現在、さまざまな媒体で「JICAが千葉県木更津市や愛媛県今治市など4市をアフリカ諸国のホームタウンに認定した」というニュースが大きな話題になっています。表向きは「アフリカとの架け橋となる人材育成」が目的とされていますが、国内外では多くの誤解が生まれています。これに対し、外務省、JICAなどはすでに声明を発表しています。




1. 誤解のある記事
実際にここでは、誤解のある記事をいくつか見てみましょう。
まずはBBCの記事です。




こちらは「ピジン英語」ですが、要約すると、

「木更津がナイジェリア人の「ホームタウン」に指定

日本政府は、ナイジェリア人が生活・就労できる拠点として千葉県木更津市を「ホームタウン」に指定した。これは文化交流や経済成長、労働力確保を目的とする取り組みで、第9回アフリカ開発会議(TICAD)に合わせて発表された。新設される「ホームタウンビザ」では、高度人材や技能労働者が家族と共に移住可能となり、住宅や医療などの支援も受けられる。学生や専門職には就労条件が設けられるが、農業・エンタメ分野など幅広い産業で活躍の場が期待されている。同様に、長井市(山形)がタンザニア、三条市(新潟)がガーナ、今治市(愛媛)がモザンビークの「ホームタウン」に指定され、地域活性化と人材交流の促進が図られる。」


といった内容です。ここではhometownとなることで、移住可能と読み取ることができます。

次に、ナイジェリアのPremium Timesを見てみましょう。



簡単なまとめは以下の通りです。


「日本政府は、ナイジェリア人向け移住プログラムの一環として千葉県木更津市を「ホームタウン」に指定し、若手の高度人材や技能労働者を対象とした特別ビザを創設する。あわせてJICAは、長井市(タンザニア)、三条市(ガーナ)、今治市(モザンビーク)を各国の「ホームタウン」として指定。地域活性化と人材交流の促進を狙う。

 木更津は2020年東京五輪でナイジェリア代表団を受け入れた実績があり、今回の取り組みは経済成長と人口増加に寄与することが期待されている。TICAD9で石破首相は55億ドル規模の対アフリカ投資を表明し、民間主導の持続的成長や若者・女性のエンパワーメント、地域統合の重要性を強調した。」

ここでもhometownとなることで人口増加に寄与するとされていることから、移住を示唆していると読み取れます。


2. hometownは「故郷」という意味だけではない
では、このような誤解はどのようにして起きたのでしょうか。

もちろん、外務省とJICAといった関係機関の説明不足、アフリカ各国とのコミュニケーション不足などがあったはずです。この点に関しては、外交などの専門家に説明をゆだねたいと思います。

一方で言語学者である筆者の視点では、そもそもhometownという英語の言葉のニュアンスを日本側が正しく理解していなかったのではないかと考えます。その結果「ホームタウン」というネーミングが誤解を生んだのではないかと。

そもそもhometownの意味はどのようなものでしょうか?いくつかの辞書で調べてみましょう。

  • hometown(オックスフォード米語辞典NOADより)the town where one was born or grew up, or the town of fixed residence
  • hometown (オックスフォード新英英辞典ODEより)the town of one's firth or earlylife or present fixed residence
  • hometown (ロングマン現代英英辞典LDOCEより) the place where you were born and spent your childhood

英語のhometownという言葉は日本語の「故郷」のような意味だけでなく、NOADとODEにあるように、英語にはthe town of fixed residence/ present fixed residenceの部分も含んでいるということです。つまり、「定住している(する)町」というニュアンスがあるのです。したがって、国際的には「移住先」と誤解されても不思議ではありません。

まとめると、日本側は「故郷のように温かい場所であるように」という意図があった(と推測)のに対して、英語を介して理解したBBCやナイジェリアの報道機関は「故郷のような定住地として」といったニュアンスとして受け取った可能性も高いのです。

3. まとめ
このように、言語学を専門とする立場からすると、言葉の解釈の違いによって、齟齬が生じるということも外交の場では知っておく必要があります。

問題なのは、JICAが軽率に「ホームタウン」というネーミングを採用した点です。外交の現場で使う言葉としては、リスクが高い選択だと言わざるを得ません。英語に堪能な人材が多い組織でありながら、この言葉の曖昧さに気づかなかったのは非常に疑問が残ります。

外交は「言葉の精度」にかかっています。
たった一語の解釈の違いが、友好を深めることもあれば、不要な疑念を招くこともあります。「ホームタウン」という一見「無邪気な言葉」が示したのは、国際社会で言葉を扱う際の慎重さの重要性という、重い教訓だと言えるのではないでしょうか。

今後、ホームタウンという名前の変更なども含め、考えていく必要があるでしょう。


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