男と女

あなたは既にアルコールによって条件付けられている (「相棒」から学ぶアルコールの怖さ)


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(前回の続きである)

 不思議なことに、一度その店でお酒を飲むと、また同じ店に行きたくなる。こういった経験は誰もがしたことがあろう。
 
(おかしいなあ、自分の好みの店じゃなかったのに。またこの店に来てしまった。)

 そして、同じ店に行くだけではなく、前回飲みに行った時に同じ席についてくれた同じホステスさんを再び指名してしまうこともよくあることであろう。
 
(あのホステスさん、全然、好みじゃなかったんだけど。変だな、また今日も指名してしまった。汗;)

そして、あの杉下右京も全く同じだった。

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 警視庁特命係の杉下右京は、いつも同じ店で同じ女将(おかみ)さんを相手に酒を飲んでいるのである。

 しかし、その店、「花の里」に始めて行った時はこうだった。

 何だ、しょぼい店だな。客が全然いないじゃないか。しかも、女将は俺の好みのタイプの女性じゃないし。

 ふ~っ、もう二度とこの店に来ることはないな、と思いながら酒を飲んだ。

 しかし、翌日。

 あの店に行って、あの女将さんにまた会いたくなってしまった・・・・・。

 それ以来、ずるずるとあの店ばかりで飲んでいて、あの女将さんとばかり会話をしていた。

 そして、ついに、私とその女将は結婚して、夫婦になってしまったのである。

 私の好みの女性じゃなかったんだけど。

 これは、いったい、どういうことなのだろうか。

(私達は、確かに結婚した。しかし、結局、離婚してしまったのである。元妻は、その後、行方不明となり、店をいったん閉めることになった。だが、鈴木杏樹という綺麗な女性が店の跡を継いで女将になってくれたのである。ああ、店を再開できて良かった。番組もこれで続けられる。めでたし、めでたし。まあ、今もお客さんはいつも私1人で、ガラガラなんだけどね。汗;)

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マリコ: 相馬君、右京さんに用意した論文を説明してあげて。

相馬 涼: はい、分かりました。

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 それは、あなたが、知らない間に条件付けられていたからです。パブロフの犬の実験や、オペラント条件付けというのはご存知ですよね。
 
 既に、あなたは、その店に行くように、その女将さんと会いたいと思うように、そのお店に条件付けられていたという訳です。

 例えば、前々回のブログのホーディング障害に関しては、ラットの実験からは、オペラント条件付けによる行動の一種ではないかとも想定されています。人間では心的外傷体験による心の傷の痛みを再度経験しないように無意識のうちにホーディングをするように、オペラント条件付けが成されてしまっているということになります。小さい頃は、ぬいぐるみやおもちゃなどの物が心を慰めてくれることはよくあります。しかし、そのことで物へのオペラント条件付けが形成されてしまうのかもしれません。その結果、このオペラント条件付けのせいで物を捨てずに溜め込むという行動をするようになってしまう。そのように解釈することはできます。しかし、このモデルだけではホーディング障害の特徴を十分に説明することはできないので採用されてはいないようですが。

古典的条件付け
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E5%85%B8%E7%9A%84%E6%9D%A1%E4%BB%B6%E3%81%A5%E3%81%91

オペラント条件づけ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%9A%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%88%E6%9D%A1%E4%BB%B6%E3%81%A5%E3%81%91

 このオペラント条件付けは、自分が気付いていないだけで、様々な形で自分自身の中に条件付けが成されており、あなたの全ての行動を大きく左右しているのです。
 あなたは、たった1回、偶然その店に行っただけだった。しかし、そのことで条件付けられてしまったのです。

 そんなの信じられませんね。たった1回その店に行っただけなのに、しかも、女将さんと1回話をしただけなのに、そんなことがあるのですか。

 何回か同じ刺激を与えられないと条件付けが成されることはないんじゃないですか。しかも、その店の雰囲気は自分の好みじゃなかったし、その女将さんも私のタイプじゃなかったんですよ。そんな話はあり得ませんね。

 いいえ、店のせいでも、その女将さんのせいでもありません。アルコールの力のせいなんです。アルコールにはそのお店を好きにしてしまう作用があるのです。これはアルコールによる条件付けのせいなのです。

 えっ、マジですか、それは。

 しかも、アルコールによる条件付けはかなり強力です。マウスでの動物実験ではアルコールを1回投与しただけでも、条件付けが成されることが報告されています。

 すなわち、一回でもそこのお店に行って酒を飲めば、そのお店が好きになり、もう一度行きたいという条件付けがなされてしまうのです。アルコールって本当に怖い物質ですね。

 しかも、初めて行ったその店で結構飲んだんじゃないですか。

 まあ、そうですけど。客が私一人だったので、ついつい飲んでしまいました。

 その店でたくさんアルコールを飲むと、さらに条件付けが加速されるようですね。

 まあ、中くらいに飲むのが一番条件付けされやすいという論文もありますが。

 そして、若者ほど、アルコールによる条件付けが強くなるのです。そして、特に、男性ほど、そういった傾向があります。あなたが、そのお店に行ったのは結婚前だから、若い頃だったはずです。

 まあ、確かに、初めて行った時は、私はまだ若かった。

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 やはり、そうでしたか。私の予想通りだった。もう十分な条件がそろっていたのですね。

 右京さん、初めて店に行った時に、あなたはあの店に条件付けられてしまったのです。
 
 そして、この条件付けはそんな簡単には消えない。これからもあなたは番組の最後で、あのお店で酒を飲み続けることになるのでしょう。

 ところで、右京さん、結構、大酒飲みですよね。まさか、未成年の頃から、高校の頃から飲酒していたんじゃないでしょうね。

 いや、まあ、あの、その、ちょっとだけ・・・・・。

 初めて酒を飲んだ年齢が若ければ若い程、将来、大酒飲みになるという論文も最近出ています。右京さんは、高校時代からアルコールによって全てが決められていたんですね。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25257574

 しかし、自分で気づいていないだけで、今のその姿は、そして、誰と結婚することになるのかも、全てがアルコールによって決められているのです。それは単にアルコールによって条件付けられているだけに過ぎないのですが。アルコールって怖いですね。花の里の女将さんと結婚したことも、離婚したことも、それは全てがアルコールの成せる業だったのです。
 
(この若造は、俺の人生は、自分の自由な意志で選択した結果ではなくて、それは錯覚しているだけで、アルコールによって全てが決められていたんだと言いたいようだな。まるで俺は、動物実験でアルコールを投与された哀れなラットみたいじゃないか。)

 まあ、確かにあなたの言う通りですね。でも、店の雰囲気という条件には条件付けられることはあるのかもしれませんが、自分のタイプでもない女性と結婚までするというのは、私にはちょっと理解できませんね。

 少し反論させてもらっても宜しいでしょうか。

 家を出ていった妻には失礼になってしまいますが、妻は私の好みの女性じゃなかたんですよ。まさか、アルコールには、好きでもないタイプの女性を好きになってしまう力があるとでも言うのですか。魔法みたいな話ですね。冗談でしょ。私にはとても信じられませんね。

 そう、その通りなのです。アルコールには社会的選好を条件付ける強力な作用があるのです。すなわち、女性と一緒にアルコールを飲むと、場所だけでなく、その女性に対しても条件付けが成されるのです。

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 すなわち、一緒に飲んだその女性を好きになり、優先的にペアになるようになっていくのです。これは動物実験で既に確かめられています。
 
 例えば、下の論文では、雄ラットはアルコールによって社会選好(social preference、相手のことが好きになる)が誘導され、テストステロン(男性ホルモン)が、そのアルコールによる選好形成作用を増強するという論文が本年度に発表されています。すなわち、アルコールによって条件付けが成された相手をどんどん好きになっていく訳です。しかも、その効果は、自分だけでなく相手も同時に一緒に酒を飲むとさらに強まるようです。
 そして、雌ラットでも同じような論文が、昨年度に既に発表されているのです。
 
 え、本当ですか。

 右京さん、あなたは、初めて店に行った時から、奥様と店で一緒にお酒を飲みませんでしたか。

 まあ、閉店まで飲んでいたもので。閉店間際に、私からのおごりだと言って、女将に酒を勧めたところ、別れた妻はおいしそうに何杯も飲んでいましたわ。

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 これは、もう、最初からアルコールの力によってお互いに社会選好という条件付けがなされていたことになりますね。やはり、二人は結婚する運命だったのですね。
 
 アルコールの力はやっぱり凄いなあ。あの杉下右京までもがアルコールで条件付けられていたんだ。

(アルコールの魔力によって俺は好みでもない女性と結婚したのか。結局、妻とは離婚したんだけどさ。もしかしたら妻の方も俺は好みの男性じゃなかったのかもしれない。お互いが好みじゃなかったんだな。くそ~、俺は、知らない間にアルコールに支配され、人生を翻弄されていたんだ。今、ようやく気がついた。こうなるんだったら、あの時、たくさん酒を飲むんじゃなかった。)

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 (肩を落としてうつむいている杉下右京に論文が差し出された)

 これが、私が用意した論文です。右京さん、まずこの論文から読んでください。

 最初は、アメリカ国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が作成した「Conditioned place preference」の実験の概要に関する電子ブックです。全部読むと長くなるので、まずはイントロダクションの部分だけで結構ですよ。

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条件付け場所嗜好性(試験)
「Conditioned place preference」

イントロダクション
「INTRODUCTION」
 条件付け場所嗜好パラダイム(方法論)は、薬物の報酬効果嫌悪効果を研究するために前臨床段階で使用される標準的な行動モデルである。このモデル実験では、様々に異なるデザインの装置が使用されているが、このタスクの基本的な特徴は、特殊な環境と薬物との関連性を調べるものであり、引き続いて、薬物がない場合の異なる環境との関連性を調べるものである。

(ある環境下で薬物という条件が与えられると、その薬物の作用でその環境への条件付けが成され、薬物がない環境下でも、その環境条件を好むようになる。例えば、ある店で酒を飲むと、酒がない状況下でもその店を好むようになる。)

 この実験デザインの共通したバリエーションは、異なる特性を持つように設計された区切りを有する3つのチャンバー(空間、区画)で構成されている(例えば、黒い壁vs白い壁、松vsトウモロコシの寝具、クロスグリッドの床vs水平グリッドの床)。

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 中央区画は特殊な特性を有さず、薬物とペアになる空間ではなく、区画間のゲートは、動物はそれらの間を自由に通過することができるようになっている。

 トレーニング中に、動物(通常はラットまたはマウス)は、選好特性か嫌悪特性を有する薬剤を注射され、その後、数分間、外側区画のいずれかに配置される(=薬物コンパーメント)。翌日、ラットは、薬物担体(drug’s vehicle、薬物を体内で運ぶような溶媒のみ)を注射された後に、反対の区画に入れられる(=担体コンパーメント)。

 一般に、これらの毎日のセッションは、2・3日ごとに、薬物と担体が交互に注射される。

 その後、試験セッションが行われるが、試験セッションではいったん中央の区画に動物を置き、その後、両外側の薬物コンパーメントと担体コンパーメントの双方の区間に自由に行けるゲートが開けられ、セッション中に各々の外側区画にいた時間が記録される。

 もし、動物が、担体コンパーメントよりも、薬剤コンパーメントの方で多くの時間を過ごした場合は、条件付け場所嗜好(conditioned place preference、CPP)が生じたことが分かる。

 逆に、担体コンパートメントで多くの時間を費やす場合は、条件付け場所嫌悪(conditioned place aversion、CPA)が生じたと考えられる。

 典型的には、コカインのような依存性薬物はCPPを生成し、塩化リチウムなどの嫌悪効果を誘発する薬物はCPAを生成する。

 薬理学の研究にて使用される他の行動モデルと同様に、CPPパラダイムの際の薬物の行動における効果は、動物の種や株、投与経路、薬物投与の時間間隔、投与濃度、使用されるCPP装置に依存して変化する。
 
 さらに、乱用される多くの薬物は、投与量に応じて、CPPとCPAの双方を生成する。薬物に依存した動物では、離脱の際には、一般的にCPAを生成する。

 自己投与パラダイムに比べて、CPPパラダイムの方が、一般的にトレーニングを殆ど必要とせず、薬の効果を研究する上での信頼できる指標を提供できるため、CPPパラダイムは、標準的なニューロサイエンスのテクニックと組み合わされて薬の主観的な効果を解明する目的で使用されている(表4.1)

(論文終わり)

 なるほど、区画が店に相当するのですね。そして、その店ではアルコールという依存性を有する薬物が投与されることになる。まさに、店で酒を飲むという行為は、CPPを誘発されるべく実験台になったラットと同じですね。
  
