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(前回の続きである)

 前回のブログでは、青少年への向精神薬が安全性の保障がないにも係らず安易に過剰に処方されている実態と、それによる脳内の永続的な変化が生じることへの懸念について述べた。
 
 この永続的な変化は、へたをすると後戻りできないような変化となり、発病と同じような状態になってしまうのである。

 今回は、各論として、児童が向精神薬に曝露されることの有害事象の生物学的な変化を具体的に報告している論文を紹介したいと思う。
 
 まず、第一に懸念されるのが、ADHDやASD児童への抗精神病薬の使用である。この抗精神病薬は多動や攻撃性や衝動性などをターゲットとして処方されているのであろうが、長期投与をしていると、皮肉にも、逆の結果を招いてしまう恐れがあるので注意せねばならない。

時間依存性にリスペリドンやアセナピンによってドーパミンD2受容体が感作されていくメカニズム(抗精神病薬のドーパミンD2受容体への影響は長期間持続する)
Time-dependence of risperidone and asenapine sensitization and associated D2 receptor mechanism

 抗精神病薬が繰り返し断続的に与えられた時に、その行動の有効性の長期的な増加があることがしばしば認められるが、それは抗精神病薬感作(antipsychotic sensitization)と呼ばれる。時間の経過と共に、抗精神病薬感作の大きさは、時間依存性感作(time-dependent sensitization、TDS)、あるいは、メモリー減衰(memory decay)の原理に基づいて、増加したり低下したりする。本研究では、条件回避反応試験を用いて、リスペリドン及びアセナピンによって誘発される時間依存性感作の特徴や、ドーパミンD2受容体に及ぼすメカニズムの可能性を検討した。

 よくトレーニングされた雄の大人のラットを、リスペリドン(1.0mg/kg)またはアセナピン(0.2mg/kg)を繰り返し投与し、5日間連続して条件回避反応についてテストした。そして、第5回目の薬物投与後の8、18、38日目に、リスペリドンやアセナピンの投与による長期的な影響を評価するために、薬物フリーの状態で全てのラットが再試験された。
 
 その結果、薬物で前処理されたラットでは、担体で前処理したラットよりも条件回避試験にて有意に低い回避を示し、その差は、時間の経過とともに増加した。
 
 さらに、第5回目の薬物治療後の10、20、40日目に、追加薬物負荷試験を行うために、ラットに低用量のリスペリドン(0.3mg/kg)またはアセナピン(0.1mg/kg)を注射した。薬剤で前処理されたラットは再びコントロールよりも有意に低い回避を示し、抗精神病薬感作効果が確認された。
 
 最後に、キンピロール(D2/D3受容体アゴニスト、1.0mg/kg、皮下注射)によって誘導される自発運動亢進試験は、リスペリドンで前処理されたラットでは、担体で前処理したラットよりも運動量は有意に高いレベルを示した。
 
 これらの知見は、リスペリドンとアセナピンによる感作が長期間持続し、TDSの原理に従い、おそらくD2受容体の感受性亢進によって媒介されることを示唆している。

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(論文終わり)

 抗精神病薬の影響は長く持続するのである。これは成人のラットでの所見であるが、当然、人間の児童でも起こり得ることであろう。しかも、児童では薬剤に対しては脆弱であり、成人よりも鋭敏にこういった感作現象が持続してしまうおそれがある。しかも、それは、ドーパミンD2受容体の感受性亢進(ドーパミン過感受性症候群)によるものである(=ドーパミンに対しても感受性が亢進する)。小児では、抗精神病薬が中止されたとしてもその影響が持続し、抗精神病薬によるD2受容体の感受性亢進という変化が持続してしまう可能性がある。これはドーパミンそのものに対しても感受性が亢進していることになり、ドーパミンの分泌が刺激されてしまうような環境刺激に過剰に反応してしまうことになろう(見かけ上、症状が悪化したと判定されてしまい、再び抗精神病薬が投与される結果になることであろう。すなわち、ドーパミン過感受性精神病である)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%8E%E6%84%9F%E5%8F%97%E6%80%A7%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%97%85 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3858317/

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 次は、思春期への抗精神病薬の投与によっても、こういった効果が大人になった時でも実際に続いていることを示した論文である。

 思春期時代の抗精神病薬の曝露によって大人ってなってからのオランザピンやクロザピンに対する反応が変化する: フェンサイクリジンによる自発運動亢進モデルにおける前臨床試験
Adult response to olanzapine or clozapine treatment is altered by adolescent antipsychotic exposure: a preclinical test in the phencyclidine hyperlocomotion model.

 この研究は、思春期に繰り返されるオランザピン(OLZ)またはクロザピン(CLZ)投与によって、成人期における同薬剤に対する感受性をどのように変化させるかをフェンサイクリジン(PCP)自発運動亢進モデルを使用して検証した。
 
 雄の思春期のラット(P44-48)を、OLZ(1.0、2.0mg/kg、皮下注射SC)またはCLZ(10.0、20.0mg/kg、SC)で処置し、次に5日間連続してPCP(3.2mg/kg、SC)誘発性自発運動亢進モデルで使いテストした。その後、OLZ(0.5mg/kg)またはCLZ(5.0mg/kg)を思春期(adolescence、~P51)、または、成人期(~P76とP91)の間に投与し再チャレンジ試験を行った。
 
 思春期の時期に繰り返しOLZやCLZで処置した群では、5日間の試験期間越えてPCP誘発性自発運動亢進に対する持続的な阻害をもたらした。思春期における再チャレンジテストでは、以前にOLZで処置されたラットでは、担体(VEH)で処理した場合よりもPCP誘発性自発運動亢進は有意に抑制されなかった。対照的に、以前にCLZで処理されたラットでは、対照よりも弱いながらも抑制を示した。
 
 成人期での評価では、OLZで処置されたラットでは、OLZへの感受性の亢進とCLZへの感受性の減少が~P76だけでなく~P91のラットでも検出された。これらの知見は、思春期でのOLZやCLZへの曝露は成人期まで持続する長期的な抗精神病薬への反応の変化を誘導し得ることを示唆している。

(論文終わり)

 青少年時代に投与された抗精神病薬の影響は、たとえ抗精神病薬が中止されたとしても、大人になってからも残存しているのである。

 次の論文でも、同様に、大人時代まで抗精神病薬の影響が残ることを報告している。

オランザピン感作とクロザピン耐性:思春期から大人への条件付け回避反応モデル
Olanzapine Sensitization and Clozapine Tolerance: From Adolescence to Adulthood in the Conditioned Avoidance Response Model

