2014年09月22日

仮面ライダー、銭湯に行く

 何だか勢いに乗って、書きましたよ、小説を。

 以前に書いた妄想のスピンオフ企画といいましょうか。仮面ライダー世界の日常に関する考察です。テーマとしては、ヒーローは(悪役も)カッコいいけど、影では色々な苦労をしているはずで、僕らは、もっとヒーローに感謝していいと思うんだ、みたいな、そんな思いが込められています(嘘です)。

 書き終わった感想としては、自分史上最大の人生の無駄遣いだったな、と・・・。

 では。

==========

 仮面ライダー・本郷猛は改造人間である。

 彼を改造したショッカーは、世界征服をたくらむ悪の秘密結社である。

 仮面ライダーは、人間の自由のためにショッカーと戦うのだ!





 まぁ、それはそれとして。

 改造人間であると同時に、本郷猛は古いタイプの日本男児でもある。日本男児たる者、礼儀礼節を重んじ、仲間との和を大切にし、朝食はご飯とみそ汁、冬は温泉、と思っている。特に温泉だ。大きな湯船にしっかりと浸かって温まる、それは彼にとって、至福のひと時といっても良いだろう。しかし、そうしょっちゅう温泉に行っているわけにもいかない。そんなわけで、日本男児、本郷猛は銭湯も大好きだ・・・いや、大好きだった。あの日までは。

 そう、ショッカーに改造され、仮面ライダーとして生きることを決意したあの日から、本郷猛の生活は一変し、銭湯からも足が遠のいていたのだ。

 「おや、こんなところに銭湯があるじゃないか。」

 ショッカーとの戦闘を終えたある日のことである。
 渋滞を避けて裏道を通っている(新サイクロン号で)ときに、銭湯が目についた。戦いで疲れきっていたために、若干、判断力が低下していたということもあるだろう、気が付けば貸バスタオル・サウナセット料金(3時間1080円)を支払って更衣室に立っていた。

 「近頃は、銭湯も高くなったものだな。」

 猛が覚えている入湯料は30円程度だった。思えば、改造されてからすでに40有余年の月日が流れている。40年ぶりの銭湯、感慨もひとしおである。サウナやマッサージチェアなど新しくなった部分もあるが、それでも浴室の壁には富士山が描かれ、更衣室には籐の籠があり、扇風機があり、近所の老人がステテコ姿でコーヒー牛乳を飲みながら談笑している、本質的な部分は変わっていないように思われた。

 本郷猛のエネルギー源はライダーベルトである。内部には微量のプルトニウム239が蓄えられており、核分裂反応によって生じる熱量が日常生活で必要となるエネルギーをまかなっている。瞬間的に巨大なエネルギーが必要な場合には(変身、など)、ベルトに風を当てると風圧により極短時間だけ圧縮されたプルトニウムが核分裂の連鎖反応を引き起こす。つまり、本郷猛が原発なら、仮面ライダーはメルトダウンである。
 スポンサーからの要望もありいかにも風力発電で変身しているように見える動画しか世間には出回っていないのだが、あれだけの出力をあんなに小さい風車の風力でまかなえるはずがない。『これは、欺瞞ではないのか』・・・本郷猛は常にこの点に関して苦い思いをかみ殺している。そもそも仮面ライダー1号は40年以上前のモデルであり、40年前にはエコという概念すらなかったのだ・・・いや、話が横道にそれたが、要するに、本郷猛にはライダーベルトから供給される莫大なエネルギーが常時必要なのだ。

 改造人間にとってのエネルギーの枯渇とは、人間にとっての寿命の枯渇と同じ意味を持つ。

 ライダーベルトを外した本郷猛は体内の充電池で活動しなければならないが、体内の充電池だけで活動できる時間は20分程度しかないうえ、充電池のメモリー効果によって活動できる時間は年々減少していく。それでも、10年ほど前にニッケル水素電池からリチウムイオン電池に換装したため以前よりは長持ちするようになった(そのかわり、契約上、自分では電池交換できないことになってしまった)。

===

 20分しか活動できない本郷猛が銭湯で安全に入浴するためには、服を脱ぐときにライダーベルトを最後に外さざるを得ない。淡々と服を脱ぎ、全裸にライダーベルト一丁となった本郷猛を、周囲の常連客は驚きと好奇の目で見つめた。これも、本郷猛が銭湯を利用しなくなった理由の一つである。
 もちろん、この状態でも入浴できないことはない。ライダーベルトは日常生活防水仕様になっており、5m程度であれば水中に没しても機能する。しかし、本郷猛は古いタイプの日本男児である。お風呂に入るときにはベルトを外すのは礼儀だと思っていた。ベルトを着けたままお風呂に入ると後でベルトの内側が痒くなるしな。