 さらに、CPPという現象は中脳辺縁系のドーパミンシステムが関与しているのです。ドーパミンシステムが関与しているということは、コカインと同じような強烈な現象なんですよ。そんな簡単に消え去るような現象じゃないんです。
  
中脳辺縁系のドーパミンシステムは条件付け場所嗜好にとって重要である
「THE MESOLIMBIC DOPAMINE SYSTEM IS IMPORTANT FOR CONDITIONED PLACE PREFERENCE」
 これらの薬剤は、CNSへの作用は異なるが、CPP誘導作用の大部分は、腹側被蓋領域(げっ歯類におけるA10の領域)由来のドーパミン(DA)経路で構成されており、薬剤が中脳辺縁系DAシステムに作用し、辺縁系の側坐核や海馬に最終的に影響を与えることによって生じる。
 
 従って、ドーパミンD2受容体アンタゴニスト、例えば、ハロペリドールやメトクロプラミドなどは、アンフェタミン、コカイン、モルヒネ、ヘロインによって生成されるCPPやCPAをブロックすることが示されている。
 
 さらに、腹側被蓋野や側坐核の領域にアンフェタミンやモルヒネを直接注入すると、CPPを生成する。しかし、他の領域、例えば、前頭前皮質、尾状核、扁桃体などの領域へ直接、精神刺激薬やアヘンを注射してもCPPやCPAは生成されず失敗する。
 
 コカインで条件付けられた区画に入れた時に、コカインでCPPを条件付けられていたラットでは、ラットに担体だけを注射した後に側坐核におけるドーパミンレベルの有意な上昇が見出された。しかし、担体を注射されていた区画に入れた時には、担体を注射してもドーパミンの上昇は生じなかった。
 
(と言うことは、条件付けられていた店で、アルコールを飲まずに帰ってきても、それなりに満足できるということですか。)
 
(そうかもしれませんが、もっと続きを読んでください。)
 
 しかし、前頭前皮質におけるDAレベルも、アンフェタミンで条件付けされた数日後に、アンフェタミン区画に入れたラットにおいて上昇することが見出されている。前頭前皮質のノルエピネフリンを選択的に枯渇させると、アンフェタミンやモルヒネによって誘発されるCPPや、アンフェタミンやモルヒネによる側坐核におけるDAの放出を防止する。
 
 6-ヒドロキシドーパミンを使用して、腹側淡蒼球や中脳辺縁系のドーパミンニューロンの神経終末を選択的に欠損させると、DAニューロンの別の領域にコカインを注入した際に誘発されるCPPを減衰させることが示されている。また、CPPは、海馬にモルヒネを注入した場合にも生じる。
 
 従って、側坐核が乱用薬物を生じさせる重要な領域ではあるものの、他の辺縁系の領域、ならびに辺縁系の機能とリンクしている他の脳の領域でも、乱用薬物に関わるCPPを誘発する作用を変化させることができることになる(当然、音楽などの聴覚刺激や、肌を露出した妖艶なホステスさんなどの視覚刺激や、おいしい料理などの味覚刺激も辺縁系の機能とリンクしているため、CPPを強化できることになる)。

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(論文終わり)

 右京さん、アルコールはお好きなんでしょう。でも、アルコールには注意した方がいいですよ。
 
 アルコールは麻薬や大麻と同じ強さのCPPを形成するんですよ。この電子ブックにはそのように書いてあります。むしろ、CPPに関しては、大麻や麻薬よりも強力なのかもしれません。そういった自覚を持って酒を飲まないといけないのです。アルコールは麻薬や大麻と同じように、その人の人生を大きく狂わせるとても怖い薬物なのです。
 
 右京さん、あなたもアルコールで人生が大きく狂ったことは間違いないですね。

(この野郎、そこまで言うか。)

 次に、この部分も読んでください。

条件付け場所嗜好パラダイムに使用されている薬物研究
「 DRUG STUDIES USING THE CONDITIONED PLACE PREFERENCE PARADIGM」
 CPPパラダイムは、薬理学、行動科学、神経科学の研究分野で広く使用されている。PubMedのデータベース検索(http://www.pubmed.gov)でキーワード「条件付け場所嗜好」を使用して検索したところ、1398件の結果が得られた。

 CPPパラダイムは、単に、薬物乱用の可能性のためのスクリーニングツールとして使用されている訳ではなく、神経伝達物質、脳の領域、遺伝子、シグナル伝達経路、報酬(または嫌悪)効果と関わる他のメカニズムを研究するために使用されている。

 CPP研究で使用される薬物は、多くの論文でレビューされている。一般的には、精神刺激薬(覚せい剤)やアヘンは確実にこのCPPパラダイムを生成する。例えば、コカイン、アンフェタミン、ニコチンの全身投与は、ラットやマウスに2・3回区画とのペアで投与した後にCPPを生成することが見出されている(タバコも、2・3回吸ったら、もう条件付けられてやめれなくなるのである)。
 
 さらに、CPPは、モルヒネ、ヘロイン、ブプレノルフィンなどのオピエート類でも確認されている。同様に、他のクラスの薬物は、CNSを抑制するように作用するエタノールやジアゼパム、さらに、カンナビノイド受容体アゴニストであるデルタ-9- tetrahydrocannabinal(THC)、アドレナリン受容体作動薬のクロニジンでもCPPを形成することが確認されている。
 
 これらの化合物で形成されるCPPの多くは、投与量に依存している。例えば、ラットでは、ニコチンが0.4~0.8 mg/kgの範囲内の用量を投与された場合にCPPを生成する。逆に、ニコチンの高用量では、CPA(条件付け場所嫌悪)の方を生成することが報告されている。同様の所見は、モルヒネや精神刺激薬であるアポモルフィンなどの他の薬物でも示されている。

(論文終わり)

 右京さん、あなたは、昔、タバコを吸ってましたね。その店でもタバコを吸ったていたんじゃないですか。

 まあ、昔はどこの店も喫煙は自由でしたから。スパスパ吸ってました。今は禁煙してますけど。汗;

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 店でタバコなんか吸っているから、ニコチンの薬理作用で、さらに、条件付けが強化されたんですね。パチンコ屋もその手口で店へのCPPを強化しているんですよ。
 
 それに、喫煙者は断酒に失敗する率も高いようですよ。ニコチンとアルコールが相互に条件付け合って作用を強めているためなんですね。これは、今月、発表されたばかりの論文ですけど。タバコを吸っている人は断酒に失敗する。これは覚えていた方がいいですね。
http://informahealthcare.com/doi/abs/10.3109/10826084.2014.962050

 ついでに、エタノールのCPPに関する部分も読んでおいてください。

エタノール
「Ethanol」

 エタノールは、単独で投与される場合、齧歯類ではCPPかCPAが生成されるが、低用量ではCPPを生じ、高用量ではCPAが生じる(これは、あくまでネズミでの話かも)。

 エタノールのCNSへの効果を媒介する受容体メカニズムが見出されているが、エタノールによるCPPパラダイムの報酬を媒介する受容体かとどうか、GABAA受容体、NMDA受容体、5-HT3受容体などがテストされている(既にドーパミンD1・D2受容体が関与していることは分かっている)。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10353595 

 エタノールで誘発されるCPPは エタノールと共に競合的NMDA受容体拮抗薬であるCGP-37849が同時投与されたは場合には減弱した。しかし、非競合的NMDA受容体拮抗薬であるMK-801やケタミンが同時投与された場合は減弱せず、NMDAサブユニット拮抗薬ではCPPは何の変化もなかった(=従って、NMDA受容体のグルタミン酸結合部位がエタノールによるCPPにとって重要である→これはNMDA受容体やグルタミン酸神経伝達システムに作用する薬剤がアルコール依存症の治療薬となりえる。例えば、アカンプロセート{レグテクト}やメマンチン{メマリー}など。セロトニン 5HT-3受容体拮抗薬も治療薬に成り得る。)。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17880925 

 中脳辺縁系のドーパミン経路は、エタノールの報酬効果でも重要である。なぜならば、エタノールで誘発されるCPPは、ヘロインの投与によって増強するが、フルフェナジンなどのD2受容体アンタゴニストを側坐核内部に投与することで減衰させることができるからである。
 
 さらに、エタノールは、コカインのCPP効果を増強(変化)させることが見出されているが、アルコールはコカインの高用量によるCPPをCPAへとシフトさせ、コカインの低用量によるCPPを増加させることができる(CPPに対する効果はコカインよりも強力なのかもしれない)。

 肝臓では、エタノールはアルコールデヒドロゲナーゼによって分解されアセトアルデヒドになり、アセトアルデヒドは、さらに、アルデヒド脱水素酵素によって分解されて酢酸となる。アセトアルデヒドが蓄積すると、アセトアルデヒド症候群が生じるが、その症状は、吐き気、頭痛、嘔吐を呈するする可能性がある(こうなるとCPAの方が生成されるように思えるが、そうではない)。

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 しかし、CPPパラダイムでは、アセトアルデヒドは、CPAではなく、CPPを生成することが判明しており、しかも、その容量は致死限界量でもCPPを生成することが分かった。
 興味深いことに、エタノールによるCPAが影響されないのに対し、D-ペニシラミンによるアセトアルデヒドの失活はエタノールによるCPPの生成を阻害する。この所見からは、アセトアルデヒドがエタノールの報酬効果(例えば、幸福感)を媒介している可能性が示唆され、他の研究からその証拠が提示されている(アルコールではなく、アセトアルデヒドの方がCPPを生じさせているのかもしれない)。

(論文終わり)

 上の論文を読むと、齧歯類では高用量ではCPAになると書いてあるので、じゃあ、店でたくさんお酒を飲めばいいんじゃないかとも思えますが、そうは問屋が卸さないんですね。そんなに飲むと翌日に二日酔いになります。

 二日酔いはアセトアルデヒドの蓄積によるのですが、二日酔いのアセトアルデヒドがCPPを強化してしまうことになります。普通ならば二日酔いはとても苦しい状態ですから、もう二度と飲むまいとCPAの方に条件付けが成されそうなものなのですが、そうはならない。むしろもっと二日酔いを経験したくなるように条件付けられてしまうのです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E6%97%A5%E9%85%94%E3%81%84

 アセトアルデヒドの方がアルコールよりも報酬効果が高いのかもしれませんね。お酒を飲める人はアルデヒド脱水素酵素は十分に機能しているので、アセトアルデヒドは早く分解されるため、普通は高濃度のアセトアルデヒドに曝露されることは少ない。しかし、泥酔して二日酔いを経験すると高濃度のアセトアルデヒドに曝露され条件付けられてしまう。だから、お酒が飲める人ほど二日酔いになるまでの泥酔を何度も何度も繰り返すのでしょうね。お酒は本当に怖いですね。

 以前は、嫌酒薬としてシアナマイドがアルコール依存症の治療でよく使われていましたが、最近はあまり使われなくなりました。その理由は、シアナマイドがアルデヒド脱水素酵素をブロックすることで、飲酒中のアセトアルデヒドを増やし、苦しい思いさせることでアルコールに対する嫌悪条件付けをさせるのが大きな目的だったのですが、アセトアルデヒドには意図したような嫌悪条件付けをさせる作用がないことが分かったからです。しかも、シアナマイドを内服している状態でアルコールを一気飲みされると致死量のアセトアルデヒドが生成されてしまうかもしれない。だからもう、あまり使われなくなったのです。

 なお、このアセトアルデヒドは肝臓にも猛毒なのです。二日酔いばかり繰り返していると早く肝硬変になっていきます。右京さんも、二日酔いには気をつけた方がいいですね。

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 どうですか、アルコールのCPPの怖さが分かりましたか。

 いや~、怖いですね。こういうことを繰り返して、アルコール依存症になっていくんですね。
 
 でも、まだ分からないことがあります。
 
 確かに、アルコールによって店という場所へのCPPを形成することは分かりました。しかし、私はたった1回、何げなく「花の里」に行っただけなんですがね。コカインや覚せい剤のアンフェタミンですら、さっき読んだ電子ブックには、2・3回ペアリングをしたらCPPが形成されると書いてありました。アルコールには、コカインや覚せい剤よりも、そんな強い作用があるとでも言うのですか。

 だから、先ほど言いましたよね。アルコールのCPPはコカインよりも強力なのだと。そして、電子ブックではコカインのCPPをCPAに変えるまでの力がアルコールにはあると書かれている。しかも、1回だけでもアルコールによって条件付けが成されるという論文も発表されている。アルコールのCPPは1回飲むだけで十分なのです。
 
