カンナビノイド

カンナビノイドの光と闇 その3

(前回の続きである)

恐怖の合成カンナビノイド

合成カンナビノイドはUNODC(United Nations Office on Drugs and Crime)によれば6種類に分類される。

(1)古典的カンナビノイドClassical cannabinoids 
THC、THCのアナログであるHU‐210, AM‐906, AM‐411,O‐1184など
(2)非古典的カンナビノイドNonclassical cannabinoids
cyclohexylphenolsや3‐arylcyclohexanols骨格を有するもの。CP‐47,497‐C8, CP‐55,940, CP‐55,244など
(3)ハイブリッドカンナビノイドHybrid cannabinoids
1と2が合体したようなもの。AM‐4030など
(4)アミノアルキルインドールAminoalkylindoles(AAIs)を有するもの
JWH‐018、JWH‐073、JWH‐398、JWH‐015,、JWH‐122、JWH‐210、JWH‐081、JWH‐200、WIN‐55,212など
フェニールアセチルインドールphenylacetylindoles骨格を有するもの
JWH‐250、JWH‐251など
ナフチルメチルインドールnaphthylmethylindolesやベンゾイルインドールbenzoylindoles骨格を有するもの
pravadoline、AM‐694、RSC‐4など.
(5)エイコサノイドEicosanoids
アナンダミドAEAから合成されたアナログ。methanandamideなど
(6)その他
diarylpyrazoles (選択的CB1受容体拮抗薬のRimonabantR)、naphtoylpyrroles (JWH‐307)、naphthylmethylindenes or derivatives of naphthalene‐1‐yl‐(4‐pentyloxynaphthalen‐1‐yl)methanone(CRA‐13)など
合成カンナビノイド
 




















なお、(1)に属するHU-化合物は1960年代にヘブライ大学で合成された。(2)に属するCP‐47,497‐C8は1970年代にファイザー製薬によって合成された。(4)に属するJWH‐018は1980年代にクレムゾン大学の化学者であるジョン・W・ハフマン博士John William Huffmanによって合成された。このJWH‐018は薬理作用がこれまでに最も研究されている合成カンナビノイドである。ジョン・W・ハフマンのチームはこれまでに450種もの合成カンナビノイドを合成している。AM化合物のシリーズも彼のチームが合成している。彼が中国にデータを売ったのだろうか。彼への非難が集中し始めているのは言うまでもない。彼はアメリカ政府から256万ドルもの助成金を受けて薬物依存の治療薬を研究をしていた。それが皮肉にも多くの薬物依存を生んだのである。なんという皮肉な結末なのであろうか。

合成カンナビノイドの多くは脂溶性で非極性である。煙となって容易に揮発し肺から体内に吸収される。体内に吸収された合成カンナビノイドは一般的な手法では尿中や血液からの検出が極めて困難である。そのため自己申告がなされない限り合成カンナビノイドによる有害事象かどうかは判定できない。こういったことも脱法ハーブが蔓延した原因の1つとなっている。なお、最近は尿でのドーピング検査が可能になっている。

ユーザーの多くは、脱法ハーブが大麻の代替品となると思い込んでいる。大麻のように安全であると誤解している(大麻自体も安全ではないのだが)。しかし、脱法ハーブの主成分として含まれている合成カンナビノイドは大麻の本来の成分であるTHCよりもはるかに強力で有害な作用を有しているのである。CB1Rへの親和性に関しては、どれもが大麻の主成分のTHCよりも高親和性であり、JWH-018は10倍、CP‐47,497‐C8は28倍、HU‐210に至っては100倍以上の親和性を有する。すなわち極少量でも十分に作用する。さらに、そのほとんどは薬理作用すらろくに調べられてはいない。まさに吸ってみないとどうなるかは分からない恐怖の物質なのである。さらに、今では、合成オピオイド(合成モルヒネ)まで脱法ハーブに混入されていることが確認されている。合成オピオイドは依存性を高める役割を意図して混入されているのだろう。これは極めて悪質である。

合成カンナビノイドの精神への作用としては、CB1Rへのアゴニストとして作用である。気分の高揚、多幸感、陶酔、脱抑制、知覚の変容、鎮痛などであり、それは大麻と同じような精神作用かもしれないが、大麻よりもはるかに強力である。さらに、過量に摂取したり、ある種のカンナビノイド化合物によっては少量でも急性中毒となり、悪心、嘔吐、カタレプシー、自発運動の低下、低体温、極度の不安、吐き気、パニック発作、頻脈、被害妄想、幻覚、電撃感覚、意識喪失、けいれん発作、興奮、錯乱、といった有害事象を惹起し、急性精神病のような状態となる。救急医療を受けねばならない状態となるのである。心臓虚血発作での死亡事例も多く報告されている。

