ボリス・ジョンソンが第77代英国首相に就任することが決まりました。
このジョンソン氏、ある意味でとても「興味深い人物」です。以前、CNN English Express2017年2月号のp47にジョンソンの「話し方のテクニック」の項目で、「経歴と話し方の特徴」を書かせていただきましたが、この人物、本当に「不思議」なのです。
「イギリスのトランプ」と一部では言われますが、トランプ大統領よりはかなりの「やり手」「策略家」とみた方がよいでしょう。
その根拠は、ジョンソンが選ぶ「発音」に見ることができます。
1. 略歴
その前に、まず経歴を見てみましょう。
お父様は欧州議員で、先祖にもそうそうたる面々がいます。その中にはジョージ2世もいるなど貴族に連なる血筋もある家系で、ニューヨークで誕生します。その後、イギリスにもどり、イートン校からオックスフォード大学ベリオール・カレッジを卒業でしています。この経歴だけを見ても、イギリスの「エリート」の典型であることがわかります。
ちなみにイートン校とは名門のパブリックスクール(私立中等高等学校)の1つで、これまでにも19人の首相を輩出するトップ校です。ジョンソンは20人目にカウントされます。卒業生の中には、4度首相になったグラッドストンや、大英帝国をさらに拡大することに貢献したといわれるセシル、最近で言うとデイビッド・キャメロンもいます。また政治の分野にとどまらず、「オトラント城奇譚」を書いたホレス・ウォルポール、ロマン派の詩人として知られるシェリー、「ケインズ経済学」で知られるケインズもこちらの出身です。したがって、世界の歴史に一役買う人物を多数輩出している学校であることがわかります。それから、ウィリアム王子など王族、貴族の御用達の学校として知られます。
以前、イギリスで生活をしていた際に、イートン校出身の人がいましたが、その交友関係、そうそうたる先祖の華麗さと言ったら、驚くほどでした。歴史的な人物が次々に話に出てくるのですから。
次にジョンソンが通ったオックスフォード大学ベルリオール・カレッジも名門大学として名高いところです。よくオックスフォード大学出身というと、「すごい!」と単純に捉えがちですが、イギリスでは「どこのカレッジの出身か」ということも重要な意味を持ちます。
しかし、このベルリオール・カレッジは雅子皇后も一時期留学なさったことがあり、ノーベル賞受賞者、3人の首相を輩出する名門カレッジなのです。政治経済学者として世界的に知られるアダム・スミス、現在のミクロ経済学・マクロ経済の発展に貢献したヒックスがここの出身と聞けば、いかに名門カレッジかがわかるでしょう。
このようにジョンソンは「エリート」なのです。しかし、発音にそれが表れていないのが興味深いところです。
2. 発音
イギリスでは21世紀になった現在でも、発音からその人の階級や出自がわかるといわれます。
最近ではその傾向が薄まったとはいえ、ジョンソンの経歴や年齢(55歳であること)を考えると、いわゆる典型的なイギリス英語「容認発音(Received Pronunciation、RP)」で話すのが通常です。同年代で、イートン校出身で、カレッジは違うものの同じオックスフォード大学出身のデイビッド・キャメロン元首相はRPを話します。
しかし、ジョンソンは典型的なRPではなく、むしろカジュアルなイギリス英語を話します。
上記の映像は2015年度当時(4年前に)ロンドン市長をやっていた時の映像です。かなりこなれたイギリス英語です。
昨日の勝利宣言は少々フォーマルな英語で話していたことは興味深い点ではあります。俗な言い方をすれば「ボリスもきちんとした英語が話せるのね」といった感じですが、それでも従来の英国首相が話す英語発音ではない点に注目したいところです。
普段、イギリスのエリートが使う典型的なイギリス英語RPで話していないところに、ジョンソンの「賢さ」が表れています。
これはどういうことでしょうか。
3. ジョンソンの策略?