 これは、先ほど提示した論文ですが、アブストラクトの部分だけでもいいですから、もう一度、読み直してみて下さい。

 どれどれ、おお、これは今年の11月に発表されたばかりの論文ですね。

初期の主観的な報酬。マウスにおける単一のアルコール曝露による条件付け場所嗜好性。
「Initial subjective reward: single-exposure conditioned place preference to alcohol in mice」

 飲酒の激化や身体への深刻な影響があるにも係らず、多くの大人達はアルコールを消費するが、飲酒者の約10~20%は持続に(進行性)にアルコールを消費するようになる(=アルコール依存症になる)。
 
 アルコールの慢性使用に関連した根深い神経適応的な変化が生じる前に、リスクがある個人を同定することは、末期的な段階になることを防止し、壊滅的な影響を防止する上で重要なステップとなる。
 
 薬物の強化特性の初期の感度を評価するための動物モデルが存在しないことで、過度の飲酒に向かう軌道を描くことになる重要な表現型を呈する現象をうまく説明することはこれまでは実施できないでいた。
 
 そこで、この論文では、新しい条件付け場所嗜好パラダイムを使用し、アルコールの初期の報酬効果を評価した。
 
 以前の繰り返してアルコールを投与する方法を採用したCPPの研究結果とは異なり、3種のマウス株の雄と雌マウスともに、今回の実験結果では、比較的低用量である1.5g/kgというエタノールの単一曝露とペアになった場所(条件)への強固な選好を示した。
 
 今回のモデルは、脳や社会の双方に多種多様な影響を与え、広く使用されているアルコールという薬剤への主観的な報酬効果に対する初期感度を評価する上で妥当性を有するモデルであり、嗜癖を理解し治療する上で、理論によって主導された中間表現型的な遺伝薬理学的アプローチに使用できる新しいツールを提供するものである。

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(論文終わり)

 何ですか、この論文は。中間表現型的な遺伝薬理学的アプローチって、何のことかさっぱり分かりません。
 
 そんなことはどうでもいいのです。大事なことは1回だけのアルコール摂取によっても条件付けが成されるのだということなのです。
 
 右京さん、あなたは、たった1回、なにげなく「花の里」に行っただけだった。しかし、アルコールの力によって「花の里」という店に条件に条件付けられてしまった。
 
 そして、それで終わらなかった。

 右京さん、あなたはその店で初めて女将に遭ったのですが、初めて遭った時からその女将を好きになってしまった。

 店だけでなく、女将をも好きになってしまったのです。 
 
 この次の論文も、先ほど示したの論文なのですが、この論文でば、アルコールによるパートナー選びの際の条件付け嗜好(選好)という現象が報告されています。
 
 すなわち、一緒に異性とアルコールを飲むと、一緒に飲んでいた異性を好きになってしまうのです。
 
 アルコールはまさに惚れ薬なのです。
 
 最初に店を訪れた時に閉店間際に二人だけで一緒に酒を飲んだ。これは非常にまずかったですね。それによって、女将への嗜好(選好)までもが生じた。そして、女将も右京さんへの嗜好(選好)が生じてしまった。
  
アルコールは雌マウスの条件付けパートナー嗜好(選好)を誘導する
「ETHANOL-INDUCED CONDITIONED PARTNER PREFERENCE IN FEMALE MICE」

 飲酒行動と社会的コンテキスト(社会的な内容)が密接に絡み合っている。仲間との関係は飲酒を促進することができる。逆に、アルコールは社会的相互作用を促進する。本研究では、雌マウスにおけるエタノールによって誘発される条件付けパートナー嗜好をテストした。

 卵巣を摘出された(Ovariectomized、OVX、=女性ホルモンの影響を除去した)C57BL/6系統の雌が、慢性エストラジオールを投与された(OVX+E)か、エストラジオールをされずに(OVX)、同時に、ペア刺激となる生理食塩水、あるいは、エタノール(1、2、4g/kgの3種の投与量)の腹腔内投与を受け、さらに、同時に、2回のうち1回はパートナーとなるように仕向けられた他の雌からの刺激を30分間ずつ4回受けた(雌と雌同士の条件付けを行うことになる)。
 
 その後、テストされることになる雌は、生理食塩水とのペアで刺激されたパートナー候補の雌(CS)、または、エタノールとのペアで刺激されたパートナー候補の雌(CS+)に対するペア形成度合いが評価された(10分間の時間内でパートナーに接近して過ごす時間の評価)。
 
 第2の研究では、OVXとOVX+Eの雌について、2.5g/kgのエタノールが与えられ、パートナー(CS- vs CS+)への嗜好がテストされた。

 さらに、マウスの別グループでは、アルコールを投与された他の雌のマウスに対しても条件付けパートナー嗜好が生成されたかどうかを同定するため、ペアリングの最中にテスト雌マウスと刺激する雌マウスは伴にエタノールが投与された。

 その結果、OVX+Eの雌マウスでは、2g/kgのエタノールに反応して、CS+マウスへの条件付けパートナー嗜好(CPP)が生成されたことが分かった(CS+マウスへの選好スコアの変化:+ 86.6±30.0秒/ 10分)。しかし、0、1、4g/kgのエタノールではCPPは生じなかった。さらに、2.5g/kgのエタノールでは、OVX+Eの雌マウスは、IS+ (+63.6±24.0秒) や CS+ (+93.8±27.1秒)に対して条件付けパートナー嗜好を生成した。しかし、OVXの雌マウスでは、唯一、IS+(+153.8±32.0秒)に対してのみエタノール誘発性のCPPを示した。

 これらのデータからは、エタノールが雌マウスの社会選好を促進し、その作用は、エストラジオール(女性ホルモン)によって増強されることを示している。

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(論文終わり)

 この実験は、雌が雌を好むような条件付けの設定なのですが、そういう設定にしないと、雌と雄の設定では、アルコール以外の他のファクター(臭いなど)もペア形成に関わるため、必ずしもアルコールと伴にパートナーへの嗜好(選好)が条件付けられたとは言えないからです。そして、興味深いことに、卵巣を摘出された場合はパートナーへの嗜好は生成されなかったが、女性ホルモンがあるとパートナーへの嗜好は生成され、女性ホルモンにてアルコールの効果が増強されていることが分かった。女はやはり女なのですね。
 
 この所見は、性ホルモンの強さによって一緒にアルコールを飲んだパートナーのことを好きになるかどうかが強まることになります。

 従って、性ホルモンのレベルが上昇しているような状況、例えば、排卵前ではアルコールによるパートナーへの嗜好形成という現象が強まることになります。若い女性が排卵前に男性と一緒に酒を飲むと、アルコールが媚薬になってしまい、普段はそんな気にもならないような男性相手にベッドインしてしまうなんてことにもなりかねないので注意が必要です。逆に、閉経したような女性では、女性ホルモンが殆ど分泌されなくなるため、アルコールはもはや媚薬にはならないのかもしれません。

 さらに下の図をよく見てください。一緒にアルコールを飲んだパートナーとの条件の時が接近している時間が一番長かった。これは、一緒にお酒を飲むとお互いに親密になることを意味していると思えます。この実験は、同性同士の実験ですから、異性との関係だけでなく、同性同士の場合や他の社会関係でも当てはまります。友達と一緒に酒を飲むと友情が深まり、部下と一緒に飲むと上司や部下との関係が深まる。当然、職場の忘年会などは、職場の人間関係が深まることになるのでしょう。

 これは、婚活にも活用できます。お酒も飲めないような婚活パーティに、いくら参加しても無駄なのです。 本当にパートナーを見つけたかったら、婚活やお見合いの席でも、このアルコールの力を借りるべきです。 お見合いの席でも酒を飲むべきなのです。お酒なしの見合いをいくらしても無駄なのです。しかも、ラットなどのデータでは少ない量でもよい。少量でもCPPが形成されることが分かっています。とにかく、1回でも見合いの相手と一緒にお酒を飲めば、そのことでCPPや社会選好が形成されれば、その人がパートナーになってくれるかもしれない。すなわち、結婚できる確率が高まることになるのです。
 
 一方、雄のラットでも全く同じような実験結果(睾丸を摘出された雄)が今年に発表されています。まあ、雄では、テストステロンといった男性ホルモンでパートナーへの嗜好が増強されるようですけどね。

 そう言えば、右京さん、年齢(62歳)の割には肌の色つやがいいですね。若々しいですね。テストステロンも高いんじゃないですか。酒のみでテストステロンが高い男。右京さんは、相当な女好きだとみましたが。
 
(お前の方こそ、テストステロンが高そうに見えるぞ。いつもギラギラした眼をしているじゃないか。)

 さらに、自己投与パラダイムという実験方法もあるのですが、アルコールの自己投与パラダイムからの所見では、自己投与という行動もアルコールによって条件付けられることが分かっています。いったんアルコールでCPPが形成されると、次は自らその店に通って酒を注文し酒を飲むことになる(条件付けによる自己投与)。その結果、その店や女将への条件付けも強化されていく。

 同じスナックやバーやキャバクラに足繁く通っている男達が多いのはご存知ですね。しかし、それは皆、自己投与パラダイムをしているに過ぎないのです。それは右京さん、あなたも同じなのです。

 だから、右京さん、あなたは、毎回、番組の終わりで「花の里」に行っているんですね。

 もう、こうなると、杉下右京とはいえ、アルコールの自己投与の実験台にされたモルモットと同じ行動をしている哀れな存在に過ぎません。

(俺って、そんな哀れなモルモットのような男だったのか。いつも番組のクライマックスで、犯人に向かって、あなたは哀れな人ですねみたいなことを言っているこの俺が、今日は逆に、科捜研の若造に哀れな人だと言われる番なのかよ。)

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 まあ、この論文を読んでください。自ら「花の里」へ足繁く通ってアルコールを自己投与し、CPPも強化していたことが理解できます。

 自分の意志で自由に店に通っていたつもりが、自分の意志で自由に飲酒していたつもりが、実は、単に、条件付けられた行動を繰り返し、強化行動をしていたに過ぎないのです。

 私に言わせれば、行きつけの店などではなく、アルコールによって単に条件付けられた場所に過ぎないのです。 

齧歯類の飲酒: エタノールの強化効果に関連する自由選択な飲酒はあるのか?
「Ethanol Drinking in Rodents: Is Free-Choice Drinking Related to the Reinforcing Effects of Ethanol?」

 飲酒における遺伝的影響や環境的操作の影響を評価するために、多くの研究では、動物における自発的なエタノール消費という手法を使用している。しかし、そういったオペラント条件付けや道具による条件付けの手法を用いても、ホームケージの中でのエタノール消費(=特定の店での飲酒)とエタノール強化行動との間の関連性についてはまだ正確な評価はできていない。
 
 この論文では、マウスやラットのホームケージの中でのエタノール飲酒と、オペラント経口自己投与(operant oral self-administration、OSA)、条件付け味覚嫌悪(conditioned taste aversion、CTA)、条件付け場所嗜好(CPP)との間に一貫した相関関係があるかどうかを評価した。さらに、静脈内エタノール自己投与(intravenous ethanol self-administration、IVSA)に関する文献もレビューした。
 
 文献からデータを収集する際に、我々は、各文献の遺伝子操作の範囲を評価したが、その遺伝子操作では、遺伝子配列やエタノール摂取行動を変化させることができることになる選択育種、トランスジェニックモデル、ノックアウトモデル、近交系と組換え近交系などが含まれていた。もし、遺伝子モデルが分析結果に含まれている場合は、ホームケージでの飲酒の相違データや、他の行動測定のデータをも評価せねばならない(薬物の作用が、遺伝子によって大きく影響を受け、個々で結果が異なってくるのであれば、一般化して当てはめることはできないが、そのような影響をも考慮して、これまでのデータを解析した)。
 
 その結果、一貫性のある正の相関関係がホームケージの中でのエタノール摂取とOSAとの間で観察されたが、この所見は、道具的行動(instrumental behavior、=オペラント条件付けによる行動)がエタノールに向うような完了行動(consummatory behavior、=本能的欲求を満足させる行動)や摂食行動に遺伝子的に密接に関連していることを示唆している。
 
 負の相関関係がCTAとホームケージの中での飲酒との間で観察されたが、この所見は、エタノールへの嫌悪行動がエタノールの経口摂取を制限することができることを示唆している。
 
 一番小さな正の相関関係がームケージの中での飲酒とCPP間で観察された。

 しかし、ホームケージの中での飲酒とIVSAとの関係性を同定するための研究は十分に行われておらず関連性はまだ不明なままである。
 
 このように、広範囲の異なる行動手順と遺伝的に異なる集団との間にいくつかの一貫した結果が観察されたが、これは研究結果の妥当性や信頼性を高めていることになる。齧歯類以外の新規の動物のアルコール報酬関連行動を測定する際に、研究者がどのような表現型を使うかを決定する際に、これらの所見は重要な意味を持つことであろう。

