以前、ブログでRancetに発表された第2世代の抗うつ剤ランキングに関して述べたのだが、今回は、それと同じようなことが全般性不安障害に関する薬物療法でも起きようとしていると警告を発した論文があったので紹介する。

■関連ブログ2013年3月15日 

今回のDSM-5の改定にて診断基準が緩くなる全般性不安障害。きっとさらに多くの人にこの診断がなされることになるのだろう。それにターゲットを絞ったかのような全般性不安障害に関する薬物療法のメタアナリシスを使用した全般性不安障害で推奨される薬剤が既に論文で発表されているのであった。発表された雑誌はBMJ。RancetほどではないがBMJもイギリスではメジャーな医学雑誌かもしれない。

そして解析方法は例のRancetの論文と同じくメタアナリシスという統計学的手法が用いられているのであった。

ここで簡単にメタアナリシスという解析方法について述べると、1つの論文ではサンプル数が少なくてはっきりしたことが言えなくても、他の論文のデータを加えて解析して、その結果、有意差が出れば、それはさらにエビデンスを積み重ねたエビデンスであり、新しいエビデンスが誕生するのだという手法であった。

(メタアナリシスの原理が簡単に分かります↓)

しかし、メタアナリシスという解析方法には問題もあり、どの論文のデータを採用するかしないかは解析をする者の自由な裁量に委ねられるため、もし、解析者が製薬会社に買収されていたら、買収先に有利なデータだけを採用して解析することも可能なのである。すなわち、データねつ造に限りなく近いことも可能なのであった。公正性が保障されているかどうかなどは読者には全く不明なのである。

(メタアナリシスは4つの点で大きな障害がある)
(メタナリシスは都市伝説を作り出していることと同じだ)
(メタアナリシスによって出版バイアスという問題が生じる)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%87%BA%E7%89%88%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%B9

そこで、そういった汚染がなされないような公平で透明性が保たれたデータベースを作ることをイギリス人が提唱し、それをコクラン共同計画Cochrane Collaborationと名付け、これからはコクランのライブラリィの方を信じてくれという提唱がなされているのであった。

(精神科関連の論文はメタアナリシスを使った論文ではなく、コクラン共同計画に準拠したシステマティックレビューを参考にしてほしいという訴え)
(コクラン共同計画のホームページ)
http://www.thecochranelibrary.com/view/0/index.html#http://www.thecochranelibrary.com/view/0/browse.html
(コクラン共同計画を説明した日本のホームページ)

しかし、もし、そのコクランですら、うまく利用されてしまうのならば・・・

(;゚Д゚)

(A) 今回の批判される論文

(全般性不安障害に関する薬物療法の論文をメタアナリシスを用いて解析しました。しかし、あのコクランのシスティマティックレビューのデータも採用しております。どうですか、あのコクラン・ライブラリィのデータも入れて解析していますよ。あのコクランですよ、もう、文句はないでしょうと、著者は言いたいようだ。)
http://www.bmj.com/content/342/bmj.d1199?rss=1&utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%25253A%252520bmj%25252Frecent%252520(Latest%252520from%252520BMJ)

(B) ↑は錬金術だろうwwwと批判する論文

(抄録のみ)
(全文は↓)

このようなバイアスだらけのメタアナリシスという手法や、それだけでなく、あのコクランのデータベースを用いた論文であっても、他人のふんどしで相撲を取るような、そんな論文を積み上げただけの手法で安易に結論付けられたようなエビデンスは、やっぱりまやかしに過ぎないような錬金術によって作り出されたものと同じだと批判している論文なのであった。

まず(A)の論文の結論について述べると、
(解析方法を2つしたらしいのだが)

primary probabilistic mixed treatment meta-analyses(解析の対象は9剤。デュロキセチン、エスシタロプラム、フルオキセチン、ロラゼパム、パロキセチン、プレガバリン、セルトラリン、チアガビン、ベンラファキシン)では、
反応性と寛解率で1位になったのが、フルオロキセチン(プロザック)
忍容性で1位になったのが、セルトラリン(ジェイゾロフト)
(なんだここでも忍容性で1位はやっぱりジェイゾロフトかよ。)

subanalysis(イギリスで全般性不安障害に適応が認可されている5剤限定)では、
反応性で1位になったのがデュロキセチン(サインバルタ)
(やっとサインバルタの1位が出ましたよ。良かったですね、イーライリリーさん。)
寛解率で1位になったのがエスシタロプラム(レクサプロ)
忍容性で1位になったのがプレガバリン(リリカ)
(なお、ベンラファキシンとパロキセチン(パキシル)はあまり推奨できませんとなっている)

と結論で述べられている。

要するに全般性不安障害には昔のベンゾジアゼピン系薬剤よりも、やっぱりSSRI、そして、まだ認可は世界中には広まってはいないけど、リリカでいいんじゃないのという結論なのであった。


次に(B)が批判する点について述べる

筆頭著者らはルンドベック社から今でも助成金を受けているじゃないか。しかも、これまでいろんな(イーライリリーやファイザーなどの)製薬会社から研究助成を受けまくっているではないか(この指摘はAの論文の最後に記載してある事実です)。何が倫理的承認は必要なしだ。もう既に真っ黒じゃないか。