 齧歯類における条件回避反応(CAR)の抑制は、抗精神病薬の1つのトレードマークになる特徴である(注; 条件回避反応を抑制する強さは抗精神病作用の強さの指標となる。D2・D3受容体のブロックと関連していると言われている。一方、条件回避反応は陽性症状の強さを反映するだろうと考えられている)。大人のラットでは、クロザピン(CLZ)を繰り返し投与することでCARの抑制が低下する(耐性、tolerance)のに対して、オランザピン(OLZ)を繰り返し投与することは、CARの抑制が強化され(感作、sensitization)。

 本研究は、(1)OLZ感作とCLZ耐性が思春期のラットでも誘導することができるかどうか、(2)思春期において誘導されたOLZ感作とCLZ耐性の程度が成人期まで持続するかどうかについて調べたものである。

 雄の思春期のラット(生後日数約P43~47)に、OLZ(1.0、2.0mg/kgを皮下(SC)注射)あるいはCLZ(10、20mg/kg、SC)を5日間連続投与しCARモデルを作成した。

 次に、思春期の時期(~P50)と大人 (~P76、P92) になってからのOLZ感作やCLZ耐性の発現について、低用量OLZ(0.5mg/kg)またはCLZ(5.0mg/kg)のいずれかを注射しチェレンジ試験を行った。

 その結果、青年期におけるテストでは、以前にOLZで処置されたラットは、担体で処理されたラットよりもCARは強い抑制を示した(=感作)。これとは対照的に、以前にCLZで処置されたラットは、担体で処理されたラットよりもCARは弱い抑制を示した(=耐性)。一方、成人期にテストした場合は、OLZ感作だけがP76とP92の双方の時期において検出されたが、CLZ耐性はP76の時期のみに検出されたのみであった。
 
 成人期の時期におけるプレパルス抑制と恐怖誘発22kHz超音波刺激のパフォーマンスに関しては、思春期の薬物治療によって変化はしなかった。
(プレパルス抑制について)
 
 要約すると、これらの知見は、思春期における非定型抗精神病薬治療は、脳が成熟していくにも係らず、長期的な特異的変化を誘導し、大人になってからも抗精神病薬の影響が持続していることを示唆している。抗精神病薬は、過去20年間で、小児および青年にますます使用されているようなっているが、この研究の知見は、思春期の抗精神病薬治療が脳と行動の発達に影響を及ぼすことを理解する上で重要である。この所見は、思春期抗精神病薬の治療における薬物の選択、投与量、投薬スケジュールの面などの臨床実践のために意味を有する。

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(論文終わり)

 たとえ投薬を中止したとしても、思春期に使用された抗精神病薬による影響は大人になってからも頑固に持続して残ってしまっているのである。

 なお、この論文では、感作sensitizationと耐性toleranceという表現が使用されているが、クロザピン耐性といってもクロザピンという薬の効果が弱まっていく訳ではなく、条件回避試験での現象であり、実際の臨床でクロザピンの効果がだんだんと弱まっていくという事象は殆ど報告されていない。一方、感作といっても薬の効果が高まる訳でもなく、感作を生じると言われている薬剤でも同じ量を漫然と使用し続けると逆説的に効果が無くなっていく現象が生じる(見かけ上の耐性形成)。従って、もし、感作されるのであれば、漫然と同じ量を使用するのではなく、むしろ減薬していった方がいいことになる。

 こういった有害事象の背景には、ドーパミンD2受容体数が増えるが(抗精神病薬へのブロックに対抗できる=耐性)、ドーパミンに対しては高親和性になっている(D2high)比率が増える(ドーパミンへの感受性亢進)といったドーパミンD2受容体の複雑な変化が関与しているようだ。生体内では常に、抗精神病薬とドーパミンとがD2受容体を巡って拮抗して占拠争いをしている訳であり、ドーパミンは抗精神病薬よりもD2受容体への親和性が高いことを念頭に置いておかないと、薬物療法に失敗することになる。

 さらに、以下の論文でも同じようなことが報告されている。

思春期におけるリスペリドン投与による影響は長期間続き、大人になってからのオランザピンやクロザピンに対する反応が変化する
Long-term impacts of adolescent risperidone treatment on behavioral responsiveness to olanzapine and clozapine in adulthood.

 この前臨床研究は、思春期における短期的なリスペリドンの投与による成人になった時のオランザピンやクロザピンといった抗精神病薬への反応に対する影響を検証したものである。
 
 抗精神病薬の効果はラットの条件回避反応(CAR)モデルを使用し、回避反応に対する薬物の抑制効果によってインデックス化された。
 
 雄の思春期のラットは、生後日P40~P44の時期に5日間連続してリスペリドン(1.0mg/kg、皮下注射SC)の投与、または、または滅菌水が投与され、CARモデルとしてテストされた。その後、大人になった時期(~P 80-84)に、オランザピン(0.5mg/kg、SC)か、クロザピン(5.0mg/kg、SC)、または、担体が5日間投与され、回避反応がテストされた。
 
 その結果、思春期の時期に、繰り返しリスペリドンが投与された時に、回避反応は永続的な抑制を生じた。しかし、大人になってからの5日間のテストにて、思春期にリスペリドンが投与されたラットではオランザピンにスイッチされた場合は、担体よりも著しく低い回避反応を示したが、これは、オランザピンに対する感作が増強し、この現象は思春期におけるリスペリドンによって誘導されたことが示唆される。
 
 一方、これとは対照的に、クロザピンにスイッチした場合には、思春期にリスペリドンが投与されたラットでは、対照のラットよりも回避反応が有意に高くなっており、これはクロザピンに対する感作が減少したことを意味し、この現象はリスペリドンによって誘導されたことが示唆される。
 
 なお、成人期における音響驚愕反応のプレパルス抑制におけるパフォーマンスは、思春期のリスペリドン投与によっては変化しなかった。
 
 要約すると、思春期におけるリスペリドン曝露は、長期間持続する他の抗精神病薬の感作現象を誘導し、変更した薬物に依存して感度が変化することになる(増加または減少)。これらの長期的に持続する変化は、おそらく薬物によって誘発された神経可塑的な変化によって媒介されると思われるが、これは、精神病症状を早期に発症する患者への抗精神病薬治療は臨床的にいろんな変化を明らかに生じてさせているものと思える。

(論文終わり)

 以上、いくつかの論文を紹介したが、こういった青少年への抗精神病薬による変化は、最悪な場合では、大人になってからの精神病を発病する原因にもなってしまう恐れがあると言えよう。

 なぜならば、これらの論文はまさに、大人で報告されている抗精神病薬によるドーパミンD2受容体パラドックスのような現象が児童にも生じ、それが大人時代まで影響が残ることを意味するからである。

 もし、投薬が中止された以降も、子供時代に投与された抗精神病薬の投与によってD2highの比率が増えて、D2受容体の感受性が亢進したままになっているのであれば、大人になってから、何らかのストレス刺激に反応してドーパミンが過剰に放出されてしまうと、ドーパミンに過剰に反応し急激に精神病症状が惹起されてしまうことになる(=ドーパミン過感受性症候群、ドーパミン過感受性精神病)。