(論文終わり)

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 この論文では、CPPと自己投与との直接の因果関係までは述べられてはいませんが、CPPと自己投与は、伴に、ホームゲージの中での飲酒と相関関係があるため、CPPと自己投与との間にも相関関係があることは確かなようです。
 
 さらに、論文からは、自己投与に関しては遺伝子の影響を受けやすいようですが(すなわち、足繁く店に通うかどうかは個人の遺伝子的な要因も関係してくるが)、CPPに関しては遺伝子の影響は少なく、誰もが条件付けられる現象だと言えそうです。

 キャバクラやホストクラブに嵌って足繁く店に通い、高価な酒を注文し大金を注ぎ込んでしまう人は、そういったことになりやすい(自己投与になりやすい)遺伝子を有しているのかもしれませんね。
 
 しかし、遺伝子の影響があろうとも、キャバクラやホストクラブで大金を使う人は、私からすれば、モルモットみたいな哀れな存在にしか思えません。
 
 右京さん、あなたも、1ヶ月間の飲み代がものすごく、「花の里」に大金を注ぎ込んでいるんじゃないですか。花の里は、噂によれば、東京の一等地にあるお店のようですから、かなり値段が高いんじゃないですか。
 
(この若造め、よく言うわ。お前はまだそんな店に行けるような身分じゃないから、俺に嫉妬しているだけなんだろうぜ。)

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 さらに、電子ブックの次の部分を読んでください。
 
条件付け場所嗜好 vs 自己投与
「CONDITIONED PLACE PREFERENCE VERSUS SELF-ADMINISTRATION」
 薬物の報酬の特性を評価するための別の一般的なモデルは自己投与パラダイムである。名前が示すように、このパラダイムは、薬剤の注入反応(例えば、レバー押し。通常は静脈内に投与されることになる)を動物が自ら示した回数を記録することから成る。

 自己投与パラダイムは、乱用の可能性がある薬物をスクリーニングしたり、薬物の報酬効果を解明するための重要なツールである。

 条件付け場所嗜好や自己投与パラダイムは、双方ともに薬物の報酬特性を測定するパラダイムではあるが、これらの二つのモデルの間には重要な違いがある(表4.2)

 まず、CPPと自己投与に関しては、双方伴に多くの薬剤の報酬効果に感受性を有するが、精神刺激薬とアヘンを含めたある種の薬物(例えば、LSD、ブスピロン、ペンチレン)では、CPPを生成しても、自己投与は誘導されないが、逆に、他の薬剤(例えば、ペントバルビタールやフェンサイクリジン)では、自己投与が生成されても、CPPは誘導されない。

 次に、CPP研究の殆どがラットやマウスが使用されているのに対して、自己投与研究は、サル、ラット、マウス、ハトで行われている。
 
 第3に、薬物誘発性CPPと自己投与に関わるメカニズムは異なっている可能性がある。例えば、D2受容体アンタゴニストは、コカインのCPP生成に対しては最小限度の影響しか与えないが、コカインの自己投与を減衰させる。

 最後に、これらの2つのパラダイムの間の重要な差異は、実験手順の違いである。CPPパラダイムとは異なり、自己投与パラダイムでは、通常は静脈内に薬物を投与するため、カテーテルを外科的に移植することが必要となり、大規模なオペラントトレーニングが必要となる。
 
 さらに、CPPにおける薬物の主観的な効果は、CPPの前のタスクに存在しているのに対し、自己投与パラダイムにおいては、被験動物は薬物投与による即時の効果をもたらすタスクを学習していることになる。ヒトにおける薬物使用の2つのモデルの中では、後者が最も類似しているものと思われる。

(論文終わり)

 CPPが先か、自己投与が先か、自己投与によってCPPが強化されていくのか、逆に、CPPによって自己投与が強化されていくのか、CPPと自己投与はお互いを強化していくのか、といったことは、まだ動物実験でも十分に調べられてはいないようですが(私の調べ方が悪く、既にそういった動物実験は成されているのかもしれませんが)、とにかく、同じ店に通って同じホステスさんを指名し、毎回たくさんのお酒を飲んで帰るという行為は、アルコールによるCPPとアルコールの自己投与とを相互に条件付けし強化し合っているような愚かな行為に思えます。

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 まあ、人では、CPPよりも、CPP後の自己投与の方が愚かな行為をしているのだと私にはそう思えますが。

 このように、アルコールには、我々の想像を超えた非常に大きな力があるのです。

 そして、そのアルコールの大きな力は、当然、人の人生まで大きく変えてしまうことになる。 
 
 右京さんの人生は、たった1回のアルコールで大きく狂ってしまった。あの時、あの店に行かなければ、女将さんと結婚することも、離婚を経験することもなかった。

 離婚された時は、さぞかし辛ったことと思います。

(離婚が辛いのは当たり前じゃないか。しかし、なんて生意気な若造なんだ。一度も結婚したことがないお前に何が分かるというのだ。もし、お前が俺の相棒だったら、いつもの俺のように即交代だな。)
 
 しかし、なぜ、離婚したのか。それは、右京さん、あなたが浮気したからじゃないですか。

 なっ、何を言うのだ。私は浮気などはしていない。
 
 妻は繁盛しない店の女将の仕事が嫌になって勝手に世界放浪の旅に出ていってしまったんだ。

 まあ、この論文を読んでくださいよ。とても大事な論文ですよ。
 
 どれどれ、

草原ハタネズミにおけるペア結合形成へのアルコールの効果は性別に依存している
「Drinking alcohol has sex-dependent effects on pair bond formation in prairie voles」

(この論文が掲載されたPNASの編集者によるコメント)
 この研究は、社会的接着におけるアルコールの効果は生物学的機構によって媒介され得るという最初の証拠を我々に提示している。雄と雌の間で観察された効果の差は、男性ではアルコールが社会的な結合を阻害するが、女性ではパートナーへの嗜好を促進したように、性別で異なっていた。さらに、行動に影響を与えるだけでなく、アルコールは、社会的、ストレス/不安様行動に関与する神経系にも影響を与えた。これらの所見は、我々は、社会的な行動を調節する因子や、その因子へのアルコールの影響に対する正しい理解を可能にする。これらの因子を同定することは、アルコール乱用によって社会的関係に壊滅的な影響が及ぼされることを予防し、アルコール乱用を治療する上での方法を発展させていく上で役に立つことであろう。

(本文の抄録)
 アルコールの使用と乱用が、社会的相互作用などの行動に様々な深い影響を与える。あるケースでは、社会的関係を破壊する。一方では、アルコールが社会関係を促進する。この論文では、自発的なアルコールの消費は、(ペア結合を検証する代用実験にて)、一夫一婦制を組む草原ハタネズミの男性のパートナーへの嗜好(partner preference、PPの形成を阻害できることを示している。逆に、女性においては、PPは阻害されず、アルコールによって促進されるようだ。
 
 行動分析や神経化学的分析の結果では、社会的な接合に関するアルコールの効果は、パートナーとの結合形成を制御する神経メカニズムを介する効果であり、交配や運動や攻撃性に関わる効果への影響によって媒介されている訳ではないことを示唆している。
 
 さらに、社会的な行動の調節に関与しているいくつかの神経ペプチドシステム(特に、ニューロペプチドYや副腎皮質刺激ホルモン放出因子)がパートナーとの同居中の飲酒によって変調されることが分かった。
 
 これらの知見は、アルコールが、社会的な結合に関与する性別に特異的な神経システムに直接影響を与えているという最初の証拠であり、アルコールの社会的な関係への影響に関わるメカニズムを探求する機会を提供するものである。

(論文終わり)

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 男は、酒をたくさん飲んでいると、だんだんと妻への興味を失っていくようです。
 
 右京さん、あなたの奥様は、妻への興味を失い、浮気をした夫に愛想を尽かして世界放浪の旅に旅立ったんじゃないですか。
 
 私の人生はいったい何だったのだろうか。なぜ、こんな男と結婚したのかと後悔しながら。
 
 この実験では11.2±0.81(平均±SE)(g/kg体重)という大量のアルコールを飲んではいるのですが、あの忠実な草原ハタネズミですら、交配したパートナーにも係らず、見知らぬ女性と同じくらいの興味になってしまっていますね。ペプチドホルモンの変化からは、CRFが低下することで不安を抱かなくなるためなのではと考察されています。一方、女性ではそういうことにはならないようです。

 アルコールのせいでパートナーと離れていても不安を感じなくなる
のかもしれません。
 
 それを人間社会に当てはめてみると、男が外でたくさんアルコールを飲むと、いつの間にか妻のことも忘れてしまい、ホステスさんにうつつを抜かし、ぐでんぐでんに酔っぱらって帰ってくることになるのです。とても悲しい話ですね。
 
 そうして妻からは愛想を尽かされ、ますます夫婦の間は疎遠になっていく。
 
 こうなると、もう見境いがなくなり、手当り次第、他の女性にも手を出すようになるはずです。
 
 右京さんは、アルコールが大好きですよね。今でも、手当り次第、女性に手を出しているんじゃないですか。
 
 バカなことを言うな。私は警視庁の刑事だぞ。前回のブログの浮気した男と一緒にしないでくれたまえ。
 
 それに、前述したラットの論文の結果からは、大酒飲みの男は異性のパートナーだけでなく、同性のパートナーに対してまで飽きっぽくなるのも間違いありません。
 
 右京さん、いつも、相棒をころころと変えてませんか。それはアルコールの飲み過ぎのせいですよ。こいつはもう飽きたからといって、相棒の刑事を降板ばかりさせていたら、そのうちにあなたが降板することになりますよ。

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 私は、二代目杉下右京が登場する日が近いと予想しているんです。
 
 設定は、アルコール依存症で杉下右京が再起不能になったという設定です。二代目の名前は杉下左京。右京の弟です。しかし、杉下左京は酒は飲まない。相棒も絶対に変えることはない。どうです、この設定、ナイスでしょう。

(この野郎。そこまで言うか。しかし、科捜研のマリコだって、部下をころころと交代させているじゃないか。お前は、いったいマリコの何代目の部下なんだ。)
 
 ところで、赤ん坊ができたばかりだというのに浮気したあの男の話はいったいどうなったのだ。ちゃんと説明してくれたまえ。

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(ここで、浮気をしてしまい、離婚の危機に陥った前回のブログのあの男が登場した。)
 
 実は、バゾプレッシンでもオキシトシンのせいでもなかったのです。確かに、バゾプレッシンやオキシトシンの作用はあったのかもしれません。それよりも、我々科捜研は、アルコールによるせいだと結論をしました。
 
 なぜならば、アルコールはオキシトシンの分泌を抑制する作用があるからです。まあ、分泌が完全に抑制される訳ではありませんが。抗利尿ホルモンでもあるバゾプレッシンの分泌もアルコールで抑制されます。酒を飲むとおしっこに行きたくなるのは、抗利尿ホルモンが抑制され利尿に傾くためですね。
 
 従って、あの状況下では、アルコールの作用の方が、バゾプレッシンよりもオキシトシンよりも優位になっていたと判断しました。
 
 一方、動物はアルコールによってすぐに条件付けられてしまう。しかも、その条件付けは強力である。
 
 さらに、アルコールによっても、バゾプレッシンやオキシトシンと同様に社会選好が生じる。お互いに一時的に好きになっていってしまうことは十分にありえる。
 
 そして、あの二人はアルコールがかなり飲めるのです。既に、過去のアルコールのせいで、いろんな条件付けが成されていたのではとも推測されます。
 
 学生時代は合コンをよくしますよね。合コンは男女が出会い恋に落ちる場所ですから、それはもう、右京さんも学生時代は何度も合コンをしたことでしょう。
 
 アルコールが恋を演出しているんですね。
 
 科捜研が調べたところ、浮気した男性の方は、学生時代の合コンで酒を飲みながら女性をよく口説いていたことが分かりました。そして、その女性の方も合コンの席で男性からよく口説かれていたことが分かりました。アルコールを飲みながら口説く、アルコールを飲みながら口説かれる。この二人には、それが既に学生時代に条件付けらていたんです。

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 そして、社会人になってからもその条件付けは消えずに残っていた。

 もうお分かりですよね。既にアルコールで条件付けられていた二人は、忘年会のはずが合コンになってしまったのです。
 
 忘年会で隣同士の席になり、とりとめもない話をして盛り上がったのですが、そういった行為は、実は、知らない間に、酔いながら、お互いに口説き口説かれをしていたことになります。
 