 ライダーベルトからの給電が接触型であるという点も問題だった。莫大なエネルギーを転送するために、ベルトの風車部の背面からは直径15冂度の円筒が体内に20僂曚豹びている。中には幾重にもシールドされた給電ケーブルが入っており、円筒の先端に三つ並んだ小さな金属部分が体内にある同じ金属部分に接触すると給電される仕組みだ。ゆっくりとライダーベルトを引き抜き、取り外した本郷猛の腹部には、握りこぶしほどの大きさの洞窟のような穴がぽっかりと口をあけている。この部分は防水の蓋で密閉しなければならない。ゴムパッキンを確認しながら蓋を閉め終わった時に、後ろから老人に声をかけられた。

 「兄さん、若いのに大変だなぁ。うちの死んだ婆さんも大腸がんを患ってねぇ・・・人工肛門ってやつだろ、それ」

 鎧武のロックシードなどを見てもわかるように、最近のライダーの給電システムはすべて非接触型で遠隔給電ネットワークにも対応している。いや、それどころか最近ではスマホですら非接触型充電に対応している(DocomoのQiの基本特許のうち少なくない部分がショッカーに握られている)。確かに有線で給電するライダーベルトはかなり旧世代の技術ではある。が、しかし、それでも。まさか人工肛門と間違えられるとは・・・

 「は、はぁ・・・」

 本郷猛は不器用な日本男児である。咄嗟に上手い説明は思い浮かばなかった。いや、むしろこの穴は人工肛門であるとしておいた方が今後の追求をかわしやすいかもしれない、などとぼんやりと考えていた。

 「いや、5年前に逝っちまったんだけどよ、つい思い出しちまって・・・」
 「す、すみません、手洗いを使いたいので失礼します」

 老人の昔語りが始まりそうになるのをなるべく失礼にならないように遮り、トイレに駆け込んだ。一文字隼人(仮面ライダー2号)なら「爺さん、ごめんよ」とか言いながら爽やかに老人のことをガン無視して風呂に突進したのだろうが、こんな風に気を使ってしまうのが本郷猛だった。とはいえ、入浴できる時間は20分しかないのだ。一分、一秒が惜しかった。用を足すのもソコソコに、ライダーベルトを装着していたら回転しそうなスピードで浴室に駆け込んだ。お風呂で洗えばよいと考え、手を洗うのは省略した。

===
 破滅の兆候は、とても魅力的な姿をしている。

 本郷猛にとってのそれは、サウナ室であった。3分で頭を洗い、1分で身体を洗い、1分温まってから、たっぷり5分間サウナを利用する、という計画は、最初の一歩から破綻した。髪の毛が多すぎるのである。頭が洗い終わらない。こんなときばかりは自分の髪質を恨めしく思うも詮無く、なし崩し的に時間はおせおせとなった。湯船に浸かった時には8分が経過しており、しかも大きな湯船は予想以上に快適で腰を落ち着けて温まりたくなってしまった。気が付くと10分以上経過している。

 電池のメモリー効果を考え安全な入浴時間を15分と見積もっていたが、それでは5分間サウナに入ったら終わってしまう。サウナの後の水風呂を諦めるか?いや、日本男児たるもの、サウナの後の水風呂を省くことはできない。サウナ自体を諦めるか?いや、入浴料だけなら460円で済む(2014年7月1日現在。参考:東京都公衆浴場業生活衛生同業組合)のに1080円支払っている。このギリギリの状況で、本郷猛は決断を迫られていた。

「18分、いけるか・・・(ゴクリ)」

 40年ぶりの銭湯でサウナの誘惑を退けることは、いかに意志の強い本郷猛といえども難しかった。そして、嗚呼、ここは勝負どころだ。イチかバチか、安全マージンを削ることにした。

 破滅の兆候は、とても魅力的な姿をしている。

===

 最初の症状は一瞬のブラック・アウトだった。一瞬過ぎて、自分が意識を失ったことにも気づかないほどの。17分55秒。シャワーを浴びながら、水風呂の中で収縮した全身の血管が拡張していくあの感覚を噛みしめながら幸福感にひたっている本郷猛を突如としてパワーダウンが襲った。目の前が暗くなり、腰から下の感覚がない。バッテリー切れだ。

「しまった!!」

 あと少しなのに。あと少しで風呂から上がれるのに。運命は無情だ。やはりサウナに入ったのは間違いだった・・・それを言うなら、サウナセット料金を支払うべきではなかった・・・というか、そもそもショッカーに捕まって改造されたのが大きな間違いだ。いったい、それよりも大きな間違いがこの世にあるだろうか?
 どうやら、あるらしい。
 例えば、改造人間が戦闘の後で銭湯に寄ろうと思ったことだ。