(ドーパミンの感受性亢進はD2highという状態の増加と関連しており、D2highの増加は精神病へと導かれてしまう。Seeman博士の論文。)
http://www.pnas.org/content/102/9/3513.full 
 こうなると、精神病が発病したのだと誤解されてしまうことになろう。

 一方、このようなドーパミンD2受容体のパラドックスが子供時代に起こると、抗精神病薬を内服していながら抗精神病薬の効果がなくなったような状態となり、ちょっとしたストレスにて、行動の変化が生じることになる(ドーパミンD2受容体の感受性亢進に由来するような行動の変化)。これは、成人の統合失調症では幻覚や妄想の悪化で表現されるのであろうが、青少年では多動や落ち着きのなさや攻撃性や衝動性といった症状で表現されることになろう。すなわち、見かけ上、抗精神病薬が投与された原因になった症状が悪化するのである。その結果、抗精神病薬の投与量がだんだんと増えていくことにもなろう。

 前回のブログでも述べたような青少年への抗精神病薬の多剤併用といった有害事象は、まさに、この抗精神病薬によるドーパミンD2受容体の感受性亢進(受容体数の増加、D2highの増加)といった現象が生じており、抗精神病薬を増やさざるを得なくなったことを暗示しているのではなかろうか。
 
 こういった抗精神病薬によるドーパミン受容体の変化によって、抗精神病薬の投与量がだんだんと増えていくという悲劇的な事象は、既に、大人では論文にされて報告されており、そういった事象が児童でも起こりうるものと懸念される(全てのケースで起こり得る訳ではないのだろうが)。

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 もし、こういった悲劇的な事態になれば、大人になった時まで高用量の抗精神病薬を飲み続け、ADHDだったはずが、ASDだったはずが、いつの間にか精神病(≒統合失調症)に移行していたという悲劇的な帰結を招いてしまうことになろう。

 こういった抗精神病薬の投与量がだんだんと増えていくという懸念に対する実態調査は全く行われておらず、抗精神病薬が投与されているADHDやASDの児童において、抗精神病薬の投与量がだんだんと増えていくという悲劇的な事象が起きていないかを国は監視する必要があろう。
 
 前回のブログで触れたように、我が国で自閉症の児童に対して一番多く処方されている抗精神病薬は第一世代のハロペリドールである。第一世代の抗精神病薬のためドーパミンD2受容体の感受性亢進が生じていることがますます懸念される。今後はリスペリドンもASDに使用できるようになるはずであり、我が国では、ハロペリドールからリスペリドンに移行していくのかもしれないが、このリスペリドンも児童にとっては非常に危険な抗精神病薬であることには変わりはないであろう。
 
 しかも、日本小児精神神経学会や日本児童青年精神医学会の児童への抗精神病薬を使用する上での危険性に対する認識はまだまだ甘いものであり、今後、我が国においても児童への抗精神病薬の過剰使用がますます増えていくことが懸念される。

 さらに、抗精神病薬の使用量が増えていけば、用量依存性に脳の灰白質へのダメージも当然大きくなる。もし、そうなれば、病態は不可逆性となり、ますます重度になっていくことは間違いない。そういったことが我が国の青少年に対して起きていないことを祈るしかない。

 では、どうしたらいいのであろうか。実際の臨床場面では、激しい行動症状を呈する児童は確かに存在し、緊急を要するような場合も多々あろう。しかし、やむを得ない場合の抗精神病薬使用は当然許容されるものであろう。下の論文は、子供への抗精神病薬の断続的な使用は、大人になってからの社会行動上の影響を及ぼさないという論文である。
 
 児童への抗精神病薬は、少量で、かつ、一時的な使用や屯服のような形での使用に留めておくことが肝要なのかもしれない。

成人期におけるハロペリドールへの感作と社会的行動に関する影響は、思春期を通じたハロペリドールの断続的な投与と連続投与とでは差がある
Differential effects of intermittent versus continuous haloperidol treatment throughout adolescence on haloperidol sensitization and social behavior in adulthood.

 抗精神病薬の行動への影響を調べた動物実験では、投与方法が異なると薬物感受への影響も異なることが示唆されているが、間欠的な投与が感作(sensitization)効果を生じさせるのに対して、持続投与では耐性を生じさせると言われている(注; この当たりのことはD2受容体の権威であるシーマン博士によれば、必ずしも決まった事象とは言えず、逆の結果にも成り得る事象ではある)。
 
 そこで、本研究では、思春期におけるハロペリドール(HAL)の投与による感作がどのようにして誘導され、間欠投与と持続投与では、大人になってからの条件回避反応(CAR)テストにおいて異なる影響を示すのかを検証した。さらに、我々は、これら二つの投与方法が、成人期における社会的相互作用や社会的記憶にも影響を与えるかどうかを調べた。
 
 雄の思春期のラットは、生後P44~P71の時に、毎日ハロペリドール(HAL)が投与されたが、投与方法は、浸透圧ミニポンプによる投与(HAL-0.25 CONTと称するする:HAL 0.25 mg/kg/日、n =14、持続的投与に相当 )、あるいは、皮下注射による投与(HAL-0.05 INTと称する:0.05mg/kg/日、sc、n=14、間欠的な投与に相当)、または、対照(滅菌水、n=14)である。 ハロペリドールによる感作は、P80とP82の時期に、HALを0.025、0.05mg/kg, 皮下注射し、チャレンジテストにて評価した(注; ただし、体重が不明なため、皮下注射が実際に何mgなされたのかは不明。体重が200g~300gとすれば、ハロペリドールとしては0.01~0.015mgという非常に少量の投与量ではある。)
 
 2日後、各グループの半分のラット(n=7 /グループ)が4トライアルからなる社会的相互作用テストで評価された。もう半分のラットは、ハロペリドールによって誘発されるD2受容体の機能の変化を評価するためにキンピロール誘発性自発運動亢進試験で評価された。
 
 その結果、間欠投与群のみが、HAL0.05mg/kgのチャレンジテストにて強固な感作効果を示し、この群のラットでは、担体投与群(対照群)やHAL-0.25 CONT群(持続投与群)よりも有意に少ない(fewer)回避反応を示した(注; 回避反応の抑制が十分に見られ、ハロペリドールの本来の効果は変化しなかったということか?)。
 
 3つの全ての群において社会的相互作用は類似したレベルを示し、社会的な刺激の変化に対する感度は同じようなレベルを示したことから、思春期におけるハロペリドール投与は社会的行動や社会的記憶に影響を及ぼさなかったことが分かった。同様に、3つの全ての群においてキンピロールチャレンジによる自発運動の増加は同様のレベルを示したことから、思春期におけるハロペリドール投与は、長期的に持続するような変化をD2受容体の機能に生じさせなかった。
 