 忘年会のはずが、既に条件付けが成されていたため、男は学生時代の合コンのようなガールハントをする場所になっていた。かたや、女性の方はガールハントをされる場所になっていた。二人とも、なんとなく、そんなことを感じながら、話が盛り上がっていたことと思います。
 
 そして、アイコンタクトでサインを彼女から送って来た時、男の方もアイコンタクトでOKだと答えてしまった。ガールハントは成功したのです。
 
 学生時代の時にガールハントに成功したら、行く場所はもう1つしかない。
 
 後は、どうなるか。それはもう言わなくても分かりますね。
 
 もしかしたら、その女性は排卵が近かったのかもしれません。男性の方も、テストステロンが上昇しかけていたのかもしれません。赤ん坊が生まれると、不思議なことに男性の方も性ホルモンの分泌が変化し、テストステロンが1/3くらいにまで低下することが分かっています。この男性の場合は、逆に、今まで抑えられていたテストステロンがどーんと上がりかけていたのかもしれませんね。
 
 性ホルモンもアルコールの作用を強めてしまった可能性があります。

 まあ、そういった事件だったのです。
 
 アルコールの力を甘く見てはいけません。アルコールの強大な力、それは、右京さん、あなたが一番証明してくれているのですから。
 
 我々は、その事情を奥様に説明しました。バゾプレッシンとオキシトシンの話も一緒に説明しておきました。
 
 あくまでも一時的なことだったと説明しておきました。
 
 実は、奥様も学生時代に口説かれた経験が何度もあるということで理解してくださいました。私が、その立場だったら、そうなっていたかもしれないと。
 
 よかったですね。
 
 もう二度とあんなことはしないでほしいとの奥様からの伝言です。
 
 ううう(涙)、有難うございます。
 
 アルコールは怖いです。もう、二度と外では酒を飲みません。
  
 実は、妊娠してから妻は禁酒をしていました。それで、ずっと一緒に晩酌はしていなかった。妊娠する前は、一緒によく晩酌をして夕食を楽しんでいたんですけどね。
 
 しかし、そろそろ母乳も出なくなってきて離乳食がどんどん増えてきています。母乳ではなく完全に粉ミルクにしようかと妻は言っています。妻の禁酒期間も終わりになりそうです。
 
 これからは、家で妻と一緒に晩酌をして、お酒を楽しみたいと思います。当然、ほどほどに飲んで終わりにしますけど。
 
 そう、外では飲まずに家で晩酌をして適度に飲む。それが一番ですね。

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 アルコールで夫婦の愛を深め合う。本当に素晴らしいことですね。本来、アルコールは、そうやって上手に飲むものなんですね。
http://joshiplus.jp/gourmet/news/2006733/ 
 
 まあ、動物実験のように、CPPを強化しているだけなのかもしれませんが。それでも、パートナーとの絆が深まることには変わりはない。
 
 ところで、右京さん、あなたは、アルコール依存症になりかけていませんか。毎日、飲んでいませんか。

(ぎくっ。)

 最後に、アルコールに関する重要な論文を提示して終わりにしたい思います。

 この論文は、アルコール依存症の再発を防止する上でのパートナーの重要性を示した論文です。

草原ハタネズミの飲酒の再発をパートナーが防止する
「Social partners prevent alcohol relapse behavior in prairie voles.」

 アルコール依存症の再発に対する社会的な支援因子として対人因子が保護的な役割を果たしているという強固な証拠があるが、しかし、社会的因子が再発から個人を保護する上でどのように作用しているのかというメカニズムに関する研究は不足している。
 
 草原ハタネズミは一夫一婦制で暮らす非常に社会的な齧歯類であるが、自己投与では多量なエタノールを自由に飲酒する齧歯類エタノールであり、飲酒の社会的な影響を理解する上で有用なモデルになる動物である。
 
 この論文では、動物では一般的に断酒後の飲酒再開時にはエタノール摂取が一過性に増加するが(アルコール剥奪効果)、この断酒時の効果を利用することで、再発に対する社会的な影響に関するモデルとして草原ハタネズミが成り得るかどうかを検証した(人間でも断酒後に飲酒を再開した時にはリバウンドで断酒前に飲酒していた量よりも多く飲んでしまう人がいるようですが)。
 
 実験(I)では、被験ネズミは、2瓶選択試験において、10%エタノールに24時間アクセスできる状況で4週間、単独で飼育された。次に、エタノールを72時間ケージから除去した。動物は単独で残ったか、その後、顔なじみの同性ソーシャルパートナーと飼育され、エタノールへのアクセスが再開された。
 
 一人のままのハタネズミでは、飲酒再開前のベースラインよりもエタノール摂取が増加した。しかし、パートナーと一緒に飼育されたハタネズミでは、エタノール摂取の増加は示さなかった。そして、この所見は、パートナーのネズミがエタノールへのアクセス権利を有していたかどうかとは無関係であった。実験(II)では、一人で飼育されたハタネズミのコホートにてアルコールの剥奪効果が複製された。
 
 これらの所見は、草原ハタネズミはアルコール剥奪効果を有するが、草原ハタネズミの飲酒再開時には「パートナーという社会的なバッファリング(緩衝)効果」が存在することを示唆している。この行動パラダイムは、アルコール依存症の再発における社会的な影響の神経生物学的基盤を調べるための新しいアプローチ方法となろう。

(論文終わり)

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 この実験は泣かせる話じゃないですか。パートナーと一緒にいたら、アルコールを飲む量が明らかに減った。断酒に失敗しても以前のような量は飲まなくなった。そして、パートナーが酒を飲まないと、酒も好きでなくなっていく。一方、パートナーがいない一人もののままだと、断酒する前よりももっと飲んでしまった。まあ、草原ネズミでは、アルコールよりも、パートナーの方への条件付けの方が強かっただけなのかもしれませんが。

 しかし、人類でもこれは同じだと思えます。実体はパートナーへのCPPかもしれないが、それでも、パートナーへの愛が、夫婦愛が大切なのだと。

 夫婦愛、それこそがアルコール依存症から夫を救う大きな鍵になるのです。
 
 アルコール依存症の男達は、妻から愛想を尽かされて離婚になる前に、もう一度、妻への愛に目覚めなければならない。実験結果からは、離婚されたらもう二度と立ち直れることはないと言えます。
 
 だが、人間のアルコール依存症患者では、なかなかそうはならない。いつまでもいつまでも配偶者に酒で迷惑をかけ続ける人が多い。妻への愛をも失くしたままになっている。だから、アルコール依存症から抜け出せない。人間は草原ネズミよりも劣っている動物なのかもしれませんね。

 アルコール依存症から抜け出すためには、他者愛に目覚める必要がある。特に、奥様への愛にもう一度目覚めてください。

 えっ、俺は、今、独身だぞ。

(こら!! 勝手に話を作るなと、TV朝日のプロデューサーから怒れらてしまいそうなので、もうやめます。ブログも冬休みで3週間ほど休みます。)

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いつも外で飲んで帰ってくるあなた。年末年始くらいは、外で飲まずに家庭の中で奥様と一緒に晩酌をして、もう一度夫婦の愛を深め合ってください。

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母性のホルモンと父性のホルモン (オキシトシンとバゾプレッシン)


OXT-AVP

 忘年会シーズンである。

 しかし、今日は忘年会だが、愛する家族のために早く帰宅しようと決意して家を出たのだったが、その決意が逆に仇になってしまうワナが待ち構えていることがある。
 
 皆さん、気をつけましょうね。
 
 子供が6か月前に誕生したばかりの若い男性がいた。今の喜びは、我が子の安らかに眠る姿を見て、泣いたら抱っこをして、父親となった実感を味わうことだった。子供も誕生したし、俺には父親としての自覚が芽生えた。さあ、この幸せな家庭を守り続けるために今日も仕事を頑張るぞ。
 
 しかし、今日は忘年会だ。今日は今までとは違い早く家に帰ろう。

 何て愛しい我が子の寝顔。スースーと心地よさそうに眠っている。思わずおでこにキスをしてしまった。

 あなた、早く帰ってきてね。飲みすぎないでね。
 
 大丈夫だよ。もう父親になったんだから、若い時のような無茶はしないよ。今日は早く帰ってくるからね。じゃあ、行ってくるね。

 愛する家族のために、今日は絶対に早く帰るぞと、決意を新たにして家を出た。

 だが、いざ忘年会となったのはいいが、今日は非常に狭い店だった。しかも、隣に座った独身の若い女性がやたら気になって仕方がない。幹事は宴会でセクハラなどの間違いが起きないようにと、既に結婚しており子供が生まれたばかりのガードが固くなっている私の隣の席にしたのだろう。家庭状況からいって一番そんなことをしそうにないのは分かるけど、狭すぎて体と体がすぐにぶつかってしまうではないか。
 
 彼女とは余り話したことはないのだが、前から可愛い子だなと気になっていたのは確かである。向こうもなぜか今日は俺に親切で積極的だ。俺ってまだ魅力があるのかな。まだまだ捨てたもんじゃないな。ああ、あまり飲まないでおこうと思ったが、彼女がどんどんついでくるものだから、断る訳にもいかず、いつものように飲んでしまった。

(いやいや、これではいけない。今日は1次会で絶対に帰るのだ。)

 向こうは独身のためか、結婚生活にやたらと興味があるようであり、いろいろと聞いてくるので、家庭の話や子供の話をして盛り上がってしまった。

 今は赤ちゃんがいるから奥さんとはエッチはしていないのとか、奥さんと今でもラブラブ?、 とか聞いてくる。向こうも大分酔っぱらっているようだ。
 
 子供さんの写真を見せてよと言うので、スマホに保存してある子供の写真を見せた。
 
 きゃあ、可愛い!! 彼女はじっと写真を見いっている。

OXT-AVP-1
 
 どうだ可愛いだろう。ああ、なんて愛しい存在なんだ。
 (ここで、ある物質がどっと分泌された)
  
 あれ?、変だな、子供の写真を見たとたんに、なぜかその女性がすごく魅力的に感じてきた。
 
 逆に、彼女の方も、まじまじとこっちを見てくるではないか。恥ずかしい。俺をそんなにじっと見ないでくれよ。
 
 ああ、どんどん飲まされる・・・・・。
 
(こうして2時間半が経過した)
  
 じゃあ、皆さん、来年も頑張りましょう。乾~杯!!
 
 はい、1次会はこれで終わりです。さあ、さあ、皆さん、2次会に行きましょう。
 
 え、もうそんな時間なのか。2次会どうしようかな。脚が少しふらつくな。まず、トイレに行かねば。

 げっ、えらく混んでいるではないか。先輩、お先に失礼しま~す。

 モタモタしていたらエレベーターを乗るのが一番最後になっちゃった。残り5名くらい。彼女もエレベータに乗り遅れたのか。
 
 帰りのエレベーターで2次会に行くべきかどうか迷っていたら、その女性が私の腕をつかんできた。

 私、酔っちゃったみたい。主任さん、今日は早く帰っちゃいや~ん。ねえ、一緒に2次会に行きましょうよ。私じゃダメ?
 
 先輩、お持ち帰りはダメですよ。ちゃんと彼女を2次会に連れてきてくださいね。
 
 バ、バカなことを言うな。妻帯者で子供がいる私がそんなことをする訳ないだろう。
 
 2次会の場所はここですから。皆でタクシーで移動します。
 
 あれれ、一番最後のタクシーになっちゃった。

 え、どうしよう。このまま彼女を1人で置いて帰るのもまずいし。まあ、まだ9時だし、1時間ほど2次会に参加してから、すぐに家へ帰ろう。ま、少しくらいならいいか。
 
 彼女とタクシーに乗る。運転手に行き先を告げる。

 ああ、なんだか眠くなってきた。運転手さん、店についたら起してください。
 
 ・・・・・・・・・・・・
 
 はい、お客さん、着きましたよ。起きてください。運転手がニヤニヤしている。
 
 着いたところは、なんと、ラ・ブ・ホ・テ・ル!!
 
 えっ?、ここはいったい・・・・・。
 
 なんでこんなところに着いたのだ。
 
 しかし、俺にもたれかかったままの彼女。俺の腕をつかんで離そうとしない。
 
 眠っている間に、彼女が運転手に違う行き先を告げたのであった。
 
 もうここまで来ると、会話は要らない。彼女が私に何をしてほしいのかは明らかである。
 
 いっ、いかん。これはまずい。妻と子供は俺の帰りを待っているのだ。

 誘惑に負けてはいけない。邪念を消すのだ。愛する妻と子供の姿を思い出すんだ!!
 
