村上春樹 受賞スピーチの翻訳
ソースはこちら。
池田信夫Blog 壁と卵
まぁ、村上春樹は好きな作家だし。
まだ出回ってないみたいなので、例によって訳してみましたよ、と。原文自体も抄録みたいなので全文ではないようです。どこかに全文載っていたら教えて下さい。
ちなみに、この文章をより理解するには、こちらの記事を読んでおくと良いかも。一週間前に書かれた記事としては見事な内容と言わざるをえません。
エルサレム賞に村上春樹さん 「壁」の国がたたえる自由
村上さんの長編小説「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」には、「高さは七メートル、街のぐるりをとり囲んでいる」壁が出てくる。越せるのは鳥だけで、門しか出入り口がなく、外の世界へ行く自由がない。
いま、イスラエルは、パレスチナ自治区の周囲に、もっと高い、それこそ鳥しか越せない壁を築いている。今回のガザ攻撃では、逃げ場のない多くの子どもを巻き込んで、1300人以上の死者が出た。
(アサヒ・コムより一部抜粋)
So I have come to Jerusalem. I have a come as a novelist, that is - a spinner of lies.
そういうわけで、イスラエルまでやってきました。私は作家としてやってきました。つまり、嘘の紡ぎ手としてです。
Novelists aren't the only ones who tell lies - politicians do (sorry, Mr. President) - and diplomats, too. But something distinguishes the novelists from the others. We aren't prosecuted for our lies: we are praised. And the bigger the lie, the more praise we get.
作家以外にも嘘をつく人種はいます−政治家(おっと失礼、大統領閣下)や外交官も嘘をつきます。しかし、作家には他の人々とは違う点があります。作家は嘘をついたかどで訴えられることはなく、むしろ賞賛されるのです。しかも、嘘が大きければ大きいほど賞賛も大きくなるのです。
The difference between our lies and their lies is that our lies help bring out the truth. It's hard to grasp the truth in its entirety - so we transfer it to the fictional realm. But first, we have to clarify where the truth lies within ourselves.
我々の嘘が他の人の嘘と異なるのは、我々の嘘が真実を導き出す助けになることです。真実全体を把握することは容易ではありませんから、我々はそれを一度、フィクションの領域に翻訳するのです。しかしそのためにはまず、我々自身の中の真実がどこにあるのかを把握しておかねばなりません。
Today, I will tell the truth. There are only a few days a year when I do not engage in telling lies. Today is one of them.
本日、私は真実を話そうと思います。私が嘘紡ぎにいそしまない日は年に数日しかないのですが、今日はそのうちの一日ということです。
When I was asked to accept this award, I was warned from coming here because of the fighting in Gaza. I asked myself: Is visiting Israel the proper thing to do? Will I be supporting one side?
受賞の知らせを受けたとき、ガザで戦闘が続いていたこともあり、この地を訪れることを警告されていました。私は自問しました。イスラエルを訪れることは適切なのだろうか?どちらか一方の側に味方する行為にならないだろうか?
I gave it some thought. And I decided to come. Like most novelists, I like to do exactly the opposite of what I'm told. It's in my nature as a novelist. Novelists can't trust anything they haven't seen with their own eyes or touched with their own hands. So I chose to see. I chose to speak here rather than say nothing.
So here is what I have come to say.
じっくり考えました。そして、来ることにしたのです。多くの作家がそうであるように、私も他人に言われたことと反対のことをするのが好きなのです。これは、作家としての習性なのです。作家は自身の目で見、自身の手で触れたもの以外を信用することができません。だから私は見ることを選びました。口を塞ぐことよりも、ここで話すことを選びました。私が話したかったのはこういうことです。
If there is a hard, high wall and an egg that breaks against it, no matter how right the wall or how wrong the egg, I will stand on the side of the egg.
もし、硬くて高い壁があって、そこに卵が投げつけられていたら、いかに壁が正しく卵が間違っていたとしても、私は卵の側に立つのです。
Why? Because each of us is an egg, a unique soul enclosed in a fragile egg. Each of us is confronting a high wall. The high wall is the system which forces us to do the things we would not ordinarily see fit to do as individuals.
なぜか?なぜなら、我々はみな卵だからです。かけがいのない魂を壊れやすい殻の中に宿した卵なのです。我々は、誰もが高い壁に立ち向かっています。高い壁とは、普通なら一人の人間としてやるべきではないと思うようなことまでやらせようとするシステムのことです。
I have only one purpose in writing novels, that is to draw out the unique divinity of the individual. To gratify uniqueness. To keep the system from tangling us. So - I write stories of life, love. Make people laugh and cry.
私が小説を書く目的は一つしかありません。それは、個人の中の無二の神性を描き出すことです。唯一無二であることを祝うためです。システムが我々を紛糾させるのを防ぐためです。だから、私は生きること、愛することの物語を書くのです。人々を笑ったり泣いたりさせるように。
We are all human beings, individuals, fragile eggs. We have no hope against the wall: it's too high, too dark, too cold. To fight the wall, we must join our souls together for warmth, strength. We must not let the system control us - create who we are. It is we who created the system.