そして、慢性使用の状態となると、不安、緊張、憂うつ感、幻覚、妄想、引きこもり、などを惹起する。今まで問題がなかった若者が急に引きこもり始めたら脱法ハーブの慢性使用を疑った方がいいかもしれない。さらに、耐性が形成され、依存症へと発展していく。すなわち離脱症状や禁断症状が出現することになる。不安、多量の発汗、薬物への渇望、不眠、悪夢、振戦、頭痛などが生じる。それは数週間以上も続ことがある。結局、再び同じ脱法ハーブを使用しなければならなくなる。もはや麻薬中毒と全く同じ状態である。特に、薬剤への渇望は長期間続く。仕事を失うリスクを冒してまで脱法ハーブを入手しようと必死になる。

合成カンナビノイドは、大麻と同様に、統合失調症を誘発する。既に精神疾患を有する場合は再発を引き起こす。しかも離脱症状が出なくても、その危険性がある。ニュージーランドで確認された統合失調症の誘発のケースでは、離脱症状を経験したケースはゼロだった。自殺事例も報告されている(極度の不安に耐えられず自殺した。など)

そして、アメリカではスポーツ選手や軍隊の兵士までもが脱法ハーブに汚染されてきており、スポーツ界や軍隊ではドーピング検査で合成カンナビノイドが検査されるようになった。日本も警察官までもが使用しており、アメリカ同様に脱法ハーブの汚染が懸念される。

カンナビノイドによる情報伝達システムは下等動物にも存在する情報伝達システムである。人類においてはカンナビノイド・システムは下等動物よりもさらに高度に進化したはずであり、それが人間の高度な精神機能の基となっていると推測されている。それ故、カンナビノイド・システムを自由に操作できれば、人間の高度な精神も自由に操作できるはずだという考え方から合成カンナビノイドが作られた。しかし、合成カンナビノイドにて人間の精神を自由に制御しようという夢はもはや断念した方がいいのかもしれない。作られたものは害のあるものばかりである。合成カンナビノイドは夢物語に過ぎなかった可能性がある。核エネルギーと同じように人類には制御不能なものかもしれないのだ。

唯一可能なことは、大麻からの抽出や精製方法を進化させ、100%純粋なCBD製剤を作り、治療域と用量を確立し、それをさまざまな疾患への治療に応用していくことであろう。 

最後に、脱法ハーブを実際に使用して恐怖の体験をした↓の記事を紹介して終わりとします。これを読むといかに危険なものかが分かると思います。

「脱法ハーブ(ドラッグ)で家族を失いかけた」
脱法ハーブというものに手を出してしまった。後悔にまみれたその記憶を自分の手で書き表すことで、私は二度とこうしたものに手を出さないことを自分自身で確認しようと思う。

独身の頃からそういうものに興味はあり、海外で日本では禁じられている薬物に手を出したこともあった。ただ、同行者はそれを吸ってとても楽しそうにしていたが、私には一向に効き目がなく、その体験はただ、私に「あちらの世界」への憧れをかきたてるだけのものだった。それには依存性はほとんどなく、何年もの間、それを欲しいと思ったこともなかったし、一生必要ないと思っていた。ただ、「あちらの世界」への好奇心だけは私の心に根深く残ったままだった。7年後。現在。2年ほど前に結婚して1歳の子どもがいる。

私はたまたま合法ハーブという語をインターネットで見つけ、好奇心からそれを調べた。現在に日本では禁じられていない成分のみを用い、幻覚作用や覚醒作用をもたらすものということだった。建前としてはお香としての使用を前提にしており、その煙を吸引することは推奨していない。もちろん、それはただの建前であり、それらのサイトや関連Wikiにはその吸引体験が多く綴られていた。私は甘く見ていたのだ。過去にそれに類するものを服用してまったく効果があらわれなかったこと。1時間ほどで効果のピークを終えるという情報。そして、アルコール程度の影響で終わるのではという根拠のない自信。

夜22時30分。私は近くの街にあるその店の門を開いた。暗い照明。ガラスケースに収まり怪しい光をはなつ「合法ドラッグ」のパッケージ。パイプやボング、紙巻き器などの喫煙具。「なんにしますか」カウンターの奥にいたのは、Tシャツにキャップをかぶった小太りの男だった。小悪いB系といったいでたちだった。私は「あまり強くないものを」と頼み、Wikiである程度名前が知られていて評判のよいものを選び、それを買った。喫煙具と合わせて5700円。高いけれど、もちろん無理な価格ではない。店の奥にはソファとテーブルがあり、その場で吸えるようにもなっている。どうしてその場で吸おうと思ったかは分からない。家よりも安全だと思ったのだろう。
 