 愛しい妻と子供の姿がドドーンと脳内に再生された。

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 (その瞬間、再びある物質がどっと分泌された)

 だが、皮肉にも、抑えなければならないはずの本能が逆に爆発してしまったのである。
 
 君はなんて魅力的な女性なんだ!!

(後は、どうなったかはご想像にお任せしますが、午前様になってしまい、奥様から厳しく問い詰められて修羅場になってしまったのは言うまでもありません^^;) 

(この話は、実際に似たような体験をした、とあるドクターの話を元に書いております。なお、私ではありませんので、くれぐれも誤解なさらぬようにお願い致します。)

 しかし、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。

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 オキシトシン(Oxytocin)とバゾプレッシン(Vasopressin)。

 この2つのペプチドホルモンが、人の精神(感情調節、共感能力、報酬系、等)や行動(特に、向社会行動など)に大きく関わっていることは以前からよく知られており、今でもさかんに研究されている。
 
 特に、オキシトシンは、母と子の絆(授乳などの育児や母性行動、母と子の愛着の維持、など)、男と女の関係(パートナーへの愛、浮気を防止し夫一婦制度を維持する、など)といった重要な事柄に大きな役割を果たしており、「愛のホルモン」と呼ばれている。愛撫や抱擁などの刺激で分泌されるため、「抱擁ホルモン」とも呼ばれる。また、性行為などにも関わり、男女の結合を強めるため、「結合ホルモン」とも呼ばれている。恋愛が始まった女性ではオキシトシンが高まっていることが報告されている。オキシトシンは、まさに「愛のホルモン」なのであった。

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 さらに、オキシトシンは、社会的な認識、社会的な記憶、社会的なアプローチ、社会的選好(social preference、ある社会的な状況への好みが増す。ある人を好きになるのも社会的な選好の1つである)をも促進することも分かっており、他者との信頼関係友好関係の構築を促進することにも大きく関与している。オキシトシンは自己と他者の違いを認識する能力を向上させ、他者への肯定的な評価を向上させくれるのである。

 その結果、オキシトシンが作用すると、アイコンタクト、ボディタッチ、子へのグルーミング(毛づくろい)といった他者との接触行動が増える。オキシトシンは、他者とのスキンシップを高めてくれる方向に作用するのである。

 そして、オキシトシンは赤ん坊という人生の早期から作用していることも分かっている。母親とのスキンシップは赤ん坊のオキシトシンレベルを高める。これによって、子供の親への信頼感は増加し、子供は安心して育つことになる。その結果、子は親を慕うようになり、子供は親を尊敬するようになり、しいては社会をも尊敬し尊重するようになる。社会はオキシトシンが作り出し支えているのだとも言えよう。
 
 一方、オキシトシンは、ドーパミンやセロトニン系にも関与しており、オキシトシン作動性ニューロンは側坐核や扁桃体や海馬などで報酬系や大脳辺縁系ともリンクしていることが分かっている。愛が人間の心を満たしてくれる、すなわち、報酬系を満たしてくれることは、誰にでも理解できよう。オキシトシンが報酬系を直接高めてくれることで、生涯一人のパートナーに忠誠を誓い、たとえ自分の夫や妻以外の魅力的な男性や女性に心を惹かれたとしても、オキシトシンのおかげで自分のパートナーからの報酬が一番最高のものだと実感でき、一夫一婦制度を維持していけるようになっているのである。そして、夜泣きされて育児がきつい時でも、心が満たされ、母親としての幸せな気分にひたれるのであろう。

(社会的選好について)
 こういったオキシトシンの社会性に関する役割の観点から、オキシトシンと自閉症との関連性が以前から調べられており、社会機能のスコアが悪い自閉症児童ではオキシトシンのレベルが低下していることなどが見出されている。

 オキシトシンのその作用からは、自閉症への社会症状や行動症状に対して効果が期待できるのではと想定され、既に、自閉症へのオキシトシンの点鼻薬の治験や臨床試験が行われている。しかし、オキシトシンのレベルは全ての自閉症児童で低くなっている訳ではなく、健常児童と変わらない高いレベル有するケースもあり、全てのケースでオキシトシンの効果がある訳ではない。自閉症とオキシトシンとの関連性については膨大な数の論文があるのだが、今回は自閉症とオキシトシンとの関連性については省略する(興味がある方は、下の総説や下の論文を読まれたし。なお、バゾプレッシンも自閉症に関わっていることが報告されている。統合失調症でもオキシトシンとの関連性が報告されている)。

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 下のHPからは、治験がうまくいけば、後2・3年もすれば、自閉症の治療薬としてオキシトシンの点鼻薬が発売されるのではなかろうか。

(なお、なぜ点鼻薬として鼻から投与するのかについては、「関連ブログ2014年2月5日 涙」を参照して頂きたい。)

 一方、オキシトシンの点鼻薬は、自閉症だけでなく、多くのケースに応用できる可能性がある。社会的なストレスを緩衝してくれるその作用からは、いろんなケースに応用できるものと思われる。
 
 特に、最近、自分の子供に虐待を加えてしまう親のケースが増えて大きな社会問題になっている。オキシトシンのその作用からは、オキシトシンの点鼻薬は、子供への虐待に悩む親を救い、子供への虐待を防いでくれるツールになる可能性があるのではなかろうか。

 抵抗性うつ病では、エスシタロプラとの併用でうつ症状を改善するという報告もある。これはオキシトシンの報酬系を介する効果であろう。

 さらに、依存や嗜癖などの中毒性疾患からの回復にオキシトシンの点鼻が役に立つ可能性がある。オキシトシンの点鼻によってアルコールの離脱症状が緩和することが報告されている。さらに、依存や嗜癖に陥るケースでは、オキシトシンシステムが十分に機能しておらず、報酬系が機能不全に陥っていることが分かっている。オキシトシンは、この報酬系の機能を回復してくれる可能性がある。オキシトシンシステムは通常は3歳までに発達を100%完了する。しかし、虐待やトラウマを受けたなど養育時の環境要因によっては、オキシトシンシステムの発達が阻害されてしまうことがある。依存性疾患に陥るリスクは、既に4歳から存在するのかもしれない。オキシトシン点鼻薬は、依存症の治療にも応用できる可能性があろう。ただし、オキシトシンシステムの発達が大きく阻害されていると効果がないことも考えられうる。

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 ここで、オキシトシンの点鼻薬を使用する上で注意しなければいけないことがある。オキシトシンは嫌な記憶を呼び覚ますことがあり、不安を惹起させ、社会ストレスの知覚を促進させ(人の男性での所見)、未来への恐怖やストレスを増強させることがあるため、想定されているオキシトシンの効果と逆効果になることがあるようだ。その使用には注意が必要であろう。

 話がそれてしまったので元に戻そう。

 人の精神や行動に関わるホルモンはオキシトシンだけではない。バゾプレッシンにも、人の行動に関わる大きな役割があることが分かっている。すなわち、男性としてのパートナーへの結合(妻への愛、一夫一婦制の維持、など)、子供との結合(子供への愛や育児、子供を防御する、など)、不安、ストレス、敵からの防御、敵への攻撃や警戒、社会的地位の維持、記憶(社会的記憶、など)、学習、といったようにオキシトンと同じように精神や行動に大きな役割を果たしていることが分かっている。そのため、今では、バゾプレッシンやオキシトシンはペアになって人間の精神や行動に大きく関与しているのだろうと理解されている。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4005251/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8413608
 この2つのホルモンの主な役割は、前述したように、向社会行動(prosocial behavior)である。特に、向社会行動を介して社会的な結びつき(social bonding)を強めるという大きな役割を担っている。

 社会的な結びつきには、親と子の結びつき、夫婦間の結びつき、救助活動、ボランティア活動、慈善活動や市民としての義務を果たすなどの他者との結びつきなどがあり、オキシトシンとバゾプレッシンは様々な社会的な結びつきに関わっているのであった。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4146394/
http://www.nature.com/nrn/journal/v12/n9/full/nrn3044.html
 

(向社会行動について)

 そして、向社会行動への作用も、同じホルモンでも男と女では作用が異なることが分かっている。オキシトシンとバゾプレッシンは作用に性差があるホルモンなのである。

 では、このホルモンの向社会行動や結びつきにおける役割とは具体的にはいったいどのような役割なのであろうか。
  
 この点に関して、一番重要なことは、オキシトシンは母性愛に、バゾプレッシンは父性愛に目覚めさせてくれることであろうと思われる。

 オキシトシンは母性のホルモンであり、バゾプレッシンは父性のホルモンなのであった。

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 女性では、母親になると、オキシトシンやその受容体の発現が高まることが知られている。これによって母性愛に目覚めることになる。さらに、そういった変化は、男性のバゾプレッシンでも報告されている。父親のオマキザルは父親になると、前頭前野における錐体ニューロンの樹状突起棘の密度が高まり、それと並行して、樹状突起棘におけるバゾプレシンV1a受容受容体が増えていることが判明した。これは、まだ父親になっていないオマキザルの雄には見られない変化である。さらに、バソプレッシンの注入を受けると、オスの大草原ハタネズミは子供のハタネズミを抱擁するようになった。男性では、父親になるとバゾプレッシンの作用が高まり、父性愛に目覚めることになるのである。
http://www.slate.com/articles/health_and_science/medical_examiner/2007/06/stretch_marks_for_dads.html
 
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 そして、オキシトシンやバゾプレッシンの発現を高め分泌刺激を与えてくれるのが、愛しい我が子の存在である。

 授乳の際にはオキシトシンが高まるのだが、赤ん坊を抱っこしただけでも母親のオキシトシンの分泌が刺激される(オキシトシンは単なるボディタッチという皮膚への物理的な刺激でも増えるようではあるが)。そして、赤ん坊が泣いた声を聴いただけでも、女性はオキシトシンが分泌されて、母性愛が作動し赤ん坊を養育しようと頑張るらしい。当然、赤ん坊のその愛らしい姿を見れば、女性ではオキシトシンが、男性ではバゾプレッシンが分泌されることであろう。その愛らしい姿を見て、母や父として目覚めない方がおかしいと言えよう。


(オキシトシンとバゾプレッシンの歌ですね^^;)
http://www.youtube.com/watch?v=PrRyJBo7VEw
 
 一方、既に述べたように、この2つのホルモンが作用する力には性差が認められる。興味深いことに、オキシトシンは女性で強く作用し、バゾプレッシンは男性で強く作用することが分かっている。

 そして、遺伝子の発現量も男女で異なっている(雌ではオキシトシンやその受容体の発現は雄の1.4倍も高い)。しかも、エストロジェンのような性ホルモンによって、オキシトシンやその受容体遺伝子の発現が刺激されることも分かっている。バゾプレッシンも同様に男性ホルモンで刺激される。逆に、男性では去勢されるとバゾプレッシン受容体が減少してしまう。まさに、オキシトンは女性へのホルモン、バゾプレッシンは男性へのホルモンなのであった。

 この観点からは、ストレスや不安に関連するバゾプレッシンが強く作用するように生まれつき定められている男性は、女性よりもストレスや不安に晒され易くなっているものの、その方が敵と戦う上では有利であり、愛する妻と我が子を守るために過酷な状況と最後まで戦い抜き使命を果たすように定められているのかもしれない。バゾプレッシンはまさに「愛する人を守るために戦う男のホルモン」なのである。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2689929/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7773686

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 この2つのホルモンは視床下部の室傍核と視索上核で作られて下垂体後葉から分泌される。

 このホルモンは、相同性が非常に高いホルモンである。アミノ酸配列は、双方共に9個からなり、オキシトシンが、
「Cys-Tyr-Ile-Gln-Asn-Cys-Pro-Leu-Gly-NH2」であり、
バゾプレッシンは、
「Cys-Tyr-Phe-Gln-Asn-Cys-Pro-Arg-Gly-NH2」であり、
たった9個の中の2つのアミノ酸が違っているに過ぎない。

 しかし、この2つの違いが大きな違いを呼ぶことになり、男と女の役割の違いを強くアレンジして作り出すことになる。

 なお、オキシトシンのPro(プロリン)がバゾプレッシンではArg(アルギニン)になっているだが、動物種によって異なるため、人ではバゾプレッシンをアルギニンバゾプレッシンと表現されることがある。多くの動物ではアルギニンバソプレッシン(英: Arginine vasopressin:VP)であるが、豚ではリジンバソプレッシン、鳥類などではアルギニンバゾトシンである。オキシトシンもバゾプレッシン同様に動物によって異なる。このようにこの2つのホルモンは動物種によって多様性に富んでおり、人類としての進化に関わるホルモンなのだと言えよう。人類で大きく発達したもの。それは社会性である。この2つのホルモンが社会性に大きく関わっているのは必然的なことなのかもしれない。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%BD%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%B3