我々はみな同じ人類であり、独立した人間であり、壊れやすい卵です。壁と戦っても勝ち目はありません。壁はあまりに高く、あまりに暗くて、あまりに冷たいのです。壁と戦うには、我々は魂を一つにし、温めあい、力を合わせなければなりません。システムに主導権を握らせてはいけません−システムに我々がどんな人間かを規定させてはいけません。我々がシステムを規定するのです。
I am grateful to you, Israelis, for reading my books. I hope we are sharing something meaningful. You are the biggest reason why I am here.
あなた方に感謝します。イスラエルの皆さん、私の本を読んでくれてありがとう。何か意義深いことを分かち合えたら、と思います。あなた方がいることが、私がここに来た最大の理由なのです。
Posted by bijoux_iris at 04:12│
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びじうのログ:村上春樹 受賞スピーチの翻訳
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村上春樹氏のエルサレムでの授賞式におけるスピーチが、各所で話題になっていました。
今回は、私も1ファンとしてとても興味深く読ませてい...
素晴らしい翻訳ありがとうございます。
これで、村上氏は、ノーベル文学賞をいずれとることになりますね。政治的な動きがノーベル文学賞には必要なので。今回はその布石になるのではないかと。
村上春樹と村上龍と村上ショージの区別がつかない俺です。
俺には、よく言われているように、彼がイスラエルとパレスチナのぶつかり合いを壁と卵で表し、私はパレスチナの側に立つと言っているようには見えません。
「システム対個人なら、個人の側に立つ」
そう言っているだけのように思います。だからイスラエルを批判しているという言い方は、どうも今ひとつピンと来ないんですよね。
だから彼が言っている言葉、あんまり俺の心に響きませんでした。うむぅ。
あ、一行目はネタですからね、一応。
いつも拝見させていただいています。
特に今回の翻訳は、私の知る限り、新聞でも部分的にしか紹介されなかったものなので、非常に勉強になりました。ありがとうございます。
翻訳ありがとうございます。
当ブログにも引用させて頂きました。

>石頭
なるほど。ロビー活動の一環でもあるわけですね。それには気付かなかったなぁ。
>さり
いやぁ、俺も最初はそう思ったんだけど、引用したアサヒの記事とかを見ると「壁」からイスラエルを連想するのはそれほど遠くないのかも、とか思いました。スピーチの一週間前の時点で既に「壁の国」と言及しているし。
もちろん、最初から「全てのクレタ人は嘘つきです。」(但し今日は嘘をつきませんが)みたいな古典的な仕掛けを用意したりして、及び腰で不明瞭だったりしますが、状況的にはっきり言えないのも致し方ないことかなぁ、と。
>Thorn
いらはい。
全文が出てこない(これも、兵器とか軍事力に関する部分は削除されているらしい)のでフラストレーションが溜まりますね(笑)。
っつーか、Thornさんなら原文があれば翻訳は要らないでしょ(笑)。
>mtck7
はじめまして。わざわざコメントありがとうございます。つたない逐語訳ですが、少しでもお役に立てたなら幸いです。
初めてお邪魔します。
訳をブログで引用させていただいてもよろしいでしょうか??
>rumraisin
はじめまして。コメントありがとうございます。
どうぞお使い下さい。何かの役に立つなら、むしろ嬉しいデス。
さりおんさんのコメントで思い出したんですが、私は「エルサレム」もまた、完全には壁になりきれていない(むしろほかの「壁」によって「壁」にさせられている)というようなことまで踏み込んで言及していたのではないかなあ、と思いました。
WWIの頃からの歴史的背景を考えるとそうも聴こえてくる。ただ、この解釈は春樹さんを買いかぶりすぎかもしれません。
>This is not all, though. It carries a deeper meaning. Think of it this way. Each of us is, more or less, an egg.
スピーチ原稿のこの部分に、そういう解釈を許してくれそうな雰囲気を感じますけれども。
>志臣
鋭い。お父さんも「敵のためにも祈る」って言ってますしねぇ。
形を規定するのは壁であり卵の殻であるわけですが、何が壁で許されず、何が殻で許されるのかっていうのは本当は二項対立じゃなくて連続的な問題(この殻はあるところからは壁)なのかも知れないですしね。
はじめまして。
村上春樹スピーチで検索したら、
初っ端に立派な翻訳にたどり着きました。
すみませんが、引用・転載させてください。
>形を規定するのは壁であり卵の殻であるわけですが
ああ、そうだよね。鋭いなぁ。
壁に見えているものをずーっとズームアウトしていくと、実はでっかい卵だったってことになるのかな。
いや、まて。
壁の中にはいっぱい人がいるけれど、卵の中には一人しかいないぞ。やっぱ「システムと個人」なんじゃないのか。
アナロジーや言葉の端々に意味を求めすぎか、俺?