ドナルド・トランプがアメリカの大統領に就任したのは「ポピュリズム」の蔓延ゆえと言われています。今回、イギリスの首相にボリス・ジョンソンが就任したのも、この「ポピュリズム」ゆえでしょう。
つまり、現在、大国の長に就くには「大衆」に推される必要があるのです。
それを考慮すると、今やイギリスの3%しかRP話者がいないとされる中で、エリート臭のする発音で国民に語り掛けることが有利に働かなくなっています。こうしたことがイギリスで実際に起きたことは、ある意味でイギリスという国が大きな転換期にあることがわかります。なぜなら、言語における変化は、すなわち文化の変容を意味し、これはそうそうに起きることではないからです。
その意味で、ジョンソンがRPではなく大衆的な発音で話すこと、エリート臭を感じさせないモップのようなヘアスタイルやファッションセンスは、イギリスの大衆に親近感を与えるのです。この対応に失敗したのが、前首相のメイ氏でしょう。前メイ首相の評判が悪かったのは、やはりオックスフォード大学出でRPを話すことから、一般の受けしなかったことも大きな要因と言えます。イギリス人の中には「メイ首相はsnobである」という声も多く聞かれるのはそういった事情もあるのです。実際には、ジョンソン氏とメイ氏を比較すると、メイ氏はグラマースクール(公立学校)出身であることからも、ジョンソン氏の方が圧倒的に「エリート」であることを忘れてはいけません。
ところで、発音というのは、「環境」に大きく影響を受けます。ということは、ジョンソン氏の周りは、経歴から見るよりもはるかに「大衆」が多いことがうかがえます。この周りの「大衆」が今後の首相としての働きに、「吉」と出るのか「凶」と出るのか、見守る必要があります。
まずは、BREXITをどう処理するのかが見ものです。本人はtwitterの中で「10月に完全離脱」と明言していますが、大きな困難が待ち受けていることは言うまでもありません。

NBC News@NBCNews
Newly elected UK Prime Minister Boris Johnson has been controversial long before taking his pro-Brexit stance.
2019/07/24 09:20:00
.… https://t.co/8WmZQs7aWY
このジョンソン氏、ある意味でとても「興味深い人物」です。以前、CNN English Express2017年2月号のp47にジョンソンの「話し方のテクニック」の項目で、「経歴と話し方の特徴」を書かせていただきましたが、この人物、本当に「不思議」なのです。
「イギリスのトランプ」と一部では言われますが、トランプ大統領よりはかなりの「やり手」「策略家」とみた方がよいでしょう。
その根拠は、ジョンソンが選ぶ「発音」に見ることができます。
1. 略歴
その前に、まず経歴を見てみましょう。
お父様は欧州議員で、先祖にもそうそうたる面々がいます。その中にはジョージ2世もいるなど貴族に連なる血筋もある家系で、ニューヨークで誕生します。その後、イギリスにもどり、イートン校からオックスフォード大学ベリオール・カレッジを卒業でしています。この経歴だけを見ても、イギリスの「エリート」の典型であることがわかります。
ちなみにイートン校とは名門のパブリックスクール(私立中等高等学校)の1つで、これまでにも19人の首相を輩出するトップ校です。ジョンソンは20人目にカウントされます。卒業生の中には、4度首相になったグラッドストンや、大英帝国をさらに拡大することに貢献したといわれるセシル、最近で言うとデイビッド・キャメロンもいます。また政治の分野にとどまらず、「オトラント城奇譚」を書いたホレス・ウォルポール、ロマン派の詩人として知られるシェリー、「ケインズ経済学」で知られるケインズもこちらの出身です。したがって、世界の歴史に一役買う人物を多数輩出している学校であることがわかります。それから、ウィリアム王子など王族、貴族の御用達の学校として知られます。
以前、イギリスで生活をしていた際に、イートン校出身の人がいましたが、その交友関係、そうそうたる先祖の華麗さと言ったら、驚くほどでした。歴史的な人物が次々に話に出てくるのですから。