 これらの知見は、ハロペリドールによる感作は投与の仕方に依存する特有の現象であることを示唆している。すなわち、感作という現象は、連続的な投与より間欠的な投与において見い出される可能性が高い。断続的なHALの投与では社会的機能を損なわずD2の機能を変化させなかったという所見は、薬物によって誘発される薬剤への感受性の変化と社会的機能の変化と神経受容体との間には解離という現象が存在することを示唆している。

(論文終わり)

 この論文は今一つの論文なのだが、あえて紹介したのは、少量で一時的な(屯服的な)使用であれば、大きな問題は生じない可能性があると私は言いたかったからである。しかし、このあたりの研究はもっと行われていかねばならないのは言うまでもない。

 ただし、これまで述べたことは、既に知られている抗精神病薬の薬理作用や、動物実験での所見から、抗精神病薬の最悪な有害事象が出た場合を個人的に想定して書いており、事実として証明された訳ではなく、誤解のないようにして頂きたい。

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 なお、青少年への懸念される抗精神病薬の影響はD2受容体だけでなく、認知機能に関するものも既に少なからず報告されている。それらの論文を紹介する。

 下の論文は、第二世代の抗精神病薬によるワーキングメモリーへの影響や神経細胞の樹状突起棘の密度の低下などを報告している。

思春期のラットにオランザピンが投与されることで永続的で特殊なメモリーの障害や大脳皮質の発達や機能が変化する
Olanzapine Treatment of Adolescent Rats Causes Enduring Specific Memory Impairments and Alters Cortical Development and Function

 抗精神病薬は、青少年の様々な精神疾患の治療にますます使用されるようになっている。しかし、人生の早期における抗精神病薬による長期的な影響については殆ど知られていない。抗精神病薬の殆どがドーパミンD2受容体に対する強力なアンタゴニストか部分アゴニストであり、非定型抗精神病薬はさらに、セロトニン受容体のタイプ2Aに拮抗する。

 ドーパミンやセロトニンは、神経発達プロセスの多くを調節する。それ故、人生の早期における抗精神病薬の投与は、長期的な行動上、および、神経生物学的な障害を引き起こし、神経発達プロセスを混乱させてしまう可能性がある。

 この研究では、出生後28~49Pの思春期の雄のラットにオランザピンを投与した。その後、大人になってから担体を投与された対照ラットと比較したが、ワーキングメモリー(working memory)が障害されているが、空間記憶(spatial memory)は正常であることが分かった。さらに恐怖条件付けの消去(extinction of fear conditioning)が障害されていることが示された(恐怖に過剰に反応して条件付けられてしまう)。
 
 運動活動量や運動スキル、オープンフィールドへの馴化、情動(affect、不安やストレス反応など)に関する測定値は正常であった。
 
 一方、眼窩前頭皮質(OPC)や前頭前皮質内側部(MPC)、頭頂葉(PAR1)、側坐核のコア(NAc core)、海馬の歯状回(DG)においては、思春期時代のオランザピン投与によって部位特異的に神経発達の動態や樹状突起棘密度の成熟値が低下しており、脳内の変化が認められた(樹状突起棘密度の成熟値は、PAR1とMPCで50%の低下、OPCで16%の低下、 NAc coreでは21%の低下していた)。
 
 眼窩前頭皮質(OPC)や前頭前皮質内側部(MPC)では、ドーパミンD1結合能は減少しており、GABA-A受容体の結合能は増加していた。逆に、MPCでは、D2結合能が増加していた(注; D2パラドックスのような現象が生じていることになる)。
 
 これらの持続的な変化は、小児への抗精神病薬による永続的な後遺症を理解し、思春期の抗精神病薬治療の利点と危険性を計測する上で基礎となる所見であり、特に、高リスクなケースや無症候性患者への抗精神病薬の予防的投与の利点と危険性を理解する上で重要な所見であることを強調している。思春期の抗精神病薬の投与によって誘導される神経伝達物質の受容体の結合能や神経回路の長期的な変化は、他の治療薬や違法向精神薬による行動上の変化、神経生物学的反応の変化を永続的に引き起こすことになろう。

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(論文終わり)

 ワーキングメモリーの低下は、神経細胞の樹状突起棘密度の低下、すなわち、脳の成熟が遅れてしまっていることが原因であろうか。抗精神病薬によって脳の成熟が阻害されてしまう恐れがあると言えよう。
 
 私は青少年への抗精神病薬の使用は統合失調症のケースに限定すべきであると考えている。ASDやADHDでは、大人ってなるにつれて、自然と良くなっていくケースも報告されている、それは脳の成熟によるものであろう。従って、脳の成熟を遅らせてしまうような薬剤は使用すべきではないことは言うまでもない。ASDやADHDにおいては、やむ負えないような場合に一時的に使用べきであろう。

 ネットで調べるとASDやADHDが自然と良くなっていったという報告はたくさんある。鍵は食事やライフスタイルを変えたことにあるようだ(ω3脂肪酸を摂取したり、腸内細菌叢を整えたり、抗酸化物質を含む食品を摂取したり、など)。ただし、自然と良くなっていった(健常児と変わらないまで成長した)ケースで共通している点は、向精神薬を使用しなかったことかもしれない。これからの医学研究は、もっとそういった自然と良くなっていったケースに注目して、何が回復を促進させたのかを明らかにしていく使命があろう。
ASD
AHDH
 このように、統合失調症やADHDやASDでも、精神疾患全般において自然に回復して良くなっていくという晩熟(成熟)という現象は起こりうるが、薬物によってマスクされてしまう危険性があると私は考えている。同様な懸念は既にNIMH(アメリカ国立精神衛生研究所)からも発せられている。

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 一方、青少年への抗精神病薬の投与は報酬系にも影響を与え、大人になってからの報酬系に関連する障害が懸念されることが同じ研究者グループから報告されている。

ラットにおける思春期のオランザピンの投与は大人になってからの報酬行動や側坐核の機能を変化させてしまう(青少年時代に抗精神病薬に曝露されると大人になってからの報酬系の機能をも変えてしまう)
Olanzapine treatment of adolescent rats alters adult reward behaviour and nucleus accumbens function.