はじめまして
私も引用・転載させてください
>HRMDN、麗牙姿
はじめまして。わざわざコメントありがとうございます。まとめレスですみません。
どうぞ、ご使用下さい。つたない逐語訳ですが、何かの役に立ったなら幸いです。
>さり
いやぁ、俺も春樹のアナロジーは良くわからない時があるというか、ぶっちゃけ、羊男は何故羊?みたいな(笑)。シュールさの演出とか、今回の場合はわざと曖昧さの演出みたいなのもあるだろうから難しいけど。
で、本筋からは脱線するんだけど、後付けで考えると「世界の終わり」の壁は主人公の頭の中にあったし、奥さんが突然失踪しちゃうのって、今までは卵の殻を隔てて隣にいたと思っていた魂が実は壁の向こう側だったんじゃないか、みたいな不安感だし、あるいは暖かい卵がひしめき合って暮らす中に、突然猫を殺しまくるジョニー・ウォーカーみたいな壁が出てきたり。
暖かい隔絶(殻)の中に突如として出現する冷たい隔絶(壁)に戸惑い、見つめる(しかもその原因が熱量死みたいな不可避なものだったり)、みたいなのは昔から好きなテーマなんじゃないかなぁ。
>壁に見えているものをずーっとズームアウトしていくと、実はでっかい卵だったってことになるのかな。
あ、そうそう、そんな感じかと思いました。本当はイスラエルもまた「かよわき卵」かもしれないのに、スケールの違いで我々はそれを「壁」として批判しているのかもしれないと。
じゃあabsolute wallは一体何なのか、ソレはよく分からないですが……。
びじうさんが書かれた、
>暖かい隔絶(殻)の中に突如として出現する冷たい隔絶(壁)に戸惑い
というところから、「突然表われ、観察したときには既に卵を壊してしまっているもの」と考えると、もっとも最近の長編である『アフターダーク』のテーマに似てくるかな、と思いました。
『アフターダーク』では、「壁」ではなく「床」でしたね。
はじめまして。翻訳ありがとうございます。
英語が苦手なので大変助かります。
事後承諾で申し訳ありませんが、びじうのログ様のエントリー中リングと、和訳を転載させて頂きました。
どうかご了承くださいませ。よろしくお願い致します。
何度もすみません。
一旦、転載させて頂きましたが、村上春樹の署名入り?のものを知りましたので、転載させていただいたエントリーを削除しました。びじう様が訳された元の英文が要約されたものであるためか、大切な部分が抜けていると感じました。そのためワタシの書いたエントリーが成り立たなくなってしまったため削除した次第です。勝手に転載し、勝手に削除した非礼をお詫び申し上げます。
村上春樹の署名入り?のものは下記ブログでしりました。
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/8d8fe99e627aa0c1b70d8896ee1e5bc8
ほんとうにお騒がせしました。申し訳ありませんでした。
>dr.stonefly
はじめまして。色々とご丁寧にありがとうございます。ご指摘の署名入りテキストは村上春樹のスピーチ原稿らしいですね。
このブログでも、一応、翌日の記事がその翻訳文になってたりするのですが、ブログのレイアウトがわかりにくかったですかね。ご使用いただけなかったのは残念ですが、また何かの機会もあるでしょう。今後ともよろしくお願いします。
他人のブログにわざわざコメント書くだけでも手間なのに、本当にありがとうございました。
はじめまして。
びじうさんへ
クレタ人 とは肉的 という意味みたいです おそらくここから引用したと思います
テトスへの手紙(新改訳)
1:12
彼らと同国人であるひとりの預言者がこう言いました。「クレテ人は昔からのうそつき、悪いけだもの、なまけ者の食いしんぼう。」
1:13
この証言はほんとうなのです。ですから、きびしく戒めて、人々の信仰を健全にし、
1:14
ユダヤ人の空想話や、真理から離れた人々の戒めには心を寄せないようにさせなさい。
聖書に書かれているのです
かなりビックリしたと思います。色々な意味で
>777
はじめまして。
ウィキペディアにもその出典が書かれていますね。聖書の中にもそういう節があるというのは確かにびっくりですね。
まず最初に「アサヒコムの一週間前に書かれた記事」を紹介してくださってとても参考になりました。確かに予期されたかのような素晴らしい内容!
詳しいスピーチ内容を読んでなんで春樹さんが日本(特に批評家)に評判が悪いか良く分かったような。。。
このような大局的かつ人間味あるスピーチ・・・癪に障る人も居るんでしょうね;;
とにかくこのスピーチを丁寧に紹介してくださったびじう様に感謝*゚∀゚)ノ
*お気に入り*にしました〜
では股〜
>りゃまさんは夫
はじめまして。コメントありがとうございます。
「壁」をどう読むかは大事なところだと思ったのでアサヒコムの記事を引用させてもらったんですが、役に立ったなら何よりです。何で壁で何で卵なのか、考えるのも面白いかもです。村上春樹の頭にはハンプティ・ダンプティしかなかった、「イスラエルって壁の国だったんだ?」みたいなオチもありだと思いますし・・・いや、それはないか。
お気に入り登録ありがとうございます。でも、普段はかなりどーでもいー事ばっかり書いてますんで・・・。
では、今後ともよろしくお願いします。