アルルの男・ヒロシです。

 『本当は憲法より大切な日米地位協定入門』(創元社)という本がいますごい勢いで売れているという。これは孫崎享の『戦後史の正体』に続く、「戦後再発見双書」の第2弾。日米地位協定(SOFA)というものが、戦後日本の「国体」であった。


 戦後日本の基盤をなしていたのは、日本国憲法ではないか。コンスティチューションが国家の基盤をなしているのではないか。誰もがそのように考えている。しかし、これはアメリカの被占領国だった日本にとっては当てはまらない。

  本書『日米地位協定入門』を読むと、戦後日本体制はサンフランシスコ講和条約とともに生まれ、それは憲法―日米安保―日米地位協定という「三重構造」に よって形作られているとわかる。そして、吉田茂首相の元部下の外務事務次官で吉田と対立して罷免された、寺崎太郎(寺崎英成の兄)は、この日米地位協定の 前身の日米行政協定こそ、「本能寺(=本当の目的)」であったと見抜いていたことがわかる。

 憲法と日米安保を漫然と読むと、「結果として、吉田 路線は戦後の経済復興を重視して、米軍の再軍備要求を徹底的に拒否できたのだからそれでよかったのではないか」と思ってしまう。私自身が、そうで、「憲法 9条は救国のトリック」だったとする意見にかつては納得していた。しかし、自分の国の安全保障を自分の頭で政治家や官僚が考えなくなる、という大きな弊害 を産んでいった。今では、その弊害のほうが大きい。外務官僚は、戦後の「國體」である日米安保を守るということだけが唯一の目的になり、安保条約と地位協 定の解釈権を牛耳ることで、日本の三権分立の上にアメリカという覇権国が影響力を行使する体制を作りおおせた。

 最近、他に読んだ本に孫崎享の昔の本『カナダの教訓』(PHP文庫)があるが、この本では戦後、カナダはアメリカの隣国でありながら自立した外交政策を目指していたことが書かれている。

 日米地位協定とは何か。『日米地位協定入門』の著者である前泊博盛氏(琉球新報元論説委員)は、次のように述べている。



 はっきりした言い方で日米地位協定を定義すると、こうなります。
「アメリカが占領期と同じように日本に軍隊を配備し続けるためのとり決め」

『日米地位協定入門』(17ページ)

 日米地位協定というのは、私たちはまかり間違うと「米軍兵士の日本国内に於ける地位を取り決めたもの」であり、だから、米兵が犯罪を日本国内で起こした時の裁判権をどっちが持つかという、日本で司法権が米兵に及ばないという問題のことだけの問題と勘違いしがちだ。

  しかし、この地位協定は、米兵の地位を定めた17条(刑事裁判権)に関するもの以外に合わせて全部で28条もある。その中には、「基地の提供と返還」「基 地内の合衆国の管理権」「航空・通信体型の協調」「軍隊構成員の出入国」「免許」「関税」「調達」(注:武器輸出3原則の抜け穴になっている) 「経費の 分担」やそれらの米軍駐留に関して日米が協議(注:命令を伝達される)する機関についての取り決めもある。

 そして、このようなとりきめは他の国が結んでいる米軍駐留協定と合わせて考えても異様であるという実例が、本書では詳しく書かれている。日米安保体制が極めて特殊な同盟関係であることは、他の国の安保条約や地位協定を研究すればわかる。これが比較研究の重要性だ。

  ジャパン・ハンドラーズの一人である、ケント・カルダーは、駐留米軍基地についての国際的な比較研究を行った著作を書いているが、これを読んでも在日米軍 基地が受け入れ国負担の面で特殊であることがわかる。このカルダー本を研究すれば、民主党政権は政権交代を機に日本から米軍基地を減らすことも可能だった。

 日本の言論人は比較研究というものをもっと重視するべきだ。日米同盟関係が大事だからということで、 国際的に見ても不合理な制度を残していることが日本がアメリカの属国に成り下がっている最大の理由だ。

 地位協定の議論は沖縄の新聞である「琉球 新報」や共産党の機関紙である「しんぶん赤旗」が盛んに取り上げてきたため、まかり間違えば、左翼の反米運動の議論かと誤解されてしまうところがある。し かし、この地位協定に直結しうる問題を追究してきた中には、石原慎太郎・日本維新の会代表のような右翼政治家もいる。