大きな間違いだった。慣れない手つきで買ったばかりのふわふわした葉(かすみ草の花のようなものもふくまれていた)を紙に巻き、火をつけた。要領は海外でやったときに知っていた。深く煙を吸い込み、30秒ほど息を止めてゆっくりと吐き出す。普通だ。まったく普通だ。味も悪くない。もう一度同じように吸った。何度も、何度も。ジョイント一本分、草が燃え尽きるまで全て吸った。好奇心がわき、それからの身体的な変化を記録しようと思い、iPhoneを取り出した。文字をフリックで打つが、まず指にしびれを感じだし、すぐに視覚がおかしくなってきた。指を動かすが、目に映る像がワンテンポ遅れている。徐々に体中にジーンというしびれが広がり、耳に聞こえる音が暴力的なまでに大きくなってきた。Evernoteにその記録が残っている。

10:35
電気がくるかんじ。
パルスが短くなっていく。
rgb
ビーン
という音
電気風呂みたいになってきた
目がよわくなっていく。
スローモーションの世界
電気のビーンという音が
してると思ったら。
ここの照明の響く音でした。
耳が良くなるって本当だったんだね。
音がすごい立体感を帯びてきた。

時計を見ると22時45分くらいだったか、家には24時に帰ると約束している。十分すぎる時間はあったが、私は怖くなった。このままでは帰れなくなるほどに、自分の状態は悪くなるのではないだろうか。後悔。後悔。私は光のあふれかえる街に飛び出した。もうそこは別世界のようで、なにもかもがうるさい音を発しながら私の横を通り過ぎていく。見知った道はまるで違う道のようで、私は駅に行くために交差点にたちどまり、何度も風景を確認しながら駅へと急いだ。

足が思うように動かず、気づくと外界からシャットアウトされるほどの思考の大波が私を襲う。今ものをなくしても分からないぞ、やばいな、と私は頭の片隅で思った。ごまかせるかな、ごまかせないだろうな。今の私を外から見ると、とてもまともには見えないだろう。妻にだってわかるに違いない。

電車に乗った。電車の中は混んでいて、においがとてもひどかった。ドアの脇に立っていたが、どうにも足がふらついてカクカクする。そして、すぐに思考の大波。最寄りの駅はすぐそこだ。しかし降りられないのではないか。乗り過ごしたら万が一にも帰ることはできないだろう。わたしはまたiPhoneを取り出して記録を始めた。

自分の体が電気の粒に分解されて、寄りかかっている壁に吸い込まれるような感覚。心細い、あまりにも心細い。何も支えるものがない。もう涙があふれ出そうだった。なんてことをしたんだろう。愚かだ。あまりにも愚かだ。警察に保護されるようなことになったら妻はなんて顔をするだろう。ずっとずっと妻のことだけを考え、かろうじて残った正常な感覚をかきあつめるようにして、私は電車に揺られていた。

時間の感覚が遅い。ずっとずっと考え事をしていたように思ったが、駅にはなかなかつかない。時間が5倍伸びているようだ。着かない。着かない。私は焦った。電車が減速する。私は急に堪え難い嘔吐感に襲われ、鞄の中に吐いた。周囲の目が突き刺さるのを感じたが、その時扉が開き、私は転げるように電車を出た。

帰らなければ。妻と子どものいる家に帰らなくては。あと10分、私の足よ動いてくれ。私の脳よ導いてくれ。わたしはドラッグと喫煙具を鞄の底からやっとの思いで引き出し、ゴミ箱に捨てた。こんなもの、二度とやるものか。一歩、一歩、改札を出るのもやっとこさ、私は家への道をふらふらしながら歩いた。家の手前でまた嘔吐感に襲われ、また吐いた。そして。妻は私を出迎えてくれた。ほっとした顔を覚えている。

私は謝った。「ごめんなさい。ごめんなさい」妻の顔が凍りついた。それから、私は何時間も家のトイレに張り付き、空っぽになった胃を上下させながら、妻に事情を少しずつ説明した。妻は驚き、悲しみ、倒れている僕の横でワンワン泣いた。「そんなに私と別れたかったのか」そういって泣いた。なにも妻は悪くなかった。日常に不満もなかった。ただ、好奇心だけでわたしはしてはいけないことをしてしまったのだ。私は自分がゴキブリ以下の生物に成り下がったのを感じた。涙が出た。止まらなかった。吐き気はなんとかおさまり、私はソファに横になった。そのまま気を失うように眠った。

