アルルの男・ヒロシです。今日は2014年11月13日です。

11月も第二週に入って寒くなってきましたが、秋風とともに急速に永田町では急激に「解散風」が吹き始めた。この解散風を最初に本格的に吹かせたのは、11月2日に放送された読売テレビの「たかじんのそこまで言って委員会」にゲスト出演した内閣官房参与の飯島勲だろう。

 


 この番組の中で突如、飯島は、小渕優子の議員辞職があり、補欠選挙をやったあとで7月ー9月の経済状況が明らかになり、11月20日に総理は消費税を 10%に上げるかどうか決断するとメモを読み上げたという。更にその上でで、「その後の12月2日に、思い切って衆議院解散して、12月14日に投開票、 24日に内閣改造、予算は越年と淡々と告げたという。

 この飯島の発言のうち、政治とカネの問題を抱える小渕優子は議員辞職していないし、補欠選挙も行われていないものの、この飯島の言う「解散総選挙」のスケジュールがそのまま現実のものとして現在マスコミが取りざたすようになってきたわけだ。

  衆院解散論自体は臨時国会審議の最中で民主党の枝野幸男・幹事長が口にしているし、山本太郎・参議院議員は一つのシナリオとして話していた。ただ、この早期解散論 を安倍政権の最大の応援団である「読売新聞」が10月29日に書き始めているのが重要だろう。そして、11月9日に付でまたも読売が解散についての記事を一 面に載せている。

 飯島の発言と違うのは、安部首相が衆院解散をするのは、「消費税10%引き上げの一年半の延期を決断して、その上で解散をする」というところ。永田町のお歴々も最初はいぶかしがっていたが、一気に今週に入って解散風が本格化し、臨時国会も当初成立を目指していた、地方創生関連法 案、派遣法改正案、女性活躍法、カジノ法案のうち、地方創生関連法案のみを成立させ、総理の解散の決断に備えるといように国会対策委員会がスケジュールを 変更している。ほぼすべての新聞が解散を確定的に報じ、産経新聞は総理が12日に解散を北京で決断したとまで書いている。

 解散風といえ ば、ジャーナリストの上杉隆氏が指摘するように、麻生政権発足当初に朝日新聞が単独で解散風を吹かせたが、この時は解散しなかったという前例がある。今回も確かに安部首相 が解散を決断したわけではない。APECなどのアジア歴訪に向かう2日前に安倍首相は7日のフジテレビのプライムニュースに出演し、「解散は総理大臣に聞 けば考えていないというのが決まりだ。実際に考えていない」と述べている。

 しかし、解散をめぐる総理大臣の発言はアテになるものではなく、かつて佐藤栄作首相は、「解散は頭の隅にもない」と発言したが、そのうち衆院解散をしたあとで、「隅にはないが真ん中にあった」と答えたことがあると政治評論家の有馬晴海氏は指摘しているのを私は読んだ。

  しかし、突然降って湧いたような衆院解散風は不可解である。麻生政権の時とちがい、今回は国会審議の日程調整もし、自民党の幹部も増税派以外は容認姿勢に傾いてい る。なんと、筋金入りの増税派であった、「読売新聞」も13日に開催された消費税増税判断の前の有識者会合に出席した、白石興二郎・日本新聞協会会長(読 売グループ本社社長)は、「一年半延ばす選択肢もある」と主張を変えている。ここまで来ると、増税延期と解散総選挙は相当な真実味があるといえるのではな いか。

 仮にここまで解散風を吹かせて、与野党の議員が準備に入ってしまった段階で、16日に帰国する安倍首相が、解散をしないとなる と、今度は予定通りの増税で、野党が勢いづく。

 野党民主党としては、増税を決めた三党合意に従うという岡田克也幹事長代行(国政選挙担当)や、枝野幸男幹 事長が海江田万里代表を差し置いて党での議論を主導している雰囲気もあり、これに細野豪志元幹事長ら「第三世代」も口出しできないようだ。増税で自民と民 主の対立軸がなくなれば、閣僚の在特会や統一教会との関係、連合が嫌がる派遣法改正問題などで、安倍首相を追い込む材料は他に沢山あるわけで、今度は安倍 が窮地に追い込まれて統一地方選に挑むことになる。