 抗精神病薬(APD)は、青少年の様々な精神疾患の治療にますます使用されるようになっている。しかし、人生の早期におかる抗精神病薬による長期的な影響については殆ど知られていない。

 抗精神病薬の殆どがドーパミンD2受容体に対する強力なアンタゴニストか部分アゴニストである。さらに非定型抗APDは、複数のタイプのセロトニン受容体に対して作用する。そしてドーパミンやセロトニンは、神経発達プロセスの多くを調節している。従って、人生早期における抗精神病薬の投与は、行動や神経生物学的な機能に関する長期的な後遺症を潜在的に引き起こし、神経発達プロセスを乱すことになる。
 
 我々は、人間において治療的に用いられている近似的な投与条件を設定し、思春期に相当する出生後28~49Pの雄ラットにオランザピン(Ola)を投与した。その結果、大人になってから、対照ラットと比較して、アンフェタミンへの強化された条件付け場所嗜好性を示した。さらに、側坐核のコアにおける、ドーパミンD1受容体結合能は減少し、D2結合能は増加し、腹側被蓋野における電気刺激によって誘発させるドーパミンの放出は減少していた。
 
 このように、思春期時代のオランザピン投与によって、大人になってからの側坐核における報酬刺激への行動上の鍵となるような反応性やドーパミン作動性の神経伝達が変化する。
 
 これらの持続的な変化は、オランザピンの投与は人生早期の限定した時期においてさえも他の治療薬や違法性精神作動薬への神経生物学的な反応や報酬関連行動への永続的な変化を引き起こすことになろう。これらの所見は、思春期、特に、高リスクなケースや無症候性患者へ抗精神病薬治療の利点や危険性を計測する上で基礎となる所見であり、小児への抗精神病薬の投与による永続的な後遺症を理解する上で重要な所見であることを強調している。

(論文終わり)

 この所見はドーパミンを上げるようなものに条件付けらやすくなっているような所見である。ギャンブルや過食(食品)にといった有害なことに何でも条件付けられてしまうような大人になってしまうのかもしれない。

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 次の論文も同じ研究グループの論文であるが、同様に、青少年時代に投与された抗精神病薬によって大人になってからの報酬系の機能不全を招く懸念があることを報告している。

ラットでは思春期時代のオランザピンの投与は側坐核におけるグルタミン酸やGABAの長期的な変化を引き起す
Olanzapine antipsychotic treatment of adolescent rats causes long term changes in glutamate and GABA levels in the nucleus accumbens.

 非定型抗精神病薬(AAPDs)は青少年の様々な精神疾患の治療として広く使用されている。しかし、脳が完全に発達する前に、AAPDsが投与された時の長期的な影響については殆ど知られていない。我々は以前の研究で、思春期(生後日P28~P49)のラットにおいて、オランザピン(OLA、広く処方さているAAPDだが)を人間に治療的に用いられている条件と近似した投与を行ったが、行動や神経生物学な面において長期的な混乱を引き起こすことが分かった。

 我々は、これらの効果のメカニズムを研究し始めている。ドーパミン(DA)やセロトニン(5HT)は、神経発達プロセスの多くを調節している。
 
 現在、承認されているAAPDsは、主にドーパミン作動性の活動を介して治療効果を発揮するが、AAPDsが治療に使用される統合失調症(SZ)や他の精神疾患では、ドーパミン作動性の機能障害はグルタミン酸作動性(GLUergic)の異常やγアミノ酪酸作動性(GABAergic)の異常を伴っている。
 
 この研究では、プロトン磁気共鳴分光法(1H MRS)を使用して、思春期のOLA投与におけるGABAやGLUレベルへの効果を調査した。その結果、思春期にOLAを投与した大人のラットでは、側坐核(NAc)におけるGLUやGABAの双方のレベルで長期的な減少を引き起こしていることが分かった。側坐核は、統合失調症では機能が障害されている脳の「報酬」システムとして重要な部位である。
 
 OLAによって誘導される側坐核や他の脳領域におけるGLUやGABAレベルの変化、および、それらの変化のダイナミクスやメカニズムに関してはさらなる研究が必要である。こういった研究は、治療効果が向上し、小児患者に投与した場合AAPDsによる長期的な異常を防止できるような既存のAAPDsの代替になるような新薬を設計するための必須のステップとなろう。

(論文終わり)

 これらの所見は報酬系へ負の影響であり、青少年時代に使用された抗精神病薬によって大人になってからの報酬系機能不全を生じる可能性があることになる。この報酬系の機能不全は薬物乱用や摂食障害やギャンブル依存などに結びつくことが分かっており、他の精神疾患を生じさせてしまう帰結にもなりかねず、非常に危険な所見だと言えよう(当然、報酬系の機能不全はうつ病の危険因子にもなろう)。

 こういった論文を読むと児童への抗精神病薬の使用は慎重にならざるを得ないことが理解できよう。

 さらに、別の大きな問題もある。青少年は大人の場合よりも第二世代の抗精神病薬(SGA)によって肥満になり易いことである。ある調査では、児童におけるSGAによる最初の3ヶ月間の体重増加は、順に、オランザピン(8.5Kg)>クエチアピン(6.1Kg)>リスペリドン(5.4Kg)>アリピプラゾール(4.4Kg)の順であった(投薬を拒否したケースでは0.2Kg体重が増えただけだった)。他の調査では、オランザピン>クロザピン>リスペリドン>クエチアピン>アリピプラゾール=ジプラシドンの順で体重増加が認められた。別の調査でも、SGAが投与された青少年は、無期限に継続する体重増加を示し、体重は最初の数ヶ月でベースラインから7%も増加することが分かった。

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 青少年でSGAが使用されている場合は肥満の防止は最重要課題となる。肥満を防止するためには、行動介入などによるライフスタイルの指導を必ず行っておかねばならない。さらに、コレステロール値などをモニタリングして、代謝障害の防止にも注意しておかねばならないのは言うまでもないだろう。
(下のサイトから各SGAに対するモニタリングフォームがダウンロードできる)

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 次に大きく懸念されるのは、ADHDの治療薬として使用されているメチルフェニデートによる脳内の変化である。ただ単に、大人になってからの薬物依存を増やさないという論文しかなく(=動物実験では、コカインの自己投与を増やさないなどの結果からそのように推測されている)、しかも、想定される懸念事項が正しく調査されているのかも怪しく、現時点の段階では、子供へのメチルフェニデートの投与は安全だとは言えないと私は考えている(子供時代に使用していたが、大人になってからADHD薬を中断したケースに対して、認知機能や感情機能や日常生活における行動などを適正に調査した結果からの結論ではなく、そういった調査は全く成されていないのである)。
 
 メチルフェニデートに関しては、実際に、次のような報告がなされている。
 
 まず懸念されることは、他のコグニティブエンハンサーと同様に、ドーパミンやグルタミン酸などの神経伝達システムや前頭前皮質に対する悪影響である。

 下の論文は、青少年時代にメチルフェニデートに曝露されることよって大人になってからの前頭前皮質の可塑性が低下してしまうという報告である。
 
 これは、前回のブログでも述べたように、子供時代のメチルフェニデートの使用によって、大人になってからの学習能力が低下したり、思考の柔軟性や創造性がなくなるということを意味しているように思える。