翌朝、私の思考は元に戻っていた。少し頭が重いが、普通の状態だ。寝室では妻と子どもが眠っていた。私はこっそりと二人の横に身を横たえ、もう一度眠った。それから、妻は長らく口をきかず、私はただただ、謝りつづけた。ずっと妻といたいこと、子どもをともに育てたいこと、もう二度とこのような愚かなことをしないこと、何度も何度も謝った。一夜明けても、自分はみじめなゴキブリであった。「もう一度やったら、離婚します」。妻は言った。「しかしこのことを許したわけではありません。絶対に許しません」妻はつづけた。

「違法か、合法か、そんなことは関係ないの。こういうものは、あなたの何もかも、今まで積みあげてきたいろんなことを、あなたが善良な人であったことさえも、一度に奪ってしまうかもしれないの。」

子どもが起き、私たちは三人で外に出た。子どもがその日、はじめて私のことを「パパ」と口に出して呼んでくれた。また涙が出そうになった。その日。子どもが寝た夜。私はまた妻に謝った。妻はずっと泣きつづけ、泣きつづけて、その間私は彼女がしなければと言っていた家事をやった。戻ってきた私に妻はひとこと「ありがとう」と言った。「こちらこそ、ありがとう。ごめんなさい」私は返した。

私たちは寝息を立てている息子の横に、いつもしているように枕を並べて寝そべった。妻に許可を取り、そっと体を抱き寄せて眠った。幸福だった。これがなによりの幸福なのだ。薬物が体を駆け巡り、蝕みだしてからずっと、私は自分が手にした幸せを全て手放してしまうことを恐れた。そして事実、それは極めてリアリティのある話になってしまった。あの薬を口に含んだそのときからだ。身体的な依存は極めて少ないとのことであるが、実際のところは分からない。しかし私は絶対にもう手を出さない。妻と子どもと暮らすこと。今の仕事。そして数十年後の、妻とのささやかな夢が、何よりも大切なのだ。それが、一瞬にして水泡に帰す。そんなものには二度と手を出さない。私は強く心に決めた。

これまでよりも、よい夫で、よい父でありたい。家族の生活を何よりも何よりも、大切にしたい。混濁した意識の中で、ただただ妻子の顔だけを思いながら家に帰れた。その記憶だけが、あの数時間の中でただひとつ、私の誇れることだった。戒めのために、わたしはこの記録を残す。電車の中で吐き気と、思考の洪水に飲まれながら私が打ったEvernoteへの記録を結びに。

だ。これは
毒だ。
捨てる。
捨てる。駅についたら。

(なお、これまでの3回のブログは以下の論文や記事などを参考にして書いております)
http://rstb.royalsocietypublishing.org/content/367/1607/3193.full
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3187647/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3361072/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3186912/
http://apt.rcpsych.org/content/14/6/423.full
http://www.nature.com/npp/journal/v34/n11/abs/npp200970a.html
http://montanabiotech.com/2013/03/25/cannabinoid-facts-thc-cbd-cbn-cbc-thcv-cbg-and-other-unique-phyto-cannabinoids/ 
http://www.herbalzym.com/2010/03/thc-is-a-powerful-natural-medicine-for-the-treatment-of-a-diversity-of-cancers/
http://pharmrev.aspetjournals.org/content/58/3/389.full
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19616342
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22007164
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0278584612002801
http://pharmrev.aspetjournals.org/content/58/3/389.abstract?ijkey=66bb759eec045a27a9dea1d9ad1ff1c8441fef31&keytype2=tf_ipsecsha
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16570107
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21316162
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17349865/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20512267
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23361396
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19607961
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19442178
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18851692
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21693551
http://www.nature.com/neuro/journal/v16/n3/full/nn.3321.html
http://bjp.rcpsych.org/content/178/2/116.short
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20624444
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2931552/
http://brainblogger.com/2012/11/15/cannabis-abuse-in-adolescence-cognitive-decline-in-later-life/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3479587/
http://www.unodc.org/documents/scientific/Synthetic_Cannabinoids.pdf
http://en.wikipedia.org/wiki/John_W._Huffman
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22266354
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3523963/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22872465
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0196064412002533
http://www.businessweek.com/articles/2013-04-11/to-stop-designer-drugs-an-early-warning-system-is-born#r=lr-fst
http://ncpic.org.au/ncpic/publications/bulletins/article/synthetic-cannabinoids-the-australian-experience
http://peterreynolds.wordpress.com/2012/07/12/synthetic-cannabinoids-a-nasty-business-by-nasty-people-with-nasty-results/
http://usatoday30.usatoday.com/news/nation/story/2012-06-03/synthetic-marijuana-ban-efforts/55361624/1
http://abcnews.go.com/Blotter/taxpayer-money-created-legal-marijuana-teens/story?id=13772490