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 一方、この2つのホルモンは構造が似ているため、化学構造式からの観点では、オキシトシンはバソプレッシン受容体に対してはアゴニストとして作用し(構造が似ているのであれば、こういう作用は十分にあり得るだろう)、バソプレシンはオキシトシン受容体に対してはアンタゴニストとして作用すると下の論文では述べられている(この作用は不思議である)。

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 さらに、バゾプレッシンはオキシトシンと反対方向の作用を有することも知られている。しかも、生理学的にもバゾプレッシンはオキシトシンの中枢神経系への効果を打ち消すように作用することも知られている。

 そして、中枢神経系に対しては男性と女性への効果も異なる。例えば、見知らぬ人の顔を見た際には、バゾプレッシンは、男性では警戒を強めた反友好的な表情を作り出すが、女性では親しみのある友愛を示す表情を作り出す。さらに、オキシトシンは、男性に対しては自分が関心がある自分の子供を優先するような行動を強めるが、女性に対しては、分け隔てない養育的で利他的な行動を強める。など、性差が報告されている(我が子の保護や養育にとっては双方の態度が必要なようではあるが)。
 
 オキシトシンは普遍的で分け隔てないマザーテレサのような愛を生み出し、バゾプレッシンは特定の対象(配偶者や我が子)への強い愛を生み出しているのかもしれない。
 
 愛する存在を守りぬく。それがバゾプレッシンが強く働くように運命られた男の使命なのかもしれない。しかし、男としての役割を果たそうと思ったら、オキシトシンの作用を抑えなければ、真の男としての役割を果たせない時がある。そう、それは敵と戦う時である。特に、愛する妻や我が子を襲おうとしているような敵と戦う時にはオキシトシンによる慈悲や友愛の心が邪魔になろう。男は、大切な妻や我が子を敵から守るためには、バゾプレッシンの力によってオキシトシンをブロックし、敵への愛(友好や同情)などは捨て去って、敵を攻撃して情け容赦なく打ちのめすように定められているのかもしれない。
http://www.researchgate.net/publication/51429083_Oxytocin_vasopressin_and_sociality/links/0046352b1a47aba857000000

 このように バゾプレッシン(アルギニンバソプレシン AVP)は攻撃行動に関係している。そのため、バソプレシン受容体遺伝子に変化があると、暴君を作り出すことになる。バソプレシン受容体(VBR、AVBR)には3つのタイプが同定されているのだが(V1、V2、V3)、V1はさらに2つのサブタイプに分かれる(V1aRV1bR。または、AV1aRAV1bR)。

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 これらのバゾプレッシン受容体の中でも、V1aR遺伝子が「無慈悲遺伝子」として注目されている。V1aR遺伝子のプロモーター領域の1つであるRS3には、短いタイプと長いタイプがあるのだが、短いタイプのRS3を持つ男性では「独裁者ゲーム」における振る舞いが、相手の取り分など配慮せずに情け容赦なく自己の利益ばかりを優先する傾向が強かったことが示されている。そのため、短いタイプのRS3を有するV1aR遺伝子は、「無慈悲遺伝子」や「暴君遺伝子」「独裁者遺伝子」と呼ばれている。短いタイプのRS3では利他主義が低くなり利己的になるのである。

 そして、この傾向は既に幼児期から認められることが分かっている。この遺伝子型を持つ児童は、利己的になり、子供時代からドラえもんのジャイアンのように相手に対して情け容赦ない振る舞いをするのである。ジャイアンはこの遺伝子型を持つのかもしれない。

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 なお、この領域の対立遺伝子の型は、318、320、322、324、326、328、330、332、334、336、338、340、342、344、346、348、350などの種類があり(数字が小さい短い程、遺伝子の長さは短くなる)、そして、血液型と同様に父親と母親のそれぞれから1つずつ受け継ぐ。従って、2種類の型を持つことになる。同じ対立遺伝子のペアを有するホモと、違うペアを有するヘテロも行動に影響を与えるようになることが知られている。

 さらに、V1aR遺伝子だでけでなく、V1bR遺伝子も同様に、攻撃性、社会的認識記憶、社会動機、社会選好などの行動に関連していることが報告されているが、V1aRほどは詳しく調べらてはいないようだ。

 ここで、あることが思い浮かぶ。暴君になるということは、バゾプレッシンは男と女の関係、すなわち、夫婦関係に関わってくるのではないのかということである。
 
 この点に関して、有名な論文を紹介したい。V1aR遺伝子が離婚(浮気)と関係しているという論文である。

 この論文では、V1aR遺伝子のRS3領域と妻への満足度(パートナーとの結びつきスケール、Partner Bonding Scale 、PBS)や離婚との関係性が調べられた(表2)。11遺伝子型へのテストを補正して解析したところ、334という対立遺伝子型を1つ以上有する男性ではPBSが優位に低いことが分かり、334という遺伝子型が離婚(浮気)遺伝子として炙り出された。
 
 すなわち、パートナーとの結びつきスケール(PBS)は、334の遺伝子多型を1つも有さない場合は配偶者の満足度の得点は48.0、1つ持っていると46.3、2つ持っていると45.5と有意に低下していた(表3)。他の遺伝子型では、こういった傾向は認められなかった(344もPBSが低いようにも思えるが、344・334タイプが混じっていたのだろうか。統計解析では有意差は出なかったようだ)。
 
 一方、離婚の危険性との関連からは、334を2つ持つ男性は、334を全く持たない男性と比較して、過去1年間で離婚の危機を2倍も多く経験していた(34%対15%、表3)。
 
 さらに、この334という遺伝子型は、結婚しないこととも関連していた。334を2つ持つ男性は、334を全く持たない男性と比較して、結婚している率が少なかった(68%対83%)。逆に、同棲をする傾向が高かった(32%対17%、表3)。
 
 逆に、結婚生活の質に関する妻側からの評価では、334を2つ持つ男性は、334を全く持たない男性と比較して、妻からの評価が悪い傾向があった。(愛情表現不足、夫婦間の意見の不一致、夫婦間の結束が低い、などと妻は感じている。表4)。
  
 これらの一連の結果からは、334という遺伝子型は離婚に結びつく傾向を有するのではないかと結論付けられている。

 なお、この334という遺伝子型の頻度は、334を少なくとも1つ持つ男性は40%、対立遺伝子が2つとも334の男性は4%であった。結構な割合で男は334を持つようなのである。これはスェーデン人のデータであり、日本人男性のデータではないが。

(この334という遺伝子型を持つ男性は結婚しない方がいいのかもしれない。しかし、論文の数字からは、7割はちゃんと機能した結婚生活を送っているとも思えるため、必ずしも悲観する必要はないのかもしれないが。汗;)
 
 こういった傾向を生む背景としては、334という遺伝子型を有すると、扁桃体の活性が高くなり、他者のマイナスの表情に対して敏感であり、対人関係において関係を持つことを回避しやすくなるといったことが関係しているのではと推測されている。妻のマイナスの表情を敏感に感じ取ってしまうため、夫婦間の積極的な関わりを回避してしまうのであろうか。さらにRS3の長さに関しては長い型の方が短い型(某君型)よりも扁桃体の活性が高かった。暴君になる人は他人の表情など気にせずにどんどん情け容赦ないことをするのだろう。なお、RS1領域の長さや対立遺伝子の型も扁桃体の活性度合と関連が見られたが、下の論文の表3を参照してほしい。

 さらに、チンパンジーではこのRS3領域は性格傾向に関与していることが報告されている。チンパンジーでは、このRS3領域を欠くケースが83例中、雌で34例、雄で19例認められたが(DupB(-)、上手)、このDupB(-)対立遺伝子をペアの型で有するケース、すなわち、DupB(-)(-)では性格傾向に特徴は認められなかったが、DupB(-)(+)という型では、不誠実になる傾向が認められた。そして、その傾向は雄のチンパンジーにおいて顕著であった(人類では、334を持つと不誠実な男になってしまうのかもしれない)。

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 このように、バゾプレッシンは男としての運命を決めるホルモンなのだと言えよう。

 ここで、疑問が生じる。バゾプレッシンは女性に対しては影響しないのであろうか。この点に関しては、女性でも上記のRS3というバソプレシン受容体V1aR遺伝子のプロモーター領域に関連しており、RS3の多型と母性の強さが関連していることが報告されている。不思議なことに、男性が暴君になっていく傾向とは逆で、長い方の対立遺伝子を2つ持つ母親は子供に対する母性が低下してしまうようだ。このように、バソプレッシンは母性にも関係しているのであり、必ずしもオキシトシンだけが母性に関係している訳ではなさそうである。

 では、オキシトンの方の作用はどうなのであろうか。オキシトンは愛のホルモンである。当然、夫婦関係に大きく関わっているはずである。
   
 この点に関しては、前述したように、オキシトシンは夫婦関係の維持(一夫一婦制、monogamy)に大きな役割を果たしているのではと1980年台の頃から考えられていた。これは、男女のペアを形成する草原ハタネズミと、単独で生活しペアを形成しない山地ハタネズミにおけるオキシトシンの作用や、オキシトシン受容体の分布パターンの違い、オキシトシン受容体への阻害実験などから推測されたのだが、フィンチ(鳥)など他の動物でもペアリングの際のオキシトシンの関与が確認されている。

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 オキシトシンは、どうやら、夫婦間の結合ペアボンディング、pair bonding)、夫婦間の信頼関係の構築夫婦間の記憶(思い出)の保持などを強くしているようであり、前述したように、報酬系も関与して、これらの作用が一夫一婦制を後押ししているのかもしれない(しかし、これらの所見は動物での所見であり、人間で確かめられた訳ではない)。

 特に、他者との信頼関係を築く上でオキシトシンは大きな役割を果たしていることが確認されている。オキシトシン受容体(OXTR)遺伝子のrs53576領域と他者への信頼感を調べた研究では、対立遺伝子型がG型(GG)を有する場合は、A型(AA/AG)を有する場合よりも他者への信頼行動が高いことが分かった。オキシトシンは愛だけでなく「信頼ホルモン」とも呼べるホルモンなのである。オキシトシンは、おそらく、子供が親を信頼することにも関連しているのだろう。前述したように、赤ん坊は母親からのスキンシップによってオキシトシンが増加することが分かっている。こういった母性愛の力によって、子供はオキシトシンシステムを発達させて、人を信頼する力を育んでいるものと考えられる。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3270329/
http://latchment.com/imprinting/

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 さらに、オキシトシンが点鼻された場合には、なじみのない人に対して親和行動を強めることが分かっている。オキシトシンは信頼感が高まるだけでなく、その人のことを好きになっていくのである。ペアであることを維持するには、信頼感だけでは維持できまい。好きじゃないとペアは維持できない。しかし、オキシトシンの力によってパートナーを好きになれるのである。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0018506X09000853

 一方、人間の男性においては、オキシトシンは妻への忠実度を促進するように作用することが報告されている。これは、鼻腔にオキシトシンを点鼻した時の、パートナーの写真を見た場合と見知らぬ女性を見た場合とのfMRIの所見から明らかにされた。そして、この作用は報酬系を介した作用であることも判明した(ドーパミンなどもオキシトシンを介して関与しているのであろう)。オキシトシンが他の女性よりも自分のパートナーの魅力や報酬価値を高めてくれているのである。人間はいつも、脳内の報酬系を刺激するために努力をしている。この所見からは、恋人と別れた時や自分のパートナーを亡くした時に、報酬系を満たす刺激が喪失されてしまうため、深い悲しみやうつ病に陥る理由が説明できると論文の著者は述べている。

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(この図を良く見ると、プラセーボを投与された時には、見知らぬ女性の写真の方に強く反応している。これは、男は、皆、浮気症があるということなのかもしれない。浮気をされたくなかったら、夫の鼻にオキシトシンを毎日点鼻するといいのかもしれない^^;)

 しかし、オキシトシンの夫婦間の結びつきを深めるという役割に関しては、男性ではなく、むしろ女性に方に強く作用しているようである。
 
 キンカ鳥(zebra finches)では、オキシトシンアンタゴニストを投与されると、ペアリングが阻害されるが、それは雄よりも雌でその傾向が強かった。

 さらに、ペアリングにおけるオキシトシンの効果は女性に強く影響するという傾向は人間でも確認されている。OXTR遺伝子のSNPsであるrs7632287という対立遺伝子を1つか2つ有する女性では、PBSスコアは低くなり、離婚の危機を経験する率が50%も高くなることが分かった(男性のV1aR遺伝子のRS3領域の334という対立遺伝子と同じような傾向が、女性のOXTR遺伝子のSNPsでも認められたのである)。