人間の臨床で使用される用量のメチルフェニデートの投与は子供のラットの前頭前皮質におけるNMDA受容体の組成やシナプスの可塑性を変化させてしまう
Treatment with a Clinically-Relevant Dose of Methylphenidate Alters NMDA Receptor Composition and Synaptic Plasticity in the Juvenile Rat Prefrontal Cortex

 メチルフェニデート(リタリン、MPH)は、子供に対して最も一般的に処方されている向精神薬である。メチルフェニデートは、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療に使用されているが、健康な個人においても認知機能の増強を目的として使用されているが(コクニティブ・エンハンサー)、潜在的な長期的な影響や、細胞メカニズムに対する作用は十分に理解されていない。
 
 我々は最近、臨床で使用される用量のMPHの投与(1mg/kgを腹腔内、単回注射)によって、幼齢ラットの前頭前皮質ニューロンの神経細胞の興奮性が大きく減少したことを報告した。
 
 今回の研究では、NMDA受容体サブユニットやNMDA受容体によって媒介させる短期または長期的なシナプス可塑性について、幼齢ラットの前頭前野皮質ニューロンにおけるMPHの投与による急性効果を調査した。
 
 その結果、MPH(1mg/kgを、腹腔内)の単回投与によって、幼齢ラットの前頭前皮質におけるNMDA受容体サブユニットNR1やNR2Bの表面や総タンパク質レベルが有意に減少することを見出した。なお、NR2Aサブユニットには影響は見られなかった。
(注; このNMDA受容体のサブユニットの発現が変化するという事象はシナプスの可塑性がMPHによって影響を受けることを意味する)。
(NMDA受容体サブユニットについて) 
 
 一方、前頭前皮質ニューロンでは、NMDA受容体によって媒介されるEPSCs(興奮性シナプス後電流)の減衰時間(decay time)や電荷転送(charge transfer)が有意に減少したが、AMPA受容体によって媒介されるEPSCsの振幅や短期降下が有意に増加した。
(AMPA受容体について)
http://ja.wikipedia.org/wiki/AMPA%E5%9E%8B%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93
(EPSCsについて)
http://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%88%88%E5%A5%AE%E6%80%A7%E3%82%B7%E3%83%8A%E3%83%97%E3%82%B9
 
 さらに、幼齢ラットの前頭前皮質ニューロンでは、MPHの投与によってLTP誘導の確率と大きさが有意に増加したが、LTD誘導に対する効果は小さいものであった。
(注; LTPとLTDはセットになって働くべきであり、LTPが強まるのは一時的には学習効果は上がるかもしれないが、LTPばかりが強まることになると危険であろう)。
(LTP、LTDと記憶や学習について)
 
 我々のデータは、MPHの新しい作用メカニズムを示すもである。例えば、人生早期にこえるMPHの使用によってグルタミン酸受容体によって媒介されるシナプスの可塑性が変化することになる。さらに、単一の投与でも、NMDA受容体が大きく変化するため、健康な個人、特に子供や若者による適応外使用は、可塑性や学習に影響を及ぼす可能性があろう。

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(論文終わり)

 1回のメチルフェニデート(MPH)でも前頭前皮質のNMDA受容体のサブユニットの発現が変化してしまうのである。NMDA受容体のサブユニットは脳の発達や成熟にも大きく関与している。もし、MPHを持続使用すれば、神経の可塑性だけでなく、脳の発達や成熟にも影響が出ることは間違いないであろう。


 この前頭前皮質に対する影響はシナプスの可塑性に関するものだけではない。高用量では前頭前皮質の機能にも変化が生じ、それは永続した変化になってしまうことが下の論文では報告されている。

脳の発達や大人になってからの前頭前野ニューロンに対するメチルフェニデートの影響は年齢に依存して異なっている
Distinct age-dependent effects of methylphenidate on developing and adult prefrontal neurons

 メチルフェニデート(MPH)は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)を治療するために長期間使用されている。しかし、その作用と前頭前皮質の神経回路への潜在的な影響の細胞メカニズムは十分に知らておらず、特に、発達中の脳のシステムへの影響は殆ど理解されていない。齧歯類では、臨床に関連する用量の成体への影響は調べられている。しかし、この臨床に関連する用量は、幼齢ラットではまだ十分に調べらていない。

 子供(P15)および大人(P90)に相当するSDラットにMPHまたは生理食塩水を投与した。全細胞パッチクランプ記録を用いて、前頭前皮質の錐体ニューロンの興奮性やシナプス伝達を調べた。MPH投与から回復した時期として、薬物中止後の1、5、10週目に調査を行った。

その結果、1mg/kgのMPHを腹腔内投与した場合(人間の成人で受け入れられている治療範囲内)、単回投与または慢性の治療のいずれかにおいて、幼齢ラットの前頭前皮質では、過分極活性化電流を増加させることによって錐体ニューロンの有意な抑制効果を生み出したが、大人のラットでは興奮性の効果を発揮した。

 最小の臨床用量(0.03~0.3mg/kg)でも、幼齢ラットでは用量依存的に抑制効果(depressive effects)を生じた(=子供の前頭前皮質はMPHの効果に対して敏感である)。1mg/kgを1週間慢性投与した時は機能は回復したが、3mg/kgや9mg/kgを慢性投与した時では10週間以降も持続する前頭前野ニューロンの機能の抑制を示した(人間の児童に1mg/kgを超えた量を使用するのは危険である)。

 これらの結果は、子供の前頭前野は、メチルフェニデートに非常に過敏であり、大人で使用される治療用量ではオーバーシュートしてしまうことを示唆している。子供へのMPH治療は、前頭前野の興奮性ニューロンの機能に関しては長期的に持続するような永続的な変化をもたらす可能性があろう。

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(論文終わり)

 小児ではメチルフェニデートに対して非常に敏感であり、少量でも十分に効果が発揮されるのである。この原則を無視して、大人に使用するような用量を設定して処方をすることは、前頭前皮質の錐体ニューロンをオーバーシュートさせてしまい非常に危険なことになる。

なお、日本におけるメチルフェニデート(コンサータ)に関する使用量は、以下のようになっている。

18歳未満の患者さん:通常、主成分として初回18mgを1日1回朝に服用することから開始し、維持量は1回18~45mgを1日1回朝に服用します。増量される場合は1週間以上の間隔をあけて1日9mgまたは18mgずつ増量されます。症状により適宜増減されますが、1日54mgを超えません。

18歳以上の患者さん:通常、主成分として初回18mgを1日1回朝に服用します。増量される場合は1週間以上の間隔をあけて1日9mgまたは18mgずつ増量されます。症状により適宜増減されますが、1日72mgを超えません。