ジョンWハフマン博士

カンナビノイドの光と闇 その2

(前回の続きである)

カンナビノイドの闇の部分

マリファナはかっては安全で身体依存の形成はなく、あるとしても軽度の精神依存だけであり、しかも有害な物質ではないと考えられてきた。そのため今でも多くの若者が大麻をレクレーションとして利用してもいいと考えている。アメリカのある調査では62%の若者がそのように回答した。そして、アメリカではハイスクールの約40%の生徒(12年生)がマリファナを試しているという調査結果もある。さらに、禁煙社会となり、タバコよりもマリファナの使用が一般的になっているようでもあり、それが若者での大麻の使用増加に結びついている。

今の半数以上の若者がマリファナに関しては安全だと思い試してみても良いと考えているのであった。 

しかし、その後の研究によって、マリファナには様々な有害事象があることが判明した。マリファナの使用者の全てがそうなる訳ではないが、マリファナには以下のような有害作用があることが判明している。

統合失調症を誘発(マリファナ使用者は統合失調症の発病率が高く、しかも発病年齢が早まる。特に思春期の使用は危険である)、
精神疾患を有する者が使用した後の精神疾患の悪化や再発(統合失調症では幻覚や妄想などの陽性症状が悪化する)、
知能の低下をきたす

などが最近になって判明した。知能の低下に関しては、大麻の使用者の脳の形態学的検査では、灰白質の容積の減少を認めた。さらに、早期使用者(17歳前)はそれ以外の使用者に比べて、知能指数の有意な低下を認めた。特に、早期思春期の大麻使用者(15歳前)では、前頭葉の機能検査で低い点数を示した。前頭葉は人間で一番大切な脳である。大麻は前頭前野皮質の機能不全をきたし前頭葉の発達も阻害される。そして、知能の低下は成人後も続いた。これは思春期の大麻の使用が永続的な認知障害につながる危険性を示唆する。思春期の大麻の使用は非常に危険なのである。さらに、大麻の使用は、その後の人生におけるアルコール乱用やうつ病の発症などにも関連していることが示されている。イギリスの調査では、重度の精神疾患を持つ患者の20~70%が大麻を使用しているという調査結果もある。そしてこれまでの調査では、大麻の使用は精神疾患の予後が不良となることを示唆し、自殺、暴力、犯罪行為のリスクへと結びついているのであった。大麻の使用は死を早めるのだと言えよう。

ラットにおける実験では、母性を剥奪された生育環境に育ったラットの場合は報酬系に機能不全をきたし続けるようだ。そして、母性が十分に与えられた正常な生育環境で育ったラットではカンナビノイド(THC)の暴露は報酬系の機能異常をきたすが、逆に、母性が欠如した生育環境に育ったラットの場合はTHCによって報酬系の機能不全が改善するという逆の結果が得られている。これを人間社会に当てはめてみると、母性が欠如して育った人間ではカンナビノイド以外ではもやは報酬系が満たされることがないのかもしれない。母も共働きのため忙しく満足に母性を与えらずに育つ今の子供達は、母性欠如や虐待のような環境の中で育った宿命が故に、報酬系が機能不全のままになっており、何をやっても心が満たされず、本能的にカンナビノイドの必要性を感じ続けており、大麻の使用で生まれて初めて心が満たされ、それがきかっけになって大麻を求め続けるようになってしまうのかもしれない。もし、そうだとしたら、現代社会は余りにも悲しい社会ではないか。大麻の使用を肯定する意見の若者達は、母性が欠如した生育環境で育った結果なのかもしれないのであった(涙)。

一方、合成カンナビノイドは2004年頃からネットで発売され始めた。「スパイス」、「アロマ」、「K2」、「ドリーム」、「ユカタンファイアー」などの様々なブランド名でハーブとして発売されて2007年頃にはいっきに市場が拡大した。その種類は140以上にも上る。