 だから、安倍晋三はマスコミが報じるとおりに、自ら解散を決断した、ということである。 しかし、増税延期を単にしたいのであれば、解散総選挙をするに及ばない。従来の三党合意でも認識されている増税法案の景気条項を踏まえて、実施を延期する ように、法改正を行うだけで良いのである。

 安倍首相が外国に旅立つ前に、自民党の関係者に解散を伝えていたという報道もある。

 これは、 フジテレビのプライムニュースでの小野寺五典前防衛大臣の発言で、それによると、北京出発前に「谷垣幹事長と公明党の山口那津男代表と三人で会った。その 席で解散という言葉が出たようだ」ということである。そこで首相動静を調べてみると、5日夜に日比谷の松本楼に谷垣禎一幹事長、二階俊博総務会長、稲田朋 美政調会長、茂木敏充選対委員長と会食しているという事実を見つけることができる。谷垣・山口が安倍と同席しているのは見つからなかったが、5日にもしか したらこっそりと山口も参加していたのかもしれない。

 いずれにせよ、読売報道を受けて、10日に山口代表は、年内解散を想定して総選挙の準備をするように党内に呼びかけた。自民党は公明党の協力を得なければ選挙を戦うことができないのは自明の理。ここで公明党が本気なら本当だと解散風が本格化したわけだ。

 13日午後の段階では、自民党の大島理森副総裁が解散は確実といっており、もう解散がないということはなくなったと見るべきだ。

  しかしながら、解散の大義名分が「消費増税の延期の是非とアベノミクス」では筋が通らない。増税を延期することは国民は歓迎するに決まっているのだから、 わざわざ総選挙で問う必要もなく、そもそも三党合意では景気動向次第で増税の実施時期は変えることができるようになっている。野党の維新の党や生活の党が 増税延期法案をすでに提出しているのだから、安倍首相はこれに乗り、粛々と派遣法などの法案を通し、来年の通常国会に望めばいいだけだ。

 安倍首相周辺はなぜ早期に解散をする決断をするのか。これは本当に安倍首相の決断なのか。

 そこで当然、考えなければならないのはアメリカの意向である。安倍首相はAPECで習近平国家主席と日中首脳会談を実現させたが、それも形だけのわずか25 分程度のもので、日米首脳会談に至っては実現もしなかった。一方、オバマ大統領は習近平と足掛け10時間に及ぶ首脳会談を実施して、米中の間で二酸化炭素 の排出削減の数値目標を約束する共同文書の発表にこぎつけているのである。

 実際、APECでオバマと安倍首相がばったり顔を揃えた場所の写真を見たがオバマの表情はムッとしていた。この時すでに国内では解散風が吹き始めており、オバマとしては「俺は聞いていないぞ」という不満があったのだろう。

  しかし、オバマ大統領は二期目の中間選挙を終えたあとではすでにお飾りのレイムダックであり、上下両院を共和党に支配されているわけで、権力基盤は大きく 損なわれているわけだ。もともと日米関係を取り扱うジャパン・ハンドラーズは共和党系のCSIS(戦略国際問題研究所)に所属するマイケル・グリーン上級 副所長やリチャード・アーミテージ元国務副長官、ジョゼフ・ナイ元国防副長官などであり、現職でも国務省のダニエル・ラッセル国務次官補たちはワシントン で「ジャパンクラウド」と言われる特殊な利権集団のコミュニティを作っているので、民主党リベラル派のオバマ大統領とは違う。ジャパハンドラーズとしては ネオコン派に期待されているヒラリー・クリントン元国務長官や、共和党のジョン・マケイン上院議員、マルコ・ルビオ下院議員らのネオコン派に肩入れしたい わけである。