(余談ですが、ルンドベック社と大塚製薬は大の仲良しです。もし、ルンドベック社が絡んでいる論文でエビリファイを絶賛していたら注意しましょう)
http://www.otsuka.co.jp/partners/lundbeck/01/

なぜ、9剤しか解析しなかったのか。たった9剤でいいのか。昔は不安への処方はベンゾジアゼピン系の薬剤や三環系の抗うつ剤が主流だったけど、なぜプレガバリンが入っていてベンゾジアゼピン系はロラゼパムしか解析に入っていないのか。この9剤とベンゾジアゼピン系の薬剤や三環系の抗うつ剤との、有用性や忍容性や有害事象などのいろんな点での比較はまだ全くなされておらず、ベンゾジアゼピン系の薬剤や三環系の抗うつ剤が否定された訳じゃないのに勝手に除外するなよ。1999年以前のデータは無視していいのかよ。ベンゾジアゼピン系の薬剤や三環系の抗うつ剤を除外したいから以前のデータは全て無視したんじゃないのか(反応性、忍容性、寛解率などの点では、ベンゾジアゼピン系の薬剤や三環系の抗うつ剤とのガチンコ勝負になればSSRIは負けるかもしれません)。

ベンゾジアゼピン系が解析から除外されたのは、ベンゾジアゼピン系薬剤の依存性が理由かもしれないが、SSRIでも依存性は生じる。しかもベンゾジアゼピン系薬剤の離脱よりももっと激しくて長期にわたる離脱が出る。この離脱は強烈だ。依存性や離脱に関してはベンゾジアゼピン系薬剤よりもSSRIの方がもっと危険じゃないのか。それにプレガバリン(リリカ)だって乱用や離脱の報告が既にある。

しかも、Aの論文では大きなミスがある。反応や寛解を定義する際に、HAM-Dのスコアが50%以下の場合のみを反応があったとみなし、寛解についても、あるカットオフ値を勝手に設定してそれ以下になった場合を寛解したと定義しているが、それは変じゃないのか。それに症状を評価する際に使ったHAM-Dはいろんなバージョンや様々な言語で翻訳されたものを使っているため不均一さが混じっているはずだ(要するに、用いたデータが不均一だらけだし、不安という現象に関してHAM-Dを使い全くナンセンスな評価をしていると言いたいのだろう)。

治療に関して言えば、全般性不安障害は、薬物療法よりも心理療法の方が効果があるのだ(Bの論文の著者には心理のドクターが混じっているせいかもしれませんが、確かに私もそう思います。不安障害には心理療法も行うべきです。)

それに、やっぱり急性期(6~8週まで)のデータしか入ってないじゃないか。全般性不安障害は慢性的な経過をたどることも多いはずだ。薬を飲んだだけで簡単にすぐに良くなるのだろうか?。それに、もしSSRIを長期に投与したら、どうなると理解しているのだろうか。SSRIの長期投与で逆に不安が出てくることがあるのだ。最悪の場合には、SSRIの長期投与で不安障害やパニック障害だけだったはずが、うつ病に変化することだってある。全般性不安障害の患者様をSSRIを長期投与することで医原性のうつ病にするつもりなのか。

Aの論文の結果は、バックにつているSSRIやリリカを販売している製薬会社の思惑が入っているせいでこうなったんじゃないのか。

以上、Aの論文を書いた連中は、これはまるで製薬会社のためにメタアナリシスという錬金術を施したようなものじゃないのか(怒!!)。

とBの論文の著者らは言いたいようである。

このBの論文で述べられたような、強烈な離脱症状が、そのようなことがSSRIであるのだろうか。この点については次回で他の論文を紹介したい。

私は、統合失調症以外の疾患はなるべく長期に薬を使用しない主義である(統合失調症だけは薬を飲み続ける以外には再発は防止できない)。SSRIも長期使用は努めて避けたいと思っている(結果的に長期使用になってしまっている患者様もいるのだが)。

不安障害に関しては、可能な限りアルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)などのベンゾジアゼピン系の薬剤の頓服使用だけでしのげるのならば、そうしてもらっている。速効性に関しては、SSRIはベンゾジアゼピン系には全くかなわないからである。激しい不安が襲ってきた時だけ頓服でしのげればそれにこしたことはない(これが理想なのだが。汗;)。

双極性障害に関しても、急性期ではジプレキサやエビリファイも使用するが、維持療法では腎機能や肝機能などに異常がない限り、リチウムやデパケンに切り替えていく方法を未だに採用している。昔ながらの治療法ではあるが、この2剤ともに反応しない患者様は少数派だろう。それに、ジプレキサやエビリファイは長期間の使用データがないし、血中濃度が測れないからである。その点、リーマスやデパケンは血中濃度が測れるために有害事象の防止や、逆に、コンプライアンスの指標にも使える。

さらに、ジプレキサは肥満や倦怠感や脚のもつれや眠気という問題もある。再発率はリーマスやデパケンよりもジプレキサの方が低くなるというデータをイーライリリーが提示してくるのだが、その論文もメタアナリシスを用いた論文であり、現時点ではシステマティックレビューなどにて世界中でそのように結論づけられた訳ではないと私は思っている。(双極性障害でどうしてもジプレキサやエビリファイを飲み続けたい患者様は私以外のドクターに診てもらってください。)

メタアナリシス