脱法ハーブの主成分は元はと言えば医薬品開発の過程で人工的に合成され発見された多くのカンナビノイド化合物である。

合成カンナビノイド化合物はもっぱら中国、インドなどで密造されているようである(ほとんどが中国らしい)。中国はとんでもない悪い国である。裏で何をしているのか本当に分からない最低の国である。合成カンナビノイドの原料となる大麻は中央アジアの国が栽培したものらしい。アフガニスタンも大麻の栽培に絡んでいる。そして、次のステップとして、イギリスオーストラリアケイマン諸島などの国の販売会社がネットで中国の会社に発注した合成カンナビノイドを入手する。それを隠れ倉庫などを利用して製品として加工している。その倉庫はまるで秘密組織のアジトのようであったというレポートがネットに掲載されている。オーストラリアでは中国から入手した合成カンナビノイドを基に、ドラッグデザイナーが別の化学反応のステップを加えて、さらなる新しいカンナビノイド化合物を合成しているらしい。新しい合成カンナビノイドはこのようにして次々に作られていく。合成カンナビノイドはデザイナードラッグとも言われる。

脱法ハーブの作り方。

http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=mEAYkhdvbIQ
(この動画で使用されたAM2201についてはhttp://en.wikipedia.org/wiki/AM-2201

スパイスの主成分は発売当初は特定できなかったが、2008年にスパイスには2つの合成カンナビノイドが主成分として含まれていることが判明した。CP-47,497-C8JWH-018と呼ばれるcannabimimetic aminoalkylindoleである。これらは、カンナビノイド受容体に対してはTHCよりもはるかに高親和性を有するアゴニストとして作用する。その後、脱法ハーブには非常に多種にわたる新しい合成カンナビノイが多種の製品にブレンドされて含まれていることが判明した。ちなみにスパイス・ダイアモンドという製品には41種もの合成カンナビノイドが含まれている。(なお、CP-47,497-C8は1970年代にファイザー製薬によって初めて合成されている。)

カンナビノイド











そして、今では、ユーザーが自分自身でそういった合成カンナビノイを自由に選択してブレンドしてネット上で注文できるのである。どんなに危険なものかを理解せずに自分勝手に合成カンナビノイドを選ぶのである。ユーザーは無知である。ハーブというイメージに誤魔化されて、自然で安全なものだと思い込んでいる。無知ほど怖いものはない。さらに外国では、コンビニ、ガソリンスタンドなどでも売られており、誰もが手軽に買えるのであった。値段も5~50$と安い値段である。

今では、化学式が同定された合成カンナビノイドの多くは法律で規制された。しかし、まだ、規制されていない合成カンナビノイドも多くあり、さらに、市場にはまだ投入されていない合成カンナビノイドも既に準備されているようだ。化学式をほんの少し変えれば法の規制外となってしまう。とにかく法律が追い付いていないのである。

(こちらのケイマンという化学会社は合成カンナビノイドと戦っております。ケイマン諸島とは関係がありません。合成カンナビノイドの販売だけでなく、検査キットも開発しております。さらに合成カンナビノイドの最新のリストを掲載して啓蒙に努めております。しかし、何か怪しいなあ。こっそり中国や脱法ハーブ業者に売ったりしていないとは限らないし。)
https://www.caymanchem.com/app/template/landing,SyntheticCannabinoids.vm

ここで1つの疑問がある。なぜそのような化合物が急激に2007年頃からいっきに大量に出回ったのかということである。大量に生産されていないと世界中にいっきに出回るのは不可能である。しかし、売れるとは分からないものを大量に生産するであろうか。誰かが市場に出回る前に既に大量に合成カンナビノイドを作っていた疑いがある。そう、製薬会社である。

脱法ハーブは医薬品になるはずだった化合物である。
普通ならば廃棄処分にされるはずである。しかし、医薬品にはならないと分かった時点で大量に余った合成カンナビノイドは廃棄処分とはならずに闇市場に横流しされたのではなかろうか。さらに、製薬会社の機密データであるはずの合成や精製に関するノウハウが中国の密造会社に流れ、医薬品を作るための原料だった大麻樹脂なども中国の密造会社に転売されて、カンナビノイド化合物として再利用されたのではなかろうか。中国の密造業者がそんな何種類ものカンナビノイド化合物を化学合成するようなノウハウを持っているのであろうか。カンナビノイド化合物から医薬品を作ろうとしていた製薬会社や大学関係者が中国にデータを売り、それをもとに中国が密造しているとも限らないと思えるのであった。
(製薬会社の名誉を損なうことはしたくはないので、あくまで私個人の勝手な疑念に過ぎないことを付け加えておきます)

(さらに次回に続く)
カイオウ

カンナビノイドの光と闇 その1

最近、場末であるはずの私が勤務する精神科病院に脱法ハーブの使用で急性精神病状態となり精神科救急を経由して入院した若い患者がいた。自己申告がなされたので、脱法ハーブによる精神症状だと分かったのだが、もし、自己申告もできない程の重度であったならば、おそらく統合失調症と診断されていたことだろう。主治医は救急当直をしていた若手のドクターが担当したのだが、抗精神病薬の1つくらいは投与したくなるような病状ではあったのだが、睡眠導入剤だけで離脱を完了させて短期間で退院していった。彼はさすがである。