となっており、場合によっては1mg/kgを超えてしまうケースが出てくる恐れがあると言えよう。

 さらに、児童へのメチルフェニデートは薬物中毒の危険性はないと言われていても、薬物中毒に関連する遺伝子や神経回路が変化してしまうことが報告されており、精神刺激剤への中毒に結び付くことが懸念される。すなわち、大人になってからも、メチルフェニデートを飲み続けないといけなくなるのである。へたをすれば薬漬けの一生になってしまう恐れがあろう。

中毒に関連した遺伝子の調節:コグニティブエンハンサーへの曝露のリスクvsその他の精神刺激薬
Addiction-Related Gene Regulation: Risks of Exposure to Cognitive Enhancers vs. Other Psychostimulants

 注意欠陥多動性障害(ADHD)やナルコレプシーなどの疾患の治療に使用されている精神刺激薬(psychostimulants)であるメチルフェニデート(リタリン、コンサータ)、アンフェタミン(アデロール)、モダフィニル(プロビジル)が健常者の間で「認知増強剤cognitive enhancers」として使用されることが増えている。しかし、これらの薬剤のニューロンに及ぼす長期的な効果は十分に理解されていない。
 
 過去20年にわたる研究の多くは、コカインやアンフェタミンなどの精神刺激薬の脳内の遺伝調節への効果に関する調査に費やされているが、これらの分子の変化は精神刺激薬中毒にとって重要だと考えられているためである。
 
 この研究では、これらの精神刺激薬によって誘発される遺伝子の調節を介した神経化学的および細胞メカニズムを検証し、神経システムの変化を同定した。
 
 その結果、最も影響を受けた脳のシステムは皮質線条体回路(corticostriatal circuits)であり、この回路は皮質-大脳基底核-皮質ループの一部であり、意欲に関連した行動を仲介している。他の神経伝達物質(例えば、セロトニン)も調節の役割を果たしているが、そのような遺伝子調節の上で重要な神経伝達物質はドーパミンであり、ドーパミンはグルタミン酸との相互作用している。
 
 このレビューでは以下のことを提示した。(1)コカインやアンフェタミンによって誘発される皮質線条体回路における遺伝子調節が回路の構築に及ぼす主な影響(2)メチルフェニデートや医療用アンフェタミン(アデロール)やモダフィニルによって生じる分子生物学的な変化の評価についてである。
 
 これらの所見からは、長期間にわたるコグニティブエンハンサーへの曝露は、コカインやアンフェタミンによって誘発される皮質線条体回路における遺伝子発現の変化と同質の類似した変化を誘導することが分かった。これらの神経細胞の変化は、精神刺激薬やコグニティブエンハンサー中毒に寄与することができると考えられる。
 
(注; 遺伝子の具体的な変化としては、 急性効果としては、線条体におけるc-FosやZif268、Homer 1aなどの遺伝子の発現の増加、慢性曝露では遺伝子発現の長期的な抑制、線条体から投射されるニューロンの神経ペプチドの遺伝子の発現の変化、ドーパミン受容体の変化、線条体黒質ニューロンにおける転写因子deltaFosBの蓄積、線条体黒質経路におけるダイノルフィン発現の増加、などであるが、それらの変化は、コカインやアンフェタミンやメチルフェニデートで非常に類似していたことが判明したのである。)

(論文終わり)

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 脳内の遺伝子の変化はメチルフェニデートでもアンフェタミンでもコカインでも同じだったのである。コカインやアンフェタミンは中毒になるともう二度とやめれなく程の強力な覚せい剤である。それと同じ遺伝子の変化がメチルフェニデートで生じるということは、大人ってなってからメチルフェニデートをやめることは困難になることを意味しているように思える。

 このチルフェニデートによる遺伝子発現の変化は次の論文でも報告されている。

注意欠陥/多動性障害(ADHD)の動物モデルである自然発症高血圧ラットの前頭前皮質や線条体におけるメチルフェニデートの繰り返し投与による増強効果に対する転写反応
Prefrontal cortical and striatal transcriptional responses to the reinforcing effect of repeated methylphenidate treatment in the spontaneously hypertensive rat, animal model of attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD)

 メチルフェニデートは、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療として最も一般的に使用されている刺激薬である。これまでの研究では、メチルフェニデートが「強化因子(reinforcer)」であり、ADHDを有する個人では、この薬を乱用していることが見出されている。にも係らず、ADHDの個人におけるメチルフェニデートの長期的なレクリエーション的な使用や乱用による分子生物学的な結果に関してはまだ完全には知られていない。

 最も認定され広く使用されているADHDの動物モデルである高血圧自然発症ラット(SHR)が、思春期(出生後日P42~P48)の時期にメチルフェニデート(5 mg/kg、腹腔内)で前処置され、その後メチルフェニデートによって誘導される条件付け場所嗜好性(CPP)と自己投与について検証された。その後、メチルフェニデートで処理された時にCPPや自己投与を示したSHRの前頭前皮質(PFC)と線条体における遺伝子発現の差分が調べられた(CPPや自己投与については、4回前に投稿したアルコールに関するブログを参照されたし)。

 その結果、前頭前皮質におけるゲノムワイドなトランスクリプトーム(転写産物)プロファイリングでは、アポトーシス(例えば、S100a9, Angptl4, Nfkbia)、転写 (Cebpb, Per3)、神経可塑性(Homer1, Jam2, Asap1)に関与する転写産物を含む30種の遺伝子の発現が変化することが明らかにされた。

 対照的に、線条体では306種の遺伝子の発現が変化し、それらの中で252種は減少する方向(ダウンレギュレート)で調節されていた。ダウンレギュレートされた遺伝子の中での主な機能カテゴリーは、細胞接着(例えばPcdh10、Ctbbd1、Itgb6)、アポトーシスの調節(Perp, Taf1, Api5)、 (Notch3, Nsbp1, Sik1)、ミトコンドリア器官(Prps18c、Letm1、Uqcrc2)、ユビキチン媒介性タンパク質分解(Nedd4、Usp27x、Ube2d2)である。

 これらの変化は、メチルフェニデートによってCPPと自己投与を示したSHRの脳における、メチルフェニデートによって誘発される神経毒性シナプスや神経可塑性の変化エネルギー代謝の変化ユビキチンに依存したタンパク質の劣化という現象が生じていることを示唆している。さらに、これらの知見は、前臨床試験において提示されたように、メチルフェニデートの慢性使用に関連する認知機能障害を反映する所見である。ADHDの個人におけるメチルフェニデートの長期的なレクリエーション使用や乱用に関する臨床的意義を同定するためにはさらなる研究が必要である。

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(論文終わり)