 石原が追求してきたのは自 らが東京都知事になる前は実現させると主張してきた、米軍による横田空域管制の日本側への返還の問題である。

 日本維新の会の国会議員である石原は、先日も 国会質問において、安倍首相に対して、この問題を取り上げた。

 『日米地位協定入門』では、「首都圏がこれほど外国軍によって占拠されているのは、おそらく世 界中で日本だけでしょう」と述べてあるが、横田基地を含めた首都圏の上空には「横田ラプコン」と呼ばれる一都八県の上空を覆う巨大な米軍の管理空域があ る。

 「首都に外国軍がいれば、何かあったときにはすぐに首都が制圧されてしまう」(六三ページ)ということである。なるほど。

 この「横田ラプコン」について本書では次のように書かれている。ラプコンとは、《radar approach control》レーダー進入管制のことである。


  図の手前のほうをみてもらうと、羽田空港がありますね。そこから三本の矢印が出ています。これが羽田空港から大阪などの西方向に向かう、目的地別の飛行 ルートです。どのルートを通る飛行機も、4000~5500メートルの高さがある「横田ラプコン」を越えるために、一度房総半島(千葉)方面に離陸して、 急旋回と急上昇を行わなければならないことがわかります。

 そのため利用者は、本来は不要な燃料計費を価格に転嫁されたり、時間のロスを強いられ ているのです。なにより見逃せないのは、こうした非常に狭い空域を不自然に急旋回・急上昇して飛ばなければならないため、航空機同士のニアミスが発生する など、危険性が非常に高くなっているということです。日本の首都である東京は、こうした巨大な外国軍の支配空域によって上空を制圧されています。

『日米地位協定入門』(71ページ)

 そして、石原慎太郎は先日(2013年2月13日)の先に述べた国会質問で次のように述べている。



  石原氏「日本に米国の横田基地がある。私が代議士のころから何とかしようと思って、土井(たか子)さんが社会党委員長のときからアプローチしている。日本 の飛行機がヨーロッパから帰って来るが、(空域を)通れない。1度、太平洋側に出ないと成田や羽田に着けない。こんなばかなことがまかり通る国はあるか。 金丸某が自民党を仕切っているときに、これを問題にしてくれたが、なぜか時期尚早と打ち切られたので、知事になってからやり出したが進まない。」

  「米国は同情的だが空軍だけは渡したくない。前に総司令官のフォールが『考えようじゃないか』というシンポジウムに来てくれたが、外務省はフォール大使を 呼びつけて『横田問題は日本国家のイッシューではない。小泉政権では問題にしたかもしれないが、今は問題にならない』と圧力をかけた。これについては言い たいことがいっぱいある。腹が立たって仕方ない」

 「あと5年で日本の国際線はパンクする。僕らの衰退につながる。せめてビジネスジェットの8割 を共同使用すればよい。(横田基地は)本来は返還されるべきものだが、共同使用が最初のステップだ。なんとかビジネスジェットを優先的に入れる。本当の空 港にするとインフラ整備が必要だが、いずれにせよ、まずビジネスジェット。頻繁に利用されるようにならば、この空港の存在価値は大きくなる。各省連帯で横田の共同利用をとりつけてほしい。お願いします」

 安倍首相「横田基地は在日米軍司令部が置かれていて、有事の際に兵站機能を果たすということだ。なかなかこの返還あるいは軍民共有において、米国側が『はい、分かりました』とはなっていないわけだ。しかし、小泉政権時代、私が官房副長官だったときに、 当時の石原知事から『是非交渉を始めてもらいたい』ということを言われた。その時に小泉・ブッシュ首脳会談、クロフォードで行われた首脳会談に私も陪席を していたが、小泉首相からブッシュ大統領に日本側の考え方としての軍民共有についての話が先方に出されたが、残念ながら今日まで成果が出ていない。確かに おっしゃられるような課題がたくさんあるということを頭に入れながら、米国側も受け入れられる形で何があるを考えていきたい」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130213/plc13021308430010-n5.htm

 ただ、石原慎太郎は問題の本質に迫っていない。横田ラプコンの管政権の返還を要求しろまでは言っている。しかし、知ってか知らずか、「横田の日米間民共用」という線で踏みとどまっている。問題は、日米地位協定第6条が放置されていることだ。

 しかし、むかしは石原も知事時代は地位協定についてある程度積極的に発言していた。産経のデータベースで1992年から検索すると5件の結果が出てきた。そのうちの3件は以下のとおりになっている。

米容疑者引き渡し 石原知事 地位協定の改定は当然
[ 2001年07月07日  東京朝刊  総合・内政面 ]