しかし、今はこんな場末の病院にまで脱法ハーブの患者が入院してくる時代である。最近は警察官までもが脱法ハーブの使用で辞職している。危険な脱法ハーブが一般市民に広く蔓延してしまっているのではと懸念される。次は私が主治医を担当する番かもしれない。もっと勉強しておかねば(汗;)。

脱法ハーブは合法ハーブと表現されることもあるが、まだ法規制がなされていないという理由で合法と表現されているに過ぎない。しかし、成分は大麻よりもはるかに危険な合成麻薬なのであり、成分である合成カンナビノイド化合物の種類があまりにも多過ぎて法が追いついていないだけである。法の規制がかかると新しい合成カンナビノイドが登場する。まさにイタチごっこである。しかも、「ハーブ」という表現は偽装に過ぎず、100%自然の植物由来のものではなく、化学合成された麻薬成分がハーブの葉に巧妙にスプレーされていたりして、しかも一種ではなく何種類もが様々にブレンドされて混入されているのであった。中には、アロマオイル、芳香剤、エアフレッシュナー、入浴剤(バスソルトなど)、ビデオクリーナー、肥料などとして偽装されて販売されているものもある。しかも年齢制限なしで簡単に購入できる。パッケージにはわざとらしく「人が使用する目的のものではありません」などと書かれている。非常に悪質な悪意に満ちた製品となっているのであった。なお、海外ではバスソルトによる自殺(浴槽で首つりなど)や自傷行為(腹を切る、など)が起きている。
スパイス
















バスソルト










ここで、脱法ハーブには疑問がある。誰がカンナビノイド化合物を合成しているのだろうかということである。何を目的としてあれだけ多くの種類の化合物が作り出されたのであろうか。しかもまだ市場に出廻っていないカンナビノイド化合物が何種類もスタンバイされているようなのだ。私は合成カンナビノイド化合物の裏には製薬会社も大きく絡んでいるのではと疑っているのであった。

カンナビノイドの光の部分

大麻は紀元前から文化的(薬用、宗教儀式、余暇など)な目的で使用されていた。大麻の種は紀元前6000年前から食品として利用され、大麻自身は紀元前4000年前から中国で衣類の繊維として利用されている。薬品としての最初の記録は紀元前2727年の中国における漢方薬としての使用である。大麻と人類との付き合いは非常に長いのであった。大麻から繊維を取る時にたまたま大麻に火がついて燃えて、その煙を吸ったら陶酔感が得られたのが大麻の薬理作用の最初の発見だったのかもしれない。以後、インカ文明のコカの葉のような存在として人類に使用されてきたのだろう。

マリファナ marijuanaは大麻の花冠を乾燥させて切り刻んだものである。ハシシュhashishは花冠から採取した樹脂を加工したもの(大麻樹脂)である。マリファナには400種もの物質が含まれており、そのうち70種がカンナビノイドである。カンナビノイドの中心となる物質の1つである デルター9-テトラヒドロカンナビノール(delta9-tetrahydrocannabinol、Δ9-THC)は大麻樹脂から1964年に初めて分離された。さらに、1988年にカンナビノイド受容体であるCB1R(中枢神経系が主)がクローニングされ、1998年にCB2R(末梢神経系や内臓が主)がクローニングされて2つの受容体が同定された。さらに、内因性カンナビノイドとしては、1992年にアナンダミド(anandamide、AEA)、1995年に2-アラキドノイルグリセロール(2-arachidonoylglycerol、2-AG)などが発見されている。ドーパミンなどのモノアミン系よりは新しく発見された神経伝達システムであり、現在さかんに研究が進められている。

ドーパミンとドーパミン受容体のような単純な1対1の関係ではなく、カンナビノイド受容体に作用する内在性の物質(リガンド)は1つだけでなく何種類もあるようだ。内因性カンナビノイドシグナル伝達は無脊椎動物などの原始的な生物にも存在する。生物が進化していくに従って、内因性カンナビノイドシグナル伝達システムは複雑になっていったものと思われる。内因性カンナビノイドとカンナビノイド受容体の神経系における作用やその機能の全容は相当に複雑なシステムであろうと思われる。(内因性カンナビノイド・シグナル伝達システムに関しては、細胞外だけでなく細胞内の情報伝達系にも関与しており、膨大すぎるため紙面の都合上省略する。他を参考にされたし。)