 さらに、(女性か男性かは分からないが、)、OXTR遺伝子のある種のSNPsは恋愛の初期におけるパートナーとの共感的なコミュニケーションをする上での困難さと関連していることも報告されている。OXTR遺伝子のrs7632287は女性における離婚(浮気)遺伝子だと言えよう。

 一方、オキシトシンは雌マウスが雄マウスへの関心を高めることも示されている。2014年に、オキシトシン受容体を発現した新しい介在ニューロンのタイプが内側前頭皮質で見つかった。解析の結果、これらのニューロンは、親密さ、愛、または母子の結合などの他のオキシトシン関連の社会的行動において役割を果たしていることが判明した。これらのニューロンの活性を破壊した時に、雌マウスは発情時期における雄マウスへの興味を失った。対照的に、この雌は、発情時期における他の雌マウスに対する興味は失われずに、非発情時期では雄マウスに対する社会的関心度も正常レベルを保持した。一方、雄マウスの社会的行動は、これらのニューロンの活性を破壊しても影響されなかった。オキシトシンは前頭皮質の介在ニューロンの特定のクラスを介して女性の社会的な行動(選好)を調節していることになる。この細胞は「恋愛ニューロン」と呼ぶべきなのかもしれない。発情時期(排卵時期)になると、雌はこの細胞を通じて雄への関心が高まるのであろう。しかし、この所見は、オキシトシンの作用が強まると、どんな雄でも好きになってしまう可能性がある(無差別の社会選好が起きる)ことを意味するのではなかろうか。女性でもオキシトシンの作用が強まれば浮気する可能性が十分にあるのではと思える。

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 しかし、夫婦の結びつきはオキシトシンだけが関与している訳ではない。バゾプレッシンも関与しているため、一夫一婦制についてはどうやら複雑なようである。
 
 この点に関しては、バソプレッシン受容体V1aRも、ハタネズミにおける一夫一婦制に関連していることが報告されている。パートナーを形成する草原ハタネズミではV1aRの発現は山地ネズミよりも腹側淡蒼球で高かった。逆に、外側中隔核では低かった。

 そこで、実験的に淡蒼球におけるV1aRの発現を低下させたところ、この雄では、パートナーとのペアボンディングが困難となり、一夫一夫制の維持に大きな支障をきたすことが分かった。

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 面白いことに、淡蒼球におけるV1aRの発現を過剰にしたところ、雄のハタネズミはパートナーである雌を好む傾向が促進されることが報告されている。さらに、雄の腹側前脳におけるV1aRの発現を過剰にすると、パートナーを無差別に選択してしまうようにもなった。これらの所見は、雄が雌(パートナー)を好きになるには、バソプレッシンが関わっていることを意味するのであろう。しかし、バソプレッシンが逆に強く作用し過ぎてしまうと、パートナー以外の女性をも好きになってしまう恐れが出てくるのかもしれない。これは、女性におけるオキシトシンの作用と同様のようである。

 そして、前述した浮気に結びつくバソプレシン受容体V1aRのRS3領域における影響のように、バゾプレッシンが適度に機能しないと、一夫一婦制はうまく維持できないようになっているのかもしれない。どうやら、男性においては、オキシトシンよりもバゾプレッシンの働きが重要なのだと言えよう(女性ではオキシトシンなのだが)。

 強い男でなければ英雄にはなれない。英雄になる程の強い男になろうと思ったらバゾプレッシンの力が必要である。まさに「英雄色を好む」とはこのことであり、英雄ほどバゾプレッシンの働きが強いため、女好きであり浮気をしてしまうように運命られているのかもしれない。

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 ここで、RS3領域の関与は、ハタネズミの一夫一婦制では関連性がないという報告がある。これは、人とは異なる所見である。動物種によっては、一夫一婦制におけるRS3領域の影響はその種によって異なるのかもしれない。さらに、V1aR遺伝子の長さに関しても、ハタネズミでは一夫一婦制には関係があるという論文もあるが、関係がないという論文もある。この点に関しては、動物ごとに異なるようであり、まだよく分かってはいないようだ。

(まあ、バゾプレッシンに限らず、オキシトシンも含めたナノペプチドは、ナノペプチドは全般にわたって動物の種によって作用が違うようではあるが。)

 このように、夫婦間の結びつきは、男性や女性の片方にのみ影響される訳ではなく、双方の要因に左右されるものであろう。夫婦間の結びつきに関しても、男はバゾプレッシンン、女はオキシトシンなのだと言えよう

 バゾプレッシンは男へのホルモン、オキシトシンは女へのホルモンなのである。三船敏郎じゃないけど、「男は黙ってサッポロビール」のように、「男は黙ってバゾプレッシン、女は黙ってオキシトシン」なのである。

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 しかし、一夫一婦制については、全哺乳類の種では、生涯に渡り一人のパートナーと最後まで伴にするのは3~5%と稀なことであり、人類の方が特殊なケースのようでもある(汗;)。
http://www.nature.com/neuro/journal/v9/n1/full/nn0106-7.html

 さらに、一夫一婦制の目的は、夫婦のためではなく、子供を守るためだという説もある。一夫一婦制の方が、子供を外敵に殺されることから守る上では有利であり、それは、バゾプレッシン遺伝子が人類に非常に近いものの、一夫一婦制ではないゴリラの嬰児率が高い(人類では非常に嬰児率が低い)ことから推測されている。従って、子供が巣立ってしまったら、もはや夫婦を続ける意味はなくなるのかもしれない。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3746880/

 しかも、オキシトシンは加齢によって、その作用は減弱していき、オキシトシン受容体の数も減少していくことが報告されている。女性は高齢になるとオキシトシンの作用が弱まり夫への愛情が薄れていくようにできているのである。熟年離婚はオキシトシンの作用が弱まっているせいなのであろうか。

 最近、熟年離婚が増えているが、熟年離婚は、オキシトシンによって定められた生物学な(本能的な)仕方のない行為だと言えるのかもしれない。

 生物学的には、人類は一夫一婦制を最後まで維持するようにはできていないのかもしれない。しかし、それでも一生涯を一人のパートナーに捧げて愛を貫き通す。これこそが、オキシトシンやバゾプレッシンをも超えた本当の愛の姿なのではなかろうか。

 ホルモンや遺伝子の作用などではなく、自分の意志で一夫一婦制を最後まで維持していく。これは、人類にしかできない本当に尊いことなのだと私には思えます。

(なお、最後に、必ずしもオキシトシンなどのホルモンは向社会行動を増す方向に作用する訳ではないことを付け加えておく。育った家庭環境が劣悪だとその効果が発揮されなくなる可能性があることが、最近、報告されている。)
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 ここで、先ほどの浮気をしてしまった男のケースの話に戻ろう。

 相棒でご活躍中の杉下右京さんが、みごとに推理してくれた。

(水谷豊さんの喋り方を思い出そう)

 ひとつよろしいでしょうか。

 皆さん、このケースは起きるべくして起きた事件だったんですね。

 この事件は、母親のホルモンのオキシトシンと、父親のホルモンのバゾプレッシンが引き起こした事件だったのです。

 オキシトシンは愛のホルモンとも呼ばれているのは、ご存知ですね。バゾプレッシンも愛のホルモンだということもご存じですね。

 あなたは、家を出る前に、父親になったことを強く自覚して家を出ましたね。その時点で既に、バゾプレッシンのレベルがかなり高まっていたのです。

 そして、忘年会では隣に独身の若い女性が座った。

 その女性は、誰にでも愛想がいい、誰にでも優しい友好的な女性だった。これは何を意味するのか分かりますか。

 そうです。普段からオキシトシンのレベルが高い女性だったのです。

 なぜ、彼女のオキシトシンのレベルが高いのかは分かりませんが、もしかしたら、彼女は辛い幼少時代を送っていたのかもしれません。

 そして、あなたの横に座ったことで、あなたと体が触れ合うようになり、あなたの存在が物理的な刺激になって、彼女のオキシトシンのレベルはさらに高まった。宴会の場所が狭すぎたのもいけなかったようですね。

 そういった状況の中で、赤ちゃんの写真を見せてしまった。これは、さすがにまずかったですね。その行為はお互いに、非常にまずかったのです。

 父親になっているあなたの方は、赤ちゃんの姿が刺激になって、バゾプレッシンが一気に分泌されてしまった。

 バゾプレッシンは敵に対して警戒したり攻撃する際に分泌されるホルモンですから、好都合なようにも思えるかもしれません。しかし、これには大きな落とし穴があったんですね。

 攻撃性や警戒はバゾプレッシンを介して発揮されるのですが、しかし、残念なことに、同性に対してしか発揮されない傾向があるのです。

 こうなると、その女性を警戒するどころか、逆に、その女性に対して、社会的選好という現象が生じてしまうことになります。

 そうです、バゾプレッシンのせいで、あなたのそばにいたその女性を好きになっていくのです。

 しかも、バゾプレッシンはオキシトシンをブロックしてしまいます。あなたの妻への忠誠心はオキシトシンのなせる業。それがブロックされてしまったら、いったいどうなると思いますか。もう説明しなくてもお分かりですね。

 かたや、女性の方も、赤ちゃんの写真で母性愛が刺激されてしまった。赤ちゃんの写真を見たことで、その女性の脳内にも、一気にオキシトシンが分泌されたことでしょう。

 すると、どうなるでしょうか。オキシトシンは母性のホルモンでもありますが、愛のホルモンとも言われています。そして、抱擁のホルモン、結合のホルモンとも言われています。それはあなたもご存知ですね。

 その女性にもオキシトシンのせいで社会的選好という現象が生じます。彼女のすぐそばに居た、あなたのことを好きになっていってしまうのです。

 赤ちゃんの写真を見てから、彼女があなたの方をじっと見つめてアイコンタクをし始めたのも、オキシトシンによる影響なんですね。

 そして、オキシトシンの作用で性行動が強まった。

 エレベータの中で、あなたの腕をつかんだ時には既に彼女の中では性への衝動が相当強まっていたんですね。

 彼女がタクシーの運転手に行先を変えて告げたのは、オキシトシンの仕業だったのです。

 でも、どうか彼女を責めないでください。赤ちゃんの写真を見せたあなたが悪いのですから。

 後は、あなたが、誘惑に負けてしまうかどうかだけでした。

 しかし、そんなあなたにとどめが刺された。

 それは、あなたが、赤ちゃんの姿を思い出して脳内で強くイメージしたことです。そんなことをしなければ良かったのです。

 まだ、分からないのですか。 

 あなたは自ら自分にとどめを刺したことになるんですよ。

 赤ちゃんの姿をイメージしたことで、あなたの脳内にはバゾプレッシンが一気に放出された。それはあなたが既に父親なっていたからなんですが、世の中は実に皮肉にできていますね。

 まさか父親になっていたことが逆効果になろうとは。あなたは、そんなことは夢にも思わなかったのでしょうけども。

 その結果、腹側前脳のV1aRの発現を過剰に操作させられたハタネズミのように、あなたは無差別に女性を選ぶ見境のない哀れな動物になってしまった。

 父性のホルモンのバゾプレッシンと、母性のホルモンのオキシトシンが織りなした、ミステリアスだけど必然的な事件。

 父性のホルモンと母性のホルモンが強く相互作用をしてしまうと浮気を生み出すことになるのですよ。


 これでもう十分にお分かり頂けましたね。

 最後に、もう一つだけ。

 奥様は離婚を考えておられるようですよ。

 あなたのV1aR遺伝子のRS3領域を鑑識課の米沢さんに調べてもらっています。

 334だったかどうか、結果を知りたいですか。

(そ、そんな・・・・・。涙)

 ・・・・・・・・

 ちょっと、待って、それは違うわ。

 科捜研の榊マリコさんが登場した。

 確かに、オキシトシンとバゾプレッシンからの推理は成り立つのかもしれませんが、もっと、大きなことが原因なんです。

 相馬君、用意した論文を提示して、お願い。

 右京: はあ?

(次回に続く)

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最後に映画を1つ。

父の愛(バゾプレッシン)と娘の愛(オキシトシン)が生み出す奇跡の物語。
「インターステラー INTER STELLAR」
父は愛する娘を救うために過酷な宇宙へと旅立つ。
娘は父を信じ続け、全人類への愛を貫く。
愛は宇宙をも時空をも超える。
160分間の感動のSF超大作。
(この映画は私が今年見た映画の中でNo1の映画だと思いました。)



INTER STELLAR

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