 そこで首相動静をもう一回振り返ると10月31日の夜にホテルオークラで「日米知的交流・共同研究プログラム」の発足記念 レセプションに出席して挨拶している事がわかる。これは当ブログでも前回の記事で取り上げた富士山会合のことであり、この主催は日経新聞系の「日本経済研 究センター」と外務省系の「日本国際問題研究所」であり、CSISが事実上のバックにいるわけだ。

 この富士山会合前後には共和党系や民主党系のジャパン・ハンドラーズが相次いで来日しており、富士山会合そのものには石破茂前幹事長や長島昭久元防衛副大臣も出席していることはすでにお知らせしたとおりだ。

 私は、前の記事でこの富士山会合が「政治と軍産と経済」のグローバリストのインナーサークルであると指摘した。解散風が吹く直前に安倍首相がCSISが係るシンポジウムでスピーチをしているのは、非常にわかりやすい事態である。

  この富士山会合ではTPP推進、集団的自衛権閣議決定後の法整備、そして原発再稼働などが当然話し合われただろう。日中関係をめぐる戦略的環境の変化につ いてや、APEC以後の外交・経済日程もアジェンダとなったことは、少しずつ日経で報じられているシンポジウムの報告記事を見ると分かる。

  そして、安倍首相のもとには、これとは別に証券会社の講演会のために来日していたポール・クルーグマン教授が6日に首相官邸を訪問しているのである。ク ルーグマンはリフレ派のケインジアンの経済学者であるが、今回は国内証券会社のイベントにゲストで来ていることから、ある種の相場形成を目的に来日してい ることが理解できるだろう。

 首相官邸にはクルーグマンをエスコートして、浜田宏一・イエール大学教授や、本田悦朗・内閣官房参与も同行している。クルーグ マンは度々、金融緩和と財政政策を実施するアベノミクスを絶賛し、「日本を馬鹿にしたことを謝罪したい」と、金融緩和にブレーキを掛けたり、金融緩和その ものが不足しているとして批判している欧州中央銀行と比較して日銀の黒田東彦を気持ち悪いくらいに褒め倒している。今回も日銀が追加緩和を決定した直後に 日本を褒め殺すコラムを「ニューヨーク・タイムズ」(10月31日)の連載で書いている。

 黒田総裁のFRBのQE3終了決定の数日後の間髪を入れない電撃金融緩和でさらに日経平均が上がり調子を見せており、同時にGPIFへの国内株式、海外債券への投資割合拡大と相まって、解散総選挙を打つには絶好の金融市場になっていることも見逃せない。

  つまり、今回の解散の流れには、安倍首相の支持率が低下する前に解散させ、民主党と維新の党らの野党勢力の選挙協力が固まるまえに選挙を行い、自民党の安 定した政権を来年の統一地方選挙のあとに控える安保法制国会に備え、安倍または富士山会合に出席した石破茂を次の総理大臣に決めるという大きなシナリオの 一環である。消費増税は岩本沙弓氏などが指摘するように米国財界にしては必ずしも歓迎できない面もある。どうせ増税するのだから一年か一年半の延期は大し たことがないと財務省も納得せざるを得ないだろう。

 自民党に安定した政権を与えることで、安倍政権がやり残した宿題「共和党が歓迎する TPPの日米合意の実現」「ガイドラインの見直しによる日本の安保負担強化」そして「原発再稼働」という3点セットを着実に実行させる必要があるというの が富士山会合のインナーサークルのグローバリストたちの共通理解であろう。

 そして、気になるのは日中首脳会談後のアーミテージのこの発言である。

(引用開始)

靴下嗅いだような表情」=日中首脳会談に辛口批評-元米高官
 
  【ワシントン時事】「2人の首脳は互いの靴下の臭いを嗅ぎ合っているようだった」。知日派として知られるアーミテージ元米国務副長官は12日、初会談に臨 む際の安倍晋三首相と習近平中国国家主席の表情をこう表現し、会談が日中関係改善につながるとみるのは早計だとの見方を示した。
 10日の会談の冒頭、習主席は首相と握手を交わしたが、表情は終始こわばらせたままだった。
  アーミテージ氏は12日にワシントンで開かれた会合で「写真を見ると、2人は笑顔を見せまいと懸命で、こっちが笑ってしまった」と感想を披露。その上で 「戦後70年の来年は中国にとって逃すことのできない(日本批判の)好機で、あと数年、日中関係は大きくは改善しない。会談を過大評価すべきでない」と指 摘した。(2014/11/13-10:52) 