以後、カンナビノイドの研究は飛躍的に進んだ。カンナビノイド受容体は脳内に広く分布しており(海馬、大脳皮質、大脳基底核、小脳で最も密度が高い)、それ故、その作用は様々な現象を引き起こす。これまでに分かっている内因性カンナビノイド脳内システム(ECB)の作用としては、

脳や脊髄における神経新生や再生、
神経細胞の分化、
脳の成熟や発達への関与、
シナプスの可塑性、
抗不安作用、
抗けいれん作用、
食欲への影響(食欲増進)、
学習や記憶や認知機能への影響、
感覚系への影響(痛覚の調節、強力な鎮痛作用など)、
感情の状態の制御に関与、
脳の老化現象への関与、
脳内報酬系への影響(意欲増進、多幸感や満足感を生じさせる、ドーパミン神経系の調整など)、
セロトニンとノルアドレナリンの神経伝達の増進、
神経細胞のストレスの減少(ストレス回収システム、HPA系の活動を抑制)、
神経細胞の恒常性のバランスの維持、
運動機能への作用、
免疫調整作用(抗神経炎症作用など)、
神経保護作用、
細胞内ミトコンドリアのエネルギー産生への影響(正のエネルギーバランスを維持)、

など多岐にわたっている。その強力な鎮痛作用は、難治性の疼痛性疾患や末期癌などの身体疾患の疼痛治療薬として利用されている。化学療法による悪心や嘔吐への治療薬としても使用されている。さらに、精神疾患にも応用され始めている。海馬にはCB1Rが高密度に分布し、CB1Rの活性化によって嫌悪記憶が消去される。その作用は既にPTSDの治療に応用され始めている。うつ病ではECBのレベルが低下しており、うつ病で自殺したケースでは前頭前皮質でのCB1Rのアップレギュレーションが観察された。このためうつ病とECBとの関連性や、うつ病への治療薬としての可能性が調べられている。

大麻樹脂から抽出された成分は既にサティベックスなどとして製品化されている。サティベックスはテトラハイドロカンナビノール(THC)とカンナビダイオール(CBD)などが含まれており、CBDは主成分の40%を占める(=サティベックスは純粋なCBD製剤ではない。不純物が多く混じっている)。CBDは2007年頃にカンナビノイドとして同定された。CBDは安全な物質であると思われており、抗精神病作用を有する。CBDはTHCの精神病誘発作用にも拮抗する。精神疾患の治療薬としても期待がかかっている。アミスルピリドとCBDの比較試験では、アミスルピリドと同等の抗精神病作用を有するという結果も得られている。CBDは、統合失調症、うつ病、不安障害、摂食障害(拒食症)、てんかん、薬物依存、アルコール依存症、強迫性障害などの治療薬として期待されている。

さらにCBDは、パーキンソン病、緑内障、ハンチントン病、ALS、脳卒中、外傷性脳損傷(TBI)、癌(あらゆる癌細胞の増殖抑制。脳腫瘍には既に使用。)、AIDS、自己免疫性ぶどう膜炎、骨粗鬆症、感染症(敗血症など)、肥満・メタボリックシンドローム、心疾患、潰瘍性大腸炎、肝疾患、リウマチ、気管支喘息、などへの効果も期待されている(主な薬理作用は、他の治療薬と併用することによる相乗効果としての作用である)。CBDはあらゆる疾患への効果が期待されているのであった。これはまさに夢の万能薬だと言えよう(↓の図を参考されたし)。
 
(大塚製薬がここでも登場。大塚製薬はアメリカでサティベックスの独占販売権を取得した。大塚製薬が世界一の製薬会社となる日が来るかもやしれない。)

しかしCBDも既に危険性が指摘されている。治療域が狭く、男女差があり、さらに高用量や慢性投与では逆効果となるおそれがあるらしい(高容量となるとカンナビノイド受容体とは別の受容体であるTRPV1受容体にも作用してしまうため、など)。製品化はされたが、治療薬として様々な疾患に応用できるかはまだ不確実なのである。

そして、当然のごとく、次の段階としてカンナビノイド受容体は新しい21世紀の医薬品へのターゲットとなった。カンナビノイド受容体を介する多くの作用からは、カンナビノイド受容体へのアゴニストやアンタゴニストを開発していけば、他の神経伝達物質に作用薬するような薬剤では得られないようなすばらしい効果が期待しうる医薬品(アルツハイマー病、統合失調症、うつ病などの治療薬)になるだろうという発想につながり、カンナビノイド受容体に作用するカンナビノイド化合物が製薬会社や大学の研究室で次々と合成されていったのであった。

以下、次回に続く。

CBD
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