処方することは危険である)。
 
 また、思春期の前の時期(P22-41)におけるMAOAの阻害は、大人になった時の攻撃的な行動を増加させたが、P2-21やP182-201の時期では見出せなかった。さらに、P22-P41の時期におけるセロトニントランスポーターの抑制は、大人になった時の攻撃的な行動を減少させた。
 
 一方、P22-41時期におけるドーパミントランスポーターの阻害は、大人になった時の攻撃的な行動を増加させたが、ノルエピネフリントランスポーターの阻害では見出せなかった(=小学生高学年や中学生・高校生にメチルフェニデートを処方すると攻撃的な大人になってしまうのかもしれない)。
 
 従って、P2-21(=小学生高学年以下)という時期は、セロトニン(5-HT)による大人になってからの不安/うつ的な行動を調節する上で敏感になっている時期であり、P22-41(=小学生高学年や中学生・高校生)という時期はドーパミンやセロトニンの双方による大人になってからの攻撃性を調節する上での敏感な時期だと言える。
 
 P22-P41(=小学生高学年や中学生・高校生)という時期におけるモノアミン神経伝達の増加という事象によるドーパミン系の機能の永続的な変化は、大人になってからの攻撃性の基礎となる。
 
 我々は、この仮説が支持するような、成人期におけるアンフェタミンチャレンジによる自発運動の反応と攻撃性の変化は正の相関関係を有することを見出した。さらに、ドーパミン機能の変化と攻撃性との間の因果関係を証明すると共に、VTA(腹側被蓋野)のドーパミンニューロンの光遺伝子学的な活性化が攻撃性を増大させることを実証した。
(光遺伝学について)
 
 従って、敏感な発達期間におけるドーパミンやセロトニンのシグナル伝達に影響を与えることは、遺伝子的な要因や薬理学的な要因に影響を与え、大人になってからのモノアミン神経系の機能を変化させることになり、攻撃性や感情的な機能における障害のリスクを修飾することになる。

(論文終わり)

child neurolepica-1-16

 論文では特定の時期に限定された所見のように書かれてはいるが、これはあくまで齧歯類での所見であり、脳の発達過程は人類と齧歯類では大きく異なるため、人間においては、未成年ではあらゆる薬剤に対して大人よりも敏感になっていると考えた方が良いであろう。

 日本でも平成25年度に厚生労働省から通達が出され、それに基づきSSRIの使用上の注意が改定され、事実上、青少年への使用ができなくなったが(それでも、パキシルなどの一部のSSRIは使用できるのだが)、はたして日本の今の実情はどうなっているのであろうか。
(厚生労働省からのSSRIに対する通達)
(パキシルを小児に使用してもいいのか)
(FDAでは青少年へのパキシルの使用は推奨されないという声明文が2003年に出されているのだが)

 しかし、こういった論文を読むと、青少年に向精神薬を安易に処方することは絶対に慎むべき行為だということが分かる。

 青少年時代に中枢神経系に作用を及ぼすような薬物に曝露されることの影響に関しては、まだ何も分かっておらず、現在、臨床で使用されている薬物が安全である、無害であるという保証は全くないのである。このことを忘れてはいけないであろう。

(それにも係らず、市場原理に支配されて、世界中の青少年達に向精神薬が投与されていることになる。これは、もの凄く恐ろしいことではなかろうか。しかし、この背景には、経済がグローバル化したが、新たな産業を創出できずに苦しみ続けている人類の姿が浮き彫りになってくる。人口が限界近くまで爆発し、もはや経済は21世紀からはマイナス成長の時代に入ったのだが、それでも経済成長が最優先され続け、手っ取り早く成長できる産業分野として、青少年達への向精神薬の投与という決して手を出してはいけない領域に足を踏み込んでしまったようにも思える。人類は本当に滅亡へと向かい始めたのかもしれない・・・・。)

(次回に続く)

child neurolepica-1-17