(引用終わり) 

 このようにアーミテージは「日中和解ムードではない。 ちゃんと集団的自衛権を法制化することを忘れるなと、日本側の中国側への警戒を怠るな」というふうに釘を差している。一方で気になるのは、安倍政権が、靖国神社の参拝問題を巡って、APEC直前に次のような閣議決定をしているという報道である。

 (引用開始)

 
靖国参拝自粛「了解は存在しない」 政府答弁書で中国側主張を否定
産経新聞(2014年11月4日電子版)

 政府は4日の閣議で、首相、外相、官房長官による靖国神社参拝の自粛を日本側が了解しているとする中国政府の主張について「了解は存在しない」と否定する答弁書を決定した。

 中国側は「1985(昭和60)年に当時の中曽根康弘首相が参拝した後に、日本の顔である首相、外相、官房長官の3人は行かないと紳士協定を結んだ」(2005=平成17年4月、当時の王毅駐日大使)と主張。日本政府は否定してきた経緯がある。

 無所属の浜田和幸参院議員の質問主意書に答えた。

(引用終わり)

 日中首脳会談の実現の前提になる会談直前の7日に発表された4つの合意事項では、
① 両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた、②双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が続いていることにつ いて異なる見解を有していると認識を示しているわけだが、上の閣議決定は中国側からすれば①への裏切りとも映る。しかし、実際には靖国神社に参拝を控えれ ば問題ないわけだが、これについては首相の側近である萩生田光一・党総裁特別補佐がブルームバーグのインタビューで不吉な予言をしている。

(引用開始)

 
自民・萩生田氏:首相は「APEC前には参拝しない」-靖国神社

   9月30日(ブルームバーグ):自民党の萩生田光一総裁特別補佐は、11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)前に安倍晋三首相が靖 国神社を参拝することはないとの見通しを明らかにした。萩生田氏は8月15日の終戦記念日に2年連続で党総裁でもある安倍氏の代理として靖国神社に玉串料 を奉納している。
29日のブルームバーグ・ニュースとのインタビューで語った。萩生田氏は、首相が「APECの前にわざわざ参拝するとは思ってい ない」と明言した。その後については「じゃあ永遠に行かないかというと、そういう人ではない」と指摘。年内に参拝するかどうかは「本人が自分で決める」と の見方を示した。

(引用終わり)

 このように発言している。これを持って安倍首相が靖国神社に年内に参拝するとは断言で きないが萩生田は昨年10月にも「首相は(就任後)1年以内に必ず参拝すると思う」と述べており、実際の安倍首相は2カ月後の年末に靖国を参拝したという 前例がある。安倍首相は14日投開票の衆院選を決意し、飯島の言うとおりなら24日には組閣を終えていることになるが、御用納めを兼ねて長州神社である靖 国神社に再参拝しないとは言い切れない。もし再参拝すれば、安倍首相は次の総裁選でお払い箱となり、石破次期総理大臣ということになることも視野に入れて おいた方がいい。

 今回の解散は、次の総理候補である谷垣禎一幹事長が、弁護士時代の司法修習生の同期でもある公明党の山口那津男代表と ともに中宏池会を復活させ、安倍首相を今臨時国会で牽制し始めたことに対する「倍返し」のような側面も党内政局的にはある。宏池会は増税派であるが、公明 党と並んで安倍晋三たちに比べればハト派であり、マイケル・グリーンの息もそれほどかかっていない。集団的自衛権の安保法制国会やその先にある2016年 の憲法改正発議の目標をターゲットに共和党系のジャパン・ハンドラーズが日本の政治をまたも裏からコントロールしているということである。

 ただ、野党の選挙協力があれば、安倍にとって想定外の事態になる。そうなると、オバマ側の勢力が優勢になる。