 城南大学の研究室。オートレース場。ショッカーの手術室の様子。これまで倒してきた怪人の数々。彼が救った子供たちと幼稚園の先生。様々な思い出が走馬燈のように頭を巡った。人生の最後に人はこれまでの一生を振り返るという。噂には聞いていたが、改造人間も電池が切れる前に同じ思いを味わうとは。それとも、これは、自分に残されたわずかな人間性が見せている幻なのか。

(俺は、ここで死ぬのか・・・)

その時、立花藤兵衛の顔が浮かんだ。

photo立花

『こら、猛、しっかりしろっ!』









「!! おやっさん!!」

 目を開いた。そこには、現実の世界があった。つまり、押しボタン式のシャワーが定められた量のお湯をはき出した後の沈黙があった。気合を込める。そうだ。支えてくれる人のためにも、こんな所で死ぬわけにはいかない・・・っていうか銭湯だし。

 必死に意識を繋ぎ留め、立ち上がる。膝が笑っている。手で膝頭をつかんで無理やり震えを抑えると、更衣室に向かう一歩を踏み出した。目がかすむ。更衣室が果てしなく遠い。浴室はキャプテン翼に出てくるサッカーグラウンドのようだ。倒れたら二度と起き上がれる自信がなかった。
 そして、倒れたら二度と起き上がれる自信がない時に倒れるのが(改造)人間というものだ。滑りやすいタイルの上に転がる足元の石鹸に気付いたときには、天井を見上げていた。その場にいればツルンという音が聞こえただろうというほど見事なスリップだった。後頭部をしたたかに打ち付け、意識を失いジ・エンド・・・にはならなかった。奇跡的に誰かが咄嗟に猛の腕をつかむと、頭を打たないように引っ張ってくれたからだ。

「兄ちゃん、大丈夫か!」

 更衣室で話しかけてきたあの老人だ。

「・・・すみません、更衣室まで肩を貸していただけると助かります」

 息も絶え絶えに、やっとの思いでそう口にすると、筋骨逞しい本郷猛は枯れ枝のような老人にすがって更衣室に辿り着いた。

===
 真のピンチは、これで安心、と思った時に始まる。

 ベルトが置いてある脱衣籠に伸ばそうとした本郷猛の腕を老人は無理やり引っ張って、木製のベンチの方に連れて行った。

 「兄さん、すっかりのぼせちまって・・・ほら、ここに横になって。今扇風機で冷たい風を当ててやるから・・・」

 「あ・・・いや・・・」

 上手く口が回らない。絶望で目の前が真っ暗になった。せっかく、更衣室までたどり着いたのに!!

 「・・・ルト・・・ルトを・・・」

 虫の息とはこのことか(バッタな)。

 「ぁん??聞こえないよ、何だって?」

 老人が猛の口元に耳を近づけた。

 「ベルト・・を・・着けて・・・下さい」

 怪訝そうな表情をしながらも、老人は猛の脱衣籠からライダーベルトを持ってきた。見よう見まねで猛のお腹の防水の蓋を外すと、そこにライダーベルトをセットする。服を脱ぐときに、この老人が猛に興味を持ってじっと見ていたのが幸運だった。

 「これは小さいし清潔でいいなぁ。最近の人工肛門ってのは随分と進んでるんだねぇ。」

 ・・・それは違う。

 ライダーベルトからの給電で本郷猛の意識は急速に回復し、暗闇を追い払い、颯爽とその場を立ち去る・・・ハズだった。しかし、そうはならなかった。ライダーベルトを装着しても、一向に体に力が入らない。本郷猛は相変わらず(全裸にライダーベルト一丁で)ベンチに横たわっていた。

 これで安心、と思った時が真のピンチの始まりだ。

(まさか、ベルトの故障か!?)

 ライダーベルトが故障していたら、どのみち助からない。それどころか、放射能汚染の危険や、最悪の場合は大爆発だ。

 「・・・げろ。」

 「ぁん??聞こえないよ、何だって?」

再度、老人が猛の口元に耳を近づけた。本郷猛は、最後の最後に残った力を振り絞った。

 「に・・げ・・ろ・・」

 少しでも犠牲者を減らさなければ。少しでも・・・そう思いながら、本郷猛の意識は暗闇の縁に沈みつつあった。

 「え?牛乳?牛乳が欲しいのかい?」

 ・・・それは違う。

 それが、意識を失う前に本郷猛が最後に思ったことだった。

===

 不思議と恐怖はなかった。というよりは、開放的な気分だった。温もりに包まれ、静寂の中で全身がリラックスしていた。頬にあたる爽やかな風が肌に心地よい。

 (ここは・・・ひょっとして、天国か?)