次にジョンソンが通ったオックスフォード大学ベルリオール・カレッジも名門大学として名高いところです。よくオックスフォード大学出身というと、「すごい!」と単純に捉えがちですが、イギリスでは「どこのカレッジの出身か」ということも重要な意味を持ちます。
しかし、このベルリオール・カレッジは雅子皇后も一時期留学なさったことがあり、ノーベル賞受賞者、3人の首相を輩出する名門カレッジなのです。政治経済学者として世界的に知られるアダム・スミス、現在のミクロ経済学・マクロ経済の発展に貢献したヒックスがここの出身と聞けば、いかに名門カレッジかがわかるでしょう。
このようにジョンソンは「エリート」なのです。しかし、発音にそれが表れていないのが興味深いところです。
2. 発音
イギリスでは21世紀になった現在でも、発音からその人の階級や出自がわかるといわれます。
最近ではその傾向が薄まったとはいえ、ジョンソンの経歴や年齢(55歳であること)を考えると、いわゆる典型的なイギリス英語「容認発音(Received Pronunciation、RP)」で話すのが通常です。同年代で、イートン校出身で、カレッジは違うものの同じオックスフォード大学出身のデイビッド・キャメロン元首相はRPを話します。
しかし、ジョンソンは典型的なRPではなく、むしろカジュアルなイギリス英語を話します。
上記の映像は2015年度当時(4年前に)ロンドン市長をやっていた時の映像です。かなりこなれたイギリス英語です。
昨日の勝利宣言は少々フォーマルな英語で話していたことは興味深い点ではあります。俗な言い方をすれば「ボリスもきちんとした英語が話せるのね」といった感じですが、それでも従来の英国首相が話す英語発音ではない点に注目したいところです。
普段、イギリスのエリートが使う典型的なイギリス英語RPで話していないところに、ジョンソンの「賢さ」が表れています。
これはどういうことでしょうか。
3. ジョンソンの策略?
ドナルド・トランプがアメリカの大統領に就任したのは「ポピュリズム」の蔓延ゆえと言われています。今回、イギリスの首相にボリス・ジョンソンが就任したのも、この「ポピュリズム」ゆえでしょう。
つまり、現在、大国の長に就くには「大衆」に推される必要があるのです。
それを考慮すると、今やイギリスの3%しかRP話者がいないとされる中で、エリート臭のする発音で国民に語り掛けることが有利に働かなくなっています。こうしたことがイギリスで実際に起きたことは、ある意味でイギリスという国が大きな転換期にあることがわかります。なぜなら、言語における変化は、すなわち文化の変容を意味し、これはそうそうに起きることではないからです。
その意味で、ジョンソンがRPではなく大衆的な発音で話すこと、エリート臭を感じさせないモップのようなヘアスタイルやファッションセンスは、イギリスの大衆に親近感を与えるのです。この対応に失敗したのが、前首相のメイ氏でしょう。前メイ首相の評判が悪かったのは、やはりオックスフォード大学出でRPを話すことから、一般の受けしなかったことも大きな要因と言えます。イギリス人の中には「メイ首相はsnobである」という声も多く聞かれるのはそういった事情もあるのです。実際には、ジョンソン氏とメイ氏を比較すると、メイ氏はグラマースクール(公立学校)出身であることからも、ジョンソン氏の方が圧倒的に「エリート」であることを忘れてはいけません。
ところで、発音というのは、「環境」に大きく影響を受けます。ということは、ジョンソン氏の周りは、経歴から見るよりもはるかに「大衆」が多いことがうかがえます。この周りの「大衆」が今後の首相としての働きに、「吉」と出るのか「凶」と出るのか、見守る必要があります。
まずは、BREXITをどう処理するのかが見ものです。本人はtwitterの中で「10月に完全離脱」と明言していますが、大きな困難が待ち受けていることは言うまでもありません。
Boris Johnson@BorisJohnson
It’s time to get to work to deliver Brexit by 31st October, unite the party, defeat Jeremy Corbyn - and energise ou… https://t.co/WGBh3IZG9J
2019/07/24 02:09:20