 アポトーシス(細胞死)を早めてしまうかどうかは別にしても、前頭前皮質における神経の可塑性が障害されるのは間違いないであろう。
 
 大人になってからのこういった変化は見かけ上は気付かれ難いのかもしれないが、よく調べれば、学習機能や思考の柔軟性や創造性といったようなカテゴリーで低下していることが検出されるのかもしれない。しかし、それは、児童への薬物療法を支持する医師からは、子供時代に内服したメチルフェニデートという薬剤による影響ではなく、疾患による帰結として扱われてしまうことになろう(健常な成人におけるコグニティブエンハンサーの使用で生じる所見からは十分に想定できる事象なのではあるが、そういった論文が発表されない限りは問題にもならないであろう)。

 なお、前頭前皮質の可塑性の低下については他の論文でも報告されている。BDNFという神経にとっては重要なタンパク質が低下してしまうことも影響しているようだ。

少年時代のメチルフェニデートは、ドーパミンD3受容体やBDNFを経由して大人になってからの前頭前皮質の可塑性を低減させる
Juvenile methylphenidate reduces prefrontal cortex plasticity via D3 receptor and BDNF in adulthood
 
 幼児期における早期の薬物療法による介入は、児童の潜在能力を短期的だけでなく長期的にも最大限に引き出すことを目指して行われている。メチルフェニデート(MPH)のような精神刺激薬への少年への曝露は、動物実験だけでなく、人間においても注意欠陥多動性障害(ADHD)のある種のサブグループにおける物質使用のリスクを低減すると一貫して言われている。
 
 そこで、我々は、発達過程にあるラットのドーパミン受容体D3(D3R)や脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を介して、MPHの脳の可塑性に対する効果を調べた。

 生後日20~35Pの間のラットに、生理食塩水担体(Veh)、あるいは、MPH(2mg/kg)を投与し、D3Rアゴニスト±7-OHDPAT、または、アンタゴニストnafadotride(0.05mg/kg)単独またはMPHとの組み合わせを1日2回投与した。その後、成人期になってから、Vehあるいはコカイン(10 mg/kg、2日間)をチャレンジした。さらに、前頭前皮質の総BDNFのタンパク質量とBDNF遺伝子のmRNAレベルについて分析したが、分析したmRNAのスプライス変異体(splice variants)についてはI、IIc、III/IV、IV/VIである。D3受容体の発現についても同様な分析を行った。別のグループに対しては、生後日20、35、40、60Pの時期のスプライス変異体についての評価を行った。

 その結果、年齢を横切って、MPH投与後における、Drd3(D3受容体)とBdnf(BDNF)のmRNAとの間の強い相関関係、 Drd3とエクソンIIcレベルとの負の相関関係があることが明らかになった。(注; BdnfのエクソンIIは、ニューロンに局在しており、その発現は神経可塑性の調節において潜在的な役割を果たしている)。
 
 BDNFタンパク質レベルは、ベースラインの時点ではVeh群とMPH群との間では差がなかったが、MPH投与群やコカインチャレンジ群では有意に低下していた(30.3±9.7%)。BDNFのmRNAはMPH投与群では有意に高くなっていたが、コカインにて逆転した(必ずしも、BDNFのタンパク質とmRNAは一致しないということか。エクソンIIcが絡んでいるのであろうか)。この効果はnafadotrideによってブロックされた。さらに、総BdnfやBdnfスプライス変異体I、IIc、III/IV、IV/VIは、子供時代や思春期後期を横切って変化した。

 これらの所見は、思春期やその前後におけるBDNF発現の調節関わる脆弱性の敏感なウィンドウが存在することを示しており、それが正常な動物と比較して、少年時代のMPHへの曝露は、成人期にコカインに曝露された時に前頭前野BDNFの転写や翻訳を低減させてしまうような永続的な変化を生じさせ、それはドーパミンD3受容体が絡んだメカニズムによって媒介されている。

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(論文終わり)

 現在、ADHDで使用できるのは、メチルフェニデート(コンサータ)だけではなくアトモキセチン(ストラテラ)も使用できる。はたして、アトモキセチンもメチルフェニデートと同じような脳の変化を招いてしまうのであろうか。

 この点に関しては、BDNFの所見からは、アトモキセチンはメチルフェニデートよりは安全だと言えるような報告がなされている。

アトモキセチンの亜慢性曝露は、思春期における高血圧自然発症ラットの脳内のBDNFの発現とシグナル伝達をアップレギュレートする: メチルフェニデートとの比較
Sub-chronic exposure to atomoxetine up-regulates BDNF expression and signalling in the brain of adolescent spontaneously hypertensive rats: comparison with methylphenidate.

 刺激性の薬物であるメチルフェニデート、および、非刺激性の薬物でアトモキセチンは注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療のために広く使用されているが、それらの治療効果の分子メカニズムは十分に理解されていない。我々の研究の目的は、ADHDの薬物療法におけるこれらの薬物の作用メカニズムを明らかにするために、思春期のラットにおけるBDNFの発現やシグナル伝達を詳細に分析することで、これら2つの薬剤の神経可塑性に対する亜慢性効果を調べることであった。

 その結果、アトモキセチン(ATX)は海馬におけるBDNFのmRNAレベルをアップレギュレートしたが、メチルフェニデート(MPH)は側坐核や尾状核・皮殻におけるBDNFの遺伝子の発現を増加させた。反対の効果は、注意障害の重要な領域である前頭前皮質でも認められ、BDNFの総mRNAやエクソンIV領域のmRNAのレベルは、ATXでは増加したが、MPHでは減少した。
 
 前頭前皮質におけるBDNFを介したシグナル伝達の解析からは、ATXがAKTやGSK3βのリン酸化を増強したのに対して、MPHでは、シナプスレベルにおけるTrkB(高親和性BDNF受容体)のレベルやERK1/2活性化を減少させた。今回の知見は、ATXとMPHはBDNFシステムの調節に関しては反対方向の変化を生じさせ、これは主に前頭前皮質において生じる現象であることが判明した。この2つの薬物によって発揮されるADHDの行動に対するコントロールは見かけ上の効果は同じでも、独立しており、BDNFに関しては異なる変化を生じさせることになる。このATXとMPHで異なる変化は、認知機能に及ぼす長期的な影響に関しては重要な所見となる可能性がある。

(論文終わり)

 前頭前皮質の可塑性という観点からはアトモキセチンはメチルフェニデートよりもはるかに安全であると言えよう。現時点では、ADHDの児童へ使用する薬剤としては、アトモキセチンにしておくべきである。

 しかし、アトモキセチンにも、有害な事象が将来は報告されるのかもしれない。アトモキセチンはノルアドレナリン系に作用する薬剤であるため、影響はメチルフェニデートほどではないことは予想されるが、青班核関連の有害事象が生じる恐れはあろう。すなわち、悪夢や過覚醒といった問題が大人になってから生じる恐れがあるのではと想定される。

 今回は、抗精神病薬とメチルフェニデートに関して触れたが、青少年への使用には問題がある向精神薬がまだ他にもあるのであった。それは抗うつ薬(特にSSRI)である。

(次回に続く)

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