  東京都の石原慎太郎知事は六日の定例記者会見で、沖縄の米兵による女性暴行事件と身柄の引き渡しをめぐり、日米地位協定の改定問題が浮上していることにつ いて「当事者みんなが改正すべきだと思っているのに、なぜか外務省はこれに対して二の足を踏んでいる」と指摘し、「(改正は)当然すべきだ」との認識を示 した。また身柄引き渡しについて「時間がかかった。外務省も混乱していて足元を見られている。こういう時はスクラムを組んでぶつかっていかないといけない のに」と対応を批判した。

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 「日米安保、一時解消」 石原知事、関係再構築を主張
[ 2008年03月01日  東京朝刊  1面 ]

 東京都の石原慎太郎知事は29日の定例会見で、米軍横田基地(東京都福生市など)の軍民共用化に向けた協議が停滞していることに関連して「相手の頭を冷やすためにも、いったん日米安保条約を解消したらいい」と述べ、日米関係を根本的に見直す必要性に言及した。

  石原知事は横田基地の軍民共用化のセミナー開催について説明。その際、米軍関係者が「横田基地は第二次大戦でのレガシー(遺産)」として、米軍による独占 使用を既得権益視している現状を批判。「沖縄でのいまいましい出来事(米海兵隊員による女子中学生暴行事件)を眺めても、(福田)首相と向こうの国務長官 が握手して済むことじゃない」とした。

 そのうえで、日米安保条約の一時解消を提言し、1年程度の冷却期間を置いて、日米関係を再構築すべきだと主張。「まず地位協定をきちんと考えることで、本当の日米安保体制ができていく」と持論を展開した。

  横田基地をめぐっては石原知事が返還までの経過措置として、軍民共用構想を打ち出している。平成15年5月の日米首脳会談で、小泉純一郎首相(当時)が ブッシュ大統領と軍民共用の検討で合意。両政府は18年10月から協議に入ったが、期限の1年を過ぎても結論が出ていない。

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【日本よ】石原慎太郎 国家の真の再生のために
[ 2009年08月03日  東京朝刊  1面 ]

 間近にせまった総選挙のための、政権交代を目指す第一野党たる民主党の選挙用のマニフェストが先んじて発表されたが、何であろうと今回の選挙によってこの日本の政治の体質が変わることは望ましいし、歴史的必然とも思われる。

 それは一言にしていえば、明治維新による太政官制度以来今日まで連綿と続いてきた官僚支配の崩壊、中央集権の打開に他なるまい。

  それを意図するという民主党のマニフェストなるものはあちこち矛盾も見られ、思い切ったばらまきのための財源の根拠に欠けるところが多いが、私にとって最 も興味ある主張の一つは日米安保条約の見直しである。その手がかりとして日本に米国が多く保有している基地についての洗い直しと、地位協定の見直し。これ は従来、日本の政治家が口にするのをはばかるようなタブーだった。 (以下略)

 だが、石原慎太郎は、尖閣問題と日米地位協定問題を天秤にかけて、前者を優先して、単なる反中国の扇動政治家になることを選んだ。それが石原のヘリテージ財団の講演の意味である。

 だから、石原は国会質問で「横田空域」の問題は話したが、それ以上は踏み込まなかったのだ。国会議事録を検索しても「地位協定」という言葉は石原は使っていない。横 田空域返還にしても単にビジネスジェットを優先的に入れるということで終わっている。地位協定を放置してビジネスジェットを優先的に横田に入れるというの は、単に「不法外国人」を日本に入国しやすくするだけではないのか?

 それに石原が主張している「基地の共同使用」は単に、日米地位協定第2条「2-4-a」(米側基地の日本側利用)の運用改善の要求にすぎない。石原はかつては地位協定の改定を主張していたのだが、いまはこのように後退している。

地位協定 2条
4(a) 合衆国軍隊が施設及び区域を一時的に使用していないときは、日本国政府は、臨時にそのような施設及び区域をみずから使用し、又は日本国民に使用させることができる。ただし、この使用が、合衆国軍隊による当該施設及び区域の正規の使用の目的にとつて有害でないことが合同委員会を通じて両政府間に合意された場合に限る。

 
 根源から問題を見つめなければ対症療法に終始するだけだ。

 問題は「日米地位協定」という戦後國體にある。これを打ち破らなければ憲法改正の議論はしてもしょうがない。

 色々述べて来ましたが、『日米地位協定入門』は約400ページの大著ですが、いろいろな論点が項目別に整理されていて、読みやすい。この本は必読の一冊です。協力におすすめします。

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