 ブーーーーン、と機械のモーターのような音がして、再度、爽やかな風が頬を撫でた。

 (これは・・・はっ)

 扇風機だ。それも、もといた銭湯の脱衣所の扇風機だ。本郷猛は天国には行っていなかったし、ライダーベルトも爆発を起こしていなかった。それどころか、意識を失う直前から微動だにしておらず、今やライダーベルトからのエネルギーで身体は目覚めつつあった。エネルギーチャージはすこぶる順調で、ベルトが故障している様子は皆無だった。ではなぜ本郷猛は意識を失ったのか・・・。

 (!)

 だしぬけに、すべてを理解した。つまり、誰も判断を誤っていなかったのだ。猛が思った通り、体内の充電池には18分間の入浴を安全に行えるだけの電力が十分に蓄えられていた。そして、老人の判断も間違っていなかった。いみじくも老人はさっき、こう言ったのだ「兄さん、すっかりのぼせちまって・・・」と。
 つまり、この意識の消失は、電池切れによるパワーダウンではなく、ライダーベルトの故障でももちろんなく、久々にサウナに入ったことによるのぼせだったのだ。あの人生の走馬燈は何だったのだろうか。本郷猛は大きく安堵のため息をついた。

 「ふふふふふ」

 自然と笑いがこぼれた。ブーーーーン、と扇風機が首を振ってまた心地よい風を送ってくる。

 「ふふふふふ」

 自分が風呂でのぼせたという事実に、笑いを止めることはできなかった。無敵の改造人間、仮面ライダー1号が風呂でのぼせることがあるなんて。そんな人間性が自分の中にまだ残っていたなんて。風呂でのぼせることがこんなにも幸せなことだなんて。こうした小さな幸せを、この40年間にどれだけ犠牲にしてきたことだろう。世界の平和を守るためとはいえ、銭湯にも来なかったなんて。笑いを止めることができなかったし、目に涙が浮かぶのも止めることはできなかった。もっとエネルギーに満ちていたら「俺は人間だ!」と歓喜の叫びを上げていたかもしれない。「俺はまだ人間だ!」と。

 ブーーーーン、と扇風機が首を振ってまた心地よい風を送ってくる。フィーーーーンという、また別の音がそこに重なった。

 「ふふふふふ」

 本郷猛はまだ笑っていた。久しぶりにすっきりした気分だった。

 ブーーーーン、と扇風機が首を振ってまた心地よい風を送ってくる。フィーーーーンという、また別の音が再度、そこに重なった。この音、何だか、どこかで聴いた覚えがあるような・・・・

 「ふふふ・・・ん?」

 流石にこの音が気になって、体を起こし、目の涙を拭った。ブーーーーン、と扇風機が首を振り、今度は起き上がった猛の身体の真正面から風を吹きつけた。フィーーーーンという音が・・・扇風機の風を受けて、ベルトの風車が回っている。正面からの風に、ベルトはひときわ高い音で反応した。

 (しまった!!このままでは・・・)

と思う間もなく。

  「トォ〜〜〜〜〜〜〜〜ゥ!!」

 自販機で牛乳を買ってきた老人の目の前で、本郷猛は仮面ライダー1号に変身した。

 ・・・今でもこの銭湯には、老人と一緒に牛乳を飲む仮面ライダー1号の写真が飾られているという。

==========

 もしも君が、銭湯に行ったときに。全裸にベルトという姿で一人笑っている男の姿を見かけたなら、どうかそっとしておいてやって欲しい。きっと、彼は戦いに疲れた戦士なのだろう・・・いや、そうじゃない場合でも、どっちみちそっとしておいた方がいいと思うけど。

                                      − 完 −
Posted by bijoux_iris at 10:32│Comments(3)TrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr Clip to Evernote 妄想 | 日々のネタ

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この記事へのコメント
堪能させて頂きました!別ライダー作品も希望!w
Posted by 石頭 at 2014年09月22日 12:58
 >石頭

 ありがとー
 別ライダーは、ちょっと無理じゃないかなぁと思うけど・・・
Posted by びじう at 2014年09月22日 15:14
5
>別ライダーは、ちょっと無理じゃないかなぁと思うけど・・・

そこをなんとか!無理ならシャドウラン短編をまた是非とも!

> 書き終わった感想としては、自分史上最大の人生の無駄遣いだったな、と・・・。

いやいやいやw
人生最大の有意義な時間の使い方ですよ!

面白かったなあ!

石崎
Posted by 石頭 at 2014年09月22日 22:32

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